【課題】 ヒータの消耗を抑制することで折損を起こり難くし、ヒータのライフを向上させることが可能なカーボンヒータ、ヒータユニット、焼成炉及び珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 珪素含有物を非酸化性雰囲気下で焼成する際に使用するカーボンヒータであって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8であることを特徴とするカーボンヒータ。
前記カーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状である請求項1〜3に記載のカーボンヒータ。
前記カーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状である請求項11に記載のヒータユニット。
前記カーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状である請求項13に記載の焼成炉。
前記カーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状である請求項15又は16に記載の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された焼成炉内で珪素含有セラミックからなるハニカム成形体を焼成すると、焼成の際に発生したSiOガスによりヒータのカーボンが珪化(SiC化)する。ヒータのカーボンが珪化すると、SiCがヒータ表面から蒸発してしまうため、ヒータが消耗により折損する。
また、折損に至らない場合であっても、ヒータの断面積が減少することにより、焼成炉内の温度を一定に保つことが難しくなるという問題もあった。
【0007】
ヒータの表面が珪化するメカニズムは完全には解明されていないが、ヒータから放出された熱電子(いわゆるエジソン効果)によりSiOガスがイオン化され、ヒータのカーボンと反応することで、ヒータの表面が珪化していると推測される。以下に、その詳細を説明する。
【0008】
まず、SiOガスが熱電子によってイオン化されるメカニズムとしては、以下の二つが推測される。
一つ目のメカニズムでは、SiOガスに熱電子が付着することにより、SiOガスがイオン化される。そして、イオン化されたSiO
−イオンがヒータの電位に引き寄せられ、カーボンと反応することで、ヒータの表面が珪化する。
また、二つ目のメカニズムでは、熱電子が持つエネルギー(E)がSiOガスに付与され、SiOがSi
−とOに分子解離する(下記式(I))。その後、分子解離したSiに熱電子が持つエネルギー(E)が付与されることによりSi
+イオンが発生する(下記式(II))。そして、Si
+イオンがヒータに引き寄せられ、カーボンと反応することで、ヒータの表面が珪化する。
SiO+E→Si
−+O・・・(I)
Si+E→Si
++e
−・・・(II)
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ヒータの消耗を抑制することで折損を起こり難くし、ヒータのライフを向上させることが可能なカーボンヒータ、ヒータユニット、焼成炉及び珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のカーボンヒータは、珪素含有物を非酸化性雰囲気下で焼成する際に使用するカーボンヒータであって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8であることを特徴とする。
【0011】
カーボンヒータの断面形状が略n角形であることによって、断面積を同一とした場合に、縁周部の長さ(カーボンヒータの表面積)が、断面形状が円形の場合よりも増加する。
カーボンヒータの表面積が増加することによって、以下に示す理由から、カーボンヒータからの熱電子の放出を抑制することができる。
【0012】
熱輻射の関係式(下記式(III))に示すように、発生させる熱量Qが一定の場合、カーボンヒータの表面積Sを増加させることで、カーボンヒータ表面の温度Tを低下させることができる。
Q=eσSt(T
4−Ts
4)・・・(III)
[ここで、Qはカーボンヒータが輻射する熱量[J]、eは放射効率で、カーボンの場合約0.9、σはシュテファン・ボルツマン定数[5.67×10
−8W・m
−2・K
−4]、Sはカーボンヒータの表面積[m
2]、tは輻射時間[t]、Tはカーボンヒータ表面の温度[K]、Tsは周囲の温度[K]である]
【0013】
カーボンヒータ表面の温度が低下すると、リチャードソン・ダッシュマンの式(下記式(IV))に示すように、熱電子の放出が抑制される。
I=AT
2exp(−φ/kT)・・・(IV)
