特開2015-231642(P2015-231642A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧
特開2015-231642超硬合金の電解加工方法および電解加工装置
<>
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000006
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000007
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000008
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000009
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000010
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000011
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000012
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000013
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000014
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000015
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000016
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000017
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000018
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000019
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000020
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000021
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000022
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000023
  • 特開2015231642-超硬合金の電解加工方法および電解加工装置 図000024
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-231642(P2015-231642A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】超硬合金の電解加工方法および電解加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 3/08 20060101AFI20151201BHJP
   B23H 3/10 20060101ALI20151201BHJP
   B23H 9/00 20060101ALI20151201BHJP
   C25F 3/00 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   B23H3/08
   B23H3/10 A
   B23H9/00 Z
   C25F3/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-118449(P2014-118449)
(22)【出願日】2014年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112210
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108431
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 加奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100153176
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 重明
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 長男
(72)【発明者】
【氏名】毛利 尚武
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA02
3C059BB10
3C059EA02
3C059HA01
(57)【要約】
【課題】この発明による超硬合金の電解加工方法は、電解液へのCoイオンの添加で、電解加工中に電解液に触れる部分のCo溶出を防止することと、加工面のCo溶出を防止すること。
【解決手段】超硬合金の電解加工において、電解加工液として、食塩水又は硝酸ソーダ水溶液を主成分とした水溶液を用い、該電解加工液にコバルトイオンを加え、電解加工中には、電極と工作物間に電解液が循環するようにフラッシングを行い、電極を負極として流す電流の電荷量を、電極を正極として流す電流の電荷量よりも多くする。
【選択図】 図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と工作物である超硬合金との間に、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで工作物である超硬合金の成分である炭化タングステン(WC)を陽極酸化させて酸化タングステン(WO3)とすると同時にコバルト(Co)を電解溶出し、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで、陽極酸化して生成した酸化タングステン(WO3)を化学的に溶解させることにより加工を行う超硬合金の電解加工において、
電解加工液として、食塩水(NaCl水溶液)又は硝酸ソーダ水溶液(NaNO3水溶液)を主成分とした水溶液を用い、
該電解加工液にコバルトイオン(Co2+)を加えることにより、
電解加工中および電解加工終了後に電解加工液にふれた超硬合金から構成成分であるコバルト(Co)が電解加工液中に溶出する現象を防止することを特徴とする超硬合金の電解加工方法。
【請求項2】
電極と工作物である超硬合金との間に、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで工作物である超硬合金の成分である炭化タングステン(WC)を陽極酸化させて酸化タングステン(WO3)とすると同時にコバルト(Co)を電解溶出し、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで、陽極酸化して生成した酸化タングステン(WO3)を化学的に溶解させることにより加工を行う超硬合金の電解加工において、
電解加工液として、食塩水(NaCl水溶液)又は硝酸ソーダ水溶液(NaNO3水溶液)を主成分とした水溶液を用い、
該電解加工液にコバルトイオン(Co2+)を加え、
電解加工中には、電極と工作物間に電解液が循環するようにフラッシングを行い、
電極を負極として流す電流の電荷量を、電極を正極として流す電流の電荷量よりも多くしたことを特徴とする超硬合金の電解加工方法。
【請求項3】
電極と超硬合金である被加工物との間に交流電圧を印加する電源と、
食塩水(NaCl水溶液)又は硝酸ソーダ水溶液(NaNO3水溶液)にコバルトイオン(Co2+)を加えた電解加工液を貯める加工槽とを備えた電解加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金の電解加工に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は炭化タングステン(WC)を、コバルト(Co)をバインダとして焼結した材料であり、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)などを成分として加える場合が多い。超硬合金は硬さが高く、高い耐摩耗性を有する材料であり、従来、形状加工には放電加工が用いられることが多かった。
放電加工で加工する場合には、荒加工において、加工速度最大1gr/min、を得る時のあらさは50μmRz程度、銅―タングステン電極の消耗比は15%程度となる。クラックの発生もある。クラックの発生を減少するため、加工速度を0.2gr/min程度と下げても仕上面あらさは10μmRzないし20μmRz、電極消耗比は15%程度は避けられない。
仕上面あらさを4μmRzとすれば加工速度は最大で0.05g/minとなり、電極消耗比は15%以上となる。しかし、その当時は超硬合金の形状加工に放電加工を用い、放電加工においてクラックの発生などはあっても、加工速度を著しく下げて加工してクラックを減少させ、さらに、みがき作業によりクラックを除去して製品として使用していた。
【0003】
また、近年、切削加工による形状加工が試みられつつある。超硬合金の加工が切削加工で可能という研究発表も散見されるが、工具刃先の消耗が大きく特におおよその形状を加工する荒加工段階の加工速度が遅く、経済的に成り立つには、まだ困難がある。高速切削加工や中加工では、工具磨耗のため加工の切込みや送りなどの切削条件を大きくできず、加工時間が長くかかるという問題がある。現状の加工速度では、放電加工の何倍も長い時間がかかっている。研削加工や電着工具を用いた研削加工も切削加工同様試みられているが、同様の問題を持っている。
【0004】
