特開2015-232142(P2015-232142A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティドの特許一覧 ▶ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特開2015-232142溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製
<>
  • 特開2015232142-溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製 図000005
  • 特開2015232142-溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製 図000006
  • 特開2015232142-溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製 図000007
  • 特開2015232142-溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製 図000008
  • 特開2015232142-溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製 図000009
  • 特開2015232142-溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製 図000010
  • 特開2015232142-溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-232142(P2015-232142A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】溶剤型ポリマーの生物活性コーティングの調製
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/08 20060101AFI20151201BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20151201BHJP
   C08K 5/315 20060101ALI20151201BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20151201BHJP
   C09D 189/00 20060101ALI20151201BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20151201BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20151201BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20151201BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20151201BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   C08L33/08
   C08L89/00
   C08K5/315
   C09D201/00
   C09D189/00
   C09D7/12
   C09D133/00
   C09D175/04
   C09D5/14
   C09D5/02
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-167991(P2015-167991)
(22)【出願日】2015年8月27日
(62)【分割の表示】特願2010-106759(P2010-106759)の分割
【原出願日】2010年5月6日
(31)【優先権主張番号】12/434,320
(32)【優先日】2009年5月1日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(71)【出願人】
【識別番号】510125109
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ワン ピン
(72)【発明者】
【氏名】ウ ソンタオ
(72)【発明者】
【氏名】チア ホンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】石井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】トン シャオドン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ミンチュアン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002AD032
4J002BG041
4J002CP033
4J002EH036
4J002EH046
4J002EN136
4J002EP006
4J002ER007
4J002EV236
4J002FD147
4J002FD313
4J002FD316
4J002GH01
4J002GN00
4J002HA07
4J038BA181
4J038CG041
4J038DG261
4J038GA03
4J038KA06
4J038KA09
4J038KA20
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA05
4J038NA12
4J038NA27
4J038PA17
4J038PA19
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC01
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法を提供する。
【解決手段】タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法は、ポリマー樹脂、界面活性剤、及び非水性有機溶剤の混合物を用意することを含む本発明の実施態様に従って提供される。生理活性タンパク質を含みかつ界面活性剤を実質的に含まない水性溶液がこの混合物と混合される。エマルションが架橋剤と混合されて硬化性組成物が生成される。この硬化性組成物が硬化され、それによってタンパク質−ポリマー複合材料が生成される。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー樹脂、界面活性剤、及び非水性有機溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質を含有する水性溶液であって、界面活性剤を実質的に含まない水性溶液を前記混合物と混合してエマルションを生成する工程、
該エマルションを架橋剤と混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
該硬化性組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含む、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
【請求項2】
