【解決手段】 束電線1の製造方法は、複数の撚線30をそれぞれ少なくとも備えた複数の絶縁電線10から構成される束電線1の製造方法であって、絶縁電線10を形成する第1の工程(S10)と、複数の絶縁電線10を束ねて圧縮し、絶縁電線10の断面を略扇形状に形成することで、束電線1の断面を略円形状に形成する第2の工程(S20〜S40)と、を含んでおり、第1の工程(S10)は、素線21を右向きの方向に撚り合わせることで子撚線20を形成する工程(S11)と、子撚線20を左向きの方向に撚り合わせることで撚線30を形成する工程(S12)と、を含んでいる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
本実施形態における束電線は、電気自動車におけるパワーケーブル等に用いられる。
【0013】
図1は、本発明における束電線の構成を示す斜視図であり、
図2は、本発明における束電線の構成を示す概略図であり、
図1のII-II線に沿った断面図である。
【0014】
束電線1は、
図1及び
図2に示すように、複数の絶縁電線10(本実施形態では、3本)を束ねて相互に並列に配列することで形成されている。3本の絶縁電線10A〜10Cは、撚線30A〜30Cと、絶縁層40A〜40Cと、からそれぞれ構成されている。
【0015】
また、これらの絶縁電線10A〜10Cは、束電線1が外部から均等に圧縮されることで、束電線1の中心から放射状に均等に3分割された略扇形状の断面を有しており、これらの断面が相互に補完し合って束電線1の断面が略円形状となるように形成されている。このように、絶縁電線10の断面を扇形状とすることで、全体として束電線1の線径の小径化を図ることができる。
【0016】
なお、本実施形態における「束電線1」が本発明の「束電線」の一例に相当し、本実施形態における「絶縁電線10」が本発明の「電線」の一例に相当する。また、絶縁電線10は、絶縁電線10A〜10Cの総称である。
【0017】
なお、本実施形態では、束電線1が3本の絶縁電線10A〜10Cにより構成されているが、絶縁電線10の断面が相互に補完し合って束電線1の断面が略円形状に形成されていれば、束電線1の中心から放射状に何分割されていてもよく、束電線1を構成する絶縁電線10の本数は特に限定されない。
【0018】
また、本実施形態では、複数の絶縁電線10A〜10Cは、相互に並列に配列されているが、特にこれに限定されない。特に図示しないが、複数の絶縁電線10A〜10Cは、相互に撚り合わされていてもよいし、編込まれていてもよい。従って、本発明における「複数の電線を束ねる」ことには、複数の電線を並列に配列することの他に、複数の電線を撚り合わせることや複数の電線を編込むことも含む。
【0019】
なお、3本の絶縁電線10A〜10Cのうち、一つの絶縁電線10Aの断面のみを詳細に図示しており、それ以外の絶縁電線10B、10Cの断面は概略のみ図示している。
【0020】
図3は、本発明における電線の圧縮成形前の構成を示す断面図であり、
図4は、本発明における子撚線の構成を示す断面図であり、
図3のIV部の拡大図である。
【0021】
絶縁電線10は、
図3に示すように、圧縮成形する前においては略円形状の断面を有しており、複数の子撚線20(本実施形態では、19本)を撚り合わせることで構成された撚線30と、絶縁層40と、から構成されている。なお、撚線30は、上述した撚線30A〜30Cの総称であり、絶縁層40は、上述した絶縁層40A〜40Cの総称である。
【0022】
さらに、子撚線20は、
図4に示すように、複数本の素線21(本実施形態では、37本)を右向きの方向(図中黒塗りの矢印)に撚り合わせた撚線である。このように撚線構造を有することで、折り曲げや断線に強い構造を得ることができる。
【0023】
素線21は、略円形状の断面を有する丸型素線であり、高い導電性を有するものから構成されている。このような素線21を構成する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、又は、それらの合金及び複合材等を例示することができる。なお、素線21は、軽量化の観点からアルミニウムで構成されていることが好ましい。また、この素線21の表面には、例えば、錫、ニッケル等によりめっき処理が施されていてもよく、これにより、素線21の腐食を抑制することができる。
