【解決手段】溶接ワイヤの送給速度Fwの正送期間と逆送期間とを周期的に繰り返して短絡期間とアーク期間とを発生させ、短絡期間中は短絡電流を通電するアーク溶接制御方法において、短絡電流のピーク値Ip及び/又は上昇率Sを、送給速度Fwの波形パラメータに応じて変化させる。波形パラメータは振幅W、周期T又は正送期間と逆送期間との比率Dの少なくとも1つ以上である。これにより、送給速度Fwの波形パラメータが変化しても、短絡電流が自動的に適正化されるので、溶滴移行状態が不安定になることを抑制することができる。
溶接ワイヤの送給速度の正送期間と逆送期間とを周期的に繰り返して短絡期間とアーク期間とを発生させ、前記短絡期間中は短絡電流を通電するアーク溶接制御方法において、
前記短絡電流の最大値を、前記送給速度の波形パラメータに応じて変化させる、
ことを特徴とするアーク溶接制御方法。
【背景技術】
【0002】
一般的な消耗電極式アーク溶接では、消耗電極である溶接ワイヤを一定速度で送給し、溶接ワイヤと母材との間にアークを発生させて溶接が行なわれる。消耗電極式アーク溶接では、溶接ワイヤと母材とが短絡状態とアーク発生状態とを交互に繰り返す溶接状態になることが多い。
【0003】
ところで、溶接品質をさらに向上させるために、溶接ワイヤの正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。以下、この溶接方法について説明する。
【0004】
図3は、溶接ワイヤの送給速度の正送期間と逆送期間とを周期的に繰り返す溶接方法における波形図である。同図(A)は送給速度Fwの波形を示し、同図(B)は溶接電流Iwの波形を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの波形を示す。以下、同図を参照して動作について説明する。
【0005】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側が正送期間となり、下側が逆送期間となる。正送とは溶接ワイヤを母材に近づける方向に送給することであり、逆送とは母材から離反する方向に送給することである。送給速度Fwは、正弦波状に変化しており、正送側にシフトした波形となっている。このために、送給速度Fwの平均値は正の値となり、溶接ワイヤは平均的には正送されている。
【0006】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1時点では0であり、時刻t1〜t2の期間は正送加速期間となり、時刻t2で正送の最大値となり、時刻t2〜t3の期間は正送減速期間となり、時刻t3で0となり、時刻t3〜t4の期間は逆送加速期間となり、時刻t4で逆送の最大値となり、時刻t4〜t5の期間は逆送減速期間となる。送給速度Fwは、時刻t1〜t5を1周期として繰り返される。
【0007】
溶接ワイヤと母材との短絡は、時刻t2の正送最大値の前後で発生することが多い。同図では、正送最大値の後の正送減速期間中の時刻t21で発生した場合である。時刻t21において短絡が発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwも小電流値の初期電流値に減少する。以下の説明においては、短絡期間中の溶接電流Iwを短絡電流と記載することにする。そして、その後、短絡電流は、所定の上昇率S[A/ms]で増加し、予め定めたピーク値Ipに達するとその値を維持する。
【0008】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t3からは逆送期間になるので、溶接ワイヤは逆送される。この逆送及び短絡電流によるピンチ力によって短絡が解除されて、時刻t31においてアークが再発生する。アークの再発生は、時刻4の逆送最大値の前後で発生することが多い。同図では、逆送最大値の前の逆送加速期間中の時刻t31で発生した場合である。
【0009】
時刻t31においてアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧値に急増する。同図(B)に示すように、短絡電流は、アーク再発生の前兆現象である溶滴のくびれを検出する制御によって、時刻t31よりも数百μs程度前の時点から急減し、時刻t31のアーク再発生時点では小電流値となっている。このくびれの検出は、溶滴にくびれが形成されると通電路が狭くなり溶接ワイヤと母材との間の抵抗値又は溶接電圧値が上昇することを検出することによって行われる。
【0010】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t31から時刻t5まで逆送される。この期間中は、アーク長が長くなる期間となる。時刻t31〜t5の期間中は、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、所定のアーク時上昇率で増加し、所定の第1溶接電流値に達するとその値をアーク再発生時(時刻t31)からの所定期間維持する。その後は次の短絡が発生する時刻t61まで第1溶接電流よりも小となる第2溶接電流が通電する。
【0011】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t5から正送期間となり、時刻t6で正送の最大値となる。そして、同図では、時刻t61において、次の短絡が発生する。この時刻t5〜t61の期間中は、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは次第に減少し、同図(B)に示すように、溶接電流Iwも次第に減少する。
【0012】