[ここで、Iは熱電子の電流密度[A/cm
2]、Tはカーボンヒータ表面の温度[K]、Aは放出定数(リチャードソン定数)、φは仕事関数、kはボルツマン定数[8.62×10
−5eV・K
−1]である。]
上記式(IV)から明らかなように、カーボンヒータの表面積を増加させることで、熱電子の放出が抑制される。その結果、SiOガスがイオン化しにくくなり、カーボンヒータ表面が珪化することを抑制することができる。
【0014】
このように、本発明のカーボンヒータは、熱電子の放出を抑制することができるため、SiOガスによりカーボンヒータ表面が珪化することを抑制することができる。
【0015】
本発明のカーボンヒータは、上記nが3〜8であり、3〜6であることがより望ましく、3又は4であることがさらに望ましい。
上記nが小さくなるほど、カーボンヒータの断面積を一定にした場合の表面積が大きくなる。すなわち、上記nが小さいほど、より熱電子の放出を抑制することができる。
上記nが8を超える場合、カーボンヒータの表面積が小さくなり、熱電子の放出を充分に抑制することができない。
なお、本願明細書において略n角形とは、正n角形及びn角形、並びに、これらの1以上の角部に直線部又は曲線部が形成されるよう面取りを施した形状を含む。
本発明のカーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状であることが好ましい。
また、正n角形及びn角形の角部に対して直線部を形成するよう面取りを施す場合、その直線部の長さは1〜10mmであり、曲線部を形成するよう面取りを施す場合、曲線部の曲率半径は1〜10mmである。面取りを施す際の直線部及び曲線部の長さが上記範囲よりも長い場合、カーボンヒータの表面積が小さくなりすぎてしまう。
なお、曲線部の曲率半径とは、面取りによって形成された曲線部を円に近似した際の近似円の半径である。
【0016】
本発明のカーボンヒータには、面取りが施されていることが望ましい。
カーボンヒータに面取りが施されていることにより、カーボンヒータの機械的強度、加工性を向上させ、さらに面取りによって角部の角度を緩やかにするか又は角部に丸みを帯びさせることによって、電気力線の集中を緩和させてカーボンヒータによる放電を防止させることができる。
なお、本願明細書においては、カーボンヒータの断面形状について、面取りにより発生した面及び曲面を考慮に入れず、面取りがなかったものとして記載する。すなわち、例えば、断面形状が略四角形であるカーボンヒータの4つの角を全て面取りしたものも、略四角形である。
【0017】
本発明のカーボンヒータにおいては、上記面取りは長手方向に垂直な断面形状の角部に曲率半径が1〜10mmの曲線部が形成されるよう、面取りが施されていることが望ましい。
カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部に形成された曲線部の曲率半径が1mm未満であると、機械的強度の向上や加工性の向上が不充分であるとともに、カーボンヒータによる放電を充分に防止することができない。また、カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部に形成された曲線部の曲率半径が10mmを超えると、カーボンヒータの表面積が小さくなり、熱電子の放出を充分に抑制することができない。
【0018】
本発明のカーボンヒータにおいては、上記面取りは長手方向に垂直な断面形状の角部に長さ1〜10mmの直線部が形成されるよう、面取りが施されていることが望ましい。
カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部に形成された直線部の長さが1mm未満であると、機械的強度の向上や加工性の向上が不充分であるとともに、カーボンヒータによる放電を充分に防止することができない。また、カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部に形成された直線部の長さが10mmを超えると、カーボンヒータの表面積が小さくなり、熱電子の放出を充分に抑制することができない。
【0019】
本発明のカーボンヒータにおいて、上記カーボンヒータの電気抵抗値は、0.003〜0.03Ωであることが望ましい。カーボンヒータの電気抵抗値が0.003Ω未満であると、加熱に必要な電力が大きくなりすぎてしまうという問題がある。また、カーボンヒータの電気抵抗値が0.03Ωを超えると、カーボンヒータに電流が充分に流れないため、カーボンヒータを充分に加熱できないという問題がある。
【0020】
本発明のカーボンヒータにおいて、上記カーボンヒータの断面積は、300〜3000mm
2であることが望ましい。
カーボンヒータの断面積が300mm