【0024】
このような素線21は、外径0.1[mm]〜1.0[mm]で構成されていることが好ましく、子撚線20は、撚りピッチ(P)と外径(D)との比の値(P/D)が13〜120で構成されていることが好ましい。
【0025】
図3に戻り、撚線30は、当該撚線30の中心に配置された子撚線20Aと、第1及び第2の層31、32と、から構成されている。第1の層31は、6本の子撚線20Bにより構成されており、これらが子撚線20Aの周囲を取り囲むように配置されている。この第1の層31では、6本の子撚線20Bが左向きの方向(図中白抜きの矢印)で撚り合わされている。第2の層32は、12本の子撚線20Cにより構成されており、これらが第1の層31を取り囲むように配置されている。この第2の層32では、12本の子撚線20Cが、第1の層31と同様、左向きの方向で撚り合わされている。なお、子撚線20は、子撚線20A〜20Cの総称である。
【0026】
このような撚線30は、撚りピッチ(P)と内包円33(後述)の円径(D’)との比の値(P/D’)が13〜120で構成されていることが好ましい。
【0027】
このように、本実施形態では、子撚線20と、撚線30と、は相互に反対の撚り方向で撚り合わされている。これにより、印加される外力によって撚線30の撚回が崩れることに伴い、子撚線20の撚回が緩む。この結果、子撚線20を構成する素線に印加されるねじり応力が低減されるので、素線21の変形が抑制され、束電線1の可撓性が低下するのを抑制することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、撚線30は左向きの方向で撚り合わされており、子撚線20は右向きに撚り合わされているが、撚線30と、子撚線20と、が相互に反対の方向で撚り合わされていれば、撚線30と、子撚線20との撚り方向は特に限定されない。
【0029】
絶縁層40は、
図3に示すように、押出被覆することで形成されており、略均一な膜厚で撚線30の外周の全体を包囲している。このような絶縁層40の材料としては、電気絶縁性を有するものであればよく、特に限定しないが、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、EPゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム等などのゴム絶縁体を例示することができる。また、この絶縁層40には、一般的に架橋剤が含まれており、架橋反応が進行することで絶縁層40が形成されている。
【0030】
また、絶縁電線10は、
図3に示すように、断面視において撚線30と絶縁層40との間に介在する空間50を有している。このように、絶縁電線10が空間50を有していることで、断面視において撚線30を包含する内包円33の周長に対して、絶縁層40の内周面41の周長が長くなるようになっている。
【0031】
従来では、絶縁電線の撚線導体と、当該撚線導体を包囲する絶縁層と、が直接的に接触しているため、撚線導体の内包円の周長と、絶縁層の内周面の周長と、が同一の長さを有していた。このため、絶縁電線の断面を略円形状から略扇形状に圧縮成形する際に、当該略扇形状の頂点の角度の大きさに応じて、略円形状の周長に対して略扇形状の周長が長くなるため、絶縁層40が伸長し破損するおそれがある、という問題があった。
【0032】
これに対し、本実施形態では、断面視において撚線30を包含する内包円33の周長に対して、絶縁層40の内周面41の周長が長くなるように形成されている。これにより、絶縁電線10の断面形状の変化に伴う絶縁層40の伸長が抑制され、当該絶縁層40が破損するのを抑制することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、空間50が撚線30と絶縁層40との間の全周に亘り介在しているが、特にこれに限定されない。例えば、特に図示しないが、撚線30の中心と絶縁層40の中心が偏心していることで撚線30と絶縁層40が一部で相互に接触していてもよい。この場合、撚線30と絶縁層40との接触部分していないところで、空間50が形成される。