前記ポリマー樹脂がヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記架橋剤がポリイソシアネートである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生理活性タンパク質が酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生理活性タンパク質が、レクチン、抗体、及び受容体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂、界面活性剤、及び−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質を含有する水性溶液であって、界面活性剤を実質的に含まない水性溶液を前記混合物と混合してエマルションを生成する工程、
該エマルションをポリイソシアネート架橋剤と混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
重合可能な組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含む、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
【請求項9】
前記生理活性タンパク質が酵素である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生理活性タンパク質が、レクチン、抗体、及び受容体からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記硬化性組成物を硬化する前に該硬化性組成物を基材に適用する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ポリマー樹脂及び非水性有機溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質を含有する水性溶液であって、界面活性剤を実質的に含まない水性溶液を前記混合物と混合して第1の成分を生成する工程、
架橋剤を含む第2の成分を用意する工程、
前記第1の成分と前記第2の成分を混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
該硬化性組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含む、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
【請求項15】
前記硬化が熱硬化を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記硬化が化学線を用いた硬化を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記生理活性タンパク質が酵素である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記生理活性タンパク質が、レクチン、抗体、及び受容体からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記硬化性組成物を硬化する前に該硬化性組成物を基材に適用する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
2成分の溶剤型ポリマー樹脂中に分散された生理活性タンパク質を含むタンパク質−ポリマー複合材料であって、該タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、タンパク質−ポリマー複合材料。
【請求項23】
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが10μm以下(平均直径)である、請求項22に記載のタンパク質−ポリマー複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、生物活性物質を含むコーティング組成物の調製方法に関する。特定の実施態様では、本発明は、薄膜コーティングの形態で使用するためのタンパク質−ポリマー複合材料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生理活性タンパク質は、種々の用途において潜在的な有用性を有する。しかしながら、生物活性物質を含む材料、特にはタンパク質−ポリマー複合材料の調製方法について継続したニーズがある。
【発明の概要】
【0003】
重合可能な成分を有する連続相に分散された生理活性タンパク質を含有する微細エマルション溶液の形成を含み、該タンパク質が取り込まれそしてポリマーの網目構造を形成する際に該ポリマーと架橋するようにされる本発明の実施態様による方法が提供される。ポリマー中にタンパク質を閉じ込めるとともにポリマーの網目構造にタンパク質の少なくとも一部を架橋することで、本明細書に記載の方法及び材料を用いて形成されたコーティング中のタンパク質成分の長期にわたる活性が得られる。
【0004】
タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法は、ポリマー樹脂、界面活性剤、及び非水性有機溶剤の混合物を用意することを含む本発明の実施態様に従って提供される。生理活性タンパク質を含みかつ界面活性剤を実質的に含まない水性溶液がこの混合物と混合され、それによってエマルションが生成される。このエマルションは架橋剤と混合されて硬化性組成物が生成され、この硬化性組成物が硬化されてタンパク質−ポリマー複合材料が生成される。
【0005】
タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法は、ヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂、界面活性剤、及び非水性有機溶剤の混合物を用意することを含む本発明の実施態様に従って提供される。生理活性タンパク質を含みかつ界面活性剤を実質的に含まない水性溶液がこの混合物と混合され、それによってエマルションが生成される。このエマルションはポリイソシアネート架橋剤と混合されて硬化性組成物が生成され、この硬化性組成物が硬化されてタンパク質−ポリマー複合材料が生成される。
【0006】
タンパク質−ポリマー複合体に含まれる生理活性タンパク質は、タンパク質−ポリマー複合体の所望の特性に従って選択され、含まれる生理活性タンパク質の例としては、特に限定されないが、酵素、レクチン、抗体、及び受容体のうち1つ又は複数のタイプが挙げられる。
【0007】
任意選択で、1つ又は複数の添加物を、混合物、水性溶液、エマルション、及び/又は硬化性組成物に含めることができる。
【0008】
本発明の実施態様では、タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズは10μm以下(平均直径)であり、例えば、1nm〜10μm(1nmと10μmを含む)の範囲である。
【0009】
ヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂、界面活性剤、及び−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する溶剤の混合物を用意することを含むタンパク質−ポリマー複合材料の調製のための本発明のさらなる実施態様による方法が提供される。生理活性タンパク質を含みかつ界面活性剤を実質的に含まない水性溶液がこの混合物と混合され、それによってエマルションが生成される。このエマルションはポリイソシアネート架橋剤と混合されて硬化性組成物が生成され、この硬化性組成物が硬化されてタンパク質−ポリマー複合材料が生成される。
