【解決手段】物理量によって歪みが与えられる場所に設置されるSAW材料3と、SAW材料3に形成され、SAW材料3にSAWを励振させる櫛歯電極4とを備える弾性表面波式センサにおいて、SAW材料3として、サファイア基板7の表面上にScAlN膜8が形成されたScAlN/サファイア構造のSAW材料を用いる。
前記セザワ波用の櫛歯電極と前記レイリー波用の櫛歯電極は、前記櫛歯電極を構成する複数の櫛歯部(44a、54a)のピッチ(p1、p2)が異なるとともに、前記櫛歯電極を駆動するための駆動用信号の周波数が同一となるように、前記ピッチが設定されていることを特徴とする請求項4に記載の弾性表面波式センサ。
前記セザワ波用の櫛歯電極に対応して前記弾性表面波材料に設けられ、前記セザワ波用の櫛歯電極によって励振されたセザワ波を受信または反射するセザワ波用の対応電極(45)と、
前記弾性表面波材料のうち前記セザワ波用の櫛歯電極と前記セザワ波用の対応電極との間をセザワ波が伝搬するセザワ波用の伝搬路(46)と、
前記レイリー波用の櫛歯電極に対応して前記弾性表面波材料に設けられ、前記レイリー波用の櫛歯電極によって励振されたレイリー波を受信または反射するレイリー波用の対応電極(55)と、
前記弾性表面波材料のうち前記レイリー波用の櫛歯電極と前記レイリー波用の対応電極との間をレイリー波が伝搬するレイリー波用の伝搬路(56)とを備え、
前記セザワ波用の伝搬路の一部と前記レイリー波用の伝搬路の一部とが重複していることを特徴とする請求項4または5に記載の弾性表面波式センサ。
前記サファイア基板は、基板表面の面方位がC面であり、前記弾性表面波の伝搬方向がa面内またはa面に対して60°単位で回転した方向であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の弾性表面波式センサ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態のSAW式センサは、物理量としての圧力や荷重を検出するものであり、例えば、エンジン燃焼圧を検出する燃焼圧センサとして用いられるものである。
【0018】
図1に示すように、SAW式センサ1は、センサチップ2を備えている。センサチップ2は、SAW材料3と、SAW材料3に形成された電極4、5とを備えている。
【0019】
SAW材料3に形成された電極は、SAW材料3にSAWを励振させる櫛歯電極4と、櫛歯電極4から伝搬されたSAWを反射させる反射器5である。SAW材料3の表面のうち櫛歯電極4と反射器5との間の領域が、SAWが伝搬する伝搬路6を構成している。櫛歯電極4と反射器5と伝搬路6とによって、反射遅延型のSAW素子が構成されている。
【0020】
櫛歯電極4は、互いに平行に延びている複数の櫛歯部4aを有する一対の電極から構成されている。反射器5は、複数の直線状の電極が互いに平行かつ櫛歯部4aと平行に配置されたものである。櫛歯電極4の共振周波数相当の高周波信号(バースト信号)が櫛歯電極4に印加されることにより櫛歯電極4が駆動され、櫛歯電極4の駆動によってSAW材料3にSAWが励振され、SAWが櫛歯電極4の櫛歯部4aに対して垂直な方向に伝搬する。
図1中のD1矢印方向がSAWの伝搬方向を示しており、D2矢印方向がSAWの伝搬方向に対して垂直な方向を示している。
【0021】
なお、本明細書でいうSAWは、レイリー波型弾性表面波を意味し、レイリー波型弾性表面波の各モードのうち、最低次モードである0次モードがレイリー波であり、1次モードがセザワ波である。本実施形態では、SAWとして、レイリー波型弾性表面波のモードが1次モードであるセザワ波が用いられる。すなわち、セザワ波を励振するように、櫛歯電極4が構成されている。
【0022】
図2に示すように、SAW材料3は、非圧電性基板であるサファイア基板7と、サファイア基板7の表面上に直接形成された圧電性薄膜であるScAlN(スカンジウム含有窒化アルミニウム)膜8とを有するScAlN/サファイア構造である。
【0023】
