【解決手段】超電導コイル10と、超電導コイル10を保持する容器55と、超電導コイル10と容器55の外部とを電気的に接続する電流リード1と、容器55の外部で、電流リード1と電気的に接続するハーネス2とを備え、電流リード1の高温端温度T
超電導コイルと、前記超電導コイルを保持する容器の外部とを電気的に接続する電流リードと、前記電流リードと電気的に接続するハーネスとを備える超電導機器の設計方法において、
前記超電導機器使用時の前記電流リードに流れる電流の値を第1〜第n(nは2以上の整数)電流値(I1、I2、・・・、In)とし、前記第1〜第n電流値のそれぞれについて、前記超電導機器の使用時間に対する前記第1〜第n電流値の前記電流が電流リードに流れる時間の割合を示す電流頻度分布α(In)を決定する工程と、
複数の仮設計電流値It[A]を規定し、それぞれの前記仮設計電流値It[A]に対して、前記電流リードの断面積A[m2]と長さL[m]の比(L/A)を、前記電流リードの高温端温度TH[K]、低温端温度TL[K]、熱伝導率λ[W/m・K]、前記仮設計電流値It[A]、ローレンツ数L0を2.45×10−8[WΩ/K2]とした際の関係式L/A=λ/(ItL01/2)cos-1(TL/TH)に基づき算出する工程と、
前記算出する工程で得られた、それぞれの前記仮設計電流値It[A]に対する前記電流リードの断面積と長さの比(L/A)を用いて、前記電流リードの電気抵抗R[Ω]と、前記電流リードを流れる電流値が0のときの前記電流リードへの侵入熱Q0[W]を計算する工程と、
前記電流頻度分布α(In)と、それぞれの前記仮設計電流値It[A]に対する前記電気抵抗R[Ω]および前記侵入熱Q0[W]を用いて、複数の前記仮設計電流値It[A]ごとに前記超電導機器使用時の前記電流リードへの総侵入熱Q[W]を、関係式Q={α(I1)×(RI12+Q0)}+{α(I2)×(RI22+Q0)}+・・・+{α(In)×(RIn2+Q0)}に基づいて計算する工程と、
それぞれの前記仮設計電流値It[A]に対する前記総侵入熱Q[W]のうち、最小の総侵入熱Q[W]を示す前記仮設計電流値It[A]に基づき決定される、前記電流リードの断面積と長さの比(L/A)を、前記電流リードの断面積と長さの比の設計値として決定する工程とを備える、超電導機器の設計方法。
超電導コイルと、前記超電導コイルを保持する容器の外部とを電気的に接続する電流リードと、前記電流リードと電気的に接続するハーネスとを備える超電導機器の設計方法において、
前記電流リードと前記ハーネスとの熱容量を規定する値の暫定値を決定する工程と、
前記暫定値と前記超電導コイルの最高出力時の通電条件とに基づき、前記電流リードと前記ハーネスとの集合体における最高温度を算出する工程と、前記最高温度が、設定下限温度以上、前記超電導機器を構成する部材の材料許容温度以下の設定温度範囲に入ったかどうかを判別する工程とを含み、前記判別する工程において前記最高温度が前記設定温度範囲に入ったと判別されるまで、前記暫定値を変更しながら前記最高温度を算出する工程と前記判別する工程とを繰り返し実施することにより、前記設定温度範囲に前記最高温度が入ったときの前記暫定値を、前記値の設計値として決定する工程とを備える、超電導機器の設計方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0017】
[本願発明の実施形態の説明]
はじめに、本発明の実施の形態の概要について説明する。
【0018】
(1)本実施の形態の一の局面における超電導機器は、電流リード1の高温端温度T
H[K]、低温端温度T
L[K]、最高出力時の通電電流値I
max[A]、熱伝導率λ[W/m・K]、断面積A[m
2]、長さL[m]、ローレンツ数L
0[WΩ/K
2]の関係が、L/A>λ/(I
maxL
01/2)cos
-1(T
L/T
H)である。
【0019】
このようにすれば、実際の運転条件下において超電導機器使用時の侵入熱を適切に抑制できる。
【0020】
(2)上記ハーネス2の断面積は、電流リードの断面積よりも大きくてもよい。(3)上記ハーネス2の熱容量は、電流リードの熱容量よりも大きくてもよい。(4)上記ハーネス2の放熱性能は、電流リードの放熱性能よりも大きくてもよい。このようにすれば、外槽容器65の外部から熱を加えられても(たとえば外槽容器65の外部の温度が、超電導コイル10の温度に比べて充分高くなった状態であっても)、ハーネス2の温度上昇を抑制できる。つまり、電流リード1に接続する周辺部材の温度上昇を抑制することができる。ハーネス2の温度上昇を抑制することで、ハーネス2および電流リード1を介した超電導コイル10への熱伝導による侵入熱を抑制できる。
【0021】
(5)上記電流リードを流れる電流値とそれぞれの電流が流れる時間から決定される電流頻度分布、および電流リードの断面積A[m
2]と長さLの比L/Aに応じて変化する侵入熱を、任意定数C
1、C
2、C
3を用いて表わされるC
1×L/A+C
2×1/(L/A)+C
3という式に最小二乗法を用いてフィッティングすることにより決定される任意定数C
1、C
2、C
3と、前記高温端温度T
H[K]、前記低温端温度T
L[K]、前記最高出力時の電流値I
max[A]、および前記ローレンツ数L
0により表わされるQ
con[W]=I
max{L
0(T
H2−T
L2)}
1/2とを用いて、上記電流リード1の断面積A[m
2]と長さL[m]の比(L/A)が、以下の数式1を満たすように設けられていてもよい。
【0023】
ここで、上記Q
con[W]=I
max{L
0(T
H2−T
L2)}
1/2は、従来の超電導機器の電流リードの設計方法において用いられている侵入熱の算出式である(非特許文献1参照)。
本発明者らは、このようにすることにより、上記式を満足する電流リードの断面積と長さの比L/Aの2つの値から、従来の超電導機器の電流リードの設計方法により得られる電流リードと比べて外部から超電導コイルへの侵入熱を低減できることを確認した。なお、詳細は後述する。
【0024】
(6)本実施の形態の他の局面における超電導機器は、超電導コイル10と、超電導コイル10を保持する容器(コイル保持容器55)と、超電導コイル10とコイル保持容器55の外部とを電気的に接続する電流リード1と、コイル保持容器55の外部で、電流リード1と電気的に接続するハーネス2とを備え、ハーネス2の熱容量は、電流リード1の熱容量よりも大きい。
【0025】
このようにすれば、熱容量の相対的に大きなハーネス2を配置することにより、電流リード1およびハーネス2の集合体である電流供給部を介して超電導コイル10へ外部から侵入する熱量を低減できる。また、電流リード1において熱が発生した場合に、ハーネス2をヒートシンクとして利用することができるため、電流リード1の温度上昇を抑制できる。
【0026】
(7)上記ハーネス2は放熱部材(
図3のブロック3、あるいは
図4および
図5のフィン4)を含んでもよい。(8)該放熱部材はブロック3でもよい。(9)該放熱部材はフィン4でもよい。
図4に示すように、上記ハーネス2はフィン4を有してもよい。(10)また、
図5に示すように上記ハーネス2はフィン4を一体として含んでいてもよい。(11)また、
図4に示すように、上記ハーネス2は凸部5を含み、該凸部5にフィン4を有してもよい。このようなブロック3やフィン4を形成することにより、ハーネス2のヒートシンクとしての機能をより向上させることができる。
【0027】
(12)本実施の形態の一の局面における超電導機器の設計方法は、超電導コイル10と、超電導コイル10を保持する容器の外部とを電気的に接続する電流リード1と、電流リード1と電気的に接続するハーネス2とを備える超電導機器の設計方法において、超電導機器使用時の電流リード1に流れる電流の値を第1〜第n(nは2以上の整数)電流値(I