【0010】
本発明のさらなる実施態様による2成分の溶剤型タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法は、ポリマー樹脂及び非水性有機溶剤の混合物を用意し、そして生理活性タンパク質を含有する水性溶液であって、界面活性剤を実質的に含まない水性溶液をこの混合物と混合して第1の成分を生成することを含む。架橋剤を含む第2の成分がこの第1の成分と混合されて硬化性組成物が生成される。この硬化性組成物が硬化されて本発明のタンパク質−ポリマー複合材料が生成される。
【0011】
本発明の実施態様によるタンパク質−ポリマー複合材料は、2成分の溶剤型ポリマー樹脂中に分散された生理活性タンパク質を含む。生理活性タンパク質は、タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが10μm以下(平均直径)、例えば、1nm〜10μm(1nmと10μmを含む)の範囲となるように分散される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の実施態様による方法のフローダイアグラムの図である。
図1B】本発明の実施態様による方法のフローダイアグラムの図である。
図2】生理活性タンパク質及びポリマー又は架橋剤の共有結合による並びにタンパク質の物理的な捕捉による生理活性タンパク質の組み込みの概略図である。
図3】天然のα−アミラーゼの熱安定性を示すグラフである。
図4】本発明の実施態様に従って製造された2成分の溶剤型ポリウレタン(2K SB PU)コーティング中に組み込まれたα−アミラーゼの熱安定性を示すグラフである。
図5】異なるタイプのポリウレタン(PU)コーティング中に組み込まれたα−アミラーゼの室温での長期安定性を説明するグラフである。
図6】上面から約2μmの深さにおけるα−アミラーゼを含有する2K SB PUの共焦点レーザー走査顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法が本発明の実施態様に従って提供される。本発明によるタンパク質−ポリマー複合材料は、コーティング、例えば、バイオセンサー、防汚表面、及び生体触媒装置のためのコーティングを含む多くの用途において有用である。
【0014】
生理活性タンパク質の水性溶液と非水性有機溶剤型ポリマーを用いて生物活性のある有機溶剤型タンパク質−ポリマー複合材料を生成することを含むタンパク質−ポリマー複合材料の調製方法が本発明の実施態様に従って提供される。これらの本発明の方法はまた、本明細書において「直接分散」法とも称される。
【0015】
本発明の実施態様に従って提供される方法は、図1A及び1Bに示されるフローダイアグラムにおいて一般的に図示される。図1Aに示されるように、生理活性タンパク質の水性溶液10と、ポリマー樹脂と有機溶剤の混合物20が混合されて硬化性のタンパク質−ポリマー組成物40が生成される。任意選択で、架橋剤30が、用いられるポリマー樹脂及び選択される硬化法に応じて、硬化性のタンパク質−ポリマー組成物40中に存在している。組成物の硬化を実施して硬化されたタンパク質−ポリマー複合材料50が生成される。
【0016】
図1Bに示される好ましい実施態様では、生理活性タンパク質の水性溶液60と、ポリマー樹脂、界面活性剤及び非水性有機溶剤の混合物70が混合されてエマルション75が生成される。架橋剤80が、用いられるポリマー樹脂及び選択される硬化法に応じて、このエマルション75に添加され、硬化性のタンパク質−ポリマー組成物90が生成される。この硬化性のタンパク質−ポリマー組成物90が硬化されてタンパク質−ポリマー複合材料100が生成される。
【0017】
本発明の実施態様によるタンパク質−ポリマー複合材料の調製方法は、硬化の前に溶剤型樹脂中に生理活性タンパク質を分散させることを特徴とし、これは、複合材料では、生理活性タンパク質及びタンパク質−ポリマー複合材料の官能性を損なう生理活性タンパク質の大きな凝集体が形成するのと対照的である。本発明の実施態様では、生理活性タンパク質は、生理活性タンパク質が他の生理活性タンパク質と結合しないか及び/又は結合したタンパク質の比較的小さな粒子を形成するように、タンパク質−ポリマー複合材料中に分散される。したがって、これらの実施態様では、タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズは10μm以下(平均直径)、例えば、1nm〜10μm(1nmと10μmを含む)の範囲である。
【0018】
本発明の実施態様による硬化性のタンパク質−ポリマー組成物は、2成分の溶剤型(2K SB)組成物であり、この2成分は使用の直前に混合され、例えば、硬化性のタンパク質−ポリマー組成物を基材に適用して生物活性コーティング、例えば、生物活性のあるクリアコートが形成される。一般的に言えば、第1の成分は架橋性ポリマー樹脂を含有し、第2の成分が架橋剤を含有する。したがって、例えば、図1Bを参照すると、エマルション75は架橋性樹脂を含有する第1の成分であり、架橋剤80が第2の成分であり、それらが互いに混合されて硬化性のタンパク質−ポリマー組成物が生成される。
【0019】
本発明の方法及び組成物において含まれるポリマー樹脂は、コーティング組成物、例えば、クリアコート組成物において有用な任意の膜形成ポリマーであることができる。このようなポリマーの例としては、アミノプラスト、メラミン、ホルムアルデヒド、カルバメート、ポリウレタン、ポリアクリレート、エポキシ、ポリカーボネート、アルキド、ビニル、ポリアミド、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリシロキサン、及びそれらの又は他のポリマーの任意の組み合わせが挙げられる。
【0020】
特定の実施態様では、硬化性組成物に含まれるポリマー樹脂は架橋性である。例えば、架橋性ポリマーは、架橋性ポリマーに特有の官能基を有する。このような官能基の例としては、アセトアセテート、酸、アミン、カルボキシル、エポキシ、ヒドロキシル、イソシアネート、シラン、及びビニルが挙げられる。
【0021】
架橋剤は硬化性組成物中に任意選択で含まれる。選択される特定の架橋剤は、用いられる特定のポリマー樹脂に依存している。架橋剤の限定的でない例としては、イソシアネート官能基、エポキシ官能基、アルデヒド官能基、及び酸性官能基などの官能基を有する化合物が挙げられる。
【0022】
タンパク質−ポリウレタン複合材料を形成するための方法の特定の実施態様では、本発明の方法及び組成物において含まれるポリマー樹脂はヒドロキシル官能性アクリルポリマーであり、架橋剤はポリイソシアネートである。
【0023】
