特開2015-232182(P2015-232182A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-232182(P2015-232182A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金線
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20151201BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20151201BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20151201BHJP
   C22F 1/02 20060101ALN20151201BHJP
【FI】
   C22C21/00 A
   C22F1/04 H
   C22F1/00 602
   C22F1/00 625
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630B
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 661A
   C22F1/00 681
   C22F1/00 686A
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 691Z
   C22F1/00 604
   C22F1/00 627
   C22F1/00 630G
   C22F1/00 683
   C22F1/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-148326(P2015-148326)
(22)【出願日】2015年7月28日
(62)【分割の表示】特願2011-538458(P2011-538458)の分割
【原出願日】2010年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-251365(P2009-251365)
(32)【優先日】2009年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】草刈 美里
(72)【発明者】
【氏名】西川 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】中井 由弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 義幸
(72)【発明者】
【氏名】大塚 保之
(57)【要約】
【課題】屈曲特性、強度、電気伝導性に優れるアルミニウム合金線、アルミニウム合金撚り線、上記合金線や撚り線を具える被覆電線、この被覆電線を具えるワイヤーハーネス及び上記アルミニウム合金線の製造方法、上記被覆電線の製造方法を提供する。
【解決手段】導体に利用されるアルミニウム合金線であって、質量%で、Mgを0.1%以上1.5%以下、Siを0.03%以上2.0%以下、Cuを0.05%以上0.5%以下含有し、残部がAl及び不純物からなり、前記Mg及びSiの質量比Mg/Siが0.8≦Mg/Si≦3.5を満たし、導電率が35%IACS以上58%IACS未満、引張強さが150MPa以上400MPa以下、伸びが2%以上であるアルミニウム合金線。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に利用されるアルミニウム合金線(2)であって、
質量%で、Mgを0.1%以上1.5%以下、Siを0.03%以上2.0%以下、Cuを0.05%以上0.5%以下含有し、残部がAl及び不純物からなり、
前記Mg及びSiの質量比Mg/Siが0.8≦Mg/Si≦3.5を満たし、
導電率が35%IACS以上58%IACS未満、
引張強さが150MPa以上400MPa以下、
伸びが2%以上であることを特徴とするアルミニウム合金線(2)。
【請求項2】
更に、質量%でFeを0.1%以上1.0%以下、及びCrを0.01%以上0.5%以下の少なくとも一方の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金線(2)。
【請求項3】
更に、質量割合で、Tiを500ppm以下、及びBを50ppm以下の少なくとも一方の元素を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金線(2)。
【請求項4】
線径が0.1mm以上1.5mm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線(2)。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複数のアルミニウム合金線(2)を撚り合わせてなることを特徴とするアルミニウム合金撚り線(20)。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線(2)、複数の当該アルミニウム合金線(2)を撚り合せたアルミニウム合金撚り線(20)、及び前記アルミニウム合金撚り線(20)を圧縮成形した圧縮線材のいずれかを導体とし、その外周に絶縁被覆層(3)を具えることを特徴とする被覆電線(10)。
【請求項7】
請求項6に記載の被覆電線(10)と、前記被覆電線(10)の端部に装着された端子部(31)とを具えることを特徴とするワイヤーハーネス(30)。
【請求項8】
導体に利用されるアルミニウム合金線(2)の製造方法であって、
質量%で、Mgを0.1%以上1.5%以下、Siを0.03%以上2.0%以下、Cuを0.05%以上0.5%以下含有し、残部がAlからなるアルミニウム合金の溶湯を鋳造して鋳造材を形成する工程(S10)と、
前記鋳造材に圧延を施して圧延材を形成する工程(S20)と、
前記圧延材に伸線加工を施して伸線材を形成する工程(S30)と、