1、I
2、・・・、I
n)とし、第1〜第n電流値のそれぞれについて、超電導機器の使用時間に対する第1〜第n電流値の電流が電流リード1に流れる時間の割合を示す電流頻度分布α(I
n)を決定する工程と、複数の仮設計電流値I
t[A]を規定し、それぞれの仮設計電流値I
t[A]に対して、電流リード1の断面積A[m
2]と長さL[m]の比(L/A)を、電流リード1の高温端温度T
H[K]、低温端温度T
L[K]、熱伝導率λ[W/m・K]、仮設計電流値I
t[A]、ローレンツ数L
0を2.45×10
−8[WΩ/K
2]とした際の関係式L/A=λ/(I
tL
01/2)cos
-1(T
L/T
H)に基づき算出する工程と、電流リード1の断面積と長さの比を算出する工程で得られた、それぞれの仮設計電流値に対する電流リード1の断面積と長さの比に対して、電流リード1の電気抵抗R[Ω]と、電流リード1を流れる電流値が0のときのコイルを保持する容器側への侵入熱Q
0[W]を計算する工程と、電流頻度分布α(I
n)と、それぞれの仮設計電流値I
t[A]に対する電気抵抗R[Ω]および侵入熱Q
0[W]を用いて、それぞれの仮設計電流値I
t[A]ごとに超電導機器使用時の電流リード1への総侵入熱Q[W]を、関係式Q={α(I
1)×(RI
12+Q
0)}+{α(I
2)×(RI
22+Q
0)}+・・・+{α(I
n)×(RI
n2+Q
0)}に基づいて計算する工程と、それぞれの仮設計電流値I
t[A]に対する総侵入熱Q[W]のうち、最小の総侵入熱Q[W]を示す仮設計電流値I
t[A]に基づき決定される、電流リード1の断面積と長さの比(L/A)を、電流リード1の断面積と長さの比の設計値として決定する工程とを備える。
【0028】
これにより、超電導機器の使用時の侵入熱を最小とすることができる、最適な電流リード11を設計することができる。
【0029】
(13)上記電流リード1の断面積と長さの比の設計値として決定する工程の後に、電流リード1とハーネス2との寸法を設計する工程をさらに備え、電流リード1とハーネス2との寸法を設計する工程は、ハーネス2の断面積の暫定値と、電流リード1の断面積と長さの比に基づき電流リード1の断面積の暫定値を決定する工程と、電流リード1の断面積の暫定値とハーネス2の断面積の暫定値と超電導コイル10の最高出力時の通電条件とに基づき、電流リード1とハーネス2との集合体における最高温度を算出する工程と、最高温度が、設定下限温度以上、超電導機器を構成する部材の材料許容温度以下の設定温度範囲に入ったかどうかを判別する工程とを含み、判別する工程において最高温度が設定温度範囲に入ったと判別されるまで、電流リード1の断面積の暫定値またはハーネス2の断面積の暫定値を変更しながら最高温度を算出する工程と判別する工程とを繰り返し実施することにより、設定温度範囲に最高温度が入ったときの電流リード1の断面積の暫定値およびハーネス2の断面積の暫定値を、電流リード1の断面積の設計値およびハーネス2の断面積の設計値として決定してもよい。このようにすれば、超電導機器使用時の侵入熱を抑制し、かつ、電流リード1とハーネス2の集合体の最高温度を設計下限温度以上材料許容温度以下とすることができる、電流リード1とハーネス2を設計できる。
【0030】
(14)上記電流リード1の断面積と長さの比の設計値として決定する工程の後に、電流リード1とハーネス2との寸法を設計する工程をさらに備え、電流リード1とハーネス2との寸法を設計する工程は、ハーネス2の熱容量の暫定値と、電流リード1の断面積と長さの比に基づき電流リード1の熱容量の暫定値とを決定する工程と、電流リード1の熱容量の暫定値とハーネス2の熱容量の暫定値と超電導コイル10の最高出力時の通電条件とに基づき、電流リード1とハーネス2との集合体における最高温度を算出する工程と、最高温度が、設定下限温度以上、超電導機器を構成する部材の材料許容温度以下の設定温度範囲に入ったかどうかを判別する工程とを含み、判別する工程において最高温度が設定温度範囲に入ったと判別されるまで、電流リード1の熱容量の暫定値またはハーネス2の熱容量の暫定値を変更しながら最高温度を算出する工程と判別する工程とを繰り返し実施することにより、設定温度範囲に最高温度が入ったときの電流リード1の熱容量の暫定値およびハーネス2の熱容量の暫定値を、電流リード1の熱容量の設計値およびハーネス2の熱容量の設計値として決定してもよい。このようにすれば、超電導機器使用時の侵入熱を抑制し、かつ、電流リード1とハーネス2の集合体の最高温度を設計下限温度以上材料許容温度以下とすることができる、電流リード1とハーネス2を設計できる。
【0031】
(15)上記電流リード1の断面積と長さの比の設計値として決定する工程の後に、電流リード1とハーネス2との寸法を設計する工程をさらに備え、電流リード1とハーネス2との寸法を設計する工程は、ハーネス2の放熱性能を規定する値の暫定値と、電流リード1の断面積と長さの比に基づき電流リード1の放熱性能を規定する値の暫定値とを決定する工程と、電流リード1の放熱性能を規定する値の暫定値とハーネス2の放熱性能を規定する値の暫定値と超電導コイル10の最高出力時の通電条件とに基づき、電流リード1とハーネス2との集合体における最高温度を算出する工程と、最高温度が、設定下限温度以上、超電導機器を構成する部材の材料許容温度以下の設定温度範囲に入ったかどうかを判別する工程とを含み、判別する工程において最高温度が設定温度範囲に入ったと判別されるまで、電流リード1の放熱性能を規定する値の暫定値またはハーネス2の放熱性能を規定する値の暫定値を変更しながら最高温度を算出する工程と判別する工程とを繰り返し実施することにより、設定温度範囲に最高温度が入ったときの電流リード1の放熱性能を規定する値の暫定値およびハーネス2の放熱性能を規定する値の暫定値を、電流リード1の放熱性能を規定する値の設計値およびハーネス2の放熱性能を規定する値の設計値として決定してもよい。このようにすれば、超電導機器使用時の侵入熱を抑制し、かつ、電流リード1とハーネス2の集合体の最高温度を設計下限温度以上材料許容温度以下と1とハーネス2を設計できる。
【0032】
(16)本実施の形態の他の局面における超電導機器の設計方法は、超電導コイル10と、当該超電導コイル10を保持する容器(コイル保持容器55)の外部とを電気的に接続する電流リード1と、電流リード1と電気的に接続するハーネス2とを備える超電導機器の設計方法において、電流リード1とハーネス2との熱容量を規定する値(
図12における電流リードの線径(または断面積)と長さおよびハーネスの線径(または断面積)の値、または
図13における電流リードの線径(または断面積)と長さおよびハーネスの放熱部材の形状やサイズを規定する値)の暫定値を決定する工程(
図12の工程(S01)〜工程(S03)、または
図13の工程(S01)〜工程(S03))と、暫定値を値の設計値として決定する工程(
図12および
図13の工程(S05)〜工程(S09)とを備える。
【0033】
決定する工程は、最高温度を算出する工程(
図12および
図13の工程(S04))と、判別する工程(
図12および
図13の工程(S05)〜工程(S09))とを含む。決定する工程(
図12および
図13の工程(S05)〜工程(S09)では、判別する工程(
図12および
図13の工程(S05)〜工程(S09))において最高温度が設定温度範囲((周辺部材の材料許容温度―設定値)以上(周辺部材の材料許容温度)以下の温度範囲)に入ったと判別されるまで、暫定値を変更しながら最高温度を算出する工程(
図12および
図13の工程(S04))と判別する工程(
図12および
図13の工程(S05)〜工程(S09))とを繰り返し実施することにより、設定温度範囲に最高温度が入ったときの暫定値を、上記値の設計値として決定する。最高温度を算出する工程(
