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特開2015-233119軟磁性金属粉末、およびその粉末を用いた軟磁性金属圧粉コア
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  • 特開2015233119-軟磁性金属粉末、およびその粉末を用いた軟磁性金属圧粉コア 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-233119(P2015-233119A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】軟磁性金属粉末、およびその粉末を用いた軟磁性金属圧粉コア
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20151201BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20151201BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20151201BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20151201BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20151201BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20151201BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
   H01F1/24
   H01F41/02 D
   H01F27/24 D
   C22C38/00 303S
   B22F1/00 Y
   B22F1/02 E
   B22F3/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-15580(P2015-15580)
(22)【出願日】2015年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-100330(P2014-100330)
(32)【優先日】2014年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 優
(72)【発明者】
【氏名】黒田 朋史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀幸
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA15
4K018BA16
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC08
4K018BC09
4K018BC12
4K018BC28
4K018BC32
4K018BD01
4K018CA09
4K018KA44
5E041AA02
5E041AA19
5E041CA02
5E041HB11
5E041HB14
5E041HB15
5E041NN01
5E041NN05
5E041NN06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軟磁性金属粉末の保磁力を改善し、損失を改善した軟磁性金属圧粉コアを提供する。
【解決手段】Siと、Bとを含む、鉄を主成分とする軟磁性金属粉末であって、Siの含有量が1〜15質量%であり、軟磁性金属粉末の金属粒子5内のBの含有量が10〜150ppmであり、粒子表面に窒化ホウ素皮膜6を有する軟磁性金属粉末とすることで、軟磁性金属粉末の保磁力を改善する。この軟磁性金属粉末を用いて軟磁性金属圧粉コアを製造する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siと、Bとを含む、鉄を主成分とする軟磁性金属粉末であって、
前記軟磁性金属粉末において、Siの含有量が1〜15質量%であり、
前記軟磁性金属粉末の金属粒子内のBの含有量が10〜150ppmであり、
前記金属粒子表面に窒化ホウ素皮膜を有することを特徴とする軟磁性金属粉末。
【請求項2】
請求項1に記載された軟磁性金属粉末であって、
前記軟磁性金属粉末において、Crの含有量が1〜10質量%であることを特徴とする軟磁性金属粉末。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載された軟磁性金属粉末であって、
