【課題】十分な耐熱性及び耐傷付性を確保した上で、優れた流動性、耐衝撃性、鉛筆硬度及び意匠性(透明性、漆黒性)を発揮する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを共重合してなる共重合体(B)と、メタクリル酸エステル系単量体と、アクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル系単量体、無水マレイン酸系単量体及びマレイミド系単量体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の単量体とを共重合してなり、かつ、当該メタクリル酸エステル系単量体の含有量が50質量%以上である共重合体(C)と、α−オレフィンと無水マレイン酸とを共重合してなる共重合体(D)と、を含み、所定の要件を満たす。
前記共重合体(C)がメタクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体及び無水マレイン酸系単量体からなる共重合体、又はメタクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体からなる共重合体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
前記共重合体(D)がα−オレフィン30〜70質量%と無水マレイン酸70〜30質量%とからなり、かつ、分子量が500〜50,000の共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、本明細書において、「単量体」とは、樹脂を構成する前の重合性分子をいい、「単量体単位」又は「単位」とは、所定の単量体に対応する、樹脂を構成する単位をいう。
【0011】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを共重合してなる共重合体(B)と、メタクリル酸エステル系単量体と、アクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル系単量体、無水マレイン酸系単量体及びマレイミド系単量体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の単量体とを共重合してなり、かつ、当該メタクリル酸エステル系単量体の含有量が50質量%以上である共重合体(C)と、α−オレフィンと無水マレイン酸とを共重合してなる共重合体(D)と、を含み、以下の(1)〜(3)を満たす:
(1)前記熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体の含有量が5〜15質量%である;
(2)前記熱可塑性樹脂組成物中の共重合体(C)の含有量が30〜89質量%である;
(3)鉛筆硬度がF以上であり、かつ、全光線透過率が75%以上である。
このように構成されているため、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、十分な流動性、耐熱性及び耐傷付性を確保した上で、優れた耐衝撃性、鉛筆強度及び意匠性(透明性、漆黒性)を発揮する。
【0012】
以上のとおり、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物には、グラフト共重合体(A)、共重合体(B)、共重合体(C)、及び共重合体(D)が含まれる。これらの成分について、以下に詳述する。
【0013】
<グラフト共重合体(A)>
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体がグラフト重合される。グラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体としては、以下に限定されないが、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体及びエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体等からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる(共役)ジエン系ゴム単位;ポリアクリル酸ブチル等からなるアクリル系ゴム単位;エチレン−プロピレンゴム単位;シリコンゴム単位;シリコーン−アクリル複合ゴム単位;それらの水素添加物からなるゴム単位等が挙げられる。これらの中でも(共役)ジエン系ゴム単位が好ましく、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びスチレン−ブタジエンブロック共重合体がより好ましい。(共役)ジエン系ゴム単位を用いることにより、耐衝撃性がより向上する傾向にある。ゴム成分単位は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
ゴム質重合体のガラス転移温度は、好ましくは0℃以下であり、より好ましくは−50℃以下であり、さらに好ましくは−70℃以下である。ガラス転移温度は、定法に従いDSCにより測定することができる。
【0015】
ゴム質重合体の質量平均粒子径は、0.1〜0.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.12〜0.35μm、さらに好ましくは0.15〜0.3μmである。質量平均粒子径が0.1μm以上である場合、耐衝撃性がより向上する傾向にある。また、0.35μm以下である場合、漆黒性等の意匠性がより向上する傾向にある。上記質量平均粒子径は、射出成形品から超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、超薄切片の任意の50μm×50μmの範囲について画像解析して求めることができる。
【0016】
芳香族ビニル系単量体としては、以下に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの単量体にうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。芳香族ビニル系単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
