【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の列車制御装置の一実施例を示す構成図である。
【0026】
同図において、列車制御装置1は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)からなり、電文受信部11、伝送品質監視部12、記録部(データベース)13、を有する。
【0027】
本発明における列車制御装置1は、例えば、軌道回路を用いたデジタル式ATCシステム(Auto Train Control System)、ETCS(European Train Control System)、CBTCシステム(Communications Based Train Control System)、などに適用できる。
【0028】
電文受信部11は、電文Dを受信/復調し、また、複合するものであって、電文信号受信/復調部111、電文複合部112、を有する。
【0029】
電文受信/復調部111は、例えば、地上装置(図示せず)から空間を伝播する変調された電文Dの空間波(アナログログ信号)を受信して復調し、ベースバンドのデジタルビット(デジタル値:0、1の2値のビット情報)D1を出力する。
【0030】
空間波は、例えば、2.4GHz帯や400MHz帯などの周波数により、列車制御に必要な情報が電文Dを伝送する。空間波周波数は、例えば、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、SS(Spectrum Spread)などにより変調されている。
【0031】
電文複合部112は、電文受信/復調部111にて復調されたデジタルビット(0又は1)D1を連結したデジタル電文フレームD2、又はパケットを複合して出力する。
【0032】
デジタル電文フレームD2は、例えば、
図4に示す如く、一連番号の「通信番号」D22、また、「自列車在線位置」D23、「進行方向」D24、その他、を含んでいる。
【0033】
デジタル電文フレームD2のフォーマット、及びサイズは、共に任意である。詳細は後述する。
【0034】
伝送品質監視部12は、電文受信部11からの電文D(デジタル電文フレームD2)を受けて、当該電文の伝送品質を監視するものであって、電文情報監視・抽出部121、演算部122、を有する。
【0035】
電文情報監視・抽出部121は、電文受信部11からのデジタル電文フレームD2に含まれる情報の中から電文Dの送信回数を推定するに足りる情報を監視して、例えば、受信電文カウント数aや欠落フレームカウント数cを抽出する。
【0036】
電文Dの送信回数を推定するに足りる情報は、例えば、電文Dに含まれる「通信番号」D22であり、又は電文Dを受信する側装置において生成される電文の「受信時間」Ta、Tbである。
【0037】
また、電文情報監視・抽出部121は、伝送品質を算出する上で必要となる情報、例えば、電文に含まれる「チェックコード」D27に基づいて検定された検定結果(チェックコード検定エラー数)b、を監視して抽出する。
【0038】
演算部122は、電文Dの送信回数を推定するに足りる情報に基づいて、当該電文Dの送信回数を推定して、電文送信装置と電文受信装置間における伝送品質(伝送品質情報k)を算出する。
【0039】
記録部13は、伝送品質監視部12における演算部122により算出された伝送品質情報k(例:FER)を記録する。
【0040】
記録部13に記録した伝送品質情報kは、列車制御用として利用できるようにする。
【0041】
また、本システムにおける信号伝送設備を構成する各装置、各部品などのメンテナンス用として利用できるようにする。
【0042】
次に、本発明における伝送品質監視部12の構成と、その動作について説明する。
【0043】
図2は、本発明の伝送品質監視部12の一例を示す構成図である。
【0044】
同図において、伝送品質監視部12は、電文情報監視・抽出部121、演算部122、を有する。
【0045】
電文情報監視・抽出部121は、通信番号監視・抽出部1211、チェックコード検定部1212、を有する。
【0046】
通信番号監視・抽出部1211は、電文複合部112からのデジタル電文D2に含まれる「通信番号」D22を監視し、当該「通信番号」を元に、電文の送信回数を特定するに足りる情報a、cとして抽出する。
【0047】
そのため、通信番号監視・抽出部1211は、例えば、