前記軟磁性金属粉末を構成する金属粒子のうち、90%以上の金属粒子の断面の円形度が0.80以上であることを特徴とする軟磁性金属粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された軟磁性金属粉末であって、前記軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の90%以上が一個の結晶粒からなることを特徴とする軟磁性金属粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された軟磁性金属粉末であって、前記軟磁性金属粉末に含まれる酸素量が500ppm以下であることを特徴とする軟磁性金属粉末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された軟磁性金属粉末を用いて作製された軟磁性金属圧粉コア。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載された軟磁性金属粉末を用いて作製された軟磁性金属圧粉コアであって、前記軟磁性金属圧粉コア中の前記窒化ホウ素の含有量が50〜4790ppmであることを特徴とする軟磁性金属圧粉コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉コア等に用いられる軟磁性金属粉末、軟磁性金属圧粉コアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
大電流を印加する用途で使用されるリアクトルやインダクタ用の磁心材料として、フェライトコア、積層電磁鋼板、軟磁性金属圧粉コア(金型成形、射出成形、シート成形などで作られたコア)などが用いられる。積層電磁鋼板は飽和磁束密度が高いものの、電源回路の駆動周波数が数十kHzを超えると鉄損が大きくなり、効率の低下を招くという問題があった。一方、フェライトコアは高周波損失の小さい磁心材料であるが、飽和磁束密度が低いことから、形状が大型化するという問題があった。
【0003】
軟磁性金属圧粉コアは高周波の鉄損が積層電磁鋼板よりも小さく、飽和磁束密度がフェライトコアよりも大きいことから、広く用いられるようになっている。しかしその損失は積層電磁鋼板よりも優れるものの、フェライトほど低損失であるとはいえず、損失の低減が望まれている。
【0004】
軟磁性金属圧粉コアの損失を低減するために、コアを構成する軟磁性金属粉末の保磁力を低減することが知られている。コアの損失はヒステリシス損失と渦電流損失に分けられ、ヒステリシス損失は保磁力に依存するため、保磁力を低減すればコアの損失を低減できる。軟磁性金属粉末の保磁力は、軟磁性金属粉末の結晶粒径が大きいほど低くなる。軟磁性金属粉末の結晶粒径を大きくするには、つまり、結晶粒成長をさせるためには、結晶粒成長するほどの高い温度で軟磁性金属粉末を熱処理する必要がある。しかし、そのような高い温度で熱処理を行うと、軟磁性金属粉末粒子同士が焼結し、軟磁性金属粉末が固着するという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1では、鉄粉に対して、焼結防止のための無機物粉末を混合して高温で熱処理する技術が開示されている。特許文献2では、軟磁性合金粉末に対して、無機絶縁物を混合して粉末の固着を抑えながら高温で熱処理する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−260126号公報
【特許文献2】特開2002−57020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2の技術では、軟磁性金属粉末に焼結防止のために多量の無機物粉末を混合して高温で熱処理するが、軟磁性金属粒子の表面に均一に隙間なく無機物粉末で覆うことは不可能であるため、1000℃以上で熱処理を行うと、金属粉末が固着することは不可避である。固着してしまった金属粉末に対しては解砕処理が必要となり、歪が入ってしまうため、結局得られる軟磁性金属粉末の保磁力は十分に小さいものではない。軟磁性金属粉末を固着させずに熱処理するには950℃が限界であり、この熱処理温度では結晶粒成長が不十分である。すなわち、従来の技術では、結晶粒成長に対する効果が不十分であり、したがって、得られる軟磁性金属粉末の保磁力は十分に低減されているとはいえず、それを用いて作製される軟磁性金属圧粉コアの損失も大きくなってしまうという問題があった。
【0008】
本発明では、上記の問題を解決するために案出されたものであって、軟磁性金属粉末の保磁力を改善すること、ならびにそれを用いた軟磁性金属圧粉コアの損失を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の軟磁性金属粉末は、Siと、Bとを含む、鉄を主成分とする軟磁性金属粉末であって、前記軟磁性金属粉末において、Siの含有量が1〜15質量%であり、前記軟磁性金属粉末の金属粒子内のBの含有量が10〜150ppmであり、前記金属粉末粒子表面に窒化ホウ素皮膜を有することを特徴とする。
【0010】
上記の構成の軟磁性金属粉末とすることにより、保磁力を低減することができる。
【0011】
本発明の軟磁性金属粉末は、さらに好ましくは、前記軟磁性金属粉末において、Crの含有量が1〜10質量%であることを特徴とする。
【0012】
上記の構成の軟磁性金属粉末とすることにより、保磁力はほとんど変わらずに、電気抵抗の向上や、防錆性を付与することができる。
【0013】
本発明の軟磁性金属粉末は、さらに好ましくは、前記軟磁性金属粉末を構成する金属粉末粒子のうち、90%以上の金属粒子の断面の円形度が0.80以上であることを特徴とする。
【0014】
