【課題】本発明は、高熱伝導特性とCTI値が400V以上の耐トラッキング特性を特徴とした充填剤としての無機フィラーを含んだ樹脂硬化物およびこれを用いた積層板を提供することを目的とするものである。
【解決手段】無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中の酸化マグネシウム粉末の充填率を45〜63体積%とするとともに、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の300〜500℃の温度範囲内での最大熱分解質量減少率△R
前記無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物のエポキシ樹脂硬化物が少なくともエポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンまたは1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンと、を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、この実施の形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【0022】
本発明に係る実施形態の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物は、酸化マグネシウム粉末を含有し、300〜500℃の温度範囲内での最大熱分解質量減少率△R
maxが、−0.20[質量%/℃]以上であることを特徴とする。最大熱分解質量減少率△R
maxとは、熱分解質量減少率△R
tが負であって、その絶対値が最大となる値のことを指す。
【0023】
本実施形態に係る前記無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物のエポキシ樹脂硬化物が少なくともエポキシ化合物を含む。このエポキシ化合物は、グリシジルエーテル類やグリシジルエステル類、グリシジルアミン類等特に制限なく使用でき、複数のエポキシ化合物を使用できる。より高い熱伝導率を得るためには、エポキシ化合物の分子内にビフェニル骨格やターフェニル骨格などベンゼン環を2つ以上有するメソゲン骨格が導入されたものがより好ましい。これによりメソゲン骨格を有するエポキシ化合物同士または他のメソゲン骨格を有する化合物との間でベンゼン環の積み重なり性がより高く得られる。この骨格間での積み重なり性の向上は、樹脂硬化物における熱伝導率の低下の原因となるフォノンの散乱を抑制する作用があるため、高熱伝導率を得る点でより好ましい。
【0024】
さらに好ましくは、エポキシ化合物は、その分子中にビフェニル骨格と2個以上のエポキシ基とを有するグリシジルエーテル類(例えば、ビフェニルグリシジルエーテル、テトラメチルビフェニルグリシジルエーテルのようにビフェニル骨格を有するもの)やターフェニル骨格のようなメソゲン骨格を有するグリシジルエーテル類であることが特に好ましい。特にビフェニルグリシジルエーテルのようにベンゼン環にアルキル基を持たないと結晶性が高くなり、また燃えにくくなり、熱伝導性および耐燃性の観点でより効果が得られるため好ましい。
【0025】
本実施形態のエポキシ樹脂硬化物は、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンまたは1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンを含む。
【0026】
1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンは、エポキシ化合物のエポキシ基と、1分子中3つのアミノ基の活性水素1ずつが反応し、架橋密度が高く強固な樹脂構造を形成する。また、さらに燃えにくくなり、熱伝導性や耐燃性の観点(作用)からより好ましい。これは、低分子量のエポキシ化合物と反応した場合、特に、分子鎖内での架橋密度が高くなるためである。
【0027】
同様な効果が得られる化合物としては、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンと同じ主骨格を有する、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンがある。エポキシ化合物のエポキシ基と、1分子中3つの水酸基の活性水素1つが反応し、架橋密度が高く強固な樹脂構造を形成する。
【0028】
エポキシ化合物と1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンとの配合割合は、エポキシ化合物のエポキシ基100に対して、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンのアミノ基の活性水素の数の比が80以上130以下の範囲であることが好ましい。この範囲にすることによって、エポキシ化合物と1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンとの架橋密度が上がり、高温(300〜500℃)での熱分解質量減少が極めて小さいことを特徴とした樹脂硬化物を得ることができる。さらに、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンが過度に多いと、熱伝導率は上昇するが、樹脂硬化物の熱分解質量減少が増大する傾向にある。また、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンが過度に少ないと熱伝導率が低下する傾向にある。
