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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-232322(P2015-232322A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/32 20060101AFI20151201BHJP
   F04C 18/356 20060101ALI20151201BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   F04C18/32
   F04C18/356 W
   F04C29/00 U
   F04C18/356 P
   F04C18/356 H
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-94666(P2015-94666)
(22)【出願日】2015年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-98447(P2014-98447)
(32)【優先日】2014年5月12日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 公佑
(72)【発明者】
【氏名】古庄 和宏
(72)【発明者】
【氏名】大川 剛義
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA01
3H129AA04
3H129AA14
3H129AA32
3H129AB03
3H129BB44
3H129CC03
3H129CC05
3H129CC38
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる圧縮機を提供する。
【解決手段】ロータリ圧縮機は、シリンダ24と、ピストン21と、ブッシュ22とを備える。シリンダ24は、シリンダ孔24aを有する。ピストン21は、シリンダ孔24aにおいて、シリンダ24に対して移動する。ブッシュ22は、シリンダ孔24aにおいて、シリンダ24およびピストン21と摺動する。シリンダ24およびピストン21は、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有するAl‐Si合金から成形される。ブッシュ22は、鋼から成形され、シリンダ24およびピストン21と摺動する摺動面を含む表層を有する。表層は、Al‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い硬度を有するように改質されている。そして、表層は、摺動面において、Hv1000以上の硬度を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ室(24a)を有するシリンダ(24,124)と、
前記シリンダ室において、前記シリンダに対して移動するピストン(21,121)と、
前記シリンダ室において、前記シリンダおよび前記ピストンと摺動する摺動部材(22,122)と、
を備える圧縮機であって、
前記シリンダおよび前記ピストンは、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有するAl‐Si合金から成形され、
前記摺動部材は、鋼から成形され、前記シリンダおよび前記ピストンと摺動する摺動面(22a)を含む表層を有し、
前記表層は、前記Al‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い硬度を有するように改質されており、前記摺動面においてHv1000以上の硬度を有する、
圧縮機(101)。
【請求項2】
前記表層は、窒化処理によって改質されている、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記摺動面のうち前記シリンダあるいは前記ピストンから受ける荷重が最も大きい線状の部分である線状最大荷重部の、単位長さ1mm当たりにかかる最大荷重である単位最大荷重(単位:N/mm)と、
前記線状最大荷重部と前記シリンダあるいは前記ピストンとの摺動の速度の平均値である平均摺動速度(単位:m/s)と、
から
式:設計指標(DV)=単位最大荷重×平均摺動速度
によって演算される前記設計指標(DV)が、67未満であり、
前記改質は、DLC薄膜のコーティングである、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記表層は、前記摺動面において、Hv1200以上の硬度を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記シリンダおよび前記ピストンは、同じ材質から成形される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記ピストンは、ローラと、前記ローラの外周面に固定されたブレードと、を有し、
前記ローラの外周面形状が非円形に形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記摺動部材は、工具鋼から成形される、
請求項1から6のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項8】
R32を冷媒として用いる、
請求項1から7のいずれか1項に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ室を有するシリンダと、シリンダ室に収納されるピストンとが相対的に移動することで冷媒を圧縮するロータリ式の圧縮機が用いられている。ロータリ式の圧縮機では、シリンダ室が2つの圧縮室に区画され、各圧縮室の容積が周期的に増減することによって冷媒が圧縮される。
【0003】
ロータリ式の圧縮機の例として、特許文献1(特開2004−293558号公報)には、ブレードを有するピストンを備える圧縮機が開示されている。ブレードは、ピストンと一体形成され、シリンダ室を2つの圧縮室に区画する。ブレードは、シリンダのブッシュ孔に設けられた略半円形状の断面を有する一対のブッシュに挟まれている。一対のブッシュの間でブレードが進退運動することで、ブッシュは、シリンダおよびブレードと摺動しながらブッシュ孔内を揺動する。
【0004】
この圧縮機において、シリンダとピストンとは、ブッシュを介して相対的に移動するので、シリンダとブッシュとの摺動部分、および、ピストンとブッシュとの摺動部分は、優れた摺動性および耐摩耗性が要求される。また、従来、摺動部分を構成するシリンダおよびピストンの材料として、主として鉄系材料が用いられてきたが、近年、アルミニウム系材料を用いることが検討されている。シリンダおよびピストンは、ブッシュとの間の隙間を最小化するために高精度な加工が要求される。鉄系材料は、高精度な加工を行うために、切削加工および研磨工程が必要である。一方、アルミニウム系材料は、切削加工のみで高精度な加工が可能であり、加工費を抑えることができる。さらに、鉄系材料からアルミニウム系材料に変更することで、シリンダおよびピストンを軽量化できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルミニウム系材料からなるシリンダおよびピストンと、鉄系材料からなるブッシュとが摺動する場合は、鉄系材料からなる部材同士が摺動する場合と比較して、摺動性および耐摩耗性が著しく劣るという問題点がある。また、シリンダおよびピストンの材料としてアルミニウム系材料としてAl−Si合金を用いる場合、Si含有量が低く共晶Si組織を有する合金を用いると、シリンダおよびピストンの磨耗量が増加し、Si含有量が高い合金を用いると、合金に含まれる初晶Siによってブッシュの磨耗量が増加するおそれがある。そして、摺動部分を構成するシリンダ、ピストンおよびブッシュの磨耗量が増加すると、圧縮機の信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1観点に係る圧縮機は、シリンダと、ピストンと、摺動部材とを備える。シリンダは、シリンダ室を有する。ピストンは、シリンダ室において、シリンダに対して移動する。摺動部材は、シリンダ室において、シリンダおよびピストンと摺動する。シリンダおよびピストンは、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有するAl‐Si合金から成形される。摺動部材は、鋼から成形され、シリンダおよびピストンと摺動する摺動面を含む表層を有する。表層は、Al‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い硬度を有するように改質されている。そして、表層は、摺動面において、Hv1000以上の硬度を有する。
【0008】
この圧縮機では、シリンダおよびピストンと摺動する摺動部材の表面の硬度は、シリンダおよびピストンの材料であるAl‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高く、摺動面において、Hv1000以上の硬度を有する。そのため、初晶Siによる摺動部材の磨耗が抑制される。また、Al‐Si合金のSi含有量が高いので、シリンダおよびピストンの磨耗が抑制される。また、Al‐Si合金のようなアルミニウム系材料は、鉄系材料に比べて軽量である。従って、本発明の第1観点に係る圧縮機は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【0009】
本発明の第2観点に係る圧縮機は、第1観点に係る圧縮機であって、表層は、窒化処理によって改質されている。
【0010】
本発明の第3観点に係る圧縮機は、第1観点または第2観点に係る圧縮機であって、改質は、DLC薄膜のコーティングである。そして、式:設計指標(DV)=単位最大荷重(単位:N/mm)×平均摺動速度(単位:m/s)によって演算される設計指標(DV)が、67未満である。単位最大荷重は、線状最大荷重部の単位長さ1mm当たりにかかる最大荷重である。線状最大荷重部は、摺動面のうちシリンダあるいはピストンから受ける荷重が最も大きい線状の部分である。平均摺動速度は、線状最大荷重部とシリンダあるいはピストンとの摺動の速度の平均値である。
