【解決手段】本発明の人工磁気導体は、誘電体基板と、誘電体基板の表面に形成されており、パッチパターンとループパターンと所定の間隙を有して形成されたループパターンとから構成された基本セルと、基本セルが縦横に周期的に誘電体基板の表面に配列された周波数選択表面と、誘電体基板の裏面に形成されている導体膜とを備え、誘電体基板における入射波と反射波との位相変化を、間隙における第1の位相変化と、誘電体基板における基本セル及び導体膜間における第2の位相変化との加算値とし、当該加算値を用いて所定の演算式により誘電体基板の厚さが算出されていることを特徴とする。
前記周波数選択表面及び前記導体膜間の距離である前記誘電体基板の厚さに応じて生じる位相回転量である前記第2の位相変化と、前記周波数選択表面を構成する基本セルにおける前記パッチパターン及び前記ループパターン間の前記間隙により形成される静電容量による前記第1の位相変化とを加算した加算位相変化量に基づき、前記誘電体基板の厚さが決定される
ことを特徴とする請求項1に記載の人工磁気導体。
所定の周波数帯域において、前記パッチパターン及び前記ループパターンのいずれか一方が誘導性リアクタンスを有する場合、他方が容量性リアクタンスとなるように、前記周波数選択表面を形成する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の人工磁気導体。
複数の周波数に対応させる周波数特性を有する場合、前記複数の周波数の各々の誘電体厚と位相との変化曲線を求め、その位相が前記複数の周波数全てにおいて±45%°以内となるように、前記誘電体基板の厚さが求められている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の人工磁気導体。
前記パッチパターンが多角形で形成されている場合、前記多角形の頂点部分の領域を、当該頂点と多角形の中心を結ぶ線に対して垂直方向に削り、より頂点の数を増加させることで、前記周波数選択表面の周波数特性を調整することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の人工磁気導体。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態による人工磁気導体(メタマテリアル)の構成例を示す図である。本実施形態における寸法はあくまで一例であり、以下説明するように2.4GHz帯と5GHz帯との各々の周波数の電磁波を透過させるための寸法である。他の周波数を透過させようとする場合には、当然に各部の寸法は対象の周波数に応じて異なったものとなる。この
図1は、後述する本発明における人工磁気導体の基本構成の概念図である
図20の構成を、以下に示す実施形態に対応させてより具体化したものである。
【0021】
図1(a)は、人工磁気導体の平面図を示している。
図1(a)に示すように、基本セル100は、パッチ101と、パッチ101を取り囲むように形成されたループ102とから構成されている。人工磁気導体(メタマテリアル)10は、表面に一辺が19mmの基本セル100が所定の間隔(本実施形態においては1.0mm)にて縦横に周期的に配置されている。本実施形態において、人工磁気導体10は、一例として3(行)×3(列)の9個の基本セル100から構成され、一辺が59mmの正方形である。人工磁気導体10は、基本セル100が2×2以上の配列数であれば設定された特性で機能する。パッチ101は、金属などの所定の厚さの導体層で形成されたパターン(パッチパターン)であり、例えば一辺が11mmの正四角形の頂点を、頂点と正四角形の中心を結ぶ線に垂直な線で切り取って8角形とされている。また、パッチ101は、誘電体基板12(後述)の面上にマトリクス状に、隣接する他のパッチ101に対して一定の距離を有して周期的に配列されている。ループ102は、パッチ101と同一面においてパッチ101の外周を取り囲むように形成され、所定の幅を有する導体の層(パッチ101と同様の導体層)から形成されたパターン(ループパターン)である。ここで、ループ102は、外周の一辺が18mmの正方形であり、内周の辺がパッチ101の辺と所定の距離(本実施形態においては1.0mm)の間隙を有している。ループ102は、パッチ101を取り囲むように、内周がパッチ101の外周に対応し、所定の距離の間隙を有して形成されている。
【0022】
図1(b)は、
図1(a)における線分A−Aにおける人工磁気導体の断面図を示している。FSS(Frequency Selective Surface;周波数選択表面)11は、誘電体基板12における地板13の形成された面の裏面に形成されている。また、FSS11は、パッチ101及びループ102の各々のパターンから形成された人工磁気導体10の表面層である。誘電体基板12は、比誘電率ε
r、厚さtの誘電体の基板である。地板13は、金属などの導体で形成されたグランドプレーン(接地面)である。一般的には、FSS11のフィルタ特性及び誘電体基板12の厚さdの各々を調整して、所定の周波数の反射板としての人工磁気導体10が作成される。
【0023】
図2は、
図1の人工磁気導体10を反射板としたアンテナ装置の構成例を示す概念図である。
図2は、アンテナ装置を横から見た図である。支持体200において、支持体200の面200Aに対して垂直に、支持体200における面200Aと反対の面200Bに、突起状の固定壁201が対向するように形成されている。この固定壁201の各々の対向する面においては、溝の深さ方向が面200Aに対して平行なスリット202が設けられている。このスリット202に対し、反射器(反射板)となる人工磁気導体10の端部が挿入され、人工磁気導体10が支持体200に固定される。
【0024】
また、支持体200の中央部には開口部203が形成され、この開口部203を塞ぐように面200Aにアンテナ基板300が配設されている。アンテナ基板300と人工磁気導体10との対向する面の距離は、例えば5mmから15mmに設定されている。このアンテナ基板300と人工磁気導体10との対向する面の距離は、アンテナ装置の指向性により設定する。ここで、アンテナ基板300と人工磁気導体10とは、電磁波が放射される面と電磁波を放射する面とが平行に配置されている。また、人工磁気導体10は、アンテナ基板300と対向する面が、FSS11が形成された面である。また、アンテナ基板300から放射された電磁波は、人工磁気導体10により反射されアンテナ装置からR方向に放射される。