前記伸線材に溶体化処理を施して熱処理材を形成する工程(S40)とを具え、
導電率が35%IACS以上58%IACS未満、引張強さが150MPa以上400MPa以下、かつ伸びが2%以上であるアルミニウム合金線を製造することを特徴とするアルミニウム合金線の製造方法。
【請求項9】
前記鋳造材を形成する工程(S10)及び前記圧延材を形成する工程(S20)は、連続的に行って、連続鋳造圧延材を形成することを特徴とする請求項8に記載のアルミニウム合金線の製造方法。
【請求項10】
前記溶体化処理は、前記伸線材を450℃以上に加熱した後、50℃/min以上の冷却速度で冷却することを特徴とする請求項8または請求項9に記載のアルミニウム合金線の製造方法。
【請求項11】
前記溶体化処理は、通電による連続加熱処理、高周波誘導加熱による連続加熱処理、及びバッチ式加熱処理のいずれかで行うことを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線の製造方法。
【請求項12】
更に、前記溶体化処理を施した熱処理材に時効処理を施して時効処理材を形成する工程(S50)を具え、
前記時効処理は、バッチ式加熱処理とし、加熱温度を100℃以上、加熱時間を1時間以上とすることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線の製造方法。
【請求項13】
更に、複数の前記伸線材を撚り合せて撚り線を形成する工程(S70)を具え、
前記溶体化処理は、前記撚り線に施すことを特徴とする請求項8から請求項12のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線の製造方法。
【請求項14】
請求項8から請求項13のいずれか1項に記載のアルミニウム合金線の製造方法により得られた前記熱処理材を用意し、この熱処理材の外周に絶縁材料からなる絶縁被覆層(3)を形成する工程を具えることを特徴とする被覆電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の導体に用いられるアルミニウム合金線及びアルミニウム合金撚り線、この合金線や撚り線を導体とする被覆電線、この被覆電線を具えるワイヤーハーネス、アルミニウム合金線の製造方法、及び被覆電線の製造方法に関するものである。特に、屈曲特性、強度、電気伝導性に優れるアルミニウム合金線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や飛行機などの搬送機器、ロボットなどの産業機器の配線構造には、端子を有する複数の電線を束ねたワイヤーハーネスと呼ばれる形態が利用されている。ワイヤーハーネスの電線用導体の構成材料は、電気伝導性に優れる銅や銅合金といった銅系材料が主流である。
【0003】
昨今、自動車の高性能化や高機能化が急速に進められてきており、車載される各種電気機器、制御機器などの増加に伴い、これらの機器に使用される電線も増加傾向にある。一方、近年、環境対応のために自動車や飛行機などの燃費を向上するべく、軽量化が強く望まれている。
【0004】
そこで、電線の軽量化のために、比重が銅の約1/3であるアルミニウムを導体に用いたアルミニウム電線が検討されている。しかし、純アルミニウムは、銅系材料よりも屈曲特性に劣る。例えば、ドア部のように開閉動作を行うような箇所に上記アルミニウム電線を適用すると早期に断線してしまい、上記箇所への適用が困難である。これに対し、特開2004−134212号公報(特許文献1)は、純アルミニウムよりも強度が高いアルミニウム合金からなる導体を具える自動車ワイヤーハーネス用電線を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−134212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のアルミニウム合金電線では、十分な屈曲特性を有しているとは言えない。従って、屈曲特性に更に優れるアルミニウム合金電線の開発が望まれる。
【0007】
また、電線用導体には、電気伝導性や強度にも優れることが望まれることから、屈曲特性に加えて、導電率及び強度にも優れるアルミニウム合金線の開発が望まれる。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、屈曲特性、強度、及び電気伝導性に優れ、電線用導体に適したアルミニウム合金線、及びアルミニウム合金撚り線を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、屈曲特性、強度、及び電気伝導性に優れ、ワイヤーハーネスに適した被覆電線、及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【0010】
更に、本発明の他の目的は、上記アルミニウム合金線の製造方法、及び上記被覆電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、伸線後(直後でなくてもよい)の伸線材、代表的には最終線径の伸線材に溶体化処理を施すことで、屈曲特性に優れるアルミニウム合金線が得られる、との知見を得た。特に、特定の組成のアルミニウム合金とすることで、屈曲特性に優れると共に、強度及び導電率が高いアルミニウム合金線が得られる、との知見を得た。詳しくは、溶体化処理を行うことで、アルミニウム合金中の添加元素を母材のアルミニウムに十分に固溶させることができ、固溶強化により強度を向上することができるため、屈曲特性を向上することができる、との知見を得た。また、上記溶体化処理後に時効処理を施すことで、時効強化により強度を更に向上して、屈曲特性を更に向上することができる、との知見を得た。かつ、上記添加元素の含有量を特定の範囲とすることで、当該添加元素が固溶されたことによる導電率の低下を低減して、導電率が高いアルミニウム合金線とすることができる、との知見を得た。更に、強度をある程度制限することで、強度と靭性とをバランスよく有するアルミニウム合金線が得られる、との知見を得た。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0012】