【0011】
本発明の第4観点に係る圧縮機は、第3観点に係る圧縮機であって、表層は、摺動面において、Hv1200以上の硬度を有する。
【0012】
本発明の第5観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第4観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、シリンダおよびピストンは、同じ材質から成形される。
【0013】
この圧縮機では、シリンダの磨耗量とピストンの磨耗量とが同程度になるので、シリンダの寿命とピストンの寿命とが同程度になる。従って、本発明の第5観点に係る圧縮機は、寿命の低下を抑えることができる。
【0014】
本発明の第6観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第5観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、ピストンは、ローラと、ローラの外周面に固定されたブレードとを有する。そして、ローラの外周面形状が、非円形に形成されている。
【0015】
本発明の第7観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第6観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、摺動部材は、工具鋼から成形される。
【0016】
本発明の第8観点に係る圧縮機は、第1観点乃至第7観点のいずれか1つに係る圧縮機であって、R32を冷媒として用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る圧縮機は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るロータリ圧縮機の縦断面図である。
図2図1の線分II−IIにおける圧縮機構の断面図である。
図3図2のブッシュの近傍の拡大図である。
図4】摩擦評価試験方法の概略図である。
図5】ブレードの外観図である。
図6】ブッシュの線状最大荷重部を説明するための図である。
図7】製品における、1回転中に線状最大荷重部にかかる荷重の変動、及び1回転中のブレードの摺動速度の変動を説明するための図である。
図8】変形例Dにおける、圧縮機構の断面図である。
図9】変形例Eにおける、圧縮機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係るロータリ圧縮機について、図面を参照しながら説明する。ロータリ圧縮機は、シリンダの内部でピストンを偏心回転させて、シリンダの内部の空間の容積を変化させることにより、空気調和装置等の冷媒回路を循環する冷媒を圧縮する圧縮機である。
【0020】
(1)ロータリ圧縮機の構成
図1は、本実施形態に係るロータリ圧縮機101の縦断面図である。ロータリ圧縮機101は、主として、ケーシング10と、圧縮機構15と、駆動モータ16と、クランク軸17と、吸入管19と、吐出管20とを備える。ロータリ圧縮機101は、1シリンダタイプの圧縮機である。ロータリ圧縮機101で使用される冷媒は、例えば、R410A、R22、R32および二酸化炭素である。次に、ロータリ圧縮機101の各構成要素について説明する。
【0021】
(1−1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。ケーシング10は、ケーシング10の内部および外部において圧力や温度が変化した場合に、変形および破損が起こりにくい剛性部材で成型されている。ケーシング10は、胴部ケーシング部11の略円筒状の軸方向が鉛直方向に沿うように設置されている。ケーシング10の底部には、潤滑油が貯留される油貯留部10aが設けられている。潤滑油は、ロータリ圧縮機101内部の摺動部を潤滑するために用いられる冷凍機油である。
【0022】
ケーシング10は、主として、圧縮機構15と、圧縮機構15の上方に配置される駆動モータ16と、鉛直方向に延びるように配置されるクランク軸17とを収容している。圧縮機構15は、駆動モータ16と、クランク軸17によって連結されている。ケーシング10の壁部には、吸入管19および吐出管20が気密状に溶接されている。
【0023】
(1−2)圧縮機構
図2は、図1の線分II―IIにおける圧縮機構15の断面図である。圧縮機構15は、主として、フロントヘッド23と、シリンダ24と、リアヘッド25と、ピストン21と、ブッシュ22とから構成されている。フロントヘッド23、シリンダ24、およびリアヘッド25は、ボルトによって一体的に締結されている。圧縮機構15の上方の空間は、圧縮機構15によって圧縮された冷媒が吐出される高圧空間S1である。
【0024】
圧縮機構15は、油貯留部10aに貯留されている潤滑油に浸漬されている。油貯留部10aの潤滑油は、差圧等によって、圧縮機構15の摺動部に供給される。次に、圧縮機構15の各構成要素について説明する。
【0025】
(1−2−1)シリンダ
シリンダ24は、主として、シリンダ孔24aと、吸入孔24bと、吐出路24cと、ブッシュ収容孔24dと、ブレード収容孔24eと、断熱孔24fとを有している。シリンダ24は、フロントヘッド23およびリアヘッド25と連結されている。シリンダ24の上側の端面は、フロントヘッド23の下面と接している。シリンダ24の下側の端面は、リアヘッド25の上面と接している。シリンダ24は、Al‐Si合金から成形される。シリンダ24の材質であるAl‐Si合金は、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有する。
【0026】
シリンダ孔24aは、シリンダ24の上側の端面から下側の端面に向かって、鉛直方向にシリンダ24を貫通している円柱状の孔である。シリンダ孔24aは、シリンダ24の内周面によって囲まれる空間である。吸入孔24bは、シリンダ24の外周面からシリンダ24の内周面に向かって、シリンダ24の径方向に沿って貫通している孔である。吐出路24cは、シリンダ24の内周面の一部が切り欠かれることによって、鉛直方向にシリンダ24を貫通することなく形成される空間である。ブッシュ収容孔24dは、鉛直方向にシリンダ24を貫通し、かつ、鉛直方向に沿って見た場合において吸入孔24bと吐出路24cとの間に配置される孔である。ブレード収容孔24eは、鉛直方向にシリンダ24を貫通し、かつ、ブッシュ収容孔24dと連通する孔である。断熱孔24fは、シリンダ24の外周面とシリンダ24の内周面との間において、鉛直方向にシリンダ24を貫通する孔である。シリンダ24は、複数の断熱孔24fを有する。
【0027】
シリンダ孔24aは、クランク軸17の偏心軸部17a、および、ピストン21のローラ21aを収容する。ブッシュ収容孔24dは、ピストン21のブレード21bおよびブッシュ22を収容する。ブレード収容孔24eにピストン21のブレード21bが収容されている状態において、吐出路24cは、フロントヘッド23側に形成されている。
【0028】
(1−2−2)ピストン
ピストン21は、シリンダ24のシリンダ孔24aに挿入される。ピストン21は、略円筒状のローラ21aと、ローラ21aの径方向外側に突出するブレード21bとを有する。ピストン21は、ローラ21aおよびブレード21bが一体となっている部材である。ピストン21の上側の端面は、フロントヘッド23の下面と接している。ピストン21の下側の端面は、リアヘッド25の上面と接している。ピストン21は、Al‐Si合金から成形される。ピストン21の材質であるAl‐Si合金は、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有する。ピストン21の材質は、シリンダ24の材質と同じである。
【0029】
ローラ21aは、クランク軸17の偏心軸部17aに嵌合された状態で、シリンダ24のシリンダ孔24aに挿入される。これにより、ローラ21aは、クランク軸17の軸回転によって、クランク軸17の回転軸を中心とする公転運動を行う。ローラ21aは、圧縮機構15を上面視した場合に、時計回りに公転する。
【0030】
ブレード21bは、シリンダ24のブッシュ収容孔24dおよびブレード収容孔24eに収容される。ブレード21bは、ブッシュ22と摺動しながら揺動する。ブレード21bは、その長手方向に沿って進退運動を行う。
【0031】
圧縮機構15は、シリンダ24と、ピストン21と、フロントヘッド23と、リアヘッド25とによって囲まれる空間である圧縮室を有している。圧縮室は、ピストン21によって、吸入孔24bと連通する吸入室40aと、吐出路24cと連通する吐出室40bとに区画されている。図2において、吸入室40aおよび吐出室40bは、シリンダ24の内周面と、ピストン21の外周面とによって囲まれている領域として示されている。吸入室40aおよび吐出室40bの容積は、ピストン21の位置に応じて変化する。
【0032】
(1−2−3)ブッシュ
ブッシュ22は、一対の略半円柱状の部材である。ブッシュ22は、ピストン21のブレード21bを挟み込むようにして、シリンダ24のブッシュ収容孔24dに収容される。ブッシュ22は、工具鋼から成形される。
【0033】
図3は、図2のブッシュ22の近傍の拡大図である。ブッシュ22は、シリンダ24およびピストン21と摺動する摺動面22aを有している。ブッシュ22は、摺動面22aを含む表層を有している。ブッシュ22の表層は、窒化処理によって改質されている。窒化処理は、ガス窒化およびイオン窒化等による処理である。表層の厚みは、例えば、10μm〜20μmである。摺動面22aにおけるブッシュ22の表層の硬度は、Hv1000以上である。ブッシュ22の表層の硬度は、シリンダ24およびピストン21の材質であるAl‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い。
【0034】
(1−2−4)フロントヘッド