図3に示す如く、受信電文カウンタ部12111、欠落フレームカウント部12112、を有する。
【0048】
受信電文カウント部12111は、例えば、デジタル電文フレームD2に含まれる「通信番号(一連番号)」D22をもって、当該電文の受信数をカウントする。そして、当該カウント値を受信側の電文受信回数aとして出力する。本実施例では、電文の受信数をカウントする元データとして、「通信番号(一連番号)」D22を使用しているが、これに代えて「スタートフラグ」D21、又は「プリアンブル」(図示せず)を用いてもよい。
【0049】
欠落フレームカウント部12112は、例えば、デジタル電文フレームD2に含まれる「通信番号」D22をもって、当該電文フレームの欠落、つまり欠落フレームの数をカウントする。そして、カウント値を受信側の欠落フレーム数cとして出力する。
【0050】
チェックコード検定部1212は、電文に含まれる巡回符号(CRC:Cycle Redundancy Code)をもってデジタル電文D2を検定する。そして、その検定結果、エラーが発生した場合に、受信側のチェックコード検定エラー数bとして出力する。
【0051】
本実施例において、電文の送信回数を推定するに足りる情報として、電文Dに含まれる「通信番号」D22に代えて、当該電文を受信する時間を示す「受信時間」Ta、Tbを利用することも可能である。「受信時間」を利用する場合には、電文情報監視・抽出部121は、電文を受信する時間を監視、抽出するように構成する。
【0052】
電文の「受信時間」Ta,Tbは、電文を受信する側装置において生成する。例えば、
図5に示す如く、電文の受信周期(時間)をt1とし、電文の受信不可時間をt2、とすると、Taは受信周期t1に対する受信不可時間t2の割合であり、この「受信時間」Taは、受信不可時間内に欠落したフレーム数を推定する情報である。
電文の受信周期(時間)をt1とし、電文の受信不可時間をt3、とすると、Tbは受信周期t1に対する受信間隔時間t3の割合の割合であり、この「受信時間」Tbは、受信間隔内に送信された電文数を推定する情報である。
【0053】
次に、演算部122の構成例と、その動作について説明する。
演算部122は、電文送信回数推定演算部1221、伝送品質演算部1222、を有する。
【0054】
電文送信回数推定演算部1221は、電文受信回数aと欠落フレーム数cとに基づいて、電文の送信回数dを推定する。電文の送信回数の推定例については、後述する。
【0055】
伝送品質演算部1222は、電文送信回数推定演算部1221からの電文送信回数dとチェックコード検定部1212からのチェックコードエラー検定エラー数bとに基づいて、地上装置−車上装置間の伝送品質(電文受信側の装置の受信品質)をフレームレートエラー(FER:Frame Error Rate)として算出する。そして、前記伝送品質算出結果を、伝送品質情報kとして出力する。その詳細については、後述する。
【0056】
伝送品質算出は、FERに1フレーム当たりのビット数を除してビットエラーレート(BER:bit Error Rate)として算出してもよい。
但し、この場合は、1フレーム内でのエラービット数は1ビットであると仮定する。
【0057】
図4は、地上装置―車上装置との間で送受信される電文の一例を示すものであって、列車制御に用いる通信電文のフォーマット、及び電文中の各情報の一例を示す電文構成図である。
【0058】
通信電文は、鉄道システムにより、電文の長さやフレーム内に有する情報等が相違する。したがって、通信電文は、任意のフォーマットで構成する。しかし、多くの鉄道システムでは、電文の1フレームの開始位置の同期合わせのための「スタートフラグ」D21、「通信番号(一連番号)」D22、「列車制御データ」D25、電文の「チェックコード」D27、電文の1フレームの終了を検出するための「エンドフラグ」D28を含む電文を使用している。
【0059】
システムによっては、「エンドフラグ」D28を有さない電文フォーマットを使用する場合もある。
本例では、電文フォーマットとして、
図4に示す如く、「スタートフラグ」D21、「通信番号(一連番号)」D22、自列車の在線位置情報を示す「自列車在線位置」D23、列車の進行方向情報を示す「進行方向」D24、列車を制御するための「制御データ」D25、「その他のデータ」D26、電文の誤りをチェックするCRCなどの「チェックコード」D27、「エンドフラグ」D28、を有するものを使用する。
