【実施例】
【0040】
(有形成分由来の微粒子の含有量の測定方法)
有形成分由来の微粒子の含有量の測定方法としては、qNano(Izon Science Ltd、ニュージーランド)での測定を行った。この装置は、約100nmから約4μサイズのあいだの7段階のサイズのいずれかの孔のあいた伸縮可能なポリウレタン素材製の試料を入れる部品(この部品は「ナノポア」と呼称される)の1つを選択し、この部品の試料受けに試料を入れ、その試料中に存在する微粒子が、帯電している場合は、膜間電位差により孔を通過させることができ、粒子の通過時の電気抵抗の変化を電気抵抗ナノパルス法で検出し、電気抵抗の大きさから、粒子サイズ、及び時間当たりの通過粒子数を計測し、本装置のデータ解析ソフトウェアを用いることにより粒子濃度が測定できる。本実施例では、400nmの孔径のナノポア(NP400)、及び100nmの孔径のナノポア(NP100)を使用した。
【0041】
(流速制御ろ過におけるろ過可能量の測定方法)
フィルターの各試料液のろ過可能量の測定では、一定範囲の流速で流した際に使用許容最高圧に達して、ろ過を中止するまでの、ろ過可能量を測定した。具体的には、中空糸膜フィルター(Planova 75N)による各試料液のろ過可能量の測定を、以下のごとく行った。
【0042】
GE Healthcare社製液体クロマトグラフィーシステムAKTAprime plusを用いて一定範囲の流速で試料液をPlanova 75Nフィルターに送液しろ過を行った。流速は、Planova 75Nフィルターの膜面積1.0m
2当たり0.05L/分から0.2L/分の間で行った。フィルターのろ過圧力はAKTAprime plusの圧力センサーで測定し、ろ過液量に対するろ過圧力の変化を記録させながら行なった。ろ過可能量の測定は、使用するフィルターの使用許容最高圧に達した時点(Planova 75Nフィルターでは、98kPa)での、膜面積1m
2当たりのろ過量(L)で測定した。
【0043】
なお、フィルターの使用許諾最大圧に達するまでろ過を続けることが難しい場合は、ろ過圧とろ過量の挙動から、ろ過可能量から予測する事も可能である。一定の流速でのフィルターによるろ過の場合、試料液のろ過が進行すると、ろ中に試料液由来の物質が、ろ過流路入口側表面、ろ過流路の表面、あるいはろ過流路途中に捕捉、沈着、積層する場合には、ろ過圧が上昇する。そして、そのままろ過を継続すると急激にろ過圧が上昇する。ろ過可能量の測定指標として、フィルターの使用許容最高圧に達した時点を用いる場合、ろ過量対ろ過圧の変化をプロットしたグラフから、圧の上昇が予測できる場合は、使用許容圧に達すると推測される時点のろ過量を予測することができる。
【0044】
定速ろ過を行う場合、膜への試料液中の物質の吸着や、除去対象物である微粒子や凝集物などによるろ過膜の細孔の狭窄や、閉塞により、ろ過圧力が上昇する。ろ過圧力が一旦増すと急激に高圧に達して、ろ過膜の破裂やフィルターのハウジングの破壊、送液回路の破裂、送液回路とフィルターの接続部からの液の漏洩などで、ろ過の失敗を招く。また、ろ過作業者が、被液や怪我を蒙る場合がある。更に、高圧になった場合、ろ過膜の変形を招き、期待する効果が得られない。
【0045】
なお、一定の圧力条件でろ過を行い、既定の流速に至るまでのろ過可能量を測定することもできる。
【0046】
定圧ろ過の場合は、使用するろ過膜の使用許容最高圧(Planova 75Nフィルターの場合98kPa)以下であれば、いずれの圧力でも構わないが、使用許容最高圧の10%から100%の範囲がより好ましい。試料液を耐圧容器に入れ空気又は窒素ガスにより耐圧容器内に圧力をかけ、耐圧容器に差し込んだ配管から試料液を、ろ過膜の上流側に送液し、ろ過された液を採取しろ過量を体積又は重量で計測し、ろ過開始からのろ過量の変化を経時的に記録する。既定の流速に達するまでのろ過量を測定することができる。なお、既定の流速に達するまでろ過を続けられない場合は、ろ過速度の経時変化から予測計算することでろ過可能量を予測することができる。
【0047】
(トロンビン生成活性の評価方法)
トロンビン生成活性は、Technoclone GmbH(オーストリア)社のTECHNOTHROMBIN(登録商標) TGA Kitを用いて測定した。
【0048】
(実施例1:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
濃縮血小板溶液を、6000xgで、30分間、室温(20℃−24℃)にて遠心分離し、その上清(血漿)を採取した。さらに上清を1ないし2時間、室温(22−24℃)で保存した。次に、上清から、白血球除去フィルター(不織布)であるセパセルフィルター(旭化成メディカル、日本)にて白血球除去を行った。その後、ろ液を膜面積0.001m
2のプラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)にて、更にろ過を行った。