フロントヘッド23は、シリンダ24の上側の端面を覆う部材である。フロントヘッド23は、ボルト等によって、ケーシング10に締結されている。フロントヘッド23は、クランク軸17を支持するための上部軸受部23aを有する。フロントヘッド23は、吐出ポート23bを有している。吐出ポート23bは、吐出路24cおよび高圧空間S1と連通している。吐出ポート23bは、圧縮機構15によって圧縮された冷媒を、吐出室40bから高圧空間S1に送るための流路である。フロントヘッド23の上面には、吐出ポート23bの上側の開口部を塞ぐ吐出弁23cが取り付けられている。吐出弁23cは、高圧空間S1から吐出室40bへの冷媒の逆流を防ぐための弁である。吐出弁23cは、吐出ポート23b内部の冷媒の圧力によって上方に持ち上げられる。これにより、吐出ポート23bは、高圧空間S1と連通する。
【0035】
(1−2−5)リアヘッド
リアヘッド25は、シリンダ24の下側の端面を覆う部材である。リアヘッド25は、クランク軸17を支持するための下部軸受部25aを有する。シリンダ24のシリンダ孔24aは、フロントヘッド23およびリアヘッド25によって閉塞されている。
【0036】
(1−3)駆動モータ
駆動モータ16は、ケーシング10の内部に収容され、圧縮機構15の上方に設置されるブラシレスDCモータである。駆動モータ16は、主として、ケーシング10の内壁面に固定されるステータ51と、ステータ51の内側にエアギャップを設けて回転自在に収容されるロータ52とから構成される。
【0037】
ステータ51は、ステータコア61と、ステータコア61の鉛直方向の両端面に取り付けられる一対のインシュレータ62とを有する。ステータコア61は、円筒部と、円筒部の内周面から径方向内側に向かって突出している複数のティース(図示せず)とを有する。ステータコア61のティースは、一対のインシュレータ62と共に、導線が巻き付けられている。これにより、ステータコア61の各ティースには、コイル72aが形成されている。
【0038】
ステータ51の外側面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り、かつ、周方向に所定間隔をおいて、切欠形成されている複数のコアカット部(図示せず)が設けられている。コアカット部は、胴部ケーシング部11とステータ51との間を鉛直方向に延びるモータ冷却通路を形成する。
【0039】
ロータ52は、鉛直方向に積層された複数の金属板から構成される。ロータ52は、その回転中心を鉛直方向に貫通するクランク軸17に連結されている。ロータ52は、クランク軸17を介して、圧縮機構15と接続されている。
【0040】
ロータ52は、鉛直方向に積層された複数の金属板から構成されるロータコア52aと、ロータコア52aに埋め込まれている複数の磁石52bとを有する。磁石52bは、ロータコア52aの周方向に沿って、等間隔に配置されている。
【0041】
(1−4)クランク軸
クランク軸17は、ケーシング10の内部に収容され、その軸方向が鉛直方向に沿うように配置されている。クランク軸17は、駆動モータ16のロータ52、および、圧縮機構15のピストン21に連結されている。クランク軸17は、偏心軸部17aを有している。偏心軸部17aは、シリンダ24のシリンダ孔24aに挿入されるピストン21のローラ21aと連結されている。クランク軸17の上側の端部は、駆動モータ16のロータ52と連結している。クランク軸17は、フロントヘッド23の上部軸受部23a、および、リアヘッド25の下部軸受部25aによって支持されている。
【0042】
(1−5)吸入管
吸入管19は、ケーシング10の胴部ケーシング部11を貫通する管である。ケーシング10の内部にある吸入管19の端部は、シリンダ24の吸入孔24bに嵌め込まれている。ケーシング10の外部にある吸入管19の端部は、冷媒回路に接続されている。吸入管19は、冷媒回路から圧縮機構15に冷媒を供給するための管である。
【0043】
(1−6)吐出管
吐出管20は、ケーシング10の上壁部12を貫通する管である。ケーシング10の内部にある吐出管20の端部は、駆動モータ16の上方の空間に位置している。ケーシング10の外部にある吐出管20の端部は、冷媒回路に接続されている。吐出管20は、圧縮機構15によって圧縮された冷媒を冷媒回路に供給するための管である。
【0044】
(2)ロータリ圧縮機の動作
ロータリ圧縮機101の動作について説明する。駆動モータ16が始動すると、クランク軸17の偏心軸部17aは、クランク軸17の回転軸を中心に偏心回転する。これにより、偏心軸部17aに連結されているピストン21のローラ21aは、シリンダ孔24aにおいて公転する。ピストン21の外周面がシリンダ24の内周面と接しながら、ローラ21aは公転する。ローラ21aの公転によって、ピストン21のブレード21bは、その両側面をブッシュ22に挟まれながら進退する。ブッシュ22は、シリンダ24およびピストン21のブレード21bと摺動しながらブッシュ収容孔24dで揺動する。
【0045】
ローラ21aの公転に伴い、吸入孔24bと連通する吸入室40aは、徐々に容積を増加させる。このとき、ケーシング10の外部から吸入管19を経由して、吸入室40aに低圧の冷媒が流入する。ローラ21aの公転に伴い、吸入室40aは、吐出路24cと連通する吐出室40bとなり、吐出室40bは、徐々に容積を減少させて、再び吸入室40aとなる。これにより、吸入管19から吸入孔24bを経由して吸入室40aに吸入された低圧の冷媒は、吐出室40bで圧縮される。吐出室40bで圧縮された高圧の冷媒は、吐出路24cおよび吐出ポート23bを経由して、高圧空間S1に吐出される。高圧空間S1に吐出された冷媒は、駆動モータ16のモータ冷却通路を通過して上方に向かって流れた後、吐出管20からケーシング10の外部に吐出される。
【0046】
(3)特徴
本実施形態に係るロータリ圧縮機101では、シリンダ24およびピストン21と摺動するブッシュ22の摺動面22aの硬度は、シリンダ24およびピストン21の材質であるAl‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い。これにより、シリンダ24およびピストン21に含まれる初晶Siによる、ブッシュ22の摺動面22aの磨耗が抑制される。また、シリンダ24およびピストン21の材質であるAl‐Si合金のSi含有量は、共晶点である12.6wt%より大きい。このように、Al‐Si合金のSi含有量が高いので、シリンダ24およびピストン21の磨耗が抑制される。そして、シリンダ24、ピストン21およびブッシュ22の磨耗量が抑制されることにより、ロータリ圧縮機101の信頼性の低下が抑制される。また、Al‐Si合金のようなアルミニウム系材料は、鉄系材料に比べて軽量である。そのため、シリンダ24およびピストン21の重量を抑えることができ、ロータリ圧縮機101全体を軽量化することができる。従って、ロータリ圧縮機101は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【0047】
また、ロータリ圧縮機101では、シリンダ24およびピストン21は、同じ材質から成形される。これにより、シリンダ24の磨耗量は、ピストン21の磨耗量と同程度になるため、シリンダ24の寿命は、ピストン21の寿命と同程度になる。従って、ロータリ圧縮機101全体の寿命の低下が抑えられる。
【0048】
(4)実施例
(4−1)実施例1
次に、ロータリ圧縮機101のシリンダ24、ピストン21およびブッシュ22の磨耗量の評価のために行った磨耗評価試験について説明する。
【0049】
図4は、摩擦評価試験方法の概略図である。この試験では、ブレード91およびディスク92からなる2種類の試験片が用いられる。ブレード91は、ブッシュ22に対応し、ディスク92は、シリンダ24およびピストン21に対応する。図5は、ブレード91の外観図である。ブレード91は、R形状の上面を有している。ブレード91は、円筒形状のリング93の上面の3箇所に固定されている。3つのブレード91は、リング93の円周方向に沿って等間隔に配置されている。ディスク92は、円筒形状を有している。ディスク92は、リング93の上方に配置されている。ディスク92の下面は、ブレード91のR形状の上面と対向している。
【0050】
この試験では、最初に、リング93を2.0m/sの一定速度で回転させた。次に、リング93の回転軸93aの方向に沿って、リング93に向かう荷重94をディスク92に加えた。これにより、リング93の上面に固定されている3つのブレード91に対してディスク92を押し付けて、ブレード91とディスク92とを互いに摺動させた。このとき、ディスク92に加えられた荷重は600Nであった。ディスク92に加えられた荷重は、1時間保持された。この試験は、冷媒R410Aと冷凍機油としてのエーテル油FVC68Dとを20:30の割合で混合した雰囲気中で行われた。このとき、ブレード91とディスク92との摺動面における摩擦係数を測定した。また、試験終了後、ブレード91およびディスク92の磨耗量を測定した。次の表1は、磨耗評価試験の測定結果である。
【0051】
【表1】
【0052】
上の表1において、「17Si/Al」は、Si含有量が17%であるAl‐Si合金であり、例えば、昭和電工株式会社のA390合金である。「11Si/Al」は、Si含有量が11%であるAl‐Si合金であり、例えば、昭和電工株式会社のAHS2合金である。「FC250」は、ねずみ鋳鉄である。「SCM435」は、炭素量0.33%〜0.38%のクロムモリブデン鋼である。「SKH51」は、工具鋼の一種であるモリブデン系高速度工具鋼である。「SKH51+DLC」は、SKH51材の表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)のコーティングが形成された部材である。「SKH51+窒化」は、SKH51材の表面が窒化処理された部材である。
【0053】
サンプルAとサンプルHとを比較すると、Si含有量が共晶点より高いアルミニウム合金(17Si/Al)と鋼との組み合わせ(サンプルA)は、鋳鉄と鋼との組み合わせ(サンプルH)より、ブレード91の磨耗量が大きかった。
【0054】
サンプルAとサンプルBとを比較すると、鋼にDLCをコーティングすることで、摩擦係数は低下したが、ブレード91の磨耗量は増加した。これは、ディスク92の材質であるアルミニウム合金に含まれる硬質粒子である初晶Siによって、ブレード91の表面が磨耗したことによると考えられる。
【0055】
サンプルAとサンプルCとを比較すると、初晶Siによるブレード91の表面の磨耗量を低減するために、Si含有量が共晶点より低いアルミニウム合金(11Si/Al)を使用した結果、摩擦係数が増加し、焼き付きが発生した。サンプルBとサンプルDとを比較すると、同様の傾向が確認された。