ポリイソシアネート、好ましくはジイソシアネートは、本発明の実施態様によるヒドロキシル官能性アクリルポリマーと反応する架橋剤である。脂肪族のポリイソシアネートは、クリアコート用途、例えば、自動車用クリアコート用途のためのタンパク質−ポリマー複合材料の製造方法において用いられる好ましいポリイソシアネートである。脂肪族のポリイソシアネートの限定的でない例としては、1,4−ブチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−ジイソシアネートプロパン、1,3−ジイソシアネートプロパン、エチレンジイソシアネート、リシンジイソシアネート、1,4−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ジフェニルメタン、4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’−ジイソシアネートのイソシアヌレート、メチレンビス−4,4’−イソシアネートシクロヘキサン、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、イソホロンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート、p−フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートのイソシアヌレート、トリフェニルメタン4,4’,4”−トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、及びメタ−キシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0024】
本明細書で用いられる「生理活性タンパク質」という語は、特に別の物質、例えば、リガンド、ドラッグ、基材、抗原又はハプテンと相互作用する活性を有するタンパク質を言うものである。生理活性タンパク質としては、特に限定されないが、抗体、レクチン、リガンド受容体、及び酵素が挙げられる。特に別の物質と相互作用する活性を有するタンパク質に関する分析としては、周知の方法、例えば、ELISA、受容体結合アッセイ、及び酵素活性アッセイが挙げられる。
【0025】
特定のタンパク質−ポリマー複合材料に含めるために選択される生理活性タンパク質は、意図される材料の用途に依存しており、当業者であれば、1つ又は複数の適切な生理活性タンパク質を選択できるであろう。
【0026】
1つ又は複数のタイプの酵素を含むタンパク質−ポリマー複合材料は、本発明の実施態様に従って提供される。本明細書で用いられる「酵素」という語は、生化学反応を触媒する活性を有するタンパク質を一般に言うものである。酵素は、酵素番号(Enzyme Commission(EC) numbers)EC1オキシドレダクターゼ;EC2トランスフェラーゼ;EC3ヒドロラーゼ;EC4リアーゼ;EC5イソメラーゼ;又はEC6リガーゼとして規格化された命名法に従って一般に記載される。これらのカテゴリーのいずれかにおける酵素を、本発明の実施態様によるタンパク質−ポリマー複合材料に含めることができる。
【0027】
特定の実施態様では、含められる酵素は、ヒドロラーゼ、例えば、グルコシダーゼ、ペプチダーゼ、又はリパーゼである。特定のグルコシダーゼの限定的でない例としては、アミラーゼ、キチナーゼ、及びリゾチームが挙げられる。特定のペプチダーゼの限定的でない例としては、トリプシン、キモトリプシン、サーモリシン、スブチリシン、パパイン、エラスターゼ、及びプラスミノーゲンが挙げられる。リパーゼの限定的でない例としては、膵リパーゼ及びリポタンパク質リパーゼが挙げられる。
【0028】
生理活性タンパク質は、天然源、例えば、生理活性タンパク質を生成するか又は周知の化学的及び/又は組み換え手法を用いて合成できる有機体又は細胞から分離された商業的供給源から得ることができる。
【0029】
生理活性タンパク質は、複合材料組成物の合計質量の0.1〜50wt%の量で本発明の実施態様による複合材料中に含まれる。
【0030】
硬化手法は、従来の硬化性ポリマー組成物のために典型的に用いられるものである。
【0031】
本発明の方法の実施態様によって生成されるタンパク質−ポリマー複合材料は、任意選択で熱硬化性のタンパク質−ポリマー複合材料である。
【0032】
例えば、熱硬化は特定の実施態様において用いられる。熱重合開始剤は、任意選択で、本発明の実施態様による硬化性組成物中に含められる。熱重合開始剤としては、遊離基開始剤、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物が挙げられる。有機過酸化物の熱開始剤の例としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ジクミル、及び過酸化ラウリルが挙げられる。例示的なアゾ化合物の熱開始剤は2,2’−アゾビスイソブチロニトリルである。
【0033】
従来の硬化温度及び硬化時間を本発明の実施態様による方法において用いることができる。例えば、特定の温度又は特定の硬化条件下での硬化時間は、架橋剤の官能基が硬化前に存在する合計量の5%未満まで低減するという基準によって決定される。架橋剤の官能基は、FT−IR又は他の好適な方法によって定量的に特徴付けることができる。例えば、本発明のポリウレタンのタンパク質−ポリマー複合体のための特定の温度又は特定の硬化条件下での硬化時間は、架橋剤の官能基NCOが硬化前に存在する合計量の5%未満まで低減するという基準によって決定することができる。NCO基はFT−IRによって定量的に特徴付けることができる。特定の樹脂のための硬化の程度を評価するための追加の方法は当技術分野でよく知られている。
【0034】
硬化は、特定の実施態様において溶剤の蒸発を包含することができる。
【0035】
任意選択で、硬化性組成物は、化学線、例えば、紫外線、電子ビーム、マイクロ波、可視線、赤外線又はガンマ線にさらすことによって硬化される。
【0036】
本発明の方法のさらなる実施態様は、タンパク質−ポリマー複合材料、及び/又は有機溶剤とポリマー樹脂の混合物、水性生理活性タンパク質溶液、エマルション及び/又は硬化性組成物の特性を改質するための1つ又は複数の添加物の添加を含む。このような添加物の例としては、UV吸収剤、可塑剤、湿潤剤、防腐剤、界面活性剤、滑剤、顔料、充填剤、及びたわみ抵抗性を向上させるための添加物が挙げられる。
【0037】
上記のとおり、好ましい実施態様では、本発明の方法は、エマルションを生成するよう混合されるポリマー樹脂、界面活性剤及び非水性有機溶剤の混合物を含む。「界面活性剤」という語は、それが溶解される液体の表面張力を低下させるか、又は2つの液体の間若しくは液体と固体の間の界面張力を低下させる表面活性剤を言うものである。
【0038】
用いられる界面活性剤は、両性のシリコーン系フルオロ界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤、例えば、K.R.Lange,Surfactants:A Practical Handbook,Hanser Gardner Publications,1999;及びR.M.Hill,Silicone Surfactants,CRC Press,1999において記載されるものを含む種々の界面活性剤のいずれかであることができる。アニオン性界面活性剤の例としては、スルホン酸アルキル、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキル及びアルキルアリール二硫酸塩、スルホン化脂肪酸、ヒドロキシアルカノールの硫酸塩、スルホコハク酸エステル、ポリエトキシ化アルカノール及びアルキルフェノールの硫酸塩及びスルホン酸塩が挙げられる。カチオン性界面活性剤の例としては、第四級の界面活性剤及びアミンオキシドが挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、アルコキシレート、アルカノールアミド、ソルビトール又はマンニトールの脂肪酸エステル、及びアルキルグルカミドが挙げられる。シリコーン系界面活性剤の例としては、シロキサンポリオキシアルキレンコポリマーが挙げられる。