上記の構成の軟磁性金属粉末とすることにより、より保磁力を低減することができる。
【0015】
本発明の軟磁性金属粉末は、さらに好ましくは、前記軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の90%以上が一個の結晶粒からなることを特徴とする。
【0016】
上記の構成の軟磁性金属粉末とすることにより、より保磁力を低減することができる。
【0017】
本発明の軟磁性金属粉末は、さらに好ましくは、前記軟磁性金属粉末に含まれる酸素量が500ppm以下であることを特徴とする。
【0018】
上記の構成の軟磁性金属粉末とすることにより、より保磁力を低減することができる。
【0019】
本発明の軟磁性金属圧粉コアは、本発明の軟磁性金属粉末を用いて作製された軟磁性金属圧粉コアである。
【0020】
本発明の軟磁性金属粉末を用いて作製された軟磁性金属圧粉コアは、コアの損失が極めて小さいものとなる。
【0021】
本発明の軟磁性金属圧粉コアは、本発明の軟磁性金属粉末を用いて作製された軟磁性金属圧粉コアであって、前記軟磁性金属圧粉コア中の前記窒化ホウ素の含有量が50〜4790ppmであることを特徴とする軟磁性金属圧粉コアである。
【0022】
本発明の軟磁性金属粉末を用いて作製された軟磁性金属圧粉コアは、コアの損失が極めて小さく、さらに、コアの透磁率が高いものとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低い保磁力を有する軟磁性金属粉末を得ることができ、この軟磁性金属粉末を用いることで軟磁性金属圧粉コアの損失を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の軟磁性金属粉末は、軟磁性金属粉末粒子表面に窒化ホウ素皮膜を有することと、前記軟磁性金属粉末の金属粒子内のBの含有量が10〜150ppmであることを特徴とし、これらの特徴を有することにより、低保磁力になることを見出した。本発明の軟磁性金属粉末は、粒子中にBが添加された原料粉末を用いることにより、本発明の構造の軟磁性金属粉末を得ることができる。
【0025】
鉄を主成分とする軟磁性金属材料の中では、Bは非晶質形成元素として知られていて、アモルファス金属材料を作製するために、鉄を含む軟磁性金属材料に対して2質量%以上の多量のBの添加が行われている。また、ナノ結晶組織の軟磁性金属材料を作製するためも、製法上、一度アモルファス組織にする必要があるため、多量のBの添加が行われている。しかし、アモルファス金属材料やナノ結晶組織の軟磁性金属材料ではない、一般的な結晶質の鉄を含む軟磁性金属材料に対しては、FeB、FeBなどの結晶磁気異方性の大きい異相を形成して保磁力を増大させるため、Bを添加することは考えられなかった。しかしながら、本発明では、結晶質の鉄を含む軟磁性金属材料に対してBを添加することで、低保磁力の軟磁性金属粉末が得られることを見出した。
【0026】
本発明の軟磁性金属粉末が低保磁力になるメカニズムについて説明する。本発明における低保磁力の要因は2点あり、それは、軟磁性金属粉末粒子表面に形成された窒化ホウ素皮膜を有することと、軟磁性金属粉末の金属粒子中の10〜150ppmとごく微量のBを含有することである。まず、窒化ホウ素皮膜の効果について説明する。
【0027】
従来の技術では、高温熱処理時の焼結防止のために混合する酸化物、窒化物の微粒子が、金属粒子の表面を覆いきれずに不均一に分布する、あるいは高温で不安定であるため、1000℃以上の高温の熱処理では金属粒子同士が固着して、粉末が得られないという問題があった。そこで、これを改善するために、高融点であり高温でも金属との反応性が極めて低い窒化ホウ素の皮膜を軟磁性金属粉末粒子の表面全体に被覆させる技術を検討し、本発明にいたった。
【0028】
従来の技術の根本的な問題点は、軟磁性金属粉末に対してその外に焼結防止用の部材(粉末や皮膜)を構成するものであって、この方法では金属粒子表面での焼結防止材の分布が不均一になってしまうのは不可避である。よって、金属粒子内部に含有させた成分を表面に拡散、析出させて、金属粒子表面で雰囲気ガス成分と反応させることで、均一かつ安定な焼結防止層を形成できると考えた。そこで、本発明では、鉄を主成分とし、SiとBとを含む原料粉末を準備し、この原料粉末に対して、窒素を含む非酸化雰囲気中で高温熱処理を行う。この高温熱処理により、前記原料粉末粒子中のBが金属粒子表面まで拡散し、金属粒子表面で窒素と反応し、金属粒子表面全体を均一に覆う窒化ホウ素皮膜を形成する事ができ、金属粒子同士が結合する事なく、高温熱処理が可能となる。
【0029】