2未満であると、相対的にカーボンヒータの電気抵抗値が大きくなる。従って、カーボンヒータに電流が充分に流れないため、カーボンヒータを充分に加熱できないという問題がある。また、3000mm
2を超えると、相対的にカーボンヒータの電気抵抗値が低くなる。従って、加熱に必要な電力が大きくなりすぎてしまうという問題がある。
【0021】
本発明のカーボンヒータにおいて、上記カーボンヒータの密度は1.50〜2.00g/cm
3であることが望ましく、1.70〜1.90g/cm
3であることがより望ましく、1.75〜1.88g/cm
3であることがさらに望ましい。
カーボンヒータの密度が1.50g/cm
3未満であると、カーボンヒータの機械的強度が不足することがあり、2.00g/cm
3を超えると、製造コストが増大する。
【0022】
本発明のカーボンヒータにおいて、上記カーボンヒータの気孔率は5〜30%であることが望ましく、5〜25%であることがより望ましく、10〜20%であることがさらに望ましい。
カーボンヒータの気孔率が5%未満であると、その製造方法上の理由から、製品歩留まりの低下を招くおそれがある。また、気孔率が30%を超える場合、高温ガスによる表面侵食が促進され易く、カーボンヒータが短期間で溶損し使用不能となるおそれがある。
【0023】
本発明のヒータユニットは、電源と、上記電源に接続されたカーボンヒータとからなる、珪素含有物を非酸化性雰囲気下で焼成する際に使用するヒータユニットであって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8であることを特徴とする。
断面形状が略n角形であり、nが3〜8であるカーボンヒータを使用することにより、珪素含有化合物を焼成する際に、カーボンヒータの消耗を抑制することができ、カーボンヒータのライフが長い。
本発明のヒータユニットを構成するカーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状であることが好ましい。
【0024】
本発明の焼成炉は、電源と、筐体と、上記筐体内に配置された焼成室と、上記筐体内に配置され、上記電源に接続されたカーボンヒータからなる、珪素含有物を非酸化性雰囲気下で焼成する際に使用する焼成炉であって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8であることを特徴とする。
本発明の焼成炉は、断面形状が略n角形であり、nが3〜8であるカーボンヒータを使用しているため、カーボンヒータの消耗を抑制することができ、カーボンヒータのライフが長い。
本発明の焼成炉を構成するカーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状であることが好ましい。
【0025】
本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法は、珪素含有セラミック粉末を含む組成物から被焼成体を作製する工程と、電源と、筐体と、上記筐体内に配置された焼成室と、上記筐体内に配置され、上記電源に接続されたカーボンヒータとを含む焼成炉であって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8である上記焼成炉を用いて非酸化性雰囲気下で上記被焼成体を焼成する工程とを含むことを特徴とする。
本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体においては、発熱体として用いられるカーボンヒータの断面形状が略n角形となっているため、カーボンヒータの消耗を抑制することができ、カーボンヒータのライフが長い。そのため、カーボンヒータを交換するまでの期間が長くなり、低コストで珪素含有多孔質セラミック焼成体を製造することができる。
本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法に用いるカーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状であることが好ましい。
【0026】
本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法においては、上記焼成炉は、複数の被焼成体を搬送しながら連続的に焼成する連続式焼成炉であることが望ましい。
連続式焼成炉を用いることで、複数の被焼成体を連続的に焼成することができるため、製造効率を向上させやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1(a)は、本発明のカーボンヒータの一例を模式的に示した斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるA−A線断面図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明のカーボンヒータの別の一例を模式的に示した断面図であり、