【0039】
本発明の方法の好ましい実施態様では、界面活性剤は意図的に水性生理活性タンパク質溶液に添加されず、水性生理活性タンパク質溶液は界面活性剤を実質的に含まない。「実質的に含まない」という語は、水性生理活性タンパク質溶液中に界面活性剤が完全に存在しないか又はほとんど完全に存在しないことを言うものである。
【0040】
本発明の実施態様による方法で用いられる成分は、程度の差は幾分ある場合があるが、本明細書で記載される量において用いられる。
【0041】
ポリマー樹脂又はポリマー樹脂の混合物は、1つ又は複数のポリマー樹脂、溶剤及び界面活性剤の混合物の約10〜90wt%の範囲の量で存在する。本発明の実施態様では、ポリマー樹脂又はポリマー樹脂の混合物は、混合物の約20〜60wt%の範囲の量で存在する。1つ又は複数のポリマー樹脂の希釈剤として用いられる溶剤は、混合物の約1〜50wt%の範囲の量で典型的に存在する。本発明の実施態様では、1つ又は複数のポリマー樹脂の希釈剤として用いられる溶剤は、混合物の約2〜30wt%の範囲の量で存在する。界面活性剤は、混合物の約0.1〜5wt%の範囲の量で典型的に存在する。本発明の実施態様では、1つ又は複数のポリマー樹脂の希釈剤として用いられる溶剤は、混合物の約0.2〜4wt%の範囲の量で存在する。
【0042】
ポリマー樹脂又はポリマー樹脂の混合物は、硬化性組成物の約10〜90wt%の範囲の量で存在する。本発明の実施態様では、ポリマー樹脂又はポリマー樹脂の混合物は、硬化性組成物の約20〜60wt%の範囲の量で存在する。1つ又は複数のポリマー樹脂の希釈剤として用いられる溶剤は、硬化性組成物の約1〜50wt%の範囲の量で典型的に存在する。本発明の実施態様では、1つ又は複数のポリマー樹脂の希釈剤として用いられる溶剤は、硬化性組成物の約2〜30wt%の範囲の量で存在する。1つ又は複数の架橋剤は、用いられる樹脂及び硬化法に応じて、硬化性組成物の約1〜30wt%の範囲の量で硬化性組成物中に存在する。
【0043】
界面活性剤が1つ又は複数のポリマー樹脂及び溶剤の混合物に添加される。
【0044】
特定の実施態様では、−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する非水性有機溶剤が本発明よる方法において使用される。本発明の実施態様では、−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する非水性有機溶剤は、ポリマー樹脂のための希釈剤、例えば、ポリマー樹脂の粘度を調整するための希釈剤として用いられる。
【0045】
「log P」という語は、物質の分配係数を言うものである。物質のlog Pは、[n−オクタノール中の物質の溶解度]/[水中の物質の溶解度]の比の常用対数である。多くの有機溶剤に関するlog P値は、例えば、Leo A、Hansch C及びElkins D(1971)の「Partition coefficients and their uses」,Chem Rev 71(6):526−616において記載されているとおり公知である。log P値はまた、例えば、Sangster,James(1997)のOctanol−Water Partition Coefficients:Fundamentals and Physical Chemistry,Vol.2 of Wiley Series in Solution Chemistry,Chichester:John Wiley & Sons Ltdにおいて記載されているように算出することができる。
【0046】
表1は、組み込まれた生理活性タンパク質の活性の保持及びポリアクリレートポリオール樹脂の適合性とlog P値の相関を示している。
【0047】
【表1】
【0048】
この関係は、溶剤型タンパク質−ポリマー複合材料中に組み込まれた生理活性タンパク質が広い範囲の溶剤において類似の初期比活性度を有することを示している。しかしながら、安定性の観点で、−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog P値を有する溶剤が本明細書に記載の方法において使用され、103℃での半減期によって示される最適な酵素安定性で以って溶剤型コーティング中への酵素の組み込みを可能にする。3.5以上のlog Pを有する溶剤、例えば、ヘキサン及びイソオクタンは、本発明の2成分溶剤型(2K SB)のポリマー−タンパク質複合体を製造する方法の実施態様において用いられるポリアクリレートポリオール樹脂と適合していない。
【0049】
本発明による方法の好ましい実施態様は−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する非水性有機溶剤の使用を含むが、これよりも低いか又は高いlog Pを有する溶剤もまた、それらが樹脂及び生理活性タンパク質と適合している場合には使用することができる。
【0050】
−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog P値を有する溶剤の限定的でない例としては、メチルエチルケトン(0.29)、酢酸エチル(0.7)、メチルイソブチルケトン(1.31)、酢酸ブチル(1.7)及び表2に記載の他の溶剤が挙げられる。
【0051】
−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する非水性有機溶剤は、ポリマー樹脂と適合しかつ本発明の方法において使用されるべき選択された架橋剤と実質的に反応しない任意のこのような溶剤であることができる。ポリアクリレートポリオールポリマー樹脂及びポリイソシアネート架橋剤と適合しない非水性有機溶剤の例は、脂肪族炭化水素並びにヒドロキシル基及び/又はアミノ基を有する非水性有機溶剤である。したがって、好ましい実施態様では、脂肪族炭化水素の非水性有機溶剤並びにヒドロキシル基及び/又はアミノ基を有する非水性有機溶剤は、本発明の方法において使用されるポリマー樹脂と適合しないとして除外される。
【0052】
【表2】
【0053】
タンパク質−ポリマー複合材料が、硬化性組成物が高温、例えば、複合体中に含まれるポリマー成分の硬化と適合する37℃を超える温度にさらされた場合に、生理活性タンパク質の活性を保持するということは本発明の驚くべき知見である。一般に、生理活性タンパク質を37℃を超える温度にさらすことは、例えば、タンパク質の変性のために生物活性の損失の要因になると考えられている。理論によって束縛されることを意図するものではないが、硬化性組成物を37℃を超える温度にさらすことは、生理活性タンパク質及びポリマー又は架橋剤の共有結合を増加及び/又は促進させると考えられる。酵素は、そのプロセスを妨げる方法が提供されない場合には、高温で変性する傾向があることが知られている。しかしながら、本明細書の実施例で記載される80℃などの高温における30分間の硬化プロセスは、組み込まれた酵素の活性に関して大きな影響を及ぼさず、このことは、高温でより速く形成されるポリマーマトリクスが多点連鎖及び閉じ込めを介して組み込まれた酵素の安定化に寄与することを示している。高温での不利な溶剤のより速い蒸発速度もまた、酵素の活性の保持に寄与する場合がある。