原料粉末粒子の断面の形態を図1に、軟磁性金属粉末粒子の断面の形態を図2に例示した。図1の原料粉末粒子には多量のBが添加されているため、金属母相中に固溶しているBの他に、結晶粒界にFeB相が偏析している。金属粒子表面には焼結防止用の部材は形成されていない。図2の軟磁性金属粉末粒子の表面には、金属粒子表面全体を均一に覆うように、窒化ホウ素の皮膜が形成されている。原料粉末粒子中に十分な量のBを含有させて、そのBを窒化して、窒化ホウ素の皮膜を形成することで、均一で隙間が無い皮膜を形成することができる。均一で隙間が無い皮膜となることで、原料粉末粒子の表面同士の接触を防ぐことができる。SiOやAl、Bなどの酸化物粉末や窒化ホウ素などの窒化物粉末を原料粉末中に混合したものでは、大量に酸化物粉末や窒化物粉末を原料粉末中に混合したとしても、原料粉末粒子の表面同士の接触は防ぎきれない。また、窒化ホウ素は酸化物と比べて、金属に対する化学的な安定性が高く、さらに窒化ホウ素自体が難焼結性の物質である。そのため、高温熱処理を行う場合に、酸化物皮膜では、金属粒子同士を酸化物を介して固着させてしまうが、窒化ホウ素皮膜では固着することはない。窒化ホウ素は、金属である原料粉末よりも密度が低いため、原料粉末粒子の表面部に窒化ホウ素皮膜が形成されれば、隣接する原料粉末の金属部の表面同士の距離を押し広げる効果がある。この作用も、原料粉末粒子同士の焼結を防ぐのに効果がある。以上の効果により、従来では不可能であった1000℃以上の高温での熱処理を行うことが可能になり、保磁力を低減することができる。
【0030】
次に、本発明における低保磁力のもうひとつの要因である、軟磁性金属粉末の金属粒子中の10〜150ppmとごく微量のBを含有することによる効果について説明する。
【0031】
図2の軟磁性金属粉末粒子は、金属粒子内部からFeB相が消失し、金属母相中には10〜150ppmのBが固溶している。軟磁性金属粉末の金属粒子の結晶粒径は、図1の原料粉末粒子の結晶粒径よりも大きくなっている。金属粉末に対して高温熱処理を行えば、金属母相中に10〜150ppmのBが固溶していなくても結晶粒成長が起こるが、金属母相中に10〜150ppmのBが固溶していることで、結晶粒成長が促進されることを見出した。これは、原料粉末粒子内部のBの、原料粉末粒子表面方向への拡散が、結晶粒界の原料粉末粒子表面方向への移動を容易にし、結晶粒成長を促進するためと考えられる。原料粉末にBを添加しているので、原料粉末の粒子の中心部までBが存在する。そのため、高温熱処理をした時に、原料粉末粒子中心部付近の結晶粒も効率的に粗大化する。しかし、図1に示すように、原料粉末粒子内部にFeBなどの金属間化合物があるときは、FeBなどの金属間化合物は結晶粒界に偏在しているので、Bの原料粉末粒子表面方向への拡散に伴った結晶粒界の移動が阻害され、結晶粒成長はあまり進まない。この結晶粒成長促進効果は、図2に示すように、軟磁性金属粉末の金属粒子中のB含有量が10〜150ppmと、FeBなどの金属間化合物がごく僅か、もしくは、形成しなくなるほどの、ごく微量の含有量になると顕著になる。原料粉末粒子内にBを含有させることで、高温に耐える良好な焼結防止皮膜を形成する効果と、結晶粒成長を促進する効果と、二重の効果が得られ、極めて低保磁力な軟磁性金属粉末を得ることが可能となる。
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0033】
(本発明の軟磁性金属粉末の特徴について)
本発明の軟磁性金属粉末は、Siと、Bとを含む、鉄を主成分とする軟磁性金属粉末であって、軟磁性金属粉末の金属粒子内のBの含有量が10〜150ppmであり、軟磁性金属粉末の金属粒子表面に窒化ホウ素皮膜を有する。軟磁性金属粉末の金属粒子のBの含有量を10〜150ppmとすることによって、保磁力が十分に小さくなる。150ppm以上のBが軟磁性金属粉末の金属粒子中に存在すると、FeBなどの結晶磁気異方性が大きい強磁性相を形成することと、結晶粒成長を阻害するため、保磁力悪化の原因となる。原料粉末に対して、窒素を含む非酸化性雰囲気で高温熱処理を行うと、原料粉末粒子内の多量のBが金属粒子表面で窒化して窒化ホウ素となるので、容易に軟磁性金属粉末の金属粒子内のB含有量を10〜150ppmとすることができる。軟磁性金属粉末の金属粒子内のBの含有量が10〜150ppmであれば、高温熱処理時に金属粒子表面方向へのBの拡散によって結晶粒成長が促進され、保磁力を小さくできる。軟磁性金属粉末の金属粒子の母相のbcc相に対して数ppm程度のBは固溶すること、金属粒子内のB濃度が低くなると拡散速度が低下すること、などから軟磁性金属粉末の金属粒子内のBを10ppm以下とするのは困難である。軟磁性金属粉末のSiの含有量は1〜15質量%となるように調整する。Siの含有量が1%未満であると、結晶磁気異方性や磁歪定数が大きく、良好な軟磁気特性を得ることができない。Siの含有量が15%より大きいと、保磁力が増大することや、軟磁性金属粉末の硬度が高くなり過ぎて、軟磁性金属圧粉コアとしたときに、圧粉体の密度が低くなりすぎ、良好な軟磁性金属圧粉コアを得ることができない。
【0034】
本発明の軟磁性金属粉末は、より好ましくは、その組成に、Crを1〜10%添加する。Crを1〜10%添加することによって、保磁力を損なうことなく、良好な防錆性を軟磁性金属粉末粒子に付与することができ、そして、軟磁性金属粉末粒子の電気抵抗を高くする効果もあり、それによって、軟磁性金属圧粉コアとしたときに、渦電流損失を低減することができることが知られている。Cr添加量が1%未満だと、防錆性と電気抵抗向上の効果が小さい。Cr添加量を10%より大きくしても防錆性に与える効果は変わらず、Crを添加する分だけ飽和磁化が小さくなってしまうため、Cr添加量の上限は10%とする。
【0035】
