【解決手段】 脈波を検出するセンサ10と、センサ10によって取得された脈波の波形データに基づいて、被検者の血圧値を算出する処理部30とを備え、処理部30は、脈波の波形データと血圧の実測値との相関関係に基づいて構築された検量式に基づいて、脈波の取得データから血圧値を推定するデータ処理手段を備えることを特徴とする。また、前記処理部は、前記脈波の波形データと、血圧の実測値との相関関係に基づいて検量式を構築するデータ解析手段を備えることを特徴とする。
前記処理部は、前記脈波の波形データと、血圧の実測値との相関関係に基づいて検量式を構築するデータ解析手段を備えることを特徴とする請求項1記載の血圧測定装置。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】血圧測定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】FBGセンサを用いて取得した脈波波形の例を示すグラフである。
【
図3】取得した波形データを周期ごとに切り出したときの波形の例を示すグラフである。
【
図4】時間幅規格化処理を行った脈波の波形を示すグラフである。
【
図5】波長変位規格化処理を行った脈波の波形を示すグラフである。
【
図6】肘の脈波の波形データ(時間幅規格化処理のみ)に基づいて推定した血圧値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【
図7】手首の脈波の波形データ(時間幅規格化処理のみ)に基づいて推定した血圧値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【
図8】肘の脈波の波形データ(時間幅規格化処理と波長変位規格化処理)に基づいて推定した血圧値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【
図9】手首の脈波の波形データ(時間幅規格化処理と波長変位規格化処理)に基づいて推定した血圧値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【
図10】肘の脈波データに基づいて検量モデルを構築した際のローディング波形のグラフである。
【
図11】被検者の脈波の波形データを時間幅規格化、波長変位規格化したグラフである。
【
図12】クロスバリデーションを行った際のPLSファクター毎のPRESS値を示すグラフである。
【
図13】被検者から取得したデータに基づいて構築した参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図14】参照値と予測値の検証結果を示すグラフである。
【
図15】被検者から取得した脈波の波形データを波長変位規格化と時間幅規格化処理した後の波形を示すグラフである。
【
図16】被検者から取得した脈波の波形データに基づいて予測値を検証した結果を示すグラフである。
【
図17】ファクター数を4として検量モデルを構築した際の検証結果を示すグラフである。
【
図18】取得した脈波のデータにノイズ処理のフィルタ処理を施した波形を示すグラフである。
【
図19】拡張期血圧の脈波の例を示すグラフである。
【
図20】脈波の波形データを波長変位規格化したグラフである。
【
図21】脈波の波形データを時間幅規格化したグラフである。
【
図22】脈波の波形データを波長変位規格化と時間幅規格化したグラフである。
【
図23】手首から取得した脈波のデータについて、規格化処理を行わないで検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図24】手首から取得した脈波のデータについて、波長変位規格化して検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図25】手首から取得した脈波のデータについて、時間幅規格化して検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図26】手首から取得した脈波のデータについて、波長変位規格化と時間幅規格化して検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図27】肘から取得した脈波のデータについて、規格化処理を行わないで検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図28】肘から取得した脈波のデータについて、波長変位規格化して検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図29】肘から取得した脈波のデータについて、時間幅規格化して検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図30】肘から取得した脈波のデータについて、波長変位規格化と時間幅規格化して検量モデルを構築した場合の参照値と予測値の相関関係を示すグラフである。
