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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-230966(P2015-230966A)
(43)【公開日】2015年12月21日
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20151124BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20151124BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20151124BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20151124BHJP
   H01F 1/28 20060101ALI20151124BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F41/12 D
   H01F17/00 B
   H01F1/22
   H01F1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-116465(P2014-116465)
(22)【出願日】2014年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 誠
【テーマコード(参考)】
5E041
5E044
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA01
5E041AA11
5E041AA14
5E041AA17
5E041AC05
5E041BB05
5E044AC05
5E044AD05
5E070AB01
5E070AB04
5E070AB06
5E070AB07
5E070BB03
5E070CB02
5E070CB12
5E070CB15
5E070DA13
(57)【要約】
【課題】 小型化が容易で、かつ、大きなQ値を有するインダクタを提供する。
【解決手段】 コイル10の線間に磁性材料14を充填した、平面型のスパイラルインダクタであって、前記磁性材料14が、磁性微粒子と誘電材とを複合した磁性複合材料からなり、前記磁性材料中で、前記磁性微粒子が互いに接触せずに存在している。
前記磁性複合材料として、前記磁性微粒子と前記誘電材との体積比が1:1であるもの、磁性複合材料に用いられている磁性微粒子が粒径2μm以下のものを用いることにより、Q値を向上させることができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルの線間に磁性材料を充填した、平面型のスパイラルインダクタであって、
前記磁性材料が、磁性微粒子と誘電材とを複合した磁性複合材料からなり、
前記磁性材料中で、前記磁性微粒子が互いに接触せずに存在していることを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記磁性複合材料は、前記磁性微粒子と前記誘電材との体積比が1:1であることを特徴とする請求項1記載のインダクタ。
【請求項3】
前記磁性複合材料に用いられている磁性微粒子は、粒径が2μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のインダクタ。
【請求項4】
前記磁性微粒子は、Fe系磁性微粒子、Co系磁性微粒子、Ni系磁性微粒子のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のインダクタ。
【請求項5】
前記磁性材料は、コイルの線間を充填し、コイル表面を被覆していないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のインダクタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインダクタに関し、より詳細には近接効果を抑制してQ値を高めたインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の多くは、電源回路や高周波回路を有しており、さまざまな電子部品が用いられている。インダクタは、出力電流の平滑化やインピーダンス整合用として用いられる。例えば高周波回路用インダクタでは、小型・集積化から平面型スパイラルインダクタがよく用いられる。
図15に平面型スパイラルインダクタの断面図を示す。図15(a)のように空心のインダクタでは、巻線Bを流れる電流によって生じる磁束が、隣接する巻線AおよびCに鎖交する。すると、巻線AとCでは誘導現象による渦電流が発生し、これが損失の原因になる(近接効果)。図15(a)では巻線Bによる作用を示すが、巻線A、Cに流れる電流も同様に、他の巻線に対して誘導現象による作用を及ぼす。