【0056】
サンプルAとサンプルF,Gとを比較すると、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることで、摩擦係数、および、ディスク92の磨耗量がほとんど変化せずに、ブレード91の磨耗量が低下した。また、サンプルFとサンプルGとの比較から、鋼の表面の硬度が高いほど、ブレード91の磨耗量が低下した。
【0057】
なお、サンプルEとサンプルF,Gとを比較すると、鋼に窒化処理を行った場合であっても、Si含有量が共晶点より低いアルミニウム合金(11Si/Al)を使用すると、摩擦係数が増加し、かつ、ディスク92およびブレード91の磨耗量も増加した。
【0058】
以上の結果より、ディスク92の材質としてSi含有量が共晶点より高いアルミニウム合金(17Si/Al)を使用し、かつ、ブレード91の材質として表面が窒化処理された鋼を使用することにより、摩擦係数、および、ディスク92およびブレード91の磨耗量を抑えることができることが確認された。また、ブレード91の材質である鋼の表面の硬度が高いほど、ブレード91の磨耗量が低下することが確認された。
【0059】
(4−2)実施例2
図6は、本評価試験のブッシュ22における線状最大荷重部Pの寸法Hを説明するための図である。図7は、製品aにおける(a)1回転中に線状最大荷重部Pにかかる荷重の変動、及び(b)1回転中のブレード21bの摺動速度の変動を示している。なお、図6中の線状最大荷重部Pは、図2図8及び図9中にも示されている。
【0060】
実施例2では、ロータリ圧縮機101のブッシュ22の材質と、ブッシュ22が受ける荷重とがブッシュ22の摩耗量に与える影響を評価するための評価試験を行った。
【0061】
【表2】
【0062】
表2において、要素試験(600N)とあるものは、実施例1と同じ条件で試験を行った結果を示している。また、表2において、要素試験(400N)とあるものは、ディスク92に加える荷重を600Nから400Nとした以外は、要素試験(600N)と同様の条件で試験を行った結果を示している。
【0063】
また、表2において、単位最大荷重(単位:N/mm)とは、次式で表される。
【0064】
単位最大荷重=最大荷重(単位:N)/線状最大荷重部Pの寸法H(単位:mm)
ここで、線状最大荷重部とは、ブッシュ22又はブッシュ22に相当するブレード91の摺動面のうち荷重が最も大きい線状の部分、言い換えると、摺動面のうち荷重を最も大きく受ける線状の部分である。なお、要素試験における400Nに相当する単位最大荷重は33であり、600Nに相当する単位最大荷重は50である。また、製品では、図7(a)に示すように、回転角度に応じて線状最大荷重部Pにかかる荷重が変動する。例えば、製品aでは、単位最大荷重が30となる。
【0065】
表2において、平均摺動速度(単位:m/s)とは、線状最大荷重部とシリンダ24あるいはピストン21との摺動速度の平均値であって、製品(図2に示されるような圧縮機構15を備えるロータリ圧縮機101)ではブッシュ22とブレード21bとの摺動速度の平均値である。なお、要素試験では、リング93を2.0m/sの一定速度で回転させているため、平均摺動速度は2.0となる。一方、製品では、図7(b)に示すように、回転角度に応じてブレードの摺動速度は変動する。例えば、製品aでは、平均摺動速度は1.8となる。
【0066】
要素試験(400N)では、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブレード91の摩耗量を抑えることができた。
【0067】
要素試験(600N)では、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としてもブレード91の磨耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブレード91の摩耗量を抑えることができた。
【0068】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品aとを比較すると、単位最大荷重及び平均摺動速度のいずれもが要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも小さい製品aでは、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0069】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品bとを比較すると、要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも、単位最大荷重が小さく、平均摺動速度が大きい製品bでは、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0070】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品cとを比較すると、平均摺動速度が要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも小さく、単位最大荷重が要素試験(400N)より大きくかつ要素試験(600N)より小さい製品cでは、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0071】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品dとを比較すると、平均摺動速度が要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも大きく、単位最大荷重が要素試験(400N)より大きくかつ要素試験(600N)より小さい製品dでは、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0072】
以上の結果より、ロータリ圧縮機101のシリンダ24及びピストン21の材質としてSi含有量が共晶点より高いアルミニウム合金(17Si/Al)を使用する場合であって、式:設計指標(DV)=単位最大荷重(単位:N/mm)×平均摺動速度(単位:m/s)によって演算される設計指標(DV)が67未満であれば、ブッシュ22の材質として表面にDLC皮膜がコーティングされた鋼を使用しても、ブッシュ22の磨耗量を抑えることができることが確認された。
【0073】
(5)変形例
本実施形態の具体的構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で変更可能である。以下、本実施形態に適用可能な変形例について説明する。
【0074】
(5−1)変形例A
本実施形態では、ブッシュ22の摺動面22aを含む表層は、摺動面22aの硬度がHv1000以上となるように、窒化処理によって改質されている。しかし、ブッシュ22の表層は、摺動面22aの硬度がより高くなるように、窒化処理によって改質されてもよい。例えば、ブッシュ22の表層は、摺動面22aの硬度がHv1200以上となるように、窒化処理によって改質されてもよい。
【0075】
(5−2)変形例B
本実施形態では、ブッシュ22は、工具鋼から成形されるが、表面の硬度がHv1000以上である他の材料から成形されてもよい。例えば、ブッシュ22は、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)および窒化ホウ素(BN)等のセラミックスから成形されてもよい。
【0076】
(5−3)変形例C
本実施形態では、圧縮機構15は、1シリンダタイプの圧縮機構であるが、2シリンダタイプの圧縮機構であってもよい。
【0077】
(5−4)変形例D
本実施形態では、圧縮機構15は、ピストン21およびシリンダ24と摺動するブッシュ22を有している。この圧縮機構15では、ピストン21のブレード21bは、その両側面をブッシュ22に挟まれながら進退し、ブッシュ22は、シリンダ24およびピストン21のブレード21bと摺動しながら揺動する。
【0078】
しかし、ロータリ圧縮機101は、図8に示されるように、ローラ121とベーン122とを有する圧縮機構115を備えてもよい。図8は、図2と同様の、圧縮機構115の断面図である。図8において、図2と同じ構成要素は、同じ参照符号で示されている。圧縮機構115は、主として、ローラ121と、ベーン122と、バネ123と、シリンダ124とから構成される。ベーン122およびバネ123は、ベーン収容孔124dに収容される。ローラ121の回転によって、ベーン122はベーン収容孔124dにおいて進退し、バネ123は、ベーン122をローラ121に押し付ける。これにより、圧縮機構115は、吸入室40aおよび吐出室40bを形成する。
【0079】
本変形例では、ベーン122は、ローラ121およびシリンダ124と摺動する。ベーン122は、本実施形態のブッシュ22に相当し、工具鋼から成形される。ベーン122の表層は、ベーン122の表面の硬度がHv1000以上となるように、改質されている。具体的には、ベーン122の表層が、窒化処理によって改質されている、或いは、DLC薄膜でコーティングされている。なお、ベーン122の表層がDLC薄膜でコーティングされている場合には、式:設計指標(DV)=単位最大荷重(単位:N/mm)×平均摺動速度(単位:m/s)によって演算される設計指標(DV)が67未満である必要がある。なお、図8に示されるような圧縮機構115を備えるロータリ圧縮機101において、単位最大荷重(単位:N/mm)を算出するための線状最大荷重部とは、ベーン122の摺動面のうち荷重が最も大きい線状の部分であり、平均摺動速度(単位:m/s)とは、ベーン122とシリンダ124との摺動速度の平均値である。ローラ121およびシリンダ124は、本実施形態のピストン21およびシリンダ24にそれぞれ相当し、Al‐Si合金から成形される。このAl‐Si合金は、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有する。
【0080】
(5−5)変形例E
本実施形態の圧縮機構15では、ピストン21のローラ21aの外周面形状が、真円形に形成されている。
【0081】