【0060】
次に、伝送品質監視部12において、電文D(デジタル電文フレームD2)に含まれる「通信番号」D22に基づいて送信回数dを推定し、当該送信回数dとチェックコード検定エラー数bに基づいて伝送品質をFER算出する内容について説明する。
【0061】
まず、電文D2の「通信番号」D22に基づいて送信回数dを推定する場合について説明する。
【0062】
受信電文カウント部12111(
図3参照)では、電文フレーム、又は電文中の情報である「スタートフラグ」D21、又は「プリアンブル」を検知する。そして、この電文フレームD2を認識して当該電文フレームの受信回数をカウントし、受信電文回数aとして出力する。
【0063】
次に、チェックコード検定部1212(
図2参照)では、電文D(デジタル電文フレームD2)に付加されて送信される「チェックコード」D27をもってチェックコード検定を行う。そして、前記検定結果におけるチェックコード検定エラーをカウントし、チェックコード検定エラー数bとして出力する。
【0064】
また、欠落フレームカウント部12112(
図3参照)では、デジタル電文フレームD2中の「通信番号」D22の連続性を監視する。そして、最新の受信電文の「通信番号」D22と、前回最後に受信した電文の「通信番号」D22の差異から欠落フレームをカウントし、欠落フレームカウント数cとして出力する。
【0065】
例えば、最後に受信した電文内の「通信番号」D22が”10”であり、今回受信した電文の「通信番号」D22が”11”であった場合には、「通信番号」D22に連続性があることから、電文欠落は発生していないと判断できる。
【0066】
一方、最後に受信した電文の「通信番号」D22が”10”であり、今回受信した電文の「通信番号」D22が”13”であった場合には、「通信番号」”11”と”12”を持つ2つの電文D2を受信側では受信できなかったことを意味する。故に、欠落フレームカウント部12112により、欠落フレーム数“2”をカウントして総欠落フレーム数に「2」を加算する。
【0067】
但し、前回最後に受信した電文と、最新の受信電文間で「通信番号」D22が巡回した場合には、「通信番号」が欠落したとは判断せず、連続であるとして判断する。
【0068】
また、例えば、「通信番号」D22が”0”〜”255”を巡回する場合には、前回最後に受信した電文内の「通信番号」D22が”255”であり、最新の受信電文の「通信番号」D22が”0”である場合には、欠落フレーム数cは”0”とする。
【0069】
前回、最後に受信した電文の「通信番号」D22が”254”であり、最新の受信電文の「通信番号」D22が”1”である場合には、「通信番号」”255”と”0”を持つ2電文Dが欠落したと判定する。そして、欠落フレームカウント部12112において電文欠落フレーム数cとして”2”をカウントし、総欠落フレーム数に「2」を加算する。
【0070】
上述した方法により、電文Dの送信回数dを推定することができる。
【0071】
本実施例では、電文フォーマットの例として、
図4で示す如く、電文内に「通信番号」D22を有する場合を示している。
しかし、電文フォーマットに「通信番号」D22を有さない場合には、
図5に示す、電文を受信する側装置において生成する電文の「受信時間」Ta、Tb(例えば、受信周期t1に対する電文の受信不可時間t2の割合、又は受信周期t1に対する電文間の受信間隔時間t3の割合により電文欠落フレーム数cを算出する。
【0072】
例えば、1電文送信周期が0.5秒の一定間隔であると規定しているシステムにおいて、受信側で0.5秒の周期に連続して電文を受信している場合は、電文欠落は発生していないと判断することができる。
また、最後に電文を受信してから3秒間電文を受信していない状態となったのち、再度電文を受信した場合(電文受信再開した場合)は、欠落フレーム数は”6”であると判断できる。
【0073】
次に、伝送品質演算部1212における伝送品質算出(FER)について説明する。
FERは、以下の数1により、算出する。
[数1]
FER=e/d
d:送信側の電文送信回数
e:受信側の電文正常受信失敗回数
【0074】
ここで、受信側の電文正常受信失敗回数eは、受信側での電文を正常に受信できない失敗回数であって、例えば、チェックコード検定エラー数bと欠落フレーム数cの総数(b+c)である。
【0075】