【0054】
したがって、特定の実施態様では、硬化性組成物は、硬化された組成物からの生理活性タンパク質の浸出を低下させるのに十分な時間にわたり37℃を超える温度にさらされる。浸出は、周知の方法、例えば、本明細書の実施例において記載される方法によって測定される。
【0055】
図2は、生理活性タンパク質及びポリマー又は架橋剤の共有結合による並びにタンパク質の物理的な捕捉による生理活性タンパク質の組み込みの概略図である。
【0056】
タンパク質−ポリマー複合材料は、2成分の溶剤型ポリマー樹脂中に分散された生理活性タンパク質を含む本発明の実施態様に従って提供される。タンパク質−ポリマー複合材料の実施態様では、タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズは10μm以下(平均直径)であり、例えば、1nm〜10μm(1nmと10μmを含む)の範囲である。
【0057】
特定の実施態様では、本発明に従って製造されるタンパク質−ポリマー複合材料はタンパク質−ポリウレタン複合材料である。
【0058】
本明細書に記載の方法によって形成される硬化性組成物は、本発明の実施態様によるタンパク質−ポリマー複合材料の生物活性コーティングを形成するために基材に適用される。
【0059】
典型的には、コーティングは、乾燥した場合に約1〜500μmの範囲の厚さを有するコーティングを製造するよう適用されるが、所望の用途に応じてより厚い又はより薄いコーティングを使用することができる。
【0060】
硬化性組成物の適用は、例示としてスプレーコーティング、ディップコーティング、フローコーティング、ローラーコーティング、及びブラシコーティングを含む種々の方法のいずれかによって達成される。
【0061】
基材は、コーティングが有利に適用される種々の基材のうちのいずれかである。例えば、基材はシート材料である。さらなる例では、基材は自動車部品、例えば、車体パネルである。
【0062】
本発明による使用のための基材としては、特に限定されないが、金属基材、シリカ基材、プラスチック基材、及びガラス基材が挙げられる。
【0063】
基材は、任意選択で、コーティング、例えば、プライマー、プライマーサーフェーサー、プライマーシーラー、ベースコート、接着促進層;又はそれらの若しくは他の表面処理コーティングの任意の組み合わせを含む。
【0064】
本発明の実施態様によるタンパク質−ポリマー複合材料の生物活性コーティングは、基材に対する優れた接着、環境障害に対する保護、腐食に対する保護を提供し、生理活性タンパク質の生物活性特性をさらに提供する。したがって、本発明の実施態様によるタンパク質−ポリマー複合材料の生物活性コーティングは、多数の用途、例えば、酵素のための基材、又は受容体、抗体若しくはレクチンのためのリガンドである検体の検出において有用な基材上に酵素活性を提供する。特定の実施態様では、生物活性コーティングは、汚れ生成材料の1つ又は複数の成分の酵素消化によって汚れに対する抵抗性を提供する。
【0065】
本発明の実施態様が以下の実施例において説明される。これらの実施例は例示を目的として与えられるものであり、本発明の範囲を限定するものとしてみなされるべきではない。
【実施例】
【0066】
[実施例1−溶剤型(SB)ポリウレタン(PU)コーティングを製造するための酵素溶液の直接的な分散]
典型的な調製において、まず、酵素を最大200mg/mlの濃度でDI水中に溶解した。幾つかの酵素、例えば、多量の不純物を含むα−アミラーゼ(Amano Enzyme社からのKLEISTASE SD80)に関して、コーティングの調製のための使用前に濾過又は遠心分離が不溶性の固形物を除去するのに必要であった。ヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂(Bayer社からのDesmophen A 870 BA2.1g)を選択された溶剤で2:1の質量比において希釈し、次いで、20mlのガラス製小びんにおいてシリコーン界面活性剤のポリエーテル改質ポリジメチルシロキサン(n−ブタノール中BYK 333溶液(17wt%)0.1ml)及び酵素溶液(0.6ml)とともに1分間混合し、続いてDesmodur N 3600(Bayer社)のヘキサメチレンジイソシアネート0.8gを添加し、さらに1分間混合した。混合した組成物を予備洗浄したアルミニウムの試験パネル上にドローダウン塗布器を用いて適用することによりコーティングを形成し、それをまず80℃で30分間、次いで室温で1週間硬化した。
【0067】
[実施例2−天然の及び組み込まれた酵素に関する活性アッセイ]
α−アミラーゼの活性は、でんぷんの酵素触媒分解から放出された糖(主としてマルトース)の検出に基づいて比色分析により測定した。まず、6.7mMの塩化ナトリウムを含有する20mM、pH6.9のリン酸ナトリウム緩衝液中にジャガイモでんぷんを溶解することにより基質溶液を調製した。典型的なアッセイでは、α−アミラーゼ溶液の10μlアリコートを1mlの基質溶液とともに室温で3分間温置した。続いて、3,5−ジニトロサリチル酸溶液1mlを添加した。反応は、沸騰水中に反応小びんを15分間温置し、続いて氷浴において冷却することにより停止した。還元糖の相当量を540nmでの吸光度変化によって決定した。α−アミラーゼの活性の一単位は、25℃、pH6.9、3分においてでんぷんから放出された還元糖(マルトースに対して先に測定された基準曲線から算出される)1.0mgとして規定した。
【0068】
タンパク質−ポリマー複合材料のコーティングにおけるα−アミラーゼの活性を、実施例1で調製したα−アミラーゼでコーティングした1つの試料パネル(1.2×1.9cm2)を酵素溶液の代わりに使用したこと以外は同様にして決定した。すべての活性試験の前に、コーティングは、物理的に吸収された酵素を除去するために少なくとも5回にわたりDI水で十分にリンスした。リンス溶液を回収し、リンス溶液中のタンパク質の含有量をコーティング中のタンパク質充填量を算出するためのブラッドフォード試薬により決定し、α−アミラーゼ含有SB PUコーティングの場合に約50μgタンパク質/cm2であった。
【0069】
サーモリシンのタンパク質分解活性は以下のようにして決定した。リン酸ナトリウム緩衝液(0.05M、pH7.5)中0.65%(w/v)のカゼイン溶液を試験用基質として使用した。天然サーモリシンに関して、酵素溶液200μlを37℃で10分間にわたり基質溶液1mlとともに温置した。反応は、110mMのトリクロロ酢酸(TCA)溶液1mlを添加して停止し、TCA可溶性成分中のチロシン相当量をフォーリンチオカルト試薬を用いて660nmで決定した。活性の一単位は、37℃で1分当たり1.0μmolのチロシンに相当する吸光度を得るためのカゼインを加水分解する酵素の量として規定する。コーティング中のサーモリシンの活性を、実施例1で調製したサーモリシンでコーティングした1つの試料プレート(1.2cm×1.9cm)を天然酵素溶液の代わりに使用したこと以外は同様にして決定した。すべての活性試験の前に、コーティングは、物理的に吸収された酵素を除去するために少なくとも5回にわたりDI水で十分にリンスした。
【0070】
[実施例3−アミラーゼ含有SB PUコーティングの表面活性に関する溶剤タイプの効果]