【0025】
図3は、
図1の人工磁気導体10を反射板としたアンテナ装置の他の構成例を示す概念図である。
図3は、アンテナ装置を横から見た図である。支持体211には、支持体211を貫通する穴250が形成されている。この穴250の対向する内面の側壁には、溝の深さ方向が面211Aに対して平行なスリット212が設けられている。このスリット212に対し、反射板となる人工磁気導体10の端部が挿入され、人工磁気導体10が支持体211に固定される。また、支持体211の穴250を塞ぐように面211Aにアンテナ基板310が配設されている。アンテナ基板310と人工磁気導体10との対向する面の距離は、
図3と同様に、例えば5mmから15mmに設定されている。このアンテナ基板300と人工磁気導体10との対向する面の距離は、アンテナ装置の指向性により設定する。また、人工磁気導体10は、アンテナ基板310と対向する面が、FSS11が形成された面である。また、アンテナ基板310から放射された電磁波は、人工磁気導体10により反射されアンテナ装置からR方向に放射される。
【0026】
<人工磁気導体の設計>
本実施形態においては、以下の人工磁気導体10の設計における演算に用いる、基本セル100が配置されるFSS11のフィルタ特性、すなわちSパラメータS
11(反射係数)、S
12(透過係数)、S
21(透過係数)、S
22(反射係数)の各々については、実測あるいはシミュレーションによって求めている。ここで、シミュレーションは、FDTD(Finite Difference Time Domain method)法、あるいは有限要素法を用いた電磁界・電磁場解析のシミュレーションである。すでに述べたが、本実施形態においては、ある特定の周波数でPMC(Perfect Magnetic Conductor)特性を示す、地板13とFSS11との距離dを設定することにより、人工磁気導体10を設計する。
【0027】
以下、本実施形態においては、特定の2つの周波数、例えば2.4GHz及び5GHzの各々の周波数でPMC特性を有する人工磁気導体10の設計法について説明する。
図4は、入射した電磁波の人工磁気導体10における反射波(Reflected wave)及びFSS11のSパラメータの関係を説明する概念図である。この
図4において、誘電体基板12の表面にFSS11が形成され、裏面に地板13が形成されている。誘電体基板12のFSS11が形成されている表面における電磁波の反射係数がS
11であり、表面から誘電体基板12の内部に透過する電磁波の透過係数がS
21である。また、誘電体基板12に入射し、地板13で反射して表面を透過する電磁波の透過係数がS
12であり、FSS11及び誘電体基板12の界面で反射する電磁波の反射係数がS
22である。基本モデル(非特許文献2)においては、誘電体基板12において、位相回転量φ
ε(第2の位相変化)のみ位相変化が発生し、地板13に電界が入射して、その反射位相が−π(rad)となると記載されている。
【0028】
また、本実施形態においては、論理が簡易な近似レイ理論を設計法として用いる。近似レイ理論は、全電磁界を異なる電磁波の加算により、電磁波の特性を直接的に演算することができる。後述するが、本実施形態においては、発明者の考案した物理モデルにより、従来の近似レイ理論を拡張し、より精度の高い人工磁気導体の設計が行える演算式を実現している。
【0029】
図5は、人工磁気導体10のFSS11が形成されている面に対して垂直に電磁波(平面波)を入射させた際の反射波の経路を示す図である。この
図5において、
図4と同様に、誘電体基板12の表面にFSS11が形成され、裏面に地板13が形成されている。入射される電磁波に対して|S
11|倍の振幅を有する反射波R
0が、人工磁気導体10のFSS11により反射される。反射波R
0は、誘電体基板12と地板13との界面において一度も反射していない。すなわち、反射波R
0は、誘電体基板12と地板13との界面における反射が0回である。
【0030】
また、入射される電磁波に対して|S
21|倍の透過波が誘電体基板12に入射される。入射した電磁波は誘電体基板12と地板13との界面において反射し、再度、FSS11と誘電体基板12との界面に入射する。ここで、FSS11と誘電体基板12との界面を透過すると反射波R
1となる。反射波R
1は、入射される電磁波に対して|S
21|・|S
12|倍の透過波が空間に放射される。反射波R
1は、誘電体基板12と地板13との界面において1回反射している。
【0031】
一方、入射した電磁波は、誘電体基板12と地板13との界面において反射し、かつ、FSS11と誘電体基板12との界面において反射する。そして、再度、誘電体基板12と地板13との界面において反射し、FSS11と誘電体基板12との界面に入射する。ここで、FSS11と誘電体基板12との界面を透過すると反射波R
2となる。この反射波R
2は、誘電体基板12と地板13との界面において2回反射している。そして、人工磁気導体10に入射された電磁波が、誘電体基板12と地板13との界面においてN回反射した反射波が反射波R
Nとなる。
【0032】
上述した誘電体基板12と地板13との界面における反射回数がN=0、1、2の場合の電磁波R
0の電界E
0、電磁波R
1の電界E
1、電磁波R
2の電界E
2それぞれは、以下の(1)式、(2)式及び(3)式でそれぞれ表される。本実施形態において、jは虚数単位である。
【0034】
上記(1)式において、位相φ
11は、FSS11及び誘電体基板12の界面において、空間に反射された際の反射位相を示している。S
11は反射係数である。
【0036】
上記(2)式において、位相φ
21は、FSS11及び誘電体基板12の界面において、FSS11側から誘電体基板12側に透過した際の透過位相を示している。また、位相φ
12は、FSS11及び誘電体基板12の界面において、誘電体基板12側からFSS11側に透過した際の透過位相を示している。位相回転量φ
