【解決手段】炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素からなる原料基板1を準備する工程と、原料基板1を酸化処理または炭素化処理することにより、原料基板1の主面1Aを含む領域に犠牲層12を形成する工程と、犠牲層12が形成された原料基板1の主面1Aに対して化学機械研磨を実施する工程と、を備える。
前記犠牲層を形成する工程では、前記原料基板の前記主面をオゾン水またはオゾンガスに接触させて前記原料基板を酸化処理することにより前記犠牲層を形成する、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
前記犠牲層を形成する工程では、前記原料基板の前記主面を、塩素を含むガスに接触させて前記原料基板を炭素化処理することにより前記犠牲層を形成する、請求項1または2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願の炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素からなる原料基板を準備する工程と、当該原料基板を酸化処理または炭素化処理することにより、当該原料基板の主面を含む領域に犠牲層を形成する工程と、犠牲層が形成された上記原料基板の上記主面に対して化学機械研磨を実施する工程と、を備える。
【0011】
一般に、炭化珪素基板の製造方法においては、インゴットをスライスして得られた原料基板の主面に対して研削やMP(Mechanical Polishing)が実施された後、CMPが実施されて主面の平滑性が確保される。ここで、研削やMPの実施により、原料基板の主面近傍に結晶構造の乱れた層(ダメージ層)が形成される。CMPでは、このダメージ層を除去する観点から、ダメージ層の厚み以上の厚みを有する領域を除去するとともに、主面の平滑性を確保する必要がある。しかしながら、上述のように、炭化珪素からなる原料基板に対するCMPにおいて、均一性と高い研磨レートとを両立することは困難である。そのため、炭化珪素基板の製造効率が低下する。
【0012】
これに対し、本願の炭化珪素基板の製造方法においては、炭化珪素からなる原料基板の主面に対してCMPを実施する工程の前に、当該原料基板が酸化処理または炭素化処理され、原料基板の主面を含む領域に犠牲層が形成される。すなわち、原料基板の主面を含む領域をCMPによる除去が容易な犠牲層に予め変換する。これにより、その後に実施されるCMPの研磨レートを向上させることができる。その結果、CMPにおいて反応生成物の生成が不均一となるような反応性の高い物質を使用することなく、ダメージ層の除去に必要な研磨量を短時間で達成することができる。このように、本願の炭化珪素基板の製造方法によれば、炭化珪素基板の製造効率を向上させることができる。
【0013】
上記炭化珪素基板の製造方法において、上記犠牲層の厚みは30nm以上であってもよい。これにより、前工程で形成されたダメージ層をCMPによってより確実に除去することができる。また、ダメージ層を一層確実に除去する観点から、上記犠牲層の厚みは100nm以上であってもよい。一方、犠牲層の厚みを不必要に厚くすることは歩留りの低下の原因となるため、上記犠牲層の厚みは3μm以下であってもよい。
【0014】
上記炭化珪素基板の製造方法において、上記犠牲層を形成する工程では、上記原料基板の上記主面をオゾン水またはオゾンガスに接触させて上記原料基板を酸化処理することにより上記犠牲層を形成してもよい。炭化珪素からなる原料基板の主面をオゾン水またはオゾンガスに接触させることにより、酸化層である均一な犠牲層を形成することができる。
【0015】
上記炭化珪素基板の製造方法において、上記犠牲層を形成する工程では、上記原料基板の上記主面を、塩素を含むガスに接触させて上記原料基板を炭素化処理することにより上記犠牲層を形成してもよい。炭化珪素からなる原料基板の主面を、塩素を含むガスに接触させて上記原料基板を炭素化処理することにより、炭素化層である犠牲層を短時間で形成することができる。
【0016】
本願の半導体装置の製造方法は、上記炭化珪素基板の製造方法により製造された基板を準備する工程と、当該基板上にエピタキシャル成長により炭化珪素からなる半導体層を形成する工程と、当該半導体層上に電極を形成する工程と、を備える。
【0017】
本願の半導体装置の製造方法では、上記炭化珪素基板の製造方法により製造された基板を用いて半導体装置が製造される。そのため、本願の半導体装置の製造方法によれば、半導体装置の製造効率を向上させることができる。