酵素溶液の添加前にアセトン(−0.23)、メチルエチルケトン(0.29)、酢酸エチル(0.7)、メチルイソブチルケトン(1.31)、酢酸ブチル(1.7)、トルエン(2.7)、ヘキサン(3.5)又はイソオクタン(4.5)を含む様々なlog P値を有する溶剤を使用して樹脂を希釈したこと以外は、α−アミラーゼ含有SB PUコーティングを実施例1において記載したのと同じ手順に従って調製した。得られたコーティングの表面活性及び安定性の観点での性能を評価して表1にまとめた。初期の表面活性に関してはあまり影響が見られなかったが、溶剤のタイプは酵素の安定性に影響を及ぼしている。例えば、−0.23〜1.7の範囲のlog P値では、組み込まれたα−アミラーゼの103℃における半減期は一貫して向上した。しかしながら、希釈溶剤としてトルエン(log P=2.5)を用いた場合には、それは大きく低下した。
【0071】
[様々な温度での天然の及び組み込まれたα−アミラーゼの熱安定性(比較研究)]
実施例1と同様にして調製したα−アミラーゼに基づく生物活性コーティングの熱安定性を、室温(23℃)から120℃の極めて高い温度までの特定の温度において決定した。重力オーブン(gravity oven)におけるエージングの特定期間の後、酵素を含まない試料と酵素含有コーティングの活性を実施例2と同様にして評価した。40、83、100及び120℃の様々な高温における天然の及び組み込まれたα−アミラーゼの熱安定性をそれぞれ図3及び4に示す。天然酵素と比較すると、SB PUコーティング中に組み込まれた酵素の耐熱性は非常に向上していた。組み込まれたα−アミラーゼの推定の半減期は、83、100及び120℃で約460、200、31時間であったのに対し、束縛を受けない非結合の天然同等物の半減期は、それぞれ約50、19、1時間であった。図4に示される40℃などの比較的低い温度で温置する間は、組み込まれた酵素に関する活性の大きな損失は観測されず、推定の半減期は660日もの長さである。
【0072】
SBコーティング中の酵素は、水性(WB)コーティングと比較して酵素分子に対してより優れた保護を与えた。α−アミラーゼ含有コーティングを含む2K WB PUコーティングを以下のようにして調製した。まず、Bayhydrol XP 7093(Bayer社)のポリエステル樹脂1.5gを等体積の酵素溶液(20mg/ml)及び界面活性剤BYK 333(1−ブタノール中17%w/v)0.36mlと混合してA部分を形成し、それをB部分の硬化剤−水分散性ジイソシアネート(Bayer社からのBayhydrol 302、0.6g)に添加した。1分間混合した後、コーティングを調製し、SBコーティングに関して実施例1で記載したのと同じ手順に従って硬化した。図5に示すように、SB PUコーティング中に組み込まれた酵素が3月後に85%を超える相対活性を保持していたのに対し、水性(WB)PUコーティング中の酵素は一定の活性低下を示し、半減期が約50日であった。
【0073】
[実施例5−SB−PUコーティング中の酵素分布]
実施例1に記載されるよう調製したSB PUコーティング中のα−アミラーゼの分布は、蛍光染料標識及び共焦点レーザー走査顕微鏡法(CLSM)を用いて特性評価した。酵素含有コーティングは、5μMのOregon Green 488 Maleimide(マレイミド)中で暗い所において4℃で16時間染色され、次いでpH7のリン酸塩緩衝剤により室温で2時間リンスされた。顕微鏡上に試料を載せた場合にProlong Goldの退色防止剤を使用した。対照標準として、酵素なしのコーティングを調製し、同じ手順に従って実験した。画像は63倍の水浸対物レンズを用いて撮影した。励起及び最大放出波長は、それぞれ488nm及び524nmであった。図6に示すように、酵素分子は、1μm未満から数μmの範囲のサイズを有する小粒子の形態でコーティング中に分散されていた。
【0074】
本明細書において言及したすべての特許文献又は刊行物は、それぞれの個々の刊行物がその参照により含められることを具体的にかつ個々に示したのと同程度にその参照により本明細書に含められるものとする。
【0075】
本明細書に記載の組成物及び方法は、現在の好ましい実施態様の代表的なもの、例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。当業者であればそれらの変更及び他の用途を思い付くであろう。このような変更及び他の用途は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなくなしうるものである。
図1A
図1B
図3
図4
図5
図2
図6
【手続補正書】
【提出日】2015年9月25日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0075
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0075】
本明細書に記載の組成物及び方法は、現在の好ましい実施態様の代表的なもの、例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。当業者であればそれらの変更及び他の用途を思い付くであろう。このような変更及び他の用途は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱することなくなしうるものである。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[23]に記載する。
[1]
ポリマー樹脂、界面活性剤、及び非水性有機溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質を含有する水性溶液であって、界面活性剤を実質的に含まない水性溶液を前記混合物と混合してエマルションを生成する工程、
該エマルションを架橋剤と混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
該硬化性組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含む、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
[2]
前記ポリマー樹脂がヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂である、項目1に記載の方法。
[3]
前記架橋剤がポリイソシアネートである、項目2に記載の方法。
[4]
前記生理活性タンパク質が酵素である、項目1に記載の方法。
[5]
前記生理活性タンパク質が、レクチン、抗体、及び受容体からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
[6]
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
[7]
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、項目1に記載の方法。
[8]
ヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂、界面活性剤、及び−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質を含有する水性溶液であって、界面活性剤を実質的に含まない水性溶液を前記混合物と混合してエマルションを生成する工程、