図12および
図13の工程(S04))では、暫定値と超電導コイル10の最高出力時の通電条件とに基づき、電流リード1とハーネス2との集合体における最高温度を算出する。判別する工程(
図12および
図13の工程(S05)〜工程(S09))では、最高温度が、設定下限温度(周辺部材の材料許容温度―設定値)以上、超電導機器を構成する部材の材料許容温度(周辺部材の材料許容温度)以下の設定温度範囲に入ったかどうかを判別する。
【0034】
このようにすれば、本実施の形態による超電導機器の電流リード1およびハーネス2からなる電流供給部の構成を容易に決定できる。
【0035】
(17)上記超電導機器の設計方法において、熱容量を規定する値は、
図12に示すように、電流リード1とハーネス2との線径(または断面積)であってもよい。決定する工程(
図12の工程(S05)〜工程(S09))では、最高温度が設定温度範囲の上限超えであるとき(
図12の工程(S05)においてYESと判断された場合)にはハーネス2の線径が太くなるように暫定値を変更し(
図12の工程(S06)参照)、最高温度が設定温度範囲の下限以下であるとき(
図12の工程(S09)においてNOと判断された場合)には電流リードの線径が細くなるように暫定値を変更してもよい(
図12の工程(S07)参照)。
【0036】
この場合、ハーネス2の線径により当該ハーネス2の熱容量を調整するような構成の、本実施の形態による超電導機器についてその構成を容易に設計できる。
【0037】
(18)上記超電導機器の設計方法において、熱容量を規定する値は、
図13に示すように、電流リード1の線径とハーネス2の放熱性能を規定する値(ハーネス2の放熱部材の形状やサイズを規定する値)であってもよい。決定する工程(
図13の工程(S05)〜工程(S09))では、最高温度が設定温度範囲の上限超えであるとき(
図13の工程(S05)においてYESと判断された場合)にはハーネス2の放熱性能が高くなるように暫定値を変更し(
図13の工程(S16)参照)、最高温度が設定温度範囲の下限以下であるとき(
図13の工程(S09)においてNOと判断された場合)には電流リード1の線径が細くなるように暫定値を変更してもよい(
図13の工程(S07)参照)。
【0038】
この場合、ハーネス2に放熱部材を配置することにより当該ハーネス2の熱容量を調整するような構成の、本実施の形態による超電導機器についてその構成を容易に設計できる。
【0039】
なお、
図8および
図9に示す、電流リードとハーネスの寸法の設計方法により設計される超電導機器と、
図12および
図13に示す電流リードとハーネスの寸法の設計方法により設計される超電導機器とは、同等の構成となるため、同等の効果を有する。つまり、いずれにおいても、電流リード1のコイル保持容器側への侵入熱を低減し、電流リードのハーネス側端部での最高温度を抑制することができる。
【0040】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
【0041】
以下、本実施の形態に係る超電導機器について説明する。まず、
図1を参照して、本実施の形態に係る超電導機器の構成を説明する。超電導機器は、コア53の周りに巻回した超電導コイル10と、超電導コイル10を冷媒17に浸漬した状態で保持可能とするコイル保持容器55と、コイル保持容器55の周囲に、真空断熱層を形成するように設けられた外槽容器65と、超電導コイル10と外槽容器65の外部とを電気的に接続する電流リード1とを備える。電流リード1は、外槽容器65の外部でハーネス2と電気的に接続される。なお、コア53が配置された位置には外槽容器65およびコイル保持容器55において図示しない開口部が形成されており、当該開口部の内部にコア53が配置されている。すなわち、コア53は外槽容器65の外側に配置されている。このような超電導コイル10を備えた本実施の形態による超電導機器としては、たとえば超電導モータや磁場発生装置などが挙げられる。
【0042】
本実施の形態において、ハーネス2とは、超電導コイル10を収納する容器の外部に配設され、超電導コイル10に供給される電流を電流リード1に供給する部材とする。ハーネス2は導電性の材料(たとえば銅、銅合金、アルミニウム、およびアルミニウム合金などの金属)により構成される。
図1の例の超電導機器では、超電導コイル10は二重の容器構造により格納されているが、コイル保持容器55のみで超電導コイル10を格納する単層の容器構造でもよい。この場合、ハーネス2は、コイル保持容器55の外部に配設される。
【0043】
本実施の形態において、電流リード1とは、超電導コイル10とハーネス2とを電気的に接続する部材とする。電流リード1は導電性の材料(たとえば銅、銅合金、アルミニウム、およびアルミニウム合金などの金属)により構成される。このとき、電流リード1は、各容器との接続部において、任意の構成を有することができる。例えば、電流リード1は、各容器に設けられた筺体固定端子等を有してもよい。この場合、たとえば外槽容器65を貫通するように設けられた筺体固定端子とハーネス2との接続部も、電流リード1とハーネス2との接続部と言える。また、電流リード1と各容器との接続部は、気密状態を維持できるようなシール構造を有していることが好ましい。
【0044】
電流リード1とハーネス2との接続部の構造は、任意の構造を採用することができるが、たとえば
図2に示すように、ハーネス2の端部に接続用の把持部を設け、当該把持部に電流リード1の端部を挟んで固定するといった構成を採用してもよい。
【0045】
電流リード1の材料は、上記のような筐体固定端子などの端子部と、実質的に一定の幅を有する線状体からなる線材部とで同一材料でなくてもよく、電気抵抗の小さい任意の材料を選択できるが、好ましくは導電性の材料(たとえば銅、銅合金、アルミニウム、およびアルミニウム合金などの金属)を用いることができる。
【0046】
図1を参照して、超電導コイル10を有する超電導機器において、冷媒17により転移温度T
c以下に維持された超電導コイル10と、外槽容器65の外部とには、大きな温度差が発生する。このとき、コイル保持容器55の周囲に外槽容器65を設け、コイル保持容器55と外槽容器65との間に真空断熱領域を形成した超電導機器であっても、電流リード1は超電導コイル10に対する熱侵入源となる。すなわち、低温端となる超電導コイル10は、高温端となる外槽容器65の外部から、電流リード1を通じて熱伝導による侵入熱を受ける。
【0047】
本実施の形態の超電導機器は、電流リード1の高温端温度T
H[K]、低温端温度T
L[K]、最高出力時の通電電流値I
max[A]、熱伝導率λ[W/m・K]、断面積A[m
2]、長さL[m]、ローレンツ数L
0[WΩ/K
2]の関係が、L/A>λ/(I
maxL
01/2)cos
-1(T
L/T
H)である。従来は、通電電流が一定の場合に、電流値に応じて長さと断面積の比が決められ、それによって、電流リードの侵入熱を最小とするように設計されていた。そのため、通電電流が一定でない場合には、電流値に応じて長さと断面積の比を決めることができず、電流リードの侵入熱を最小にする設計指針は無かった。その場合に、まず考えられるのは、侵入熱が最大となる最大電流値に対して侵入熱を最小にするという設計である。しかし、この設計では最大電流値以外のときには、侵入熱を適切に抑制できていない。通電電流が一定でないため、最大電流となる時間帯は限られ、最大電流よりも低い電流値での運転時間が存在する。そして、最大電流よりも低い電流を通電している間は、常に電流リードの長さと断面積との比(L/A)が最適な長さと断面積との比に対して小さい状況であることが分かる。そこで、本実施の形態の超電導機器は、以下で示すように、通電電流が変動する場合に、本実施の形態に係る超電導機器の電流リードが上記関係式を満たすことによって、実際の運転条件下において超電導機器使用時の侵入熱を適切に抑制できる。なお、電流リードの断面積は、電流リードの線径として規定してもよい。
