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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-230844(P2015-230844A)
(43)【公開日】2015年12月21日
(54)【発明の名称】回転陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/10 20060101AFI20151124BHJP
【FI】
   H01J35/10 H
   H01J35/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-116872(P2014-116872)
(22)【出願日】2014年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 春信
(72)【発明者】
【氏名】米澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】服部 仁志
(57)【要約】
【課題】熱応力が低減され、所定の寿命を確保できる回転陽極型X線管を実現する。
【解決手段】回転陽極型X線管においては、回転陽極を備え、この回転陽極には、電子ビームの照射でX線を発生する陽極ターゲットが円周に沿って第1の面に形成されている。この回転陽極には、複数のスリットが回転中心軸の周りに配置されるように切り込まれ、リング状の溝が回転中心軸の周りであって、陽極ターゲットの内周側の第1の面に設けられ、開口穴が夫々スリットに連通され、リング状の溝内に開口するように配置され、リング状の溝内から前記回転陽極の第2の面に向けて延出されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを照射する電子銃と、
回転中心軸を有し、前記電子銃に対向する第1の面及びこの第1の面に関して前記電子銃とは反対側に位置する第2の面を有し、前記電子ビームの照射でX線を発生する陽極ターゲットが円周に沿って第1の面に形成されている回転陽極であって、
リング状の溝が前記回転中心軸の周りであって、前記回転中心軸に関して回転対称に形成され、前記陽極ターゲットの内周側の前記第1の面に設けられ、
複数のスリットが前記回転中心軸の周りに配置されるように前記第1の面から前記第2の面に達するように切り込まれ、前記リング状の溝内にまで延出され、
開口穴が夫々前記複数のスリットに連通され、前記リング状の溝内に開口するように配置され、前記リング状の溝内から前記第2の面に達するように延出されている
回転陽極と、
前記回転陽極が回転可能に装着される支持部と、
前記回転陽極を前記支持部に回転可能に軸支する軸受と、
を備える回転陽極型X線管。
【請求項2】
電子ビームを照射する電子銃と、
回転中心軸を有し、前記電子銃に対向する第1の面及びこの第1の面に関して前記電子銃とは反対側に位置する第2の面を有し、前記電子ビームの照射でX線を発生する陽極ターゲットが円周に沿って第1の面に形成されている回転陽極であって、
複数の円弧状の溝が前記回転中心軸の周りの円周上であって、前記陽極ターゲットの内周側の前記第1の面の領域に設けられ、
複数のスリットが前記回転中心軸に関して回転対称に配置されるように前記第1の面から前記第2の面に達するように切り込まれ、夫々前記複数の円弧状の溝に対応して前記円弧状の溝内にまで延出され、
開口穴が夫々前記複数のスリットに連通され、前記円弧状の溝内に夫々開口するように配置され、前記円弧状の溝内から前記第2の面に達するように延出されている
回転陽極と、
前記回転陽極が回転可能に装着される支持部と、
前記回転陽極を前記支持部に回転可能に軸支する軸受と、
を備える回転陽極型X線管。
【請求項3】
前記スリットは、前記回転中心軸を含み、前記スリットが占める前記回転中心軸回りの円周角範囲の中央を通るスリット基準面に対して斜めに形成されている請求項1又は請求項2に記載の回転陽極型X線管。
【請求項4】
前記複数のスリットが前記回転中心軸に関して回転対称に配置される請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項5】