本発明の軟磁性金属粉末の金属粒子内のB含有量は、ICPを用いて定量することができる。このとき、軟磁性金属粉末の金属粒子の表面に付着した窒化ホウ素を完全に取り除かなければ、正確に軟磁性金属粉末の金属粒子内のホウ素量を定量することができない。そこで、軟磁性金属粉末や、軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアを乳棒、乳鉢で解砕して得られた解砕粉末に対して、ボールミルなどの処理で軟磁性金属粉末の金属粒子表面に付着した窒化ホウ素を削り取り、剥離した窒化ホウ素を軟磁性金属粉末中から洗い流したり、酸で軟磁性金属粉末の金属粒子表面を僅かに溶かすことで金属粒子表面に付着した窒化ホウ素を遊離させて洗い流すといった手法で窒化ホウ素を軟磁性金属粉末から分離し、残った軟磁性金属粉末をICPを用いて定量する。もしくは、窒化ホウ素は酸に不溶であるため、軟磁性金属粉末や、軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアに対して硝酸や塩酸などの酸を加えて金属成分を溶解し、不溶成分となる窒化ホウ素を分離して得られた溶解液を、ICPを用いて定量する。
【0036】
本発明の軟磁性金属粉末中、または本発明の軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアに含まれる窒化ホウ素は、XRDを用いて検出することができる。軟磁性金属粉末や、軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアの解砕粉末に対して、ボールミルなどの処理で軟磁性金属粉末粒子表面に付着した窒化ホウ素を削り取ってから窒化ホウ素を洗い流し、それを集めて乾燥させ、XRDで分析をする事で窒化ホウ素を検出する事ができる。または、窒化ホウ素は酸に不溶であるため、軟磁性金属粉末、もしくは軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアに対して硝酸や塩酸などの酸を加えて溶解させて、不溶成分を集めてXRDで分析する事で窒化ホウ素を検出できる。軟磁性金属粉末、もしくは軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアに含まれる窒化ホウ素量の定量は、B含有量と窒素含有量から求められる。ICPを用いて、軟磁性金属粉末、もしくは軟磁性金属粉末を用いたコアのB含有量を測定し、その値から軟磁性金属粉末粒子内のB含有量の値を差し引いた値を求める。酸素・窒素分析装置(LECO社製TC600)などの装置を用いて軟磁性金属粉末、もしくは軟磁性金属粉末を用いたコアの窒素含有量を測定する。それら2つの値の合計値を窒化ホウ素含有量として定量することができる。
【0037】
本発明の軟磁性金属粉末は、前記軟磁性金属粉末を構成する金属粒子のうち、90%以上の金属粒子の断面の円形度を0.80以上とすることで、さらに保磁力が小さい軟磁性金属粉末を得ることができる。軟磁性金属粉末や、軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアの解砕粉末を冷間埋め込み樹脂で固定し、断面を切り出し、鏡面研磨することで、金属粒子の断面形状を観察することができる。このように準備された金属粒子の断面を少なくともランダムに20個、好ましくは100個以上観察し、各金属粒子の円形度を求める。円形度の一例としてはWadellの円形度を用いることができ、金属粒子断面に外接する円の直径に対する金属粒子断面の投影面積に等しい円の直径の比で定義される。真円の場合にはWadellの円形度は1となり、1に近いほど真円度が高く、0.80以上であれば外観状ほぼ真球とみなすことができる。観察には光学顕微鏡やSEMを用い、円形度の算出には画像解析を用いることができる。
【0038】
本発明の軟磁性金属粉末は、前記軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の90%以上が一個の結晶粒からなる軟磁性金属粉末とすることで、さらに保磁力が小さい軟磁性金属粉末を得ることができる。本発明の軟磁性金属粉末に対して十分な高温熱処理を行えば、軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の90%以上が一個の結晶粒からなる軟磁性金属粉末とすることができる。その高温熱処理の温度と時間は、軟磁性金属粉末の粒径や金属粒子内部のポアの量などによって変わるが、1200℃以上で60min以上の高温熱処理を行う事で得られる。軟磁性金属粉末や、軟磁性金属粉末を用いた圧粉コアの解砕粉末を冷間埋め込み樹脂で固定し、断面を切り出し、鏡面研磨した後、ナイタール(エタノール+1%硝酸)でエッチングすることで、結晶粒界を観察することができる。このように準備された金属粒子の断面を少なくともランダムに20個、好ましくは100個以上観察し、結晶粒界が観察されない金属粒子の数を1個の結晶粒からなる金属粒子としてカウントすると、観察した金属粒子の90%以上が1個の結晶粒からなっている。一部に熱処理での結晶粒成長が不完全な金属粒子も存在することから、全ての金属粒子が1個の結晶粒からなることはない。観察には光学顕微鏡やSEM(走査型電子顕微鏡)を用いることができる。