サファイア基板7としては、例えば、基板表面の面方位がC面であり、SAWの伝搬方向をa面内またはa面に対して60°単位で回転した方向とするものが用いられる。これらの条件のとき、SAW特性が良好になる。
【0024】
ScAlN膜8は、AlNにScを添加した膜である。ScAlN膜8のSc濃度は、ScとAlの合計を100原子%としたとき、40〜50原子%とすることが好ましい。この場合に、圧電定数を最も高くできる。なお、本実施形態では、ScAlN膜8のサファイア基板7側とは反対側の表面8a(
図2中の上面8a)上に電極4、5が形成されている。
【0025】
図3、4に示すように、センサチップ2は、ダイヤフラム構造体10のダイヤフラム部11の表面11aに設置される。ダイヤフラム部11は、
図3に示すように、輪郭が円形状である。ダイヤフラム部11は、表面11aとは反対側の裏面11bに、
図4中の矢印で示す圧力や荷重を受けて反り変形する。このため、ダイヤフラム部11には、ダイヤフラム部11の中心位置を中心とした同心円状の応力分布が形成される。なお、本実施形態のダイヤフラム構造体10は、金属で構成されているが、他の材料で構成されていてもよい。また、ダイヤフラム11は、円形状であったが、四角等の他の形状であってもよい。この場合、ダイヤフラム11には、ダイヤフラム部11の中心位置を基準位置とした点対称の応力分布が形成される。
【0026】
センサチップ2は、その裏面2bの全域が、図示しない接着層を介して、ダイヤフラム部11の表面11aに固定されている。このため、ダイヤフラム部11の裏面11bに圧力や荷重がかかると、ダイヤフラム部11と同様にセンサチップ2が反り変形し、センサチップ2に引張応力がかかる状態となる。この引張応力は、センサチップ2の表面上における全方向に応力成分を有し、
図1に示すように、SAWの伝搬方向D1の応力σ
LとSAWの伝搬方向に垂直な方向D2の応力σ
Tに分けて表すことができる。このように、本実施形態のセンサチップ2は、センサチップ2に対して、SAWの伝搬方向D1の応力σ
LとSAWの伝搬方向に垂直な方向D2の応力σ
Tがかかる場所に配置されている。
【0027】
本実施形態のSAW式センサ1は、次のようにして、圧力または荷重を検出する。
【0028】
櫛歯電極4を駆動させることにより、SAW材料3の表面にSAWを励振させ、反射器5で反射したSAWを櫛歯電極4で受信する。このとき、ダイヤフラム部11が裏面11bから圧力や荷重を受けると、ダイヤフラム部11とともにセンサチップ2が反り変形する。すなわち、圧力や荷重によってセンサチップ2が歪みを受ける。これにより、SAW材料3の伝搬路6の長さ等が変化するため、櫛歯電極4で励起したSAWの位相に対して、反射器5で反射して櫛歯電極4で受信したSAWの位相が変化する。そこで、この位相の変化量を検出し、検出した位相変化量と、位相変化量と圧力または荷重との関係とに基づいて、圧力または荷重を算出する。したがって、本実施形態では、位相変化量をセンサ出力としている。
【0029】
なお、SAWの位相は図示しない位相検出回路で検出され、位相変化量の算出や位相変化量からの圧力や荷重の算出は図示しない演算部で実行される。
【0030】
次に、本実施形態のSAW式センサ1と比較例1のSAW式センサとを比較する。比較例1のSAW式センサは、ScAlN/SiC構造のSAW材料を用いたものであり、その他の構成は、第1実施形態のSAWセンサ1と同じである。
【0031】
本実施形態のSAW式センサ1および比較例1のSAW式センサのセンシング感度は、圧力や荷重によってセンサチップに与えられる歪みに対する位相変化量が大きいほど高く、次の式1で表される。
s=s
e+ασ
L+βσ
T・・・式1
s:センシング感度、位相変化量(deg)/荷重(N)
s
e:伝搬路長の伸びによる位相変化量(deg)/荷重(N)
σ
L:SAWの伝搬方向の応力(Pa)/荷重(N)
σ
T:SAWの伝搬方向に対して垂直な方向の応力(Pa)/荷重(N)
α:縦音弾性係数
β:横音弾性係数
なお、σ
L、σ
Tは、引張り応力のとき、符号を正とする。また、上記式1の説明は、物理量が荷重のときのものである。上記式1中の(ασ