前記複数の円弧状の溝が前記回転中心軸に関して回転対称に配置される請求項2に記載の回転陽極型X線管。
【請求項6】
前記開口穴が前記回転中心軸に関して回転対称に配置される請求項1又は請求項2に記載の回転陽極型X線管。
【請求項7】
前記スリットは、前記回転中心軸を含み、前記スリットが占める前記回転中心軸回りの円周角範囲の中央を通るスリット基準面に対して斜めに形成されている請求項4から請求項6に記載の回転陽極型X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施の形態は、回転陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
回転陽極型X線管は、X線撮影を診断に利用する多くの医療用画像診断装置に組み込まれている。回転陽極型X線管では、高真空に維持されたハウジング内において、陽極が高速回転され、この回転されている陽極のターゲットに電子ビームが衝突されて陽極ターゲットからX線が放出される。陽極が高速回転されることによって電子ビームの衝突で生じた熱が陽極ターゲットの一点に集中されず、陽極ターゲット表面の全周に分散させて陽極ターゲット表面の過熱による損傷を防いでいる。電子ビームの衝突で生じた熱は、熱伝導作用によって陽極ターゲットの表面から陽極全体に分散され、最終的にX線管外に運ばれて大気に放出される。熱伝導の過程において、陽極の各部には、大きな温度差が生じ、大きい熱応力が発生され、場合によっては、熱応力による損傷が生じる虞がある。
【0003】
近年、医療用X線CT装置では、断層撮影の高速化が要請され、その要請に従って開発される回転陽極型X線管は、より大出力のX線を発生する性能が要求されている。従って、開発された回転陽極型X線管は、陽極に照射される電子ビームの入力が増大される傾向にある。その結果、電子ビームの照射で生じる熱と共に陽極の熱応力が増大し、陽極の寿命短縮が懸念されている。このような背景から、大出力のX線を発生する性能と同時に、熱応力が低減され、所定の寿命を確保できるX線管の開発が要望されている。
【0004】
特許文献1には、陽極ターゲットの熱応力を低減する構造を備えた回転陽極型X線管が開示されている。この特許文献1に開示された回転陽極型X線管では、ターゲットの外周からターゲットの中心部に向かってターゲットの半径方向に沿って複数のスリットが延伸され、ターゲットの中心部側には、スリットの端部に連通された複数の端部穴が円周に沿って配置されている。このようにスリット及び端部穴が設けられた構造によってターゲットで生ずる熱応力を低減することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8126116号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、スリットが連通されている端部穴が設けられているのみでは、この端部穴に周方向の大きな応力が発生する問題点がある旨を記述している。そして、特許文献1は、ターゲットの外周から中心部に向かってスリットが延伸され、中心部側のスリットの端部に端部穴が設けられた陽極構造において、ターゲット材料と一体化された応力低減材料を端部穴内に配置することによって、ターゲットの応力低減と同時に端部穴の応力を低減することができるとしている。しかし、特許文献1にも説明されるように、ターゲット材料と一体化した異種材料である応力低減材料を配置することは、製造工程の増加及びコストの増加を招いている。また、両材料の界面においては、寸法公差、製造工程のばらつきによってクラックが発生して剥離などの種々の問題が発生する虞がある。
【0007】
このような背景から、実施の形態は、大出力のX線を発生する性能と同時に、熱応力が低減され、所定の寿命を確保できる回転陽極型X線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施の形態によれば、
電子ビームを照射する電子銃と、
回転中心軸を有し、前記電子銃に対向する第1の面及びこの第1の面に関して前記電子銃とは反対側に位置する第2の面を有し、前記電子ビームの照射でX線を発生する陽極ターゲットが円周に沿って第1の面に形成されている回転陽極であって、