【0039】
本発明の軟磁性金属粉末は、軟磁性金属粉末に含まれる酸素量が500ppm以下とすることで、さらに保磁力が小さい軟磁性金属粉末を得ることができる。還元雰囲気中で熱処理を行うことで軟磁性金属粉末に含まれる酸素量を500ppm以下とすることができる。
【0040】
本発明の軟磁性金属粉末の平均粒径は、好ましくは、1〜200μmである。平均粒径が1μm未満であると、軟磁性金属圧粉コアの透磁率が低下する。一方、平均粒径が200μmを超えると、軟磁性金属圧粉コアの粒内渦電流損失が増大してしまう。
【0041】
(原料粉末について)
軟磁性金属粉末の原料粉の作製方法はとくに制限されないが、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、鋳造粉砕法などの方法を用いることができる。ガスアトマイズ法で製造された原料粉末を用いれば、軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の90%以上の金属粒子の断面の円形度が0.80以上である軟磁性金属粉末を得ることが容易なため、好ましい。
【0042】
原料粉末は、鉄を主成分とする鉄合金からなる金属粉末であって、SiとBを含む。原料粉末のSiの含有量は1〜15質量%となるように調整する。原料粉末のBの含有量は、0.1質量%以上2.0質量%以下である。0.1質量%未満であると、Bの含有量が少なすぎて、均一で隙間がない窒化ホウ素皮膜が形成できないため、高温熱処理を行ったときに金属粒子同士が焼結してしまう。原料粉末のBの含有量が多い程、軟磁性金属粉末粒子内のB含有量を150ppm以下にするための熱処理の負荷が大きくなるため、2.0質量%以下とする。
【0043】
(熱処理について)
Bを含有した原料粉末に対して窒素を含む非酸化性雰囲気中で高温熱処理を行う。この熱処理により歪が開放され、結晶粒成長が起こり、結晶粒径が大きくなる。十分に保磁力を低減するために、熱処理は、窒素を含む非酸化性雰囲気中、昇温速度は5℃/min以下、温度は1000〜1500℃で、保持時間は30〜600minとする。この熱処理を行うことで、雰囲気中の窒素と、原料粉末中のBが反応して、窒化ホウ素の皮膜を金属粒子表面に形成するとともに、原料粉末粒子の結晶粒を結晶粒成長させる。熱処理温度が1000℃に満たない場合には、原料粉末中のホウ素の窒化反応が不十分となり、FeBなどの強磁性相が残留して、保磁力が十分に低くならない。また、原料粉末の結晶粒成長が不十分となる。熱処理温度が1500℃を超えると、窒化が速やかに進行して反応が完了するとともに、結晶粒成長も速やかに進行して単結晶化するので、温度をそれ以上上げても効果がない。高温熱処理は、窒素を含む非酸化性雰囲気で行う。非酸化性雰囲気で熱処理を行うのは、軟磁性金属粉末の酸化を防ぐためである。昇温速度が速すぎると、十分な量の窒化ホウ素が生成される前に原料粉末粒子が焼結する温度に到達し、原料粉末が焼結してしまうため、昇温速度は5℃/min以下とする。
【0044】
原料粉末は、るつぼや匣鉢といった容器に装填される。容器の材質は1500℃の高温で変形しないことが求められ、また金属と反応しないことが必要であり、一例としてアルミナを使用することができる。熱処理炉はプッシャー炉やローラーハース炉などの連続炉や箱型炉や管状炉、真空炉などのバッチ炉を用いることができる。
【0045】
(軟磁性金属圧粉コアについて)
本発明で得られた軟磁性金属粉末は低い保磁力を示すことから、これを軟磁性金属圧粉コアに用いた場合には、損失が小さくなる。軟磁性金属圧粉コアの作製方法は、軟磁性金属粉末として本発明で得られた軟磁性金属粉末を使用すること以外は、一般的な製造方法で作製することができるが、一例を示す。
【0046】
本発明の軟磁性金属粉末に対し、樹脂を混合して顆粒を作製する。樹脂にはエポキシ樹脂やシリコーン樹脂を用いることができ、成形時の保形性と電気的な絶縁性を有するもので、軟磁性金属粉末粒子表面に均一に塗布できるものが好ましい。得られた顆粒を所望の形状の金型に充填し、加圧成形して成形体を得る。成形圧力は軟磁性金属粉末の組成や所望の成形密度により適宜選択することができるが、概ね600〜1600MPaの範囲である。必要に応じて潤滑剤を用いてもよい。得られた成形体は、熱硬化させて圧粉コアとする。あるいは成形時の歪を除去するために熱処理を行って、軟磁性金属圧粉コアとする。熱処理の温度は500〜800℃で、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの非酸化性雰囲気中で行うことが望ましい。
【0047】
(窒化ホウ素皮膜研削処理について)