L)の項と(βσ
T)の項が音弾性効果である。
【0032】
ここで、表1に、本実施形態のSAW式センサ1および比較例1のSAW式センサにおける縦音弾性係数αと横音弾性係数βを示す。
【0034】
なお、表1に示す縦音弾性係数αと横音弾性係数βは、本発明者が次のようにして求めたものである。
【0035】
本実施形態のセンサチップ2を2つ用意し、それぞれのセンサチップを
図5、6に示す金属製のダイヤフラム構造体10に設置した。
図5の状態をケース1、
図6の状態をケース2と呼ぶ。用意した本実施形態のセンサチップ2の寸法等の条件は次の通りである。また、比較例1についても、第1実施形態と同じ条件のセンサチップを用意した。
・ScAlN膜の厚さ(*):2μm
・櫛歯電極(*)および反射器の材質、厚さ:Au、50nm
・波長:4μm
・伝搬路長:1.5mm
・櫛歯電極(*):40対
・反射器(*):80本
・駆動周波数:1.6GHz(比較例1)、1.45GHz(第1実施形態)
なお、(*)印はセンシング感度には影響しないパラメータを示す。
【0036】
図5に示すダイヤフラム構造体10は、ダイヤフラム部11のうちセンサチップ2のSAW伝搬方向に平行な二辺の隣に、SAW伝搬方向に延びるスリット(開口部)12、13が設けられたものである。
図6に示すダイヤフラム構造体10は、ダイヤフラム部11のうちセンサチップ2のSAW伝搬方向に垂直な二辺の隣に、SAW伝搬方向に垂直な方向に延びるスリット(開口部)14、15が設けられたものである。
【0037】
ダイヤフラム部11に荷重が加えられたとき、ケース1とケース2では、センサチップ上のSAW伝搬方向とスリットの位置関係が異なるため、式1中のσ
L、σ
Tが異なる。このため、ケース1、2のそれぞれに対して、以下の2式が成り立つ。
【0038】
s(1)=s
e(1)+ασ
L(1)+βσ
T(1)・・・式2
s(2)=s
e(2)+ασ
L(2)+βσ
T(2)・・・式3
そして、ケース1、2のそれぞれにおいて、
図4に示すように、ダイヤフラム部11の裏面11bに荷重を加え、荷重に対する位相変化量(位相変化量/荷重)を実測した。すなわち、s(1)、s(2)を実測した。さらに、s
e(1)、s
e(2)、σ
L(1)、σ
L(2)、σ
T(1)、σ
T(2)を、有限要素法(FEM)により求めた。これらを用いて、式2と式3の連立方程式を解くことで、α、βを求めた。
【0039】
表1に示すように、比較例1のScAlN/SiC構造のSAW材料は、縦音弾性係数αが負値であるとともに、絶対値が大きい。このため、比較例1のSAW式センサは、縦音弾性がセンシング感度を弱める方向に作用するので、センシング感度が低くなる。
【0040】
一方、本実施形態のScAlN/サファイア構造のSAW材料は、縦音弾性係数αと横音弾性係数βのどちらも、小数点第2位の値であり、非常に小さい。このため、本実施形態のSAW式センサは、音弾性効果の影響が非常に小さいので、センシング感度が高くなる。
【0041】
図7に、ScAlN/サファイア構造のSAW材料を用いた本実施形態のSAW式センサと、ScAlN/SiC構造のSAW材料を用いた比較例1のSAW式センサのそれぞれにおける荷重と位相変化量との関係を示す。
図7は、実験によって得られたものであり、
図7中の歪みだけからの解析値は、上記式1においてα=0、β=0と仮定して、荷重に対する位相変化量を解析した結果である。また、用いた本実施形態のセンサチップおよび比較例1のセンサチップの条件は、α、βを求めた実験と同じである。また、s
eが両センサチップで同じとなるように、両センサチップの厚さを調整した。
【0042】
図7に示すように、ScAlN/SiC構造の比較例1のSAW式センサは、位相変化量が解析値の約1/3であったのに対して、ScAlN/サファイア構造の本実施形態のSAW式センサは、位相変化量が解析値に近かった。したがって、
図7に示す実験結果からも、本実施形態のSAW式センサは、音弾性効果の影響が非常に小さく、比較例1のSAW式センサよりもセンシング感度が高いことがわかる。
