特開2015-232164(P2015-232164A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-232164転がり軸受の製造方法及び熱処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-232164(P2015-232164A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】転がり軸受の製造方法及び熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/34 20060101AFI20151201BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 9/40 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 1/74 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 1/773 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20151201BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20151201BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20151201BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20151201BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20151201BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20151201BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20151201BHJP
   C22C 38/18 20060101ALN20151201BHJP
【FI】
   C23C8/34
   C21D1/06 A
   C21D9/40 A
   C21D9/40 B
   C21D1/74 P
   C21D1/773 D
   C21D1/18 P
   C21D1/76 M
   F16C33/32
   F16C33/34
   F16C33/64
   F16C33/62
   C22C38/00 301N
   C22C38/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-119698(P2014-119698)
(22)【出願日】2014年6月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100192474
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 健次
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(72)【発明者】
【氏名】張 冕
【テーマコード(参考)】
3J701
4K042
【Fターム(参考)】
3J701AA01
3J701BA02
3J701BA09
3J701BA10
3J701BA52
3J701BA69
3J701BA70
3J701DA02
3J701EA02
3J701EA10
3J701FA31
3J701FA41
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB34
3J701XE01
3J701XE03
3J701XE11
3J701XE12
3J701XE16
3J701XE30
4K042AA22
4K042BA02
4K042BA03
4K042BA04
4K042BA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC04
4K042DF01
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】転がり軸受を製造するための熱処理において、過剰浸炭組織の発生を抑えるとともに、表面の炭素濃度等を良好に制御して長寿命の転がり軸受を製造する。
【解決手段】軌道輪または転動体の形状に加工した鋼材を、真空浸炭処理した後、窒素を拡散させる第1の拡散処理を行い、更に浸炭ガスとアンモニアガスを用いて第2の拡散処理を行った後、焼入れ・焼き戻しを行い、表面の炭素濃度、窒素濃度、硬さ及び残留オーステナイト量、表面から転動体直径の1%に相当する深さまでの領域における炭化物、窒化物及び炭窒化物が占める合計面積率、粒径0.5μm以下の炭化物、窒化物及び炭窒化物が占める割合をそれぞれ特定値とする。また、そのための熱処理装置は、真空浸炭室、第1拡散室、第2拡散室、冷却処理室及び前記各処理室間にワークを搬送するためのキャリアを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受の軌道輪または転動体の形状に加工した鋼材を、真空浸炭処理した後、窒素を拡散させる第1の拡散処理を行い、更に浸炭ガスとアンモニアガスを用いて第2の拡散処理を行った後、焼入れ・焼き戻しを行い、