リング状の溝が前記回転中心軸の周りであって、前記回転中心軸に関して回転対称に形成され、前記陽極ターゲットの内周側の前記第1の面に設けられ、
複数のスリットが前記回転中心軸の周りに配置されるように前記第1の面から前記第2の面に達するように切り込まれ、前記リング状の溝内にまで延出され、
開口穴が夫々前記複数のスリットに連通され、前記リング状の溝内に開口するように配置され、前記リング状の溝内から前記第2の面に達するように延出されている
回転陽極と、
前記回転陽極が回転可能に装着される支持部と、
前記回転陽極を前記支持部に回転可能に軸支する軸受と、
を備える回転陽極型X線管が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る回転陽極型X線管を備えるX線管装置を概略的に示す断面図である。
図2図1において電子銃側を正面として、実施の形態1に係るX線管の陽極構造を概略的に示す正面図である。
図3図2に示されるA−A線に沿った陽極の一部断面を概略的に示す断面図である。
図4】電子ビームの照射で、図2に示される陽極に設けられた端部穴及びスリットに生ずる熱変形及び端部穴における熱応力低減の仕組みを概念的に説明するための陽極の一部分を概略的に示す部分断面図である。
図5】比較例に係る陽極において、陽極に設けられた端部穴及びスリットに生ずる熱変形及び端部穴における熱応力低減の仕組みを概念的に説明するための陽極の一部分を概略的に示す部分断面図である。
図6図4及び図5に示された陽極に設けられたスリットの側面に加わる熱変形の様子を等高線で示している部分断面図であって、円環状溝が設けられることによる端部穴の開口側における熱変形を低減することができる仕組みを説明する為の部分断面図。
図7図1において電子銃側を正面として、実施の形態2に係るX線管の陽極構造を概略的に示す正面図である。
図8図1において電子銃側を正面として、実施の形態3に係るX線管の陽極構造を概略的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態に係る回転陽極型X線管について詳細に説明する。
【0011】
図1は、この実施の形態に係る回転陽極型X線管が組み込まれたX線管装置を示している。
【0012】
このX線管装置は、回転陽極型X線管1及び磁界を発生させるコイルとしてのステータコイル2等を備えている。回転陽極型X線管1は、陽極ターゲット50を備えた回転陽極5、フィラメント61を備えた陰極60及びこの回転陽極5の陽極ターゲット50に陰極60が対向されるように配置され、その内が真空に維持されているハウジング(真空外囲器)70を備えている。フィラメント61には、フィラメント電流が供給されている。従って、陽極ターゲット50及び陰極60間には、高電圧が印加され、陰極60のフィラメント61からは、電子が放出される。放出された電子は、電子ビームとしてフォーカス電極(図示せず)によって陽極ターゲット50に向けて集束され、陽極ターゲット50に射突される。電子ビームの陽極ターゲット50への射突によって陽極ターゲット50からは、X線が発生され、X線窓(図示せず)を介して外部にX線が向けられる。
【0013】
ここで、この陰極60、フィラメント61及びフォーカス電極は、陰極構体としての電子ビームを射出する電子銃6を構成している。回転陽極5は、円盤形状を有し、重金属等の材料、例えば、モリブデン合金で形成される。また、陽極ターゲット50は、回転陽極5の表面に円環状に、回転陽極5の材料より融点の高い重金属、例えば、タングステン合金の層(X線放射層)として形成されている。
【0014】
この回転陽極型X線管1では、回転陽極5が回転体20に固定され、固定軸10に回転可能に装着されている。この固定軸10の両端は、ハウジング70に気密に結合されて固定されている。回転体20には、ステータコイル2に同軸的に配置されたモータロータ4が固定され、ステータコイル2からモータロータ4に与えられる磁界にモータロータ4が反撥してモータロータ4が回転される。図1に示される回転陽極型X線管1は、固定軸10が両側で固定されている両持ち構造であるが、この実施の形態では、両持ち構造に限らず、固定軸10の一端のみが固定支持されている片持ち構造であっても良い。