【0029】
エポキシ化合物のエポキシ基100に対して、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンのアミノ基の活性水素の数の比が、90以上120以下であるとガラス転移点が160℃以上となり耐熱性の観点からより好ましい。また、エポキシ化合物のエポキシ基100に対して、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンのアミノ基の活性水素の数の比が、80未満または130より大きいとガラス転移点が150℃以下になる可能性があり好ましくない。
【0030】
エポキシ基の反応は通常エポキシ基1つに対してアミノ基の活性水素1つが反応する。このためエポキシ化合物のエポキシ基と1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンの活性水素の数の比は100:100がより好ましい。
【0031】
エポキシ化合物と1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンとの配合割合は、エポキシ化合物のエポキシ基100に対して、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンの水酸基の活性水素の数の比が80以上130以下の範囲であることが好ましい。この範囲にすることによって、エポキシ化合物と1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンとの架橋密度が上がり、高温(300〜500℃)での熱分解質量減少が極めて小さいことを特徴とした樹脂硬化物を得ることができる。さらに、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンが過度に多いと、熱伝導率は上昇するが、樹脂硬化物の熱分解質量減少が増大する傾向にある。また、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンが過度に少ないと熱伝導率が低下する傾向にある。
【0032】
エポキシ化合物のエポキシ基100に対して、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンの水酸基の活性水素の数の比が、90以上120以下であるとガラス転移点が160℃以上となり耐熱性の観点からより好ましい。また、エポキシ化合物のエポキシ基100に対して、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンの水酸基の活性水素の数の比が、80未満または130より大きいとガラス転移点が150℃以下になる可能性があり好ましくない。
【0033】
このためエポキシ化合物のエポキシ基と1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンの活性水素の数の比は100:100がより好ましい。
【0034】
充填剤としての無機フィラーを含まないエポキシ樹脂硬化物としての熱伝導率は、例えばレーザーフラッシュ法による測定において0.30W/(m・K)以上であることが好ましい。積層板および複合基板を作る際に無機フィラーを添加して熱伝導率を向上させるが、無機フィラーを含まないエポキシ樹脂硬化物の熱伝導率が0.30W/(m・K)未満だと得られる積層板および複合基板の熱伝導率において好ましい2.0W/(m・K)を得ることが困難になる。さらに、これらの無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を使用して得られた積層板及び複合基板は、熱伝導率が2.0W/(m・K)以上であることが好ましい。熱伝導率が2.0W/(m・K)未満であるとLED用基板などの放熱用途において十分な放熱性が得られない。
【0035】
無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を使用して得られた積層板及び複合基板に求められる特性として高い熱伝導特性を有すること、と同時にトラッキング現象による電気火災の発生の防止が求められる。トラッキング現象とは絶縁物の表面に電解液などの汚染物質が付着した状態で微小放電が繰り返されることによって絶縁物表面に導電性の炭素経路が生成され、絶縁破壊に至る現象のことである。このトラッキング現象を回避するにはエポキシ樹脂硬化物が分解して導電性の炭素経路が生じないようにすることが必要である。そのためには熱分解特性に優れた(熱分解しにくい)エポキシ樹脂硬化物の使用が有効である。
【0036】
充填剤としての無機フィラーを含まないエポキシ樹脂硬化物としての熱伝導率は、前述のとおり、例えばレーザーフラッシュ法による測定において0.30W/(m・K)程度であり、高電圧が印加された場合には、エポキシ樹脂硬化物が高温化して樹脂の分解を招いてしまう。充填剤としての無機フィラーをエポキシ樹脂硬化物中に添加することにより、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の放熱性を確保し、エポキシ樹脂硬化物の高温化を回避する。
【0037】
しかしながら、無機フィラーの充填量があまりに多くなってしまうと、無機フィラーを取り巻くエポキシ樹脂(硬化物)の量が少なくなり、無機フィラー表面の被膜が薄くなることにより、無機フィラーを電解液から保護する機能が低下する。そのため、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を使用して得られた積層板及び複合基板が、高い放熱特性と同時に優れた耐トラッキング性を有するには、無機フィラーのエポキシ樹脂硬化物中の充填率を所定の範囲とすることが必要となる。