【0018】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法、および炭化珪素基板を用いた半導体装置としてのショットキーバリアダイオードの製造方法について、その一実施の形態を以下に図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0019】
まず、
図1〜
図5に基づいて、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法を説明する。なお、
図3〜
図5は、
図2に示す原料基板1を厚み方向に沿って切断した状態に対応する概略断面図である。
図1を参照して、まず工程(S11)としてインゴット準備工程が実施される。この工程(S11)では、炭化珪素からなるインゴットが準備される。このインゴットは、たとえば昇華法により作製することができる。
【0020】
次に、工程(S12)としてスライス工程が実施される。この工程(S12)では、
図2を参照して、工程(S11)において準備されたインゴットがスライスされることにより、主面1Aを有する円盤状の原料基板1が得られる。インゴットのスライスは、たとえばワイヤソーにより実施することができる。主面1Aは、後述する半導体装置の製造においてエピタキシャル成長により炭化珪素からなる半導体層が形成される側の主面である。原料基板1の直径は、たとえば50.8mm以上(2インチ以上)である。
【0021】
次に、工程(S13)として研削工程が実施される。この工程(S13)では、工程(S12)において得られた原料基板1の主面1Aに対して研削加工が施される。これにより、工程(S12)におけるスライスにより形成された主面1Aの平坦性が向上する。
【0022】
次に、工程(S14)としてMP工程が実施される。この工程(S14)では、工程(S13)において研削加工された原料基板1の主面1Aに対してMPが実施される。このMPは、上記主面1Aだけでなく、主面1Aとは反対側の原料基板1の主面に対しても実施することができる。
【0023】
次に、工程(S15)として、第1洗浄工程が実施される。この工程(S15)では、工程(S14)においてMPが実施された原料基板1が洗浄される。これにより、前工程において原料基板1に付着した砥粒等が除去される。以上の手順により、炭化珪素からなる原料基板1を準備する工程が完了する。
図3を参照して、準備された原料基板1の主面1Aを含む領域には、炭化珪素を構成する元素の配列が乱れた層であるダメージ層11が形成されている。ダメージ層11は、上記工程(S12)〜(S13)における加工によって原料基板1に形成される。上記工程(S11)、(S12)、(S13)、(S14)および(S15)は、工程(S10)として実施される原料基板準備工程を構成する。
【0024】
次に、工程(S20)として、犠牲層形成工程が実施される。この工程(S20)では、
図3および
図4を参照して、工程(S10)において準備された原料基板1が酸化処理または炭素化処理されることにより、原料基板1の主面1Aを含む領域に犠牲層12が形成される。犠牲層12の厚みは特に限定されるものではないが、本実施の形態では、
図4に示すようにダメージ層11よりも厚みが大きくなるように形成される。別の観点から説明すると、犠牲層12は、ダメージ層11を含むように形成される。これにより、後述の工程(S30)においてダメージ層11の除去を短時間で達成することができる。
【0025】
犠牲層12は、たとえば原料基板1を反応室内に挿入し、当該反応室内にオゾンガスを供給することにより形成することができる。これにより、原料基板1の主面1Aを含む領域が酸化され、酸化層である犠牲層12が形成される。この場合、犠牲層12は、珪素酸化物(たとえば二酸化珪素)からなる層である。
【0026】
犠牲層12は、たとえば原料基板1を、オゾン水が保持された反応槽内に浸漬することにより形成してもよい。これにより、原料基板1の主面1Aを含む領域が酸化され、酸化層である犠牲層12が形成される。この場合、犠牲層12は、珪素酸化物(たとえば二酸化珪素)からなる層である。このように、主面1Aをオゾンガスまたはオゾン水に接触させて原料基板1を酸化処理することにより、酸化層である犠牲層12を均一に形成することが容易となる。
【0027】
犠牲層12は、たとえば原料基板1を反応室内に挿入し、当該反応室内に塩素ガスを供給することにより形成することができる。これにより、原料基板1の主面1Aを含む領域から珪素原子が除去されて炭素化され、炭素化層である犠牲層12が形成される。この場合、犠牲層12は、炭素からなる層である。このように、主面1Aを、塩素を含むガスに接触させて原料基板1を炭素化処理することにより、炭素化層である犠牲層12を短時間で形成することが容易となる。