本発明アルミニウム合金線の製造方法は、以下の工程を具える。
1. 質量%で、Mgを0.1%以上1.5%以下、Siを0.03%以上2.0%以下、Cuを0.05%以上0.5%以下含有し、残部がAlからなるアルミニウム合金の溶湯を鋳造して鋳造材を形成する工程。
【0013】
2. 上記鋳造材に圧延を施して圧延材を形成する工程。
3. 上記圧延材に伸線加工を施して伸線材を形成する工程。
【0014】
4. 上記伸線材に溶体化処理を施して熱処理材を形成する工程。
上記1.〜4.の工程を経て、本発明製造方法は、導電率が35%IACS以上58%IACS未満、引張強さが150MPa以上400MPa以下、かつ伸びが2%以上であるアルミニウム合金線を製造する。得られたアルミニウム合金線は、導体に利用される。
【0015】
上記製造方法により、本発明アルミニウム合金線が得られる。本発明アルミニウム合金線は、導体に利用されるものであり、質量%で、Mgを0.1%以上1.5%以下、Siを0.03%以上2.0%以下、Cuを0.05%以上0.5%以下含有し、残部がAl及び不純物からなる。上記Mg及びSiの質量比Mg/Siは、0.8≦Mg/Si≦3.5を満たす。そして、このアルミニウム合金線(以下、Al合金線と呼ぶ)は、導電率が35%IACS以上58%IACS未満、引張強さが150MPa以上400MPa以下、伸びが2%以上である。
【0016】
本発明Al合金線は、上述のように溶体化処理が施された線材であることで、固溶強化により、優れた強度及び屈曲特性を有する。かつ、本発明Al合金線は、添加元素の含有量が特定の範囲であることで、電気伝導性にも優れる。
【0017】
また、本発明者らは、ワイヤーハーネスを機器などに組み付ける際、導体の強度が高過ぎると、導体において端子部との境界近傍で導体が破断することがある、との知見を得た。従って、特に、ワイヤーハーネスの電線用導体を構成する線材には、強度だけでなく、靭性にも優れることが望まれる。本発明Al合金線は、上述のように強度を特定の範囲とすることで、高強度化による靭性の低下を抑制し、靭性にも優れる。
【0018】
上述のように本発明Al合金線は、屈曲特性、強度、電気伝導性、及び靭性に優れることから、ワイヤーハーネスに望まれる特性を十分に具えており、ワイヤーハーネスの電線用導体に好適に利用できる。特に、本発明Al合金線を導体とする電線は、屈曲動作が行われる箇所に配置された場合であっても、断線し難い。
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。なお、元素の含有量は、質量%を示す。
[Al合金線]
<組成>
本発明Al合金線を構成するAl合金は、Mg(マグネシウム)を0.1%〜1.5%、Si(シリコン)を0.03%〜2.0%、Cu(銅)を0.05%〜0.5%含有するAl−Mg−Si−Cu系合金である。Mgを0.1%以上、Siを0.03%以上、及びCuを0.05%以上含有し、これらの元素がAlに固溶又は析出して存在することで、本発明Al合金線は、屈曲特性、強度に優れる。Mg,Si,Cuの含有量が高いほどAl合金線の屈曲特性や強度が高まるが、導電率や靭性が低下する上に、伸線加工時などで断線が生じ易くなるため、Mg:1.5%以下、Si:2.0%以下、Cu:0.5%以下とする。
【0020】
Mgは、Al合金線の導電率の低下が大きいものの、屈曲特性や強度の向上効果が高い元素である。特に、Mgと同時にSiを特定の範囲で含有することで、時効硬化による強度の向上を効果的に図ることができる。Cuは、Al合金線の導電率の低下が少なく、屈曲特性や強度を向上することができる。より好ましい含有量は、Mg:0.2%以上1.5%以下、Si:0.1%以上1.5%以下、Cu:0.1%以上0.5%以下である。かつ、Mg及びSiの質量比Mg/Siが0.8≦Mg/Si≦3.5を満たす。Mg/Siが0.8未満では、Al合金線の屈曲特性や強度の向上の効果が十分に得られず、3.5超では、導電率の低下が大きくなる。より好ましくは、0.8≦Mg/Si≦3である。
【0021】
更に、上記Al合金は、Fe(鉄)及びCr(クロム)の少なくとも一方を含有してもよい。Feは、導電率の低下をあまり招くことなく屈曲特性や強度を向上することができるが、Feを添加し過ぎると、伸線加工などの加工性の低下を招くことから、含有量は、0.1%以上1.0%以下、特に0.2%以上0.9%以下が好ましい。Crは、導電率の低下が大きいものの、屈曲特性や強度の向上効果が高い元素であり、含有量は、0.01%以上0.5%以下、特に、0.05%以上0.4%以下が好ましい。
【0022】
更に、上記Al合金は、Ti(チタン)及びB(ホウ素)の少なくとも一方を含有することが好ましい。TiやBは、鋳造時のAl合金の結晶組織を微細にする効果がある。結晶組織が微細であると、強度を向上することができる。B単独の含有でもよいが、Ti単独、特に双方を含有すると、結晶組織の微細化効果が更に向上する。この微細化効果を十分に得るには、質量割合で、Tiは100ppm以上、Bは10ppm以上含有することが好ましい。但し、Ti:500ppm超、B:50ppm超では、上記微細化効果が飽和したり、導電率の低下を招くことから、Ti:500ppm以下、B:50ppm以下が好ましい。
【0023】
<特性>
上述のように特定の組成のAl合金から構成され、かつ溶体化処理が施されている本発明Al合金線は、高強度である上に、導電率、伸びも高く、導電率:35%IACS以上、引張強さ:150MPa以上、伸び:2%以上を満たす。但し、本発明Al合金線は、母材のAlに添加元素を積極的に固溶させているため、電気伝導性の向上には限界があり、導電率は58%IACS未満である。引張強さは200MPa以上がより好ましいが、単に高強度なだけで靭性に劣る電線用導体ではワイヤーハーネスに適さないことから、本発明Al合金線は、引張強さを400MPa以下とする。引張強さが上記範囲を満たすことで、本発明Al合金線は、靭性と強度とをバランスよく具えることができる。