【
図31】脈波データに基づいて収縮期(a)と拡張期(b)の検量モデルを構築した際のローディング波形を示すグラフである。
【
図32】収縮期(SBP)と拡張期(DBP)のローディング波形の、ファクター1、2、3を抜き出して示すグラフである。
【
図33】FBGセンサによって検知された脈波の基本波形を示すグラフである。
【
図34】FBGセンサにより検知した脈波とファクター1の波形を示すグラフである。
【
図35】被検者A、B、Cについてのローディング波形のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(血圧測定装置の構成)
図1は、本発明に係る血圧測定装置の構成例を示すブロック図である。この血圧測定装置は、被検者の脈波を測定する部位、たとえば手首の内側位置、肘の内側位置といった脈波を検出しやすい部位に取り付ける、脈波のデータを検出するセンサとしてのFBGセンサ10と、FBGセンサ10に入射させるレファレンス用の光源12と、FBGセンサ10からの反射光を検出する光検出器20と、光検出器20の検出結果に基づいて血圧値を算出する処理部30とを備える。
【0012】
FBGセンサ10は1本の光ファイバ内に所定間隔をあけて回折格子構造を形成したもので、実験では、FBGセンサ10として、センサ部分の長さ10mm、波長分解能±0.1pm、波長範囲1550±0.5nmのものを使用した。ファイバーの直径は145μm、コア径10.5μmである。
後述する測定例では、手首と肘を測定部位とし、FBGセンサ10を医療用テープを用いて貼り付ける方法で取り付けた。FBGセンサが取り付け位置で位置ずれするおそれがある場合には、FBGセンサを皮膚に接触させた状態で、スポンジなどの緩衝材を介して包帯で巻いて取り付ければよい。
【0013】
光源12には、波長範囲1525〜1570nmのASE(Amplified Spontaneous Emission)光源を使用した。光源12からの出射光は、サーキュレータ16を介してFBGセンサ10に入射させる。
FBGセンサ10からの反射光は、サーキュレータ16を介してマッハツェンダー干渉計18に導き、マッハツェンダー干渉計18からの出力光を光検出器20によって検知する。マッハツェンダー干渉計18は、ビームスプリッタにより光路差のある2つの光路に分離し、再びビームスプリッタにより一つに重ね合わせて干渉光を作り出すためのものである。光路差をつけるため、本例では一方の光ファイバの長さを長くしている。コヒーレント光は、光路差に応じて干渉縞が生じるから、干渉縞のパターンを測定することによってFBGセンサに生じた歪の変化、すなわち脈波を検知することができる。
【0014】
本明細書においては、FBGセンサの歪み量を検出して、脈波の波形を検出する手段を光ファイバセンサシステムという。光ファイバセンサシステムは、FBGセンサ10に入射させる光源12の他に、広い帯域のASE光源とする手段、サーキュレータ16、マッハツェンダー干渉計18、ビームスプリッタといった光学系や、光検出器20が備える受光センサや、波長シフト量を解析する解析手段を含む。
光ファイバセンサシステムは、使用するFBGセンサの特性に応じて光源や帯域光を選択して使用することができ、検波方法等の解析手段についても種々の方法を採用することができる。本発明は、光ファイバセンサシステムの機能や方式がとくに限定されるものではない。
【0015】
処理部30は、光検出器20によるFBGセンサ10からの光信号の検出結果に基づいて脈波の波形データを検出し、検出した脈波波形に基づいて血圧値を予測(推定)する機能を備える。後述するように、脈波の波形と血圧値には特定のデータ処理を行うことにより相関関係を見出すことができる。したがって、
図1に示す血圧測定装置を利用することにより、被検者の血圧を連続的に計測することができる。
【0016】
実験例1