εは、FSS11及び誘電体基板12の間における位相回転量である。S
21及びS
12は透過係数である。また、位相回転量φ
εは、FSS11と誘電体基板12との距離、すなわち誘電体基板12の厚さdに応じて生じる位相回転量である。
【0038】
上記(3)式において、位相φ
22は、FSS11及び誘電体基板12の界面において、誘電体基板12側に反射された際の反射位相を示している。また、位相φ
21は、FSS11及び誘電体基板12の界面において、FSS11側から誘電体基板12側に透過した際の透過位相を示している。位相φ
12は、FSS11及び誘電体基板12の界面において、誘電体基板12側からFSS11側に透過した際の透過位相を示している。位相回転量φ
εは、FSS11及び誘電体基板12の間における位相回転量である。S
21及びS
12は透過係数である。S
11及びS
22は反射係数である。
【0039】
そして、誘電体基板12と地板13との界面における反射回数が1以上の場合、反射波R
0から反射波R
N全体の合成電界は、初項E
1及び公比rで示される等比級数として表される。公比rを以下の(4)式により示す。
【0041】
上記(4)式の公比rを用いて、反射波R
0から反射波R
N全体の合成電界E
totalを、以下の(5)式により表す。
【0043】
(5)式において、N→∞(無限大)とする。これにより、r
N→0となり、(5)式が以下の(6)式として表すことができる。
【0045】
ここで、電界E
totalの偏角が人工磁気導体10の反射位相φ
FSSとなる。
図6は、FSS11に表面に対し、入射した電磁波の電界をE
inとし、反射位相φ
FSSと位相回転量φ
shiftとの対応関係を複素平面上で表した図である。縦軸が虚数軸(Im(E
total))であり、横軸が実数軸(Rm(E
total))である。
電界E
inを複素平面上において1とすると、電界E
totalの偏角が0のとき、電界の偏角と位相回転量φ
FSSとが一致する。ことのき、位相回転量φ
shiftは0となり、人工磁気導体10は完全磁気導体の特性を示す。
【0046】
また、上述した説明において、位相回転量φ
shiftは、
図6に示すように、反射位相φ
FSSの回転方向に対応して正負の値を有している。したがって、虚部I
m(E
total)=0であり、実部R
e(E
total)>0のとき、位相回転量φ
shiftが0となる。また、反射回数Nが十分大きいとき、実部R
e(E
total)が概ね正の値をとることが判っているため、arg(E
total)=0となる条件として、E
total=0とする。
上記(6)式に対し、(1)式、(2)式及び(3)式の各々を代入し、かつE
total=0を代入すると、以下の(7)式が得られる。
【0048】
これにより、誘電体基板12に入射した電磁波の位相回転量φ
εは、以下の(8)式で表すことができる。
【0050】
上述した物理モデル(すなわち、基本モデル)の場合、計算された位相回転量φ
εは位相回転量φ
shiftに相当する。
図4におけるFSS11のSパラメータ(S
11、S
12、S
21、S
22)に基づいて、誘電体基板12で必要な位相回転量φ
ε(すなわち、位相回転量φ
shift)を求める。
【0051】
図7は、(8)式により求めた人工磁気導体10に入射する電磁波の周波数と、誘電体基板12における位相変化量φ
εとの対応関係を示すグラフである。この
図7において、縦軸は反射位相変化量(Required Phase Shift、単位deg.)を示しており、横軸は入射する電磁波の周波数(Frequency、単位GHz)を示している。
図7のグラフに示されるように、+及び−の位相回転量φ
εは、共に3GHzにおいて位相回転量φ
εが「0」となっている。
【0052】
また、誘電体基板12における位相回転量φ
εは、以下の(9)式により表すことができる。
【0054】
上記(9)式において、fが入射する電磁波の周波数であり、dが誘電体基板12の厚さであり、ε
effが実効比誘電率であり、cが光速である。
ここで、実効比誘電率ε
effは、以下の(10)式で表すことができる。この(10)式において、ε
rが比誘電率であり、Wがパッチ101のパターンの幅であり、dが誘電体基板12の厚さであり、tがパッチ101及びループ102の各々のパターンの膜厚である。
【0056】
また、(10)式におけるF(W/d)は、以下の(11)式により表される。
【0058】
しかしながら、上記(6)式、(9)式、(10)式及び(11)式の各々から算出して求めた位相回転量φ
εは、有限要素法による電磁界シミュレーションの結果と一致しないことが確認された。したがって、実際には(9)式で示される位相変化量より大きな位相変化が生じていることが考えられる。そこで、以下に示すように、人工磁気導体10における電磁波の反射系における物理モデルの考察を行った。
【0059】
ここで、本実施形態におけるFSS11の基本セル100は、
図1に示すように、パッチ101及びループ102の各々から構成されている。基本セル100のパッチ101は、ループ102の内側に構成されており、面積がAP(=116.5mm
2)であり、外周がL
p(=40.5mm)である。基本セル100のループ102は、面積がAL(=165.125mm
2)であり、外周L
l(=72mm)である。ここで、波長短縮率ηを考慮すると、パッチ101の構造の並列共振周波数f
Pは(12)式で表され、ループ102の構造の並列共振周波数f
Lは(13)式で表される。(12)式及び(13)式において、cは光速であり、c=3×10
8m/sである。
【0062】
上記(12)式及び(13)式の各々における波長短縮率ηは、以下の(14)式により与えられる。
【0064】
パッチ101のパターンの幅wが18mm、パッチ101のパターンの厚さtが0.035mmとすると、(10)式及び(11)式より、実効比誘電率ε
effは、4.05と求まる。この実効比誘電率ε
effを(14)式に代入し、波長短縮率ηを算出する。そして、算出結果を(12)式及び(13)式の各々に代入し、並列共振周波数f
P及び並列共振周波数f