【0028】
なお、犠牲層12の形成方法は上記方法に限られず、たとえば酸素ガスや過マンガン酸カリウムを用いて原料基板1を酸化することにより、酸化層である犠牲層12を形成してもよい。また、犠牲層12の形成においては、必要に応じて原料基板1を適切な温度に加熱してもよい。
【0029】
次に、
図1を参照して、工程(S30)としてCMP工程が実施される。この工程(S30)では、
図4および
図5を参照して、犠牲層12が形成された原料基板1の主面1Aに対してCMPが実施される。これにより、犠牲層12が除去されるとともに、犠牲層12が除去された後に露出する原料基板1の主面1Aの平滑性が確保される。また、犠牲層12の除去に伴って、ダメージ層11も除去される。ここで、上記工程(S20)における犠牲層12の形成と、工程(S30)におけるCMPとは、同一の装置内において連続的に実施されてもよいし、別の装置内において実施されてもよい。具体的には、たとえばCMPを実施するための研磨装置において原料基板が保持される領域の雰囲気が調整可能となっており、当該領域にオゾンガスを導入して工程(S20)を実施した後、当該領域の雰囲気を空気雰囲気に変更して工程(S30)を実施してもよい。一方、原料基板1を反応室内に挿入し、当該反応室内にオゾンガスを供給することにより工程(S20)を実施した後、原料基板1を反応室から取り出し、研磨装置において工程(S30)を実施してもよい。
【0030】
CMPは、たとえば砥粒であるコロイダルシリカ、酸化剤である過酸化水素水、および触媒である金属酸化物を含むスラリーを用い、押し付け圧力450g/cm
2の条件の下で実施することができる。このとき、酸化処理または炭素化処理により形成された犠牲層12は、犠牲層12以外の原料基板1の領域に比べて研磨による除去が容易な層であり、高いレートで研磨することができる。そのため、低いレートでのCMPの実施は犠牲層12の除去後のみとすることができる。その結果、CMPにより短時間でダメージ層11を除去し、主面1Aの平滑性を確保することができる。
【0031】
次に、工程(S40)として第2洗浄工程が実施される。この工程(S40)では、原料基板1が洗浄されることにより、工程(S30)において原料基板1に付着した砥粒等が除去される。その後、洗浄により原料基板1に付着した洗浄液等が乾燥により除去される。以上の手順により、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法は完了し、平滑な主面1Aを有する炭化珪素基板1が得られる。炭化珪素基板1は、たとえば導電型がn型である炭化珪素からなる基板である。
【0032】
なお、上記工程(S20)において形成される犠牲層12の厚みは30nm以上であってもよい。これにより、前工程で形成されたダメージ層11をCMPによってより確実に除去することができる。
【0033】
以上のように製造された炭化珪素基板1を用いて、たとえば以下の手順により半導体装置としてのショットキーバリアダイオードを製造することができる。
図1を参照して、まず工程(S50)としてエピタキシャル成長工程が実施される。この工程(S50)では、
図5および
図6を参照して、炭化珪素基板1の主面1Aに対してサーマルクリーニング、水素エッチングなどが実施されて主面1Aの清浄性が確保された後、主面1A上に炭化珪素からなる半導体層がエピタキシャル成長により形成される。具体的には、導電型がn型である炭化珪素基板1の主面1A上に、エピタキシャル成長により導電型がn型である炭化珪素からなるバッファ層2が形成され、さらにバッファ層2の主面2A上に導電型がn型である炭化珪素からなるドリフト層3が形成される。バッファ層2およびドリフト層3は、たとえばn型不純物を含む原料ガスを用いた気相エピタキシャル成長が実施されることにより順次形成される。
【0034】
次に、工程(S60)として電極形成工程が実施される。この工程(S60)では、
図6および
図7を参照して、オーミック電極91およびショットキー電極92が形成される。具体的には、炭化珪素基板1のバッファ層2とは反対側の主面1B上に接触するように、オーミック電極91が形成される。オーミック電極91は、炭化珪素基板1とオーミック接触可能な金属、たとえばニッケルからなるものとすることができる。オーミック電極91は、たとえば主面1B上にニッケル層を蒸着により形成した後、たとえば1000℃程度に加熱することにより形成することができる。
【0035】