【0043】
また、本実施形態では、SAWとしてセザワ波を用いていたが、レイリー波を用いてもよい。レイリー波を用いた場合でも、本実施形態と同様の効果が得られる。ただし、次の理由により、レイリー波よりセザワ波を用いることが好ましい。
【0044】
一般的な圧電性薄膜/基板構造のSAW材料におけるSAWエネルギーの深さ方向分布は、SAWのモードが高次モードになるほどSAW材料表面から深い側、つまり、基板中への分配率が大きくなることが知られている。このため、レイリー波を用いる場合よりもセザワ波を用いる場合の方が、音弾性効果におけるサファイア基板の影響が強くなり、音弾性効果が小さくなる。したがって、セザワ波を用いた場合に、センシング感度を向上できるという効果が高くなる。
【0045】
(第2実施形態)
本実施形態のSAW式センサは、物理量としての引張応力、圧縮応力、歪み等を検出するものである。
【0046】
具体的には、
図8、9に示すように、センサチップ2は、応力や歪みの検出対象である被検出対象物20に設置される。センサチップ2は、第1実施形態と同じ構成のものである。例えば、
図9中の矢印のように、被検出対象物20に一軸方向の引張応力が印加される場合、その応力の印加方向とSAWの伝搬方向D1とが一致するように、センサチップ2が設置される。なお、被検出対象物20に一軸方向の圧縮応力や歪みが印加される場合も同様である。
【0047】
これにより、被検出対象物20に一軸方向の応力が印加されると、センサチップ2は、
図8に示すように、SAWの伝搬方向の引張応力σ
Lがかかる状態となる。このとき、反射波の位相が変化するので、この位相変化量と、位相変化量と応力または歪みとの関係とに基づいて、応力や歪みを検出することができる。
【0048】
本実施形態では、SAW式センサのセンシング感度は次式で表される。
【0049】
s=s
e+ασ
L・・・式4
本実施形態においても、ScAlN/SiC構造のSAW材料を用いる場合と比較して、センシング感度が受ける音弾性効果の影響が小さいので、センシング感度の向上効果が得られる。
【0050】
(第3実施形態)
本実施形態のSAW式センサは、物理量としての加速度を検出するものである。
【0051】
図10に示すように、センサチップ2は、加速度が印加されることで一軸方向に反り変形する変形部材30に設置される。センサチップ2は、第1実施形態と同じ構成のものである。センサチップ2は、変形部材30の反り方向とSAWの伝搬方向D1とが一致するように、センサチップ2が設置される。これにより、変形部材30に加速度が印加されたとき、センサチップ2は、第2実施形態と同様に、SAWの伝搬方向の引張応力σ
Lがかかる状態となる。このとき、反射波の位相が変化するので、この位相変化量と、位相変化量と加速度との関係とに基づいて、加速度を検出することができる。
【0052】
本実施形態においても、第2実施形態と同様に、センシング感度の向上効果が得られる。
【0053】
(第4実施形態)
第2、第3実施形態では、応力等の物理量によって、センサチップ2にSAWの伝搬方向の引張応力σ
Lのみがかかる場所に、センサチップ2を設置したが、本実施形態では、
図11に示すように、応力等の物理量によって、センサチップ2にSAWの伝搬方向に垂直な方向の引張応力σ
Tのみがかかる場所に、センサチップ2を設置している。
【0054】
本実施形態では、SAW式センサのセンシング感度は次式で表される。
【0055】
s=s
e+βσ
T・・・式5
第1実施形態での説明の通り、ScAlN/サファイア構造のSAW材料3は横音弾性係数βが非常に小さいので、本実施形態のSAW式センサは、センシング感度が高くなる。
【0056】
(第5実施形態)
図12に示すように、本実施形態のセンサチップ2は、SAW材料3の表面に、セザワ波用の櫛歯電極44とレイリー波用の櫛歯電極54とが形成されている。
【0057】