被検者の脈波波形と血圧値(収縮期血圧)との相関関係について調べるため、以下のような実験、及び解析を行った。
FBGセンサを用いて脈波を検出するため、手首の内側の動脈の位置と、肘の内側の動脈の位置にそれぞれFBGセンサを取り付け、手首の脈波と肘の脈波を検出した。脈波の波形と血圧値との相関関係を見るため、FBGセンサを用いて脈波波形を検出する際に、同時に、自動血圧計(オムロン社製電子血圧計:HEM-120)を用いて、被検者の血圧値をモニターした。実験は、手首の脈波と、肘の脈波について別個に行った。測定は仰臥位で行い、データを取得する1回の測定時間は15秒、サンプリング周波数は10kHzである。
【0017】
(脈波の解析方法)
図2は、
図1に示す測定装置を用いて検出した脈波波形の例である。
図2は、脈波波形の実際のデータ例である。脈拍に対応してFBGセンサに生じた歪みの変化が周期的な脈波として捉えられている。
取得した脈波の波形と血圧値との相関関係を解析するため、本実験では、説明変数をFBGセンサによって取得した脈波(脈波のデータ)とし、目的変数を自動血圧計によって取得した収縮期血圧として、PLS回帰分析方法を利用して解析した。
自動血圧計を用いる血圧測定は連続測定ではないため、参照血圧測定時点に対応するFBGセンサの一つの脈波データ(1周期のデータ)を説明変数とする。ただし、自動血圧計を用いる血圧測定は連続測定ではないことと、自動血圧計ではカフを使用して測定するから、測定時点が正確にはわからない。このため、参照血圧の測定時に直近の脈波データを説明変数として選択するが、実際上は、参照血圧の測定時点と、説明変数として選択するFBGセンサの脈波データの測定時点とは厳密には一致しない可能性がある。
PLS回帰分析方法は、参照値である血圧計による参照血圧値にも誤差があることを前提とし、参照値の誤差を目的変数として逐次的に減少させていく解析手法であり、脈波データと血圧値の相関関係を解析する有効な方法である。
【0018】
図3は、最高血圧値が113mmHg、123mmHg、130mmHgのときのFBGセンサを用いた測定波形である。これらの波形は自動血圧計を用いて測定した参照血圧に対応する測定時点の脈波データとして抽出したものである。
図3の脈波波形を見ると、血圧値が異なると脈波の1周期の時間が異なることがわかる。そこで、データ処理対象である脈波の周期を合わせるため、解析対象とする全データのうち、最も周期が短い脈波の時間幅で解析対象とする脈波波形を切り出す処理(時間幅規格化処理)を行う。
【0019】
図4に、
図3の脈波波形について、時間幅規格化処理を行ったグラフを示す。この処理により、各波形の終端側のデータがカットされ、全ての波形の時間幅が一致する。
図4は
図3に示す脈波データについて時間幅規格化処理を行った例で、実際には、解析対象とした全ての脈波データについて時間幅規格化処理を行って解析した。
時間幅規格化処理を行う意図は、
図3に示すように、脈波の終端側(右上昇部分)で差が大きく表れることから、この部分を削除し、脈波の本体部分(0.8sec以前の範囲)を解析対象として考えるということである。
【0020】
図4の時間幅規格化処理を行った波形について、波長変位量(縦軸)をみると、血圧値によって変位量が異なることがわかる。波長変位量は、FBGセンサの歪みの大きさに相当するもので、血圧が異なると、FBGセンサの歪みの大きさも異なることを示している。
本実験では、検量モデル構築のため、波長変位量を規格化する処理(波長変位規格化処理)を行った場合と、波長変位量を規格化する処理を行わない場合について解析を行った。
図5は、
図3に示した各波形のグラフについて、波長変位規格化処理を行ったグラフを示す。ここでは、波長変位の最小値を0、波長変位の最大値を1とするように規格化処理を行った。波長変位量を規格化する処理としては、たとえば、最小値-1、最大値+1とするといったように、適宜規格化条件を設定することができる。
【0021】
(解析結果)
図6は、肘にFBGセンサを取り付けて測定した脈波の波形データに基づく血圧値と、自動血圧計により取得した血圧値との相関関係を示す。
図7は手首にFBGセンサを取り付けて測定した脈波の波形データに基づく血圧値と、自動血圧計により取得した血圧値との相関関係を示す。
図6、7で、グラフ中の■印は、PLS回帰分析方法により取得波形から血圧値を予測した予測値であり、○印は検証値である。肘についての測定データ数は、検量作成用(■印)として75個、検証用(○印)として25個である。手首についての測定データ数は、検量作成用(■印)として75個、検証用(○印)として24個である。