【0003】
近接効果を抑制する手法として、図15(b)に示すように、巻線の線間に磁性材料Dを埋め込んだ構造のインダクタが考案されている(特許文献1)。線間に磁性材料を埋め込むことにより、各巻線を流れる電流によって生じる磁束は,巻線よりも透磁率が高い線間の磁性材料をパスすることになり、近接効果が抑制され、抵抗成分が低下し、Q値を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−214613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
線間に磁性材料を埋め込んだ構成を備えるインダクタは、近接効果を抑制することによってQ値を高めることが可能である。しかしながら、1GHzといった高周波での使用を可能にするためには、高周波域においても透磁率が低下しない材料を使う必要がある。
Ni-Zn系フェライトなどのフェライトは1GHzといった周波域では透磁率が大きく下がるため、コイルの線間を充填して近接効果を抑制する磁性材料として使用することができない。高周波域においても使用できる磁性材料としては薄膜磁性材料が知られている。しかしながら、薄膜磁性材料はスパッタリング等の成膜法を利用して一軸性を得るようにするため、平坦な基板面に薄膜形成することは可能であるが、図15(b)に示すような、平面コイルの線間に薄膜磁性材を充填させるようにして形成することはできない。
【0006】
本発明は、インダクタの小型化を図り、かつ、0.1GHz〜1GHzといた周波数帯域においても大きなQ値を備えるインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインダクタは、コイルの線間に磁性材料を充填した、平面型のスパイラルインダクタであって、前記磁性材料が、磁性微粒子と誘電材とを複合した磁性複合材料からなり、前記磁性材料中で、前記磁性微粒子が互いに接触せずに存在していることを特徴とする。
本発明における磁性複合材料は、樹脂等からなる誘電材中に磁性微粒子が分散しているものであり、磁性微粒子は近接していてもよいが、相互には接触せず、互いに分離した状態で存在する。
磁性複合材料に使用する磁性微粒子とは、高周波等の外部磁束が磁性微粒子に鎖交したとしても磁性微粒子に生じる誘導電流による磁気損失が無視できる程度に十分に粒子サイズが小さいことを意味している。外部磁束の周波数帯域にもよるが、0.1GHz〜1GHzの周波数帯域においては、粒子サイズが2μm程度以下の磁性微粒子であれば、磁性微粒子に生じる誘導電流による損失は十分に無視することができる。
【0008】
また、前記磁性複合材料は、前記磁性微粒子と前記誘電材との体積比が1:1であることは、磁性微粒子が相互に接触しないようにし、かつ磁性微粒子の量を確保できる点で有効である。
前記磁性微粒子としては、Fe微粒子、Fe合金微粒子等のFe系磁性微粒子や、Co系磁性微粒子、Ni系磁性微粒子のいずれかを使用することが好ましい。
また、前記磁性材料は、コイルの線間を充填し、コイル表面を被覆していない構成とすることにより、効果的にQ値を向上させることができる点で好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るインダクタは、小型化が容易で、かつ大きなQ値を有するインダクタとして提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るインダクタの構成例を示す写真である。
図2】コイルの断面のSEM像である。
図3】カルボニル鉄粉とエポキシ樹脂からなる磁性複合材料の説明図である。
図4】磁性複合材料の複素比透磁率の周波数特性を示すグラフである。
図5】磁性複合材料の複素比誘電率の周波数特性を示すグラフである。
図6】実施形態と比較例のインダクタについて、インダクタンスの測定値と解析値を示すグラフである。
図7】実施形態と比較例のインダクタについて、抵抗の測定値と解析値を示すグラフである。
図8】実施形態と比較例のインダクタについて、Q値の測定値と解析値を示すグラフである。
図9】平面型スパイラルインダクタについての解析モデルの平面図(a)と、コイルの線の構成を示す説明図(b)である。
図10】空心インダクタの解析モデルの断面図である。
図11】磁性複合材料を用いたインダクタの解析モデルの断面図である。
図12】インダクタンスの周波数特性の解析結果を示すグラフである。
図13】抵抗値の周波数特性の解析結果を示すグラフである。
図14】Q値の周波数特性の解析結果を示すグラフである。