【0049】
プラノバ75Nフィルターのろ過の流速は0.1−0.2L/分/m
2で行い、ろ過工程は、35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。その結果、プラノバ75Nフィルターでのろ過は、徐々にろ過圧力が上昇し、
図1に示すとおり、12L/m
2のろ過が行われた時点で、ろ過圧力が98kPaに達した。また、保存工程後の上清と、前記上清を白血球除去した後、プラノバ75Nフィルターでろ過したろ液について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定して除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は99%以上の高い値を示した。
【0050】
(実施例2:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
濃縮血小板溶液を、6000xgで、30分間、室温(20℃−24℃)にて遠心分離し、その上清(血漿)を採取し、−20℃凍結し一晩保存した。その後、30℃で融解し、室温(22-24℃)にて融解後30分未満保存したのち、セパセルフィルターにて白血球除去を行い、そのろ液を膜面積0.001m
2のプラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)にて、更にろ過を行った。
【0051】
プラノバ75Nフィルターのろ過の流速は0.1−0.2L/分/m
2で行い、ろ過工程は、35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。その結果、プラノバ75Nフィルターでのろ過は、徐々にろ過圧力が上昇し、
図1に示すとおり、2.2L/m
2のろ過が行われた時点で、ろ過圧力が98kPaに達した。また、保存工程後の上清と、前記上清を白血球除去した後、プラノバ75Nフィルターでろ過したろ液について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定して除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は99%以上の高い値を示した。
【0052】
(実施例3:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
アフェレーシス採取血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)を室温(22−24℃)保存し、3−4時間の内に、セパセルフィルターにて白血球除去を行い、そのろ液を膜面積0.01m
2のプラノバ75Nフィルターにて、ろ過を行った。
【0053】
プラノバ75Nフィルターのろ過の流速は0.05L/分/m
2で行い、ろ過工程は、35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。その結果、プラノバ75Nフィルターでのろ過は、
図1に示すとおり、12.5L/m
2のろ過が行われた時点でも、ろ過圧力は0.2barで安定しており、上昇傾向は見られなかった。また、保存工程後のアフェレーシス採取血漿と、この血漿の白血球除去後、プラノバ75Nフィルターでろ過したろ液中について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定し、除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は99%以上の高い値を示した。
【0054】
(比較例1:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
プラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)によって濾過しなかった以外は、実施例1と同様の手順を行った。すなわち、濃縮血小板溶液を、6000xgで、30分間、室温(20℃−24℃)にて遠心分離し、その上清を採取した。さらに上清を1ないし2時間、室温(22−24℃)で保存した。次に、上清からセパセルフィルターにて白血球除去を行った。結果を
図1に示す。また、保存工程後の上清と、前記上清を白血球除去したろ液について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定して除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は約20%となった。
【0055】
(実施例4:トロンビン生成活性の評価)