本発明の軟磁性金属粉末を用いて軟磁性金属圧粉コアを作製する際に、本発明の軟磁性金属粉末の金属粒子表面に形成された窒化ホウ素皮膜を研削して、軟磁性金属圧粉コア中に含まれる窒化ホウ素の量を減じても良い。窒化ホウ素は非磁性成分であるため、粉の保磁力に対してなんら影響を与えることはない。また、窒化ホウ素は絶縁物であるため、本発明の軟磁性金属粉末を用いて圧粉コアとしたときに、窒化ホウ素皮膜が金属粒子同士の導通を防ぐ絶縁被膜の役目を果たす効果もある。しかし、軟磁性金属粉末中に窒化ホウ素が大量に含まれると、軟磁性金属圧粉コアにしたときに、コアの透磁率が低下する。そのため、窒化ホウ素皮膜を研削して、軟磁性金属粉末中から取り除き、その粉末を用いて軟磁性金属圧粉コアを作製することで、透磁率が高い軟磁性金属圧粉コアとすることができる。窒化ホウ素皮膜の研削処理方法としては、ボールミル処理により窒化ホウ素皮膜を研削して窒化ホウ素皮膜を剥がしたり、酸で軟磁性金属粉末粒子のごく表面部のみを溶かすことにより窒化ホウ素を軟磁性金属粉末の金属粒子表面から剥がすなどして、剥がした窒化ホウ素を風力分級や篩で分離したり、アルコールや水などで洗い流すといった方法がある。軟磁性圧粉コアを作製する場合、保形性と絶縁性を持たせるために樹脂などを粒子表面に被覆するため、窒化ホウ素皮膜研削後、軟磁性金属粉末の金属粒子表面の窒化ホウ素は、均一な皮膜状態を保った状態である必要はなく、軟磁性金属粉末の金属粒子表面に窒化ホウ素がまだらに点在する状態でも良い。窒化ホウ素の軟磁性金属粉末中の含有量を4790ppm以下とすることで、軟磁性金属圧粉コアの透磁率が十分な大きさとなる。軟磁性金属粉末の金属粒子表面の窒化ホウ素皮膜は、金属粒子表面に強固に固着しているため、完全に取り除くためにはボールミル処理を長時間行う必要があり、その場合には軟磁性金属粉末に歪みが入ってしまい、保磁力が悪化する。または、酸の中に長時間、軟磁性金属粉末を浸し、軟磁性金属粉末粒子を溶かす事で窒化ホウ素を剥がす方法もあるが、軟磁性金属粉末が錆びてしまい、保磁力が悪化する。そのため、軟磁性金属粉末中に、窒化ホウ素は50ppm以上は含有する。窒化ホウ素の含有量が50ppm以上であれば、窒化ホウ素皮膜研削処理によって保磁力を損なうことはない。
【0048】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0049】
<実施例1>軟磁性金属粉末のホウ素量、円形度、結晶粒径、酸素量、圧粉コアの評価
【0050】
表1に示したB添加量、およびSi、Cr量、粉末製法で、原料粉末を作製した。原料粉末は篩い分けによって粒度を調整し、平均粒径を20μmとした。この粉末をアルミナ製のるつぼに装填し、管状炉に入れ、表1に示した熱処理温度、保持時間で、窒素雰囲気下の高温熱処理を行った。比較例1−32、1−33の熱処理温度については、粉末が焼結しない、なるべく高い温度を検討し、その結果、900℃とした。(実施例1−1〜1−3、比較例1−4〜1−6、実施例1−7〜1−10、比較例1−11、実施例1−14〜1−31、比較例1−32、1−33)
【0051】
各実施例、比較例について、軟磁性金属粉末の金属粒子内のB含有量を、ICPを用いて定量した。熱処理を行った後の軟磁性金属粉末をポリビンに入れ、ジルコニアのメディア(3mm径)とエタノールを加えて、ボールミル処理を1440min行い、軟磁性金属粉末粒子表面の窒化ホウ素を剥離した。次に、メディアを取り除いた後に、軟磁性金属粉末から剥離された窒化ホウ素薄片をエタノールで洗い流した。窒化ホウ素が分離された軟磁性金属粉末の金属粒子中のB量をICPを用いて定量した。
【0052】
各実施例、比較例の粉末を冷間埋め込み樹脂で固定し、断面を切り出し、鏡面研磨を行った。金属粒子の断面をランダムに100個観察し、各金属粒子のWadellの円形度を測定し、円形度が0.80以上である金属粒子の割合を算出した。結果を表1に示した。
【0053】
各実施例、比較例の粉末を冷間埋め込み樹脂で固定し、断面を切り出し、鏡面研磨を行った。鏡面研磨した金属粒子断面をナイタール(エタノール+1%硝酸)でエッチングした。ランダムに選んだ100個の金属粒子の結晶粒界を観察し、一個の結晶粒からなる金属粒子の割合を算出した。結果を表1に示した。
【0054】
各実施例、比較例の粉末に含まれる酸素量は、酸素・窒素分析装置(LECO社製TC600)にて定量した。
【0055】
各実施例、比較例について、粉末の保磁力を測定した。粉末の保磁力は、φ6mm×5mmのプラスチックケースに20mgの粉末を入れ、さらにパラフィンを加えて、パラフィンを融解、凝固させて固定したものを保磁力計(東北特殊鋼社製、K−HC1000型)にて測定した。測定磁界は150kA/mである。測定結果を表1に示した。
【0056】
各実施例、比較例の粉末に対して、窒化ホウ素皮膜研削処理を行った。軟磁性金属粉末をポリビンに入れ、ジルコニアのメディア(3mm径)とエタノールを加えて、ボールミル処理を120min行い、軟磁性金属粉末粒子表面の窒化ホウ素を剥離した。次に、メディアを取り除いた後に、軟磁性金属粉末から剥離された窒化ホウ素薄片をエタノールで洗い流した。実施例1−30についてはボールミル処理を300min、実施例1−31ではボールミル処理を600min、実施例1−34ではボールミル処理を10minとした。
【0057】
各実施例、比較例の粉末を用いて圧粉コアを作製した。軟磁性金属粉末100質量%に対し、シリコーン樹脂を2.4質量%加え、ニーダーで混練したものを、355μmのメッシュで整粒して顆粒を作製した。これを外径17.5mm、内径11.0mmのトロイダル形状の金型に充填し、成形圧980MPaで加圧し成形体を得た。コア重量は5gとした。得られた成形体をベルト炉で750℃で30min、窒素雰囲気中で熱処理して圧粉コアとした。