【0048】
次に、上述した電流リード1を含む本実施の形態による超電導機器の設計方法(特に電流リード1の設計方法)を説明する。ここで、従来の設計方法では、電流リード1は、超電導コイル10の最大通電条件と侵入熱を考慮して決定され、通電電流が変動する場合、つまり電流頻度分布を有する場合などは特に考慮されていなかった。このため、最大通電時のジュール熱を抑制するよう設計された電流リードは、最大通電時以外の通電電流に対しては適切な設計値より太く、最大通電時以外の侵入熱を十分に抑制できていなかった。一方、本実施の形態に係る超電導機器の設計方法は、電流リード1に流れる通電電流の頻度分布も考慮して設計するため、従来の超電導機器の設計方法と比較して、より適切な特性の電流リード1を設計することができる。以下、
図7を参照しながら説明する。
【0049】
図7を参照して、本実施の形態に係る超電導機器の設計方法を説明する。本実施の形態に係る超電導機器の設計方法では、まず、超電導機器の使用時の電流頻度分布α(I
n)を決定する工程(S10)を実施する。超電導機器の電流頻度分布は、その超電導機器の用途や使用環境等によって、決めることができる。この工程(S10)では、たとえば、ユーザから仕様として提出された電流頻度分布を用いてもよいし、既に同様の環境で使用している超電導機器の使用データを分析して得られた電流頻度分布を用いてもよい。たとえば、電流頻度分布α(I
n)として、超電導機器使用時の前記電流リード1に流れる電流の値を第1〜第n(nは2以上の整数)電流値(I
1、I
2、・・・、I
n)とし、第1〜第n電流値のそれぞれについて、超電導機器の使用時間に対する第1〜第n電流値の電流が電流リード1に流れる時間の割合を示すデータテーブルを用いてもよい。上記の第1〜第n電流値を決定するとき、第1〜第n電流値の間隔は、任意に決めてもよい。例えば、任意の整数値としてもよいし、1Aとしてもよいし、1A以下としてもよい。
【0050】
次に、複数の仮設計電流値I
t[A]を規定し、それぞれの仮設計電流値I
t[A]に対して、電流リードの断面積A[m
2]と長さL[m]の比(L/A)を、電流リードの高温端温度T
H[K]、低温端温度T
L[K]、熱伝導率λ[W/m・K]、仮設計電流値I
t[A]、ローレンツ数L
0を2.45×10
−8[WΩ/K
2]とした際の関係式L/A=λ/(I
tL
01/2)cos
-1(T
L/T
H)に基づき算出する工程(S20)を実施する。ローレンツ数L
0は理論値2.45×10
−8[WΩ/K
2]を用いることができる。また、実験から求めた値として、電流リードを構成する材料が銅の場合には2.20×10
−8[WΩ/K
2]、電流リードを構成する材料がアルミニウムの場合には2.14×10
−8[WΩ/K
2]を用いることもできる。
【0051】
仮設計電流値I
tは、超電導機器使用時の電流頻度分布において、通電電流値の範囲内で任意に選択し、列挙してもよい。好ましくは、電流頻度分布から、最小電流値から最大電流値までの範囲で、所定の数値間隔で所定の数のデータ(仮設計電流値)を抽出する。これにより、超電導機器の電流頻度分布を、電流リードの設計により適切に利用することができる。
【0052】
電流リードの高温端温度T
H[K]は、ハーネスとの接続部側の温度となり、低温端温度T
L[K]は、冷媒に満たされた超電導コイルを保持する容器側の温度(たとえば液体窒素温度)となる。熱伝導率λ[W/m・K]は、電流リードの材料により決まる。つまり、上記の関係式L/A=λ/(I
tL
01/2)cos
-1(T
L/T
H)の右辺において、変数は仮設計電流値I
t[A]のみであり、規定した複数の仮設計電流値に対し、それぞれ電流リード1の断面積A[m
2]と長さL[m]の比L/Aを算出する。これにより、電流リード1は、断面積Aと長さLとの比により、仮設計電流値I
tごとに仮設計される。
【0053】
次に、先の工程(S20)で得られた、それぞれの仮設計電流値I
tに対する電流リード1の断面積と長さの比(L/A)を用いて、電流リード1の電気抵抗R[Ω]と、電流リード1を流れる電流値が0のときの電流リード1への侵入熱Q
0[W]を計算する工程(S30)を実施する。L/Aが大きければ電気抵抗Rは大きくなるが、侵入熱Q
0は小さくなる。
【0054】
次に、電流頻度分布α(I
n)と、それぞれの仮設計電流値I
t[A]に対する電気抵抗R[Ω]および侵入熱Q
0[W]を用いて、それぞれの仮設計電流値I
t[A]ごとに超電導機器使用時の電流リードへの総侵入熱Q[W]を、関係式Q=Σ{α(I)×(RI
2+Q
0)}に基づいて計算する工程(S40)を実施する。関係式Q={α(I
1)×(RI
12+Q
0)}+{α(I
2)×(RI
22+Q
0)}+・・・+{α(I
n)×(RI
n2+Q
0)}(ここでnは2以上の整数:以下、Q=Σ{α(I)×(RI
2+Q
0)}とも表記する)は、ある仮設計電流値I
tに対して仮設計した電流リード1において、該電流リード1を流れる通電電流値Iを変数として、通電電流Iが最小電流値以上最大電流値以下の範囲(より具体的には電流頻度分布α(I
n)で規定した第1電流値I
1〜第n電流値I
nの範囲)で変動するときの各通電電流値Iでの侵入熱を、その通電電流値Iの頻度を重みとして加重平均したものであり、本実施の形態においては総侵入熱Qという。つまり、超電導機器使用時の通電電流値Iの変動とその電流頻度分布を考慮して、それぞれの仮設計電流値I
tに対して仮設計した電流リード1ごとに総侵入熱Qを求める。総侵入熱Qが大きい場合には、その電流リード1は超電導機器の使用条件に適しておらず、総侵入熱Qが小さい場合には、その電流リード1は超電導機器の使用条件に適している。なお、侵入熱は、通電電流によるジュール熱RI
2と、外部からの熱伝導による侵入熱Q
0との和として計算する。
【0055】
次に、それぞれの仮設計電流値I
t[A]に対する総侵入熱Q[W]のうち、最小の総侵入熱Qを示す仮設計電流値I
t[A]に基づき決定される、電流リード1の断面積と長さの比を、電流リード1の断面積と長さの比の設計値として決定する工程(S50)を実施する。上述のように、超電導機器使用時の通電電流の変動範囲において、総侵入熱Qが小さい場合には、その電流リード1は超電導機器の使用条件に適している。総侵入熱Qが最小となる電流リード1は、超電導機器の電流頻度分布α(I)、電流リード1の高温端温度T
H[K]、低温端温度T
L[K]、熱伝導率λ[W/m・k]の場合に侵入熱が最小となる、最適な電流リードである。
【0056】
次に、電流リードの寸法を決定する工程(S60)を実施する。先の工程(S50)において決定した電流リード1の断面積Aと長さLとの比L/Aの設計値を基に、電流リード1を設計する。電流リード1を設計する際には、断面積Aまたは長さLの少なくともいずれか一方を任意に決めることで、断面積Aと長さLの設計値を決定してもよい。また、超電導機器の構造等により、電流リード1の構造に制限が掛かる場合には、それを考慮して、許容される範囲内において任意に決めればよい。これにより、超電導機器の使用時の侵入熱を最小とすることができる、最適な電流リード1を設計することができる。
【0057】
本実施の形態に係る超電導機器およびその設計方法は、
図1を参照して、電流リード1と電流リード1に接続したハーネス2とを考慮して、外部からの熱侵入を抑制可能とするとともに、超電導機器の最高出力時に、電流リード1に接続する周辺部材の温度上昇を抑制可能とするように設計してもよい。周辺部材としては、例えば、ハーネス2や外槽容器65等が挙げられる。
【0058】