Lの各々を求める。結果として、(12)式から並列共振周波数f
Pが3.68GHzと求まり、(13)式から並列共振周波数f
Lの各々を求める。結果として、(12)式から並列共振周波数f
Pが2.07GHzと求められた。
【0065】
ここで、入射する電磁波の周波数がパッチ101の並列共振周波数f
Pより低い場合、パッチ101は容量性リアクタンスの特性となる。同様に、入射する電磁波の周波数がループ102の並列共振周波数f
Lより低い場合、ループ102は容量性リアクタンスの特性となる。また、入射する電磁波の周波数がパッチ101の並列共振周波数f
Pより高く、かつ並列共振周波数f
Pの2倍以下である場合、パッチ101は誘導性リアクタンスとなる。同様に、入射する電磁波の周波数がループ102の並列共振周波数f
Lより高く、かつ並列共振周波数f
Lの2倍以下である場合、ループ102は誘導性リアクタンスとなる。
また、入射する電磁波の周波数がパッチ101の並列共振周波数f
Pの2倍以上であり、かつ並列共振周波数f
Pの3倍以下である場合、パッチ101は容量性リアクタンスとなる。同様に、入射する電磁波の周波数がループ102の並列共振周波数f
Lの2倍以上であり、かつ並列共振周波数f
Lの3倍以下である場合、ループ102は容量性リアクタンスとなる。
【0066】
すなわち、パッチ101が容量性リアクタンスの特性となる場合の関係は、入射される電磁波の周波数をfとすると、以下のように示すことができる。
f<f
P 、2f
P<f<3f
P
同様に、ループ102が容量性リアクタンスの特性となる場合の関係は、入射される電磁波の周波数をfとすると、以下のように示すことができる。
f<f
L 、2f
L<f<3f
L
また、パッチ101が誘導性リアクタンスの特性となる場合の関係は、入射される電磁波の周波数をfとすると、以下のように示すことができる。
f
P<f<2f
P
同様に、ループ102が誘導性リアクタンスの特性となる場合の関係は、入射される電磁波の周波数をfとすると、以下のように示すことができる。
f
L<f<2f
L
【0067】
ここで、周波数2.4GHz〜2.5GHzの場合、並列共振周波数f
Pが2.07GHzであり、並列共振周波数f
Pが3.68GHzであるため、パッチ101は容量性リアクタンスの特性を有し、ループ102は誘導性リアクタンスの特性を有する。
一方、周波数5GHz〜6GHzの場合、並列共振周波数f
Pが2.07GHzであり、並列共振周波数f
Pが3.68GHzであるため、パッチ101は誘導性リアクタンスの特性を有し、ループ102は容量性リアクタンスの特性を有する。
【0068】
また、有限のインピーダンスを有するFSS11及び地板13の各々と、誘電体基板12とにより構成されたシート状の構造においては、有限のインピーダンスを有するFSS11上にエバネッセント波(Evanescent wave)が生成されることが知られている(例えば、篠田裕之、「素材表面に形成する光速ネットワーク」、計測と制御、Vol.46、No.2、2007参照)。
このエバネッセント波が、誘導性リアクタンスの特性を有するパッチ101及びループ102のいずれか一方のパターンにおいて、入射した電磁波により発生し、容量性リアクタンスの特性を有する他方のパターンに対して遷移する。
【0069】
すなわち、パッチ101及びループ102のパターン間の間隙(ギャップ)を介して、誘導性リアクタンスのパターンから容量性リアクタンスのパターンに、誘導性リアクタンスのパターンで発生したエバネッセント波が伝達される。そして、この容量性リアクタンスのパターンから、エバネッセント波が誘電体基板12に対して入射する。この結果、基本モデルにはない、パッチ101及びループ102のパターン間の間隙における位相変化を考慮し、人工磁気導体10における電磁波の反射系における物理モデルの修正を行った。
【0070】
図8は、本実施形態の修正した物理モデルによる入射した電磁波の人工磁気導体10における反射波(Reflected wave)及びFSS11のSパラメータの関係を説明する概念図である。この
図8において、誘電体基板12の表面にFSS11が形成され、裏面に地板13が形成されている。誘電体基板12のFSS11が形成されている表面における電磁波の反射係数がS
11であり、表面から誘電体基板12の内部に透過する電磁波の透過係数がS
21である。また、誘電体基板12に入射し、地板13で反射して表面を透過する電磁波の透過係数がS
12であり、FSS11及び誘電体基板12の界面で反射する電磁波の反射係数がS
22である。
【0071】
また、誘導性(Inductive)リアクタンスのパターンにおいて発生したエバネッセント波(Evanescent wave)が容量性リアクタンスのパターンに伝達された後、誘電体基板12に入射されている。ここで、パターン間(すなわち、パッチ101とループ102との間)の間隙における容量をCgとする。そして、この容量Cgを有する間隙における位相変化を位相変化φ
g(第1の位相変化)としている。上述したエバネッセント波における位相変化φ
gが基本モデルにおける誤差となっていると考えられる。すなわち、(9)式で示される位相変化量より大きな位相変化がこの位相変化φ
gに相当することが考えられる。
【0072】
図9は、本実施形態における人工磁気導体10を構成するパッチ101及びループ102の各々のパターン間における間隙を説明する図である。この
図9において、誘電体基板12の表面にFSS11が形成され、裏面に地板13が形成されている。誘電体基板12のFSS11におけるパッチ101のパターンの幅がW
Pであり、ループ102のパターンの幅がW
Lである。また、パッチ101のパターン及びループ102のパターンの間の間隙の距離はgである。パッチ101のパターンの幅と、ループ102のパターンの幅と、間隙の距離gとを加算した加算距離がaである。ε
rは誘電体基板の比誘電率であり、ε
0は空間の比誘電率である。Vはループ102とパッチ101との間の電位差である。
【0073】
パッチ101のパターン及びループ102のパターンの間の間隙に生じる容量Cgは、以下に示すように、2次元静電界分布により表すことができる。すなわち、本実施形態による修正された物理モデルにおいて、パッチ101のパターン及びループ102のパターンの各々の間、すなわち間隙における電束の分布Ψは、以下の(15)式により表すことができる。
