(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-233368(P2015-233368A)
(43)【公開日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】永久磁石式電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20151201BHJP
H02K 1/27 20060101ALI20151201BHJP
【FI】
H02K1/22 A
H02K1/27 501K
H02K1/27 501M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-118797(P2014-118797)
(22)【出願日】2014年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】大口 英樹
【テーマコード(参考)】
5H601
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD21
5H601FF17
5H601GA24
5H622AA02
5H622CA02
5H622CB05
(57)【要約】
【課題】製造コストの低減化を図りながらコギングトルクを低減することができる永久磁石式電動機を提供する。
【解決手段】回転子コア10の回転中心Caと磁極9の一対の前記永久磁石12,12の間の円周方向中央部とを結ぶ線をd軸とし、周方向に隣り合う磁極同士の間に延在して前記d軸に電気角で直交する軸をq軸とすると、回転子コアの外周形状は、d軸上の外径寸法が最も大きく、q軸上の外径寸法が最も小さい円弧形状の外周面を有する形状とされているとともに、d軸上の回転子コアの半径Rと、d軸上の前記回転子コアの外周面から前記磁極を形成する一対の前記永久磁石の内周側頂点までの埋込深さLuとの関係をLu/Rで表すと、0.16≦Lu/R≦0.205の範囲に設定している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複数の固定子スロットが形成され、これらスロットの間に設けられた複数のティースに励磁コイルが巻装されている固定子と、
この固定子の前記内周面に外周がギャップを設けて対向している回転子と、を備え、
前記回転子は、回転子コアの軸方向に貫通して形成された複数の回転子スロットと、これら複数の回転子スロットに周方向に隣り合う磁極が異極性となるように挿入した複数の板状の永久磁石と、を有し、
前記磁極は、一対の前記永久磁石を前記回転子コアの回転中心に向かってV字状に配置して構成し、
前記回転子コアの回転中心と前記磁極の一対の前記永久磁石の間の円周方向中央部とを結ぶ線をd軸とし、周方向に隣り合う前記磁極同士の間に延在して前記d軸に電気角で直交する軸をq軸とすると、
前記回転子コアの外周形状は、前記d軸上の外径寸法が最も大きく、前記q軸上の外径寸法が最も小さい円弧形状の外周面を有する形状とされているとともに、
前記d軸上の前記回転子コアの半径Rと、前記d軸上の前記回転子コアの外周面から前記磁極を形成する一対の前記永久磁石の内周側頂点までの埋込深さLuとの関係をLu/Rで表すと、
0.16≦Lu/R≦0.205
の範囲に設定したことを特徴とする永久磁石式電動機。
【請求項2】
前記d軸上の前記回転子コアの半径Rと、前記永久磁石の板厚Lmとの関係をLm/Rで表すと、
0.035≦Lm/R≦0.078
の範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載の永久磁石式電動機。
【請求項3】
前記d軸上の前記回転子コアの半径Rと、前記回転子コアの円弧形状の外周面を形成している曲率半径Ryとの関係をRy/Rで表すと、
0.70≦Ry/R≦0.85
の範囲に設定したことを特徴とする請求項1又は2記載の永久磁石式電動機。
【請求項4】
前記回転子コアの1極分の角度θ1と、V字状に配置した前記一対の永久磁石の内側開き角度θcとの関係をθc/θ1で表すと、
2.49≦ θc/θ1≦ 2.86
の範囲に設定したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の永久磁石式電動機。
【請求項5】
磁極数を6とし、前記固定子スロットの数を54としたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の永久磁石式電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石式電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石式電動機は、コギングトルクと呼ばれる一種のトルク脈動が発生する。永久磁石式電動機においてコギングトルクが大きい場合には、制御性能の悪化や騒音が発生するなどの問題が生じる。
コギングトルクは、回転子の回転によって磁気エネルギーが変化することで発生する。すなわち、回転子の位置によって磁気抵抗が変化するので、回転子の回転により磁気抵抗の変化が少なくなるようにすれば、コギングトルクを低減できる。
【0003】