しかし、ロータリ圧縮機101の圧縮機構215が、図9に示されるように、ローラ221aの外周面形状が非円形に形成されていてもよい。この場合、シリンダ224の内周面形状についても非円形に形成される。なお、ローラ221aの形状については、クランク軸17の中心Oを通りかつクランク軸17に直交する線Lに沿って延びるようにピストン221のブレード221bが位置した場合に、線Lに対してローラ221aの外周面形状が対称であっても(図9参照)、線Lに対してローラ221aの外周面形状が非対称であってもよい。このように、ローラ221aの外周面形状が非円形に形成されていることで、ローラ21aの外周面形状が真円形に形成されているよりも、ブッシュ22がシリンダ224およびピストン221のブレード221bと摺動する際にブッシュ22が受ける荷重を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る圧縮機は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0083】
21 ピストン
22 ブッシュ(摺動部材)
22a 摺動面
24 シリンダ
24a シリンダ孔(シリンダ室)
101 ロータリ圧縮機(圧縮機)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0084】
【特許文献1】特開2004−293558号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2015年9月30日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ室(24a)を有するシリンダ(24,124)と、
前記シリンダ室において、前記シリンダに対して移動するピストン(21,121)と、
前記シリンダ室において、前記シリンダおよび前記ピストンと摺動する摺動部材(22,122)と、
を備えるロータリ圧縮機であって、
前記シリンダおよび前記ピストンは、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有するAl‐Si合金から成形され、
前記摺動部材は、鋼から成形され、前記シリンダおよび前記ピストンと摺動する摺動面(22a)を含む表層を有し、
前記表層は、前記Al‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い硬度を有するように改質されており、前記摺動面においてHv1000以上の硬度を有する、
ロータリ圧縮機(101)。
【請求項2】
前記表層は、窒化処理によって改質されている、
請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記摺動面のうち前記シリンダあるいは前記ピストンから受ける荷重が最も大きい線状の部分である線状最大荷重部の、単位長さ1mm当たりにかかる最大荷重である単位最大荷重(単位:N/mm)と、
前記線状最大荷重部と前記シリンダあるいは前記ピストンとの摺動の速度の平均値である平均摺動速度(単位:m/s)と、
から
式:設計指標(DV)=単位最大荷重×平均摺動速度
によって演算される前記設計指標(DV)が、67未満であり、
前記改質は、DLC薄膜のコーティングである、
請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記表層は、前記摺動面において、Hv1200以上の硬度を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項5】
前記シリンダおよび前記ピストンは、同じ材質から成形される、
請求項1から4のいずれか1項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項6】
前記ピストンは、ローラと、前記ローラの外周面に固定されたブレードと、を有し、
前記ローラの外周面形状が非円形に形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項7】
前記摺動部材は、工具鋼から成形される、
請求項1から6のいずれか1項に記載のロータリ圧縮機。
【請求項8】
R32を冷媒として用いる、
請求項1から7のいずれか1項に記載のロータリ圧縮機。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダ室を有するシリンダと、シリンダ室に収納されるピストンとが相対的に移動することで冷媒を圧縮するロータリ式の圧縮機が用いられている。ロータリ式の圧縮機では、シリンダ室が2つの圧縮室に区画され、各圧縮室の容積が周期的に増減することによって冷媒が圧縮される。
【0003】
ロータリ式の圧縮機の例として、特許文献1(特開2004−293558号公報)には、ブレードを有するピストンを備える圧縮機が開示されている。ブレードは、ピストンと一体形成され、シリンダ室を2つの圧縮室に区画する。ブレードは、シリンダのブッシュ孔に設けられた略半円形状の断面を有する一対のブッシュに挟まれている。一対のブッシュの間でブレードが進退運動することで、ブッシュは、シリンダおよびブレードと摺動しながらブッシュ孔内を揺動する。
【0004】
この圧縮機において、シリンダとピストンとは、ブッシュを介して相対的に移動するので、シリンダとブッシュとの摺動部分、および、ピストンとブッシュとの摺動部分は、優れた摺動性および耐摩耗性が要求される。また、従来、摺動部分を構成するシリンダおよびピストンの材料として、主として鉄系材料が用いられてきたが、近年、アルミニウム系材料を用いることが検討されている。シリンダおよびピストンは、ブッシュとの間の隙間を最小化するために高精度な加工が要求される。鉄系材料は、高精度な加工を行うために、切削加工および研磨工程が必要である。一方、アルミニウム系材料は、切削加工のみで高精度な加工が可能であり、加工費を抑えることができる。さらに、鉄系材料からアルミニウム系材料に変更することで、シリンダおよびピストンを軽量化できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルミニウム系材料からなるシリンダおよびピストンと、鉄系材料からなるブッシュとが摺動する場合は、鉄系材料からなる部材同士が摺動する場合と比較して、摺動性および耐摩耗性が著しく劣るという問題点がある。また、シリンダおよびピストンの材料としてアルミニウム系材料としてAl−Si合金を用いる場合、Si含有量が低く共晶Si組織を有する合金を用いると、シリンダおよびピストンの磨耗量が増加し、Si含有量が高い合金を用いると、合金に含まれる初晶Siによってブッシュの磨耗量が増加するおそれがある。そして、摺動部分を構成するシリンダ、ピストンおよびブッシュの磨耗量が増加すると、圧縮機の信頼性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1観点に係るロータリ圧縮機は、シリンダと、ピストンと、摺動部材とを備える。シリンダは、シリンダ室を有する。ピストンは、シリンダ室において、シリンダに対して移動する。摺動部材は、シリンダ室において、シリンダおよびピストンと摺動する。シリンダおよびピストンは、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有するAl‐Si合金から成形される。摺動部材は、鋼から成形され、シリンダおよびピストンと摺動する摺動面を含む表層を有する。表層は、Al‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い硬度を有するように改質されている。そして、表層は、摺動面において、Hv1000以上の硬度を有する。
【0008】
このロータリ圧縮機では、シリンダおよびピストンと摺動する摺動部材の表面の硬度は、シリンダおよびピストンの材料であるAl‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高く、摺動面において、Hv1000以上の硬度を有する。そのため、初晶Siによる摺動部材の磨耗が抑制される。また、Al‐Si合金のSi含有量が高いので、シリンダおよびピストンの磨耗が抑制される。また、Al‐Si合金のようなアルミニウム系材料は、鉄系材料に比べて軽量である。従って、本発明の第1観点に係るロータリ圧縮機は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【0009】
本発明の第2観点に係るロータリ圧縮機は、第1観点に係るロータリ圧縮機であって、表層は、窒化処理によって改質されている。
【0010】
本発明の第3観点に係るロータリ圧縮機は、第1観点または第2観点に係るロータリ圧縮機であって、改質は、DLC薄膜のコーティングである。そして、式:設計指標(DV)=単位最大荷重(単位:N/mm)×平均摺動速度(単位:m/s)によって演算される設計指標(DV)が、67未満である。単位最大荷重は、線状最大荷重部の単位長さ1mm当たりにかかる最大荷重である。線状最大荷重部は、摺動面のうちシリンダあるいはピストンから受ける荷重が最も大きい線状の部分である。平均摺動速度は、線状最大荷重部とシリンダあるいはピストンとの摺動の速度の平均値である。
【0011】
本発明の第4観点に係るロータリ圧縮機は、第3観点に係るロータリ圧縮機であって、表層は、摺動面において、Hv1200以上の硬度を有する。
【0012】
本発明の第5観点に係るロータリ圧縮機は、第1観点乃至第4観点のいずれか1つに係るロータリ圧縮機であって、シリンダおよびピストンは、同じ材質から成形される。
【0013】
このロータリ圧縮機では、シリンダの磨耗量とピストンの磨耗量とが同程度になるので、シリンダの寿命とピストンの寿命とが同程度になる。従って、本発明の第5観点に係るロータリ圧縮機は、寿命の低下を抑えることができる。
【0014】
本発明の第6観点に係るロータリ圧縮機は、第1観点乃至第5観点のいずれか1つに係るロータリ圧縮機であって、ピストンは、ローラと、ローラの外周面に固定されたブレードとを有する。そして、ローラの外周面形状が、非円形に形成されている。
【0015】
本発明の第7観点に係るロータリ圧縮機は、第1観点乃至第6観点のいずれか1つに係るロータリ圧縮機であって、摺動部材は、工具鋼から成形される。
【0016】