【0024】
Al合金線の導電率、引張強さ、伸びは、添加元素の種類や量、伸線条件、溶体化条件、更に後述する時効処理の有無、時効処理条件によって変化させることができる。例えば、添加元素を少なくすると、導電率及び靭性が高くなる傾向にあり、添加元素を多くすると、強度や屈曲特性が高くなる傾向にある。例えば、本発明Al合金線として、導電率:40%IACS以上、伸び:10%以上を満たすものが挙げられる。
【0025】
<形状>
本発明Al合金線は、伸線加工時の加工度(断面減少率)を適宜調整することで、種々の線径(直径)を有することができる。例えば、自動車用ワイヤーハーネスの電線用導体に利用する場合、線径は0.1mm以上1.5mm以下が好ましい。
【0026】
また、本発明Al合金線は、伸線加工時のダイス形状によって種々の断面形状を有することができる。断面円形状が代表的であり、その他、楕円形状、矩形や六角形といった多角形状などの断面形状が挙げられる。断面形状は特に問わない。
【0027】
[Al合金撚り線]
上記本発明Al合金線を複数本撚り合わせた撚り線とすることができる。細径の線材であっても撚り合わせることで、屈曲特性や強度の高い線材(撚り線)とすることができる。撚り合わせ本数は、特に問わない。例えば、7,11,19,37本が挙げられる。また、本発明Al合金撚り線は、撚り合わせた後、圧縮成形した圧縮線材とすると、撚り合わせた状態よりも線径を小さくすることができ、導体の小径化に寄与することができる。
【0028】
[被覆電線]
上記本発明Al合金線や本発明Al合金撚り線、上述した圧縮線材は、電線用導体に好適に利用することができる。用途に応じて、このまま導体として使用することもできるし、この導体の外周に絶縁被覆層を具える本発明被覆電線として使用することもできる。上記絶縁被覆層を構成する絶縁材料は、適宜選択することができる。例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)やノンハロゲン樹脂、難燃性に優れる材料などが挙げられる。絶縁被覆層の厚さは、所望の絶縁強度を考慮して適宜選択することができ、特に限定されない。
【0029】
[ワイヤーハーネス]
上記被覆電線は、本発明ワイヤーハーネスの構成部材に好適に利用することができる。本発明ワイヤーハーネスは、上記被覆電線と、この被覆電線の端部に装着された端子部とを具える。この端子部を介して、被覆電線は、機器などの接続対象に接続される。このワイヤーハーネスは、端子部が装着された複数の被覆電線に対して一つのコネクタを共有するような電線群を含んでいてもよい。上記端子部は、雄型、雌型、圧着型、溶接型などの種々の形態が挙げられ、特に限定されない。また、上記ワイヤーハーネスに具える複数の被覆電線は、結束具などにより一纏まりに束ねることで、ハンドリング性に優れる。更に、このワイヤーハーネスは、軽量化が望まれている種々の分野、特に、燃費の向上のために更なる軽量化が望まれている自動車に好適に利用することができる。
【0030】
[製造方法]
<鋳造工程>
本発明製造方法は、まず、上記特定の組成のAl合金からなる鋳造材を形成する。鋳造は、可動鋳型又は枠状の固定鋳型を用いる連続鋳造、箱状の固定鋳型を用いる金型鋳造(以下、ビュレット鋳造と呼ぶ)のいずれも利用することができる。特に、連続鋳造では、溶湯を急冷凝固できるため、微細な結晶組織を有する鋳造材が得られる。このような鋳造材を素材にすると、微細な結晶組織を有するAl合金線を製造し易く、結晶の微細化による屈曲特性や強度の向上を図ることができる。冷却速度は、適宜選択することができるが、固液共存温度域である600℃〜700℃において20℃/sec以上が好ましい。例えば、水冷銅鋳型や強制水冷機構などを有する連続鋳造機を用いると、上述のような冷却速度による急冷凝固を実現できる。
【0031】
TiやBを添加する場合、溶湯を鋳型に注湯する直前に添加すると、Tiなどの局所的な沈降を抑制して、Tiなどが均等に混合された鋳造材を製造することができて好ましい。
【0032】
<圧延工程>
次に、上記鋳造材に(熱間)圧延を施し、圧延材を形成する。特に、上記鋳造工程と上記圧延工程とは、連続的に行うと、鋳造材に蓄積される熱を利用して熱間圧延を容易に行えて、エネルギー効率がよい上に、バッチ式の鋳造方法により作製した鋳造材に圧延を施して圧延材を生産する場合と比較して、圧延材(連続鋳造圧延材)の生産性に優れる。更に、鋳造材を連続鋳造材とすると、微細な結晶組織を有する鋳造材に対して連続的に圧延が施されることで、得られた圧延材(連続鋳造圧延材)も、微細な結晶組織を有することができて好ましい。
【0033】
<伸線工程>
次に、上記圧延材又は連続鋳造圧延材に(冷間)伸線加工を施し、伸線材を形成する。伸線加工度は、所望の線径に応じて適宜選択することができる。
【0034】
伸線加工途中に適宜中間熱処理を行うと、中間熱処理前までの加工により導入された歪を除去して、中間熱処理後の伸線加工性を高められる。中間熱処理条件は、例えば、加熱温度:150℃〜400℃、加熱時間:0.5時間以上が挙げられる。中間熱処理条件は、後述する溶体化処理条件と同じとしてもよい。
【0035】
<撚り線工程>
得られた最終線径の伸線材は、単線のままとしてもよいが、本発明製造方法の一形態として、更に、複数の上記伸線材を用意し、これらの伸線材を撚り合せて撚り線を形成する工程を具え、撚り線とすることができる。更に、本発明製造方法の一形態として、上記撚り線を圧縮成形して所定の線径の圧縮線材を形成する工程を具え、圧縮線材とすることができる。上記撚り線や上記圧縮線材とする場合、後述する溶体化処理は、当該撚り線や当該圧縮線材に施してもよいし、上記伸線材に溶体化処理を施した後、或いは、溶体化処理に加えて時効処理を施す場合は時効処理を施した後に上記撚り線としてもよい。
【0036】
<溶体化工程>