コギングトルクを低減する方法として、例えば特許文献1のように回転子コアにスキューを施す技術、特許文献2のように固定子コアにスキューを施す技術が知られている。
特許文献1は、複数の板状回転子コアを回転方向に所定の角度だけずらして積層することで回転子を構成する。
また、特許文献2は、複数の板状固定子コアを複数積層することで固定子コアを形成する。これら複数の板状固定子コアに形成したスロットに環状コイルを装着し、隣接する各板状固定子コアが周方向に徐々にずれるように捩りを与えて固定子を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−80079号公報
【特許文献2】特開2012−196033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2は、回転子コアや固定子コアにスキューを施すことでコギングトルクの低減化を図ることができるものの、複数の板状回転子コア、複数の板状固定子コアを高精度にずらして積層する作業が必要となり、製造コストの面で問題がある。
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、製造コストの低減化を図りながらコギングトルクを低減させ、高精度の制御を行うことができる永久磁石式電動機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る永久磁石式電動機は、内周面に複数の固定子スロットが形成され、これらスロットの間に設けられた複数のティースに励磁コイルが巻装されている固定子と、この固定子の上記内周面に外周がギャップを設けて対向している回転子と、を備えている。そして、上記回転子は、回転子コアの軸方向に貫通して形成された複数の回転子スロットと、これら複数の回転子スロットに周方向に隣り合う磁極が異極性となるように挿入した複数の板状の永久磁石とを有している。上記磁極は、一対の上記永久磁石を前記回転子コアの回転中心に向かってV字状に配置して構成し、上記回転子コアの回転中心と上記磁極の一対の上記永久磁石の間の円周方向中央部とを結ぶ線をd軸とし、周方向に隣り合う上記磁極同士の間に延在して上記d軸に電気角で直交する軸をq軸とすると、上記回転子コアの外周形状は、上記d軸上の外径寸法が最も大きく、上記q軸上の外径寸法が最も小さい円弧形状の外周面を有する形状とされているとともに、上記d軸上の上記回転子コアの半径Rと、上記d軸上の上記回転子コアの外周面から上記磁極を形成する一対の上記永久磁石の内周側頂点までの埋込深さLuとの関係をLu/Rで表すと、0.16≦Lu/R≦0.205の範囲に設定している。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る永久磁石式電動機によれば、d軸上の回転子コアの半径Rと、d軸上の回転子コアの外周面から磁極を形成する一対の永久磁石の内周側頂点までの埋込深さLuとの関係をLu/Rで表すと、0.16≦Lu/R≦0.205の範囲に設定したことで、回転子コア及び固定子コアにスキューを施さずに製造コストの低減化を図りながらコギングトルクを低減させることができるとともに、高精度の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の永久磁石式電動機を示す半断面図である。
【
図2】第1実施形態の永久磁石式電動機において回転子コアの1極分の構造を示している。
【
図3】第1実施形態の回転子コアを構成する部位のパラメータを示す図である。
【
図4】第1半径R及び埋込深さLuの比Lu/Rとコギングトルク比との関係を示す特性線図である。
【
図5】第1半径R及び永久磁石の板厚Lmの比Lm/Rとコギングトルク比との関係を示す特性線図である。
【
図6】第1半径R及び曲率半径Ryの比Ry/Rとコギングトルク比との関係を示す特性線図である。
【
図7】1極分の角度θ1及び永久磁石の内側開き角度θcの比θc/θとコギングトルク比との関係を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る第1実施形態の永久磁石式電動機1を示すものであり、固定子2と、この固定子2の内周側に所定のエアギャップを設けて対向している回転子3と、を備えており、回転子3は、回転軸4に支持されて回転自在に配置されている。
【0010】
固定子2は、複数枚の固定子用鋼板を積層してなる中空円筒形状の固定子コア5と、この固定子コア5の内周面に円周方向に等間隔に形成され、軸方向に貫通している複数の固定子スロット6と、これら固定子スロット6の間に設けられた複数のティース7と、を備えており、各ティース7には励磁コイル8が巻装されている。
ここで、
図1の第1実施形態の永久磁石式電動機1は、固定子コア5の内周面に54個の回転子スロット6が形成され、54個のティース7が形成されている。
【0011】
回転子4は、6つの磁極9を有する積層鉄心で形成される回転子コア10と、この回転子コア10の軸方向に貫通して形成された12個の回転子スロット11と、これら回転子スロット11内に周方向に隣り合う磁極9が異極性となるように挿入した永久磁石12と、を備えている。ここで、永久磁石12は希土類磁石で構成されている。