本発明の第8観点に係るロータリ圧縮機は、第1観点乃至第7観点のいずれか1つに係るロータリ圧縮機であって、R32を冷媒として用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る圧縮機は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るロータリ圧縮機の縦断面図である。
図2図1の線分II−IIにおける圧縮機構の断面図である。
図3図2のブッシュの近傍の拡大図である。
図4】摩擦評価試験方法の概略図である。
図5】ブレードの外観図である。
図6】ブッシュの線状最大荷重部を説明するための図である。
図7】製品における、1回転中に線状最大荷重部にかかる荷重の変動、及び1回転中のブレードの摺動速度の変動を説明するための図である。
図8】変形例Dにおける、圧縮機構の断面図である。
図9】変形例Eにおける、圧縮機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係るロータリ圧縮機について、図面を参照しながら説明する。ロータリ圧縮機は、シリンダの内部でピストンを偏心回転させて、シリンダの内部の空間の容積を変化させることにより、空気調和装置等の冷媒回路を循環する冷媒を圧縮する圧縮機である。
【0020】
(1)ロータリ圧縮機の構成
図1は、本実施形態に係るロータリ圧縮機101の縦断面図である。ロータリ圧縮機101は、主として、ケーシング10と、圧縮機構15と、駆動モータ16と、クランク軸17と、吸入管19と、吐出管20とを備える。ロータリ圧縮機101は、1シリンダタイプの圧縮機である。ロータリ圧縮機101で使用される冷媒は、例えば、R410A、R22、R32および二酸化炭素である。次に、ロータリ圧縮機101の各構成要素について説明する。
【0021】
(1−1)ケーシング
ケーシング10は、略円筒状の胴部ケーシング部11と、胴部ケーシング部11の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部12と、胴部ケーシング部11の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部13とを有する。ケーシング10は、ケーシング10の内部および外部において圧力や温度が変化した場合に、変形および破損が起こりにくい剛性部材で成型されている。ケーシング10は、胴部ケーシング部11の略円筒状の軸方向が鉛直方向に沿うように設置されている。ケーシング10の底部には、潤滑油が貯留される油貯留部10aが設けられている。潤滑油は、ロータリ圧縮機101内部の摺動部を潤滑するために用いられる冷凍機油である。
【0022】
ケーシング10は、主として、圧縮機構15と、圧縮機構15の上方に配置される駆動モータ16と、鉛直方向に延びるように配置されるクランク軸17とを収容している。圧縮機構15は、駆動モータ16と、クランク軸17によって連結されている。ケーシング10の壁部には、吸入管19および吐出管20が気密状に溶接されている。
【0023】
(1−2)圧縮機構
図2は、図1の線分II―IIにおける圧縮機構15の断面図である。圧縮機構15は、主として、フロントヘッド23と、シリンダ24と、リアヘッド25と、ピストン21と、ブッシュ22とから構成されている。フロントヘッド23、シリンダ24、およびリアヘッド25は、ボルトによって一体的に締結されている。圧縮機構15の上方の空間は、圧縮機構15によって圧縮された冷媒が吐出される高圧空間S1である。
【0024】
圧縮機構15は、油貯留部10aに貯留されている潤滑油に浸漬されている。油貯留部10aの潤滑油は、差圧等によって、圧縮機構15の摺動部に供給される。次に、圧縮機構15の各構成要素について説明する。
【0025】
(1−2−1)シリンダ
シリンダ24は、主として、シリンダ孔24aと、吸入孔24bと、吐出路24cと、ブッシュ収容孔24dと、ブレード収容孔24eと、断熱孔24fとを有している。シリンダ24は、フロントヘッド23およびリアヘッド25と連結されている。シリンダ24の上側の端面は、フロントヘッド23の下面と接している。シリンダ24の下側の端面は、リアヘッド25の上面と接している。シリンダ24は、Al‐Si合金から成形される。シリンダ24の材質であるAl‐Si合金は、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有する。
【0026】
シリンダ孔24aは、シリンダ24の上側の端面から下側の端面に向かって、鉛直方向にシリンダ24を貫通している円柱状の孔である。シリンダ孔24aは、シリンダ24の内周面によって囲まれる空間である。吸入孔24bは、シリンダ24の外周面からシリンダ24の内周面に向かって、シリンダ24の径方向に沿って貫通している孔である。吐出路24cは、シリンダ24の内周面の一部が切り欠かれることによって、鉛直方向にシリンダ24を貫通することなく形成される空間である。ブッシュ収容孔24dは、鉛直方向にシリンダ24を貫通し、かつ、鉛直方向に沿って見た場合において吸入孔24bと吐出路24cとの間に配置される孔である。ブレード収容孔24eは、鉛直方向にシリンダ24を貫通し、かつ、ブッシュ収容孔24dと連通する孔である。断熱孔24fは、シリンダ24の外周面とシリンダ24の内周面との間において、鉛直方向にシリンダ24を貫通する孔である。シリンダ24は、複数の断熱孔24fを有する。
【0027】
シリンダ孔24aは、クランク軸17の偏心軸部17a、および、ピストン21のローラ21aを収容する。ブッシュ収容孔24dは、ピストン21のブレード21bおよびブッシュ22を収容する。ブレード収容孔24eにピストン21のブレード21bが収容されている状態において、吐出路24cは、フロントヘッド23側に形成されている。
【0028】
(1−2−2)ピストン
ピストン21は、シリンダ24のシリンダ孔24aに挿入される。ピストン21は、略円筒状のローラ21aと、ローラ21aの径方向外側に突出するブレード21bとを有する。ピストン21は、ローラ21aおよびブレード21bが一体となっている部材である。ピストン21の上側の端面は、フロントヘッド23の下面と接している。ピストン21の下側の端面は、リアヘッド25の上面と接している。ピストン21は、Al‐Si合金から成形される。ピストン21の材質であるAl‐Si合金は、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有する。ピストン21の材質は、シリンダ24の材質と同じである。
【0029】
ローラ21aは、クランク軸17の偏心軸部17aに嵌合された状態で、シリンダ24のシリンダ孔24aに挿入される。これにより、ローラ21aは、クランク軸17の軸回転によって、クランク軸17の回転軸を中心とする公転運動を行う。ローラ21aは、圧縮機構15を上面視した場合に、時計回りに公転する。
【0030】
ブレード21bは、シリンダ24のブッシュ収容孔24dおよびブレード収容孔24eに収容される。ブレード21bは、ブッシュ22と摺動しながら揺動する。ブレード21bは、その長手方向に沿って進退運動を行う。
【0031】
圧縮機構15は、シリンダ24と、ピストン21と、フロントヘッド23と、リアヘッド25とによって囲まれる空間である圧縮室を有している。圧縮室は、ピストン21によって、吸入孔24bと連通する吸入室40aと、吐出路24cと連通する吐出室40bとに区画されている。図2において、吸入室40aおよび吐出室40bは、シリンダ24の内周面と、ピストン21の外周面とによって囲まれている領域として示されている。吸入室40aおよび吐出室40bの容積は、ピストン21の位置に応じて変化する。
【0032】
(1−2−3)ブッシュ
ブッシュ22は、一対の略半円柱状の部材である。ブッシュ22は、ピストン21のブレード21bを挟み込むようにして、シリンダ24のブッシュ収容孔24dに収容される。ブッシュ22は、工具鋼から成形される。
【0033】
図3は、図2のブッシュ22の近傍の拡大図である。ブッシュ22は、シリンダ24およびピストン21と摺動する摺動面22aを有している。ブッシュ22は、摺動面22aを含む表層を有している。ブッシュ22の表層は、窒化処理によって改質されている。窒化処理は、ガス窒化およびイオン窒化等による処理である。表層の厚みは、例えば、10μm〜20μmである。摺動面22aにおけるブッシュ22の表層の硬度は、Hv1000以上である。ブッシュ22の表層の硬度は、シリンダ24およびピストン21の材質であるAl‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い。
【0034】
(1−2−4)フロントヘッド
フロントヘッド23は、シリンダ24の上側の端面を覆う部材である。フロントヘッド23は、ボルト等によって、ケーシング10に締結されている。フロントヘッド23は、クランク軸17を支持するための上部軸受部23aを有する。フロントヘッド23は、吐出ポート23bを有している。吐出ポート23bは、吐出路24cおよび高圧空間S1と連通している。吐出ポート23bは、圧縮機構15によって圧縮された冷媒を、吐出室40bから高圧空間S1に送るための流路である。フロントヘッド23の上面には、吐出ポート23bの上側の開口部を塞ぐ吐出弁23cが取り付けられている。吐出弁23cは、高圧空間S1から吐出室40bへの冷媒の逆流を防ぐための弁である。吐出弁23cは、吐出ポート23b内部の冷媒の圧力によって上方に持ち上げられる。これにより、吐出ポート23bは、高圧空間S1と連通する。
【0035】
(1−2−5)リアヘッド
リアヘッド25は、シリンダ24の下側の端面を覆う部材である。リアヘッド25は、クランク軸17を支持するための下部軸受部25aを有する。シリンダ24のシリンダ孔24aは、フロントヘッド23およびリアヘッド25によって閉塞されている。
【0036】
(1−3)駆動モータ
駆動モータ16は、ケーシング10の内部に収容され、圧縮機構15の上方に設置されるブラシレスDCモータである。駆動モータ16は、主として、ケーシング10の内壁面に固定されるステータ51と、ステータ51の内側にエアギャップを設けて回転自在に収容されるロータ52とから構成される。
【0037】