本実施の形態に係る超電導機器のハーネス2は、電流リード1と比較して、熱容量が大きい。これにより、外槽容器65の外部から熱を加えられても(たとえば外槽容器65の外部の温度が、超電導コイル10の温度に比べて充分高くなった状態であっても)、ハーネス2の温度上昇を抑制できる。つまり、電流リード1に接続する周辺部材の温度上昇を抑制することができる。ハーネス2の温度上昇を抑制することで、ハーネス2および電流リード1を介した超電導コイル10への熱伝導による侵入熱を抑制できる。
【0059】
また、超電導コイル10への侵入熱としては、上述のようなハーネス2を介した熱伝導によるものの他に、電流リード1で発生したジュール熱がある。電流リード1で発生したジュール熱は、電流リード1と接続している、ハーネス2や超電導コイル10へ伝導する。このとき、電流リード1の熱容量より、ハーネス2の熱容量を大きくすることで、ハーネス2の温度上昇が抑えられる。このため、電流リード1とハーネス2との間の温度勾配が小さくなることを抑制できるので、その分、電流リード1で発生したジュール熱をハーネス2へ効率的に伝導させることができる。つまり、本実施の形態に係る超電導機器は、外槽容器65の外部で発生した熱に加え、電流リード1で発生した熱に対しても、超電導コイル10への侵入を抑制することができる。なお、
図6を参照して、1つのハーネス2に複数の電流リード1が接続される場合には、1つのハーネス2に接続する電流リード1の合計の熱容量を、当該ハーネス2よりも小さくすればよい。
図6に示した超電導機器は、基本的には
図1に示した超電導機器と同様の構成を備えるが、1つのハーネス2に複数の(
図6では2本の)電流リード1が接続されている点が
図1に示した超電導機器とは異なっている。複数の電流リード1はそれぞれ別の超電導コイル10に接続されている。このような構成の超電導機器によっても、
図1に示した超電導機器と同様の効果を得ることができる。
【0060】
ハーネス2は、電流リード1よりも熱容量が大きい限りにおいて、任意の形状としてもよい。
図2を参照して、ハーネス2が線状体として構成される場合には、ハーネス2の線径は電流リードの線径よりも太く設けられてもよい。これにより、ハーネス2は電流リード1と比較して大きな熱容量を有することができる。
【0061】
また、ハーネス2は、放熱部材を含んでもよい。放熱部材の材料としては、熱抵抗が低い任意の材料を採用可能である。また、放熱部材の形状は、放熱性を高める任意の形状を採用可能である。例えば、
図3を参照して、放熱部材を、ハーネス2の延在方向と交差する方向(たとえば垂直方向)にハーネス2から突出するように形成されたブロック3とすることができる。
図3に示したハーネス2では、ハーネス2の端部に形成された把持部に上記ブロック3が形成されている。ブロック3の形状は
図3に示すような直方体状の形状でもよいが、他の形状(たとえば立方体状、あるいは円盤状など)であってもよい。
【0062】
放熱部材は、電流リード1とハーネス2との接続部近傍に設けられるのが好ましい。これにより、ハーネス2はその電流導入経路からの伝導により受けた熱や、その他輻射や対流等により外部から受けた熱を、電流リード1に伝導させる手前で、放熱部材(
図3のブロック3)によって外部へ放散させることができる。この結果、電流リード1を介した超電導コイル10への侵入熱を抑制できる。さらに、ブロック3のような放熱部材を配置することによりハーネス2の温度上昇を抑制できる。したがって、電流リード1で発生したジュール熱を、ハーネス2のブロック3へ効率的に伝導させることもできる。
【0063】
上述のように、超電導コイル10への侵入熱としては、電流リード1で発生したジュール熱とハーネス2を介した熱伝導によるものとがある。電流リード1の断面積A[m
2]、長さL[m]としたとき、電流リード1で発生したジュール熱はL/Aに比例し、ハーネス2を介した熱伝導による侵入熱はA/Lに比例する。このとき、侵入熱はC
1×L/A+C
2/(L/A)+C
3の形で表すことができる。第1項(C
1×L/A)は電流リード1で発生したジュール熱を表し、第2項(C
2/(L/A))はハーネス2を介した熱伝導による侵入熱を表し、第3項(C
3)はこのモデルの誤差や取り入れられていない項を表す。ここで、C
1、C
2、C
3は種々のL/Aに対して侵入熱を計算しフィッティングして得られる。本実施の形態に係る超電導機器は、これらの和を超電導コイル10への侵入熱として、小さくなるように設計されている。C
1、C
2、C
3は電気抵抗率ρ、熱伝導率λ、高温端温度T
H,低温端温度T
L、断面積A、長さL、規格化された電流頻度分布α(I)などによって変わると考えられる。
【0064】
図4および
図5を参照して、放熱部材は、フィン4を含んでいてもよい。
図4は、フィン4をハーネス2と別体として構成した例を示す。
図4を参照して、ハーネス2は凸部5を含み、凸部5にフィン4を有してもよい。異なる観点から言えば、
図4に示したハーネス2は、その表面(外周側面)から突出するように形成された凸部5と、当該凸部5の表面から突出するように形成された複数のフィン4とを含む。フィン4の延在方向は、凸部5の延在方向と交差する方向(
図4では垂直な方向)である。また、上記凸部5は、ハーネス2の延在方向に延びるような板状の形状を有している。当該帯状の凸部5の最も面積が大きい主面および裏面のそれぞれに、フィン4が形成されている。当該主面および裏面には複数のフィン4が形成されており、当該フィン4の数は1または2以上の任意の数とすることができる。
【0065】
図5は、フィン4をハーネス2と一体として構成した例を示す。
図5を参照して、ハーネス2はフィン4を含んでもよい。異なる観点から言えば、
図5に示したハーネス2は、電流リード1との接続部に連なり、相対的に大きな面積を有する主面と当該主面とは反対側に位置する裏面とを含む板状の部分(フィン形成部)を含む。当該板状の部分の主面および裏面には、それぞれフィン4が形成されている。主面および裏面のそれぞれには、複数のフィン4が形成されている。なお、フィン4の数は1または2以上の任意の数とすることができる。
【0066】
図4および
図5に示した構成のいずれにおいても、フィン4は、ハーネス2と電流リード1との接続部近傍に設けられている。このため、ハーネス2が伝導等により受けた熱を、電流リード1へ伝導させる手前でよりフィン4により効率的に放熱させることができる。
【0067】
上述のように、本実施の形態に係る超電導機器において、ハーネス2の温度上昇を抑制することにより、超電導コイル10への侵入熱を抑制し、冷却効率の低下を抑制することができる。
【0068】
また、
図6を参照して、外槽容器65は、電流リード1との接続部において、熱容量を大きくする構成としてもよい。例えば、ハーネス2と接触するように、電流リード1との接続部における外槽容器65を厚みt1とし、それ以外の外槽容器65の部分の厚みt2より厚く設けてもよい。これにより、外槽容器65において電流リード1と接触する部分の熱容量を大きくでき、当該外槽容器65の部分を熱の吸収部(あるいは緩衝部)として利用できる。そのため、外槽容器65の外部の温度が、超電導コイル10の温度に比べて充分高くなった状態であっても、ハーネス2の温度上昇をより効果的に抑制できる。つまり、ハーネス2の温度上昇を抑制することで、ハーネス2および電流リード1を介した超電導コイル10への熱伝導による侵入熱を抑制できる。
【0069】
次に、上述のようにハーネスを含む構成としたときの超電導機器の設計方法を
図8および
図9を参照して説明する。ハーネスを含む構成としたときの超電導機器の設計方法は、基本的には
図7に示した電流リードのみを設計する設計方法と同じであるが、電流リードの寸法を決定する工程(S60)に代わり、電流リードとハーネスとの寸法を決定する工程(S70)を実施する点で異なる。また、
