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特開2015-231523血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-231523(P2015-231523A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/02 20060101AFI20151201BHJP
   A61K 35/16 20150101ALI20151201BHJP
【FI】
   A61M1/02 540
   A61K35/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-100410(P2015-100410)
(22)【出願日】2015年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-102793(P2014-102793)
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】バーノフ ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ミンリー
【テーマコード(参考)】
4C077
4C087
【Fターム(参考)】
4C077AA13
4C077BB04
4C077CC03
4C077CC06
4C077EE01
4C077LL05
4C077NN03
4C077PP02
4C077PP07
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB34
4C087DA05
4C087NA07
4C087ZA51
4C087ZC37
(57)【要約】
【課題】血漿から有形成分由来の微粒子を高い確率で除去する方法を提供する。
【解決手段】ヒトあるいは動物から採取した血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法であって、血漿を、20℃以上40℃以下の温度で、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過するろ過工程を含み、血漿から有形成分由来の微粒子を、含有割合が50%以下となるまで除去することを特徴とする、血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトあるいは動物から採取した血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法であって、
前記血漿を20℃以上45℃以下の温度で、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過するろ過工程を含み、
前記血漿から有形成分由来の微粒子を、含有割合が50%以下となるまで除去することを特徴とする、血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項2】
前記ろ過工程の前に、採取後の前記血漿を0℃以上40℃以下で保存する保存工程を含む、請求項1の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項3】
前記保存工程において採取後の前記血漿を室温で保存する、請求項2に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項4】
前記ろ過工程が、前記血漿を採取後24時間以内に行われる、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項5】
前記サイズ除去ろ過用多孔膜が、中空糸膜又は平膜である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項6】
前記サイズ除去ろ過用多孔膜が、セルロース又は合成高分子からなる多孔膜である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項7】
前記サイズ除去ろ過用多孔膜の孔径が40nm以上150nm以下である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項8】
前記血漿がアフェレーシス法で採取された血漿である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項9】
前記ろ過工程において、前記サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過する前に、白血球を除去する白血球除去工程を含む、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項10】
前記ろ過工程の圧力をサイズ除去ろ過用多孔膜の使用許容最高圧以下に制御する、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項11】
前記ろ過工程において、前記多孔膜の膜面積当たり3L/m2以上ろ過することが可能である、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法。
【請求項12】
ヒトあるいは動物から採取した血漿のトロンビン生成活性を低減させる方法であって、
前記血漿を20℃以上45℃以下の温度で、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過するろ過工程を含み、