一方、数10年前に電解加工が研究されていた(例えば、非特許文献1、特許文献1、特許文献2参照)。電解加工では、電極消耗はほぼ零であり、仕上面あらさが細かい領域(3〜4μmRz)の加工速度が大きく、放電加工のような加工面の亀裂発生もない。電解加工の加工速度は1967年頃に実施した結果でも、面粗さ3〜4μmRzを得る時の加工速度は2g/minと、極めて高速であった。(図1図2
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】前田祐雄、齋藤長男、葉石雄一郎著、「三菱電機技報」Vol.41、No.10(1967) 1272-1279
【特許文献1】特公昭41−1086号公報
【特許文献2】特公昭41−1087号公報
【0006】
このように本質的には極めて優れた加工特性をもっているが、大きな欠点があり現在まで実用化されていなかった。その欠点とは加工が進むにつれて電解加工液が変質して加工を継続できなくなること、塩素ガスが発生する安全上の問題があること、加工により生成される化学変化したスラッジの処理の方法が確立していなかったこと、そして、当時は認識されていなかったが、超硬合金を電解加工液に浸漬させることによって起きる超硬合金の構成成分であるコバルト(Co)の溶出による品質劣化である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上述べたように、当時の電解加工技術は、研究成果は得られていたが工業製品としては未熟であったといえる。その問題点について以下に詳述するが、その前に当時の超硬合金の電解加工技術について説明を加える。
【0008】
超硬合金がどのような電気化学反応によって加工されるのかを以下に説明する。超硬合金は、WC、Coを主成分とし、TiC、TaCを含むものもある。それぞれの成分がどのような電気化学反応によって溶出除去されるかを述べる。電解液はNaCl水溶液、あるいは、NaCl+NaOH水溶液を使用するものと想定している
【0009】
まず、超硬合金の主成分である炭化タングステン(WC)の反応について見る。超硬合金を正極にすると、表面が陽極酸化されて青らん色の膜を生ずる。これはWCが酸化されて生成したWO3である。ついで超硬合金を負極にすると、WO3がNaイオンにふれることにより、表面すなわちWO3からガスが激しく発生し超硬合金の地肌色になる。この反応を化学式で示すと以下のようになる。
(陽極)WC+9/2[O] → WO3+1/2CO+1/2CO2 ―(1)
(陰極)WO3+2NaOH → Na2WO4+H2O ―(2)
電解加工液は、NaClの代わりにNaNO3を置きかえて加工することも可能である。
【0010】
次にコバルト(Co)の溶出について述べる。Coは通常の金属であるので、超硬合金が正極のときに以下のように反応し、溶出する。
Co+2Cl-−2e- → CoCl2 ― (3)
CoCl2は水に可溶性をもち、CoCl2は数時間の時間経過の後、電解液中の水(H2O)と反応し、Co(OH)2となりClを放出しNaイオンと反応しNaClを生ずる。
【0011】
次に炭化チタン(TiC)の溶出について述べる。TiCは以下の化学反応で溶出すると考えられている。
(陽極)TiC+7/2[O] → TiO2+1/2Co+1/2Co2 ―(4)
(陰極)TiO2+2H2O → Ti(OH)2 ―(5)
この、上記一連の化学反応式は、実験にもとづき反応生成物を分析等によって検討して、想定した反応式である。TiO2がTi(OH)2に化学反応するにはTiCl2の過程がある。
炭化タンタル(TaC)の場合も、TiCの場合と同様の反応と考えられている。
なお、電解加工液としては、NaCl水溶液を基本とし、それにNaOHを添加した場合を想定しているが、硝酸ナトリウム(NaNO3)を使用する場合も、Clの代わりにNO3を置き換えればよい。
【0012】
超硬合金の電解加工において問題になるのは、あまり議論されることがなかったが、超硬合金の構成成分であるコバルト(Co)が選択的に溶出されて材料強度が低下してしまい金型としての使用に耐えないということである。図3は超硬合金を(電解加工ではなく)水に約8時間浸漬して放置したときの超硬合金表面の写真である。この写真はワイヤ放電加工の問題点を調べるための試験として行ったものであり、浸漬した液体は水であり、電解液に比べてCoの溶出は少ないにも関わらず、Coが抜けて材料が劣化していることがわかる。(ただし、現在のワイヤ放電では、コバルトの溶出を抑えるための技術が開発されており、このようにコバルトが溶出するわけではない。)多くの超硬合金ユーザーが超硬合金を導電性の液体に触れさせることに対して嫌悪感を持っていることも忘れてはいけない。
【0013】
一般的に、電解加工に用いる電解液には、NaClやNaNO3等の水溶液が用いられる。非特許文献1では、NaOHを含んだ電解液を使用することで、WC(WO3)を溶出できることが示されているが、取扱い上NaOHを避けるためNaCl主体の電解液を使用して、超硬合金を加工することも提案している。