図2(b)は、本発明のカーボンヒータのさらに別の一例を模式的に示した断面図であり、
図2(c)は、本発明のカーボンヒータのさらに別の一例を模式的に示した断面図である。
【
図3】
図3は、冷間等方圧加圧装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の焼成炉内部を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、連続焼成炉の一例を模式的に示す正面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示した連続焼成炉の高温焼成部HのB−B線断面図である。
【
図7】
図7(a)は、ハニカム焼成体の一例を模式的に示した斜視図であり、
図7(b)は、
図7(a)におけるD−D線断面図である。
【
図8】
図8は、ハニカム構造体の一例を模式的に示した斜視図である。
【0028】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明のカーボンヒータについて具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0029】
本発明のカーボンヒータは、珪素含有物を非酸化性雰囲気下で焼成する際に使用するカーボンヒータであって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8であることを特徴とする。
【0030】
本発明のカーボンヒータは、その断面形状が略n角形であり、nが3〜8であり、3〜6であることが望ましく、3又は4であることがより望ましい。
カーボンヒータの断面形状が略n角形であることによって、ヒータの断面積を同一とした場合に、縁周部の長さ(カーボンヒータの表面積)が、断面形状が円形の場合よりも増加する。カーボンヒータの表面積が増加することによって、カーボンヒータ表面の温度が下がり、熱電子の発生を抑制することができるため、カーボンヒータの表面が珪化することを抑制することができる。
なお、略n角形とは、正n角形及びn角形、並びに、これらの1以上の角部に直線部又は曲線部が形成されるよう面取りを施した形状を含むものである。
本発明のカーボンヒータの断面形状は、正n角形、n角形、又は、これらの1以上の角部に直線部及び/若しくは曲線部が形成されるよう面取りが施された形状であることが好ましい。
【0031】
図1(a)は、本発明のカーボンヒータの一例を模式的に示した斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)におけるA−A線断面図である。
図1(a)に示すカーボンヒータ10は、その断面形状が正方形(略4角形)である。
また、
図1(b)に示すように、カーボンヒータ10はその角部に面取りが施され、直線部11が形成されている。このように断面形状を正方形としたカーボンヒータは、断面積が同一、かつ、断面形状が円形であるカーボンヒータと比較して、表面積が大きい。そのため、焼成炉内の温度を低下させることなく、カーボンヒータ表面の温度を低下させることができる。カーボンヒータ表面の温度が低下することにより、熱電子の放出を抑制することができるため、SiOガスによりカーボンヒータ表面が珪化することを抑制することができる。
【0032】
図2(a)は、本発明のカーボンヒータの別の一例を模式的に示した断面図であり、
図2(b)は、本発明のカーボンヒータのさらに別の一例を模式的に示した断面図であり、
図2(c)は、本発明のカーボンヒータのさらに別の一例を模式的に示した断面図である。
図2(a)に示すカーボンヒータ15は、断面形状が略4角形で、角部に面取りが施され、曲線部12が形成されている。
図2(b)に示すカーボンヒータ16は、断面形状が略3角形で、角部に面取りが施され、曲線部13が形成されている。
図2(c)に示すカーボンヒータ17は、断面形状が略5角形で、角部に面取りが施され、曲線部14が形成されている。
図2(a)〜
図2(c)に示すように、本発明のカーボンヒータには、面取りが施されていることが望ましい。
カーボンヒータに面取りが施されていると、カーボンヒータの機械的強度及び加工性を向上させることができる。
【0033】
上記面取りは、カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部に曲線部が形成された面取りであってもよく、上記角部に直線部が形成された面取りであってもよい。
【0034】