前記血漿から有形成分由来の微粒子を、含有割合が50%以下となるまで除去することで、血漿のトロンビン生成活性を低減させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製技術に関し、血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、血漿製剤は、採血時にアフェレーシスによる成分献血による方法で製造されるか、あるいは、全血を遠心分離して血漿成分を分離して製造されるかしている。日本赤十字社では、更に、白血球に起因する発熱反応や感染症等の副作用を減少させるために、採血装置を使用した機械的な白血球除去方法、又は白血球除去フィルターを使用してろ過する方法を血液製剤の製造工程に取り入れている。
【0003】
血液成分中には、有形成分由来の微粒子(マイクロパーティクル)が含まれることが分かっている。マイクロパーティクルのサイズの定義は、現在明確には定められてはいないが、Simakらの論文(非特許文献1)によれば、0.05−1.5ミクロンとされている。マクベイらの総説(非特許文献2)によれば、血漿中のマイクロパーティクルは、輸血関連急性肺障害(Transfusion−related acute lung injury;通常TRALIと略される。)に関係するとされている。ゴブランらの論文(非特許文献3)によれば、リン脂質が表面に検出されるマイクロパーティクルは、TRALI、輸血後の感染、そして癌の再発を起こしやすくする可能性があるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jan Simak and Monique P. Gelderman 、Transfusion Medicine Reviews, Vol 20, No 1 (January), 2006: pp 1-26、Cell Membrane Microparticles in Blood and Blood Products: Potentially Pathogenic Agents and Diagnostic Markers
【非特許文献2】McVey et al., Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 303:L364-L381, 2012
【非特許文献3】Goubran HA, et al., The platelet-cancer loop, Eur J Intern Med. 2013 Jul;24(5):393-400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血漿から有形成分由来の微粒子を高い確率で除去するための研究は、従来、進められてこなかった。そこで、本発明は血漿から有形成分由来の微粒子を高い確率で除去する方法を提供することを課題とする。さらに、有形成分由来の微粒子を除去する工程において、ろ過材が閉塞することによって、定速ろ過についてろ過圧が高くなることを防ぎ、定圧ろ過において流速が著しく低下するのを防いで、効率的に、除去する方法を提供することを課題とする。また、血漿から有形成分由来の微粒子を高い確率で除去することによって、血漿のトロンビン生成活性を低減させる方法を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は、ヒトあるいは動物から採取した血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法であって、血漿を20℃以上45℃以下の温度で、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過するろ過工程を含み、血漿から有形成分由来の微粒子を、含有割合が50%以下となるまで除去することを特徴とする、血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法である。
【0007】
上記方法のろ過工程の前に、採取後の血漿を0℃以上40℃以下で保存する保存工程を含んでいてもよい。当該保存工程において、採取後の血漿を室温で保存してもよい。
【0008】
ろ過工程は、血漿を採取後24時間以内に行われてもよい。サイズ除去ろ過用多孔膜は、中空糸膜又は平膜であってもよい。サイズ除去ろ過用多孔膜は、セルロース又は合成高分子からなる多孔膜であってもよい。サイズ除去ろ過用多孔膜の孔径は、40nm以上150nm以下であってもよい。
【0009】
血漿は、アフェレーシス法で採取された血漿であってもよい。
【0010】
ろ過工程において、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過する前に、白血球を除去する白血球除去工程を含んでいてもよい。ろ過工程の圧力を、サイズ除去ろ過用多孔膜の使用許容最高圧以下に制御してもよい。ろ過工程において、多孔膜の膜面積当たり3L/m2以上ろ過することが可能であってもよい。
【0011】
さらに、本発明の態様は、ヒトあるいは動物から採取した血漿のトロンビン生成活性を低減させる方法であって、血漿を20℃以上45℃以下の温度で、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過するろ過工程を含み、血漿から有形成分由来の微粒子を、含有割合が50%以下となるまで除去することで、血漿のトロンビン生成活性を低減させる方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、血漿から有形成分由来の微粒子を、高い確率で除去することができる。また、効率的に、血漿から有形成分由来の微粒子を除去することができる。さらに、血漿から有形成分由来の微粒子を除去することでトロンビン生成活性を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1ないし3及び比較例1の結果を示す表である。