図15】空心インダクタ(a)と、線間に磁性材料を埋め込んだインダクタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(インダクタの構成)
図1は、本発明に係るインダクタの構成例を示す。このインダクタは、中央部に設けられているコイル部10と、コイル部10の一端からコの字型に延出するグランド線部12と、コイル部12とグランド線部12の線間を充填する磁性体部14とを備える。
【0012】
なお、図1に示すインダクタは、インダクタの特性を評価するためにコイル部10とグランド線部12を備えている。ネットワーク・アナライザを用いてインダクタの特性を評価するときに、グランド線部12のG部分と、コイル部10の基端部のS部分に測定用のプローブの端子を接触させて測定するからである。
したがって、このインダクタにおいて、平面型スパラルインダクタとして作用する部位は中央部のコイル部10である。すなわち、コイル部10は純粋な意味でのインダクタであり、図1に示すインダクタは、広い意味でのインダクタである。以下では、図1に示すインダクタをインダクタ素子と称する。
【0013】
図1はコイル部10とグランド線部12と磁性体部14の全体(インダクタ素子)を平面方向から見た状態である。インダクタ素子全体は矩形の平板状をなし、インダクタ素子全体の大きさは縦590μm×横530μmである。
磁性体部14は、コイル部10の線間を厚さ方向に充填するとともに、コイル部10の外側とグランド線部12との中間領域、及びコイル部10の左辺外側領域を覆うように設けられている。実施形態のコイル部10及びグランド線部12の厚さは8μmであり、磁性体部14の厚さも8μmである。すなわち、磁性体部14はコイル部14及びグランド線部14と同厚に、コイル部10及びグランド線部12が形成されている面と同一面に形成されている。
【0014】
図1に示すインダクタ素子のコイル部10は、2ターンの平面型コイルであり、コイルの線幅は55μm、線間隔は15μmである。
図1に示す実施形態のインダクタ素子は、素子の全体形状が1mm×1mm以下であり、コイル部10の平面形状は300μm×300μm程度で、きわめて微小寸法のインダクタである。本実施形態のインダクタは、0.1GHz〜1.0GHzの周波数帯域での使用を想定して、コイル部10のターン数、線幅、線間隔を設計したものである。実用途に使用するインダクタのQ値としては20以上が望ましい。
【0015】
(インダクタの製造方法)
測定に使用した図1に示すインダクタ素子は、次のようにして作製した。
まず、基板上の全面にスパッタ法により、Cr(50nm)膜、次いで、Cu(200nm)膜を形成する。次に、スピンコータを使用し、上層のCu膜の表面にポジ型のレジストを塗布し、ホットプレートでプリベークし、マスクアナライザを用いて導体層パターンを露光し、ホットプレートでポストベークした後、ディベロッパーで現像する。現像操作により、Cu膜の表面に、インダクタ素子のコイル部10とグランド線部12となる部位が露出するレジストパターンが形成される。
【0016】
次いで、Cuめっき装置により、Cu膜の露出している部位にCuめっき膜を形成する。
次に、基板上のレジストを剥離して除去する。最後に、逆スパッタリングにより、レジストパターンにより被覆されていた部位のCu/Crスパッタ積層膜をドライエッチングにより除去する。
こうして、基板上にコイル部10とグランド線部12とが形成される。
【0017】
本発明に係るインダクタの構成において最も特徴とする点は、コイル部10の線間に充填する磁性材料である。すなわち、本発明に係るインダクタにおいては、コイル部10の線間に充填する磁性材料として、磁性微粒子と誘電材料とを混合した磁性複合材料を使用する。実施形態においては、Fe系磁性微粒子として、カルボニル鉄粉からなる、平均粒径1.1μmの略球体状の粒子を使用し、誘電材料としてはエポキシ樹脂を使用し、カルボニル鉄粉とエポキシ樹脂とを1:1の体積比となるように溶剤を加えてインク状として使用した。
【0018】
実施形態では、コイル部10とグランド線部12を形成した基板に、印刷法により、上記カルボニル鉄粉とエポキシ樹脂からなる磁性複合材料を供給し、コイル部10の線間に充填するとともに、コル部10とグランド線部12の間とコイル部10の外側領域に平坦状に充填した後、大気中において、ホットプレートで120℃、5分、電気炉で120℃、120分、140℃、180分加熱し、磁性複合材料に含まれている溶媒を除去し、エポキシ樹脂を完全硬化させて、図1に示すインダクタ素子を得た。
実験では、コイルの表面が磁性複合材料によって被覆されないように、サンドペーパーを用いて表面研磨した。コイルの表面が磁性複合材料によって被覆されないようにする方がインダクタの高周波特性が向上するが、用途によっては、コイルの表面が磁性複合材料によって被覆されてもかまわない。
【0019】