シアン化ビニル系単量体としては、以下に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等が挙げられる。これらの単量体のうち、アクリロニトリルが好ましい。シアン化ビニル系単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
グラフト共重合体(A)には、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体の他に、本実施形態の効果を損なわない範囲で共重合可能な他の単量体もグラフト重合することができる。
【0019】
共重合可能な他の単量体としては、以下に限定されないが、例えば、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル系単量体及びメタクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類;無水マレイン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体等が挙げられる。共重合可能な他の単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
グラフト共重合体(A)に含まれるシアン化ビニル系単量体の含有量は、グラフトされた共重合体100質量%に対して、15〜25質量%が好ましく、より好ましくは17〜25質量%、さらに好ましくは18〜23質量%である。シアン化ビニル系単量体の含有量が15質量%以上である場合、耐衝撃性がより向上する傾向にある。また、シアン化ビニル系単量体の含有量が25質量%以下である場合、漆黒性などの意匠性がより向上する傾向にある。
【0021】
グラフト共重合体(A)に含まれる共重合可能な他の単量体の含有量は、グラフトされた全構成単位100質量%に対して、10質量%未満が好ましく、より好ましくは5質量%未満、さらに好ましくは3質量%未満である。含有量が上記範囲内である場合、意匠性により優れる傾向にある。
【0022】
グラフト共重合体(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合、これらの重合法の組合せ等の方法が挙げられる。具体的には、乳化重合で製造されたゴム成分のラテックスに共重合体をグラフト重合させる乳化グラフト重合方法が挙げられる。なお、連続式、バッチ式、セミバッチ式いずれの方式を採用することも可能である。
【0023】
ゴム質重合体にグラフトした共重合体の割合(グラフト率)は、ゴム質重合体100質量%に対して、好ましくは10〜200質量%であり、より好ましくは20〜170質量%であり、さらに好ましくは30〜100質量%である。グラフト率は、グラフト共重合体(A)100質量%に対する、ゴム質重合体にグラフトした共重合体(グラフト成分)の質量割合で定義できる。
【0024】
ゴム質重合体は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中に5〜15質量%含有される。好ましくは7〜15質量%であり、更に7〜13質量%が好ましい。ゴム質重合体の含有量が5質量%以上であることにより、優れた耐衝撃性を得ることができる。ゴム質重合体の含有量が15質量%以下であることにより、優れた耐傷付性を得ることができる。
【0025】
<共重合体(B)>
共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体との共重合である。なお、共重合体(B)における芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体としては、特に限定されないが、それぞれ、上述したグラフト共重合体(A)における芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体と同様のものを例示することができる。また、共重合体(B)において、透明性を阻害しない範囲で、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体を共重合することができる。共重合可能な他の単量体としてはブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル系単量体及びメタクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類;無水マレイン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体等が挙げられる。共重合可能な他の単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
共重合体(B)に含まれるシアン化ビニル系単量体の含有量は、全構成単位100質量%に対して、15〜25質量%が好ましく、より好ましくは17〜25質量%、さらに好ましくは18〜23質量%である。シアン化ビニル系単量体の含有量が15質量%以上である場合、耐衝撃性がより向上する傾向にある。また、シアン化ビニル系単量体の含有量が25質量%以下である場合、漆黒性などの意匠性がより向上する傾向にある。
【0027】
共重合体(B)に含まれる共重合可能な他の単量体の含有量は、共重合体(B)100質量%に対して、10質量%未満が好ましく、より好ましくは5質量%未満、さらに好ましくは3質量%未満である。上記含有量が上記範囲内である場合、意匠性により優れる傾向にある。
【0028】
共重合体(B)は、以下に限定されないが、例えば、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、懸濁塊状重合、溶液重合等、公知の方法によって製造することができる。
【0029】
<共重合体(C)>