図2】実施例4に係る対照(コントロール)の測定結果を示すチャートである。
図3】実施例4に係る乏血小板血漿の測定結果を示すチャートである。
図4】実施例4に係るろ過後の乏血小板血漿の測定結果を示すチャートである。
図5】参考例1に係るSD処理した乏血小板血漿の測定結果を示すチャートである。
図6】参考例2に係る微粒子の含有量の1回目の測定結果を示すヒストグラムである。
図7】参考例2に係る微粒子の含有量の2回目の測定結果を示すヒストグラムである。
図8】実施例5の比較例に係る血小板由来マイクロパーティクルを含むヒト血漿に入れられた、ヒト好中球の光学顕微鏡写真である。
図9】実施例5に係る血小板由来マイクロパーティクルが除去されたヒト血漿に入れられた、ヒト好中球の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものであり、具体的な寸法等を正確に示したものではない。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0015】
血漿中のマイクロパーティクル(有形成分由来の微粒子)は、上述したように輸血関連急性肺障害(TRALI)と関係があると考えられているほかに、輸血後の感染、及び癌の再発等とも関係があると考えられており、これを取り除くことが望まれている。
【0016】
本実施形態に係る血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法は、ヒトあるいは動物から採取した血漿から有形成分由来の微粒子を除去する方法であって、血漿を20℃以上40℃以下の温度でサイズ除去ろ過用多孔膜を用いて、ろ過するろ過工程を含み、血漿から有形成分由来の微粒子を、含有割合が50%以下となるまで除去する。好ましくは30%以下、20%以下、10%以下、5%以下となるまで除去する。より好ましくは、1%以下、0.1%以下、0.01%以下である。これらの工程は、どのような装置を用いて操作を行なってもよいが、(i)温度制御手段及び(ii)加圧手段もしくは流速制御手段を有する、雰囲気の制御可能な条件下で行えば、操作結果の再現性が良好となり、ろ過後の血漿の品質が安定するので好ましい。
【0017】
本実施形態に係る除去方法は、ろ過工程の前に血漿を保存する保存工程を含んでいてもよい。保存工程においては、血漿を、24時間以下、0℃以上40℃以下の温度で保存することが好ましい。保存する温度が0℃未満だと、凝集物の増加によりろ過性が悪化し好ましくない。一方、保存温度が40℃より高くなると、タンパク質の品質が熱により低下する可能性があり、好ましくない。血漿の保存温度は、より好ましくは20℃以上37℃以下である。更に好ましくは20℃以上25℃以下である。
【0018】
本実施形態に係る除去方法のろ過工程において、温度制御手段(i)により制御される温度は、20℃以上45℃以下である。ろ過工程の温度が20℃未満だと、血漿の粘度が高くなるため、ろ過に長い処理時間を要し、実用的な時間範囲内に処理するのが困難となる。このようなことから、温度は20℃以上が好ましい。一方、ろ過工程の温度が45℃より高くなると、タンパク質の品質が熱により低下する可能性があり、好ましくない。より好ましくは、ろ過工程における温度は、25℃以上40℃以下であり、さらに好ましくは30℃以上37℃以下であり、特に好ましくは35℃以上37℃以下である。
【0019】
血液中の有形成分由来の微粒子とは、血液成分中に存在する生理活性を有する微粒子であって、一般に、マイクロパーティクル(microparticle(s))と呼ばれるものである。有形成分由来の微粒子は、例えば、粒径50nm以上1.5μm以下の大きさを有する。なお、このような微粒子は、有形成分(赤血球、リンパ球、単球、内皮細胞、赤血球、及び血小板等)から様々な刺激(剪断応力、補体の刺激、及びアポトーシス促進性等)により生成され、血液中を循環していることが分かっている。
【0020】
本実施形態に用いるサイズ除去ろ過用多孔膜は、多数の孔が存在する膜であって、ろ過対象物質の大きさによってふるい分けを行う膜をいう。サイズ除去ろ過多孔膜は、多数の孔が形成する微細な流路の大きさによって、ろ過対象物質のうち通過できるものと通過できないもののふるい分けを行い、ろ過を行う。したがって、サイズ除去ろ過多孔膜は、ろ過対象物質とろ過材との吸着性によってろ過を行う、吸着ろ過とは異なるろ過機構を利用する多孔膜である。
【0021】
本実施形態において、サイズ除去ろ過用多孔膜の形状は、特に限定されず、中空糸状、シート状、フィルム状、及びディスク状など、用いられる分離工程や目的に応じて適宜選択することができる。中空糸膜及び平膜(シート)状が好ましく、中空糸膜がより好ましい。さらに、多孔膜は、単層の膜からなるものであっても、複数の層からなる多層膜であってもよい。なお、膜内の閉塞が起こりにくいという点から、内部の孔径が不連続に変化することのない単層の膜が好ましい。
【0022】
本実施形態に用いるサイズ除去ろ過用多孔膜の材質は、特に限定されないが、セルロース、又は合成高分子からなるものが好ましい。中でも、再生セルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びポリエーテルスルホンが好ましく、再生セルロースは、有用なタンパク質の吸着が少ないため、より好ましい。
【0023】