各磁極9は、一対の前記永久磁石12,12を回転軸4の回転中心に向かって凸となるV字形状に配置した構成を有する。
【0012】
図2は、6つの磁極9を有する回転子コア10のうち1極分の構造を示すものである。
回転軸4の回転中心Caと1極分の一対の永久磁石12,12の間の円周方向中央部とを結ぶ線をd軸とし、周方向に隣り合う磁極9,9の間に延在してd軸に電気角で直交する軸をq軸とすると、1極分の回転子コア10の外周面は、d軸上の回転中心Caから外周までの第1半径Rが最も大きく、q軸上の回転中心Caから外周までの第2半径R1が最も小さくなるような円弧形状を有している(R1<R)。また、他の磁極も同様に各々のd軸及q軸に対応して円弧形状を有しているので、この回転子コア10は、極数と同じ6個の円弧形状の外周を有している。
【0013】
なお、本発明のd軸上の回転子コアの半径Rが、第1実施形態の第1半径Rに対応している。
ここで、コギングトルクの振幅の2倍を定格トルクで除した値を、コギングトルク比と称するが、このコギングトルク比を1%以下に設定した永久磁石式電動機1は、高精度の位置決め制御など制御性能を向上させることができる。
そこで、本発明者は、第1実施形態の6極用54スロットの永久磁石式電動機1の回転子コア10を構成する部位のパラメータを変更して電磁界解析を行い、
図4から
図7で示す結果を得た。
【0014】
回転子コア10を構成する部位のパラメータとしては、
図3に示すように、d軸上の回転中心Caから外周までの第1半径R、d軸上の回転子コア10の外周面から1極分を構成する一対の永久磁石12,12の内周側頂点までの埋込深さLu、各永久磁石12の板厚Lm、回転子コア10の円弧形状の外周面を形成しているd軸上の符号Cbを円中心とした曲率半径Ry、回転子コア10の1極分の角度θ1、V字状に配置した一対の2つの永久磁石12,12の内側開き角度θcがある。なお、各永久磁石12の幅をLwとし、この幅Lwと第1半径Rとの関係をLw/Rとすると、0.34≦Lw/R≦0.45の範囲に設定している。
【0015】
そして、第1半径Rと埋込深さLuとの関係をLu/Rで表すと、コギングトルク比との関係は
図4に示すようになる。この
図4から、Lu/Rを下記(1)式の範囲(
図4の最適範囲)に設定することで、コギングトルク比を1%以下とすることができ、Lu/R=0.184のときにコギングトルク比が最も低くなる。
0.16≦Lu/R≦0.205 ……(1)
【0016】
また、第1半径Rと永久磁石12の板厚Lmとの関係をLm/Rで表すと、コギングトルク比との関係は
図5に示すようになる。この
図5から、Lm/Rを下記(2)式の範囲(
図5の最適範囲)に設定することで、コギングトルク比を1%以下とすることができ、Lm/R=0.055のときにコギングトルク比が最も低くなる。
0.035≦Lm/R≦0.078 ……(2)
【0017】
また、第1半径Rと回転子コア10の円弧形状の外周面を形成している曲率半径Ryとの関係をRy/Rで表すと、コギングトルク比との関係は
図6に示すようになる。この
図6から、Ry/Rを下記(3)式の範囲(
図6の最適範囲)に設定することで、コギングトルク比を1%以下とすることができ、Ry/R=0.812のときにコギングトルク比が最も低くなる。
0.70≦Ry/R≦0.85 ……(3)
【0018】
さらに、回転子コア10の1極分の角度θ1(=60°)とV字状に配置した一対の2つの永久磁石12,12の内側開き角度θcとの関係をθc/θ1で表すと、コギングトルク比との関係は
図7に示すようになる。この
図7から、θc/θ1を下記(4)式の範囲(
図7の最適範囲)に設定することで、コギングトルク比を1%以下とすることができ、θc/θ1=2.80のときにコギングトルク比が最も低くなる。
2.49≦θc/θ1≦2.86 ……(4)
【0019】
したがって、第1実施形態の6極用54スロットの永久磁石式電動機1は、(1)式〜(4)式の関係式のうち、少なくとも一つ以上の関係式となるように、回転子コア10を構成する部位を設定することで、コギングトルク比が1%以下とされて高精度の位置決め制御など制御性能を向上させることができる。
また、第1実施形態の永久磁石式電動機1は、極数と同数の円弧形状の外周面を有する回転子コア10を形成することでコギングトルクを低減させており、積層部材を高精度にずらして積層することで回転子コアや固定子コアにスキューを施している従来装置と比較して、製造コストの低減化を図ることができる。
なお、上述した第1実施形態は、回転子3の磁極9の数を6極とし、固定子2の固定子スロット6を54個とした永久磁石式電動機1について説明した。しかしながら、上記構成に限定されるものではなく、回転子3の磁極数及び固定子2の固定子スロット6の数は任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0020】
1…永久磁石式電動機、2…固定子、3…回転子、4…回転軸、5…固定子コア、6…固定子スロット、7…ティース、8…励磁コイル、9…磁極、10…回転子コア、11…回転子スロット、12…永久磁石、Ca…回転中心、R…第1半径、R1…第2半径、Lu…埋込深さ、Lm…永久磁石の板厚、Ry…曲率半径、θ1…1極分の角度、θc…内側開き角度