共重合体(C)は、メタクリル酸エステル系単量体と、アクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体、無水マレイン酸系単量体及びマレイミド系単量体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の単量体との共重合である。ここで、共重合体(C)における芳香族ビニル系単量体としては、特に限定されないが、上述したグラフト共重合体(A)における芳香族ビニル系単量体と同様のものを例示することができる。
【0030】
共重合体(C)におけるメタクリル酸エステル系単量体としては、以下に限定されないが、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2−エチルヘキシル)、メタクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)等が挙げられる。これらの単量体のうち、メタクリル酸メチルが好ましい。メタクリル酸エステル単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
共重合体(C)におけるアクリル酸エステル系単量体としては、以下に限定されないが、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)などが挙げられる。これらの単量体のうち、アクリル酸ブチル、アクリル酸メチルが好ましい。アクリル酸エステル系単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
共重合体(C)における無水マレイン酸系単量体としては、以下に限定されないが、例えば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸、ジクロロ無水マレイン酸、ブロモ無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸、フェニル無水マレイン酸、ジフェニル無水マレイン酸などが挙げられる。これらの単量体のうち、無水マレイン酸が好ましい。
【0033】
共重合体(C)におけるマレイミド系単量体としては、以下に限定されないが、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(o−クロロフェニル)マレイミド、N−(m−クロロフェニル)マレイミド、N−(p−クロロフェニル)マレイミド等が挙げられる。これらの単量体のうち、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドが好ましい。マレイミド系単量体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本実施形態において、共重合体(C)が、メタクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体及び無水マレイン酸系単量体からなる共重合体、又はメタクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体からなる共重合体であることが好ましい。上記の場合、耐熱性がより向上する傾向にある。
【0035】
共重合体(C)に含まれるメタクリル酸エステル系単量体の含有量は、共重合体(C)100質量%に対して、50質量%以上である。好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは75質量%である。上限は特に限定されないが、98質量%以下が好ましい。メタクリル酸エステル系単量体の含有量が50質量%以上であることにより、優れた耐傷性が得られる。また、メタクリル酸エステル系単量体の含有量が98質量%以下である場合、漆黒性などの意匠性、耐衝撃性がより向上する傾向にある。
【0036】
共重合体(C)は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中に30〜89質量%含有される。好ましくは40〜80質量%であり、更に好ましくは45〜70質量%である。共重合体(C)の含有量が30質量%以上であることにより、優れた耐傷付性が得られる。共重合体(C)の含有量が89質量%以下であることにより、優れた耐衝撃性が得られる。
【0037】
共重合体(C)は、以下に限定されないが、例えば、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、懸濁塊状重合、溶液重合等、公知の方法によって製造することができる。
【0038】
<共重合体(D)>
共重合体(D)は、α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合体である。ここで、共重合体(D)における無水マレイン酸としては、特に限定されないが、上述した共重合体(C)における無水マレイン酸と同様のものを例示することができる。
【0039】
共重合体(D)におけるα−オレフィンとしては、以下に限定されないが、例えば、炭素数が10〜100(好ましくは10〜46)の、α−位に二重結合を有するオレフィン系不飽和化合物等を挙げることができる。α−オレフィンは、1種単独で用いても、異なる炭素原子数を有する2種以上を併用してもよい。
【0040】
共重合体(D)に含まれるα−オレフィンの含有量は、共重合体(D)100質量%に対して、30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。α−オレフィンの含有量が30質量%以上である場合、流動性、漆黒性などの意匠性がより向上する傾向にある。また、α−オレフィンの含有量が70質量%である場合、耐衝撃性がより向上する傾向にある。
【0041】
共重合体(D)に含まれる無水マレイン酸の含有量は、共重合体(D)100質量%に対して、30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。無水マレイン酸の含有量が30質量%以上である場合、共重合体(B)、共重合体(C)などとの相溶性に優れ、耐衝撃性がより向上する傾向にある。無水マレイン酸の含有量が70質量%以下である場合、漆黒性などの意匠性がより向上する傾向にある。