【0022】
図6、7に示した解析結果は、FBGセンサを用いて取得した脈波の波形データを処理する際に、時間幅規格化処理のみを行い、波長変位規格化処理を行わずにPLS回帰分析を行ったものである。
表1に、
図6、7に示した、肘と、手首についての検量結果と自動血圧計による測定結果との相関関係を示す。表1の相関係数と、標準推定誤差(SEC)、標準予測誤差(SEP)をみると、時間幅規格化処理のみ行って回帰分析処理する方法では、脈波の取得波形に基づく血圧値の推定値と実測値との相関関係は低いことを示している。
【表1】
【0023】
図8、9は、肘と手首にそれぞれFBGセンサを取り付けて取得した脈波波形について、時間幅規格化処理と波長変位規格化処理をともに行って得た脈波のデータに基づき、回帰分析方法により予測した血圧値と、自動血圧計により取得した血圧値のデータとの相関関係を示す。グラフ中のの■印は、FBGセンサを用いて取得した脈波波形から予測した血圧値、○印は検証値である。
【0025】
表2に、
図8、9に示した、時間幅規格化処理と波長変位規格化処理を行った脈波のデータについて、波形データから推定した血圧値と実測値との相関関係等を示す。
表2に示すように、FBGセンサによる取得波形データから推定した血圧値と自動血圧計による血圧値とは良い相関関係を示している。相関係数及びSEC、SEPともに、表1に示した波長変位規格化処理を行わないデータ処理による場合と比較して高い相関関係にある。また、肘の脈波データと手首の脈波データを比較すると、肘から取得した脈波データの方がより良い相関関係にある。
【0026】
波長変位規格化処理は、FBGセンサを測定部位に取り付ける際の押しつけ圧力のばらつきや、測定時にFBGセンサが位置ずれすることによる測定データのばらつきを平均化する作用を有すると考えられる。波長変位規格化処理は、このような測定時のばらつきに起因するノイズを抑え、波形データと血圧の実測値をの相関関係の精度を向上させる上で有効であると考えられる。
【0027】
図10は、肘から取得した脈波データに基づいて検量モデルを構築した際のローディング波形を示す。このローディング波形は、1周期の脈波のうち、脈波が開始する時点から0.1sec、0.2sec周辺のデータが検量モデルに大きく影響することを示している。上記血圧測定では、心臓の収縮期血圧を測定している。脈波は心臓が収縮を開始するときからのデータを反映するから、脈波の開始時近傍のデータが血圧値(収縮期血圧)との相関関係により強く寄与していると考えられる。
実験例では、最適因子が4因子であり、ファクター数を4とした検量モデルで誤差が最小になった。したがって、上記検量モデルではファクター数を4として検量モデルとの相関関係を見た。
【0028】
(脈波を利用する血圧測定方法)
上述した実験及び解析結果は、血圧を測定しようとする被検者の肘、手首といった脈波を検知しやすい部位にFBGセンサを配置して脈波の波形データを取得することにより、被検者の血圧値を十分に予測できることを示している。
具体的には、FBGセンサを用いて取得した脈波の波形データと、波形データを取得する際に同時に取得した血圧の実測値との相関関係に基づいて、脈波の波形データと血圧値との相関関係を表す検量式(検量線)を構築し、検量式を構築した後は、この検量式に基づいて、被検者から脈波の波形データを取得して血圧値を予測する。
【0029】
検量式が構築されれば、被検者の肘、手首等の脈波を検出しやすい部位にFBGセンサを取り付けて脈波の波形を検出することにより、連続的に被検者の血圧値(収縮期血圧)を測定することができる。FBGセンサは肘や手首の一個所に装着すればよいから、体を動かしたりしても脈波のセンシングに影響を与えることがなく、連続的に血圧測定するような場合でも無理のない血圧測定が可能になるという利点がある。
【0030】
脈波の波形データと血圧の実測値との相関関係に基づく検量式は、被検者が異なる場合には異なる可能性があるから、
図1に示す血圧測定装置を用いて血圧を連続測定するといった場合には、被検者ごとに、事前に脈波の波形データと血圧の実測値を取得して検量式を構築する操作を行い、構築した検量式に基づいて血圧値を測定する。また、同じ被検者であっても時間の経過とともに体調等が変わる可能性があるから、時期をみて、血圧値を実測して、検量式を構築しなおしする(較正する)のがよい。