受信側の欠落フレーム数cは、送信側が送った電文のうち、受信側で受信できなかった電文フレームの数をいう。
【0076】
上記数1の通り、FERは、送信側の電文送信回数dに対する受信側での電文正常受信失敗回数eの割合である。
【0077】
鉄道用信号システムの正常な動作を保証するためには、BERは10E−5以下であるべきである。例えば、1フレームが100ビットである場合には、FERは10E−3以下であることが望ましい。
【0078】
上記数1の定義は、受信側の電文正常受信回数a’を用いて、以下の数2のように定義することも可能である。
【0079】
[数2]
FRE=1−(a’/d)
=1−(a−b)/d
a:受信側の電文受信回数
a’:受信側の電文正常受信回数(電文を正常に受信した回数)
【0080】
受信側の電文正常受信回数は、受信側の電文全受信回数a(受信側で何らかの電文フレームを受信したと認識した総回数)から、チェックコード異常(CRCエラーなど)で破棄された電文の数bを引いたものとし、送信側の送信回数dと受信側の受信回数aとの比よりFERを算出する。
【0081】
しかし、上述した数1と数2のどちらにおいても、送信側の電文送信回数dは、公知の鉄道用信号システムにおいては受信側に伝達されていない。
【0082】
故に、受信側では電文送信回数dを取得することができない。電文送信回数を取得できない場合には、受信側において、送信側の電文送信回数dを推定して、下記数3の定義により、FERの算出を行う。
【0083】
[数3]
FER=1−(a−b)/(a+c)
=(b+c)/(a+b)
【0084】
すなわち、上記数3で示すように、受信側の電文受信回数aと受信側の欠落フレーム数cと受信側のチェックコード検定エラー数bとがわかれば、受信側においてFER算出を行うことは可能である。
【0085】
以上述べたように、受信電文カウント部12111とチェックコード検定部1212と欠落フレームカウント部12112とにおける各処理により、伝送品質演算に必要とする情報(電文受信回数a、チェックコード検定エラー数b、欠落フレーム数c)を得て、伝送品質演算部1222にて上記数式4による伝送品質(FER)算出により、正確な伝送品質算出が可能となる。
【0086】
一方、通信電文内に、送信側の電文送信回数情報を含むシステムを構築した場合は、当該電文送信回数を受信する側にて直接検出することが可能となる。本システムの場合には、
図1の構成から欠落フレーム数カウント部12112を省いた構成とする。また、伝送品質監視部12の演算部122による送信回数推定演算を省略することができる。
本発明においては、送信回数を推定して伝送品質を算出するとは、送信回数を示す情報を直接検出し、当該検出した送信回数に基づいて伝送品質を算出することも含む。
【実施例3】
【0091】
本実施例は、
図1、
図6に示す実施例の構成に加え、演算対象データを抽出する演算対象データ抽出部1213を設けたものである。また、例えば、列車進行方向/在線位置情報f、又は進行距離情報g、進行方向情報h、など、を利用して、演算対象データ抽出部1213を制御するものである。そして、電文Dから演算に不要な非正常状態における演算対象外データを除外して、演算に必要な正常状態におけるデータのみを演算対象データとして、伝送品質演算部1212に供給するように構成としたものである。
【0092】
係る本実施例によれば、上述した軌道回路間の軌道境界部分やアクセスポイントハンドオーバ部分における上述した技術的課題(伝送品質算出劣化)に対して是正することができ、より有効な伝送品質を算出することができる。
例えば、演算対象範囲(列車の位置や区間・エリア)を絞った算出が可能となる。また、特定の区間や特定のエリアごとに伝送品質を算出可能となる。
【0093】
以下、その実施例について、
図7〜
図9を参照して説明する。
まず、
図7及び
図8を参照して、列車制御装置1を鉄道システムに適用した場合における技術課題について詳述する。
図7は、鉄道システムにおいて、地上装置−車上装置間の伝送手段に軌道回路(レール、ループ)を用いた設備構成を説明する概略図である。
【0094】
同図において、伝送設備は、地上装置61、車上装置62、複数の軌道回路602、603、を有する。
【0095】