【0042】
共重合体(D)の重量平均分子量は、500〜50,000であることが好ましい。更に1,000〜30,000が好ましい。分子量が500以上である場合、耐衝撃性がより向上する傾向にある。分子量が50,000以下である場合、流動性、耐傷付性がより向上する傾向にある。上記重量平均分子量は、溶媒にテトラヒドロフランを用い、カラムにポリスチレン系ゲルを用い、温度40℃、流速1.2mL/minの条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィーで求めることができる。
【0043】
上述した観点から、本実施形態においては、共重合体(D)が、α−オレフィン30〜70質量%と無水マレイン酸70〜30質量%とからなり、かつ、分子量が500以上50,000以下の共重合体であることが特に好ましい。
【0044】
共重合体(D)には、α−オレフィン、及び無水マレイン酸以外にも、他の成分を共重合することもできる。他の成分としては、特に限定されないが、ポリオキシアルキレンアリルエーテルなどが好ましい。
【0045】
共重合体(D)の含有量は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物中に0.3〜5.0質量%含有されることが好ましい。共重合体(D)の含有量が0.3質量%以上である場合、耐衝撃性がより向上する傾向にあり、5.0質量%以下である場合、透明性がより向上する傾向にある。
【0046】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、鉛筆硬度がF以上である。本実施形態においては、JIS K5600に準拠した測定により、鉛筆硬度を評価することができ、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、「F」と評価されるか、「F」よりも硬いと評価されるものである。鉛筆硬度がF以上であることにより、幅広い製品で使用上の傷が付きにくくなる。鉛筆硬度F以上にするためには、ゴム質重合体、及び共重合体(C)の含有量を調整する必要がある。具体的には、ゴム質重合体を5〜15質量%、共重合体(C)を30〜89質量%にすることで鉛筆硬度をF以上にできる。
【0047】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、全光線透過率が75%以上である。全光線透過率が75%以上であることにより、漆黒性に優れた意匠性を得ることができる。なお、全光線透過率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。全光線透過率を75%以上にするためには、共重合体(B)(屈折率1.54〜1.59)、共重合体(C)(屈折率1.47〜1.53)、及び共重合体(D)(屈折率1.48〜1.53)の含有量を調整し、グラフト共重合体(A)(屈折率1.50〜1.54)の屈折率に調整する必要がある。具体的には、共重合体(B)と共重合体(C)を完全相溶(ミクロ相分離)させて屈折率を1.50〜1.54に調整し、共重合体(D)を分散させて、グラフト共重合体(A)の屈折率に合わせることで全光線透過率を75%以上にできる。共重合体(B)と共重合体(C)を完全相溶(ミクロ相分離)させるために、共重合体(B)中のシアン化ビニル系単量体の割合を15〜25質量%にすることが好ましい。
【0048】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物には、公知の添加剤、以下に限定されないが、例えば、可塑剤、滑剤、熱安定化剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオジブロプロピオン酸エステル型のチオエーテル等)、耐候剤(例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系等)、難燃助剤(例えば、三酸化アンチモン、5酸化アンチモン等)、帯電防止剤(例えば、ポリアミドエラストマー、四級アンモニウム塩系、ピリジン誘導体、脂肪族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩共重合体、硫酸エステル塩、多価アルコール部分エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、ポリアルキレングリコール誘導体、ベタイン系、イミダゾリン誘導体等)、抗菌剤、抗カビ剤、摺動性改良剤(例えば、低分子量ポリエチレン等の炭化水素系、高級アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル、脂肪酸と多価アルコールとのフルあるいは部分エステル、脂肪酸とのポリグリコールとのフルあるいは部分エステル、シリコーン系、フッ素樹脂系等)等をその目的に合わせて任意の割合で配合することができる。
【0049】
また、意匠性を付与する目的で、公知の着色剤、以下に限定されないが、例えば、無機顔料、有機顔料、メタリック顔料、染料等を添加することができる。
【0050】
無機顔料としては以下に限定されないが、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸塩系顔料、酸化亜鉛系顔料、カドミウム系顔料などが挙げられる。
【0051】
有機顔料としては、以下に限定されないが、例えば、アゾレーキ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジアリリド顔料縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料;イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料などが挙げられる。
【0052】
メタリック顔料としては、以下に限定されないが、例えば、リン片状のアルミのメタリック顔料、ウェルド外観を改良するために使用されている球状のアルミ顔料、パール調メタリック顔料用のマイカ粉、その他ガラス等の無機物の多面体粒子に金属をメッキやスパッタリングで被覆したものなどが含まれる。