一方、ドリフト層3のバッファ層2とは反対側の主面3A上には、窓部82を有する絶縁膜81が形成される。絶縁膜81は、たとえば珪素酸化物からなっている。そして、窓部82から露出するドリフト層3の主面3Aに接触し、窓部82を充填するとともに絶縁膜81上にまで延在するように、ショットキー電極92が形成される。ショットキー電極92は、ドリフト層3とショットキー接触可能な金属、たとえばチタンからなっている。絶縁膜81およびショットキー電極92は、たとえば以下のように形成することができる。
【0036】
まず、ドリフト層3の主面3A上を覆うように、珪素酸化物からなる絶縁膜81が形成される。そして、絶縁膜81上にマスク層が形成された後、エッチングが実施されることにより絶縁膜81を貫通する窓部82が形成される。その後、たとえばチタン膜を蒸着により形成することにより、ショットキー電極92が形成される。ショットキー電極92は、チタンからなる膜上にアルミニウムからなる膜を形成したものとしてもよい。
【0037】
次に、工程(S70)として分離工程が実施される。この工程(S70)では、たとえばダイシングにより上記工程(S10)〜(S60)により形成された積層体が切断され、各素子に分離される。以上の手順により、本実施の形態における半導体装置としてのショットキーバリアダイオード100の製造方法が完了する。
【0038】
上記本実施の形態における炭化珪素基板1およびショットキーバリアダイオード100の製造方法においては、炭化珪素からなる原料基板1の主面1Aに対してCMPを実施する工程(S30)の前に、工程(S20)において原料基板1が酸化処理または炭素化処理され、原料基板1の主面1Aを含む領域に犠牲層12が形成される。すなわち、原料基板1の主面1Aを含む領域が、CMPによる除去が容易な犠牲層12に予め変換される。これにより、工程(S30)におけるCMPの研磨レートを向上させることができる。その結果、反応生成物の生成が不均一となるような反応性の高い物質を使用することなく、ダメージ層11の除去に必要な研磨量を短時間で達成することができる。このように、本実施の形態の炭化珪素基板1およびショットキーバリアダイオード100の製造方法によれば、効率よく炭化珪素基板1およびショットキーバリアダイオード100を製造することができる。
【0039】
なお、上記実施の形態においては半導体装置の一例としてショットキーバリアダイオードが製造される場合について説明したが、炭化珪素基板1の用途はこれに限られず、たとえばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、JFET(Junction Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など、種々の半導体装置の製造に適用することができる。
【実施例】
【0040】
犠牲層形成によるCMPの研磨レート向上の効果を確認する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。
【0041】
図1を参照して説明した上記実施の形態の工程(S11)〜(S15)と同様の手順により原料基板1を準備した。原料基板1の直径は、100mmである。その後、原料基板1を約70℃に保持したオゾン水中に10分間浸漬して酸化層である犠牲層12を形成したサンプルを作製した(条件A)。また、同様に準備した原料基板1を20体積%の酸素ガスを含む雰囲気中において800℃に加熱し、1時間保持することにより酸化層である犠牲層12を形成したサンプルを作製した(条件B)。また、同様に準備した原料基板1を塩素ガス雰囲気中において800℃に加熱し、1時間保持することにより炭素化層である犠牲層12を形成したサンプルを作製した(条件C)。また、比較のため、同様に原料基板1を準備し、犠牲層12の形成を省略したサンプルも準備した(条件D)。そして、上記サンプルである原料基板1の主面1Aに対し、砥粒であるコロイダルシリカ、酸化剤である過酸化水素水、および触媒である金属酸化物を含むスラリーを用い、押し付け圧力450g/cm
2の条件の下でCMPを5時間実施し、研磨量(研磨による原料基板の厚みの減少量)を調査した。条件A、BおよびCは本願の炭化珪素基板の製造方法に対応するものであり、条件Dは本願の炭化珪素基板の製造方法に対応しないものである。実験結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
表1を参照して、条件A、BおよびCは、条件Dに比べて研磨量が40〜60%増加している。これは、2〜3時間の研磨時間に対応する差である。このことから、本願の炭化珪素基板の製造方法によれば、CMPの研磨レートを向上させることにより、炭化珪素基板の製造効率向上を達成可能であることが確認される。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。