特開2015-232637(P2015-232637A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-232637(P2015-232637A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】吸音構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20151201BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   G10K11/16 F
   E04B1/82 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-119448(P2014-119448)
(22)【出願日】2014年6月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正明
(72)【発明者】
【氏名】松岡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】小泉 穂高
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】河井 康人
【テーマコード(参考)】
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2E001DF04
2E001FA03
2E001FA11
2E001FA14
2E001HB02
2E001HC07
2E001HD13
5D061CC04
5D061DD06
(57)【要約】
【課題】本発明は、吸音構造体に関し、従来の吸音構造体においては、吸音効果が低かったり、大きな設置スペースが必要であったり、設置の自由度が低かったりすることが課題であって、それを解決することである。
【解決手段】空洞部2aが細長い有底筒体2と、該筒体の一端側開口部に設けた吸音材3と、該筒体の一端側開口端面と室内構成体の表面4との間に所要の隙間を設ける間隙維持手段とで吸音体が構成され、前記吸音体が、その空洞部の長手方向の軸aと前記室内構成体の表面4とが直交するように配置されるとともに、前記筒体の一端側開口部2cの端面と前記室内構成体の表面4との間に間隙維持手段で隙間5が設けられて配設されてなる吸音構造体1とするものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞部が細長い有底筒体と、該筒体の一端側開口部に設けた吸音材と、該筒体の一端側開口端面と室内構成体の表面との間に所要の隙間を設ける間隙維持手段とで吸音体が構成され、
前記吸音体が、その空洞部の長手方向の軸と前記室内構成体の表面とが直交するように配置されるとともに、前記筒体の一端側開口部の端面と前記室内構成体の表面との間に間隙維持手段で隙間が設けられて配設されてなること、
を特徴とする吸音構造体。
【請求項2】
吸音材は、筒体の一端側開口部を底面と平行に閉蓋するように、配設されていること、
を特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
吸音材は、筒体の一端側開口端面と室内構成体の表面との間の隙間に、筒体の胴部と平行に筒状に巻装されていること、
を特徴とする請求項1または2に記載の吸音構造体。
【請求項4】
吸音材は、抵抗材であること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の吸音構造体。
【請求項5】
吸音体の設置位置は、室内構成体である床に配置される場合には、壁際に配置させること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吸音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に低周波数の吸音に効果的な吸音構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建物などの室内において、100Hz前後の低周波数帯域の吸音を行うには、例えば、図4(A)に示すように、室内の壁面に背後空気層を介在させて、多孔質な板部材を配設したり、図4(B)に示すように、壁体に共鳴器を埋設した構造にしたりするものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−302087号公報(特許第2785687号)
【特許文献2】特開2014−052539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来例として図4(A)に示す吸音構造体では、背後空気層の厚さを十分に取らないと、低音域の吸音効果を向上させることができず、また、従来例として図4(B)に示す吸音構造体では、吸音効果が低いと言う課題がある。
【0005】
このほか近年、低周波数帯域の吸音に、気柱共鳴を利用した吸音体が知られている。例えば、特許文献1に記載された吸音構造体では、複数の空胴を有し開口部を互いに隣接させて配置し、長手方向の空洞を壁などに沿わせて配置したものである。しかしながら、この吸音構造体は複数個の空洞相互間の開口部を隣接させ連成振動によってエネルギーを消費させるものであるので、単体の吸音構造体によって吸音させるものではない。