【0075】
上記(15)式において、aは上記加算距離であり、gはパッチ101及びループ102の各々のパターン間の間隙の距離であり、Vはループ102とパッチ101との間の電位差である。また、ε
rは誘電体基板の比誘電率であり、ε
0は空間の比誘電率である。
そして、ループ102のパターンの一辺(長さW
P+2W
L+2
g)に一様な電束が分布している場合、パッチ101及びループ102のパターン間の間隙の静電容量C
gは、C=Q/Vから、以下の(16)式により表される。
【0077】
図10は、静電容量C
gによる位相変化φ
gについて説明する概念図である。静電容量C
gによる電磁波であるエバネッセント波(Evanescent wave)の位相変化量は、間隙における静電容量を二端子網として見なした際の反射位相(反射係数S
11)から得られる。すなわち、間隙の静電容量C
gによる位相変化φ
gは、arg(S
11)により求められる。位相変化φ
gは、以下の(17)式及び(18)式の各々により求められる。ここで、(17)式は、反射係数S
11を示している。
【0080】
上記(17)式及び(18)式の各々において、Z
0は特性インピーダンスであり、ωは伝搬する電磁波の角周波数である。C
gは、パッチ101及びループ102のパターン間の間隙の静電容量である。(17)式及び(18)式の各々において、Z
0=50Ωとする。
【0081】
パッチ101及びループ102のパターン間の間隙における位相変化φ
gを考慮した場合の、位相回転量φ
shiftは、以下の(19)式により求められる。
【0083】
上記(19)式において、ε
effは実効比誘電率を示し、fは電磁波の周波数を示している。cは光速を示している。Z
0は特性インピーダンスであり、ωは伝搬する電磁波の角周波数である。C
gは、パッチ101及びループ102のパターン間の間隙の静電容量である。
図11は、(19)式により求めた、誘電体基板12の厚さと位相回転量との関係を示す図である。この
図11において、縦軸は位相変化φ
shiftを示し、横軸が誘電体基板12の厚さdを示している。実線が電磁波の周波数がf=2.45GHzの場合の関係を示し、破線が電磁波の周波数がf=5.44GHzの場合の関係(変化曲線)を示している。
【0084】
また、(19)式を用いて、(6)式を書き換えると、反射波の電界E
totalは、以下の(20)式により表される。
【0086】
上記(20)式より、人工磁気導体10全体における反射位相φ
AMCは、以下の(21)式を用いて計算することにより求めることができる。
【0088】
図12は、(21)式を用いた演算結果と電磁界シミュレーション結果とにおける周波数及び反射位相の各々の対応関係を比較する図である。この
図12において、縦軸は反射位相φ
AMCを示し、横軸は電磁波の周波数を示している。
図12から判るように、基本モデル(Basic model)で求めた結果は、電磁界シミュレーション(FEM simulation)の結果とあまり一致していない。この基本モデルは、間隙の静電容量G
gによる位相変化φ
gを考慮せずに、(9)式で示された誘電体基板12における位相回転量φ
εのみを考慮したモデルである。
しかしながら、本実施形態における修正モデル(Modified model)の(21)式で求めた結果は、電磁界シミュレーションの結果と、基本モデルと比較して良く一致していることが判る。
【0089】
上記(21)式において、反射位相を「0」とする条件として、E
total=0とすることにより、誘電体基板12の厚さdの設計式を求めることができる。ここで、(8)式により計算される位相回転量φ
εを要求位相変化量φ
shiftとすると、以下の(22)式が求まる。
【0091】
そして、上記(22)式を(19)に代入し、誘電体基板12の厚さを求める以下の(23)式を求める。また、(23)式において、要求位相変化量φ
shiftは、必ず負の値となるように、絶対値を取り、かつ負の符号を付してある。
【0093】
単一周波数のみで完全磁気導体の特性を示す人工磁気導体10を生成する場合、(23)式を用いて、反射させる電磁波の周波数に対応させた、誘電体基板12の厚さdを算出すれば良い。ここで、(23)式により、FSS11(周波数選択表面)による位相回転量φ
εと、FSS11上に形成されたパッチ101のパターン及びループ102のパターン間の間隙により形成された静電容量による位相変化φ
gとを加算した加算位相変化量に基づき、誘電体基板12の厚さdが決定される。すなわち、(23)式は、FSS11のSパラメータに基づいた誘電体基板12において必要な位相変化量φ
shiftから、C
gによる位相変化φ
gを減算して得られた、誘電体基板の厚さのみで決定される位相回転量φ
ε(厚さ位相変化)を算出し、この位相回転量φ
εから誘電体基板12の厚さdを算出している。
図13は、(23)式により求めた、必要な誘電体基板12の厚さ(Required Substrate Thickness)dと電磁波の周波数(Frequency)との関係を示すグラフである。
図13において、縦軸は必要な誘電体基板12の厚さを示し、横軸は電磁波の周波数を示している。ここで、誘電体基板12の厚さdが負となる周波数領域における誘電体基板12は作成することができない。本実施形態の場合、異なる2つの周波数帯域において、人工磁気導体10を完全磁気導体の特性を得るための誘電体基板12の厚さdの検討を行う。
【0094】
図14は、(23)式により求めた、固定された周波数における反射位相φ
shift(Reflection Phase at Fixed Frequency)と必要な誘電体基板12の厚さ(Required Substrate Thickness)dとの関係を示すグラフである。この
図15において、縦軸は反射位相φ
shiftを示し、横軸は誘電体基板12の厚さdを示している。また、実線が電磁波の周波数が2.45GHzの場合の反射位相φ
shiftと厚さdとの対応を示す変化曲線を示し、破線が電磁波の周波数が5.44GHzの場合の反射位相φ