上述したように、短絡とアークとの周期は、送給速度の正送と逆送との周期と略一致することになる。すなわち、この溶接方法では、送給速度の正送と逆送との周期を設定することによって短絡とアークとの周期を所望値にすることができる。このために、この溶接方法を実施すれば、短絡とアークとの周期のばらつきを抑制して略一定にすることが可能となり、スパッタ発生量の少ない、かつ、ビード外観の良好な溶接を行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0024】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、上記の誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信号を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0025】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。この減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0026】
送給モータWMは、後述する送給制御信号Fcを入力として、正送と逆送とを周期的に繰り返して溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。この送給モータWMには、過渡応答性の速いモータが使用される。溶接ワイヤ1の送給速度Fwの変化率及び送給方向の反転を速くするために、送給モータWMは溶接トーチ4の先端の近くに設置される場合がある。また、送給モータWMを2個使用して、プッシュプル方式の送給系とする場合もある。
【0027】
溶接ワイヤ1は、上記の送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0028】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。
【0029】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値Vta(10V程度に設定)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0030】
平均送給速度設定回路FARは、予め定めた平均送給速度設定信号Farを出力する。振幅微調整回路WFRは、送給速度の振幅を微調整するための振幅微調整信号Wfrを出力する。周期微調整回路TFRは、送給速度の周期を微調整するための周期微調整信号Tfrを出力する。正逆比率微調整回路DFRは、送給速度の正送期間と逆送期間との比率(以下、正逆比率という)Dを微調整するための正逆比率微調整信号Dfrを出力する。正逆比率Dは、D=(逆送期間)/(正送期間)である。
【0031】
送給速度設定回路FRは、上記の平均送給速度設定信号Far、上記の振幅微調整信号Wfr、上記の周期微調整信号Tfr及び上記の正逆比率微調整信号Dfrを入力として、平均送給速度設定信号Farに対応して予め設定されている振幅標準値、周期標準値及び正逆比率標準値を、振幅微調整信号Wfr、周期微調整信号Tfr及び正逆比率微調整信号Dfrのそれぞれの値で微調整した波形パラメータから形成されるパターンの送給速度設定信号Frを出力する。すなわち、平均送給速度設定信号Farを入力として、予め定めた振幅算出関数によって振幅標準値が算出される。そして、振幅設定値=振幅標準値+振幅微調整信号Wfrを行う。例えば、振幅標準値=90m/min、Wfr=−10m/minであるときは、振幅設定値=80m/minとなる。同様にして、周期設定値及び正逆比率設定値を算出する。Wfr、Tfr及びDfrは、正負の値となる。算出された振幅設定値、周期設定値及び正逆比率設定値を波形パラメータとして、正弦波状に正送期間と逆送期間とを繰り返す送給速度設定信号frが出力される。送給速度設定信号Frのパターンは、台形波状、三角波状等でも良い。
【0032】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度Fwで溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0033】
第1溶接電流設定回路IWR1は、予め定めた第1溶接電流設定信号Iwr1を出力する。第1溶接電流通電期間設定回路TWR1は、予め定めた第1溶接電流通電期間設定信号Twr1を出力する。
【0034】
くびれ検出感度設定回路NTRは、予め定めたくびれ検出感度設定信号Ntrを出力する。くびれ検出回路NDは、上記の短絡判別信号Sd、上記の溶接電圧検出信号Vd、上記の溶接電流検出信号Id及び上記のくびれ検出感度設定信号Ntrを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの溶接電圧検出信号Vdの電圧上昇値がくびれ検出感度設定信号Ntrの値に達した時点でくびれの形成状態が基準状態になったと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の溶接電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応したくびれ検出感度設定信号Ntrの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、溶接電圧検出信号Vdの値を溶接電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応するくびれ検出感度設定信号Ntrの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0035】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0036】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0037】