上記角部に曲線部が形成される場合、その曲線部の曲率半径は、1〜10mmであって、1〜5mmであることが望ましい。カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部の曲線部の曲率半径が1mm未満であると、機械的強度の向上が不充分であるとともに、カーボンヒータによる放電を充分に防止することができない。また、カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部の曲線部の曲率半径が10mmを超えると、断面形状が円形に近づいて縁周部が短くなるため、ヒータの消耗を制御してライフを向上させる効果が小さくなる。
【0035】
上記角部に直線部が形成される場合、その直線部の長さは、1〜10mmであって、1〜5mmであることが望ましい。
カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部の直線部の長さが1mm未満であると、機械的強度の向上や加工性の向上が不充分であるとともに、カーボンヒータによる放電を充分に防止することができない。また、カーボンヒータの長手方向に垂直な断面形状の角部の直線部の長さが10mmを超えると、断面形状が円形に近づいて縁周部が短くなるため、ヒータの消耗を抑制してライフを向上させる効果が小さくなる。
【0036】
カーボンヒータの断面積は、300〜3000mm
2であることが望ましく、400〜2750mm
2であることがより望ましく、500〜2500mm
2あることがさらに望ましい。
カーボンヒータの断面積が300mm
2未満であると、機械的強度が不充分である。また、3000mm
2を超えると、寸法が大きくなり、製造コストの増大になるとともに、カーボンヒータの電気抵抗値が低くなって電流が多く流れるので、電力損失も大きくなるという問題がある。
【0037】
本発明のカーボンヒータにおいて、上記カーボンヒータの密度は1.50〜2.00g/cm
3であることが望ましく、1.70〜1.90g/cm
3であることがより望ましく、1.75〜1.88g/cm
3であることがさらに望ましい。
カーボンヒータの密度が1.50g/cm
3未満であると、カーボンヒータの機械的強度が不足することがあり、2.00g/cm
3を超えると、製造コストが増大する。
【0038】
本発明のカーボンヒータを構成する炭素は、無定形炭素、ガラス状炭素、黒鉛等が挙げられ、電気的特性の観点から異方性黒鉛、等方性黒鉛等の黒鉛が好ましく、等方性黒鉛が特に好ましい。
【0039】
カーボンヒータの気孔率は5〜30%であることが望ましい。
カーボンヒータの気孔率が5%未満であると、その製造方法上の理由から、製品歩留まりの低下を招くおそれがある。また、気孔率が30%を超える場合、高温ガスによる表面侵食が促進され易く、カーボンヒータが短期間で溶損し使用不能となるおそれがある。
なお、カーボンヒータの気孔率は、アルキメデス法を用いて測定することができる。
【0040】
次に、カーボンヒータの製造方法について説明する。
まず、原料となるコークスを粉砕し、所定値に調整された粒度を有するコークス粉体を形成する。コークス粉体の好ましい最大粒子径は、0.02〜0.05mmである。続いて、コークス粉体にバインダとしてのピッチを添加し混練して、粉体組成物を調製し、粉体組成物から成形体(被焼成体)を製造する。上記成形体は、例えば、押出成形や加圧成形により製造することができるが、複数のカーボンヒータ間での電気抵抗値等の電気的特性のばらつきを抑止するためには、冷間等方圧加圧法(CIP法)により成形することが望ましい。
【0041】
続いて、冷間等方圧加圧装置(CIP装置)について説明する。
図3は、冷間等方圧加圧装置の一例を模式的に示す断面図である。
冷間等方圧加圧装置20は、粉体組成物23の封入されたゴム型24と、水等の加圧媒体(流体)21とゴム型24とを収容する圧力容器22と、加圧媒体21を介してゴム型24(及び粉体組成物23)を加圧するためのポンプ25とを備える。ポンプ25によって加圧された加圧媒体21はゴム型24の全表面を均一な圧力で加圧する。これにより、ゴム型24に封入された粉体組成物23が均一な圧力で圧縮されて、ゴム型24によって規定される形状を有する成形体が成形される。加圧の圧力を調節することによって、粉体組成物23の成形体の気孔率を調節することができる。この成形体を焼成することにより製造されたカーボン焼結体においては、カーボン焼結体の結晶粒子を不規則に配向することが容易であり、複数のカーボンヒータ間での電気抵抗値等の電気的特性のばらつきを抑制することができる。また、カーボン焼結体の気孔率を上記の好ましい範囲に収めることが容易である。このような、カーボン焼結体の結晶粒子が不規則に配向したものが、等方性黒鉛である。
【0042】
CIP装置による加圧圧力は約1000kgf/cm