地上装置61は、列車制御装置(地上ATC:Automatic Train Control)606を備え、上述したような電文を含む信号を作成する論理装置(図示せず)、当該信号を、軌道回路602,603を経由して車上装置に送信する信号送信装置(図示せず)、を有する。論理装置、信号送信装置は、周知であるので、詳細説明は省略する。
【0096】
車上装置は、
図1に示す列車制御装置1を備え、レール607上を走行する列車(車両)601内に配置する。
【0097】
列車制御装置1は、地上ATC606が送信する電文を含む送信信号を、車両前方に設けたアンテナ604により受信する。そして、アンテナ604により、受信した受信信号に含まれる電文の列車制御データに従って、保安対象である列車601、又は列車に関連する信号設備、などを制御する。
【0098】
図7に示す伝送設備においては、地上ATC606から複数の軌道回路602(軌道回路A)と軌道回路603(軌道回路B)とに対して異なる信号を送信する。
【0099】
ここで、軌道回路602上を走行し、当該軌道回路602からの送信信号(地上信号)を受信する列車601が、軌道回路603に進入することを前提とする。
【0100】
この場合、軌道回路602、603の軌道境界では信号が絶縁されている場合や、両軌道回路からの信号が混じっている場合がある。また、当該軌道境界への進入前後の電文、例えば軌道回路602を進出する瞬間の最後の1電文と軌道回路603に進入する瞬間の最初の1電文は、信号設備の原理上、正常に受信できない可能性が高い。
【0101】
すなわち、係る伝送設備下にあっては、上述した伝送品質演算を行うと、軌道回路間の軌道境界を通過する度にチェックコード検定エラーや電文欠落エラーを検知してしまい、伝送品質演算結果がおのずと悪化してしまう。
【0102】
但し、当該伝送品演算結果の悪化は、軌道境界では通信設備の原理上、電文受信エラーが発生するためであって、伝送品質演算の本来の目的である伝送設備の電上状態の定常状態からの異常変化監視からすると期待通りの悪化ではない。
【0103】
係る課題に対しては、軌道境界で受信した電文を伝送品質演算対象電文から外すことで本来監視したいシステムの伝送品質演算を行うことができる。
【0104】
例えば、在線軌道が変化したことを確認した場合、その前後の任意の時間、又は任意の距離(区間)で受信した電文は、後述する演算対象外データ除外部1213により除外する。
【0105】
そして、演算対象外データ除外部1213により除外した電文は、伝送品質演算部1222における伝送品質演算対象外とする。
これにより、原理上発生するエラーを演算対象から外しているので、監視すべきシステムのより正しい伝送品質監視が可能となる。
【0106】
通信で取得した電文の情報等から在線位置を検出できない場合は、受信信号の受信レベルの変化から在線軌道変化を確認してもよい。
【0107】
在線軌道変化確認は、軌道境界に近づけば近づくほど地上送信機の送信点に近づくことを応用したものである。
【0108】
在線軌道変化は、一般的に軌道回路602を進出する瞬間の受信レベルが最大となり、軌道回路B603に進入する瞬間の受信レベルが最小となる。
【0109】
したがって、在線軌道変化を確認は、当該受信レベルを利用し、軌道回路始端と終端の境界を意味する、不連続な受信レベル急変が起きた場合に、そのレベルの急変度合が一定の閾値を超えた際に軌道境界を検出して行う。
【0110】
図8は、鉄道システムにおいて、地上装置−車上装置間の伝送手段に空間波無線を用いる設備構成を説明する概略図である。
【0111】
同図において、伝送設備は、地上装置71、車上装置72、複数のアクセスポイントである基地局704、を有する。
【0112】
地上装置71は、
図7と同様に地上側の列車制御装置706を備え、上述したような電文を含む信号を作成する論理装置、当該信号を、基地局704を経由して車上装置72に送信する信号送信装置、を有する。
【0113】
車上装置は、
図1に示す列車制御装置1を備え、レール上を走行する列車(車両)701内に配置する。
【0114】
レール上を走行する列車701に配置された車上側の列車制御装置1は、当該列車が持つアンテナ702を介して地上側の列車制御装置706と間において、電文の送受信を行う。
地上側の列車制御装置706との伝送は、アクセスポイントとなる複数の基地局704を中継して行う。
【0115】
基地局(以下、アクセスポイントと称する)704は、列車701がどの位置に在線しても良好な伝送が行えるような任意の間隔で設置してある。そして、アンテナ705を介して車上側の列車制御装置1との間において、電波の送受信を行う。