電解加工を行う際には、加工面の品質劣化がないことはもちろん重要であるが、直接の加工面でなくても電解液に触れる部分があり、それらの部分の品質劣化がないことも重要である。まず、加工面以外の電解液に触れる部分への影響の調査として、NaCl、NaOHを電解液として浸漬試験を行った。NaOHを用いたのは、NaCl溶液でCoが溶出する反応が、
H2O+1/2O2+2e- → 2OH-
Co → Co2++2e-
(Co+2Cl- → CoCl2+2e-
の反応であり、OH-を増せば、Coの溶出を防止できるのではないかと考えたからである。図4は、NaCl、NaOH、NaCl+NaOHのそれぞれの溶液に超硬合金を18時間浸漬したときの超硬合金表面のSEM写真である。使用した溶液は、表1の通りで、(a) NaCl溶液、(b) NaOH溶液、(c) NaCl+NaOH溶液(2:1) 、(d) NaCl+NaOH溶液(1:2)である。それぞれ溶液中100ml中に超硬合金(粒径約0.8μm、WC約87wt%、Co約13wt%)(5mm×5mm×30mm)を18時間浸漬した。試験片は、5mm×5mmの面を研磨紙で乾式研磨した後、ダイヤモンドペーストで仕上げた。HIP処理を行った材料ではないので、細かな空隙は存在している。比較のため研磨したままの状態の超硬合金の写真を(o)に示す。SEM観察したのは、研磨した5mm×5mmの面である。同じ溶液中に110時間浸漬したときの写真を図5に示す。
図4より、NaCl溶液中に超硬合金を浸漬すると、電圧を印加しなくてもCoだけが選択的に溶出することがわかる。一方で、NaOH溶液の場合にはCoの溶出現象が抑えられていることがわかる。さらに、NaCl+NaOH溶液の場合でも、Coの溶出は抑えられているように見える。しかし、長時間の浸漬試験では、表面のSEM写真で黒い部分が増えており、Coの溶出が起きているように見える。図6は磨いた状態の表面の元素分析結果、図7図5(c)の表面の元素分析結果である。Coが溶出しているように見える。
NaCl溶液に長時間浸漬した試験片の表面は、変色しておりSEM観察がうまくできなかった。付着物が表面についているようにも見えるが、よくわかっていない。
電解液としては極端な場合であるNaOH溶液ではCoの溶出現象が抑えられているようであるがCoを電解加工することができない可能性があり、また、衛生上も問題がある。NaOH主体の溶液でない電解液を使用し、Coの選択的な溶出を防止することが望ましい。
表1 浸漬試験の溶液
【0014】
本発明では、これらの超硬合金の電解加工技術の問題点を解決し、高速で高品位・高精度な加工技術を確立することを目的とする。
【0015】
尚、これまでの説明はNaClを主成分とする電解加工液について行ったが、NaNO3等、他の電解加工液でも同様の議論ができる。電解液の成分として一般的であるNaNO3水溶液でも同じ浸漬試験(18時間)を行った。その結果を図8に示す。NaCl水溶液を使用した場合と同様、超硬合金表面のCoが溶出している様子が観察される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の発明に係る超硬合金の電解加工方法は、電極と工作物である超硬合金との間に、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで工作物である超硬合金の成分である炭化タングステン(WC)を陽極酸化させて酸化タングステン(WO3)とすると同時にコバルト(Co)を電解溶出し、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで、陽極酸化して生成した酸化タングステン(WO3)を化学的に溶解させることにより加工を行う超硬合金の電解加工において、電解加工液として、食塩水(NaCl水溶液)又は硝酸ソーダ水溶液(NaNO3)を主成分とした水溶液を用い、該電解加工液にコバルトイオン(Co2+)を加えることにより、電解加工中および電解加工終了後に電解加工液にふれた超硬合金から構成成分であるコバルト(Co)が電解加工液中に溶出する現象を防止することを特徴とするものである。
【0017】
第2の発明に係る超硬合金の電解加工方法は、電極と工作物である超硬合金との間に、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで工作物である超硬合金の成分である炭化タングステン(WC)を陽極酸化させて酸化タングステン(WO3)とすると同時にコバルト(Co)を電解溶出し、電極を負極として電圧を印加し電流を流すことで、陽極酸化して生成した酸化タングステン(WO3)を化学的に溶解させることにより加工を行う超硬合金の電解加工において、電解加工液として、食塩水(NaCl水溶液)又は硝酸ソーダ水溶液(NaNO3)を主成分とした水溶液を用い、該電解加工液にコバルトイオン(Co2+)を加え、電解加工中には、電極と工作物間に電解液が循環するようにフラッシングを行い、
