【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーを含有するシェルに、コア剤として水への溶解度が5重量%以上である水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包し、前記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーは、フッ素含有率が15〜50%である水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性及び熱安定性を低下させることなく、硬化時には速やかに硬化反応を進行させるために、水溶性熱可塑性ポリマーを含有するシェルに、コア剤として水への溶解度が特定範囲に調整された水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルについて検討した。
水溶性熱可塑性ポリマーは、水素結合の形成によって緻密なシェルを構築するため、貯蔵中には漏出させることなく水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤を保持できる。また、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との相溶性が低いため、貯蔵中にシェルから漏出した場合であっても熱硬化性樹脂中に拡散しづらく、硬化反応が進行しづらい。一方、硬化時には水溶性熱可塑性ポリマーの水素結合が切れるため、シェルから水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤が速やかに放出され、硬化反応が速やかに進行する。
【0010】
しかしながら、熱硬化性樹脂組成物には硬化物の信頼性を高めるために酸無水物、フェノール、チオール等の硬化剤が添加されることが多く、この場合、貯蔵中に酸無水物等の硬化剤により水溶性熱可塑性ポリマーが溶解し、シェルが水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤を充分に保持できなくなるという問題があった。
これに対し、本発明者らは、水溶性熱可塑性ポリマーの代わりにフッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーを用い、このフッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーのフッ素含有率を特定範囲に調整することで、酸無水物硬化剤等の極性材料に対するシェルの耐性(耐溶剤性)が向上することを見出した。また、本発明者らは、フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーは、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤との相溶性が低いため、硬化時にはシェルの崩壊とともに水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤がより速やかに放出されること、フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーは、分解温度が高いため、硬化時にポリマー分解物によって生じるボイドが抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
なお、これまでにもフッ素含有ポリマーを含有するシェルを有するカプセルは知られているが(例えば、特開2002−363255号公報、特開2003−128751号公報、特開2011−072999号公報)、これらのシェルは、フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマー、即ち、水溶性かつ熱可塑性であり、フッ素元素を含有するポリマーではなく、耐溶剤性、熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性及び熱安定性並びに速硬化性、硬化物のボイドの抑制を同時に実現できるものではなかった。
【0011】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーを含有するシェルに、コア剤として水への溶解度が5重量%以上である水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤を内包する。
【0012】
上記シェルが上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーを含有することで、酸無水物硬化剤等の極性材料に対する上記シェルの耐性(耐溶剤性)が向上する。また、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーは、水素結合の形成によって緻密なシェルを構築するため、貯蔵中には漏出させることなく上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤を保持できる。一方、硬化時には上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの水素結合が切れるうえ、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーと上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤との相溶性が低いため、硬化時には上記シェルから上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤が速やかに放出され、硬化反応が速やかに進行する。
また、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーは、分解温度が高いため、上記シェルが上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーを含有することで、硬化時にポリマー分解物によって生じるボイドが抑制される。
【0013】
上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーは、水溶性かつ熱可塑性であり、フッ素元素を含有するポリマーであれば特に限定されないが、水溶性熱可塑性構成成分とフッ素含有構成成分とを有するポリマーであることが好ましい。なお、本発明に使用されるポリマーとは、分子量1000以上の化合物を意味する。
【0014】
上記水溶性熱可塑性構成成分は特に限定されず、例えば、水素結合可能な極性官能基を有するモノマーに由来する構成成分が挙げられる。
上記水素結合可能な極性官能基として、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。なかでも、強い水素結合を形成できることからカルボキシル基が好ましい。