次に、上記最終線径の伸線材、撚り線とする場合には、撚り合せる前の伸線材、又は撚り合せ後の撚り線、圧縮線材とする場合には、圧縮前の撚り線、又は圧縮後の圧縮線材に溶体化処理を施す。この溶体化処理は、主として固溶強化を目的とし、固溶強化による屈曲特性の向上、強度の向上のために行う。なお、鋳造材としてビュレット材を利用する場合は、鋳造後と、上記伸線後との双方に溶体化処理を行ってもよい。ビュレット材に溶体化処理を施すことで、添加元素が十分に固溶した状態となるため、その後の圧延や伸線などの塑性加工を行い易く、伸線後に更に溶体化処理や時効処理を施すことで、強度の向上、引いては屈曲性の向上を図ることができる。
【0037】
溶体化処理は、上記特定の添加元素を母材のAl中に固溶させて過飽和固溶体を形成できる条件で行う。例えば、上記最終線径の伸線材や撚り線、圧縮線材などを450℃以上に加熱した後、急冷する、具体的には、50℃/min以上の冷却速度で冷却することが挙げられる。加熱温度を450℃以上とすることで、上述した特定の組成からなるAl合金において、添加元素を母材のAl中に十分に固溶することができる。かつ上述のように冷却速度を大きくして急冷することで、母材に固溶させた元素が冷却工程で析出されることを抑制することができる。上記冷却速度は、水や液体窒素といった液体冷媒を利用したり、送風を行うなどの強制冷却により実現することができる。特に、冷却速度が100℃/min以上となるように冷却状態を調整することが好ましい。
【0038】
溶体化処理中の雰囲気は、代表的には、大気雰囲気が挙げられる。その他、酸素含有量がより少ない雰囲気、例えば、非酸化性雰囲気とすると、溶体化処理中の熱により処理対象の線材の表面に酸化膜が生成されることを抑制することができる。非酸化性雰囲気は、例えば、真空雰囲気(減圧雰囲気)、窒素(N)やアルゴン(Ar)などの不活性ガス雰囲気、水素含有ガス(例えば、水素(H)のみ、N、Ar、ヘリウム(He)といった不活性ガスと水素(H)との混合ガスなど)や炭酸ガス含有ガス(例えば、一酸化炭素(CO)と二酸化炭素(CO)との混合ガスなど)といった還元ガス雰囲気が挙げられる。
【0039】
また、溶体化処理は、連続加熱処理又はバッチ式加熱処理が利用できる。
(バッチ式加熱処理)
バッチ式加熱処理は、加熱用容器(雰囲気炉、例えば、箱型炉)内に加熱対象を封入した状態で加熱する処理方法であり、一度の処理量が限られるものの、温度制御が行い易く、加熱対象全体の加熱状態を管理し易い処理方法である。バッチ式加熱処理では、加熱対象が所定の温度に加熱されるように、加熱用容器内の雰囲気温度を設定するとよい。
【0040】
(連続加熱処理)
連続加熱処理は、加熱用容器内に加熱対象を連続的に供給して、加熱対象を連続的に加熱する処理方法であり、1.連続的に加熱できるため作業性に優れる、2.加熱対象となる線材の長手方向に均一的に加熱できるため線材の長手方向における特性のばらつきを抑制できる、といった利点がある。特に、電線用導体に利用されるような長尺な線材に溶体化処理を施す場合、連続加熱処理が好適に利用できる。
【0041】
上記連続加熱処理は、加熱対象を抵抗加熱により加熱する直接通電方式(通電連続加熱処理)、加熱対象を高周波の電磁誘導により加熱する間接通電方式(高周波誘導連続加熱処理)、その他、加熱雰囲気とした加熱用容器(パイプ炉)内に加熱対象を導入して熱伝導により加熱する炉式が挙げられる。
【0042】
上記連続加熱処理では、例えば、各種の制御パラメータを適宜変化させて試料に溶体化処理を行い、そのときの試料の特性(ここでは、引張強さ、導電率、伸び)、及び試料の温度(例えば、非接触式の温度測定装置を利用して測定)を測定し、パラメータ値と測定データとの相関データを予め作成する。この相関データに基づいて、所望の特性(ここでは、引張強さ:150MPa〜400MPa、導電率:35%IACS〜58%IACS、伸び:2%以上)を有する溶体化処理材が得られるように上記制御パラメータを調整すると共に、温度の制御を行うことで、連続加熱処理により容易に溶体化処理を行える。例えば、通電方式の制御パラメータは、容器内への供給速度(線速)、加熱対象の大きさ(線径)、電流値などが挙げられる。炉式の制御パラメータは、容器内への供給速度(線速)、加熱対象の大きさ(線径)、炉の大きさ(パイプ軟化炉の直径)などが挙げられる。
【0043】
<時効処理>
本発明製造方法は、更に、上記溶体化処理が施された溶体化処理材(熱処理材)に時効処理を施して熱処理材(時効処理材)を形成する工程を具えることができる。溶体化処理後に時効処理を行うことで、Al合金中の添加元素を析出させ、Al合金中に析出物を分散させることができる。この析出物の分散強化、即ち、時効強化により強度の向上を図ることができると共に、固溶元素の低減による導電率の向上を図ることができる。特に、Al合金が上述のように微細組織であると、析出物が均一的に分散した組織となり易く、強度を更に向上でき、強度及び導電率が高いAl合金線が得られる。
【0044】
上記時効処理は、上述した連続加熱処理を利用してもよいが、バッチ式加熱処理を利用すると、熱処理時間を十分に保持できるため、析出物を十分に析出させることができる。バッチ式加熱処理により時効処理を行う場合の具体的な条件は、例えば、加熱温度:100℃以上、加熱時間:0.5時間以上が挙げられ、加熱温度:100℃〜250℃、加熱時間:1時間〜24時間がより好ましい。また、時効処理も大気雰囲気でもよいし、上述した酸素含有量が少ない雰囲気としてもよい。
【0045】
<被覆工程>
上記溶体化処理、及び適宜時効処理が施された熱処理材(単線、撚り線、及び圧縮線材のいずれか)を用意し、この熱処理材の外周に上述した絶縁材料からなる絶縁被覆層を形成する工程を具えることで、本発明被覆電線を製造することができる。
【0046】