shiftと厚さdとの対応を示す変化曲線が示されている。
【0095】
図13においては誘電体基板12の厚さdの決定が困難である。このため、
図14においては、誘電体基板12の厚さdを変更しつつ、(23)式により反射位相を求めた結果として、誘電体基板12の厚さdと反射位相φ
shiftとの対応を求めている。
図4から判るように、誘電体基板12の厚さdが0.5mm〜2.3mmの範囲であれば、2.45GHz及び5.44GHzの各々の周波数の電磁波の反射位相φ
shiftが±45°以内に入るため、人工磁気導体10の特性を完全磁気導体の特性に近づけることができる。
【0096】
図15は、(23)式により求めた誘電体基板12の厚さd(Substrate Thickness)と、この厚さdを求めた際におけるパッチ101のパターン及びループ102のパターン間の間隙の距離(Gap between Patch and Loop)との関係を示す図である。この
図15において、縦軸が誘電体基板12の厚さdを示し、横軸がパッチ101のパターン及びループ102のパターン間の間隙の距離を示している。また、実線が周波数2.45GHzの周波数に対応して求めた曲線であり、一方、破線が周波数5.44GHzの周波数に対応して求めた曲線である。
【0097】
ここで、
図14で説明したように、誘電体基板12の厚さdが0.5mm〜2.3mmの範囲であれば、2.45GHz及び5.44GHzの各々の周波数の電磁波の反射位相φ
shiftが±45°以内に入る。この誘電体基板12の厚さdが0.5mm〜2.3mmの範囲においては、2.45GHz及び5.44GHzの各々の誘電体基板12の厚さdがその厚さを求めた際におけるパッチ101のパターン及びループ102のパターン間の間隙の距離より大きいことが判る。すなわち、
図15のグラフおいて、2.45GHz及び5.44GHzの各々の曲線上の座標において、0.5mm〜2.3mmの範囲の任意の厚さdに対応する間隙の距離は、誘電体基板12の厚さdに対して小さい数値となっている。
【0098】
したがって、誘電体基板12の厚さdが0.5mm〜2.3mmの範囲において、誘電体基板12の厚さdを(23)式により算出した際、この誘電体基板12の厚さdが上記曲線上において対応する間隙の距離より大きくなっている。そして、この誘電他基板12の厚さdと間隙の距離との関係において、2.45GHz及び5.44GHzの各々の周波数の電磁波の反射位相φ
shiftが±45°以内に入り、人工磁気導体10の特性を完全磁気導体の特性に近づけることができる。
【0099】
一方、単一周波数のみで完全磁気導体の特性を示す人工磁気導体10を生成する場合、反射位相φ
shiftが0°となる膜厚を設定することにより、完全磁気導体を得ることができる。例えば、入射する電磁波の周波数において2.45GHzの周波数で完全磁気導体とする場合、誘電体基板12の厚さdを1.5mmとすることにより、2.45GHzにおいて反射位相が0°となる完全磁気導体の人工磁気導体10を作成することができる。また、入射する電磁波の周波数において5.44GHzの周波数で完全磁気導体とする場合、誘電体基板12の厚さdを2.3mmとすることにより、5.44GHzにおいて反射位相が0°となる完全磁気導体の人工磁気導体10を作成することができる。
【0100】
そのため、例えば、誘電体基板12の厚さdの設計値を、2.45GHz及び5.44GHzの各々の周波数で位相が0°となる誘電体基板12の平均値に近い1.6mmと設定する。これにより、本実施形態においては、(23)式に基づいて、アンテナ用反射板として用いる場合、2つの周波数において±45°以内に反射位相となる誘電体基板の厚さdを、簡易に設定することができ、2つの周波数の双方を満足させる反射板とすることができる。
【0101】
上述したように、本実施形態によれば、入射した電磁波がエバネッセント波として、誘導性パターンから容量性パターンに伝搬する際の位相変化φ
gを、誘電体基板12における位相回転量φ
εに加えた物理モデルを用いて、誘電体基板12の厚さを演算する演算式を用い、誘電体基板12の厚さdを設定することで、製造した人工磁気導体10が設計値に対してより近い特性を持たせることが可能となり、高い精度で特定の周波数帯域に対応する人工磁気導体10を提供することができる。
【0102】
<周波数の微調整>
次に、FSS11を構成するパッチ101及びループ102のパターン形状が、三角形以上の頂点を有する多角形で構成されている場合、パターン形状を変更することによる周波数特性の調整について説明する。この周波数特性は、Sパラメータにおける反射係数S
11が極小値を取る周波数を示している。
この周波数特性の調整は、多角形で構成されているパッチ101のパターン形状において、頂点と多角形の中心とを結ぶ線分に対して直角の線分により、頂点の領域を切断する(面取りする)ことにより行う。
【0103】
すなわち、パッチ101のパターン形状を、より頂点の多い多角形の形状に変更する。このパッチ101のパターン形状の変更において、パッチ101のパターンの頂点を増加させることにより、FSS11のフィルタ特性における反射係数S11に対する周波数を低くする調整が行える。このとき、パッチ101を取り囲むループ102は、内周の辺がパッチ101の外周の辺といずれの位置においても同一の距離の間隙を有する。このため、ループ102は、内周の辺がパッチ101の外周の辺に対応した面取りがされている。
【0104】
図16は、FSS11における基本セルパターン100を構成するパッチ101及びループ102のパターン形状の変更を説明する概念図である。
図16における数値は、寸法(単位mm)を示している。
図16(a)は、正四角形のパターン形状のパッチ101からなる基本セル100を示している。
図16(b)は、
図16(a)のパッチ101の頂点の領域を切断し、八角形のパターン形状のパッチ101からなる基本セル100を示している。
図16(a)において、パッチ101の外周が正四角形であるため、ループ102の内周は、パッチ101と相似形の正四角形の形状となっている。一方、
図16(b)において、パッチ101の外周が八角形であるため、ループ102の内周は、パッチ101と相似形の八角形の形状となっている。