【0116】
列車701は、電波の強弱に応じて接続するアクセスポイント704を切り替え、走行中の地上装置−車上装置間における電文の送受信を継続する。
【0117】
係る伝送設備下にあっては、伝送品質演算を行う場合、地上側の列車制御装置706ではアクセスポイント704ごとの伝送品質を算出する。又は列車701が送信する電文内に含まれる列車在線位置情報を用いて任意の位置や任意の区間ごとに伝送品質を算出する。
【0118】
一方、車上側の列車制御装置703では、伝送品質演算を行う場合、アクセスポイント704間をハンドオーバする際に、シームレスに接続を維持できない。
【0119】
係る課題に対しては、上述した処理と同様に、アクセスポイント704間のハンドオーバのとき、前後の任意の距離や任意の時間の通信データは、後述する演算対象データ抽出部1213により除外する。
【0120】
そして、演算対象外データ除外部1213により除外した通信データは、伝送品質演算部1222における伝送品質演算対象外とする。
これにより、アクセスポイント704の切り替わり時以外の定常状態における伝送品質を算出可能となる。
【0121】
逆に、ハンドオーバ時の前後の任意の距離や任意の時間のみの通信電文で伝送品質を算出すると、アクセスポイント704の切り替わり時の伝送性能を評価することが可能である。
【0122】
図7及び
図8において説明した信号伝送システムにおいては、レール上を走行する車両を例に説明したが、モノレールや新交通のように、レールではなく、専用軌道上を走行するシステムにおいても同様に構成することで対応できる。
【0123】
次に、上述した課題、つまり電文欠落などに伴う伝送品質の低下を是正する実施例について
図9を参照して説明する。
【0124】
図9は、本発明の他の実施例を示す列車制御装置の構成を示すブロック図である。同図において、伝送品質監視部12は、演算対象データ抽出部1213、を有する。
【0125】
演算対象データ抽出部1213は、正常に受信できる状態における電文データを演算対象とするデータとして後段の伝送品質演算部1212に供給する。
そのため、演算対象データ抽出部1213は、電文情報監視・抽出部121と伝送品質演算部1212との間に配置される。
【0126】
そして、演算対象データ抽出部1213は、列車進行方向/在線位置抽出部12131、演算対象外データ除去部12132、を有する。
【0127】
列車進行方向/在線位置抽出部12131は、列車が軌道回路の軌道境界前後に位置するとき、電文D2に含まれる列車進行方向/在線位置情報fを抽出する。
【0128】
また、列車進行方向/在線位置抽出部12131は、アクセスポイントの切り替わり時、つまりハンドオーバのとき、電文D2に含まれる列車進行/在線位置情報fを抽出する。
【0129】
演算対象外データ除去部12132は、列車進行方向/在線位置情報fを受けて、電文を正常に受信できない電文データを演算対象外データとして除外する。
【0130】
換言すれば、演算対象外データ除外部12132は、上述した如く、軌道回路間の軌道境界前後、つまり電文が受信できない受信不可状態において、列車進行方向/在線位置情報fを受けたとき、演算対象外データを除外する。
【0131】
また、アクセスポイント間におけるハンドオーバ時前後、つまり電文Dを通信できない状態において、列車進行方向/在線位置情報fを受けたとき、演算対象外データを除外する。
【0132】
この演算対象外電文データ除外は、列車進行方向/在線位置情報fにより、演算対象外データ除外部12132を制御することをもって行う。
【0133】
斯様に、演算対象外データを除去する構成とすることにより、伝送品質演算部1212において、演算対象データに対する伝送品質演算を特定エリアごとの、伝送品質演算を正確に行うことができる。
【0134】
本実施例は、電文D2に含まれる「列車在線位置」D23を利用して、演算対象外データを除去するように制御するものであるが、電文D2に「列車在線位置」を示す情報を含まない場合においても、列車在線位置を判定し、演算対象範囲を絞った伝送品質算出を行うことができる。
【0135】
つまり、電文D2の中に「列車在線位置」D23を含まない場合には、列車無線など、伝送品質演算対象としていない別の通信情報から進行距離情報gを生成し、この情報を利用して、演算対象外データ除外部12132を制御して、演算対象外データを除去すればよい。