【0034】
なお、本実施形態における「子撚線20」が本発明の「子撚線」の一例に相当し、本実施形態における「撚線30」が本発明の「撚線」の一例に相当し、本実施形態における「絶縁層40」が本発明の「絶縁層」の一例に相当し、本実施形態における「右向きの方向」が本発明の「第1の方向」の一例に相当し、本実施形態における「左向きの方向」が本発明の「第2の方向」の一例に相当する。
【0035】
また、本実施形態において、子撚線20の「外径」とは、当該子撚線20を構成する全ての素線21の断面を包含する最小の径を有する真円の直径を意味し、「内包円」とは、圧縮成形前の撚線30を構成する全ての子撚線20の断面を包含する最小の径を有する真円を意味し、「撚りピッチ」とは、撚り対象となる導体が撚線の周方向に沿って360°回転するのに要する撚線の延在方向に沿った長さを意味する。
【0036】
また、本実施形態において、「中心」とは、平面視における重心の位置を意味し、「重心」とは、平面視における輪郭の内部を一様の質量にて分布させたときの質量中心を意味する。
【0037】
次に、本実施形態における束電線1の製造方法について
図5を参照しながら説明する。
【0038】
図5は、本発明における束電線の製造方法を示す工程図である。
【0039】
本実施形態における束電線1の製造方法は、
図5に示すように、絶縁電線形成工程(ステップS10)と、絶縁電線集合工程(ステップS20)と、予熱工程(ステップS30)と、圧縮工程(ステップS40)と、を備えている。また、絶縁電線形成工程(ステップS10)は、子撚線形成工程(ステップS11)と、撚線形成工程(ステップS12)と、絶縁層形成工程(ステップS13)と、を備えている。
【0040】
なお、本実施形態における「絶縁電線形成工程」が本発明の「第1の工程」の一例に相当し、本実施形態における「絶縁電線集合工程」と、「圧縮工程」と、が本発明の「第2の工程」の一例に相当する。
【0041】
まず、
図5のステップS10において、絶縁電線10を形成する。
【0042】
このステップS10では、まず
図5のステップS11において、子撚線20を形成する。
【0043】
本実施形態では、このステップS11において、複数の素線21を右向きに撚り合わせることで子撚線20を形成する。なお、素線21の数量や寸法等は、形成する子撚線20の構成や寸法等に応じて選択する。
【0044】
次に、
図5のステップS12において、撚線30を形成する。
【0045】
本実施形態では、このステップS12において、ステップS11において形成した複数の子撚線20を撚線機(不図示)により左向きに撚り合わせることで撚線30を形成する。具体的には、撚線機の回転軸上に1本の子撚線20Aを一定の送り速度で送出する。そして、撚線機の回転軸を中心にして回転するフライヤに支持されたサプライボビンから送出される6本の子撚線20Bを子撚線20Aの周囲に左向きの方向で撚り合わせることで、第1の層31を形成する。
【0046】
そして、第1の層31を形成する方法と同様の方法で、第1の層31の周囲に12本の子撚線20Cを左向きの方向で撚り合わせることで、第2の層32を形成する。なお、このステップS12においても、ステップS11と同様に、子撚線20の数量、寸法、及び、撚り構造は、形成する撚線30の構成や寸法等に応じて選択する。
【0047】
次に、
図5のステップS13において、絶縁層40を形成する。
【0048】
本実施形態では、このステップS13において、撚線30の外周の全体を包囲するように絶縁層40を形成する。具体的には、
図6に示すように、ダイス110とニップル120を有する押出機100のダイスの先端部111とニップルの先端部121が面揃えとなるように配置し、絶縁層用材料を、190℃に加熱されたダイスの先端部111からパイプ状に押出す。そして、当該パイプ状の押出物(架橋された絶縁層用材料)によって、一定の送り速度で送出される撚線30の外周を被覆する(図中矢印の方向)。
【0049】
そして、冷却槽や冷却ブロワーなどの冷却手段により絶縁層用材料を凝固する。以上により、絶縁電線10が完成する。
【0050】
次に、
図5のステップS20において、複数の絶縁電線10A〜10Cを集合する。