【0015】
回転体20と固定軸10とは、対向面で対向され、その間には、微小ギャップ(隙間)が設けられている。回転体20及び固定軸10の対向面の少なくとも一方には、微小パターン、例えば、ヘリングボーンパターンが形成されている。そして、微小間隙及び微小パターンには、潤滑剤としての液体金属LMが充填されてラジアル方向(即ち、半径方向)を軸支するすべり軸受(ラジアル軸受け)が構成されている。回転体20の回転時には、微小パターンの作用によって回転体20及び固定軸10との間の液体金属LMの動圧が高まり、回転体20は、固定軸10上に、このラジアル軸受けで軸支されて回転される。液体金属LMは、GaIn(ガリウム・インジウム)合金又はGaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金等の材料を利用することができる。
【0016】
また、固定軸10には、固定軸10に比べて径が大きなディスク状径大部12が設けられ、回転体20にもこのディスク状径大部12を収容する環状拡張部22が設けられている。そして、ディスク状径大部12と環状拡張部22とは、対向面で対向され、その間には、微小ギャップ(隙間)が設けられている。ディスク状径大部12及び環状拡張部22の対向面の少なくとも一方には微小パターンが、例えば、ヘリングボーンパターンが形成され、微小間隙及び微小パターンには、液体金属LMが充填されてスラスト方向、即ち、軸方向を軸支するすべり軸受(スラスト軸受け)が構成されている。回転体20の回転時には、微小パターンの作用によってディスク状径大部12及び環状拡張部22の対向面の間の液体金属LMの動圧が高まり、回転体20は、固定軸10のディスク状径大部12にスラスト方向(すなわち軸方向)においても支持されて回転される。
【0017】
回転体20と固定軸10との間の液体金属LMは、回転体20の両端と固定軸10との間に設けたシール部(図示せず)でシールされる。シール部は、液体金属LMの漏洩を抑制できるように構成され、例えば、ラビリンスシールリング(labyrinth seal ring)として機能するように構成され、回転体20の回転を維持する。また、液体金属LMが循環並びに補充可能に回転体20及び固定軸10の少なくとも一方内を循環されている。従って、回転体20は、液体金属LMの作用によって固定軸10の周りを安定して回転される。
【0018】
この回転陽極型X線管1では、上述したように、電子銃6から回転されている陽極ターゲット50に向って電子ビームが照射され、電子ビームの照射面でX線が発生される。電子ビームのエネルギーの内、X線の発生に利用されるエネルギーは数パーセントであり、90パーセント以上のエネルギーは、熱に変換される。従って、陽極ターゲット50は、この熱負荷で高温に上昇される。従って、回転陽極5には、下記に述べるように、その内部に熱応力が発生される。
【0019】
図2は、第1の実施の形態に係るX線管の回転陽極5を電子銃側から見た正面概略図(電子銃側を正面として)を示している。また、図3は、図2に示すA−A線に沿った回転陽極5の一部分の断面を示している。
【0020】
この回転陽極5は、回転中心軸11に対して直交する仮想の基準直交面(図示せず)に対してその正面の外表面が傾斜して形成されている。ここで、陽極ターゲット50に集束照射される電子ビームは、回転陽極5の半径方向に沿って微小幅を有する帯状に投影され、回転陽極5が回転されるために、図2に斜線で示す陽極ターゲット50の領域より幅の小さい円環状の領域に照射される。従って、陽極ターゲット50は、この円環状の照射領域よりも大きな幅を有し、かつこの照射領域を含むように円環(下記に述べるスリット8の領域を除いた部分円環)状の層として、回転中心軸11に対して回転対称となるように回転陽極5の正面の外表面上に形成されている。
【0021】