図2に、コイル部10の線間に上記磁性複合材料を充填した状態の断面図を示す。この例では、コイルの線間に磁性複合材料が充填され、コイルの表面が磁性複合材料で被覆されている。
図3は、カルボニル鉄粉とエポキシ樹脂とを混合した状態を示す説明図である。
実験で使用したカルボニル鉄粉とエポキシ樹脂からなる磁性複合材料の抵抗値は111(Ω・m)である。
図4は、この磁性複合材料の複素比透磁率、図5は複素比誘電率の周波数特性を測定した結果を示す。図4、5ともに、実験で使用したカルボニル鉄粉とエポキシ樹脂からなる磁性複合材料は0.1GHz〜1.0GHzの周波数帯域において、実部は一定で、虚部は概ね0となる特性を示すことから、この磁性複合材料は、この周波数帯域においては、自然共鳴や渦電流などによる損失が極めて小さいことがわかる。
【0020】
本実施形態において、磁性複合材料に使用する磁性微粒子として、Fe系磁性微粒子を使用する理由は、Fe系材料が磁気特性に優れていることと、入手しやすいことによる。Fe系磁性微粒子とは、Fe微粒子とFe合金微粒子を含む意味である。磁性微粒子としては、Fe系磁性微粒子以外に、Co系磁性微粒子、Ni系磁性微粒子を使用することができる。これらの微粒子もFe系磁性微粒子と同様の作用をなす。
【0021】
本発明において、コイルの線間を充填する磁性複合材料に用いる磁性材料として磁性微粒子を使用する理由は、外部磁束が磁性微粒子に鎖交した際に磁性微粒子に生じる誘導電流(渦電流)は無視することができ、誘導電流による磁気損失をきわめて低く抑えることができるからである。
磁性微粒子に生じる誘導電流による磁気損失が無視できるのは、磁性微粒子の粒子サイズが小さいことがその理由である。個々の磁性微粒子に誘導電流が生じても、粒子が小さいため、磁束変化に追随して抵抗損失にまで至らないことによる。このような粒子による効果を利用するには、なるべく小さな磁性微粒子を使用するのがよい。
【0022】
本実施形態では、球体状で平均粒径が1.1μmのFe微粒子を使用した。磁性微粒子の素材にもよるが、磁性微粒子としては粒径2μm以下のものであれば、0.1〜1GHzの周波数帯域で使用するインダクタの磁性体部14として十分に使用することができる。なお、磁性微粒子は球体状であるものに限らない。粒径1μm、2μmとは磁性微粒子のおよその外形寸法である。
【0023】
コイルの線間を充填する磁性材料として、粒径が2μm程度以下の磁性微粒子を含む磁性複合材料を使用するのであれば、実施形態のコイル部10のような、線間15μmの空隙内に磁性複合材料を充填することは容易である。すなわち、磁性微粒子を含む磁性複合材料をコイルの線間に充填してインダクタを作製する方法は、外径寸法が1mm×1mmといった微小なインダクタを製造する方法としても有効に利用することができる。
【0024】
また、本実施形態においては、カルボニル鉄粉とエポキシ樹脂とを1:1の体積比で混合した。磁性材料としての特性(透磁率)を得るためには、磁性複合材料中の磁性材料の組成比をなるべく大きくする方が有効であると考えられるが、磁性微粒子に生じる誘導電流による損失を抑えられるのは、磁性微粒子が微小であるためである。すなわち、磁性微粒子が複数個集まって集団状態になってしまうと、磁性微粒子が微小であることで誘導電流による損失が抑えられるという効果を失ってしまう。したがって、磁性複合材料を調製する場合は、図3に示すように、磁性複合材料をコイルの線間に充填した状態で、磁性微粒子が相互に接触せず、単独で存在する組成にするのがよい。
実施形態において、Fe微粒子とエポキシ樹脂とを1:1の体積比として調製したのは、この程度の体積比とすると、磁性体部14中のFe微粒子の量を確保でき、かつFe微粒子は相互に接触しないで存在するように分布するからである。
【0025】
また、本実施形態では、磁性複合材料に用いる誘電材料としてエポキシ樹脂を使用したが、エポキシ樹脂以外に、ポリイミド樹脂等の任意の樹脂材、高分子材料、誘電材料を適宜選択して使用することが可能である。
【0026】
上述した、コイル部10あるいはグランド線部12を形成するフォトリソグラフィー法、及び磁性体部14を形成する印刷法は、半導体パッケージ、配線基板等の電子部品の製造方法として広く利用されている方法である。したがって、半導体製品等の電子部品の製造工程において、上述した方法を利用してコイルの線間に磁性材料を充填したインダクタを作り込むことは容易に可能であり、また、上述したインダクタは数百μm×数百μm程度の大きさであり、微細構造を備える電子部品に組み込むことも容易に可能である。
【0027】
(特性比較)
図6、7、8は、上述したインダクタ素子について、ネットワーク・アナライザを用いて、インダクタンス(L)、抵抗(R)、Q値について測定した結果と解析値を示す。なお、図6、7、8には、比較例として空心のインダクタについて測定した結果と解析値についても示した。空心のインダクタは、図1に示すインダクタと同一のコイル部とグランド線部を備えたもので、線間の磁性体部を備えていないものである。