【0038】
無機フィラーとして酸化マグネシウム粉末を用いる場合、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中の酸化マグネシウム粉末の充填率は45〜63体積%の範囲とすることが好ましい。酸化マグネシウム粉末の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中の充填率が45体積%未満であると、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の放熱性が低く、また、酸化マグネシウム粉末の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中の充填率が63体積%を超えると、酸化マグネシウム粉末を被覆するエポキシ樹脂(硬化物)の被膜が薄く、電解液などが付着した場合、酸化マグネシウム粉末が溶解し易くなり、この場合も無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の放熱性が低下して、高電圧が印加された場合にはエポキシ樹脂(硬化物)の熱分解が生じ、いずれの場合も十分な耐トラッキング性を確保することができなくなる。
【0039】
トラッキング現象の起こりにくさの評価としては、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の熱分解質量減少率を評価することで把握することができる。特に耐トラッキング性の試験時には、2つの白金電極間に高電圧が印加され、電解液が滴下された際にはエポキシ樹脂硬化物の表面はおおよそ300〜500℃の高温状態となる。電解液は瞬時に沸騰し蒸発する。樹脂分解の促進を抑えるには、熱分解質量減少が小さいことが好ましく、特に瞬時の質量減少による、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の表面での急激な形態変化を避けることが必要である。
【0040】
熱分解質量減少率とは、測定対象物の質量減少を温度変化で微分したもので、本願での算出方法は後述するが、最大熱分解質量減少率△R
maxの絶対値が小さいこと(0に近い)が好ましく、充填剤としての無機フィラーとして酸化マグネシウム粉末を用いる場合には、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の最大熱分解質量減少率△R
maxが−0.20[質量%/℃]以上であることが好ましい。最大熱分解質量減少率△R
maxがこの範囲であれば、電解液滴下時の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の表面での形態変化が小さく導電性の炭素経路の生成を抑えることができる。
【0041】
高耐熱性とは、樹脂硬化物を備える基板等の基材において、その使用が期待される環境温度よりも、高い温度で強度を維持する耐性が必要とされることである。この耐熱性の評価としては、組成物のガラス転移点を評価することで把握することができる。一般的に基板等の基材に要求される使用環境の温度は、使用される部品および使用用途により異なるが、搭載される部品の耐熱性と同等以上である必要があるとの観点から120℃程度とされている。このため耐熱性の指標であるガラス転移点は、その温度より十分高い150℃以上、好ましくは160℃以上を必要とする。
【0042】
特に、樹脂硬化物が熱硬化性の場合は、樹脂硬化物がガラス状からゴム状となるガラス転移点以上の高温度で、樹脂の弾性率が極端に低下し曲げ強度やピール強度といった強度の低下が生じる。このため、ガラス転移温度を十分に高くすることで、高温時の機械特性に効果を得ることができる。つまり、樹脂硬化物としてのガラス転移温度を上げることで、高い環境温度での耐熱特性を得ることができるのである。
【0043】
エポキシ樹脂硬化物となるエポキシ樹脂や硬化剤などの樹脂組成物は、溶媒中に均一に溶解又は分散させて使用できる。ここで用いる溶媒は、上記のエポキシ化合物及び1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンまたは1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンを溶解又は分散可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、アセトン、N−メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン等及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0044】
樹脂組成物は、フェノール、アミン、酸無水物などの上記1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンまたは1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼン以外のエポキシ化合物用硬化剤を併用しても良い。また、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、ホスフィン類やイミダゾール(2−エチル−4−メチルイミダゾール等)類等の硬化触媒(硬化促進剤)、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等のカップリング剤、ハロゲンやリン化合物等の難燃剤、希釈剤、可塑剤、滑剤等が挙げられる。
【0045】