電極を負極として流す電流の電荷量を、電極を正極として流す電流の電荷量よりも多くしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本願発明によれば、超硬合金の電解加工において、電解液へCoイオンを添加することで、電解加工中に電解液に触れる部分のCo溶出を防止することと、加工面のCo溶出の防止とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の電解加工の加工例を示す説明図である。
図2】従来の電解加工の加工例を示す説明図である。
図3】超硬合金のCo溶出の問題を説明する図である。
図4】電解液に浸漬した超硬合金の写真である。
図5】電解液に浸漬した超硬合金の写真である。
図6】磨いた超硬合金の元素分析である。
図7】電解液に浸漬した超硬合金の元素分析である。
図8】電解液(NaNO3)に浸漬した超硬合金の写真である。
図9】Coイオンを添加した電解液に浸漬した超硬合金の写真である。
図10】Coイオンを添加した電解液に浸漬した超硬合金の元素分析である。
図11】電解加工装置の説明図である。
図12】電解加工装置の波形の説明図である。
図13】NaCl溶液での両極性加工結果の写真である。
図14】NaCl溶液での両極性加工結果の写真である。
図15】NaCl+NaOH溶液での両極性加工結果の写真である。
図16】NaCl溶液での両極性加工結果の写真である。
図17】NaCl溶液での両極性加工結果の元素分析である。
図18】Coイオンを添加したNaCl溶液での両極性加工結果の写真である。
図19】Coイオンを添加したNaCl溶液での両極性加工結果の元素分析である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
Coの溶出が、
Co → Co2++2e-
(Co+2Cl- → CoCl2+2e-
(2H++2e- → H2
の反応であることに注目すると、電解液中のCo2+濃度を上げることで、Coの溶出を抑制できると考えられる。そこで、NaCl溶液にCoCl2を添加して浸漬試験を行った。使用した溶液の中で後に写真を示したものは表2のとおりである。(CoCl2の重量は6水和物の重量である)
表2 浸漬試験の溶液
それぞれの溶液に110時間浸漬した試験片の表面SEM写真を図9に示す。また、図9(1)(2)の試験片表面の元素分析の結果を図10に示す。SEM写真からも元素分析結果からもCo量が減少しておらず、Coの溶出が抑えられているように見える。図9(2)(3)の表面は荒れて見えるが、図10(2)からCl元素が検出されており、CoCl2が表面に付着したものと考えられる。(元素分析の際に同定する元素からClは除外している。)
SEMによる観察結果と表面の元素分析とからの結果ではあるが、電解液中のCo2+濃度を上げることで、電解液に触れた超硬合金からのCoの溶出を防止できることがわかった。Coの溶出を抑制するために必要なCo2+濃度は他の溶液を用いた浸漬試験から極微量でよいことがわかり、約0.1wt%程度から効果があり、できれば、約0.5wt%以上であるのが望ましいようである。
【0021】
実施の形態2.
図11に加工装置の概略図を、図12に電極と工作物の間(以下、極間と呼ぶ)の電圧・電流波形の例を示す。加工装置は、電極1と工作物2との間に電圧を印加し電流を流せるように電源E1、E2を接続しており、加工槽4には電解加工液3が貯められ電解加工液3中に工作物2が固定されている。電源E1は工作物2にプラスの電圧を印加し、電源E2 はマイナスの電圧を印加する。スイッチング素子(FET)SW1、SW2のON/OFFのタイミングを(図示しない)制御回路で制御する。スイッチング素子SW1、SW2のON/OFFにより電極1にプラス電圧を印加する時間、マイナス電圧を印加する時間、電圧を印加しない時間を決めることができる。ここでは、電圧を印加しない時間は設けず、ファンクションジェネレータを用いてプラス電圧とマイナス電圧を交互に印加した。(直流での加工試験は、工作物プラスの電圧を連続して印加した。)
【0022】
加工試験は、加工槽としてビーカーを用い、ビーカーに200mlの水と溶質を混合した溶液をいれて、5mm×5mm×30mmの寸法の超硬合金を鋼材製の治具に直立した状態で固定して浸漬した。電極は30mm×30mmの面のGrを使用した。ここでは、超硬合金の加工の際のCo溶出現象のみに注目したため、極間距離は約1mmとし、電極・工作物は固定したまま電極送りはせずに加工を行った。液のフラッシングも行っていない。各条件それぞれ10分間加工を行った。
超硬合金の電解加工の方法については、非特許文献1の方法をベースにする。加工原理は、非特許文献1、非特許文献2等にあるように、以下の反応を使用する。すなわち、電極マイナスの極性の場合、
陽極側では
Co+2Cl-−2e- → CoCl2
2OH-−2e- → H2O+[O]
WC+9/2[O] → WO3+1/2CO+1/2CO2
陰極側では
2H++2e- → H2
電極プラスの極性になると、
WO3+2NaOH → Na2WO4+H2O
2Cl-−2e- → Cl2