【0006】
また、特許文献2に記載された吸音構造体では、筒状の空洞を壁の内部に設けて気柱共鳴させるとともに、その開口部に吸音材を配置してなるものである。しかしながら、この吸音構造体では、壁内部に空洞を設けるので、製造コストが嵩むと共に、室内空間の残響性能に応じて、吸音体の位置を自由に移動させる自由度が無いという課題がある。本発明に係る吸音構造体は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る吸音構造体の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、空洞部が細長い有底筒体と、該筒体の一端側開口部に設けた吸音材と、該筒体の一端側開口端面と室内構成体(床、壁、天井のいずれか一つを言う、以下同じ)の表面との間に所要の隙間を設ける間隙維持手段とで吸音体が構成され、前記吸音体が、その空洞部の長手方向の軸と前記室内構成体の表面とが直交するように配置されるとともに、前記筒体の一端側開口端面と前記室内構成体の表面との間に間隙維持手段で隙間が設けられて配設されてなることである。
【0008】
前記吸音材は、筒体の一端側開口部を底面と平行に閉蓋するように、配設されていることである。
【0009】
前記吸音材は、筒体の一端側開口端面と室内構成体の表面との間の隙間に、筒体の胴部と平行に筒状に巻装されていることを含むものである。
【0010】
更に、前記吸音材は、抵抗材であることである。
【0011】
また、前記吸音体の設置位置は、室内構成体である床に配置される場合には、壁際に配置させることである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の吸音構造体によれば、気柱共鳴を生じる吸音体の一端側開口部を、空洞部の長手方向の軸と壁面若しくは床面とが直交させて、且つ、近接させることで、前記開口部周辺の粒子速度が増大し、その開口部に吸音材(抵抗材)を設けたことで、激しく振動している空気の粒子と吸音材(抵抗材)との摩擦によって、空気の粒子の振動エネルギーが効率よく熱エネルギーに変換され、高い吸音効果が得られると言う優れた効果を奏するものである。
【0013】
また、吸音体は、室内構成体の表面に隙間を維持して置くだけで機能し、更に、床の壁際に置くと一層吸音効果が増すので、従来よりも設置スペースを必要としないで、設置位置の移動などにも自由度が大きく、多様な室内の形状・空間の広さ等に応じて、低周波数帯域の音を効果的に吸音することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る吸音構造体1の実施例1,2を示す縦断面図(A),(B)である。
図2-A】同吸音構造体1における残響室9内に複数個の吸音体2を配列する例を示す概略平面図(A),(B),(C)である。
図2-B】本発明に係る吸音構造体1の吸音力と比較するための、他の比較例に係る吸音構造体の縦断面図(A),(B)である。
図3-A】筒体の材質が図中の上から順に塩化ビニル、紙、溶融亜鉛メッキ鋼板である吸音体2の開口部2cを上向きに設置し、吸音材3のうち材料bを付加した場合の、吸音体2の1体当たりの吸音力を示す特性曲線図である。
図3-B】筒体の材質が図中の上から順に塩化ビニル、紙、溶融亜鉛メッキ鋼板である吸音体2の開口部2cを下向きに設置し、吸音材3のうち材料bを付加した場合の、吸音体2の1体当たりの吸音力を示す特性曲線図である。
図3-C】図1(A),(B)の本発明に係る吸音構造体1の第1実施例、第2実施例と、図2に示す他の比較例に係る吸音構造体との、吸音力の測定結果を示す特性曲線図である。
図4】従来例に係る吸音構造体の例を示す縦断面図(A),(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る吸音構造体1は、図1(A),(B)に示すように、吸音体2の開口部2cを、室内構成体(床、壁、天井のいずれか一つを言う)の、例えば、床の表面4に向けて設置することである。
【実施例1】
【0016】
本発明に係る吸音構造体1は、図1(A),(B)に示すように、空洞部2aが細長い有底筒体2bと、該筒体2bの一端側開口部2cに設けた吸音材3と、該筒体2bの一端側開口部2cの端面と、前記室内構成体の表面4との間に所要の隙間5を設ける間隙維持手段とで、吸音体2が構成されている。
【0017】
前記筒体2bは、その大きさが、一例として、直径200mm、長さ700mm、材質は、塩化ビニル製、紙、溶融亜鉛メッキ鋼板、としている。この筒体2bの両側端の開口部は、その片方が厚さ9mmのベニヤ板で密閉、閉蓋されていて、他方は、開口部2cである。
【0018】
前記間隙維持手段は、図示していないが、金属製、若しくは、合成樹脂製の硬質のブロックで、一例として、その高さが30mmである。
【0019】
前記吸音体2が、図1(A)に示すように、その空洞部2aの長手方向の軸aと、前記室内構成体の表面4とが直交するように配置されるとともに、前記筒体2bの一端側開口部2cの端面と、該開口部2cが向けられた前記室内構成体の表面4との間に、例えば、所望高さ(一例として30mm)の介在物などによる前記間隙維持手段で隙間5が設けられ、例えば、室内の床の中央部や壁際に配設されて、吸音構造体1が形成されている。