【0053】
染料としては、以下に限定されないが、例えば、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン/ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン/インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン/オキシケトン染料アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料、ペリレン染料、ペリノン染料等が挙げられる。
【0054】
これらの着色剤は、単体、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で特に黒色に着色したい場合は、赤、緑、黄色等の染料を組み合わせて黒色を発色することで、より深みのある漆黒性を発現することができる。
【0055】
本実施形態においては、使用できる着色剤について特に限定されないが、本実施形態の効果を高める観点から、無機顔料、有機顔料、カーボンブラックの含有量は、2質量%以下にすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.8質量%以下である。着色剤の含有量が0.1質量%以上である場合、漆黒度などの意匠性がより向上する傾向にあり、2質量%以下である場合、成形時のモールドデポジット等の外観不良現象が発生しにくい傾向にある。
【0056】
なお、ここでいう無機顔料、有機顔料、有機染料の分類についてはポリオレフィン等衛生協議会発行の「ポリオレフィン等合成樹脂性食品容器包装等に関する自主基準」(第2部ポジティブリスト、2−3色材)第8版に記載されている分類に基づくものであるが、カ−ボンブラックを含めて使用できる染料の種類を限定するものではない。
【0057】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の溶融混合法を用いることができる。具体的には、例えば、ミキシングロール、バンバリミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機;単軸押出機、二軸押出機等の連続混練機が挙げられ、混合は全ての共重合体を一括に混合しても、別途混合しても構わない。共重合体(B)及び共重合体(C)を事前に混合した後に、グラフト重合体(A)及び共重合体(D)を混合することが好ましい。
【0058】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、公知の成形方法により成形品とすることができる。すなわち、本実施形態の成形品は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を含む。公知の成形方法とは、以下に限定されないが、例えば、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形、プレス成型等である。射出成形において、意匠性など優れた外観性を得るためには、金型キャビティの表面温度は好ましくは樹脂注入時の温度で70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。なお、例えば、120℃等樹脂の溶融温度以上に金型温度を上げた場合は冷却固化に多くの時間がかかり、ヒケや離型不良等の不具合も発生する可能性もあるが、この場合に公知の成形サイクル内での金型のキャビティ表面の温度を適宜調整して成形する技術(例えば、特開平09−314628号公報や特開2001−191378号公報等)を用いることで、上記の不具合も解決でき、更にウエルドラインの消滅等より意匠的に優れた成形品を得ることができるため、特により好ましい。
【0059】
本実施形態の成形品とは、意匠性や衝撃性が求められる筐体であることが好ましく、以下に限定されないが、例えば、機械や電気等何らかの機能を有する機器の外装(カバー)が挙げられる。筐体の用途としては、特に限定されないが、例えば、家電機器、OA機器、住設機器、車両機器等が挙げられる。
【0060】
家電機器としては、特に限定されないが、例えば、掃除機、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、電器ポット、電話機、コーヒーメーカー、液晶やプラズマ等のテレビ、ビジュアルレコーダー、オーディオステレオ、スマートフォンを含む携帯機器、据置型ゲーム機、各種リモコン等の外装等が挙げられる。
【0061】
OA機器としては、特に限定されないが、具体的には、ファックスやコピー等の複合機器、液晶モニター、プリンター、パソコン等の外装やこれらに付属する外装等を例示できる。
【0062】
住設機器としては、特に限定されないが、例えば、システムキッチン、洗面台、システムバス等の外装やこれらに付属する外装が挙げられる。
【0063】
車両機器としては、特に限定されないが、例えば、自動車の内装のガーニッシュカバー、シフトレバーインジケーターカバー、ドアハンドル枠、パワーウィンドウスイッチ枠、センタークラスター、カーステレオやカーナビ枠、センターピラーカバー等の外装やこれらに付属する外装が挙げられる。
【0064】
これらのうちタブレットパソコン含むタブレット端末、スマートフォンを含む携帯電話、携帯型ゲーム機の携帯機器、テレビやゲーム、エアコン等の各種リモコン、テレビ、据置型ゲーム機等が好ましい。これらの筐体は、手に触れる時間が長いか、及び/又は、目立つような場所に置かれるため、高漆黒性であることが求められる。それと同時に製品を落下させるか、又は製品に衝撃を与える等した際に破壊されないために、耐衝撃性が求められる。本実施形態の成形品はこのような要求を満たすものであり、着色されても高い耐衝撃性を有するため好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた各成分は以下のものである。
【0066】