ステータ51は、ステータコア61と、ステータコア61の鉛直方向の両端面に取り付けられる一対のインシュレータ62とを有する。ステータコア61は、円筒部と、円筒部の内周面から径方向内側に向かって突出している複数のティース(図示せず)とを有する。ステータコア61のティースは、一対のインシュレータ62と共に、導線が巻き付けられている。これにより、ステータコア61の各ティースには、コイル72aが形成されている。
【0038】
ステータ51の外側面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り、かつ、周方向に所定間隔をおいて、切欠形成されている複数のコアカット部(図示せず)が設けられている。コアカット部は、胴部ケーシング部11とステータ51との間を鉛直方向に延びるモータ冷却通路を形成する。
【0039】
ロータ52は、鉛直方向に積層された複数の金属板から構成される。ロータ52は、その回転中心を鉛直方向に貫通するクランク軸17に連結されている。ロータ52は、クランク軸17を介して、圧縮機構15と接続されている。
【0040】
ロータ52は、鉛直方向に積層された複数の金属板から構成されるロータコア52aと、ロータコア52aに埋め込まれている複数の磁石52bとを有する。磁石52bは、ロータコア52aの周方向に沿って、等間隔に配置されている。
【0041】
(1−4)クランク軸
クランク軸17は、ケーシング10の内部に収容され、その軸方向が鉛直方向に沿うように配置されている。クランク軸17は、駆動モータ16のロータ52、および、圧縮機構15のピストン21に連結されている。クランク軸17は、偏心軸部17aを有している。偏心軸部17aは、シリンダ24のシリンダ孔24aに挿入されるピストン21のローラ21aと連結されている。クランク軸17の上側の端部は、駆動モータ16のロータ52と連結している。クランク軸17は、フロントヘッド23の上部軸受部23a、および、リアヘッド25の下部軸受部25aによって支持されている。
【0042】
(1−5)吸入管
吸入管19は、ケーシング10の胴部ケーシング部11を貫通する管である。ケーシング10の内部にある吸入管19の端部は、シリンダ24の吸入孔24bに嵌め込まれている。ケーシング10の外部にある吸入管19の端部は、冷媒回路に接続されている。吸入管19は、冷媒回路から圧縮機構15に冷媒を供給するための管である。
【0043】
(1−6)吐出管
吐出管20は、ケーシング10の上壁部12を貫通する管である。ケーシング10の内部にある吐出管20の端部は、駆動モータ16の上方の空間に位置している。ケーシング10の外部にある吐出管20の端部は、冷媒回路に接続されている。吐出管20は、圧縮機構15によって圧縮された冷媒を冷媒回路に供給するための管である。
【0044】
(2)ロータリ圧縮機の動作
ロータリ圧縮機101の動作について説明する。駆動モータ16が始動すると、クランク軸17の偏心軸部17aは、クランク軸17の回転軸を中心に偏心回転する。これにより、偏心軸部17aに連結されているピストン21のローラ21aは、シリンダ孔24aにおいて公転する。ピストン21の外周面がシリンダ24の内周面と接しながら、ローラ21aは公転する。ローラ21aの公転によって、ピストン21のブレード21bは、その両側面をブッシュ22に挟まれながら進退する。ブッシュ22は、シリンダ24およびピストン21のブレード21bと摺動しながらブッシュ収容孔24dで揺動する。
【0045】
ローラ21aの公転に伴い、吸入孔24bと連通する吸入室40aは、徐々に容積を増加させる。このとき、ケーシング10の外部から吸入管19を経由して、吸入室40aに低圧の冷媒が流入する。ローラ21aの公転に伴い、吸入室40aは、吐出路24cと連通する吐出室40bとなり、吐出室40bは、徐々に容積を減少させて、再び吸入室40aとなる。これにより、吸入管19から吸入孔24bを経由して吸入室40aに吸入された低圧の冷媒は、吐出室40bで圧縮される。吐出室40bで圧縮された高圧の冷媒は、吐出路24cおよび吐出ポート23bを経由して、高圧空間S1に吐出される。高圧空間S1に吐出された冷媒は、駆動モータ16のモータ冷却通路を通過して上方に向かって流れた後、吐出管20からケーシング10の外部に吐出される。
【0046】
(3)特徴
本実施形態に係るロータリ圧縮機101では、シリンダ24およびピストン21と摺動するブッシュ22の摺動面22aの硬度は、シリンダ24およびピストン21の材質であるAl‐Si合金に含まれる初晶Siの硬度よりも高い。これにより、シリンダ24およびピストン21に含まれる初晶Siによる、ブッシュ22の摺動面22aの磨耗が抑制される。また、シリンダ24およびピストン21の材質であるAl‐Si合金のSi含有量は、共晶点である12.6wt%より大きい。このように、Al‐Si合金のSi含有量が高いので、シリンダ24およびピストン21の磨耗が抑制される。そして、シリンダ24、ピストン21およびブッシュ22の磨耗量が抑制されることにより、ロータリ圧縮機101の信頼性の低下が抑制される。また、Al‐Si合金のようなアルミニウム系材料は、鉄系材料に比べて軽量である。そのため、シリンダ24およびピストン21の重量を抑えることができ、ロータリ圧縮機101全体を軽量化することができる。従って、ロータリ圧縮機101は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【0047】
また、ロータリ圧縮機101では、シリンダ24およびピストン21は、同じ材質から成形される。これにより、シリンダ24の磨耗量は、ピストン21の磨耗量と同程度になるため、シリンダ24の寿命は、ピストン21の寿命と同程度になる。従って、ロータリ圧縮機101全体の寿命の低下が抑えられる。
【0048】
(4)実施例
(4−1)実施例1
次に、ロータリ圧縮機101のシリンダ24、ピストン21およびブッシュ22の磨耗量の評価のために行った磨耗評価試験について説明する。
【0049】
図4は、摩擦評価試験方法の概略図である。この試験では、ブレード91およびディスク92からなる2種類の試験片が用いられる。ブレード91は、ブッシュ22に対応し、ディスク92は、シリンダ24およびピストン21に対応する。図5は、ブレード91の外観図である。ブレード91は、R形状の上面を有している。ブレード91は、円筒形状のリング93の上面の3箇所に固定されている。3つのブレード91は、リング93の円周方向に沿って等間隔に配置されている。ディスク92は、円筒形状を有している。ディスク92は、リング93の上方に配置されている。ディスク92の下面は、ブレード91のR形状の上面と対向している。
【0050】
この試験では、最初に、リング93を2.0m/sの一定速度で回転させた。次に、リング93の回転軸93aの方向に沿って、リング93に向かう荷重94をディスク92に加えた。これにより、リング93の上面に固定されている3つのブレード91に対してディスク92を押し付けて、ブレード91とディスク92とを互いに摺動させた。このとき、ディスク92に加えられた荷重は600Nであった。ディスク92に加えられた荷重は、1時間保持された。この試験は、冷媒R410Aと冷凍機油としてのエーテル油FVC68Dとを20:30の割合で混合した雰囲気中で行われた。このとき、ブレード91とディスク92との摺動面における摩擦係数を測定した。また、試験終了後、ブレード91およびディスク92の磨耗量を測定した。次の表1は、磨耗評価試験の測定結果である。
【0051】
【表1】
【0052】
上の表1において、「17Si/Al」は、Si含有量が17%であるAl‐Si合金であり、例えば、昭和電工株式会社のA390合金である。「11Si/Al」は、Si含有量が11%であるAl‐Si合金であり、例えば、昭和電工株式会社のAHS2合金である。「FC250」は、ねずみ鋳鉄である。「SCM435」は、炭素量0.33%〜0.38%のクロムモリブデン鋼である。「SKH51」は、工具鋼の一種であるモリブデン系高速度工具鋼である。「SKH51+DLC」は、SKH51材の表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)のコーティングが形成された部材である。「SKH51+窒化」は、SKH51材の表面が窒化処理された部材である。
【0053】
サンプルAとサンプルHとを比較すると、Si含有量が共晶点より高いアルミニウム合金(17Si/Al)と鋼との組み合わせ(サンプルA)は、鋳鉄と鋼との組み合わせ(サンプルH)より、ブレード91の磨耗量が大きかった。
【0054】
サンプルAとサンプルBとを比較すると、鋼にDLCをコーティングすることで、摩擦係数は低下したが、ブレード91の磨耗量は増加した。これは、ディスク92の材質であるアルミニウム合金に含まれる硬質粒子である初晶Siによって、ブレード91の表面が磨耗したことによると考えられる。
【0055】
サンプルAとサンプルCとを比較すると、初晶Siによるブレード91の表面の磨耗量を低減するために、Si含有量が共晶点より低いアルミニウム合金(11Si/Al)を使用した結果、摩擦係数が増加し、焼き付きが発生した。サンプルBとサンプルDとを比較すると、同様の傾向が確認された。
【0056】
サンプルAとサンプルF,Gとを比較すると、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることで、摩擦係数、および、ディスク92の磨耗量がほとんど変化せずに、ブレード91の磨耗量が低下した。また、サンプルFとサンプルGとの比較から、鋼の表面の硬度が高いほど、ブレード91の磨耗量が低下した。
【0057】
なお、サンプルEとサンプルF,Gとを比較すると、鋼に窒化処理を行った場合であっても、Si含有量が共晶点より低いアルミニウム合金(11Si/Al)を使用すると、摩擦係数が増加し、かつ、ディスク92およびブレード91の磨耗量も増加した。
【0058】
以上の結果より、ディスク92の材質としてSi含有量が共晶点より高いアルミニウム合金(17Si/Al)を使用し、かつ、ブレード91の材質として表面が窒化処理された鋼を使用することにより、摩擦係数、および、ディスク92およびブレード91の磨耗量を抑えることができることが確認された。また、ブレード91の材質である鋼の表面の硬度が高いほど、ブレード91の磨耗量が低下することが確認された。
【0059】
(4−2)実施例2