上記水素結合可能な極性官能基を有するモノマーは特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸(メタ)アクリルアミド、マレイン酸、2−ヒドロキシエチルアルコール、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、アリルアミン、4−ビニルアニリン等が挙げられる。これらの水素結合可能な極性官能基を有するモノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、上記シェルの緻密性が向上し、上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の保持性が向上することから、アクリル酸、マレイン酸が好ましい。
【0015】
上記水溶性熱可塑性構成成分は、ポリマーを処理することにより水素結合可能な極性官能基を有するポリマーに変換した構成成分であってもよい。このような構成成分として、例えば、酢酸ビニルモノマーの重合体を加水分解して得られるポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0016】
上記フッ素含有構成成分は特に限定されず、例えば、フッ素含有モノマーに由来する構成成分が挙げられる。
上記フッ素含有モノマーは特に限定されず、例えば、炭素数1〜10のアルキル基又は長鎖アルキル基を有するモノマー(例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ビニルエーテル等)の1以上の水素原子をフッ素原子で置換したモノマーが挙げられる。このようなモノマーとして、具体的には例えば、メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−へプタデカフルオロデシル、ペンタフルオロメタクリル酸メチル、メタクリル酸ペンタデカフルオロオクチル、メタクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、トリフルオロ酢酸ビニル、2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル等が挙げられる。これらのフッ素含有モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、モノマー1分子あたりのフッ素含有率が高く、少量で高い耐溶剤性を得られることから、メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−へプタデカフルオロデシル、メタクリル酸ペンタデカフルオロオクチルが好ましい。
【0017】
また、上記フッ素含有モノマーとしては、フェニル基の1以上の水素原子をフッ素原子で置換したモノマーも用いることができる。このようなモノマーとして、具体的には例えば、メタクリル酸ペンタフルオロフェニル、4−フルオロスチレン、ペンタフルオロスチレン等が挙げられる。これらのフッ素含有モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーとして、具体的には例えば、アクリル酸−メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−へプタデカフルオロデシル共重合体、アクリル酸−メタクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル共重合体等が挙げられる。
【0019】
上記水溶性熱可塑性構成成分と上記フッ素含有構成成分との重量比を調整することで、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーのフッ素含有率を後述する範囲に調整することができる。
上記水溶性熱可塑性構成成分と上記フッ素含有構成成分との重量比は、上記シェルの緻密性、耐溶剤性、上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の保持性、熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性、熱安定性等の観点、硬化物中にボイドが発生することを防ぐ観点から、75:25〜25:75が好ましく、65:35〜35:65がより好ましく、60:40〜50:50が更に好ましい。
なお、水溶性熱可塑性構成成分及びフッ素含有構成成分の重量比とは、モノマー換算した重量比を意味する。
【0020】
上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーは、上記シェルの耐溶剤性、熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性、熱安定性等の観点、硬化物中にボイドが発生することを防ぐ観点から、フッ素含有率の下限が15%、上限が50%である。上記フッ素含有率の好ましい下限は19%、好ましい上限は45%であり、より好ましい下限は23%、より好ましい上限は40%である。
なお、フッ素含有率は、例えば、フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーがフッ素含有モノマーに由来する構成成分を有する場合、下記式(1)により算出される。
フッ素含有率(%)={(フッ素含有モノマー中に含まれるフッ素の数×フッ素の原子量)/フッ素含有モノマーの分子量}×{フッ素含有モノマーの重量/フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの重量}×100 (1)
【0021】
上記フッ素含有率を上記範囲に調整する方法は特に限定されないが、上記水溶性熱可塑性構成成分と上記フッ素含有構成成分との重量比を上述した範囲に調整する方法が好ましい。
【0022】
上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの成膜性に起因するコアシェル構造形成の容易性の観点、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの熱による融解性又は溶解性に起因する熱硬化性樹脂組成物の硬化性の観点から、好ましい下限は1000、好ましい上限は10万であり、より好ましい下限は3000、より好ましい上限は1万である。
なお、重量平均分子量は、移動相としてテトラヒドロフランを用いたゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めることができる。
【0023】
上記シェル中の上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの含有量は特に限定されないが、50重量%以上が好ましい。上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの含有量が50重量%未満であると、上記シェルの耐溶剤性が低下し、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを配合した熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性又は熱安定性が低下することがある。また、硬化物にボイドが生じやすくなることがある。
上記シェル中の上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーの含有量の上限は特に限定されず、100重量%であってもよい。