本実施形態に用いるサイズ除去ろ過用多孔膜は、親水性膜であることが好ましい。親水性膜の材質は、特に限定されないが、疎水性の膜表面に親水基を付与された親水化膜であってもよい。例えば、親水化ポリエチレン、親水化ポリプロピレン、親水化ポリ4−メチル1−ペンテン等の親水化ポリオレフィン、親水化ポリエチレンテレフタレート、親水化ポリブチレンテレフタレート、親水化ポリエチレンナフタレート、親水化ポリブチレンナフタレート、親水化ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート等の親水化ポリエステル、親水化ナイロン6、親水化ナイロン66、親水化ナイロン610、親水化ナイロン612、親水化ナイロン11、親水化ナイロン12、親水化ナイロン46等のポリアミド系及びそれらを親水化した親水化ポリアミド系、親水化ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、親水化エチレン/テトラフルオロエチレン、親水化ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系、再生セルロース、混合セルロースエステル、酢酸セルロース等の親水性セルロース系、親水化ポリフェニレンエーテル、親水化ポリスルホン、親水化ポリエーテルスルホン等の親水化ポリスルホン系、親水化アクリル共重合体、グラスファイバー及び親水化ポリアセタール、並びにこれらの複合樹脂等が挙げられ、好ましくは、親水化ポリエチレン、親水化ポリプロピレン等の親水化ポリオレフィン、親水化ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、親水化ポリエーテルスルホン、再生セルロース等が挙げられる。
【0024】
本実施形態において、血漿から有形成分由来の微粒子を除去するためのサイズ除去ろ過用多孔膜の孔径は150nm以下であることが好ましい。孔径が150nmより大きくなると、有形成分由来の微粒子の除去率が低下するため好ましくない。120nm以下、100nm以下、80nm以下であれば除去率が更に向上するためより好ましく、75nm以下であれば更に好ましく、得られる血漿製剤の安全性が増加する。
【0025】
一方、サイズ除去ろ過用多孔膜の孔径は40nm以上であることが好ましい。孔径が40nm未満になると、膜が閉塞し、ろ過圧の上昇又はろ過流速の低下を引き起こしてろ過を続けられなくなる場合がある。
【0026】
サイズ除去ろ過用多孔膜の孔径は、平均透水孔径測定法(特開平4−371221号公報参照)により測定することができる。
【0027】
ろ過処理時の圧力は、多孔膜の使用許容最高圧以下であればよいが、1000kPa以下が好ましく、350kPa以下であればより好ましく、98kPa以下の圧力であれば、操作安全性に優れ、除去性を充分に担保でき、タンパク質の変性が少ないため、さらに好ましく、80kPa以下であれば特に好ましい。特に、合成高分子からなる多孔膜では、350kPa以下が好ましく、セルロースからなる多孔膜では、98kPa以下が好ましい。
【0028】
定速ろ過でろ過処理する場合のろ過流速は、多孔膜の使用許容最高圧以下の範囲であればよい。例えば、プラノバ75Nフィルターの場合は、定速ろ過でのろ過処理時のろ過流速は膜面積(m2)あたり0.005L/分以上、好ましくは0.01L/分以上、より好ましくは0.05L/分以上であり、40L/分以下、好ましくは20L/分以下、より好ましくは5L/分以下である。
【0029】
本実施形態において、サイズ除去用多孔膜の気孔率は約20%以上90%以下である事が好ましく、より好ましくは約30%以上約80%以下であり、さらに好ましくは約55以上70%以下、特に好ましくは約58以上65%である。
気孔率(%) は、次式により計算される値をいう。
(式)気孔率(%)=100×(1−膜重量÷(膜材質の密度×膜体積))
【0030】
血漿製剤の製造方法には、アフェレーシスによる成分献血による方法で製造する方法と、全血を遠心分離して血漿成分を分離する方法が挙げられる。アフェレーシス法は、血液中から血漿、血小板、血球を体外循環により目的物別に分離採取する方法を意味する。この方法は専用のアフェレーシス装置を用いて行われる。アフェレーシス法は成分献血の際に使用され、目的以外の成分は通常供血者に戻すので、供血者の負担が少ない。また、全血を遠心分離して血漿成分を分離する方法では、全血を取得してから血漿に分画するまでに長時間が経過したり、運搬により物理的刺激が加わったりして、有形成分由来の微粒子が増加する可能性がある。一方で、アフェレーシス法のように血液の採取から短時間で血漿を得られる方法では、有形成分由来の微粒子の増加が抑えられる。したがって、得られる血漿製剤に含有される有形成分由来の微粒子の絶対量を低減させるためには、アフェレーシス法を用いる事が好ましい。
【0031】
本実施形態の除去方法では、血漿を採取してから24時間未満である新鮮なものをろ過工程で処理することが好ましい。つまり、保存工程の時間は24時間未満である事が好ましい。24時間以上では、タンパク質の品質が低下する傾向がある。保存工程の時間は、より好ましくは20時間以内、さらに好ましくは12時間以内、よりさらに好ましくは8時間以内、特に好ましくは6時間以内である。また、アフェレーシス方法では即時に血漿を分離することが可能である。「即時」とは、血漿中のタンパク質の凝集等により、膜の透過性が低下しない時間をいい、通常全血の採取から12時間以内、4時間以内、好ましくは2時間以内、さらに好ましくは1時間以内、最も好ましくは10分以内をいう。
【0032】