2である。成形体の形状は特に限定されず、例えば、カーボンヒータ形状に成形してもよいし、ブロック状に成形した後や、後述する焼成後に切削加工を施して、カーボンヒータ形状としてもよい。
上記圧力により粉末組成物が成形されて、成形体(被焼成体)となる。
続いて、この成形体を不活性雰囲気にて比較的高温(第1の温度)で焼成することで、カーボン素材からなる焼結体(カーボン焼結体)が生成される。さらに、このカーボン焼結体を、不活性雰囲気にて上記第1の温度よりも高い温度(第2の温度)で焼成する。これにより、焼結体のカーボンが黒鉛化されて、グラファイトからなる粗グラファイト体が生成される。粗グラファイト体の形状を整えて、本発明のカーボンヒータとなる。
第1の温度及び第2の温度は、例えば、それぞれ約1000℃、約3000℃である。
【0043】
以下、本発明の焼成炉について説明する。
本発明の焼成炉は、電源と、筐体と、上記筐体内に配置された焼成室と、上記筐体内に配置され、上記電源に接続されたカーボンヒータとを含む焼成炉であって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8であることを特徴とする。
【0044】
図4は、本発明の焼成炉内部を模式的に示す断面図である。
図4に示す焼成炉30では、筐体31と、筐体31内に配置された焼成室32と、筐体31内に配置された複数のカーボンヒータ18とを有する。
ここで、カーボンヒータ18は、既に説明した本発明のカーボンヒータである。
【0045】
さらに、焼成炉30では、カーボンヒータ18に給電するための電源を有する(図示しない)。筐体31に対する電源の配置は特に限定されないが、筐体31の外に配置されていることが好ましい。
【0046】
焼成室32は、炉壁34によって区画されており、炉壁34は、カーボン等の高耐熱性材料から形成されることが好ましい。
焼成室32内の底部には被焼成体を置く支持台36が載置されている。
筐体31と炉壁34との間には、カーボンファイバ等からなる断熱層35が設けられていることが好ましい。焼成室32の熱によって、筐体31の金属製部品が劣化し、損傷するのを防ぐためである。
【0047】
複数のカーボンヒータ18は、焼成室32の上方及び下方に、すなわち、焼成室32内の被焼成体を挟むように配置されていることが好ましい。
焼成室32の上方及び下方に配置されるカーボンヒータ18の数は、特に限定されない。
【0048】
また、焼成炉内におけるカーボンヒータ18の位置は、特に限定されないが、炉壁34の外側に配置されていることが好ましい。複数のカーボンヒータ18が炉壁34の外側に配置されていると、まず炉壁34全体が加熱されるため、焼成室32内の温度を均一に上げることができる。
以上説明したように、本発明の焼成炉は、本発明のカーボンヒータを用いているため、焼成温度が安定し、かつカーボンヒータのライフが長いため、製造コスト、運転コストを削減することができる。
【0049】
また、本発明の焼成炉は、複数の被焼成体を搬送しながら連続的に焼成する連続焼成炉であってもよい。
連続式焼成炉を採用することによって、珪素含有多孔質セラミック焼成体の大量生産を行う上で、バッチ式焼成炉と比較した場合に、その生産性を大幅に向上させることができる。
以下、連続焼成炉について説明する。
【0050】
図5は、連続焼成炉の一例を模式的に示す正面図である。
図5に示す連続焼成炉40を構成する横長の本体フレーム42には、その搬入部45及び搬出部47を除く大部分に、管状であって耐熱材料からなる焼成室43が横向きに支持されており、焼成室43の入口部43a付近には入口パージ室44が設けられている。そして、搬入部45は、入口パージ室44よりも前段側、即ち
図5における左側に設けられている。焼成室43の後端部43cには、冷却手段である冷却ジャケット49が設けられている。焼成室43の出口部43b付近には出口パージ室46が設けられている。そして、搬出部47は、出口パージ室46よりも後段側、即ち
図5における右側に設けられている。
【0051】
また、焼成室43の内部には、焼成対象物を搬送する搬送機構が敷設されており、搬送機構を駆動させることによって焼成対象物を入口部43aから出口部43bに向かって、即ち
図5の左側から右側に向かって移動させることができるようになっている。
【0052】
連続焼成炉40の、焼成室43が敷設されている領域は、
図5の左から順に予備加熱部P、高温焼成部H、冷却部Cに区画されている。
予備加熱部Pは、被焼成体を室温から1500〜2000℃の予備加熱温度まで昇温させる予備加熱工程を行う部位である。
高温焼成部Hは、被焼成体を予備加熱温度から2000〜2300℃の焼成温度まで昇温させ、さらに、被焼成体の温度を焼成温度で維持する高温焼成工程を行う部位である。