上昇率設定回路SRは、上記の平均送給速度設定信号Far、上記の振幅微調整信号Wfr、上記の周期微調整信号Tfr及び上記の正逆比率微調整信号Dfrを入力として、平均送給速度設定信号Farに基づいて予め定めた上昇率算出関数によって上昇率標準値Ssを算出し、この上昇率標準値Ssを振幅微調整信号Wfr、周期微調整信号Tfr及び正逆比率微調整信号Dfrの各値によって補正して、上昇率設定信号Srを出力する。補正は、以下の式によって行う。
Sr=Ss+a1・Wfr+b1・Tfr+c1・Dfr …(1)式
但し、a1、b1及びc1は定数であり、正の実数である。これらの定数は、実験によって予め算出されている。上昇率標準値Ssは、振幅微調整信号Wfrが正の値のとき大きくなるように補正され、負の値のとき小さくなるように補正される。同様に、上昇率標準値Ssは、周期微調整信号Tfrが正の値のとき大きくなるように補正され、負の値のとき小さくなるように補正される。同様に、上昇率標準値Ssは、正逆比率微調整信号Dfrが正の値のとき大きくなるように補正され、負の値のとき小さくなるように補正される。
【0038】
ピーク値設定回路IPRは、上記の平均送給速度設定信号Far、上記の振幅微調整信号Wfr、上記の周期微調整信号Tfr及び上記の正逆比率微調整信号Dfrを入力として、平均送給速度設定信号Farに基づいて予め定めたピーク値算出関数によってピーク値標準値Ipsを算出し、このピーク値標準値Ipsを振幅微調整信号Wfr、周期微調整信号Tfr及び正逆比率微調整信号Dfrの各値によって補正して、ピーク値設定信号Iprを出力する。補正は、以下の式によって行う。
Ipr=Ips+a2・Wfr+b2・Tfr+c2・Dfr …(2)式
但し、a2、b2及びc2は定数であり、正の実数である。これらの定数は、実験によって予め算出されている。ピーク値標準値Ipsは、振幅微調整信号Wfrが正の値のとき大きくなるように補正され、負の値のとき小さくなるように補正される。同様に、ピーク値標準値Ipsは、周期微調整信号Tfrが正の値のとき大きくなるように補正され、負の値のとき小さくなるように補正される。同様に、ピーク値標準値Ipsは、正逆比率微調整信号Dfrが正の値のとき大きくなるように補正され、負の値のとき小さくなるように補正される。
【0039】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr、上記のくびれ検出信号Nd、上記の第1溶接電流設定信号Iwr1、上記の上昇率設定信号Sr及び上記のピーク値設定信号Iprを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、電流制御設定信号Icrの値を、上記の初期電流設定値から上昇率設定信号Srによって定まる上昇率でピーク値設定信号Iprの値まで上昇させ、その値を維持する。
3)くびれ検出信号NdがHighレベルに変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク)に変化すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時上昇率で第1溶接電流設定信号Iwr1の値まで上昇させ、その値を維持する。
【0040】
オフディレイ回路TDSは、上記の短絡判別信号Sd及び上記の第1溶接電流通電期間設定信号Twr1を入力として、短絡判別信号SdがHighレベルからLowレベルに変化する時点を第1溶接電流通電期間設定信号Twr1の期間だけオフディレイさせて遅延信号Tdsを出力する。したがって、この遅延信号Tdsは、短絡期間になるとHighレベルとなり、アークが再発生してから第1溶接電流通電期間設定信号Twr1の期間だけオフディレイしてLowレベルになる信号である。
【0041】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の溶接電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0042】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr(+)と上記の溶接電圧検出信号Vd(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0043】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の遅延信号Tdsを入力として、遅延信号TdsがHighレベル(短絡開始からアークが再発生して第1溶接電流通電期間設定信号Twr1の期間が経過するまでの期間)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Lowレベル(アーク)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+第1溶接電流通電期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0044】
図2は、本発明の実施の形態1に係るアーク溶接制御方法を説明するための、