本実施形態の除去方法におけるろ過工程において、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いてろ過する前に、白血球を除去するろ過工程を含むことが好ましい。アフェレーシス法で採取した血漿であっても、微量の白血球が混入している場合があり、サイズ除去ろ過用多孔膜を用いて有形成分由来の微粒子を除去する前に混入した白血球を除去すると、サイズ除去ろ過用多孔膜でのろ過する際に、膜の目詰まりが減少し、定速ろ過ではろ過圧の上昇が抑制され、定圧ろ過ではろ過流速の低下が抑制され、いずれのろ過方法でも、より多くの血漿ろ液を回収できる可能性が高いため、好ましい。
【0033】
本実施形態の除去方法では、ろ過工程で、多孔膜の膜面積当たり3L/m2以上ろ過することが可能であることが好ましい。より好ましくは5L/m2以上ろ過することが可能であることが好ましい。多孔膜の膜面積当たりのろ過可能量は、流速制御ろ過における使用許容最大圧力に達するまでのろ過量を膜面積で除した値として算出する。通常の輸血用血漿製剤の量は120mLから450mL程度であり、5L/m2以上ろ過することが可能な方法であれば、0.1m2以下の小型の膜面積のフィルターを用いることが可能であるためである。小型の膜面積のフィルターを利用できる場合は、アフェレーシス法での血漿採取の工程に連続して、あるいは併設してろ過をすることが可能となり、好ましい。
【0034】
後述する実施例で明らかになったように、有形成分由来の微粒子を除去することにより、トロンビン生成活性を低下させられる。活性化第X因子と活性化第V因子は複合体を形成し、カルシウムイオンと血小板由来のリン脂質の存在下で、トロンビン生成活性を発揮する。また、活性化第VIII因子と活性化第IX因子の複合体は、カルシウムイオンと血小板由来のリン脂質の存在下で、第X因子を活性化第X因子にする作用を発揮する。有形成分由来の微粒子を除去することにより、血小板由来のリン脂質を除くことで、トロンビン生成活性を示さない血漿が得られる。本実施形態により、トロンビン生成活性を示さない血漿を得られる。
【0035】
さらに、血漿から有形成分由来の微粒子を除去することにより、血漿中のプリオン除去または低減に寄与する。血漿中のプリオンには、正常と異常(病原性)のものがあるが、血漿中に異常プリオンが含まれる場合、これを除去または低減することができる。
【0036】
また、本実施形態の除去方法により、血漿の有形成分由来の微粒子を除去することで、好中球刺激活性を低減させ、例えば好中球細胞外トラップ(略称:NETs)の形成を抑制することが可能となる。好中球細胞外トラップは、細菌やカビを殺傷する作用がある一方、肺で過剰に形成されると急性の肺障害を起こし、時には死因となる場合もある。
【0037】
1回のろ過処理で処理する血漿の容量は、特に制限はないが、一個体から採取できる血漿は通常100−500mLであるため、100mL−500mLが通常1回に処理する容量である。100mL未満であると1回の処理量としては経済上好ましくなく、500mL以上であると一個体から採取するには個体への負担が大きい。より好ましくは120mL−450mL以下、さらに好ましくは200−400mLである。
【0038】
一方、プール血漿を処理する場合は、プール血漿の一部を用いて、予備ろ過試験を行い、ろ過にかけることのできる時間を加味して、必要な膜面積を計算して行うのが好ましい。
【0039】
また、処理時間は、処理する血漿量と膜の面積などにより決定されるが、40分以下にするように設定することが好ましい。個体からの採血と同時にろ過する場合、40分以下であれば個体への負担が少ないためであり、あまりにろ過時間が長いと製剤の変性の可能性も場合によっては考えられるからである。
【実施例】
【0040】
(有形成分由来の微粒子の含有量の測定方法)
有形成分由来の微粒子の含有量の測定方法としては、qNano(Izon Science Ltd、ニュージーランド)での測定を行った。この装置は、約100nmから約4μサイズのあいだの7段階のサイズのいずれかの孔のあいた伸縮可能なポリウレタン素材製の試料を入れる部品(この部品は「ナノポア」と呼称される)の1つを選択し、この部品の試料受けに試料を入れ、その試料中に存在する微粒子が、帯電している場合は、膜間電位差により孔を通過させることができ、粒子の通過時の電気抵抗の変化を電気抵抗ナノパルス法で検出し、電気抵抗の大きさから、粒子サイズ、及び時間当たりの通過粒子数を計測し、本装置のデータ解析ソフトウェアを用いることにより粒子濃度が測定できる。本実施例では、400nmの孔径のナノポア(NP400)、及び100nmの孔径のナノポア(NP100)を使用した。
【0041】
(流速制御ろ過におけるろ過可能量の測定方法)
フィルターの各試料液のろ過可能量の測定では、一定範囲の流速で流した際に使用許容最高圧に達して、ろ過を中止するまでの、ろ過可能量を測定した。具体的には、中空糸膜フィルター(Planova 75N)による各試料液のろ過可能量の測定を、以下のごとく行った。
【0042】
GE Healthcare社製液体クロマトグラフィーシステムAKTAprime plusを用いて一定範囲の流速で試料液をPlanova 75Nフィルターに送液しろ過を行った。流速は、Planova 75Nフィルターの膜面積1.0m2当たり0.05L/分から0.2L/分の間で行った。フィルターのろ過圧力はAKTAprime plusの圧力センサーで測定し、ろ過液量に対するろ過圧力の変化を記録させながら行なった。ろ過可能量の測定は、使用するフィルターの使用許容最高圧に達した時点(Planova 75Nフィルターでは、98kPa)での、膜面積1m2当たりのろ過量(L)で測定した。
【0043】