無機フィラーとしては、酸化マグネシウムが安価で熱伝導率が高く(42〜60W/(m・K))、かつ体積抵抗率も高く(>10
14Ω・cm)、絶縁性のフィラーとしては好適である。その他、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素やシリカ等の非導電性充填材を併用しても、非導電性の高放熱樹脂組成物が得られる。
【0046】
樹脂シートとは、無機フィラーを含んだエポキシ樹脂組成物単独のシート、無機フィラーを含んだエポキシ樹脂組成物をPET等の樹脂フィルムや金属箔等の支持体上に塗布したシートおよび織布や不織布などの形状をした繊維などの芯材に、溶剤などで希釈した無機フィラーを含んだエポキシ樹脂組成物を含浸もしくは被覆したシートで、半硬化物状や未硬化物状のものを示す。
図1に本実施形態に係る樹脂シート10の概略図を示す。ここでの樹脂シート10は、無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1と芯材2からなるシート状に加工されている。無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1が硬化することにより無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物20となる。
【0047】
樹脂シート10において用いられる芯材2としては、各種公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、天然繊維、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維等から得られる織布又は不織布等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの芯材2は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、芯材2の厚さは、樹脂シート10又は積層板の厚さや、所望の機械的強度及び寸法安定性等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、通常、0.03〜0.20mm程度である。
【0048】
無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1に例えば熱を加えることにより、硬化した状態となり、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物20となる。無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物20の製造方法は、特に限定されない。例えば、上記の無機フィラーを含んだ樹脂組成物を所定形状の金型内に保持した状態で熱を加えて乾燥する方法や、後述する積層板の製造工程での熱により硬化する方法等が挙げられる。
【0049】
本実施形態の樹脂シート10は、無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1を芯材2に塗布或いは浸漬等により含浸させた後、熱を加えて乾燥させる。これによって、樹脂組成物を溶解していた溶媒が除去され、無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1が半硬化し、樹脂シート10を作製することができる。ここで加える熱は、例えば、60〜150℃で1〜120分程度、好ましくは70〜120℃で3〜90分程度の条件が好ましい。
【0050】
樹脂シート10の充填剤としての無機フィラーを含んだエポキシ樹脂組成物1の半硬化状態は、さらに、100〜250℃で1〜300分程度再加熱することにより、硬化物としての無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物20を得ることができる。このとき、必要に応じて加圧、減圧条件下で行ってもよい。
【0051】
図2には、本実施形態に係る積層板100の概略図を示す。複数枚の樹脂シート10を重ね合わせ、加圧することで積層板100が得られる。このときの、樹脂シート10には、芯材2が使用されているが、適宜設定すればよく、特に限定されない。この加圧工程においては、例えば無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1に熱硬化性樹脂を備える場合、熱を印加して加圧を行うことが成形性の観点で好ましい。
【0052】
積層板100は、樹脂シート10を1枚のみ用いて、加圧して得られる単板であっても良い。
【0053】
また、積層板100は、無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1の半硬化の樹脂シート10を1枚または積層し、100〜250℃で1〜300分程度加圧加熱する。無機フィラー含有エポキシ樹脂組成物1は無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物20となり、
図3に示す構成の積層板100を作製することができる。必要に応じて真空条件下で行ってもよい。これら積層板を作る際には、さらに積層板100の片側もしくは両側に金属箔または金属板を配置することで金属張り積層板とすることができる。
【0054】
金属張り積層板において用いられる金属層には、各種公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属板や金属箔が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、金属層の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、3〜150μm程度である。