SAW材料3は、第1実施形態と同じ構成のものである。セザワ波用の櫛歯電極44とレイリー波用の櫛歯電極54は、第1実施形態の櫛歯電極4に対応するものである。セザワ波用の櫛歯電極44は、セザワ波を励振させるように構成されている。レイリー波用の櫛歯電極54は、レイリー波を励振させるように構成されている。
【0058】
具体的には、セザワ波用の櫛歯電極44とレイリー波用の櫛歯電極54は、櫛歯電極44、54を構成する複数の櫛歯部44a、54aのピッチp1、p2が異なるとともに、櫛歯電極44、54を駆動するための駆動用信号の周波数が同一となるように、各ピッチp1、p2が設定されている。ピッチp1は、セザワ波用の櫛歯電極44における隣り合う櫛歯部44aの間隔である。同様に、ピッチp2は、レイリー波用の櫛歯電極54における隣り合う櫛歯部54aの間隔である。駆動用信号は、櫛歯電極44、54を駆動させてSAW材料3にSAWを励振させるために、櫛歯電極44、54に印加する高周波信号である。
【0059】
例えば、櫛歯電極44、54の駆動方式を無線駆動とする場合、櫛歯電極44、54のそれぞれにコイルを電気的に接続することになる。この場合、コイルには周波数特性があるため、駆動用信号の周波数を統一することで、櫛歯電極44、54に接続されるコイルを共有することができる。
【0060】
なお、セザワ波用の櫛歯電極44のピッチp1とレイリー波用の櫛歯電極54のピッチp2とを同一としてもよい。この場合、櫛歯電極44、54のそれぞれに周波数特性が異なるコイルを電気的に接続する。
【0061】
SAW材料3の表面には、セザワ波用の櫛歯電極44に対応して、セザワ波用の櫛歯電極44によって励振されたセザワ波を反射するセザワ波用の対応電極である反射器45が設けられている。SAW材料3の表面のうちセザワ波用の櫛歯電極44と反射器45との間の領域が、セザワ波が伝搬するセザワ波用の伝搬路46を構成している。セザワ波用の櫛歯電極44、反射器45および伝搬路46によって、反射遅延型のセザワ波素子40が構成されている。
【0062】
同様に、SAW材料3の表面には、レイリー波用の櫛歯電極54に対応して、レイリー波用の櫛歯電極54によって励振されたレイリー波を反射するレイリー波用の対応電極である反射器55が設けられている。SAW材料3の表面のうちレイリー波用の櫛歯電極54と反射器55との間の領域が、レイリー波が伝搬するレイリー波用の伝搬路56を構成している。レイリー波用の櫛歯電極54、反射器55および伝搬路56によって、反射遅延型のレイリー波素子50が構成されている。
【0063】
このように、本実施形態では、1つのセンサチップ2にセザワ波素子40とレイリー波素子50というレイリー波型弾性表面波のモードが異なる2つの素子が形成されている。
【0064】
そして、セザワ波素子40とレイリー波素子50は、どちらも素子領域の重心がセンサチップ2の中心C1に位置するように配置されており、セザワ波用の伝搬路46の一部とレイリー波用の伝搬路56の一部とが重複している。このため、セザワ波素子40とレイリー波素子50の各素子領域の温度はほぼ同じになる。
【0065】
なお、セザワ波用の伝搬路46の一部とレイリー波用の伝搬路56の一部とが重複していれば、各素子領域の重心がセンサチップ2の中心C1に位置していなくてもよい。この場合であっても、セザワ波用の伝搬路46の一部とレイリー波用の伝搬路56の一部とを重複させることで、セザワ波素子40とレイリー波素子50の各素子領域全体の平均温度を互いに近づけることができる。
【0066】
セザワ波素子40は、第1実施形態と同様に、圧力等の物理量を検出するための物理量検出用の素子として用いられるものである。レイリー波素子50は、温度変化による位相変化量を補償するための温度補償用の素子として用いられるものである。
【0067】
センサチップ2、すなわち、SAW材料3が物理量によって歪みを受けたとき、セザワ波素子40の櫛歯電極44で励起したSAWの位相に対して、反射器45で反射して櫛歯電極44で受信したSAWの位相が変化する。そこで、この位相の変化量をセンサ出力として検出し、検出した位相の変化量に基づいて、圧力等の物理量を検出する。