【0020】
前記吸音材3は、図1(A)に示すように、筒体2bの一端側開口部2cを、筒体2bの底面と平行に閉蓋するように、配設されている。
【0021】
上記吸音構造体1の構造に至る前に、前記吸音体2の気柱共鳴による吸音力を、図2−A(A)〜(C)に示す残響室(容積313m、表面積273m)9で、吸音体2の配置や向きによる吸音力の変化を予め検証する。残響室法吸音率の測定には、試験体、試験体(吸音体2)の設置方法、測定周波数を除いてJIS A 1409 に準拠して行う。尚、試験体(吸音体2)同士の距離は1m以上、残響室9の中央に6体、中央に12体、外周に6体とした。
【0022】
前記試験体である吸音体2の大きさは、長さ700mm、直径200mm、材質は、塩化ビニル製(厚さ、7.0mm、重さ4.6kg)、紙(厚さ4.0mm、重さ1.4kg)、溶融亜鉛メッキ鋼板(厚さ0.5mm、重さ2.3kg)、である。
【0023】
また、前記吸音材3の材質は、例えば、2種類用意し、材料aが、流れ抵抗(Ns/m)が、約300、厚さが1.7mm、面密度(Kg/m)が2.6であり、材料bが、流れ抵抗(Ns/m)が、約100、厚さが1.4mm、面密度(Kg/m)が1.9である。
【0024】
その結果、図3−A,図3−Bに示すように、試験体(吸音体2)は、共鳴器の材質や開口部2cの状態によらず、100Hz付近にピークを有する吸音特性であり、試験体(吸音体2)を、図2−A(C)に示すように、床の外周部(壁際)に配置した場合が、中央部に配置するよりも、ピークが0.1〜0.4程度大きくなっている。試験体(吸音体2)の材質(塩化ビニル、紙、溶融亜鉛メッキ鋼板)の相違は、一部を除いて殆ど見られない。
【0025】
また、吸音材3の有無による吸音力の差は、前記材料aの場合では殆ど見られないが、上向きの開口部2cに前記材料bを付加した場合は、吸音力のピークが0.1〜0.3程度増加し、更に、下向きの開口部2cに材料bを付加した場合には、条件によって吸音力のピークが0.2〜0.4程度増加した。これにより、材料aよりも材料bの方が吸音力が大きく、試験体(吸音体2)の材質が吸音力に及ぼす影響は小さく、吸音体2の設置位置や、開口部2cの向きによって吸音力が大きく異なるものである。
【0026】
更に、前記吸音体2の開口部2cにおける粒子速度を測定したところ、前記開口部2cを室内構成体の表面4に近接させた場合に、粒子速度レベルが顕著に増大する。
【0027】
上記のような結果から、本発明に係る吸音構造体1として、図1(A),(B)に示すように、塩化ビニル製(直径200mm,長さ700mm)の吸音体2の開口部2cを、室内構成体の一つである床の表面4に向かって下向きにし、間隙維持手段で約30mmの隙間5を設け、吸音材3の材料を、前記材料b(流れ抵抗(Ns/m)が、約100、厚さが1.4mm、面密度(Kg/m)が1.9である)とする。
【0028】
尚、図2−B(A),(B)に示すように、比較用の試験例として、吸音体10の開口部11cを上向きにして前記吸音材3を設けない場合と、前記開口部11cに吸音材3(上記の材料b)を設けた場合とを構成して比較する。試験条件は、残響室9の壁際(図2−A(C))に配置して、設置方法や測定周波数の他は前記JIS A 1409の試験と同様である。
【0029】
その結果、図3−Cに示すように、低周波数帯域における吸音力(m)を測定すると、開口部2cを上に向けるとともに、開口部2cに吸音材3を付加しない場合(図2−B(A)に示すタイプAでは吸音力が0.3であり、開口部2cに吸音材3を付加した場合のタイプB(図2−B(B))では吸音力が0.55であり、本発明に係るタイプC1(図1(A))では吸音力が約0.75であり、本発明に係る吸音構造体1の方が明らかに、吸音力が大きい結果となっている。
【実施例2】
【0030】
また、他の実施例として、図1(B)に示すように、前記吸音材3は、筒体2bの一端側開口部2cの端面と、室内構成体の表面4との間の隙間5に、筒体2bの胴部と平行に筒状にして、巻装されているタイプC2がある。前記タイプC1に対する変形例の吸音構造体1であるが、この場合にも、図3−Cに示すように、低周波数帯域の吸音力がピークで約1.0となっていて、比較例の前記タイプA,Bよりも、吸音力が大きい結果となっている。
【0031】
このように、吸音体2の開口部2cを、室内構成体(天井、壁、床のいずれか一つ)の表面4に向けて、隙間5を有して近接させ、前記開口部2cに、吸音材3として抵抗材を設けることで、低周波数帯域の音を効果的に吸音できるようになるものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る吸音構造体1は、吸音体2の開口部を室内構成体の表面4に直交させ近接させて置くだけで、低周波数帯域の吸音がなされるので、多様な建築空間に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0033】
1 吸音構造体、
2 吸音体、 2a 空洞部、
2b 筒体、 2c 開口部、
3 吸音材(抵抗材)、
4 表面、
5 隙間、
6 剛壁、
7 多孔質材、
8 共鳴器、
9 残響室、
10 吸音体、
11a 筒体、 11b 空洞部、
11c 開口部、
a 吸音体の軸。
図1
図2-A】
図2-B】
図3-A】
図3-B】
図3-C】
図4