【0055】
さらに、複合基板は、金属張り積層板をエッチングや穴開け加工することにより得られる。また、これらの作製方法は、上記したものに限定されない。
【0056】
樹脂硬化物の製造方法における硬化温度では、特に160〜210℃に調整することがより高熱伝導特性が顕著になりより好ましい。また、硬化剤として1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンまたは1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンを用いることで、より一層高熱伝導特性が顕著になりより好ましい。
【0057】
図4に本実施形態に係わる無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の熱分解質量減少チャートの一例を示す。無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を一定量採取しサンプルとし、所定の昇温速度で加温しながらサンプル質量を計測する。横軸にサンプル温度を、縦軸には室温(測定初期)時のサンプル質量を100質量%として残質量を相対値(質量%)で示したものである。
【0058】
図5に本実施形態に係わる無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の熱分解質量減少率チャートの一例を示す。横軸は温度、縦軸は無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の熱分解質量減少を温度で微分したものに相当する。これを熱分解質量減少率△R
tと定義する。また、最大熱分解質量減少率△R
maxを所定の温度範囲内で、熱分解質量減少率△R
tが最小(負で絶対値が最大)となる値と定義する。
【0059】
最大熱分解質量減少率△R
maxは、例えば、エポキシ化合物と硬化剤の組合せ、それぞれの配合比により調整することができる。エポキシ樹脂硬化物の架橋密度が上がれば耐熱特性は上がり、最大熱分解質量減少率△R
maxは大きく(負で絶対値が小さく)なり、逆に架橋密度が下がれば、耐熱特性は下がり、最大熱分解質量減少率△R
maxは小さく(負で絶対値が大きく)なる。エポキシ樹脂硬化物に充填剤としての無機フィラーが含まれている場合は、無機フィラーの充填率を変更することでも最大熱分解質量減少率△R
maxを調整することができる。無機フィラーの充填率が上がれば、有機分としてのエポキシ樹脂硬化物の含有率は下がり、最大熱分解質量減少率△R
maxは大きく(負で絶対値が小さく)なる。これとは逆に無機フィラーの充填率が下がれば、有機分としてのエポキシ樹脂硬化物の含有率は上がり、最大熱分解質量減少率△R
maxは小さく(負で絶対値が大きく)なる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態を詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
エポキシ樹脂硬化物製造用樹脂−フィラー溶液として、以下の材料を準備した。
エポキシ樹脂(テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂50%、4,4’−ビフェノール型エポキシ50%混合物、エポキシ当量175g/eq、三菱化学社製 YL−6121H) … 75質量部
硬化剤(1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン、活性水素当量59g/eq) … 25質量部
硬化促進剤(2−エチル−4−メチルイミダゾール、四国化成社製 2E4MZ) … 1質量部
メチルエチルケトン … 94質量部
これらの材料をメディアレス分散機(浅田鉄工社製 デスパミル MD−10)に投入し、撹拌して樹脂混合液を作製した。次に、この樹脂混合液に酸化マグネシウム粉末(平均粒径10μm、熱伝導率45W/(m・K))を投入し、よく撹拌分散させ、樹脂−フィラー溶液を作製した。このとき、酸化マグネシウム粉末は、樹脂−フィラー溶液からメチルエチルケトンを除いた固形分体積を100体積%としたときに58体積%(以下、充填率)となるように調整した。さらに、厚さ0.1mmのガラス繊維織布を、この樹脂−フィラー溶液に含浸し、その後、100℃にて加熱乾燥してメチルエチルケトンを除去し樹脂シートを得た。さらにこの樹脂シート6枚を重ねて加熱加圧(温度170℃、1MPaにて20分間)を行い、加えてさらに2回目の加熱加圧(温度200℃、4MPaにて1時間)を行い、厚さ0.6mmの無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を備える積層板を得た。
【0062】
(実施例2)
エポキシ樹脂の種類、添加量と硬化剤の添加量を以下の通り変更した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
エポキシ樹脂(ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量118g/eq、新日鉄住金化学社製 YH−434) … 67質量部
硬化剤(1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン) … 33質量部
【0063】
(実施例3)
酸化マグネシウム粉末(平均粒径10μm)の充填率が29体積%、酸化マグネシウム粉末(平均粒径50μm、熱伝導率45W/(m・K))の充填率が29体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