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接ワイヤ1の送給速度Fwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(E)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(F)は遅延信号Tdsの時間変化を示し、同図(G)は電流制御設定信号Icrの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0045】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、0よりも上側の正の値のときは溶接ワイヤが正送されていることを示し、0よりも下側の負の値のときは逆送されていることを示す。同図(A)に示す送給速度Fwは送給速度設定信号Fr(図示は省略)によって設定されるので、両波形は相似波形となる。送給速度設定信号Frは、
図1で上述したように、平均送給速度設定信号Farに対応して予め設定されている振幅標準値、周期標準値及び正逆比率標準値を、振幅微調整信号Wfr、周期微調整信号Tfr及び正逆比率微調整信号Dfrのそれぞれの値で微調整した波形パラメータから形成される正弦波状のパターンとなる。同図では正弦波状に変化しているが、三角波状又は台形波状に変化するようにしても良い
【0046】
同図(A)に示すように、送給速度Fwは、時刻t1時点では0であり、時刻t1〜t2の期間は正送加速期間となり、時刻t2で正送の最大値となり、時刻t2〜t3の期間は正送減速期間となり、時刻t3で0となり、時刻t3〜t4の期間は逆送加速期間となり、時刻t4で逆送の最大値となり、時刻t4〜t5の期間は逆送減速期間となる。したがって、送給速度Fwは、時刻t1〜t5の期間を1周期Tとして繰り返す波形となる。振幅Wは正送の最大値と逆送の最大値との差となる。正逆比率Dは、(時刻t3〜t5の期間)/(時刻t1〜t3の期間)となる。例えば、時刻t1〜t3の正送期間は5.4msであり、時刻t3〜t5の逆送期間は4.6msであり、このときの1周期Tは10msとなり、正逆比率Dは0.85となる。また、正送の最大値は50m/minであり、逆送の最大値は−40m/minであり、このときの振幅Wは90m/minとなる。平均送給速度は約+4m/minとなり、平均溶接電流値は約150Aとなる。
【0047】
同図(C)に示すように、溶接ワイヤと母材との短絡が時刻t21で発生すると、溶接電圧Vwは数Vの短絡電圧値に急減する。時刻t21において短絡が発生して溶接電圧Vwが短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別すると、同図(F)に示すように、遅延信号TdsはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrは時刻t21において小さな値である予め定めた初期電流設定値に変化する。
【0048】
時刻t3からは逆送加速期間となるので、送給速度Fwは逆送方向に切り換わる。同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrは、時刻t21〜t22の予め定めた初期期間中は上記の初期電流設定値となり、時刻t22〜t23の期間中は上昇率設定信号Srによって定まる上昇率で上昇し、時刻t23〜t31の期間中はピーク値設定信号Iprの値となる。短絡期間中は上述したように定電流制御されているので、溶接電流Iwは電流制御設定信号Icrに相当する値に制御される。このために、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21においてアーク期間の溶接電流から急減し、時刻t21〜t22の初期期間中は初期電流値となり、時刻t22〜t23の期間中は上昇率Sで上昇し、時刻23〜t31の期間中はピーク値Ipとなる。例えば、初期期間は1msに、初期電流は50Aに設定される。また、上昇率Sは300〜500A/msの範囲で変化し、ピーク値Ipは350〜550Aの範囲で変化する。
【0049】
上記の上昇率設定信号Srは、
図1の上昇率設定回路SRによって、平均送給速度設定信号Farを入力として予め定めた上昇率算出関数によって上昇率標準値Ssを算出し、この上昇率標準値Ssを振幅微調整信号Wfr、周期微調整信号Tfr及び正逆比率微調整信号Dfrの各値によって補正した値となる。すなわち、上昇率設定信号Srは、上述した(1)式によって算出されて、送給速度Fwの波形パラメータに適合した値に自動設定される。同様に、上記のピーク値設定信号Iprは、
図1のピーク値設定回路IPRによって、平均送給速度設定信号Farを入力として予め定めたピーク値算出関数によってピーク値標準値Ipsを算出し、このピーク値標準値Ipsを振幅微調整信号Wfr、周期微調整信号Tfr及び正逆比率微調整信号Dfrの各値によって補正した値となる。すなわち、ピーク値設定信号Iprは、上述した(2)式によって算出されて、送給速度Fwの波形パラメータに適合した値に自動設定される。このために、送給速度の波形パラメータが変化したときに、短絡電流が適正化されるので、溶滴移行状態が不安定になることを抑制することができる
【0050】
同図(D)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t31〜t33の期間はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(E)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t31〜t32の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t31以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、
図1のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の消耗電極アーク溶接電源と同一の状態となる。
【0051】