表1に示す非凍結の乏血小板血漿試料(PPP)、それをセパセルフィルターにて白血球除去した試料(Sepacell)、及びセパセルフィルターにて白血球除去した試料を更にプラノバ75Nフィルターにてろ過した試料(Planova)のそれぞれのトロンビン生成活性を、Technoclone GmbH(オーストリア)社のTECHNOTHROMBIN(登録商標) TGA Kitを用いて測定した。測定は、キット付属の試薬(表2)を用いて説明書に従って行った。
【表1】
【表2】
【0056】
表3は、トロンビン生成活性を測定した反応液を構成する液組成を示している。反応は、37℃で行われ、TGA SUB液を反応容器に投入した時点から、トロンビン生成活性の計測が開始された。測定は、同一測定試料に対して2つの別の反応容器で反応液を調整して測定した。即ち、同一試料について2回測定した。
【表3】
【0057】
図2ないし
図4の各チャートは、トロンビン生成活性の測定結果を示している。各チャートの横軸は反応開始後の時間(単位:分)で、縦軸は反応容器中に生成されたトロンビン活性をトロンビン濃度に換算した値(nmol/L)である。トロンビン活性が反応液に生成されれば、反応開始後約5分から約60分の間に、チャートの縦軸に高いピークが現れる。一方、反応液中にトロンビン活性が生成されない場合は、時間が経過しても、チャートの縦軸に高いピークは現れない。試料にどの程度のトロンビン生成活性があるかは、対照としてキットに付属されている高トロンビン生成活性参照用液と低トロンビン生成活性参照用液の測定チャートでの反応容器中に生成されたトロンビン活性をトロンビン濃度に換算した値(nmol/L)と比較することでわかる。
【0058】
図2に示すチャート1は、測定キットに付属の高トロンビン生成活性参照用液(C High)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。チャート2は、測定キットに付属の低トロンビン生成活性参照用液(C Low)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。
【0059】
図3に示すチャート3は、白血球除去処理前の乏血小板血漿(PPP)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。
【0060】
図4に示すチャート4は、乏血小板血漿のセパセルろ過後のろ液試料(Sepacell)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。チャート5は、乏血小板血漿のセパセルろ過後の試料を更にプラノバ75Nでろ過後のろ液試料(Planova)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。
【0061】
図2ないし
図4に示すチャート1ないし5の数値を基に、測定結果をまとめた表4を作成した。
図4及び表4より明らかな様に、非凍結の乏血小板血漿試料をセパセルフィルターにて白血球除去した試料を更にプラノバ75Nフィルターにてろ過した試料には、トロンビン生成活性が検出されなかった。
【表4】
【0062】
(参考例1:SD処理した乏血小板血漿のトロンビン生成活性の評価)
ソルベントデタージェント(SD)処理した乏血小板血漿(以下、PPP−SDと略す。)は、非凍結の乏血小板血漿試料1mLにTnBT(Tributylphosphate; Merck; 8.18604.0500)終濃度1%とTritonX45(Sigma; X45−100ML)終濃度1%を加え、25℃で、30分間、緩徐に撹拌することにより得た。
【0063】
PPP−SDを測定対象としたトロンビン生成活性を、実施例4と同様に評価した。即ち、TGA RC Low 10μL、PPP−SD40μLに、TGA SUB 50μLを添加して反応開始させた試料のトロンビン生成活性を測定した。測定結果のチャートを
図5に示す。また、チャートの数値をもとに、測定結果をまとめたものを表5に示す。
図5及び表5から明らかなように、ソルベントデタージェント処理した乏血小板血漿中には、トロンビン生成活性が認められなかった。
【表5】
【0064】
(参考例2:濃厚血小板血漿から調製したマイクロパーティクルの懸濁液のろ過試験)
【0065】
(血小板由来マイクロパーティクル懸濁液の調製)
アフェレーシス法で採取した濃厚血小板(200mL)を、3000xgで、15分間、室温(22℃)にて遠心分離し、生じた上清は捨て、生じた沈殿(血小板)を200mLのタイロード塩緩衝液(シグマ‐アルドリッチ、T2397)で懸濁した。
【0066】
この血小板懸濁液にウシ由来トロンビン(シグマ‐アルドリッチ、T4648)を終濃度0.1U/mL加え、振とうしながら、37℃、60分間反応させた。この反応により血小板を活性化し、血小板由来マイクロパーティクルを生じせしめた。反応液にエチレンジアミン四酢酸(バイオショップ、ED001)溶液を終濃度20mmol/L添加し血小板活性化反応を停止した。この停止反応液を3200xg、10分間、室温にて遠心分離し、上清を採取した。尚、沈殿物は、活性化された血小板である。得られたこの上清を、20000xg、90分間、18℃で遠心分離した。上清を取り除き、沈殿に1mLのタイロード塩緩衝液を加え懸濁して血小板由来マイクロパーティクル懸濁液を得た。この懸濁液を少量ずつ容器に分取し、−80℃にて凍結した。