【0136】
進行距離情報gは、電文を受信する側において、例えば、車上装置の運転台装置に設けた距離パルスカウンタなどを用いて自己認識して生成すればよい。
【0137】
係る構成によれば、通信電文の中から列車在線位置を抽出できない場合でも特定の位置や区間・エリアごとの伝送品質演算が可能となる。
【0138】
以上述べた実施例では、
図7における軌道回路の軌道境界や
図8におけるアクセスポイントハンドオーバにおけるデータを演算対象外データとして除外するように制御する構成としたものであるが、以下のように構成して、定常状態における伝送品質の算出を可能としてもよい。
【0139】
すなわち、地上装置では軌道回路短絡により列車を検知する。また、車上装置が地上装置に対して送信する列車検知(TD:Train Detection)信号により、列車(車両)の在線位置を特定する。これらの情報を利用して特定エリア・特定区間ごとの伝送品質演算を行うようにする。
【0140】
さらに、
図9で示すように、進行方向(上り/下りなど)の情報(進行方向情報h)も演算要素に加えることができる。
これにより、特定エリア・特定区間、かつ、進行方向別に伝送品質演算することが可能となる。
【0141】
進行方向情報hは、以下のように取得することも可能である。例えば、車上側で伝送品質を演算する場合にあっては、列車(車両)そのものが持つ情報、例えば列車の運転台の前後どちらを前としているかというスイッチ条件、ハンドル条件を車両の行方向情報hとして取得する。
【0142】
この進行方向情報hは、図示していないが、DI(デジタルインプット)回路などにより、列車制御装置1に取り込むことができる。
【0143】
以上述べた実施例によれば、
図7、
図8で説明した上記課題に基づく伝送品質劣化を防止することができる。
【0144】
図10は、本発明の列車制御装置において、電文受信から伝送品質に応じた制御までの処理手順を示すフローチャートである。
【0145】
同図において、列車制御装置1は、以下の処理を実行する。
【0146】
まず、ステップS801にて、列車制御装置1の電文受信部11が電文を受信すると、伝送品質監視部12は、ステップS802にて、伝送品質演算対象の電文であるかどうかを判定する。
【0147】
ステップS802は、
図7、
図8を基づいて説明したように、軌道回路602、603の軌道境界やアクセスポイント(基地局)704のアクセスポイント境界での電文を品質演算対象から外したい場合に行う判定である。
【0148】
ステップS802にて、例えば、在線位置の情報やアクセスポイントから取得した情報を元に、その瞬間の受信電文が伝送品質演算対象の電文ではない(非正常状態における受信電文)と判定した場合(NO)には、ステップS803にて、例えば、演算対象データ除外部12132(
図9参照)の内部メモリ(図示せず)に一時的に保存したデータから軌道境界、又はアクセスポイント切り替えポイントの前後データを演算対象外データとして除外する。
【0149】
つまり、在線軌道変化直前やアクセスポイント変化直前に受信した任意の距離や任意の時間の分のデータは、伝送品質演算結果から削除して、演算の対象外とする。そして、ステップS801にて、電文の受信待ちとする。
【0150】
ステップS803にて、伝送品質演算対象の電文(正常状態における受信電文)であると判定した場合(YES)には、次のステップS804に進む。
【0151】
ステップS804にて、列車進行方向や在線位置(情報f、g、hなど)が取得可能であるかどうか判定する。
【0152】
当該ステップ804にて、列車進行方向や在線位置が取得可能でない場合(NO)には、ステップS807に進む。
【0153】
列車進行方向や在線位置が取得可能である場合(YES)には、ステップS805に進む。そして、当該ステップS805にて、列車進行方向や在線位置が変化したか否かを判定する。
【0154】
ステップ805による判定結果、列車進行方向や在線位置が変化したと判定した場合(YES)には、次のステップS806に進む。
【0155】
そして、当該ステップ806にて、前回の演算時までの区間における伝送品質演算結果を例えば、伝送品質演算部1212の内部メモリ(図示せず)に一時的に保存し、当該伝送品質演算結果をリセット(0にクリア)する。
【0156】
次に、ステップS807において、進行方向や在線位置に応じて任意の区間ごとに、上述した伝送品質演算を行う。