図9に、工程(S70)の具体的な設計フローを示す。
【0070】
以下、
図9を参照して、工程(S70)を説明する。まず、ハーネスの断面積の暫定値と、電流リードの断面積と長さの比に基づき電流リードの断面積の暫定値を決定する工程(S71)を実施する。この工程(S71)において、
図7の工程(S50)で決定した電流リードの断面積Aと長さLとの比L/Aを用いて上記暫定値を決定することができる。
【0071】
次に、電流リードの断面積の暫定値とハーネスの断面積の暫定値と超電導コイルの最高出力時の通電条件とに基づき、電流リードとハーネスとの集合体における最高温度を算出する工程(S72)を実施する。通電電流および電流リードとハーネスの断面積に基づき、電流リードとハーネスとが接続された構成における最高温度を算出する。具体的には、電流リードの両端温度を固定せず、電流リードの低温端周囲の温度を冷媒温度(液体窒素温度)、高温端周囲の温度を所定の温度(たとえば室温以上の温度、より具体的にはたとえば60℃)とする。また、通電電流については、最高出力時に想定される最大電流を考える。もっとも厳しい通電条件として、当該最大電流が許容される最大連続運転時間だけ連続通電した場合を想定する。
【0072】
次に、最高温度が、設定下限温度以上、前記超電導機器を構成する部材の材料許容温度以下の設定温度範囲に入ったかどうかを判別する工程(S73)を実施する。この工程では、上記工程(S72)において求めた最高温度が、設計下限温度以上であり、かつ、予め設定されている周辺部材の材料許容温度以下であるかどうかを判別する。具体的には、繊維強化プラスチック(FRP)の健全性を保つことが可能な温度(たとえば80℃程度)を材料許容温度として設定することができる。
【0073】
工程(S73)においてYESと判断された場合、このときの電流リードの断面積の暫定値およびハーネスの断面積の暫定値に基づき計算された最高温度は、設計下限温度から材許容温度までの数値範囲(設計温度範囲)に入っていることになり、該電流リードの断面積の暫定値およびハーネスの断面積の暫定値を、電流リードの断面積の設計値およびハーネスの断面積の設計値として決定する工程(S74)を実施し、上記プロセスは終了する。
【0074】
一方、工程(S73)においてNOと判断された場合、次に、最高温度が設計下限温度以下であるかどうかを判別する工程(S75)を実施する。
【0075】
工程(S75)において、YESと判断された場合には、電流リードの断面積の暫定値を変更する工程(S76)を実施することができる。具体的には、最高温度を上げるために、電流リードの断面積を小さくすることができる。暫定値を変更する際には、任意の間隔で変更すればよい。電流リードの断面積の暫定値を変更した後には、変更した電流リードの断面積の暫定値と、工程(S71)において決定したハーネスの断面積の暫定値とに基づき、再度工程(S72)以下の工程が、工程(S73)においてYESと判断されるまで実施される。
【0076】
工程(S75)において、NOと判断された場合には、ハーネスの断面積の暫定値を変更する工程(S77)を実施することができる。これは、最高温度は材料許容温度以上である場合であることから、具体的には、工程(S77)では最高温度を下げるため、ハーネスの断面積を大きくする必要がある。このときも、ハーネスの断面積を任意の間隔で変更すればよい。ハーネスの断面積の暫定値を変更した後には、変更したハーネスの断面積の暫定値と、工程(S71)において決定した電流リードの断面積の暫定値とに基づき、再度工程(S72)以下の工程が、工程(S73)においてYESと判断されるまで実施される。
【0077】
このようにして、超電導機器使用時の侵入熱を抑制し、かつ、電流リードとハーネスの集合体の最高温度を設計下限温度以上材料許容温度以下とすることができる、電流リードとハーネスを設計できる。また、電流リードの長さは上記工程(S70)において決定された比に基づき決定することができる。
【0078】
なお、上述の設計方法では、電流リードとハーネスとの寸法を設計する際、それぞれの断面積を用いた。上述した設計方法は、たとえば
図2に示した電流リード1およびハーネス2の組合せのように、特別な放熱部材(フィン4など)を備えていない構成に関する設計に適用することができる。本発明の別の実施の形態として、熱容量や放熱性能を規定する値を用いて同様の設計を行うことができる。例えば、
図10を参照して、電流リードおよびハーネスの熱容量を用いてもよいし、
図11を参照して、放熱性能を規定する値を用いてもよい。
【0079】
次に、
図12を参照して、上述した電流リード1とハーネス2とを含む本実施の形態における超電導機器の設計方法(特に電流リード1とハーネス2とを含む給電構造の設計方法)の他の例を説明する。
【0080】
図12に示す本実施の形態に係る超電導機器の設計方法では、まず電流リードの断面積と長さの比を設計値とする工程(S01)を実施する。この工程(S01)は、
図8に示す超電導機器の設計方法における工程(S10)から工程(S50)に相当する。つまり、工程(S01)では、超電導機器使用時の電流頻度分布に基づき総侵入熱を計算し、総侵入熱が最小となるときの電流リードの線径と長さとの比を設計値とする。なお、電流リードの線径に代わり、電流リードの断面積を用いてもよい。
【0081】
ここでは、たとえば電流リードの材料として、比抵抗の小さい任意の材料を想定する。上記電流リードにおける熱平衡の式を、冷媒に満たされた超電導コイル側の低温端温度と、ハーネスとの接続部側の高温端温度とを境界条件として解くことにより、低温端への侵入熱が最小となるときの電流リードの断面積と長さの最適比を求めてもよい。このとき、従来の設計方法(非特許文献1)と同様に、低温端の温度は冷媒温度(たとえば液体窒素温度)とし、高温端の温度は室温としてもよい。また、高温端の温度は、超電導機器の使用環境等を考慮して、通電時に外槽容器の外部において想定される温度としてもよく、たとえば60℃としてもよい。
【0082】
次に、電流リードに流れる通電電流に基づき、電流リードでの電流密度が15A/mm
2超えとなるように電流リードの線径を決める工程(S02)を実施する。異なる観点から言えば、上記最適比から、超電導コイルの通電条件と、そのときの電流密度を考慮して、電流リードの線径の暫定値を規定する。なお、この工程(S02)において電流リードの線径が決まれば、上記工程(S01)で決定した線径と長さの比に基づき電流リードの長さも決まる。
【0083】
次に、ハーネスの線径=電流リードの線径となるようにハーネスの線径を決定する工程(S03)を実施する。この工程(S03)において、ハーネスの線径が電流リードの線径と同じ値(暫定値)に設定される。
【0084】
次に、電流リードとハーネスの組合せに対して、通電時の最高温度を求める工程(S04)を実施する。この工程(S04)では、通電電流および電流リードとハーネスの線径などのサイズ情報に基づき、電流リードとハーネスとが接続された構成における最高温度を算出する。具体的には、電流リードの両端温度を固定せず、電流リードの低温端周囲の温度を冷媒温度(液体窒素温度)、高温端周囲の温度を所定の温度とする。また、通電電流については、最高出力時に想定される最大電流を考える。もっとも厳しい通電条件として、当該最大電流を許容される最大連続運転時間だけ連続通電した場合を想定する。
【0085】
次に、最高温度>周辺部材の材料許容温度という条件が満足されるかどうかを判別する工程(S05)を実施する。この工程(S05)では、上記工程(S04)において求めた最高温度が、予め設定されている周辺部材の材料許容温度より高くなっているかどうかを判別する。当該材料許容温度としては、たとえば外槽容器65(