【0024】
上記シェルは、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマー以外のその他ポリマーを含有してもよい。上記その他ポリマーは特に限定されず、例えば、水溶性熱可塑性ポリマー、熱可塑性ポリマー等が挙げられる。
上記水溶性熱可塑性ポリマーとして、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、アミド基等の水素結合可能な極性官能基を有するポリマーが挙げられ、具体的には例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、アクリル酸−アクリルアミド共重合体、ポリメタクリル酸、アクリル酸−メタクリル酸共重合体、アクリルアミド−メタクリル酸共重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリマレイン酸、メチルセルロース、ヒドロキシルプロピルセルロース、ゼラチン、寒天、ペクチン、ジェランガム等が挙げられる。これらの水溶性熱可塑性ポリマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、分子量により上記シェルの崩壊温度を調整することが可能であることから、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸が好ましい。
【0025】
上記熱可塑性ポリマーとして、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。これらの熱可塑性ポリマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記シェル中のフッ素元素の分布は特に限定されず、上記シェル全体にフッ素元素が均一に存在していてもよい。
或いは、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを製造する際の相分離の影響により、上記シェルが、上記水溶性熱可塑性構成成分を含有する内層と、上記フッ素含有構成成分を含有する外層とを有していてもよい。このような内層と外層とを有する場合、上記シェルの耐溶剤性がより向上すると考えられる。
なお、シェル中のフッ素元素の分布は、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの断面を露出させたサンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、更に、エネルギー分散型X線分析(EDS)により得られる元素マッピングから分析することができる。なお、「シェル全体にフッ素元素が均一に存在する」とは、フッ素元素のマッピング像がシェル全体に同じ濃度で存在していることを意味する。「水溶性熱可塑性構成成分を含有する内層と、フッ素含有構成成分を含有する外層とを有する」とは、フッ素元素のマッピング像がシェルの最表面にのみ存在していることを意味する。
【0027】
上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤は、水への溶解度が5重量%以上である。
このような水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂との相溶性が低いため、貯蔵中にシェルから漏出した場合であっても熱硬化性樹脂中に拡散しづらく、硬化反応が進行しづらい。上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の水への溶解度の好ましい下限は10重量%である。上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の水への溶解度の上限は特に限定されないが、入手容易性、均一硬化性等を考慮すると、好ましい上限は100重量%である。
なお、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の水への溶解度とは、20℃において100gの水へ水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤を加えたときに、エポキシ樹脂用硬化剤及び/又は硬化促進剤が溶けきらず、2相とならない水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の最大量を意味する。
【0028】
上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤は、水への溶解度が5重量%以上であれば特に限定されず、具体的に例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、エチレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、トリエチレントリアミン等のアミン化合物、マロン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物、1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、2、4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2−ジメチルアミノフェノール等が挙げられる。なかでも、水への溶解度が高いことから、2−メチルイミダゾール(水への溶解度45重量%)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノ)フェノール(水への溶解度80重量%)、2−ジメチルアミノフェノール(水への溶解度10重量%)が好ましく、2−メチルイミダゾールが特に好ましい。
【0029】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、上述したようなシェルにコア剤を内包するものである。このようなコアシェル構造の確認方法としては、クロスセションポリッシャーにより水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの断面形状を露出した後、走査型電子顕微鏡により断面構造を観察する方法を用いることができる。
【0030】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径は、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを配合した熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性、熱安定性等の観点、硬化反応ムラの発生を防ぐ観点から、好ましい下限が0.3μm、好ましい上限が20.0μmである。平均粒子径のより好ましい上限は10.0μmである。
なお、平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡を用いて1視野に約100個の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルが観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの最長径をノギスで測定した平均値を意味する。