【0031】
図1に示す血圧測定装置の処理部30は、FBGセンサ10を用いて取得した脈波の波形データと血圧の実測値とから検量式を構築するためのデータ解析手段と、検量式に基づいて脈波の取得データから血圧値を決める(推定する)データ処理手段とを備える。処理部30はまた、必要に応じて、被検者の血圧値を記録する記録手段、血圧値を表示する表示手段、各種制御操作を行うための入力手段等を備えることができる。
【0032】
なお、上記実施形態においては、収縮期血圧(最大血圧)を参照血圧値として解析を行ったが、拡張期血圧(最低血圧)を参照血圧値として脈波の波形データとの相関関係を見出すことにより、FBGセンサを用いて検出した脈波の波形データに基づいて拡張期血圧を推定することも可能である。
【0033】
実験例2
実験例1と同様にFBGセンサを用いて被検者の脈波波形を取得し、PLS回帰分析方法を利用して検量モデルを構築し、脈波の波形データから推定した血圧値と実測した血圧値との相関関係についてさらに実験を行った。
20代男性3名(A、B、C)を被検者とし、FBGセンサを手首の脈波検出位置に医療用テープで固定し、仰臥位で脈波を測定した。脈波測定におけるサンプリング周波数は10kHzである。FBGセンサによる脈波の測定と同時に、上腕で電子血圧計により収縮期血圧を測定して参照値とした。脈波データは電子血圧計による1回の測定開始から終了までの間を1セットとして取得し、当該脈波データを平均化する処理を行って使用した。被検者毎に50回の測定を行った。
【0034】
図11は、被検者A、B、Cについて取得した脈波を処理した後の波形を示す。波形の処理は、ノイズ除去のためバンドパスフィルタ(0.5<f<5)に脈波を通し、脈波のピークを基準点として、1心拍毎に脈波を切り取り、脈波の最も短い時間幅でカットし(時間幅規格化)、体動によるノイズを低減させるため、脈波測定時間中に表れた1心拍脈波を平均し、ベースライン変動の影響を除去するため、脈波の最初の点を1とし、最小値を0とする波長変位規格化を行ったものである。
図11から、被検者ごとに脈波形状がかなり異なっていることがわかる。
【0035】
次に、
図11に示す波長変位規格化した脈波を説明変数、参照収縮期血圧を目的変数としてPLS回帰分析方法により検量モデルを構築した。検量モデルの構築には被検者3名(A、B、C)から取得した150の取得データから125のデータセットを無作為に選定して検量モデルを構築し、残りの25セットでモデルの検証を行った。モデルの精度評価にはleave-one-out法によるクロスバリデーションを使用した。PLSファクター数を増加させ、F検定によりPRESS値(予測残差平方和)に有意差がないと判断された際のファクター数を採用した。
電子血圧計の精度基準として、聴診法との平均較差が5 mmHg以内にあることが規定されている。以下の解析では、精度基準を満たした電子血圧計を用いて測定した収縮期血圧を基準値とし、基準値との平均較差が5mmHg以内となることを目標とした。
【0036】
図12に、leave-one-out法によるクロスバリデーションを行った際のPLSファクター毎のPRESS値を示す。F検定の結果、ファクターが8とファクター9でPRESS値の差が有意でないと判定されたため、PLSファクター数として8を採用した。
図13は、3名の被検者から取得したデータに基づいて構築した検量モデルの構築データであり、
図14は検証結果を示す。
【0037】
表3に検量モデルの構築結果、表4に検証結果についてまとめた。表3から、検量モデルの予測値と血圧参照値の相関関係は高度に有意であり、平均較差は目標精度を達成していることがわかる。また、表4から、検証結果の平均較差が3mmHgであり、高精度に収縮期血圧を予測可能であるという結果が得られた。
【表3】
【表4】
【0038】
検量モデルの構築に用いた被検者A、B、Cとは別の被検者(D、E、F)についてFBGセンサを用いて血圧測定(測定回数各25回)を行い、上述した検量モデルについて検証を行った。
図15に被検者(D、E、F)について取得した脈波の波形データを波長変位規格化と時間幅規格化処理した後の波形を示す。
図16は、被検者(D、E、F)について検証した結果を示す。表5は、被検者D、E、Fの平均較差と被検者全体の平均較差を示す。表5で、被検者全体の平均較差は目標精度を満たしたものの、被験者Eについては目標精度を満たしていない。
【表5】
【0039】