<グラフト共重合体(A)及び共重合体(B−1)の製造>
重合反応槽に、ポリブタジエンゴムラテックス(日機装(株)社製マイクロトラック粒度分析計「nanotrac150」にて測定した体積平均粒子径=0.25μm、固形分量=45質量%)100質量部に、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、及び脱イオン水45質量部を加え、気相部を窒素置換した後、55℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル11質量部、スチレンを44質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.5質量部、クメンハイドロパーオキシド0.15質量部よりなる単量体混合液、及び脱イオン水22質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2質量部、硫酸第一鉄0.004質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.04質量部を溶解してなる水溶液を4時間にわたり添加した。添加終了後1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。
【0067】
このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤及びフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、さらに、十分な脱水、水洗を行った後、乾燥させてグラフト共重合体(A−1)を得た。ここでは同時に熱可塑性樹脂(共重合体)(B−1)も得られた。重合体(A−1)と共重合体(B−1)との割合は、63.7質量%と36.3質量%であった。フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた組成分析の結果、重合体(A−1)はアクリロニトリル5.7質量%、ブタジエン71.4質量%、スチレン22.9質量%、グラフト率40.0質量%、共重合体(B−1)はアクリロニトリル20.1質量%、スチレン79.9質量%であり、また(B−1)の還元粘度(2−ブタノン溶液中0.50g/100mLの濃度とし、30℃でCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することで得られる。)は0.33dl/gであった。
【0068】
<共重合体(B−2)の製造>
アクリロニトリル13質量部、スチレン52質量部、溶媒としてトルエン35質量部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシー2ーエチルヘキサノエート0.05質量部からなる混合物を、窒素ガスを用いてバブリングさせた後、特許第3664576号の実施例2に記載されたものと同様の二段傾斜パドル型(傾斜角度45度)攪拌翼を供えた内容積150lの反応槽に、スプレーノズルを用いて連続的に37.5kg/時間の速度で供給した。重合温度は130℃とし、反応槽内での反応液の充満率が70容量%を維持できるように、供給液量と同量の反応液を連続的に抜き出した。反応槽の液相部相当部分には温調のためのジャケットが設けられ、ジャケット温度は128℃であった。また、攪拌所要動力は4kW/m、重合転化速度は39.8wt%/hrであった。抜き出した反応液は、250℃、10mmHgの高真空に保たれた揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、有機溶剤を脱気回収し、生成した共重合体(B−2)をペレットとして回収した。(B−2)の組成は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル20.8質量%、スチレン79.2質量%であった。また、還元粘度は0.67dl/gであった。
【0069】
<共重合体(B−3)の製造>
反応槽への供給液として、アクリロニトリル16質量部、及びスチレン49質量部、溶媒としてトルエン35質量部、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.05質量部を用い、温調ジャケット温度を129℃とした以外は、共重合体(B−1)の製造と同様の方法で、共重合体(B−3)を製造した。重合転化速度は39.3wt%/hrであった。抜き出した反応液は、250℃、10mmHgの高真空に保たれた揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、有機溶剤を脱気回収し、共重合体(B−3)はペレットとして回収した。(B−3)の組成は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR−IR)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル24.8質量%、スチレン75.2質量%であった。また、還元粘度は0.46dl/gであった。
【0070】
<共重合体(C−1)の製造>
4枚傾斜パドル翼を取り付けた攪拌機を有する容器に、水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム39g、ラウリル酸ナトリウム0.39gを投入し、混合液を得た。次に、3枚後退翼を取り付けた攪拌機を有する60Lの反応器に水26kgを投入して80℃に昇温し、混合液、及びメタクリル酸メチル19,042g、スチレン1,393g、N−フェニルマレイミド2,787g、ラウロイロパ−オキサイド40.65g、及びn−オクチルメルカプタン48.77gを投入した。約75℃を保って懸濁重合を行い、原料投入してから約120分後に発熱ピ−クが観測された。その後、93℃に1℃/minの速度で昇温した後、120分間熟成し、重合反応を実質終了した。次に、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20質量%硫酸を投入した。次に重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去した上で、水分を濾別し、得られたスラリ−を脱水してビ−ズ状ポリマ−を水洗浄した後、上記と同様に脱水し、さらにイオン交換水で洗浄、脱水を繰り返して洗浄し、共重合体(C−1)を得た。得られた共重合体(C−1)は、メタクリル酸メチル・N−フェニルマレイミド・スチレン共重合体であり、熱分解ガスクロ法を用いた組成分析の結果、メタクリル酸メチル82質量%、N−フェニルマレイミド12質量%、スチレン6質量%であった。また重量平均分子量は12万であった。