質量%で、表面炭素濃度を0.9〜1.3%、表面窒素濃度を0.05〜0.30%、表面炭素濃度と表面窒素濃度の合計濃度を1.0〜1.5%とし、
表面硬さをHV697〜800とし、
表面残留オーステナイト量を20〜40体積%とし、
運転時に相手面と転がり接触する面の、表面から転動体直径の1%に相当する深さまでの領域における炭化物、窒化物及び炭窒化物が占める合計面積率を10〜30%とし、かつ、粒径0.5μm以下の炭化物、窒化物及び炭窒化物が当該領域の80%以上を占めるように分散析出させる工程を含むことを特徴とする転がり軸受の製造方法。
【請求項2】
請求項1の転がり軸受の製造方法を実施するための熱処理装置であって、
真空浸炭室、第1拡散室、第2拡散室、冷却処理室及び前記各処理室間にワークを搬送するためのキャリアを備えることを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受を製造する方法、並びに前記方法を実施するための熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受では、高い表面硬度が求められる一方で、芯部には所定の靭性を有することが求められている。そのため、低炭素量の鋼材を部品形状に加工した後、浸炭焼入れ、浸炭窒化焼入れ等の表面硬化処理を行っている。
【0003】
従来では、浸炭の手法として主にガス浸炭が用いられているが、浸炭処理の時間が長く生産効率が低いという問題がある。また、真空浸炭も採用されており、浸炭が施される部材の表面において、この部材を構成する鋼に対する炭素の固溶限度と同濃度の炭素濃度が維持されながら浸炭が進行する。そのため、ガス浸炭に比べて部材表面に高い炭素濃度で浸炭が進行する。更に、高処理温度で拡散が早くなるため、浸炭時間を大幅に短縮することもできる。しかし、炭化物を形成する傾向の強い元素、例えばクロムを含む鋼からなる部材に対して真空浸炭を行うと、特に部材の角部において巨大な初析炭化物からなる過剰浸炭組織が形成されることがある。過剰浸炭組織は、浸炭された部材の機械的性質を低下させるため、真空浸炭処理で製造された浸炭部材でしばしば問題となり、軸受では、耐衝撃性や耐表面疲労性等が低下するという問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1では、鋼を減圧雰囲気下で浸炭ガスにより浸炭する浸炭処理と、非酸化性の炭素化合物ガスを含む脱炭ガスにより浸炭された鋼を脱炭する脱炭処理とを行うことで、表面の炭素濃度が制御された鋼材を製造することを提案している。しかしながら、浸炭処理後に脱炭処理を行う手法では、表面の脱炭と、内部への拡散とを同時に制御し、目的とする炭素濃度勾配を形成するのが困難であった。
【0005】
また、特許文献2では、加熱室内のワークを窒素雰囲気中で所定の浸炭温度まで加熱した後、加熱室内を減圧するとともに、鎖状不飽和炭化水素ガスを継続的に供給して加熱室内の圧力を変動させながら浸炭することを提案している。しかしながら、このようなパルス式の浸炭処理を行っても、表面炭素濃度の均一化と、炭化物の析出防止とを同時に実現するのは困難であった。
【0006】
また、特許文献3では、炭化水素系ガスが導入される密封容器内で、角部が他の部分よりも低い温度となるように鋼部品を加熱し、加熱された鋼部品に炭化水素系ガスを接触させて分解反応を起こし、この分解反応により形成した炭素を鋼部品の表層部に侵入させることにより、角部の過剰浸炭組織をコントロールすることを提案している。ここでは、鋼部品の加熱に高周波加熱またはレーザ加熱を用いて角部以外を選択的に加熱し、周辺からの伝熱により角部を加熱しているが、鋼部品内の温度勾配をコントロールするのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5233258号公報
【特許文献2】特許第4169884号公報
【特許文献3】特開2009−114480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、転がり軸受を製造するための熱処理において、過剰浸炭組織の発生を抑えるとともに、表面の炭素濃度等を良好に制御して、長寿命の転がり軸受を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は下記の転がり軸受の製造方法及び熱処理装置を提供する。
(1)転がり軸受の軌道輪または転動体の形状に加工した鋼材を、真空浸炭処理した後、窒素を拡散させる第1の拡散処理を行い、更に浸炭ガスとアンモニアガスとを用いて第2の拡散処理を行った後、焼入れ・焼き戻しを行い、
質量%で、表面炭素濃度を0.9〜1.3%、表面窒素濃度を0.05〜0.30%、表面炭素濃度と表面窒素濃度の合計濃度を1.0〜1.5%とし、
表面硬さをHV697〜800とし、
表面残留オーステナイト量を20〜40体積%とし、
運転時に相手面と転がり接触する面の、表面から転動体直径の1%に相当する深さまで領域における炭化物、窒化物及び炭窒化物が占める合計面積率を10〜30%とし、かつ、粒径0.5μm以下の炭化物、窒化物及び炭窒化物が当該領域の80%以上を占めるように分散析出させる工程を含むことを特徴とする転がり軸受の製造方法。
(2)請求項1の転がり軸受の製造方法を実施するための熱処理装置であって、