表5で被検者Eのみが目標精度を満たさなかった理由として、PLSファクター数が8と多く、オーバーフィッティングしている可能性が考えられる。そこで、ファクター数を1から8まで変化させ、検量モデルを新たに構築し、被検者(D、E、F)の脈波を使用して検証した。ファクター数毎の検証結果を表6に示す。
【表6】
表6で着色部分は、各列での最小値を示す。最小値をみると、ファクター数が4で被検者E、Fと全体の平均較差が最小値となり、ファクター数が5の時に被検者Dの平均較差が最小となっている。ファクター4における被検者Dの平均較差は3.5 mmHgであり、十分に小さいことから、ファクター数4が最適なファクターである可能性がある。
【0040】
図17は、ファクター数を4として検量モデルを再構築した際の検証結果を示す。参照値と予測値の相関係数は0.95と高度に有意となり、また全ての被検者について目標精度を満たした。
上述した本手法により構築した検量モデルは、被検者A、B、Cの取得データに基づいて作製した検量式(検量線)が別の被検者D、E、Fに適用しても十分な精度で血圧値を推定できることを示すものであり、汎用的な血圧測定方法として利用できる可能性を示している。すなわち、被検者ごとにあらかじめキャリブレーションするといった操作をすることなく、検量モデルとして利用できる可能性を示唆する。
【0041】
実験例3
実験例1と実験例2は、ともにFBGセンサを用いて取得した脈波から収縮期の血圧を予測した例である。以下では、拡張期の血圧に着目して、取得した脈波の波形データから血圧値を推定する方法について説明する。
前述した脈波検知方法と同様に、FBGセンサを手首に取り付けた場合と肘に取り付けた場合について、それぞれ脈波を計測し、同時に、自動血圧計を用いて被検者の血圧値(拡張期血圧)をモニターした。脈波の測定回数を100回、サンプリング周波数を10kHzとした。
【0042】
図18は、FBGセンサを用いて取得した脈波にノイズ処理のためのフィルタ処理を施した波形である。一回の血圧測定で取得した1セットの脈波データからピーク位置を基準として1パルスを切り出し、1パルスの平均波形を算出して解析用の基礎データとする。
なお、FBGセンサを用いて得られる脈波の波形は加速度脈波であり、容積脈波の2次微分に相当する。すなわち脈波のピーク位置間で切り出したパルスは、容積脈波の1パルス分に相当する。
図19は、拡張期血圧が63mmHg、65mmHg、75mmHgのときの脈波のデータであり、脈波の最小の時間幅でカットしたものである。
図20は、脈波の高さを1に規格化(波長変位規格化)した波形、
図21は、1パルスの長さ(時間)を1に規格化(時間幅規格化)した波形、
図22は、高さと長さを1に規格化(波長変位と時間幅の規格化)した波形である。なお、時間幅を規格化する方法には、最小の時間幅でカットする方法と、時間幅を1(sec)に規格化する方法があるが、いずれの方法でも、推定精度には差はなかった。
【0043】
図23〜26は、被検者A、B、Cの手首から取得した脈波のデータについて、規格化処理を行わない場合(
図23)、波長変位規格化のみを行った場合(
図24)、時間幅規格化のみを行った場合(
図25)、波長変位規格化と時間幅規格化の双方を行った場合(
図25)で、PLS回帰分析方法により構築した検量モデルによる推定値と実測値との相関関係を示すグラフである。
図27〜30は、肘から取得した脈波のデータについて、規格化処理を行わない場合(
図27)、波長変位規格化を行った場合(
図28)、時間幅規格化を行った場合(
図29)、波長変位規格化と時間幅規格化を行った場合(
図30)について回帰分析方法による推定値と実測値との相関関係を示すグラフである。
【0044】
回帰分析方法により構築した検量モデルによる血圧の推定値と拡張期血圧との相関関係を調べるため、それぞれの被検者の測定100回の中から無作為に75個のデータセットを取り出して検量モデルを構築し、残りの25個のデータセットを用いて検量式の検証を行った。表7、8、9に、被検者A、B、Cについて検証した結果を示す。
【表7】
【0047】
表7、8、9は、時間幅規格化にくらべて波長変位規格化の方が予測精度を向上させる上で有効であること、波長変位規格化、または波長変位規格化と時間幅規格化を行うことにより、平均較差5mmHg以内という国際標準を満たしていることを示す。すなわち、脈波の波形データに基づいて、十分な精度で拡張期血圧を予測することができることを示している。
【0048】