同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwがピーク値Ipとなる時刻t23あたりから上昇する。これは、溶接ワイヤの逆送及び短絡電流によるピンチ力の作用により、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。
【0052】
時刻t31において、短絡期間中の溶接電圧Vwの電圧上昇値がくびれ検出感度設定信号Ntrの値に達すると、くびれの形成状態が基準状態になったと判別して、同図(D)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。くびれ検出信号Ndは、時刻t31のくびれの検出時点でHighレベルとなり、時刻t33のアーク再発生時点でLowレベルとなる。
【0053】
時刻t31において、くびれ検出信号NdがHighレベルになったことに応動して、同図(E)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrは低レベル電流設定信号Ilrの値へと小さくなる。このために、同図(B)に示すように、短絡電流はピーク値Ipから低レベル電流値Ilへと急減する。そして、時刻t32において短絡電流が低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(E)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、
図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(B)に示すように、短絡電流は、電流制御設定信号Icrが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、時刻t33のアーク再発生までは低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t31にくびれ検出信号NdがHighレベルに変化した時点から時刻t32に短絡電流が低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、短絡電流が小さくなるので時刻t31から一旦減少した後に急上昇する。低レベル電流値Ilは、例えば50Aに設定される。
【0054】
時刻t33において、溶接ワイヤの逆送及び短絡電流の通電によるピンチ力によってくびれが進行してアークが再発生すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwの値は短絡/アーク判別値Vta以上となる。
【0055】
アークが再発生した直後の時刻t4からは逆送減速期間になるので、同図(A)に示すように、送給速度Fwは逆送状態を維持しつつ減速する。時刻t33にアークが再発生すると、同図(G)に示すように、電流制御設定信号Icrの値は、低レベル電流設定信号Ilrの値から予め定めたアーク時上昇率で上昇し、予め定めた第1溶接電流設定信号Iwr1の値に達するとその値を維持する。同図(F)に示すように、遅延信号Tdsは、時刻t33にアークが再発生してから予め定めた第1溶接電流通電期間設定信号Twr1の期間が経過する時刻t41までHighレベルのままである。したがって、溶接電源は時刻t41まで定電流制御されているので、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t33からアーク時上昇率で上昇し、第1溶接電流設定信号Iwr1の値に達するとその値を時刻t41まで維持する。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t33〜t41の第1溶接電流通電期間Tw1中は大きな値の第1溶接電圧値の状態にある。同図(D)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t33にアークが再発生するので、Lowレベルに変化する。例えば、アーク時上昇率は400A/msに設定され、第1溶接電流設定信号Iwr1は450Aに設定され、第1溶接電流通電期間設定信号Twr1は2msに設定される。
【0056】
時刻t41において、同図(F)に示すように、遅延信号TdsがLowレベルに変化する。この結果、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。時刻t33にアークが再発生してから時刻t5までは、溶接ワイヤは逆送しているので、アーク長は次第に長くなる。時刻t5からは正送加速期間になるので、同図(A)に示すように、送給速度Fwは正送に切り換えられる。時刻t41に定電圧制御に切り換えられると、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは、第1溶接電流Iw1から次第に減少する第2溶接電流Iw2が通電する。同様に、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは、第1溶接電圧値から次第に減少する。時刻t6の正送最大値の後の時刻t61において、次の短絡が発生する。
【0057】
上述した実施の形態1では、送給速度の波形パラメータに応じて短絡電流のピーク値及び上昇率を変化させる場合について説明したが、どちらか一方だけを変化させるようにしても良い。
【0058】
上述した実施の形態1によれば、短絡電流のピーク値及び/又は上昇率を送給速度の波形パラメータに応じて変化させる。これにより、本実施の形態では、送給速度の振幅、周期、正送期間と逆送期間との比率等の波形パラメータが変化した場合、短絡電流のピーク値及び/又は上昇率が自動的に適正化されるので、短絡期間中の溶滴移行状態が不安定になることを抑制することができる。