更に、得られた上記被覆電線の端部に端子部を装着し、端子部付きの被覆電線を複数束ねることで、ワイヤーハーネスを製造することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明Al合金線、本発明Al合金撚り線、本発明被覆電線、本発明ワイヤーハーネスは、屈曲特性、強度、電気伝導性に優れる。本発明製造方法は、上記本発明Al合金線や上記本発明被覆電線を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明によるアルミニウム合金線を用いた被覆電線の断面模式図である。
図2図1の線分II−IIにおける断面模式図である。
図3図1および図2に示した被覆電線の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明によるアルミニウム合金撚り線を用いた被覆電線の断面模式図である。
図5図4に示した被覆電線の第1の変形例を示す断面模式図である。
図6図4に示した被覆電線の第2の変形例を示す断面模式図である。
図7図4に示した被覆電線の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図8】本発明による被覆電線を用いたワイヤーハーネスを示す模式図である。
図9】屈曲特性を調べる試験方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0050】
(実施の形態1)
図1および図2を参照して、本発明によるアルミニウム合金線を用いた被覆電線を説明する。
【0051】
図1および図2に示すように、本発明の一実施形態である被覆電線10は、アルミニウム合金線2(以下、Al合金線2と記す)と、当該Al合金線2の外周を覆い、絶縁体からなる絶縁被覆層3とを備える。Al合金線2は、Mgを0.1%〜1.5%、Siを0.03%〜2.0%、Cuを0.05%〜0.5%含有するAl−Mg−Si−Cu系合金からなる。また、Al合金線2では、Mg及びSiの質量比Mg/Siが0.8≦Mg/Si≦3.5を満たし、導電率が35%IACS以上58%IACS未満であって、引張強さが150MPa以上400MPa以下、伸びが2%以上である。Mgを0.1%以上、Siを0.03%以上、及びCuを0.05%以上含有し、これらの元素がAlに固溶又は析出して存在することで、本発明によるAl合金線2は、屈曲特性、強度に優れる。なお、Mg,Si,Cuの含有量が高いほどAl合金線の屈曲特性や強度が高まるが、導電率や靭性が低下する上に、伸線加工時などで断線が生じ易くなるため、Mg:1.5%以下、Si:2.0%以下、Cu:0.5%以下とすることが好ましい。
【0052】
次に、図1および図2に示した被覆電線10の製造方法を、図3を参照しながら説明する。
【0053】
本発明による被覆電線10の製造方法では、図3に示すように、まず鋳造工程(S10)を実施する。具体的には、上述した組成のAl合金からなる鋳造材を形成する。鋳造材の形成方法としては、可動鋳型又は枠状の固定鋳型を用いる連続鋳造、箱状の固定鋳型を用いる金型鋳造(以下、ビュレット鋳造と呼ぶ)など、従来周知の任意の方法を用いることができる。
【0054】
次に、図3に示すように圧延工程(S20)を実施する。この工程(S20)では、上記鋳造材に(熱間)圧延を施し、圧延材を形成する。なお、上記鋳造工程(S10)と上記圧延工程(S20)とは、連続的に行うことが好ましい。
【0055】
次に、図3に示すように伸線工程(S30)を実施する。この工程(S30)では、上記圧延材(又は連続鋳造圧延材)に(冷間)伸線加工を施し、伸線材を形成する。伸線加工の方法は従来周知の任意の方法を用いることができる。
【0056】
次に、図3に示すように溶体化工程(S40)を実施する。この工程(S40)では、上記伸線材に溶体化処理を施す。例えば、上記伸線材を大気雰囲気中で450℃以上に加熱した後、急冷(たとえば、50℃/min以上の冷却速度で冷却)することで、伸線材の母材であるAl中に添加元素を固溶させて過飽和固溶体を形成する。
【0057】
次に、図3に示すように時効処理工程(S50)を実施する。この工程(S50)では、例えば、加熱温度:100℃以上、加熱時間:0.5時間以上といった時効処理が行われる。
【0058】
次に、図3に示すように被覆工程(S60)を実施する。この工程(S60)では、上述した時効処理がなされた熱処理材(時効処理材)に絶縁材料からなる絶縁被覆層を形成する。当該絶縁被覆層の形成方法は従来周知の任意の方法を用いることができる。このようにして、図1および図2に示した被覆電線10を得る事ができる。
【0059】
(実施の形態2)
図4を参照して、本発明によるアルミニウム合金線を用いた被覆電線を説明する。
【0060】
図4に示すように、本発明の一実施形態である被覆電線10は、本発明によるAl合金線2を複数本撚り合せたアルミニウム合金撚り線20と、当該アルミニウム合金撚り線20の外周に形成された絶縁被覆層3とを備える。アルミニウム合金撚り線20では、複数のAl合金線2が図4の紙面に垂直な方向に沿って延びると共に互いに撚り合わされている。また、絶縁被覆層3はアルミニウム合金撚り線20の外周上に配置されているが、絶縁被覆層3は図4に示すように当該アルミニウム合金撚り線20の外周面に密着するように形成されていてもよいし、当該外周面と絶縁被覆層3の内周面との間に間隙が形成されていてもよい。このような被覆電線10によっても、実施の形態1に示した被覆電線10と同様に優れた屈曲特性および強度を得る事ができる。
【0061】