となる。すなわち、超硬合金の成分であるCoは純粋な電解加工現象で、WCは酸化されてWO3になった後、アルカリに溶解されるという原理である。
【非特許文献2】倉藤尚雄著、「 電解加工, 電気学会雑誌」 Vol.85-5, No.920,(1965)743-747
【0023】
表3 電解液の種類
次に表3の電解液を使用して、両極性電流により電解加工を行った(T1=10ms、T2=10ms)。図13にNaCl溶液で電解加工を行った超硬合金の表面写真を示す。Coが優先的に除去されると予想したが、実際には、加工面には、Coが多く存在していた。この表面のCoは超硬合金のCoが溶出せずに残ったものではなく、電極がプラスの極性になった時に、
Co2++2e- → Co
と、析出してきたものと考えられる。電解液にNaCl+NaOHを使用した場合もほぼ同じような状況だった。これは、加工中にフラッシングをしていないことが原因と考えられ、本来の電解加工を行った場合の状況とは異なると考えられるが、一方で、超硬合金近傍の電解液中のCo2+イオン濃度が増したときには同様の現象が起きるということでもある。Co2+イオン濃度を高い状態にし、極性を制御することで、加工面のCoの溶出量を調整できる可能性があると考えることができる。図14にNaCl溶液を用いて、T1=16ms、T2=4ms(Duty 80%)で加工を行った超硬合金の表面写真、図15にNaCl+NaOHで加工を行った超硬合金の表面写真を示す。工作物がプラスの極性の時間が長くなることで、Coの付着が抑えられている(Coの溶出が進んだ)ことがわかる。尚、図13、14、15は加工した超硬合金(5mm×5mm)の中央付近の写真である。
【0024】
実際に電解加工を行う場合には、電解液を極間に流すので、これらの試験の場合のように、極間のCo2+イオン濃度が高まることはないと考えられる。加工中にCo2+イオン濃度が比較的低いと考えられる工作物の加工面の縁付近の様子を観察した写真を図16に、元素分析の結果を図17に示す。中央部と縁の部分とでは様子が異なっていることがわかる。さらに、縁の部分では、Coの量が減少している(Coが選択的に溶出している)こともわかる。同様の傾向は、他の電解液を用いた工作物でも見られた。この状態が、本来の電解加工の状態、すなわち、電解液のフラッシングを十分に行った場合の状態に近いと考えられる。すなわち、NaCl主体の電解液を用いて超硬合金を電解加工した場合には、Coが選択的に溶出しやすい状況にあるということである。次に、この部分のCoの溶出を、電解液中のCo2+イオン濃度を高めることで抑制できるかどうかを確認した。
【0025】
NaCl水溶液(水200ml、NaCl30g)にCoCl2を10g添加した水溶液を電解液として使用し、電解加工を行った。図16と同じような工作物縁の部分の写真を図18に、元素分析の結果を図19に示す。図18より、縁の部分は図16と同様に中央部とは様子が違うことがわかるが、図19より、縁の部分でもCoの溶出は抑えられていることがわかる。この結果より、Co2+イオンの添加により、超硬合金の加工において、懸念していたCoの溶出を防止できることが確認できた。今回使用した加工条件がDuty 80%(T1=16ms、T2=4ms)とCoが溶出しやすい条件であるにも関わらずCoの溶出を抑制できるということは、加工速度の高速化を狙う場合に、加工条件の選択肢が広くなるということを意味する。また、この実験では、電解液にNaOHを添加していない。アルカリ環境にしない状態でもCoの溶出を防止できたことは、安全面においても、選択肢が増えたということができる。Co2+イオン濃度は実施の形態1と同様、微量でも効果があるが、加工を行う場合には、それぞれの極性で流す電荷の割合とCo2+イオン濃度とが影響することになる。すなわち、Co2+イオン濃度がたかければ、工作物プラスで流す電荷が多くてもCoの選択的な溶出は怒らないが、Co2+イオン濃度が低くなるに従い、工作物プラスで流す電荷を徐々に減らす必要がある。CoCl2換算で、0.5wt%程度以上の場合には、工作物プラスで流す電荷をマイナスで流す電荷よりも多くすることができ、すなわち、両方の極性で流す電流が等しいならば、Duty を50%以上にすることができる。これは、超硬合金の電解加工は電極プラスの極性で、Coの溶出(除去加工)と、WCの陽極酸化によるWO3への反応を行うため、加工速度の向上につながる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明による超硬合金の電解加工方法は、電解液へのCoイオンの添加で、電解加工中に電解液に触れる部分のCo溶出を防止することと、加工面のCo溶出の防止とを両立することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 電極
2 工作物
3 電解加工液
4 加工槽
E1、E2 電源
SW1、SW2 スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19