【0105】
図17は、
図16(a)及び
図16(b)の各々の基本セル100のパターン形状におけるフィルタの周波数特性を比較する図である。
図17において、縦軸が反射係数S
11の位相特性(S
11 Phase)を示し、横軸が入射される電磁波の周波数(Frequency)を示している。この周波数特性は、基本セル100を3×3に配列したFSS11により行った。破線が正四角形のパターン形状の
図16(a)に示すパッチ101の場合における反射係数S
11と入射する電磁波の周波数との関係を示している。一方、実線が八角形のパターン形状の
図16(b)に示すパッチ101の場合における反射係数S
11と入射する電磁波の周波数との関係を示している。この
図17から判るように、面取りを行うことにより、より低い周波数において反射係数S
11が極小値となる。したがって、面取りを行って、徐々に多角形化させて円形状に近づけていくことにより、反射係数S
11の位相特性を低周波側に変化させ、FSS11の周波数特性を微調整することができる。
【0106】
他に多用される多角形としては、三角形、五角形、六角形、八角形、十角形などがある。しかしながら、パッチの大きさによっては、面取り回数が少なくても円に近い形状となり、ある頂点の数を有する多角形において、周波数の低下が飽和することが考えられる。
上述したように、本実施形態によれば、基本セル100においてパッチ101の面取りを行い、面取りしたパッチ101の外周に対応するよう、ループ102の内周の形状の面取りを行うことにより、基本セル100の面積を代えることなく、反射係数S
11の位相特性を低周波側に補正(調整)することができる。
【0107】
<人工磁気導体を用いたアンテナ用反射器>
図2に示すように、本実施形態における人工磁気導体10は、アンテナ装置において、アンテナ基板300から放射される電磁波を反射し、指向性のアンテナ装置の電磁波の放射方向に放射させる。この電磁波を反射させる反射板として、本実施形態による人工磁気導体10を用いている。
アンテナ用反射器としては、支持体200が主たる構成となる。この支持体200に対して、人工磁気導体10の反射板を取り外し可能となるように配設する。すなわち、本実施形態においては、スリット202に対して、人工磁気導体10の対向する辺の端部を挿入して、アンテナ基板300と対向するように配設されている。
【0108】
本実施形態によれば、人工磁気導体10の対向する辺の端部を挿入して、固定しているため、着脱可能の構成となっており、アンテナに指向性を持たせるか否かにより、人工磁気導体10の着脱を行うことができる。
また、従来の人工磁気導体は、設計値に対して精度の高い周波数特性が得られないため、着脱可能とする際の配設の誤差により、大きく周波数特性がずれてしまう。
しかしながら、本実施形態によれば、設計値に対応した精度の高い周波数特性を有する人工磁気導体10を反射板として用いるため、着脱可能としても従来の人工磁気導体に比較して高い精度の周波数特性を得ることができる。
また、本実施形態によれば、反射板に人工磁気導体を用いているため、反射板を着脱可能とするアンテナ用反射器を小型に構成することができ、アンテナ装置自体を小型化することが可能となる。
【0109】
図18は、2.45GHzに対応して作成した人工磁気導体10を反射板とした際の指向性を示す放射パターンの図である。
図18において、方位角のアンテナパターンを極座標で示しており、円の直径方向の軸がアンテナ利得(dBi)を示している。
図1における人工磁気導体10の反射面がz軸方向に対して直角のため、
図18においてはYZ平面におけるアンテナパターンを示している。
実線が本実施形態における人工磁気導体10を反射板として用いた場合の放射パターンを示している(HP: horizontall polarization、すなわち水平偏波の場合)。メインローブがバックローブ及びサイドローブに比較して強度が強く、反射器が2.45GHzの電磁波を良く反射し、アンテナ装置が指向性を有することが判る。破線が本実施形態における人工磁気導体10を反射板として用いた場合の放射パターンを示している(VP:vertical polarization、すなわち垂直偏波の場合)。全体的に実線の場合に比較して強度は大きいが、実線の場合と同様に、メインローブがバックローブ及びサイドローブに比較して強度が強く、反射器が2.45GHzの電磁波を良く反射し、アンテナ装置が指向性を有することが判る。
【0110】
一方、一点鎖線が反射板を取り外した場合の放射パターンを示している(HPの場合)。メインローブ、バックローブ及びサイドローブの各々が同等の強度を有しており、反射器が2.45GHzの電磁波が全方位に放射され、アンテナ装置が指向性を有さないことが判る。二点鎖線が反射板を取り外した場合の放射パターンを示している(VPの場合)。一点鎖線の場合と同様に、メインローブ、バックローブ及びサイドローブの各々が同等の強度を有しており、反射器が2.45GHzの電磁波が全方位に放射され、アンテナ装置が指向性を有さないことが判る。
【0111】
図19は、2.45GHzに対応して作成した人工磁気導体10(AMC、完全磁気導体)を反射板とした場合、及び銅などの完全電気導体(PEC)を反射板とした場合におけるアンテナの指向性を示す放射パターンの図である。
図19において、
図18と同様に、方位角のアンテナパターンを極座標で示しており、円の直径方向の軸がアンテナ利得(dBi)を示している。
図1における人工磁気導体10の反射面がz軸方向に対して直角のため、
図19においてはYZ平面におけるアンテナパターンを示している。
実線が本実施形態における人工磁気導体10を反射板として用いた場合の放射パターンを示している(HPの場合)。破線が本実施形態における人工磁気導体10を反射板として用いた場合の放射パターンを示している(VPの場合)。実線及び破線ともに、メインローブの強度がバックローブの強度に比較して強く、反射器が2.45GHzの電磁波を良く反射し、アンテナ装置が指向性を有することが判る。
【0112】