なお、フィルターの使用許諾最大圧に達するまでろ過を続けることが難しい場合は、ろ過圧とろ過量の挙動から、ろ過可能量から予測する事も可能である。一定の流速でのフィルターによるろ過の場合、試料液のろ過が進行すると、ろ中に試料液由来の物質が、ろ過流路入口側表面、ろ過流路の表面、あるいはろ過流路途中に捕捉、沈着、積層する場合には、ろ過圧が上昇する。そして、そのままろ過を継続すると急激にろ過圧が上昇する。ろ過可能量の測定指標として、フィルターの使用許容最高圧に達した時点を用いる場合、ろ過量対ろ過圧の変化をプロットしたグラフから、圧の上昇が予測できる場合は、使用許容圧に達すると推測される時点のろ過量を予測することができる。
【0044】
定速ろ過を行う場合、膜への試料液中の物質の吸着や、除去対象物である微粒子や凝集物などによるろ過膜の細孔の狭窄や、閉塞により、ろ過圧力が上昇する。ろ過圧力が一旦増すと急激に高圧に達して、ろ過膜の破裂やフィルターのハウジングの破壊、送液回路の破裂、送液回路とフィルターの接続部からの液の漏洩などで、ろ過の失敗を招く。また、ろ過作業者が、被液や怪我を蒙る場合がある。更に、高圧になった場合、ろ過膜の変形を招き、期待する効果が得られない。
【0045】
なお、一定の圧力条件でろ過を行い、既定の流速に至るまでのろ過可能量を測定することもできる。
【0046】
定圧ろ過の場合は、使用するろ過膜の使用許容最高圧(Planova 75Nフィルターの場合98kPa)以下であれば、いずれの圧力でも構わないが、使用許容最高圧の10%から100%の範囲がより好ましい。試料液を耐圧容器に入れ空気又は窒素ガスにより耐圧容器内に圧力をかけ、耐圧容器に差し込んだ配管から試料液を、ろ過膜の上流側に送液し、ろ過された液を採取しろ過量を体積又は重量で計測し、ろ過開始からのろ過量の変化を経時的に記録する。既定の流速に達するまでのろ過量を測定することができる。なお、既定の流速に達するまでろ過を続けられない場合は、ろ過速度の経時変化から予測計算することでろ過可能量を予測することができる。
【0047】
(トロンビン生成活性の評価方法)
トロンビン生成活性は、Technoclone GmbH(オーストリア)社のTECHNOTHROMBIN(登録商標) TGA Kitを用いて測定した。
【0048】
(実施例1:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
濃縮血小板溶液を、6000xgで、30分間、室温(20℃−24℃)にて遠心分離し、その上清(血漿)を採取した。さらに上清を1ないし2時間、室温(22−24℃)で保存した。次に、上清から、白血球除去フィルター(不織布)であるセパセルフィルター(旭化成メディカル、日本)にて白血球除去を行った。その後、ろ液を膜面積0.001m2のプラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)にて、更にろ過を行った。
【0049】
プラノバ75Nフィルターのろ過の流速は0.1−0.2L/分/m2で行い、ろ過工程は、35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。その結果、プラノバ75Nフィルターでのろ過は、徐々にろ過圧力が上昇し、図1に示すとおり、12L/m2のろ過が行われた時点で、ろ過圧力が98kPaに達した。また、保存工程後の上清と、前記上清を白血球除去した後、プラノバ75Nフィルターでろ過したろ液について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定して除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は99%以上の高い値を示した。
【0050】
(実施例2:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
濃縮血小板溶液を、6000xgで、30分間、室温(20℃−24℃)にて遠心分離し、その上清(血漿)を採取し、−20℃凍結し一晩保存した。その後、30℃で融解し、室温(22-24℃)にて融解後30分未満保存したのち、セパセルフィルターにて白血球除去を行い、そのろ液を膜面積0.001m2のプラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)にて、更にろ過を行った。
【0051】
プラノバ75Nフィルターのろ過の流速は0.1−0.2L/分/m2で行い、ろ過工程は、35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。その結果、プラノバ75Nフィルターでのろ過は、徐々にろ過圧力が上昇し、図1に示すとおり、2.2L/m2のろ過が行われた時点で、ろ過圧力が98kPaに達した。また、保存工程後の上清と、前記上清を白血球除去した後、プラノバ75Nフィルターでろ過したろ液について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定して除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は99%以上の高い値を示した。
【0052】
(実施例3:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
アフェレーシス採取血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)を室温(22−24℃)保存し、3−4時間の内に、セパセルフィルターにて白血球除去を行い、そのろ液を膜面積0.01m2のプラノバ75Nフィルターにて、ろ過を行った。
【0053】