【0067】
(プラノバ75Nフィルターによるろ過)
凍結した血小板由来マイクロパーティクル懸濁液の容器を、30℃の水に浸し、凍結懸濁液を融解し、振とうして懸濁した。懸濁液155μLをダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマ‐アルドリッチ、D8537)30mL中に加え混和し、ろ過用懸濁液を得た。
【0068】
調製したろ過用懸濁液を膜面積0.001m
2のプラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)により、定速ろ過を行った。ろ過速度は1L/分/m
2、ろ過時の温度は35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。プラノバ75Nフィルターによるろ液試料は、ろ過開始後1分到達時点から、4mLずつ分取し、合計5本の試料を得た。以下、これらの試料を順にFT1、FT2,FT3、FT4、FT5と呼ぶことにする。
【0069】
(qNanoでの微粒子測定)
上記のろ過用懸濁液、及びプラノバ75Nフィルターによるろ液試料をqNano(Izon Science Ltd、ニュージーランド)で測定した。ナノポアはNP100を用いた。プラノバ75Nフィルター、及び試料送液の回路由来の粒子が検出されないように、事前にダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマ‐アルドリッチ、D8537)での洗浄を行った。ろ過用懸濁液(即ち、プラノバ75Nフィルターによるろ過前の試料)の測定結果のヒストグラムを
図6及び
図7に記す。
図6及び
図7に示す2つのヒストグラムは、ろ過用懸濁液を2回qNanoで測定した結果である(1回目測定時間約60秒、2回目測定時間約170秒)。横軸は、粒子の直径(単位:nm)、縦軸は、行った計測時間の間に計測された全粒子数(100%とする)に対する各ヒストグラムの棒の幅である粒子径範囲の粒子数の割合(%)を示している。ろ過用懸濁液中には、120nm程度の直径の粒子が多く、大きなサイズになるにしたがって含有割合は減少し400から500nm程度の粒子まで小数だが存在することが判る。
【0070】
qNano測定結果の測定時間、検出粒子数などの結果をまとめた表を表6に示す。ろ過前の元液であるろ過用懸濁液の粒子濃度の2回の算定は、2×10
9と3×10
9粒子/mLであった。これに対し、ろ過用懸濁液を、プラノバ75Nフィルターによりろ過して得られたろ液試料(FT1からFT5まで)についての測定結果では、ろ過の初期に採取されたFT1で約1分の測定時間で1個検出され、その濃度は4×10
7粒子/mLと算定されたのみで、FT2、FT3,FT4,FT5では、約1分の測定時間で、いずれの試料でも検出粒子は0個であった。
【0071】
ろ過の初期の採取試料(FT1)のみに1個の粒子が検出され、それ以降の4試料には粒子が検出されなかったことから、これら5試料中に1個の粒子が検出されたといえる。この前提で計算すると、ろ液中の粒子濃度は4×10
7粒子/mL÷5=8×10
6粒子/mLという計算が、成り立つ。そして、ろ過用懸濁液の粒子濃度を2×10
9粒子/mLとした場合は、プラノバ75Nフィルターによる粒子の除去後の割合は、0.4%、ろ過用懸濁液の粒子濃度を3×10
9粒子/mLとした場合は、プラノバ75Nフィルターによる粒子の除去後の割合は、約0.27%と算出される。したがって、99%以上のマイクロパーティクルの除去率が示された。
【表6】
【0072】
(実施例5:好中球細胞外トラップの形成の有無の評価)
血小板由来マイクロパーティクル(微粒子)を含むヒト血漿に入れられたヒト好中球を光学顕微鏡写真で観察して得られた画像を
図8に示す。
図8において、白い丸い粒が好中球であり、数十個凝集している様子が観察された。これは、NETsの形成が起きていることを示している。
【0073】
また、血小板由来マイクロパーティクルを含むヒト血漿を、膜面積0.001m
2のプラノバ75Nフィルターを使用し、ろ過の流速は0.5L/分/m
2で行ったこと以外は実施例3と同様の条件においてろ過し、ヒト血漿から血小板由来マイクロパーティクルを99%以上除去した後のヒト血漿に入れられた、ヒト好中球を光学顕微鏡写真で観察して得られた画像を
図9に示す。
図9において、白い丸い粒が好中球であり、凝集している様子は観察されなかった。これは、NETsの形成が起きていないことを示している。