【0058】
得られた圧粉コアについて、透磁率とコアロスを評価した。透磁率とコアロスはBHアナライザ(岩通計測社製SY−8258)を用いて周波数20kHz,測定磁束密度50mTの条件で測定した。結果を表1に示した。
【0059】
各実施例、比較例の軟磁性金属圧粉コアに含まれる窒化ホウ素量は、各軟磁性金属圧粉コア中のB含有量をICPを用いて測定し、その値から、各軟磁性金属圧粉コアを構成する金属粒子内のB含有量の値を差し引いた値と、酸素・窒素分析装置(LECO社製TC600)を用いて各粉末の窒素含有量を測定し、それら2つの値の合計値を窒化ホウ素含有量として定量した。
【表1】
【0060】
実施例1−1〜1−3、比較例1−4〜1−6、実施例1−7〜1−10、比較例1−11、実施例1−14〜1−31では、金属粒子表面に窒化ホウ素の皮膜が形成されていた。また、軟磁性金属粉末粒子同士の結合は見られず、高温熱処理を行っても金属粒子同士の固着を抑制できていた。比較例1−12、1−13ではBを添加していないために窒化ホウ素の皮膜が形成されず、高温熱処理後に金属粒子同士が固着してしまい、粉末を得ることができなかった。実施例1−1〜1−3、1−7〜1−10では、比較例1−4〜1−6、1−11と比べて、軟磁性金属粉末粒子の結晶粒径が大きくなっており、結晶粒成長していることを確認した。比較例1−12、1−13は粉末状ではなく塊状のものだが、結晶粒径を観察したところ、実施例1−1〜1−3、1−7〜1−10の結晶粒径よりも小さいことを確認した。これは、軟磁性金属粉末の金属粒子内部のBの含有量が10〜150ppmであれば、結晶粒成長を促進することを示している。実施例1−1〜1−3、1−7〜1−10では、比較例1−4〜1−6、1−11と比べて、粉の保磁力が低くなっていた。軟磁性金属粉末の金属粒子内のB含有量を10〜150ppmとすることで、微量のBの拡散による結晶粒成長促進効果が表れている。実施例1−14〜1−29より、金属粒子の断面の円形度が0.80以上である金属粒子の割合が90%以上であると、また、軟磁性金属粉末を構成する金属粒子の90%以上が一個の結晶粒からなると、また、軟磁性金属粉末に含まれる酸素量が500ppm以下であると、保磁力が小さくなる。コアの透磁率を比較すると、窒化ホウ素皮膜研削処理の有無以外の工程が同じものでは、窒化ホウ素皮膜研削処理を行うと、透磁率が大きくなる。実施例1−22、1−23、1−30、1−31、1−34を比較すると、軟磁性金属圧粉コア中の窒化ホウ素量を減量するほど、透磁率が大きくなる。比較例1−32、1−33では、高温熱処理の温度が900℃と低いため、保磁力が大きい。実施例1−3〜1−3、1−7〜1−10、1−14〜1−31と、比較例1−4〜1−6、1−11〜1−13、1−32、1−33のコアロスを比較すると、本発明の軟磁性金属粉末を用いた軟磁性金属圧粉コアは、コアの損失を改善することができる。
【0061】
<実施例2>軟磁性金属粉末のSi量とCr量
【0062】
Si量とCr量が表2に示す量で、B添加量が0.2質量%の組成の原料粉末を水アトマイズ法にてそれぞれ作製した。原料粉末は篩い分けによって粒度を調整し、平均粒径を20μmとした。この粉末をアルミナ製のるつぼに装填し、管状炉に入れ、窒素雰囲気下1100℃で60minの高温熱処理を行った。得られた軟磁性金属粉末の金属粒子内のB含有量は、ICPを用いて、実施例1と同様の手順で定量した。(実施例2−2〜2−7、2−9〜2−13、比較例2−1、2−8)
【0063】
各実施例、比較例について、粉末の保磁力を測定した。実施例1と同様の手順で測定し、測定結果を表2に示した。
【0064】
各実施例、比較例について、防請性の試験を行った。粉末を冷間埋め込み樹脂で固定し、断面を切り出し、鏡面研磨を行った。それを60℃相対湿度95%の恒温恒湿槽中に2000時間放置した。その後、金属粒子の断面をランダムに20個観察し、発錆している金属粒子の割合を算出した。これらの結果を表2に示した。
【表2】
【0065】
実施例2−2〜2−7は、保磁力が十分に小さいが、比較例2−1、2−8では保磁力が増大している。実施例2−9〜2−13の金属粉末組成は、実施例2−4の金属粉末組成に対してCrが添加されたものとなるが、Crが添加されても、粉の保磁力にはほとんど影響がないことが分かる。そして、Crを1.0質量%以上添加することで、発錆する粒子の割合を0%にすることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明した通り、本発明の軟磁性金属粉末は保磁力が低く、この軟磁性金属粉末を用いて軟磁性金属圧粉コアを作製することで低い損失のコアを得ることができる。この軟磁性金属粉末あるいは軟磁性金属圧粉コアは損失が低いことから、高効率化を実現できるので、電源回路などの電気・磁気デバイス等に広く且つ有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1図1は、本発明の原料粉末粒子の断面の模式図である。
図2図2は、本発明の軟磁性金属粉末の断面の模式図である。
【符号の説明】
【0068】
1…原料粉末粒子
2…FeB相
3…母相中のB
4…結晶粒界
5…軟磁性金属粉末粒子
6…窒化ホウ素の皮膜
図1
図2