この回転陽極5には、図2に示されるように、回転中心軸11に対して回転対称に配置されている4つのスリット8が形成されている。各スリット8は、回転陽極5の正面から背面に達するような切り込みとして形成されている。また、各スリット8は、回転陽極5の外周から内周(図示の固定軸10側)に向かって延伸され、陽極ターゲット50を横切るように形成されている。回転陽極5の正面の外表面には、陽極ターゲット50によって取り囲まれるように、円環状溝(リング状溝)52が形成されている。即ち、円環状溝52は、円環状の陽極ターゲット50の内周側に、陽極ターゲット50に対して同心円状に配置されている。円環状溝52は、回転中心軸11に対して回転対称となるように形成されている。各スリット8は、この円環状溝52内にまで延出され、この延出されたスリット8の端部には、回転陽極5の正面から背面に達する端部穴7が形成されている。端部穴7は、円環状溝52内に開口している。端部穴7は、回転中心軸11に対して回転対称となるように形成されている。各スリット8は、回転中心軸11を含み、各スリット8が占める回転中心軸11回りの円周角範囲の中央を通るスリット基準面 (図示せず)に対して斜めに形成されている。ここで、スリット基準面は、基準直交面に対して直交している。また、各スリット8に加えて端部穴7は、端部穴7の中心軸が上記スリット基準面に対して斜めになるように形成されてもよい。各スリット8及びこのスリット8に連通する端部穴7は、直線的に延出されず、弧を成すように延出されてもよい。従って、回転陽極5の正面側から電子ビームがスリット8に進入しても、スリット8を通過して回転陽極5の背面側から回転陽極5外に飛び出すことなく、スリット8の壁面に射突される。従って、陽極ターゲット以外の場所でのX線と熱の発生が防止される。更に、上述したように、回転中心軸11に対して、陽極ターゲット50に加え、円環状溝52内にまで延出されるスリット8と、円環状溝52と、円環状溝52内に開口する端部穴7が回転対称となるように形成されていることで、回転陽極5の回転バランスが向上される。その結果、上記のスリット8と円環状溝52と端部穴7が設けられても、回転陽極5は安定的に回転できる。
【0022】
図2に示される回転陽極5は、図4に示すように、その陽極ターゲット50に電子ビームが射突されると、電子ビームの熱で膨張されてスリット8が矢印D1で示すように変形される。より詳細には、回転陽極5の正面上に開口しているスリット8の開口は、熱膨張によって矢印D1で示すように狭まり、スリット8自体も全体に狭小化される。矢印D1で示されるスリット8の開口の変形は、開口側変形と称する。スリット8に連通する端部穴7も陽極ターゲット50の膨張で収縮されるが、スリット8が狭小化されるに伴い矢印D2に示される連通される端部穴7の開口側73も狭小化される。矢印D2に示される端部穴7の開口側73の変形は、連通側変形と称する。この端部穴7の連通側変形に伴う応力は、開口側73とは反対側の端部穴7の基部75に特に集中される。
【0023】
比較例として図5に示す回転陽極5では、円環状溝52が設けられず、端部穴7が円環状溝52内に開口せず、陽極ターゲット50の面に連続する回転陽極5の正面上に直接に開口されている。スリット8が狭小化されるに伴い生ずる矢印D1で示される開口側変形による応力が端部穴7の基部75に集中される。この基部75に集中される応力は、スリット8が狭小化されるに伴い矢印D1で示される開口側変形の変形量に相関し、基部75には、比較的大きな応力SD1が加えられる。回転陽極5は、X線管の駆動に伴い、加熱冷却が繰り返され、膨張収縮が繰り返されることから、基部75には、繰り返し開口側変形に伴う比較的大きな応力SD1が加えられ、時間の経過とともに端部穴7の基部75が破損に至る。しかし、図4に示されるように、円環状溝52が設けられ、端部穴7が円環状溝52内に開口する回転陽極5では、回転陽極5の正面に開口するスリット8の開口の矢印D1に示される開口側変形に比べて、矢印D2で示される円環状溝52内に開口する端部穴7の連通側変形がより小さく留められる。結果として、端部穴7の基部75には、応力SD2が繰り返し加えられるが、この応力は比較例に係る応力SD1よりも小さいことから、時間の経過とともに端部穴7の基部75が破損に至るような事態を防止することができる。
【0024】