図4に示すように、細径の線材(Al合金線2)であっても撚り合わせることで、屈曲特性や強度の高い線材(撚り線)とすることができる。Al合金線2の撚り合わせ本数は、特に問わない。例えば、図4に示すように7本のAl合金線2を撚り合わせることでアルミニウム合金撚り線20としてもよい。また、アルミニウム合金撚り線20におけるAl合金線の撚り合わせ本数は11本、19本、または37本としてもよい。また、本発明のアルミニウム合金撚り線20は、撚り合わせた後、後述するように圧縮成形した圧縮線材とすると、撚り合わせた状態よりも線径を小さくすることができ、導体の小径化に寄与することができる。Al合金線2の断面形状は、図4に示すような円形状であってもよいが、他の任意の形状であってもよい。たとえば、Al合金線2の断面形状を多角形状(四角形、三角形、台形など)としてもよい。また、アルミニウム合金撚り線20を構成する複数のAl合金線2は、その径が同じであってもよいが、異なる径のAl合金線2を組み合わせてアルミニウム合金撚り線20を構成してもよい。たとえば、中心に位置するAl合金線の径を、他の(周囲に位置する)Al合金線2の径と異なる(たとえば相対的に径を大きくする、あるいは相対的に径を小さくする)ようにしてもよい。また、アルミニウム合金撚り線20では、強度の安定性などを考慮して、図4に示す断面において中心対称となるようにAl合金線2を配置することが好ましい。
【0062】
次に、図5を参照して、図4に示した被覆電線10の第1の変形例を説明する。図5を参照して、被覆電線10は、基本的には図4に示した被覆電線10と同様の構成を備えるが、アルミニウム合金撚り線20を構成するAl合金線2の本数が図4に示した被覆電線10とは異なっている。すなわち、図5に示した被覆電線10を構成するアルミニウム合金撚り線20は、Al合金線2が19本撚り合わせられることで形成されている。このような構造の被覆電線10によっても、図4に示した被覆電線10と同様の効果を得る事ができる。
【0063】
次に、図6を参照して、図4に示した被覆電線10の第2の変形例を説明する。図6を参照して、被覆電線10は、基本的には図4に示した被覆電線10と同様の構成を備えるが、アルミニウム合金撚り線20が径方向の中心に向けて圧縮されている点が図4に示した被覆電線10と異なっている。具体的には、アルミニウム合金撚り線20の中心に位置するAl合金線2の断面形状はほぼ六角形状となっている。また、中心に位置するAl合金線2の外周に配置された複数の(図6では6本の)Al合金線2の断面形状は、アルミニウム合金撚り線20の中心側の辺の長さが、外周側の辺の長さより短くなっているほぼ台形状となっている。なお、外周に配置された複数のAl合金線2において、アルミニウム合金撚り線20の外周側に位置する表面(台形の相対的に長い辺を構成する表面)は、アルミニウム合金撚り線20の中心側から外側に向けて凸形状となった曲面状の形状となっている。また、当該外周に配置された複数のAl合金線2が互いに隣接する部分の断面形状は、アルミニウム合金撚り線20の中心から径方向外側に向かってほぼ直線状となっている。このようにすれば、図4に示した被覆電線10と同様の効果に加えて、断面が円形状のAl合金線2を単に撚り合わせた状態よりも、被覆電線10の線径を小さくすることができるので、導体の小径化に寄与する。また、同じ被覆電線10の線径であれば、当該被覆電線10の断面におけるAl合金線2の断面の割合をより大きくすることができる。
【0064】
次に、図7を参照して図4に示した被覆電線10の製造方法を説明する。
図7を参照して、図7の鋳造工程(S10)〜伸線工程(S30)までは、図3に示した鋳造工程(S10)〜伸線工程(S30)と同様の工程を実施する。その後、図7に示すように加工工程(S70)を実施する。この工程(S70)では、具体的には上記工程(S30)で得られた伸線材を用意し、これらの伸線材を撚り合せて撚り線を形成する。このようにして、アルミニウム合金撚り線20を得る事ができる。なお、更に、本発明による被覆電線の製造方法の一形態として、上記撚り線を圧縮成形して所定の線径の圧縮線材を形成してもよい。
【0065】
次に、図7に示した溶体化工程(S40)〜被覆工程(S60)までは、図3に示した工程(S40)〜工程(S60)における処理と同様の処理を上記撚り線(または圧縮線)に対して行う。このようにして、図4に示した被覆電線10を得る事ができる。
【0066】
(実施の形態3)
図8を参照して、本発明によるワイヤーハーネスを説明する。
【0067】
図8を参照して、本発明の一実施形態であるワイヤーハーネス30は、複数本の本発明による被覆電線10と、これらの被覆電線10の端部に接続された端子部31とを備える。なお、端子部31は、個々の被覆電線10のそれぞれの端部に個別の端子部材を接続した後、当該端子部材を複数個まとめて固定することで形成されていてもよいし、被覆電線10の端部を接続可能な接続部が複数個形成されたものであってもよい。また、図8に示したようなワイヤーハーネス30をさらに複数本束ねてより大きなワイヤーハーネスを構成してもよい。このようなワイヤーハーネスにおいても、本発明による被覆電線10が屈曲特性や強度に優れることから、十分な耐久性を実現できる。
【0068】
(実施例)
Al合金線を作製してAl合金線の種々の特性を調べた。Al合金線は、溶解→連続鋳造圧延→伸線(適宜中間熱処理)→撚り線化→溶体化(→適宜時効)という手順で作製する。
【0069】
[Al合金線の特性]
まず、Al合金線を作製する。ベースとして純アルミニウム(99.7質量%以上Al)を用意して溶解し、得られた溶湯(溶融アルミニウム)に表1に示す添加元素を表1に示す含有量となるように投入して、Al合金溶湯を作製する。成分調整を行ったAl合金溶湯は、適宜、水素ガス除去処理や、異物除去処理を行うことが望ましい。
【0070】
【表1】
【0071】
ベルト−ホイール式の連続鋳造圧延機を用いて、用意したAl合金溶湯に鋳造及び熱間圧延を連続的に施して連続鋳造圧延を行い、φ9.5mmのワイヤーロッド(連続鋳造圧延材)を作製する。Ti、又はTi及びBを含有する試料は、表1に示す含有量となるように、鋳造直前のAl合金溶湯にTi粒又はTiBワイヤを供給する。
【0072】
上記ワイヤーロッドに冷間伸線加工を施して、最終線径φ0.3mm又はφ1mmの伸線材を作製する。表2において「中間熱処理有り」の試料は、伸線加工途中に、適宜中間熱処理(300℃×3時間、又は溶体化処理と同様の条件)を行う。得られた最終線径φ0.3mm又はφ1mmの伸線材に、表2に示す熱処理条件により、溶体化処理、適宜時効処理を施して熱処理材(Al合金線)を作製する。