プラノバ75Nフィルターのろ過の流速は0.05L/分/m2で行い、ろ過工程は、35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。その結果、プラノバ75Nフィルターでのろ過は、図1に示すとおり、12.5L/m2のろ過が行われた時点でも、ろ過圧力は0.2barで安定しており、上昇傾向は見られなかった。また、保存工程後のアフェレーシス採取血漿と、この血漿の白血球除去後、プラノバ75Nフィルターでろ過したろ液中について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定し、除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は99%以上の高い値を示した。
【0054】
(比較例1:MPs除去率、ろ過圧力の評価)
プラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)によって濾過しなかった以外は、実施例1と同様の手順を行った。すなわち、濃縮血小板溶液を、6000xgで、30分間、室温(20℃−24℃)にて遠心分離し、その上清を採取した。さらに上清を1ないし2時間、室温(22−24℃)で保存した。次に、上清からセパセルフィルターにて白血球除去を行った。結果を図1に示す。また、保存工程後の上清と、前記上清を白血球除去したろ液について、マイクロパーティクルの濃度(粒子数/mL)をqNanoで測定して除去率を求めたところ、マイクロパーティクルの除去率は約20%となった。
【0055】
(実施例4:トロンビン生成活性の評価)
表1に示す非凍結の乏血小板血漿試料(PPP)、それをセパセルフィルターにて白血球除去した試料(Sepacell)、及びセパセルフィルターにて白血球除去した試料を更にプラノバ75Nフィルターにてろ過した試料(Planova)のそれぞれのトロンビン生成活性を、Technoclone GmbH(オーストリア)社のTECHNOTHROMBIN(登録商標) TGA Kitを用いて測定した。測定は、キット付属の試薬(表2)を用いて説明書に従って行った。
【表1】
【表2】
【0056】
表3は、トロンビン生成活性を測定した反応液を構成する液組成を示している。反応は、37℃で行われ、TGA SUB液を反応容器に投入した時点から、トロンビン生成活性の計測が開始された。測定は、同一測定試料に対して2つの別の反応容器で反応液を調整して測定した。即ち、同一試料について2回測定した。
【表3】
【0057】
図2ないし図4の各チャートは、トロンビン生成活性の測定結果を示している。各チャートの横軸は反応開始後の時間(単位:分)で、縦軸は反応容器中に生成されたトロンビン活性をトロンビン濃度に換算した値(nmol/L)である。トロンビン活性が反応液に生成されれば、反応開始後約5分から約60分の間に、チャートの縦軸に高いピークが現れる。一方、反応液中にトロンビン活性が生成されない場合は、時間が経過しても、チャートの縦軸に高いピークは現れない。試料にどの程度のトロンビン生成活性があるかは、対照としてキットに付属されている高トロンビン生成活性参照用液と低トロンビン生成活性参照用液の測定チャートでの反応容器中に生成されたトロンビン活性をトロンビン濃度に換算した値(nmol/L)と比較することでわかる。
【0058】
図2に示すチャート1は、測定キットに付属の高トロンビン生成活性参照用液(C High)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。チャート2は、測定キットに付属の低トロンビン生成活性参照用液(C Low)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。
【0059】
図3に示すチャート3は、白血球除去処理前の乏血小板血漿(PPP)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。
【0060】
図4に示すチャート4は、乏血小板血漿のセパセルろ過後のろ液試料(Sepacell)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。チャート5は、乏血小板血漿のセパセルろ過後の試料を更にプラノバ75Nでろ過後のろ液試料(Planova)を測定試料としたときのトロンビン生成活性の測定結果を示している。
【0061】
図2ないし図4に示すチャート1ないし5の数値を基に、測定結果をまとめた表4を作成した。図4及び表4より明らかな様に、非凍結の乏血小板血漿試料をセパセルフィルターにて白血球除去した試料を更にプラノバ75Nフィルターにてろ過した試料には、トロンビン生成活性が検出されなかった。
【表4】
【0062】
(参考例1:SD処理した乏血小板血漿のトロンビン生成活性の評価)
ソルベントデタージェント(SD)処理した乏血小板血漿(以下、PPP−SDと略す。)は、非凍結の乏血小板血漿試料1mLにTnBT(Tributylphosphate; Merck; 8.18604.0500)終濃度1%とTritonX45(Sigma; X45−100ML)終濃度1%を加え、25℃で、30分間、緩徐に撹拌することにより得た。
【0063】
PPP−SDを測定対象としたトロンビン生成活性を、実施例4と同様に評価した。即ち、TGA RC Low 10μL、PPP−SD40μLに、TGA SUB 50μLを添加して反応開始させた試料のトロンビン生成活性を測定した。測定結果のチャートを図5に示す。また、チャートの数値をもとに、測定結果をまとめたものを表5に示す。図5及び表5から明らかなように、ソルベントデタージェント処理した乏血小板血漿中には、トロンビン生成活性が認められなかった。