図6は、本評価試験のブッシュ22における線状最大荷重部Pの寸法Hを説明するための図である。図7は、製品aにおける(a)1回転中に線状最大荷重部Pにかかる荷重の変動、及び(b)1回転中のブレード21bの摺動速度の変動を示している。なお、図6中の線状最大荷重部Pは、図2図8及び図9中にも示されている。
【0060】
実施例2では、ロータリ圧縮機101のブッシュ22の材質と、ブッシュ22が受ける荷重とがブッシュ22の摩耗量に与える影響を評価するための評価試験を行った。
【0061】
【表2】
【0062】
表2において、要素試験(600N)とあるものは、実施例1と同じ条件で試験を行った結果を示している。また、表2において、要素試験(400N)とあるものは、ディスク92に加える荷重を600Nから400Nとした以外は、要素試験(600N)と同様の条件で試験を行った結果を示している。
【0063】
また、表2において、単位最大荷重(単位:N/mm)とは、次式で表される。
【0064】
単位最大荷重=最大荷重(単位:N)/線状最大荷重部Pの寸法H(単位:mm)
ここで、線状最大荷重部とは、ブッシュ22又はブッシュ22に相当するブレード91の摺動面のうち荷重が最も大きい線状の部分、言い換えると、摺動面のうち荷重を最も大きく受ける線状の部分である。なお、要素試験における400Nに相当する単位最大荷重は33であり、600Nに相当する単位最大荷重は50である。また、製品では、図7(a)に示すように、回転角度に応じて線状最大荷重部Pにかかる荷重が変動する。例えば、製品aでは、単位最大荷重が30となる。
【0065】
表2において、平均摺動速度(単位:m/s)とは、線状最大荷重部とシリンダ24あるいはピストン21との摺動速度の平均値であって、製品(図2に示されるような圧縮機構15を備えるロータリ圧縮機101)ではブッシュ22とブレード21bとの摺動速度の平均値である。なお、要素試験では、リング93を2.0m/sの一定速度で回転させているため、平均摺動速度は2.0となる。一方、製品では、図7(b)に示すように、回転角度に応じてブレードの摺動速度は変動する。例えば、製品aでは、平均摺動速度は1.8となる。
【0066】
要素試験(400N)では、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブレード91の摩耗量を抑えることができた。
【0067】
要素試験(600N)では、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としてもブレード91の磨耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブレード91の摩耗量を抑えることができた。
【0068】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品aとを比較すると、単位最大荷重及び平均摺動速度のいずれもが要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも小さい製品aでは、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0069】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品bとを比較すると、要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも、単位最大荷重が小さく、平均摺動速度が大きい製品bでは、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0070】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品cとを比較すると、平均摺動速度が要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも小さく、単位最大荷重が要素試験(400N)より大きくかつ要素試験(600N)より小さい製品cでは、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0071】
要素試験(400N)及び要素試験(600N)と製品dとを比較すると、平均摺動速度が要素試験(400N)及び要素試験(600N)よりも大きく、単位最大荷重が要素試験(400N)より大きくかつ要素試験(600N)より小さい製品dでは、鋼にDLCをコーティングして鋼の表面の硬度をHv1000以上としても、ブッシュ22の摩耗量を抑えることができなかったが、鋼に窒化処理を行って鋼の表面の硬度をHv1000以上とすることでブッシュ22の摩耗量を抑えることができた。
【0072】
以上の結果より、ロータリ圧縮機101のシリンダ24及びピストン21の材質としてSi含有量が共晶点より高いアルミニウム合金(17Si/Al)を使用する場合であって、式:設計指標(DV)=単位最大荷重(単位:N/mm)×平均摺動速度(単位:m/s)によって演算される設計指標(DV)が67未満であれば、ブッシュ22の材質として表面にDLC皮膜がコーティングされた鋼を使用しても、ブッシュ22の磨耗量を抑えることができることが確認された。
【0073】
(5)変形例
本実施形態の具体的構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で変更可能である。以下、本実施形態に適用可能な変形例について説明する。
【0074】
(5−1)変形例A
本実施形態では、ブッシュ22の摺動面22aを含む表層は、摺動面22aの硬度がHv1000以上となるように、窒化処理によって改質されている。しかし、ブッシュ22の表層は、摺動面22aの硬度がより高くなるように、窒化処理によって改質されてもよい。例えば、ブッシュ22の表層は、摺動面22aの硬度がHv1200以上となるように、窒化処理によって改質されてもよい。
【0075】
(5−2)変形例B
本実施形態では、ブッシュ22は、工具鋼から成形されるが、表面の硬度がHv1000以上である他の材料から成形されてもよい。例えば、ブッシュ22は、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)および窒化ホウ素(BN)等のセラミックスから成形されてもよい。
【0076】
(5−3)変形例C
本実施形態では、圧縮機構15は、1シリンダタイプの圧縮機構であるが、2シリンダタイプの圧縮機構であってもよい。
【0077】
(5−4)変形例D
本実施形態では、圧縮機構15は、ピストン21およびシリンダ24と摺動するブッシュ22を有している。この圧縮機構15では、ピストン21のブレード21bは、その両側面をブッシュ22に挟まれながら進退し、ブッシュ22は、シリンダ24およびピストン21のブレード21bと摺動しながら揺動する。
【0078】
しかし、ロータリ圧縮機101は、図8に示されるように、ローラ121とベーン122とを有する圧縮機構115を備えてもよい。図8は、図2と同様の、圧縮機構115の断面図である。図8において、図2と同じ構成要素は、同じ参照符号で示されている。圧縮機構115は、主として、ローラ121と、ベーン122と、バネ123と、シリンダ124とから構成される。ベーン122およびバネ123は、ベーン収容孔124dに収容される。ローラ121の回転によって、ベーン122はベーン収容孔124dにおいて進退し、バネ123は、ベーン122をローラ121に押し付ける。これにより、圧縮機構115は、吸入室40aおよび吐出室40bを形成する。
【0079】
本変形例では、ベーン122は、ローラ121およびシリンダ124と摺動する。ベーン122は、本実施形態のブッシュ22に相当し、工具鋼から成形される。ベーン122の表層は、ベーン122の表面の硬度がHv1000以上となるように、改質されている。具体的には、ベーン122の表層が、窒化処理によって改質されている、或いは、DLC薄膜でコーティングされている。なお、ベーン122の表層がDLC薄膜でコーティングされている場合には、式:設計指標(DV)=単位最大荷重(単位:N/mm)×平均摺動速度(単位:m/s)によって演算される設計指標(DV)が67未満である必要がある。なお、図8に示されるような圧縮機構115を備えるロータリ圧縮機101において、単位最大荷重(単位:N/mm)を算出するための線状最大荷重部とは、ベーン122の摺動面のうち荷重が最も大きい線状の部分であり、平均摺動速度(単位:m/s)とは、ベーン122とシリンダ124との摺動速度の平均値である。ローラ121およびシリンダ124は、本実施形態のピストン21およびシリンダ24にそれぞれ相当し、Al‐Si合金から成形される。このAl‐Si合金は、共晶点である12.6wt%を超えるSi含有量を有する。
【0080】
(5−5)変形例E
本実施形態の圧縮機構15では、ピストン21のローラ21aの外周面形状が、真円形に形成されている。
【0081】
しかし、ロータリ圧縮機101の圧縮機構215が、図9に示されるように、ローラ221aの外周面形状が非円形に形成されていてもよい。この場合、シリンダ224の内周面形状についても非円形に形成される。なお、ローラ221aの形状については、クランク軸17の中心Oを通りかつクランク軸17に直交する線Lに沿って延びるようにピストン221のブレード221bが位置した場合に、線Lに対してローラ221aの外周面形状が対称であっても(図9参照)、線Lに対してローラ221aの外周面形状が非対称であってもよい。このように、ローラ221aの外周面形状が非円形に形成されていることで、ローラ21aの外周面形状が真円形に形成されているよりも、ブッシュ22がシリンダ224およびピストン221のブレード221bと摺動する際にブッシュ22が受ける荷重を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る圧縮機は、軽量化でき、かつ、信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0083】
21 ピストン
22 ブッシュ(摺動部材)
22a 摺動面
24 シリンダ
24a シリンダ孔(シリンダ室)
101 ロータリ圧縮機(圧縮機)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0084】
【特許文献1】特開2004−293558号公報