該エマルションをポリイソシアネート架橋剤と混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
重合可能な組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含む、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
[9]
前記生理活性タンパク質が酵素である、項目8に記載の方法。
[10]
前記生理活性タンパク質が、レクチン、抗体、及び受容体からなる群より選択される、項目8に記載の方法。
[11]
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、項目8に記載の方法。
[12]
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、項目8に記載の方法。
[13]
前記硬化性組成物を硬化する前に該硬化性組成物を基材に適用する工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
[14]
ポリマー樹脂及び非水性有機溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質を含有する水性溶液であって、界面活性剤を実質的に含まない水性溶液を前記混合物と混合して第1の成分を生成する工程、
架橋剤を含む第2の成分を用意する工程、
前記第1の成分と前記第2の成分を混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
該硬化性組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含む、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
[15]
前記硬化が熱硬化を含む、項目14に記載の方法。
[16]
前記硬化が化学線を用いた硬化を含む、項目14に記載の方法。
[17]
前記生理活性タンパク質が酵素である、項目14に記載の方法。
[18]
前記生理活性タンパク質が、レクチン、抗体、及び受容体からなる群より選択される、項目14に記載の方法。
[19]
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、項目14に記載の方法。

[20]
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、項目14に記載の方法。
[21]
前記硬化性組成物を硬化する前に該硬化性組成物を基材に適用する工程をさらに含む、項目14に記載の方法。
[22]
2成分の溶剤型ポリマー樹脂中に分散された生理活性タンパク質を含むタンパク質−ポリマー複合材料であって、該タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、タンパク質−ポリマー複合材料。
[23]
前記タンパク質−ポリマー複合材料中の生理活性タンパク質粒子の平均粒子サイズが10μm以下(平均直径)である、項目22に記載のタンパク質−ポリマー複合材料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー樹脂、界面活性剤、及び−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する非水性有機溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質としてヒドロラーゼを含有する水性溶液であって、界面活性剤を含まない水性溶液を前記混合物と混合してエマルションを生成する工程、
該エマルションを架橋剤と混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
該硬化性組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含み、前記ポリマー樹脂がヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂であり、前記架橋剤がポリイソシアネートである、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
【請求項2】
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質−ポリマー複合材料中のヒドロラーゼ粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
重合可能な組成物を硬化する工程が37℃を超える温度において行われ、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記硬化性組成物を硬化する前に該硬化性組成物を基材に適用する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ポリマー樹脂及び−0.5〜2(−0.5と2を含む)の範囲のlog Pを有する非水性有機溶剤の混合物を用意する工程、
生理活性タンパク質としてヒドロラーゼを含有する水性溶液であって、界面活性剤を含まない水性溶液を前記混合物と混合して第1の成分を生成する工程、
架橋剤を含む第2の成分を用意する工程、
前記第1の成分と前記第2の成分を混合して硬化性組成物を生成する工程、及び
該硬化性組成物を硬化し、それによってタンパク質−ポリマー複合材料を生成する工程
を含み、前記ポリマー樹脂がヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂であり、前記架橋剤がポリイソシアネートである、タンパク質−ポリマー複合材料の調製方法。
【請求項7】
前記硬化が熱硬化を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記硬化が化学線を用いた硬化を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
1つ又は複数の添加物を、前記混合物、前記水性溶液、前記エマルション、及び前記硬化性組成物のうち少なくとも1つに添加する工程をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質−ポリマー複合材料中のヒドロラーゼ粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記硬化性組成物を硬化する前に該硬化性組成物を基材に適用する工程をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
2成分の溶剤型ポリマー樹脂中に分散された生理活性タンパク質としてヒドロラーゼを含むタンパク質−ポリマー複合材料であって、該タンパク質−ポリマー複合材料中のヒドロラーゼ粒子の平均粒子サイズが10μm以下(平均直径)であり、前記ポリマー樹脂がヒドロキシルで官能基化されたアクリル樹脂である、タンパク質−ポリマー複合材料。
【請求項13】
前記タンパク質−ポリマー複合材料中のヒドロラーゼ粒子の平均粒子サイズが1nmと10μmを含む1nm〜10μm(平均直径)の範囲である、請求項12に記載のタンパク質−ポリマー複合材料。
【外国語明細書】
2015232142000001.pdf