【0073】
表2の溶体化処理において「通電加熱」は、上記伸線材に直接通電して抵抗加熱により加熱する連続加熱処理、「誘導加熱」は、高周波の電磁誘導により上記伸線材を加熱する連続加熱処理、表2に加熱温度及び加熱時間が記載されている試料は、加熱用容器を用いたバッチ式加熱処理を適用している。連続加熱処理では、上述した、制御パラメータ値と測定データとの相関データを予め作成しておき、この相関データに基づいて所望の特性(導電率など)が得られるように制御パラメータ(線速や電流値など)を調整して、各試料に加熱処理を施す。時効処理は、加熱用容器を用いたバッチ式加熱処理を適用している。
【0074】
【表2】
【0075】
得られた最終線径φ1.0mmの熱処理材について、引張強さ(MPa)、導電率(%IACS)、伸び(%)、屈曲特性を測定した。その結果を表3に示す。
【0076】
引張強さ(MPa)及び伸び(%、破断伸び)は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法、1998)に準拠して、汎用の引張試験機を用いて測定した。導電率(%IACS)は、ブリッジ法により測定した。
【0077】
屈曲特性は、以下のようにして測定した。図9に示すように、対向配置させた一対のマンドレルm間に試料S(直径:φ0.3mm)を配置し、試料Sの一端に錘w(負荷加重:100g)を取り付け、他端を試験機のレバーlで把持してマンドレルmの外周に沿って試料Sに曲げ半径R(=15mm)の曲げを加え、試料Sが破断するまでの曲げ回数を測定した。曲げ回数は、90°往復を1回と数える。例えば、図9に示す矢印のように曲げた場合、曲げ回数は2回となる。
【0078】
【表3】
【0079】
表3に示すように、溶体化処理を行うことで、屈曲特性に優れるAl合金線が得られることが分かる。特に、特定の組成のAl−Mg−Si−Cu系合金からなり、溶体化処理を施した試料No.1〜5は、屈曲特性及び強度に優れる。かつ、これらの試料No.1〜5は、導電率及び伸びも高く、導電率が35%IACS以上、伸びが2%以上を満たす。特に、導電率が40%IACS以上、伸びが10%以上でありながら、引張強さが250MPa程度以上である試料が得られていることが分かる。また、溶体化処理後に時効処理を施すことで、強度及び導電率が向上する傾向にあることが分かる。
【0080】
これに対し、特定の組成のAl−Mg−Si−Cu系合金ではない試料No.101,102は、最終線径の伸線材に溶体化処理及び時効処理を施しても、屈曲特性や強度に劣ることが分かる。一方、MgやCuを多く含む試料No.103,104は、高強度で耐屈曲性に優れるが、伸びが小さく、導電率も低いことが分かる。
【0081】
上述のように特定の組成のAl−Mg−Si−Cu系合金からなり、最終線径の伸線材に溶体化処理、適宜時効処理を施して得られたAl合金線は、屈曲特性に優れる上に、強度、電気伝導性、靭性にも優れている。従って、これらのAl合金線は、ワイヤーハーネスの電線用導体、特に軽量であることが望まれる自動車用ワイヤーハーネスの電線用導体に好適に利用できると期待される。
【0082】
なお、上述した実施形態および実施例は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、Al合金の組成、Al合金線の線径、溶体化処理条件などを特定の範囲で変化させてもよい。また、Al合金線を撚り線としたり、圧縮線材とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明被覆電線は、軽量で、かつ屈曲特性及び強度に優れることが望まれる用途、例えば、自動車のワイヤーハーネスの電線に好適に利用することができる。本発明アルミニウム合金線及び本発明アルミニウム合金撚り線は、上記被覆電線の導体に好適に利用することができる。本発明ワイヤーハーネスは、例えば、自動車の配線に好適に利用することができる。本発明アルミニウム合金線の製造方法、及び本発明被覆電線の製造方法は、上記本発明アルミニウム合金線や本発明被覆電線の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
2 アルミニウム合金線、3 絶縁被覆層、10 被覆電線、20 アルミニウム合金撚り線、30 ワイヤーハーネス、31 端子、l レバー、S 試料、w 錘、m マンドレル、R 曲げ半径。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2015年8月26日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に利用されるアルミニウム合金線であって、
質量%で、Mgを0.1%以上1.5%以下、Siを0.03%以上2.0%以下、Cuを0.05%以上0.5%以下含有し、残部がAl及び不純物からなり、
前記Mg及びSiの質量比Mg/Siが0.8≦Mg/Si≦3.5を満たし、
導電率が35%IACS以上58%IACS未満、
引張強さが150MPa以上400MPa以下、
伸びが2%以上であるアルミニウム合金線。
【手続補正書】
【提出日】2015年10月9日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に利用されるアルミニウム合金線であって、
添加元素として、質量%で、Mgを0.1%以上1.5%以下、Siを0.03%以上2.0%以下、Cuを0.2%以上0.5%以下含有し、残部がAl及び不純物からなり、
前記添加元素がアルミニウム合金中に析出して存在し、
前記Mg及びSiの質量比Mg/Siが0.8≦Mg/Si≦3.5を満たし、
更に、質量%でFeを0.1%以上1.0%以下、及びCrを0.01%以上0.5%以下の少なくとも一方の元素を含有し、前記Cu、Fe及びCrの含有量の合計が0.5%以上であり、
導電率が35%IACS以上58%IACS未満、
引張強さが150MPa以上400MPa以下、
伸びが2%以上であるアルミニウム合金線。