図31は脈波データに基づいて検量モデルを構築した際のローディング波形を示す。
図31(a)は、収縮期の検量モデルを構築した際のローディング波形、
図31(b)は拡張期の構築モデルでのローディング波形である。いずれもファクター4までのローディング波形を示す。
図32(a)、(b)、(c)は、収縮期(SBP)と拡張期(DBP)について、ファクター1、2、3を抜き出して示す。ファクターの波形は常に一定している訳ではないので、一概には言えないが、ファクター1については収縮期と拡張期がほとんど一致し、ファクター2、3については、通常、収縮期と拡張期で波形に相違が見られている。すなわち、ファクター2、3が収縮期と拡張期の検量モデルの差に寄与していると考えられる。
【0049】
図33はFBGセンサによって検知された脈波の基本波形(
図18の1パルス分)を示す。
図33で、a波は収縮初期陽性波、b波は収縮初期陰性波、c波は収縮中期再上昇波、d波は収縮後期再下降波、e波は拡張初期陽性波である。a波とb波は収縮期の前方成分であり、心臓が収縮して血液が押し出されるときの駆動圧波に相当し、c波とe波は駆動圧が末梢に伝播して反射して戻ってきた反射圧波に相当する。
【0050】
図34は、FBGセンサにより検知した脈波とファクター1の波形を示す。この二つの波形を見ると、相互にプロフィールがよく一致している。このことから、ファクター1は脈波の駆動圧波と反射圧波の双方の情報を有しており、中心血圧を予測するものと考えられる。これに対し、収縮期と拡張期で波形が異なるファクター2、3、4は収縮期血圧と拡張期血圧の予測に関係するものと考えられる。また、脈波のe波は、心臓の拡張期に起因することから、拡張期血圧に関わるものと考えられる。
【0051】
図35は、被検者A、B、Cについてのローディング波形を示す。同図でaの領域は多くのファクターで正の相関があるところであり、心臓の収縮初期での血圧の情報を多く含んでいると考えられる。また、bの領域はファクター2が正の相関となるところであり、心臓の収縮中期と反射波成分が血圧予測に寄与していることを示す。
また、
図35のローディング波形で、a部分とb部分の配置位置関係は被検者A、B、Cに共通している。このローディング波形における共通点は、血圧に関する脈波の潜在因子に共通性があることを意味しており、回帰分析による検量モデルの結果は個人差による影響が小さいこと、すなわち血圧推定方法として汎用的に利用できる可能性を示している。
【0052】
上述した実験結果は、脈波の波形データは拡張期血圧とも相関関係があることを示しており、脈波データを取得することにより、収縮期血圧と拡張期血圧をともに推定できることを示している。すなわち、取得した脈波データに基づいて、回帰分析する方法により、血圧値を推定する検量モデルを構築することができ、その検量モデルに基づいて収縮期血圧と拡張期血圧の双方を予測することが可能である。
【0053】
なお、上記実験例では、脈波データを取得する方法としてFBGセンサを使用した。FBGセンサは歪(変形)の検知能力がきわめて高く、脈波のような微小な歪を高精度で検知できるという特徴がある。上述した実験例ではサンプリング周波数を10kHzとし、回帰分析方法を利用して平均較差5mmHgの国際標準の精度を達成している。このような高精度の推定を可能にしているのは、FBGセンサが高精度の分析を可能にするセンシング能力を備えていることにある。
したがって、FBGセンサと同等のセンシング能力を有するセンサであれば、FBGセンサ以外のセンサであっても同様に利用することができる。たとえば、シート形の静電容量型の感圧センサ、触覚アレイセンサは、高精度の圧力検知が可能であり、FBGセンサと同様に、脈波をモニターすることにより、FBGセンサを用いた場合と同様に、回帰分析方法を利用して血圧を推定することが可能である。
【0054】
本発明に係る血圧測定装置は、被検者の肘あるいは手首といった脈波を検出しやすい部位に脈波を検出するセンサを取り付けて脈波を検出するだけで血圧値を知ることができるること、センサは一か所に取り付けるだけでよいから、血圧を連続測定するような場合に体位を変えて測定することもでき、被検者に与えるストレスを抑えて測定することができるという利点がある。また、脈波の波形データの処理を自動プログラム化することにより、検量式の構築や検量式に基づく血圧測定を簡単に行うことができ、測定装置の小型化も容易に可能であり、種々の商品形態として提供することが可能である。