【0064】
(実施例4)
酸化マグネシウム粉末(平均粒径50μm)の充填率が58体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
【0065】
(実施例5)
酸化マグネシウム粉末(平均粒径10μm)の充填率が48体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
【0066】
(実施例6)
硬化剤の種類、添加量を以下の通り変更し、酸化マグネシウム粉末(粒径10μm)の充填率が48体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
硬化剤(1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、活性水素当量118g/eq) … 50質量部
【0067】
(実施例7)
酸化マグネシウム粉末(平均粒径10μm)の充填率が45体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
【0068】
(実施例8)
酸化マグネシウム粉末(平均粒径10μm)の充填率が63体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
【0069】
(比較例1)
酸化マグネシウム粉末(平均粒径10μm)の充填率が65体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
【0070】
(比較例2)
酸化マグネシウム粉末(平均粒径10μm)の充填率が43体積%になるように調整した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
【0071】
(比較例3)
エポキシ樹脂の種類、添加量と硬化剤の種類、添加量を以下の通り変更した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
エポキシ樹脂(三菱化学社製 YL−6121H) … 18質量部
エポキシ樹脂(臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量650g/eq、東都化成社製 YDB−406P) … 16質量部
エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量185g/eq、DIC社製 840−S) … 18質量部
硬化剤(ビフェニルアラルキル樹脂、活性水素当量211g/eq、エア・ウォーター製HE−200C−90) … 48質量部
【0072】
(比較例4)
エポキシ樹脂の種類、添加量と硬化剤の種類、添加量を以下の通り変更した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
エポキシ樹脂(DIC社製 840−S) … 21質量部
エポキシ樹脂(東都化成社製 YDB−406P) … 10質量部
エポキシ樹脂(水素添加ビスフェノールAエポキシ樹脂、エポキシ当量230g/eq、新日鉄住金化学社製 ST−3000) … 21質量部
硬化剤(エア・ウォーター社製 HE−200C−90) … 47質量部
【0073】
(比較例5)
エポキシ樹脂の種類、添加量と硬化剤の種類、添加量を以下の通り変更した以外は実施例1と同じとして実験を行った。
エポキシ樹脂(東都化成社製 YDB−406P) … 37質量部
エポキシ樹脂(DIC社製 840−S) … 37質量部
硬化剤(フェノール樹脂、活性水素当量104g/eq、DIC社製 TD−2093Y) … 27質量部
【0074】
無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の評価方法は、以下に示すように実施した。
【0075】
(熱分解質量減少の評価)
無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を得られた積層板から3mm角の形状になるようにサンプルを切り出して加工し、アルミパンへ入れ、TG/DTA(セイコーインスツルメンツ社製)にて、昇温速度10℃/minで室温から500℃までこのサンプルを加熱し0.1分間隔でサンプル質量W
t[g]およびサンプル温度T
t[℃]を計測する。測定開始後t分後の熱分解質量減少率△R
t[質量%/℃]は、下記の式(1)により算出する。
△R
t=(W
t+0.1−W
t)/(W
0・(T
t+0.1−T
t))×100 …(1)
W
0:サンプルの初期質量[g]
W
t:測定開始後t分後のサンプル質量[g]
W
t+0.1:測定開始後t+0.1分後のサンプル質量[g]
T
t:測定開始後t分後のサンプル温度[℃]
T
t+0.1:測定開始後t+0.1分後のサンプル温度[℃]
サンプル温度T
tが300〜500℃の範囲で前述の熱分解質量減少率△R
t[質量%/℃]を算出し、その最小値(負で絶対値が最大)を最大熱分解質量減少率△R
max[質量%/℃]とする。なお、本実施例においては、芯材として厚さ0.1mmのガラス繊維織布を用いた。このような場合は、同じ条件下で測定したガラス繊維織布の質量分を差し引いて、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物のみの熱分解質量減少率を算出する。
【0076】
(耐トラッキング性の評価)