真空浸炭室、第1拡散室、第2拡散室、冷却処理室及び前記各処理室間にワークを搬送するためのキャリアを備えることを特徴とする熱処理装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明法によれば、過剰浸炭組織の発生を抑えるとともに、表面の炭素濃度等を良好に制御して耐摩耗性や耐疲労強度を向上させ、長寿命の転がり軸受を製造することができる。また、本発明の熱処理装置を用いることにより、短時間で低コストの処理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の熱処理装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の熱処理パターンを示す図である。
図3】真空浸炭後の炭素の濃度勾配を示すグラフである。
図4】第1拡散工程後の炭素及び窒素の各濃度勾配を示すグラフである。
図5】第2拡散工程後の炭素及び窒素の各濃度勾配を示すグラフである。
図6】スラスト寿命試験片を示す上面図及び側面図である。
図7】スラスト寿命試験機を示す概略図である。
図8】炭化物と窒化物の合計面積率と、寿命比との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に関して図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明では、図1に示す構成の熱処理装置を用いる。図示されるように、真空浸炭室、第1拡散室、第2拡散室及び冷却室を備えており、各処理室はキャリアで連結されている。そして、軌道輪や転動体の形状に加工された鋼材(ワーク)は、真空浸炭室→第1拡散室→第2拡散室→冷却室へと搬送される。また、熱処理パターンを図2に示す。
【0014】
先ず、所定の処理温度(1000〜1100℃)に保持した真空浸炭室にワークを送り、減圧条件で均熱した後、真空浸炭する。浸炭処理は、処理温度にて、浸炭ガスとして炭化水素系ガス(例えばメタン、プロパン、エチレン、アセチレン等)を直接炉内に供給して行う。浸炭ガスがワークの表面に接触して分解する活性な炭素によって、ワークの表面に炭化物が形成され、浸炭の進行につれて炭化物が部分的に分解し、炭素がγ鉄(オーステナイト)に固溶して内部へと拡散していく。この真空浸炭処理後のワークの炭素の濃度勾配は、図3のようになる。
【0015】
ワークの表面に、未分解の炭化物が形成した過剰浸炭組織が存在すると、軸受の耐荷重、耐表面疲労等の特性を低下させる原因となる。そこで、真空浸炭処理の後にワークを第1拡散室に送り、窒素を拡散浸透させることにより、ワークの表層に発生した過剰浸炭組織を分解して炭素をワーク内部に拡散させる(第1の拡散処理)。
【0016】
炭素原子と窒素原子は、共に鋼に対する侵入型の拡散原子である。炭素原子と窒素原子は、格子間位置の中でも安定なクロム原子近傍の格子間位置を占めようとするが、炭素原子よりも窒素原子の方がクロム原子との親和性が強いため、この窒化処理の進行によって鋼中の窒素量が多くなると、拡散してきた窒素原子がクロム原子近傍の炭素原子を追い出し、代わりにこの安定位置を占めてしまう。そして、追い出された炭素原子は、窒素濃度の低い、より深い領域に移動して内部に炭素の濃化領域を形成する。以上は、Push-ahead現象とも呼ばれている。
【0017】
本発明では、真空浸炭処理後の第1の拡散処理により窒素を浸透拡散させ、ワーク表面のγ鉄中の炭素濃度を固溶限濃度よりも低くすることによって、真空浸炭処理で形成された過剰浸炭組織の分解が加速され、そこに含まれる炭素が素早くγ鉄中に溶け込むようにする。従って、この第1の拡散処理は、過剰浸炭組織の分解をより早めるために、窒素ポテンシャルを高く維持し、窒素をワークの表面に早く浸透拡散させる必要がある。そのためには、処理ガスであるアンモニアガスの流量を高めることが好ましく、(NH流量/被処理面積)比で0.1L/min・m以上、保持温度820〜900℃にて窒化処理することが好ましい。尚、第1の拡散処理後のワークの炭素及び窒素の各濃度勾配は図4のようになる。
【0018】
また、軸受により高い耐久性を付与するために、表面の炭素濃度及び窒素濃度、更には両濃度勾配を調整するために、第1の拡散処置の後に、ワークを第2拡散室へと素早く送って第2の拡散処理を行う。即ち、表面炭素濃度を0.9〜1.3質量%、好ましくは1.0〜1.3質量%、表面窒素濃度を0.05〜0.30質量%、好ましくは0.05〜0.2質量%、表面炭素濃度と表面窒素濃度の合計濃度を1.0〜1.5質量%、好ましくは1.1〜1.4質量%となるように、第2拡散室を大気圧、900〜1050℃にて、浸炭ガスとアンモニアガスとの流量比を調整して供給し、所定時間保持する。
【0019】
更に、炭化物、窒化物及び炭窒化物を微細化するために、上記保持後、同温度にてアンモニアガスを(NH/被処理面積)比で0.1L/min・m以上流すことが好ましい。
【0020】
この第2の拡散処置後のワークの炭素及び窒素の各濃度勾配は、図5のようになる。
【0021】
その後、ワークを第2拡散室から冷却室に素早く輸送し、室温まで冷却する。
【0022】