【0031】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率は、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の保持性及び放出性の観点から、好ましい下限が15体積%、好ましい上限が70体積%であり、より好ましい下限が25体積%、より好ましい上限が50体積%である。
【0032】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルのシェル厚みは、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの強度、耐熱性、耐溶剤性、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを配合した熱硬化性樹脂組成物の硬化反応の反応性等の観点から、好ましい下限が0.05μm、好ましい上限が1.0μmである。シェル厚みのより好ましい下限は0.08μm、より好ましい上限は0.5μmである。
【0033】
なお、内包体積比率及びシェル厚みは、下記のようにして算出される。
平均粒子径Dを用いて下記式(2)により水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの体積Vを算出する。
次いで、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセル0.15mgを精秤し、熱分解装置(フロンティア・ラボ社製)を用いて熱分解後、ガスクロマトグラフィー装置(Q1000、日本電子社製)で水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の含有量Cを定量する。得られた含有量Cを用いて下記式(3)により水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率を算出する。
次いで、算出した内包体積比率を用いて下記式(4)によりコアの直径を算出する。更に、算出したコアの直径を用いて下記式(5)によりシェル厚みを算出する。
【0034】
V(cm3)=(4×π×(D/2)3)/3 (2)
内包体積比率(%)=(C(重量%)/G(g/cm3))/V(cm3) (3)
コアの直径=2×{(3×V×内包体積比率)/(4×π)}(1/3) (4)
シェル厚み=(D−コアの直径)/2 (5)
式(2)〜(5)中、Vは水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの体積を表し、Dは水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの平均粒子径を表し、Cは熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて定量した水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の含有量を表し、Gは水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の比重を表す。
【0035】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルを製造する方法は特に限定されないが、水性溶媒に少なくとも上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーと上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤とを溶解させた水性溶液aを、非極性媒体に乳化剤又は分散剤を溶解させた非極性溶液bに分散させて乳化液とし、次いで、乳化液から加熱及び/又は減圧により水性溶媒を除去する方法が好ましい。
【0036】
上記水性溶液aは、水性溶媒に少なくとも上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーと上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤とを溶解させることによって得られる。
上記水性溶媒は、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーと上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤とを溶解できれば特に限定されず、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーと上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤とに合わせて適宜選択されるが、例えば、水、メタノール、水とメタノールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0037】
上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の配合量は特に限定されないが、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの内包体積比率、並びに、上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤の放出性及び保持性の観点から、シェルを構成する原料100重量部に対する好ましい下限が20重量部、好ましい上限が150重量部である。配合量のより好ましい下限は40重量部、より好ましい上限は100重量部である。
なお、シェルを構成する原料とは、フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーに、必要に応じてその他ポリマー等を合わせたものを意味する。
【0038】
上記非極性溶液bは、非極性媒体に乳化剤又は分散剤を溶解させることによって得られる。
上記非極性媒体は特に限定されず、水性溶媒に合わせて適宜選択される。上記水性溶媒と上記非極性媒体との関係としては、上記水性溶媒よりも非極性媒体の沸点が高く、上記水性溶媒の20℃での非極性媒体への溶解度が5重量%以下であることが好ましい。このような水性溶媒と非極性媒体とを用いることにより、安定な乳化液を調製することができるとともに、水性溶媒を除去する際に液滴の合一等を抑制することができるため、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの粒子径の制御が可能となる。
なお、水性溶媒の20℃での非極性媒体への溶解度とは、20℃において、非極性媒体と水性溶媒とを混合して1日撹拌した後に、非極性媒体をガスクロマトグラフィーにより分析したときの、非極性媒体中に含まれる水性溶媒の量を意味する。
【0039】