解析値は、三次元有限要素法を用いる電磁界解析ソフトウェアを用いて解析した結果である。
図6、7、8において、線Aは実施形態のインダクタについての実測値、破線aは解析値である。また、線Bは空心のインダクタについての実測値、破線bは解析値である。
【0028】
図6に示すインダクタンスについてみると、線間に磁性材料を充填した実施形態のインダクタでは、比較例の空心インダクタと比較して、インダクタンス値が10%程度増大している。これは、線間に磁性材料を充填したことによると考えられる。また、電磁界解析ソフトウェアを用いる解析値についても、線間に磁性材料を充填した実施形態のインダクタの方が、空心インダクタのインダクタを上回っている。
【0029】
図7に示す抵抗についてみると、1GHz以下の周波数帯域では、実施形態のインダクタの方が空心インダクタよりも抵抗値が低くなる。これは、線間に磁性材料を充填したことにより、近接効果が抑制された結果である。
一方、1GHz以上の周波数帯域では、実施形態のインダクタの方が空心インダクタよりも大幅に抵抗値が大きくなっている。これは、磁性材料として使用した磁性複合材料自体の損失によるものと考えられる。
【0030】
図8に示すQ値についてみると、実施形態のインダクタでは、1GHz近傍で、空心インダクタと比較して30%程度Q値が向上しており、空心インダクタのQ値を大きく上回っている。
上述した測定結果と比較すると、本実施形態のインダクタ(平面型スパイラルインダクタ)においては、インダクタンス、抵抗と比較してQ値のみが、空心インダクタと比較して顕著に向上している。いいかえれば、実施形態のインダクタは、インダクタンスや抵抗についてはあまり変化せず、したがって回路設計については従来例と大きく変えることなく、Q値のみを選択的に向上させる作用を有するという作用効果を有するということができる。
【0031】
(解析結果)
図1に示す平面型スパイラルインダクタにおいて、コイルの線間に磁性複合材料を充填した場合の磁性複合材料の作用を調べるため、図9に示す平面型スパイラルインダクタのモデルについて、インダクタンス、抵抗、Q値の周波数特性について解析した。解析対象の平面型スパイラルインダクタは、2ターンの平面コイルで、縦横の全体寸法が590μm×530μm、線幅55μm、線間隔15μm(図9)である。
【0032】
図10は、空心インダクタの解析モデルの断面図で、ガラス基板20上にパッド部10aとコイルの線10bを、厚さ8μmで形成したものである。
図11は、磁性複合材料を用いたインダクタの解析モデルの断面図で、ガラス基板20上に、コイルの下層に磁性複合材料層14aを設け、コイルの線10b間に磁性複合材料10bを充填し、コイルの上層に磁性複合材料層14cを設けたものである。
図11に示す解析モデルでは、コイルの下層に設けた磁性複合材料層14aとコイルの上層に設けた磁性複合材料層14bの厚さtを、t=0、1、4、8μmとして解析した。
【0033】
図12は、インダクタンスについての解析結果を示す。図12に示す解析結果は、空心インダクタに対し、磁性複合材料層14a、14bの厚さを厚くしていくとインダクタンスが増大することを示す。
図13は、抵抗値についての解析結果を示す。図13に示す解析結果は、磁性複合材料層14a、14bの厚さを厚くしていくと抵抗値が増大することを示す。
図14は、Q値についての解析結果を示す。図14に示す解析結果は、磁性複合材料層14a、14bの厚さを厚くしていくと、Q値のピーク位置が低周波側にシフトすることを示す。すなわち、0.1GHz〜1GHzの周波数帯域においてQ値を向上させるには、磁性複合材料はコイルの線間に充填し、コイルの表面を被覆しないようにすることが有効である。
【0034】
本発明に係るインダクタは高Q値のインダクタとして提供される。高Q値であるということは低損失であることであり、したがって電子回路の回路部品として使用することにより、消費電力を低減させることが可能である。すなわち、本発明に係るインダクタは、低消費電力化を図る回路部品として有効利用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、小型化が容易で、大きなQ値を有するインダクタを提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
10 コイル部
10a パッド部
10b コイルの線
12 グランド線部
14 磁性体部
14a、14b、14c 磁性複合材料層
20 ガラス基板

図4
図5
図6
図7
図8
図12
図13
図14
図15
図1
図2
図3
図9
図10
図11