冷却部Cは、高温焼成工程を経た被焼成体を室温まで冷却させる冷却工程を行う部位である。
【0053】
図6は、
図5に示した連続焼成炉の高温焼成部HのB−B線断面図である。
図6に示す高温焼成部Hでは、断熱層55の中央に焼成室53が設けられ、焼成室53内の底部には搬送機構であるローラ58が2列設けられている。
ローラ58の上には、被焼成体を置く支持台56が載置されている。
ローラ58は連続焼成炉の長手方向(
図5に示す横方向)に多数設けられており、ローラ58を駆動させることによって被焼成体と支持台56とを焼成室53内でまとめて搬送できるようになっている。
【0054】
図6に示す複数のカーボンヒータ19は、本発明のカーボンヒータに相当する。
複数のカーボンヒータ19は、焼成室53の上方及び下方に、すなわち、焼成室53内の被焼成体を挟むように配置されていることが好ましい。
焼成室53の上方及び下方に配置されるカーボンヒータ19の数は、特に限定されない。
【0055】
以下、本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法について説明する。
本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法は、
珪素含有セラミック粉末を含む組成物から被焼成体を作製する工程と、
電源と、筐体と、上記筐体内に配置された焼成室と、上記筐体内に配置され、上記電源に接続されたカーボンヒータとを含む焼成炉であって、上記カーボンヒータの断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8である上記焼成炉を用いて非酸化性雰囲気下で上記被焼成体を焼成する工程とを含むことを特徴とする。
本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法では、電源と、筐体と、上記筐体内に配置された焼成室と、上記筐体内に配置され、上記電源に接続されたカーボンヒータとを含む焼成炉であって、上記カーボンヒータの断面形状が略n角形であり、上記nは3〜8である上記焼成炉を用いる。上記カーボンヒータの断面形状が略n角形であるため、カーボンヒータからの熱電子の放出が抑制され、カーボンヒータ表面が珪化することを抑制することができる。そのため、カーボンヒータのライフサイクルが長く、また、カーボンヒータの断面積が変化しにくいため、焼成炉内の温度を一定に保ちやすくなる。
従って、珪素含有多孔質セラミック焼成体の品質が変動しづらく、製造コストを抑えることができる。
【0056】
以下、本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法を構成する各工程について説明する。
【0057】
まず、珪素含有セラミック粉末を含む組成物から被焼成体を作製する工程について説明する。
上記工程では、平均粒子径の異なる2種以上の珪素含有セラミック粉末、有機バインダ、液状の可塑剤、潤滑剤、水等を混合することにより湿潤混合物を調製する。
続いて、上記湿潤混合物を成型することによって、セラミック成形体を作製する。さらに、セラミック成形体を乾燥させた後に所定の温度で脱脂して成形体中の有機物を加熱除去することによって、被焼成体を作製する。
【0058】
珪素含有セラミック粉末としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素及び窒化チタン等の窒化物セラミックや、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル及び炭化タングステン等の炭化物セラミックや、アルミナ、ジルコニア、コージェライト、ムライト及びシリカ等の酸化物セラミックや、シリコンと炭化ケイ素との複合体のような複数の焼成材料の混合物や、チタン酸アルミニウムのような複数種類の金属元素を含む酸化物セラミック及び非酸化物セラミックがあげられる。
これらの珪素含有セラミック粉末からなる焼成体を焼成すると、SiOガスが発生する。
【0059】
次に、被焼成体を焼成する工程について説明する。
被焼成体は、既に説明した焼成炉を用いて焼成される。焼成の条件としては、従来からセラミック焼成体を作製する際に用いられている条件を適用することができる。
ここで、珪素含有多孔質セラミックからなる被焼成体を焼成する際、例えば、アルゴン雰囲気下、2190〜2210℃で0.1〜5時間焼成した場合にSiOガスが発生する。
【0060】
本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法では、得られるセラミック焼成体の種類は特に限定されないが、例えば
図7に示すようなハニカム焼成体であっても良い。