図1参照)を構成する材料の許容温度を用いることができる。具体的には、繊維強化プラスチック(FRP)の健全性を保つことが可能な温度を材料許容温度として設定することができる。そして、工程(S05)においてYESと判断された場合、ハーネスの線径を太くする工程(S06)を実施する。この工程(S06)では、ハーネスの線径を現在の値(暫定値)から、より大きな値へと変更する。そして、当該工程(S06)の後、再度上記工程(S04)を実施する。このとき、ハーネスの線径は上記工程(S06)において以前より大きな値に変更されているため、ハーネスの熱容量が向上する、放熱特性が改善する、電気抵抗が低下してジュール熱が減少することなどから最高温度は低下する。そして、上記工程(S05)を再度実施する。このように工程(S04)〜工程(S06)を、工程(S05)においてNOと判断されるまで繰り返す。
【0086】
そして、工程(S05)においてNOと判断された場合、電流リードを細くする工程(S07)を実施する。この工程(S07)では、上記最高温度を算出するために設定されている電流リードの線径を、より小さな値へと変更する。この結果、電流リードの電気抵抗値が大きくなり、結果的に最高温度が向上する。
【0087】
次に、最高温度>周辺部材の材料許容温度という条件が満足されるかどうかを判別する工程(S08)を実施する。この工程(S08)では、上記工程(S04)において求めた最高温度が、予め設定されている周辺部材の材料許容温度より高くなっているかどうかを判別する。そして、工程(S08)においてYESと判断された場合、再度工程(S06)を実施してハーネスの線径を太くする。そして、再度工程(S04)および工程(S05)を実施する。この場合、工程(S04)〜工程(S06)は、工程(S05)においてNOと判断されるまで繰り返す。
【0088】
一方、工程(S08)においてNOと判断された場合、次に、最高温度>(周辺部材の材料許容温度―設定値)という条件が満足されるかどうかを判別する工程(S09)を実施する。この工程(S09)では、予め設定されている設定値を材料許容温度から減じることで、当該最高温度が設定されるべき温度範囲の下限を決定しており、当該下限より最高温度が高いかどうかを判別している。そして、工程(S09)においてNOと判断された場合、再度工程(S07)以下の各工程が実施される。
【0089】
一方、工程(S09)においてYESと判断された場合、このときの電流リードおよびハーネスの線径に基づき計算された最高温度は、周辺部材の材料許容温度から所定の設定値を引いた下限値から材許容温度という上限値までの数値範囲に入っていることになり、上記プロセスは終了する。このときの電流リードおよびハーネスの線径の値は、求めるべき電流リードおよびハーネスの線径の設計値として決定される。
【0090】
このようにして、電流リードおよびハーネスの線径が決定される。また、電流リードの長さは上記工程(S01)において決定された比に基づき決定することができる。上述した設計方法は、たとえば
図2に示した電流リード1およびハーネス2の組合せのように、特別な放熱部材(フィン4など)を備えていない構成に関する設計に適用することができる。
【0091】
次に、
図11を参照して、本実施の形態における超電導機器の設計方法のさらに他の例を説明する。
図11に示した超電導機器の設計方法は、
図3〜
図5に示したようなフィン4などを備えるハーネス2および電流リード1の組合せの構成に関して適用されるものであって、基本的には
図12に示した設計方法と同様の構成を備える。ただし、
図11に示した超電導機器の設計方法では、工程(S03)においてハーネスの線径が電流リードの線径と同じになるように設定されるとともに、フィン4などの放熱部材のサイズおよび形状など、ハーネスの熱容量(および放熱特性)を規定する値について暫定値が決定される点、および工程(S05)においてYESと判断された場合に実施される工程が、ハーネスの放熱性能を向上する工程(S16)である点が、
図12に示した超電導機器の設計方法と異なる。
図11に示した設計方法では、上記工程(S16)において、ハーネスの放熱特性を向上させるように、放熱部材の構成を変更する。
【0092】
たとえば、
図13の工程(S01)〜工程(S05)を実施して、当該工程(S05)においてYESと判断されたときに、工程(S16)においてフィン4(
図4、
図5参照)の数を増やす、あるいはフィン4(
図4、
図5参照)の表面積を増大させる、あるいは放熱部材としてのブロック3(
図3参照)のサイズを大きくする、さらにはフィン4またはブロック3などの放熱部材の材質を、変更前の材料よりさらに熱伝導率の高い材料に変更する、といった条件の変更を行う。この後、
図12に示した工程と同様に、工程(S04)に戻り、工程(S04)以降の各工程を実施する。
【0093】
このようにすれば、電流リードの線径およびハーネスの放熱性能(たとえば放熱部材の構成)に基づき計算された最高温度は、周辺部材の材料許容温度から所定の設定値を引いた下限値から材許容温度という上限値までの数値範囲に入っていることになり、このときの電流リードの線径およびハーネスの放熱特性を規定する値(放熱部材のサイズや材質など)は、求めるべき電流リードの線径およびハーネスの放熱特性を規定する値の設計値として決定される。
【0094】
(実験例)
本発明の実施の形態の効果を確認するべく、以下のようなシミュレーション実験を行った。
【0095】
<検討方法1>
はじめに、電流リードのみを考慮して電流リードの設計を行い、電流リードのコイル保持容器側への侵入熱を計算した。具体的には、ある電流頻度分布で運転する超電導機器に対して、電流リードの低温端温度、高温端温度、熱伝導率を同一条件として2つの設計方法により電流リードを設計した。実施例1として、
図7に示す設計方法により電流リードを設計した。比較例1として、従来の設計方法により、最大電流値を用いて電流リードを設計した。設計する際には、電流リードの断面積を定め、それぞれの方法から算出した電流リードの断面積と長さの比から、電流リードの長さを求めた。こうして設計した実施例1および比較例1の二つの電流リードに対し、電流非通電時、平均電流(最大電流の28%)通電時、最大電流通電時のそれぞれの場合で定常状態となったときの侵入熱を計算した。さらに、この超電導機器の電流頻度分布に従って、実施例1および比較例1の電流リードに通電したときの総侵入熱を計算した。
【0096】
<結果1>
計算の結果を下記の表1に示す。なお、総侵入熱は、比較例1での総侵入熱の値を1として比較例1に対する比率として記載した。
【0098】
表1から分かるように、比較例1の系では最大電流通電時の侵入熱を最小化するように設計されているため、最大電流通電時の侵入熱は実施例1と比較して小さいが、時間平均した電流値(I
ave:最大電流の28%)を通電させたときには、当該侵入熱は実施例1と比較して大きくなった。電流頻度分布を考慮して算出した総侵入熱は、比較例1での値を1としたとき、実施例1では0.54と大幅に低減することができることが確認できた。
【0099】
<検討方法2>
次に、ハーネスも考慮して電流リードとハーネスの設計を行い、電流リードのコイル保持容器側への侵入熱および電流リードのハーネス側端部での最高温度をシミュレーションにより求めた。
【0100】
解析対象として、
図14に示すような系を設定した。
図14を参照して、電流リード1がコイル保持容器55および外槽容器65を貫通するように配置されている。また、電流リード1の端部(外槽容器65の外側に位置する端部)には、ハーネス2が接続されている。ハーネス2は、ケース75を貫通して外槽容器65とケース75との間の空間からケース75の外部にまで延在するように配置されている。ケース75とハーネス2との接続部には絶縁体76が配置されている。
【0101】