この場合、ステップ807にて、任意の区間ごとに伝送品質演算を行う上で、列車進行方向や在線位置が取得できない場合は、すべての受信電文から伝送品質演算を行う。
【0157】
次に、ステップS808にて、伝送品質演算による伝送品質演算結果における伝送品質情報(FER)を、記録部13(
図1参照)、例えばデータベースに記録する。
【0158】
最後に、ステップS809にて、列車制御演算部12による伝送品質情報をもって被制御対象物の制御を行う。つまり、伝送品質に応じた制御を行う。しかるのち、ステップS801に戻り、上述した処理を繰り返す。
【0159】
以上の処理手順により、任意の区間やエリアごとの伝送品質を算出し、伝送品質情報の記録を行うことができる。このときの演算結果であるFER値やBER値は、様々な列車制御に応用することが可能である。
【0160】
例えば、列車走行中に伝送品質演算結果であるFERが、ある任意の閾値を上回った場合、列車制御演算部では警告音を出する。これにより、列車の運転士や運行管理作業員に対して車上装置又は地上装置の伝送品質低下を知らせ、機器点検を促すことが可能となる。
【0161】
また、一編成の列車内に、又は一か所の地上装置設備内に受信装置が複数存在する構成において、システム稼働率を向上することも可能である。
すなわち、列車走行中にFERがある任意の閾値を上回った場合には、電文を受信する側装置は、部品の故障など、何らかの理由で伝送が正常に行えない状態である。
【0162】
このことから、受信側装置に故障が発生したと判断し、故障した受信側装置が受信した電文は列車制御から切り離して、正常な受信側装置のみで制御を継続する。これにより、システム稼働率を向上することができる。
【0163】
また、列車走行中に外部からのノイズなどにより、一時的に受信側のFERが、ある任意の閾値を上回った場合には、その対応としては、当該FERを元に、電文を送信する側において、一時的に送信出力(送信レベル)を上げ、電文を受信する側において、受信感度を高めることにより、運行中の受信不可を回避することができる。
【0164】
これら以外にも、装置内に記録した伝送品質演算結果から、日々の伝送品質の時系列変化から統計を取ることにより、装置のメンテナンス周期をその統計情報により決めることができる。
【0165】
また、伝送品質の統計から、地上装置−車上装置間の伝送不良又は故障を早期に発見することができる。これにより、部品が完全に故障する前に、部品の交換を行い故障の未然防止を行うことも可能となる。
【0166】
また、部品の定期交換に代わり、統計情報に基づき必要な制御対象を絞ることでコスト低減につながるメリットもある。
【0167】
地上装置−車上装置間において、空間波無線を用いて電文の伝送を行う場合は、線路沿線の建物や環境変化により電波受信状況に影響を与える。しかし、この伝送品質の統計情報は、設備メンテナンス時に送信機出力を調整するための情報として利用するもできる。
【0168】
さらには、伝送品質演算結果は、運行中のシステムだけではなく、運行開始前の新システム導入時における調整作業短縮することが可能となる。
例えば、地上装置−車上装置間の送受信機調整作業において、各区間・エリアごとの伝送善し悪しの判断が可能である。
【0169】
また、受信側装置において、算出した伝送品質情報の数値判断により、受信側の受信信号検知閾値調整、送信側の出力レベル調整作業を容易に行うことが可能となる。
【0170】
また、従来技術に対してより正確に鉄道の信号システムにおける地上装置−車上装置間の伝送品質を算出することが可能である。
【0171】
また、その算出結果を活かして以下のような効果を奏することができる。
(1)地上装置―車上装置間の伝送品質に関する路線評価
(2)日々の時系列変化から車上受信装置の早期の故障発見や部品交換などメンテナンス向上
(3)運用中に置いてはFER(Frame Error Rate)値が一定値を上回った場合において、受信側装置が複数存在する運用形態では受信装置の系切換を実施し、故障系を切り離して正常系で運用、稼働率向上
【0172】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、等の情報は、メモリや、ハードディスク、等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。