最後に、ワークに焼入れ・焼戻しを施して軸受として必要な硬さ、ミクロ組織、残留オーステナイト量、結晶粒径等を調整する。焼入れ温度は820〜860℃、焼戻し温度は160〜180℃が適当である。本発明では、この焼入れ・焼戻し処理により、表面硬さをHV697〜800、好ましくはHV720〜800とし、表面残留オーステナイト量を20〜40体積%、好ましくは25〜40体積%とする。更には、運転時に相手面と転がり接触する面の、表面から転動体直径の1%に相当する深さまでの領域における炭化物、窒化物及び炭窒化物が占める合計面積率を10〜30%、好ましくは15〜25%とし、粒径0.5μm以下の炭化物、窒化物及び炭窒化物が当該領域の80%以上、好ましくは85%以上を占めるようにする。
【0023】
このような表面性状にすることにより、後述する実施例にも示すように、長寿命の転がり軸受が得られる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0025】
(実施例1〜6、比較例1〜9)
表1に示す鋼材を溶製し、下記のスラスト試験用の試験片形状に機械加工した後、表2及び表3に示す条件にて熱処理を施して供試体を得た。得られた供試体の品質及び寿命比を表4に示す。尚、寿命比は、比較例9の転がり寿命(L10)に対する相対値である。
【0026】
<スラスト試験>
試験片は、図6に示すように、厚みが6.3mm、外径がφ60.3mmで、中心部にφ5.5mmの穴が開いたディスクを、表2及び表3に示す条件にて熱処理した後、ラッピング処理したものである。そして、図7に示すスラスト寿命機にこの試験片(図中、スラストTP)を装着し、その上に保持器で保持した6個の転動体を載せ、その上に上レースを載せた。即ち、試験片と上レースとで転動体を挟んだ状態とし、その状態で試験片と転動体との間に下記接触応力が加わるように、転動体を図中上向きに押圧した。そして、硬さ870HVで74〜147μmの大きさの鋼粉13.5mgを投入し、その状態で回転治具を高速回転させ、試験片が圧痕や表層のめくれ等により壊れるまでの寿命を測定し、全体の10%が破壊する負荷回数L10にて疲労強度を評価した。尚、条件は以下の通りである。
・試験片:φ60.3(外径)−φ5.5(穴径)×6.3(厚み)mmのディスクを熱処理後、ラッピング加工(鏡面加工)
・転動体:3/8インチSUJ2ボール6個
・接触応力:Pmax=5.5GPa
・負荷回転速度:1000min−1
・潤滑:タービン油#68 油槽給油
・鋼粉:硬さ870HV、74〜147μm、13.5mg
・温度:常温
・評価:L10(10%が破壊する負荷回数)
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
表4に示すように、真空浸炭、第1の拡散処置、第2の拡散処理及び焼入れ・焼戻しにて熱処理を行い、表面品質を満足する実施例1〜6では、微細な炭化物、窒化物及び炭窒化物が多量に生成しており、表面硬さが高く、適量の残留オーステナイトを有するため、比較例に比べて転がり寿命が大幅に向上している。
【0032】
これに対し比較例1では、第1の拡散処理の温度が低かったため、窒素の拡散が遅くなり、初析炭化物の分解が不完全であった。その結果、転動体刑の1%に相当する深さの領域における粒径0.5μm以下の炭化物、窒化物及び炭窒化物の比率(以下、「0.5μm以下の比率」)、残留オーステナイト量が本発明の範囲を下回り、転がり寿命が短くなっている。
【0033】
比較例2では、第1の拡散処理の温度が高すぎたため、内部に浸透拡散してきた窒素量が多くなりすぎ、その結果表面残留オーステナイト量が本発明の範囲よりも多くなり、表面硬さが低下して転がり寿命が短くなっている。
【0034】
比較例3では、第1の拡散処理のアンモニアガス流量が少なかったため、窒素ポテンシャルが低く、表面への窒素の浸透が遅くなり、表面窒素濃度が低下して残留オーステナイト量も少なくなっている。更に巨大な初析炭化物の分解が不十分であったため、0.5μm以下の比率が本発明の範囲を下回り、転がり寿命が短くなっている。
【0035】
比較例4では、第2の拡散処理の温度が低かったため、炭素及び窒素の拡散速度が遅くなり、炭化物、窒化物、炭窒化物の微細化が不十分であり、0.5μm以下の比率が本発明の範囲を下回り、転がり寿命が短くなっている。
【0036】
比較例5では、第2の拡散処理の温度が高すぎたため、アンモニアガスの分解が早く、窒素ポテンシャルが低かったため、表面窒素濃度が低下し、残留オーステナイ量も少なかった。その結果、圧痕による表面はく離が発生しやすくなり、転がり寿命が低くなっている。
【0037】
比較例6では、第2の拡散処理のアンモニアガスの流量が低く、比較例5と同様に窒素ポテンシャルが低かったため、表面窒素濃度が低下し、残留オーステナイ量も少なかった。その結果、圧痕による表面はく離が発生しやすくなり、転がり寿命が低くなっている。
【0038】
比較例7では、第2の拡散処理後に表面炭素濃度の調整を行い、表面炭素濃度を本発明の範囲よりも高くした。その結果、試験片の表面硬さが高くなり、0.5μm超の大きな炭化物が増加し、0.5μm以下の比率が低下して転がり寿命が低くなっている。
【0039】
比較例8では、第2の拡散処理後に表面炭素濃度を調整し、表面炭素濃度を本発明の範囲よりも低くした。その結果、試験片の表面硬さが低くなったため、圧痕寸法が大きくなり、転がり寿命が低くなっている。
【0040】
比較例9では、真空浸炭後に第1の拡散処理と第2の拡散処理を実施せず、直接焼入れ・焼戻しを行ったため、表面に巨大な初析炭化物が形成された。その結果、早期はく離が発生し、転がり寿命が低下している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8