外槽容器65より外側は大気雰囲気である。ケース75の外部の大気(ケース外大気)およびケース75と外槽容器65との間の大気(ケース内大気)は、ともに同じ温度、熱伝導率とした。
【0102】
また、外槽容器65とコイル保持容器55との間は真空断熱層である。コイル保持容器55の内部には超電導コイルとともに冷媒17としての液体窒素が配置されている。なお、
図14ではハーネス2の直径が電流リード1の直径より大きい場合を示している。
【0103】
実施例2としては、上述の実施例1と同じ寸法を有する電流リード1と、該電流リード1と同じ線径で、所定の長さを有するハーネス2とを設計した。実施例3としては、
図8および
図9に示す本実施の形態の超電導機器の設計方法により、電流リード1およびハーネス2を設計した。具体的には、上述の実施例1と同じ寸法を有する電流リード1の断面積と長さの比を設計値として決定した後、電流リードとハーネスの最高温度を考慮して、電流リード1とハーネス2の寸法を決定した。
【0104】
こうして設計した実施例2および実施例3の系に対して、時間平均した電流値(I
ave:最大電流の28%)を電流リード1およびハーネス2に流すことで定常状態にした後、最大電流で連続通電したときの、通電時間に対する電流リード1のコイル保持容器55側への侵入熱および電流リード1のハーネス2側端部での最高温度をシミュレーションにより求めた。なお、大気温度は60℃とした。
【0105】
<結果2>
シミュレーションの結果を下記の表2に示す。
【0107】
電流リード1のコイル保持容器55側への侵入熱については実施例2と実施例3とは大きな差は無かった。一方で、電流リード1のハーネス2側端部での最高温度は、実施例2の系の場合に比べて、実施例3の系では、表2のように低下した。実施例3の系はより最高温度が低く、超電導機器の外槽容器65やコイル保持容器55等を構成する繊維強化プラスチック(FRP)の健全性を保つことが可能な温度であることが分かった。このように、本発明の実施の形態に係る実施例3のように
図8および
図9の設計フローに従って電流リード1とハーネス2との寸法を決定し、ハーネス2の線径を電流リード1の線径より大きくする(つまりハーネスの熱容量を電流リードの熱容量より大きくする)ことによって、電流リード1のハーネス2側端部の最高温度を低減することができた。
【0108】
<検討方法3>
次に、電流リードの断面積と長さの比L/Aに応じて、電流リードのコイル保持容器側への侵入熱がどのように変化するのか計算により確認した。具体的には、電流リードの断面積と長さとの比L/Aが異なる電流リードに対し、電流非通電時、平均電流通電時、最大電流通電時のそれぞれの場合で定常状態となったときの侵入熱を計算した。さらに、この超電導機器の電流頻度分布に従って、電流リードの断面積と長さとの比L/Aが異なる電流リードに通電したときの総侵入熱を計算した。
【0109】
<結果3>
計算結果を
図15に示す。
図15の横軸は電流リードの断面積と長さの比L/A(単位:1/m)を示し、縦軸は電流頻度分布を考慮して算出した電流リードのコイル保持容器側への相対総侵入熱を表わす(上記比較例1の場合を1としている)。電流リードの断面積と長さの比L/A(単位:1/m)が13492である点が、上記比較例1にあたる。電流リードの断面積と長さの比L/Aを比較例1より小さく設計した電流リードでは、電流リードのコイル保持容器側への総侵入熱が比較例1よりもさらに増していた。また、電流リードの断面積と長さの比L/Aを比較例1より大きく設計した電流リードでは、電流リードのコイル保持容器側への総侵入熱が比較例1よりも減少した。電流リードの断面積と長さの比L/Aを実施例1のように設計するとき、総侵入熱が極小となった。電流リードの断面積と長さの比L/Aを実施例1よりも大きくしていくと、電流リードのコイル保持容器側への総侵入熱が実施例1よりもさらに増していき、電流リードの断面積と長さの比L/Aがある値以上となると、比較例1での総侵入熱以上となることが分かった。
【0110】
さらに、このときの電流リードの断面積と長さの比L/Aに対する、電流リードのコイル保持容器側への総侵入熱は、C
1×L/A+C
2×1/(L/A)+C
3で表わされる式の曲線上にあることが確認された。ここでC
1、C
2、C
3は、設計条件に依存するパラメータであり、最小二乗法を用いたフィッティングによって最適に決定される。上記式において、第一項は電流リードにおいて生じるジュール熱成分であり、第2項は熱伝導成分と考えられる。つまり、電流リードのコイル保持容器側への侵入熱は、電流リードに通電された電流によるジュール熱成分と、コイル保持容器の外部から電流リードを介した熱伝導成分との和で説明することができることが確認された。
【0111】
上述のように、電流リードのコイル保持容器側への侵入熱はジュール熱成分と熱伝導成分との和で説明することができることが分かったが、このことから以下のことが導かれる。
図15中においてジュール熱成分と熱伝導成分とを併せて図示しているが、ジュール熱成分は電流リードの断面積と長さの比L/Aと比例する関係にあり、熱伝導成分は電流リードの断面積と長さの比L/Aと反比例する関係にある。そのため、電流リードの長さが短くかつ電流リードの断面積が大きくなるほど、該電流リードに生じるジュール熱を小さくすることができるが、該電流リードは多くの熱を伝導させる。一方、電流リードの長さが長くかつ電流リードの断面積が小さくなるほど、該電流リードを介して超電導コイルに伝導する熱量を小さくすることができるが、該電流リードに生じるジュール熱は大きくなる。電流リードの断面積と長さの比L/Aをある範囲内とすることにより、侵入熱を上記比較例1の場合よりも低減できることが確認された。言い換えると、電流リードの断面積と長さの比L/Aを変数xとし、電流頻度分布を考慮して算出した総侵入熱をyとしたときに、y=C
1×x+C
2×1/x+C
3で表わされる曲線とy=Q
conで表わされる直線とが交わる点を計算する問題になる(C
1×x+C
2×1/x+C
3=Q
conの方程式の解)。ここで、Q
con=I
max{L
0(T
H2−T
L2)}
1/2であり、比較例1での侵入熱にあたる。xはゼロではないので、両辺にxをかけることができ、xについての2次方程式となる。その解は2つ存在し、以下の数式2で与えられる。該2点のうち小さい値超えであって、かつ他の大きい値未満とする数値範囲内に電流リードの断面積と長さの比L/Aを設けることにより、従来の超電導機器の電流リードの設計方法により得られる電流リードと比べて外部から超電導コイルへの総侵入熱を低減することができることが分かった。
【0113】
なお、上記関係式を満足する2点のうち1点は上述した比較例1に相当し、他の1点は比較例2とし、表3に電流リードの断面積と長さの比L/Aと侵入熱の計算結果を示す。
【0115】
比較例2は、該L/A比が大きく、ジュール熱成分が寄与しない非通電時には熱伝導を効果的に抑制することができるため侵入熱を抑制できているが、最大電流通電時の侵入熱は比較例1以上に大きかった。時間平均した電流値(I
ave:最大電流の28%)を通電させたときには、比較例2における侵入熱は実施例1と比較して大きく、比較例1よりも小さかった。
【0116】
また、比較例1の電流リードの断面積と長さの比L/A超えであって、比較例2の電流リードの断面積と長さの比L/A未満である数値範囲内において、実施例1の電流リードの断面積と長さの比L/Aは、電流頻度分布を考慮して算出した総侵入熱を効果的に低減することができる設計値であることが確認できた。
【0117】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上述の実施の形態および実施例を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。