【表5】
【0064】
(参考例2:濃厚血小板血漿から調製したマイクロパーティクルの懸濁液のろ過試験)
【0065】
(血小板由来マイクロパーティクル懸濁液の調製)
アフェレーシス法で採取した濃厚血小板(200mL)を、3000xgで、15分間、室温(22℃)にて遠心分離し、生じた上清は捨て、生じた沈殿(血小板)を200mLのタイロード塩緩衝液(シグマ‐アルドリッチ、T2397)で懸濁した。
【0066】
この血小板懸濁液にウシ由来トロンビン(シグマ‐アルドリッチ、T4648)を終濃度0.1U/mL加え、振とうしながら、37℃、60分間反応させた。この反応により血小板を活性化し、血小板由来マイクロパーティクルを生じせしめた。反応液にエチレンジアミン四酢酸(バイオショップ、ED001)溶液を終濃度20mmol/L添加し血小板活性化反応を停止した。この停止反応液を3200xg、10分間、室温にて遠心分離し、上清を採取した。尚、沈殿物は、活性化された血小板である。得られたこの上清を、20000xg、90分間、18℃で遠心分離した。上清を取り除き、沈殿に1mLのタイロード塩緩衝液を加え懸濁して血小板由来マイクロパーティクル懸濁液を得た。この懸濁液を少量ずつ容器に分取し、−80℃にて凍結した。
【0067】
(プラノバ75Nフィルターによるろ過)
凍結した血小板由来マイクロパーティクル懸濁液の容器を、30℃の水に浸し、凍結懸濁液を融解し、振とうして懸濁した。懸濁液155μLをダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマ‐アルドリッチ、D8537)30mL中に加え混和し、ろ過用懸濁液を得た。
【0068】
調製したろ過用懸濁液を膜面積0.001m2のプラノバ75Nフィルター(旭化成メディカル、日本)により、定速ろ過を行った。ろ過速度は1L/分/m2、ろ過時の温度は35℃以上37℃以下の温度環境下で行った。プラノバ75Nフィルターによるろ液試料は、ろ過開始後1分到達時点から、4mLずつ分取し、合計5本の試料を得た。以下、これらの試料を順にFT1、FT2,FT3、FT4、FT5と呼ぶことにする。
【0069】
(qNanoでの微粒子測定)
上記のろ過用懸濁液、及びプラノバ75Nフィルターによるろ液試料をqNano(Izon Science Ltd、ニュージーランド)で測定した。ナノポアはNP100を用いた。プラノバ75Nフィルター、及び試料送液の回路由来の粒子が検出されないように、事前にダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマ‐アルドリッチ、D8537)での洗浄を行った。ろ過用懸濁液(即ち、プラノバ75Nフィルターによるろ過前の試料)の測定結果のヒストグラムを図6及び図7に記す。図6及び図7に示す2つのヒストグラムは、ろ過用懸濁液を2回qNanoで測定した結果である(1回目測定時間約60秒、2回目測定時間約170秒)。横軸は、粒子の直径(単位:nm)、縦軸は、行った計測時間の間に計測された全粒子数(100%とする)に対する各ヒストグラムの棒の幅である粒子径範囲の粒子数の割合(%)を示している。ろ過用懸濁液中には、120nm程度の直径の粒子が多く、大きなサイズになるにしたがって含有割合は減少し400から500nm程度の粒子まで小数だが存在することが判る。
【0070】
qNano測定結果の測定時間、検出粒子数などの結果をまとめた表を表6に示す。ろ過前の元液であるろ過用懸濁液の粒子濃度の2回の算定は、2×109と3×109粒子/mLであった。これに対し、ろ過用懸濁液を、プラノバ75Nフィルターによりろ過して得られたろ液試料(FT1からFT5まで)についての測定結果では、ろ過の初期に採取されたFT1で約1分の測定時間で1個検出され、その濃度は4×107粒子/mLと算定されたのみで、FT2、FT3,FT4,FT5では、約1分の測定時間で、いずれの試料でも検出粒子は0個であった。
【0071】
ろ過の初期の採取試料(FT1)のみに1個の粒子が検出され、それ以降の4試料には粒子が検出されなかったことから、これら5試料中に1個の粒子が検出されたといえる。この前提で計算すると、ろ液中の粒子濃度は4×107粒子/mL÷5=8×106粒子/mLという計算が、成り立つ。そして、ろ過用懸濁液の粒子濃度を2×109粒子/mLとした場合は、プラノバ75Nフィルターによる粒子の除去後の割合は、0.4%、ろ過用懸濁液の粒子濃度を3×109粒子/mLとした場合は、プラノバ75Nフィルターによる粒子の除去後の割合は、約0.27%と算出される。したがって、99%以上のマイクロパーティクルの除去率が示された。
【表6】
【0072】
(実施例5:好中球細胞外トラップの形成の有無の評価)
血小板由来マイクロパーティクル(微粒子)を含むヒト血漿に入れられたヒト好中球を光学顕微鏡写真で観察して得られた画像を図8に示す。図8において、白い丸い粒が好中球であり、数十個凝集している様子が観察された。これは、NETsの形成が起きていることを示している。
【0073】
また、血小板由来マイクロパーティクルを含むヒト血漿を、膜面積0.001m2のプラノバ75Nフィルターを使用し、ろ過の流速は0.5L/分/m2で行ったこと以外は実施例3と同様の条件においてろ過し、ヒト血漿から血小板由来マイクロパーティクルを99%以上除去した後のヒト血漿に入れられた、ヒト好中球を光学顕微鏡写真で観察して得られた画像を図9に示す。図9において、白い丸い粒が好中球であり、凝集している様子は観察されなかった。これは、NETsの形成が起きていないことを示している。
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
図9