【0068】
このとき、上述の通り、セザワ波素子40は、音弾性効果の影響が小さいので、SAW材料3の歪み変化に対するセンサ出力が大きい。一方、レイリー波素子50は、セザワ波素子40と比較して音弾性効果の影響が大きいので、SAW材料3の歪み変化に対するセンサ出力が小さい。すなわち、レイリー波素子50は、セザワ波素子40と比較して、歪み変化に対するセンシング感度が小さい。
【0069】
ところで、上記した反射遅延型のSAW素子における位相の変化は、温度変化によっても生じるものであり、セザワ波素子40とレイリー波素子50では温度変化に対する感度、いわゆる温特(温度特性)が一般に異なる。
【0070】
このため、例えば、第1実施形態と同様に、センサチップ2をダイヤフラム部11に設置して、圧力等の物理量を検出する場合、測定対象の圧力変化と温度変化によって、センサチップ2が受ける歪みとセンサチップ2の温度とが変化する。この場合、センサ出力は、歪み変化によるセンサ出力分と、温度変化によるセンサ出力分との合計となる。
【0071】
そこで、セザワ波素子40のセンサ出力とレイリー波素子50のセンサ出力とを組み合わせることによって、温度補償が可能となる。すなわち、セザワ波素子40とレイリー波素子50のそれぞれの温特を事前に求めておくことで、セザワ波素子40とレイリー波素子50のそれぞれの温特およびセンサ出力から、各々のセンサ出力に関する連立方程式を解くことができ、セザワ波素子40のセンサ出力から温度変化によるセンサ出力分をキャンセルすることが可能となる。
【0072】
以上の説明の通り、本実施形態では、1つのセンサチップ2、すなわち、同じSAW材料3にセザワ波素子40とレイリー波素子50とを形成している。そして、セザワ波素子40を物理量検出用の素子として用い、レイリー波素子50を温度補償用の素子として用いている。
【0073】
ここで、本実施形態と異なり、温度補償用のSAW素子として、物理量検出用のSAW素子と同じモードのSAW素子を用いる場合、温度補償用のSAW素子が物理量によって歪みを受けてしまうと、両方のSAW素子のセンサ出力を組み合わせても、温度変化によるセンサ出力分のみをキャンセルすることができない。このため、温度補償用の素子が歪みを受けず、温度補償用の素子が物理量検出用の素子と同じ温度もしくは近い温度となる場所に、温度補償用の素子を配置する必要がある。
【0074】
しかし、そのような場所を、小さなセンサチップ内に求めることは、一般的に難しいことである。特に、反射遅延型のSAW素子のように素子領域が大きい場合、1つのセンサチップ内に、そのような場所を選定することは困難である。
【0075】
これに対して、セザワ波素子40とレイリー波素子50は、歪み変化に対するセンシング感度が異なり、温度変化に対するセンシング感度の違いは、事前にわかっている。このため、歪みを受ける場所にレイリー波素子50が配置されても、セザワ波素子40とレイリー波素子50では、歪み変化に対するセンサ出力が異なるので、両方のセンサ出力を組み合わせることで、温度補償が可能となる。
【0076】
したがって、本実施形態では、物理量によって歪みを受ける物理量検出用の素子から離れた場所に、温度補償用の素子を配置する必要がない。このため、1つのセンサチップ2内で、物理量検出用の素子40の近くに温度検出用の素子50を配置でき、本実施形態のように、両素子40、50の伝搬路46、56を重複させて、両素子40、50を配置することできる。これにより、温度補償用の素子50を物理量検出用の素子40と同じ温度にすることができる。このように、本実施形態は、音弾性現象とそのモード依存性を巧みに利用した発明である。
【0077】
上記した温度補償について、より具体的に説明する。温度補償用のSAW素子として、物理量検出用のSAW素子と同じモードのSAW素子を用いる場合、同じセンサチップ内において、温度補償用のSAW素子を物理量検出用のSAW素子から離れた場所に設置する。このとき、温度補償は以下の連立方程式(式6、7)を解くことでなされる。
【0078】