【0051】
本実施形態では、このステップS20において、上述のように形成した絶縁電線10を3本束ねて集合する。この際に、1つの絶縁電線10が、隣接する他の2つの絶縁電線10と相互に接するように並列に配列する。
【0052】
次に、
図5のステップS30において、集合した複数の絶縁電線10A〜10Cを予熱する。
【0053】
具体的には、このステップS30において、80[℃]、5分間の条件で予熱炉(不図示)内を通過させることで、複数の絶縁電線10A〜10Cのそれぞれの絶縁層40A〜40Cが軟化する。
【0054】
次に、
図5のステップS40において、集合した複数の絶縁電線10A〜10Cを圧縮形成する。
【0055】
本実施形態では、このステップS40において、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、集合した複数の絶縁電線10A〜10Cを圧縮することで、略円形状の断面を有するように束電線1を形成する。具体的には、ステップS30において絶縁層40が軟化した後、直ちに成形装置(不図示)内を通過させることで、複数の絶縁電線10A〜10Cを圧縮し束電線1を形成する。この成形装置は、例えば、複数の絶縁電線10A〜10Cを取り囲むように配置された複数の加圧ローラを有しており、当該複数の絶縁電線10A〜10Cに対して均一に圧力を印加することができるようになっている。これにより、個々の絶縁電線10の断面を束電線1の中心から放射状に均等分割されるように成形する。この結果、全体として束電線1の線径の小径化を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態では、子撚線20と、撚線30と、は相互に反対の撚り方向で撚合わされており、印加される外力によって撚線30の撚回が崩れることに伴い、子撚線20の撚回が緩む。
【0057】
このように、子撚線20の撚回が緩むことで、当該子撚線20を構成する素線21に印加されるねじり応力が低減されるので、束電線1の圧縮成形後においても素線21の断面を略円形状に維持することができる。これにより、素線21間の隙間が維持されるので、子撚線20の可撓性の低下が抑制され、延いては、束電線1の可撓性が低下するのを抑制することができる。
【0058】
そして、複数の絶縁電線10A〜10Cを構成するそれぞれの絶縁層40A〜40Cが軟化した後に圧縮されることで、絶縁層40A〜40Cが相互に融着し一体となる。そして、冷却槽や冷却ブロワーなどの冷却手段により絶縁層40を凝固する。以上により、束電線1が完成する。
【0059】
なお、束電線1を加圧する手段としては、特に上述に限定されず、例えば、加圧用ダイスを用いて束電線1を加圧してもよい。
【0060】
次に、本実施形態における束電線の製造方法及び束電線の作用について説明する。
【0061】
本実施形態では、子撚線20と、撚線30と、は相互に反対の撚り方向で撚り合わされている。これにより、印加される外力によって撚線30の撚回が崩れることに伴い、子撚線20の撚回が緩む。この結果、子撚線20を構成する素線21に印加されるねじり応力が低減されるので、素線21の変形が抑制され、束電線1の可撓性が低下するのを抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態では、本実施形態では、絶縁電線10は、撚線30と絶縁層40との間に介在する空間50を有している。このように、断面視において撚線30を包含する内包円33の周長に対して、絶縁層40の内周面41の周長が長くなるように絶縁電線10が形成されている。これにより、絶縁電線10の断面の変化に伴う絶縁層40の伸長が抑制され、当該絶縁層40が破損するのを抑制することができる。
【0063】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0064】
例えば、本実施形態では、撚線30は、第1及び第2の層31,32を有しているが、少なくとも1つの層を有していればよく、撚線30の層の数は特に限定されない。
【0065】
また、例えば、束電線1は、最外層にシースを設けていてもよい。この場合、絶縁層40を物理的又は化学的な損傷から保護することができる。