【0071】
<共重合体(C−2)の製造>
メタクリル酸メチル68.6質量部、アクリル酸メチル1.4質量部、エチルベンゼン30質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパ−オキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン150ppm、及びn−オクチルメルカプタン1500ppmを添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉式耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度135℃、平均滞留時間2時間で重合した。この重合液を反応器に接続された貯槽に連続的に送り出し、重合体と未反応単量体及び溶液と分離し、重合体を押出機にて連続的に溶融状態で押出し、共重合体(C−2)のペレットを得た。この共重合体を、熱分解ガスクロ法を用いて組成分析したところ、メタクリル酸メチル単位/アクリル酸メチル単位=98.0/2.0(質量比)の結果を得た。
【0072】
<共重合体(C−3)>
共重合体(C−3)として、以下を使用した。
メチルメタクリレート・スチレン共重合体:新日鉄住金化学株式会社製 エスチレン MS−600
【0073】
<共重合体(D)>
共重合体(D)として、以下を使用した。
共重合体(D−1):α−オレフィンと無水マレイン酸の共重合体 三菱化学株式会社製ダイヤカルナ
【0074】
<その他の成分>
その他の成分として、以下を使用した。
滑材(E−1):酸化型ポリエチレンワックス 三洋化成工業株式会社製 E−250P
金属塩(E−2):ステアリン酸カルシウム 大日化学工業株式会社製 ダイワックスC
着色剤(E−3):カーボンブラック 三菱化学株式会社製 三菱カーボン980N
【0075】
(実施例1)
グラフト共重合体(A−1)22質量部、共重合体(B−1)10.5質量部、共重合体(B−2)7.5質量部、共重合体(C−1)60質量部、共重合体(D−1)1質量部、着色剤(E−3)1.5質量部を混合し、これを2軸押出機のトップより一括投入し、250℃で溶融混練し、ペレットを得た。作製されたペレットを樹脂温度250℃、金型温度70℃、射出速度33mm/sにて射出成形(東芝機械製「EC50S))を行い、50mm×90mm×2.5mmの平板の射出成型品を作製した。
【0076】
(実施例2〜4、比較例1〜4)
表1に示す組成割合で各成分を配合し、実施例1と同様にして樹脂ペレットを得、評価を行った。なお、各種評価の方法は以下に述べるとおりとした。評価結果を表1に示す。
【0077】
(1)シャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)
ISO179に準じて、各例に対応する射出成型品のシャルピー衝撃強さを評価した。8kJ/m
2以上を「○」、8kJ/m
2未満を「×」とした。
【0078】
(2)メルトボリュームレート(MVR)
各例に対応するペレットをサンプルとして、ISO1133に基づいたテスト方法でMVRを測定した。測定条件としては、温度を265℃とし、荷重を10kgとして行った。4.5[cm
3/10分]以上を「○」、4.0[cm
3/10分]以上4.5[cm
3/10分]未満を「△」、4.0[cm
3/10分]未満を「×」とした。
【0079】
(3)荷重たわみ温度
各例に対応する射出成型品を対象として、ISO75に基づいたテスト方法で荷重たわみ温度を測定した。荷重は1.8MPaの条件で、88℃以上を「〇」、80.0℃以上88.0℃未満を「△」、80.0℃未満を「×」とした。
【0080】
(4)鉛筆硬度
各例に対応するペレットを用い、射出成形機により、シリンダー温度=240℃、金型温度=70℃として5cm×9cm、厚み2.5mmの平板を射出成形した。この平板でJIS K5600 鉛筆ひっかき値に準じて評価した(鉛筆:JIS S6006規定、重り:750±10g)。F以上を「〇」、HBを「△」、B以下を「×」とした。
【0081】
(5)耐傷付性
(4)で得られた各例の平板を、大倉インダストリー株式会社製動摩擦試験機DTF−1を使用して、下記条件で引掻き、傷付試験前後の明度差ΔL*をミノルタ株式会社製色彩計、CM−2002(分光測色計)CM−S9W(ソフト)にて測定した。ΔL*が6未満を「〇」、6以上10未満を「△」、10以上を「×」とした。但し、傷の状態や試験片の漆黒性による影響から明度差ΔL*と目視評価で乖離がある場合、目視で適宜「○」〜「×」を評価した。
相手材:SUS球(直径5mm)
試験環境:23℃、50%Rh
試験荷重:5000g
引掻き速度:10mm/sec
引掻き距離:40mm
【0082】
(6)全光線透過率
(4)で得られた各例の平板を用いて、ASTM D1003に準じて評価した。75%以上を「〇」、70%以上75%未満を「△」、70%未満を「×」とした。
【0083】
(7)漆黒性
(4)で得られた各例の平板の明度L*をミノルタ株式会社製色彩計、CM−2002(分光測色計)CMS9W(ソフト)にて測定した。L*が4未満を「〇」、4以上5未満を「△」、5以上を「×」とした。
【0084】
【表1】
【0085】
上記(1)〜(7)の評価の結果より、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、十分な耐熱性及び耐傷付性を確保した上で、優れた流動性、耐衝撃性、鉛筆強度及び意匠性(透明性、漆黒性)を発揮することがわかる。