s1=αε1+βT1・・・式6
s2=αε2+βT2・・・式7
なお、s1、ε1、T1は、それぞれ、物理量検出用のSAW素子の信号出力、素子設置部の歪み、素子設置部の温度であり、s2、ε2、T2は、それぞれ、温度補償用のSAW素子の信号出力、素子設置部の歪み、素子設置部の温度である。また、α、βは、それぞれ、両素子の歪みに対する出力感度、両素子の温度に対する出力感度であり、予め実験によって求められる。
【0079】
この場合、未知数が4つ(ε1、ε2、T1、T2)あるので、上記連立方程式を解くために、一番望ましいのは、T1=T2、ε2=0となる温度補償用のSAW素子の設置場所を見つけることであるが、ほとんど不可能である。
【0080】
ちなみに、上記連立方程式を解くためには、T1とT2の関係がわかっていること(例えば差が常に一定等)、かつ、ε1とε2の関係がわかっていること(FEMなどで両者の比を求める等)が必要となる。しかし、T1とT2の差は温度が高いほど大きくなるのが普通であり、これが上記連立方程式を解く上で誤差につながってしまう。
【0081】
これに対して、本実施形態における連立方程式は以下の式8、9で示される。
【0082】
s1=α1ε1+β1T1・・・式8
s2=α2ε2+β2T2・・・式9
なお、s1、ε1、T1、s2、ε2、T2は、式6、7と同じである。α1、β1は、それぞれ、物理量検出用のSAW素子の歪みに対する出力感度、温度に対する出力感度であり、予め実験によって求められる。α2、β2は、それぞれ、温度補償用のSAW素子の歪みに対する出力感度、温度に対する出力感度であり、予め実験によって求められる。物理量検出用のSAW素子がセザワ波素子に対応し、温度補償用のSAW素子がレイリー波素子50に対応する。
【0083】
この場合、α1、α2、β1、β2は事前にわかっており、本実施形態のように、両素子40、50の伝搬路46、56を重複させて、両素子40、50を配置することで、かなりの精度でε1=ε2、T1=T2と仮定することができる。よって、本実施形態によれば、精度よく上記連立方程式(式8、9)を解くことができる。
【0084】
なお、本実施形態では、セザワ波用の伝搬路46の一部とレイリー波用の伝搬路56の一部とが重複していたが、重複していなくてもよい。セザワ波素子40とレイリー波素子50は、両素子領域の温度や歪みが近づくように配置されていればよい。
【0085】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0086】
(1)上記した各実施形態では、ScAlN膜8を、サファイア基板7の表面上に直接形成したが、サファイア基板7の表面上にSiO
2膜等を介して形成してもよい。
【0087】
(2)上記した各実施形態では、櫛歯電極4等の電極を、ScAlN膜8の上面8aに形成したが、ScAlN膜8の下面、すなわち、ScAlN膜8とサファイア基板7の間に形成してもよい。
【0088】
(3)上記した各実施形態では、SAW素子の電極構造を、反射遅延型としたが、トランスバーサルフィルタ型や共振型としてもよい。
【0089】
トランスバーサル型の場合、電極として、駆動してSAWを励振する駆動用の櫛歯電極と、SAWを受信する受信用の櫛歯電極とがSAW材料に形成される。この場合、受信用の櫛歯電極が、SAWを励振する櫛歯電極に対応して設けられる対応電極である。
【0090】
共振型の場合、電極として、少なくとも駆動用の櫛歯電極がSAW材料に形成される。この場合、第1実施形態に記載の式1の説明において、sは、共振周波数変化量/荷重であり、s
eは、伝搬路長の伸びによる共振周波数変化量/荷重である。
【0091】
(4)上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。例えば、第5実施形態を第1実施形態だけでなく、第2〜第4実施形態と組み合わせてもよい。
【0092】
(5)また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。