上記水性溶媒が水(沸点100℃)である場合、上記非極性媒体として、例えば、ノルパー13、ノルパー15(以上、エクソンモービル社製)等のノルマルパラフィン系溶剤や、エクソールD30、エクソールD40(以上、エクソンモービル社製)等のナフテン系溶剤や、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM(以上、エクソンモービル社製)等のイソパラフィン系溶剤や、オクタン、ノナン、デカン等が挙げられる。これらの非極性媒体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、水への溶解度が低いことから、アイソパーH、アイソパーMが好ましい。
【0040】
上記乳化剤は、非極性媒体に溶解できれば特に限定されないが、HLBが10以下であることが好ましい。HLBが10以下の乳化剤は、油中水滴型(w/o型)の乳化液を安定に調製でき、水中油滴型(o/w型)又は多層エマルション(w/o/w型)の形成を抑制することができる。
なお、HLBとは、乳化剤の親油性と親水性とのバランスを示す指標であり、親水基を持たない場合をHLB=0、親油基を持たず親水基のみをもつ場合をHLB=20としたものであり、水、油等の溶媒に対する乳化剤の親和性を意味する。HLBの算出方法としては、グリフィン法、デイビス法等の既知の手法を用いることができる。
【0041】
上記乳化剤として、具体的には例えば、ソルビタンモノラウレート(HLB8.6)、ソルビタンモノパルミテート(HLB6.7)、ソルビタンモノステアレート(HLB4.7)、ソルビタンジステアレート(HLB4.4)、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)、ソルビタンセスキオレエート(HLB3.7)、ソルビタントリスステアレート(HLB2.1)、ソルビタントリオレエート(HLB1.8)等が挙げられる。
【0042】
上記乳化剤の添加量は、非極性媒体100重量部に対する好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が5重量部である。上記乳化剤の添加量が0.05重量部以上であると、油中水滴型(w/o型)の乳化液を安定に調製できる。上記乳化剤の添加量が5重量部以下であると、乳化液中の水性溶液aからなる液滴のサイズが適切になり、適切な水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの粒子径を得ることができる。
【0043】
上記分散剤は、非極性媒体に溶解できれば特に限定されないが、分子量が1000以上であることが好ましい。分子量が1000以上の分散剤は、乳化液中の水性溶液aからなる液滴を立体反発により安定化させることができる。
【0044】
上記分散剤として、具体的には例えば、ポリジメチルシロキサンや、ソルスパース8000、ソルスパース13650、ソルスパース13300、ソルスパース17000、ソルスパース21000(以上、日本ルーブリゾール社製)等が挙げられる。
【0045】
上記分散剤の添加量は、非極性媒体100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。上記分散剤の添加量が0.1重量部以上であれば、乳化液中の水性溶液aからなる液滴を立体反発により安定化させることができる。
【0046】
上記水性溶液aを上記非極性溶液bに分散させて乳化液を調製する際には、水性溶液aに非極性溶液bを添加してもよく、非極性溶液bに水性溶液aを添加してもよい。乳化方法として、例えば、ホモジナイザーを用いて攪拌する方法、超音波照射により乳化する方法、マイクロチャネル又はSPG膜を通過させて乳化する方法、スプレーで噴霧する方法、転相乳化法等が挙げられる。
【0047】
上記乳化液から加熱及び/又は減圧により水性溶媒を除去する方法は特に限定されないが、上記乳化液を温度20〜100℃かつ圧力0.1〜0.001MPaで加熱及び/又は減圧することで上記水性溶媒を除去する方法が好ましい。
上記水性溶媒を除去することにより、上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーと上記水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤とを相分離させながら上記フッ素含有水溶性熱可塑性ポリマーを析出させ、コアシェル構造を形成することができる。
【0048】
得られた水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、有機溶剤により繰り返し洗浄することが好ましい。上記有機溶剤は、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの含水率を低くできることから、シクロヘキサン、ノルマルヘキサン、トルエンが好ましい。
また、得られた水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、既知の方法を用いて乾燥されてもよい。なかでも、水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルの含水率を低くできることから、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥が好ましい。
また、得られた水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、含水率を低くできることから、デシケーターで保存されることが好ましい。
【0049】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、耐溶剤性に優れ、熱硬化性樹脂組成物に配合された場合に該熱硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性及び熱安定性を低下させることなく、硬化時には速やかに硬化反応を進行させてボイドの少ない硬化物を形成させることができる。
このため、本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、硬化剤及び/又は硬化促進剤として熱硬化性樹脂組成物に好適に配合される。
【0050】
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルと、熱硬化性化合物とを含有する熱硬化性樹脂組成物もまた、本発明の1つである。
上記熱硬化性化合物は特に限定されず、例えば、付加重合、重縮合、重付加、付加縮合、開環重合等の反応により硬化する化合物が挙げられ、具体的には例えば、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、キシレン樹脂、アルキル−ベンゼン樹脂、エポキシアクリレート樹脂、珪素樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。なかでも、エポキシ樹脂が好ましい。
本発明の水溶性硬化剤及び/又は硬化促進剤内包カプセルは、酸無水物硬化剤等の極性材料に対する耐性(耐溶剤性)に優れるものであることから、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、更に、酸無水物硬化剤を含有してもよい。酸無水物硬化剤を添加することにより、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の信頼性を高めることができる。