図6は、回転陽極5のスリット8の側面に生ずるスリット8が狭小化される方向の熱変形を等高線で示している。図6に示すように、陽極ターゲット50に電子ビームが照射されると、回転陽極5が加熱される。陽極ターゲット50が発熱源であることから、この陽極ターゲット50の周囲の回転陽極5の領域において、熱変形が最も大きく、矢印Kで示すように、陽極ターゲット50から離れるに従って変形等高線で示される熱変形が次第に小さくなる。円環状溝52が設けられず、端部穴7が円環状溝52内に開口していない比較例の構造では、端部穴7が陽極ターゲット50に比較的近接されていることから、記号D1で示される場所の前記開口側変形が比較的に大きいことが判る。そのため、基部75には比較的に大きな応力が与えられる。この比較例に対して図2及び図3に示される円環状溝52が設けられ、端部穴7が円環状溝52内に開口している回転陽極5では、端部穴7が陽極ターゲット50に比較的離れていることから、記号D2で示される場所の前記連通側変形が比較的小さいことが判る。そのため、基部75の応力も比較的小さい。従って、端部穴7には、比較例に比べてより小さな応力が加わり、端部穴7の基部75が破損に至るような事態を防止することができる。上述の実施の形態によれば、大出力のX線を発生する性能と同時に、回転陽極5の熱応力が低減され、所定の寿命を確保でき、かつ安定的に回転できる回転陽極型X線管を提供することができる。
【0025】
図7は、図2に示される陽極構造の変形例に相当する第2の実施の形態に係る陽極を示している。図2に示される回転陽極5には、偶数個のスリット8、即ち、4つのスリット8が回転中心軸11に対して回転対称に設けられているが、図7に示されるように、奇数個のスリット8、即ち、5つのスリット8が回転対称に設けられても良い。図7に示されるように、スリット8の数は、1以上であれば、偶数個或いは奇数個であっても良く、円環状溝52内に開口する端部穴7にスリット8が連通されていれば、端部穴7に加わる応力を小さくすることができ、端部穴7の基部75が破損に至るような事態を防止することができる。従って、第1の実施の形態と同様、大出力のX線を発生する性能と同時に、回転陽極5の熱応力が低減され、所定の寿命を確保でき、かつ安定的に回転できる回転陽極型X線管を提供することができる。
【0026】
図8は、図2に示される陽極構造の変形例に相当する第3の実施の形態に係る陽極を示している。図2に示される回転陽極5では、円環状溝52が回転中心軸11の周りに連続して形成されているが、図8に示される第3の実施の形態に係る回転陽極5には、連続する円環状溝52が形成されず、円環状溝52は、回転中心軸11に対して回転対称に配置され、4つのスリット8に夫々対応する4つの円弧状溝セグメント54に分離されている。この円弧状溝セグメント54内には、夫々のスリット8に連通する端部穴7が開口されている。第3の実施の形態に係る陽極のように、夫々が各スリット8に対応する複数の円弧状溝セグメント54に分離されても、円弧状溝セグメント54内に開口する端部穴7にスリット8が連通されていれば、端部穴7に加わる応力を小さくすることができ、端部穴7の基部75が破損に至るような事態を防止することができる。従って、第1の実施の形態と同様、大出力のX線を発生する性能と同時に、回転陽極5の熱応力が低減され、所定の寿命を確保でき、かつ安定的に回転できる回転陽極型X線管を提供することができる。
【0027】
上述した種々の実施の形態によれば、大出力のX線を発生する性能と同時に、熱応力が低減され、所定の寿命を確保でき、かつ安定的に回転できる回転陽極型X線管を提供することができる。
【0028】
本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1…回転陽極型X線管、2…ステータコイル、4…モータロータ、5…回転陽極、6…電子銃、7…端部穴、8…スリット、10…固定軸、11…回転中心軸、12…ディスク状径大部、20…回転体、22…環状拡張部、50…陽極ターゲット、52…円環状溝、54…円弧状溝セグメント、60…陰極、61…フィラメント、70…ハウジング、73…開口側、75…基部、LM…液体金属
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8