一方、一点鎖線が本実施形態における完全電気導体を反射板として用いた場合の放射パターンを示している(HPの場合)。二点鎖線が完全電気導体を反射板として用いた場合の放射パターンを示している(VPの場合)。一点鎖線及び二点鎖線ともに、メインローブの強度がバックローブの強度に比較して強いが、本実施形態の人工磁気導体10を反射板として使用した場合に比べ、メインローブとサイドローブとの比が小さい。
したがって、本実施形態の人工磁気導体10を用いた場合には、従来の完全電気導体を用いた場合に比較して、2.45GHzの電磁波の放射の指向性を向上させることができる。また、従来の完全電気導体を用いた反射板の場合、アンテナ基板と反射板との離間距離が30mm以上必要であり、本実施形態の人工磁気導体10を用いた場合には、離間距離が15mm程度で済むため、アンテナ装置を従来に比較して小型化することができる。
【0113】
図20は、本発明の人工磁気導体における入射波及び反射波間の位相変化量を求める概念を示す図である。この
図20において、
図20(a)は、平面視における誘電体基板12の表面12Sが示されている。また、
図20(b)は、
図20(a)の人工磁気導体における線分A−Aによる断面が示されている。
図20に示すように、誘電体基板12(誘電体基板)の表面12Sには、基本セル100(基本セル)が縦横に周期的に配列されたFSS(Frequency Selective Surface、周波数選択表面)11が形成されている。ここで、基本セル100(基本セル)は、パッチパターンであるパッチ101と、パッチ101と所定の間隙(距離g)を有して形成されたループパターンであるループ102から構成されている。また、誘電体基板12(誘電体基板)の裏面12Rには、基本セル100(基本セル)の配列した領域と平面視において重なるように形成された導体膜である地板13(導体膜)が形成されている。
本発明においては、誘電体基板12(誘電体基板)の厚さdを求める際、誘電体基板12(誘電体基板)における入射波と反射波との位相変化を、距離gの間隙における位相変化φ
g(第1の位相変化)と、誘電体基板12(誘電体基板)における基本セル100(基本セル)及び地板13(導体膜)間における位相回転量φ
ε(第2の位相変化)との加算値として求める。そして、誘電体基板12(誘電体基板)の厚さdは、求めた加算値に基づいて所定の演算式(例えば、(23)式)により算出されている。
【0114】
すなわち、
図20(b)において、位相変化φ
g(第1の位相変化)と位相回転量φ
ε(第2の位相変化)との対応関係が示されている。すでに説明したように、人工磁気導体10における反射波(Reflected wave)の位相変化(加算値)は、ループ101及びループ102の間の間隙(距離g)により形成される容量C
gによる位相変化φ
g(第1の位相変化)と、誘電体基板12(誘電体基板)の厚さdに基づく位相回転量φ
ε(第2の位相変化)との加算された数値である。この位相変化φ
g(第1の位相変化)は、誘導性リアクタンスのパターンで生成されたエバネッセント波(Evanescent wave)が容量C
gを介して容量性パターンに伝達されることにより発生する。
【0115】
図20(b)においては、例えば、人工磁気導体10に入射する電磁波(入射波:Incident wave)が2.45GHzの場合、パターン102が誘導性リアクタンスを有し、パターン101が容量性リアクタンスを有する。このため、エバネッセント波(Evanescent wave)は、パターン102で発生して、パターン101及びパターン102間の容量C
gを介して、パターン101に対して伝達される。
一方、人工磁気導体10に入射する電磁波(入射波:Incident wave)が5.44GHzの場合、パターン101が誘導性リアクタンスを有し、パターン102が容量性リアクタンスを有する。このため、エバネッセント波は、パターン101で発生して、パターン101及びパターン102間の容量C
gを介して、パターン102に対して伝達される。
入射波(Incident wave)が2.45GHzあるいは5.44GHzのいずれの周波数の場合においても、誘導性リアクタンスのパターンで生成されたエバネッセント波(Evanescent wave)が容量C
gを介して容量性パターンに伝達されることにより、発生する位相変化φ
g(第1の位相変化)は同一である。
【0116】
そして、FSS(Frequency Selective Surface、周波数選択表面)11において、パターン102及びパターン102間におけるエバネッセント波(Evanescent wave)が伝達される距離により、位相変化φ
g(第1の位相変化)が生じる。この後、エバネッセント波(Evanescent wave)には、パターン101から誘電体基板12(誘電体基板)に対して入射され、この誘電体基板12(誘電体基板)及び地板13(導体膜)との界面で反射され、誘電体基板12(誘電体基板)の厚さdによる位相回転量φ
ε(第2の位相変化)が生じる。すなわち、位相回転量φ
ε(第2の位相変化)は、基本セル100(基本セル)及び地板13(導体膜)の間で生じる位相変化である。したがって、入射波(Incident wave)と反射波(Reflected wave)との位相変化は、位相変化φ
g(第1の位相変化)と位相回転量φ
ε(第2の位相変化)とが加算された数値となる。したがって、本発明においては、加算値として求めた誘電体基板12(誘電体基板)における入射波と反射波との位相変化から、位相変化φ
g(第1の位相変化)を減算することにより、誘電体基板12(誘電体基板)の厚さdに基づく位相変化量である位相回転量φ
ε(第2の位相変化)が求められ、誘電体基板12(誘電体基板)の厚さdが所定の演算式(例えば、(23)式)により算出される。
【0117】
なお、本発明における人工磁気導体を設計する機能における数式処理を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、人工磁気導体を設計する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0118】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。