ハニカム焼成体を製造する場合には被焼成体であるハニカム成形体を作製し、そのハニカム成形体を脱脂、焼成することによりハニカム焼成体を作製する。
製造されたハニカム焼成体は、単独でも使用することができるが、接着剤を介して複数個組み合わせ、所定の形状となるように加工することにより、
図8に示すフィルタとして機能するハニカム構造体を製造することができる。
ハニカム焼成体及びハニカム構造体について以下に説明する。
【0061】
図7(a)は、ハニカム焼成体の一例を模式的に示した斜視図であり、
図7(b)は、
図7(a)におけるD−D線断面図である。また、
図8は、ハニカム構造体の一例を模式的に示した斜視図である。
【0062】
図7(a)及び
図7(b)に示すハニカム焼成体610には、多数のセル611がセル壁613を隔てて長手方向(
図7(a)中、aの方向)に並設されており、セル611のいずれかの端部が封止材612で封止されている。従って、一方の端面が開口したセル611に流入した排ガスGは、必ずセル611を隔てるセル壁613を通過した後、他方の端面が開口した他のセル611から流出するようになっている。
従って、セル壁613がPM等を捕集するためのフィルタとして機能する。
【0063】
ハニカム焼成体には、排ガスを浄化するための触媒を担持させてもよく、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が望ましく、この中では、白金がより望ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いる事もできる。これらの触媒は、単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0064】
セル611のいずれかの端部が封止されている場合、ハニカム焼成体610の一方の端部からみたときに、端部が封止されたセルと封止されていないセルとが交互に配置されていることが望ましい。
【0065】
排ガス処理体は、セルに封止材が設けられずに、セルの端部が封止されていなくてもよい。この場合、排ガス処理体は、白金等の触媒を担持させることによって、排ガス中に含まれるCO、HC又はNOx等の有害なガス成分を浄化する触媒担体として機能する。
【0066】
ハニカム焼成体を長手方向に垂直な方向に切断した断面形状は、特に限定されず、略円形、略楕円形でもよく、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形等の略多角形であってもよい。
【0067】
ハニカム焼成体を構成するセル611の断面形状は、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形等の略多角形でもよく、また、略円形、略楕円形であってもよい。また、ハニカム焼成体610は、複数の断面形状のセルが組み合わされたものであってもよい。
【0068】
図8に示すハニカム構造体700では、多孔質炭化珪素からなる、
図7(a)及び
図7(b)に示すような形状のハニカム焼成体610がシール材層(接着剤層)701を介して複数個結束されてセラミックブロック703を構成し、さらに、このセラミックブロック703の外周にシール材層(外周コート層)702が形成されている。
【0069】
以下に、本発明のカーボンヒータ、ヒータユニット、焼成炉及び珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法の作用効果について説明する。
【0070】
(1)本発明のカーボンヒータは、その断面形状が、略n角形であり、上記nは3〜8である。そのため、断面形状が円形の場合と比較して、カーボンヒータの表面積が大きい。そのため、焼成炉内の温度を下げることなくカーボンヒータ表面の温度を低下させることができ、カーボンヒータの損耗を抑制することができる。
(2)本発明のカーボンヒータは、損耗が少ないため、断面積の変化が小さい。そのため、焼成炉内の温度を安定的に保持することができ、被焼成体の品質のばらつきを抑制することができる。
(3)本発明のヒータユニットは、カーボンヒータの損耗を抑制することができるため、ヒータのライフサイクルが長いヒータユニットを提供することができる。
(4)本発明の焼成炉は、珪素含有化合物存在時の高温環境下であっても、カーボンヒータの損耗を抑制することができる。そのため、珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造に適している。
(5)本発明の珪素含有多孔質セラミック焼成体の製造方法は、カーボンヒータの損耗を抑制することができるため、ヒータのライフサイクルが長く、炉内温度の変動が起こりにくい。そのため、製造コストを低下させ、かつ、セラミック焼成体の品質のばらつきを抑制することができる。