耐トラッキング性試験は、JIS C2134に規定される通り、先端が白金で幅5mm、厚さ2mm、先端角30°の、のみ状の電極2本を4.0±0.1mmの距離、電極荷重1±0.05Nの条件で試験片表面に接触させる。電極間に試験電圧として、100〜600Vの正弦波電圧を印加するとともに、塩化アンモニウム0.1±0.002質量%水溶液(抵抗率3.95±0.05Ω・m)の電解液を2本の電極の間に30±5秒間隔で50滴滴下し、n=5の試験片すべてが破壊しない最大電圧(CTI値)を求めた。これら2本の電極間に0.5A以上の電流が2秒流れた場合は、トラッキング現象が生じたとみなし、不可と判断する。ここで、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物のCTI値が400V以上であれば十分な耐トラッキング性が得られたと判断した。
【0077】
(熱伝導性の評価)
無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の熱伝導率測定を、熱伝導性の評価として実施した。実施例1〜8及び比較例1〜5の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を含んだ積層板を直径10mmの円盤状に加工し、測定用サンプルをそれぞれ作製した。 得られた測定用サンプルを、熱伝導率測定装置(アルバック理工社製 TCシリーズ)を用いて、熱拡散係数α[m
2/s]の測定を行った。さらに、比熱Cp[J/(kg・K)]は、サファイアを標準サンプルとして示差熱分析(DSC)にて測定を行った。密度r(kg/m
3)は、アルキメデス法を用いて測定した。これらを下記の式(2)により、熱伝導率λ[W/(m・K)]を算出した。
λ=α×Cp×r …(2)
α:熱拡散率(m
2/s)
Cp:比熱[J/(kg・K)]
r:密度(kg/m
3)
ここで、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物を含んだ積層板の熱伝導率λが2.0W/(m・K)以上であれば十分な高熱伝導性が得られたと判断した。
【0078】
表1には、実施例1〜8及び比較例1〜5に用いた硬化剤種、酸化マグネシウム粉末の充填率及び無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物としての物性を示す。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1〜8の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物は、熱分解質量減少の測定において、300〜500℃の温度範囲内での最大熱分解質量減少率△
Rmaxが、−0.20[質量%/℃]以上であることが確認できた。さらに、高熱伝導特性を有する酸化マグネシウム粉末を含有しているので、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物として高放熱性が維持できたことから高い耐トラッキング特性(CTI値 400V以上)を得ることができた。
【0081】
また、 実施例1〜8の無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物は、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中の酸化マグネシウム粉末の充填率を45〜63体積%とすることで、高い耐トラッキング特性を有すると共に、放熱特性では熱伝導率2.0W/(m・K)以上を示し、積層板としても特性が得られることを確認することができた。
【0082】
比較例1では、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中に酸化マグネシウム粉末を65体積%と高充填したことから、2.0W/(m・K)を超える高い熱伝導率が得られ、エポキシ樹脂硬化物の300〜500℃の温度範囲内での最大熱分解質量減少率△R
maxは−0.07[質量%/℃]であったが、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中の樹脂が占める体積が減少し、酸化マグネシウム粉末を取り囲む樹脂被膜が薄くなり、酸化マグネシウム粉末の溶解が発生して無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の表面での放熱性が低下し、耐トラッキング性のCTI値では400Vを下回る結果となった。一方、比較例2では、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物中の酸化マグネシウム粉末の充填率が43体積%と低く、無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の放熱性が十分でなく、耐トラッキング試験で高電圧の印加時にエポキシ樹脂硬化物の高熱化が生じ樹脂の炭化が加速してしまう結果となり、耐トラッキング性のCTI値では400Vを下回る結果となった。
【0083】
比較例3〜5では、硬化剤として1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンまたは1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンを含まず、エポキシ化合物と硬化剤との架橋密度を十分高めることができなかった。無機フィラー含有エポキシ樹脂硬化物の300〜500℃の温度範囲内での最大熱分解質量減少率△R
maxは−0.20[質量%/℃]を下回り、耐トラッキング試験で高電圧の印加時にエポキシ樹脂硬化物の分解が加速し、酸化マグネシウム粉末の溶解も発生してエポキシ硬化物の表面での放熱性が低下し、耐トラッキング性のCTI値では400Vを下回る結果となった。