(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-23716(P2015-23716A)
(43)【公開日】2015年2月2日
(54)【発明の名称】発電機の巻線構造
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20150106BHJP
【FI】
H02K3/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-151261(P2013-151261)
(22)【出願日】2013年7月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉章
(72)【発明者】
【氏名】片平 洋一
【テーマコード(参考)】
5H603
【Fターム(参考)】
5H603AA01
5H603AA09
5H603BB02
5H603BB09
5H603BB14
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB01
5H603CC14
5H603CD02
5H603CD04
5H603CD21
5H603CE02
5H603CE05
(57)【要約】
【課題】 発電機の巻線占積率の向上と発電効率の低下抑制を図る。
【解決手段】 平角銅線を略中空台形状に巻回したコイル6を上下に段積する。段積みしたコイル6は互いに逆巻きとし、各コイル6最内周端部の引出線同士をコイル6の中空部内を利用して結線する。また、平角銅線を2本持ちで巻回する場合は、コイル6の最内周端部の引出線の引出位置を2箇所とし、上下のコイル6同士で結線することにより、各コイル6に発生する誘起電圧を相殺する。さらに、段積したコイル6のうち、界磁用の永久磁石5aに近接して配置されるコイル6は、その高さ寸法をこれに挟まれて配置されるコイル6の高さ寸法と比較して小さくすることで、コイル6に発生する渦電流を減少させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角銅線を正方向に巻回して略中空台形状に形成したコイルと、平角銅線を逆方向に巻回して略中空台形状に形成したコイルを互いに逆巻きとなる順番で段積みして1組とし、ケーシング内に複数組のコイルを放射状に隣接配置して構成した発電機において、段積みした前記コイルの最内周端部の引出線同士を、該コイルの中空部内を利用して結線するように構成したことを特徴とする発電機の巻線構造。
【請求項2】
平角銅線を正方向に2本持ちで巻回して略中空台形状に形成したコイルと、平角銅線を逆方向に2本持ちで巻回して略中空台形状に形成したコイルを互いに逆巻きとなる順番で段積みして1組とし、ケーシング内に複数組のコイルを放射状に隣接配置して構成した発電機において、2本持ちで巻回した前記コイルの最内周端部の引出線の引出位置を2箇所とし、段積みしたコイルの引出線同士を、該コイルの中空部内を利用して結線するように構成したことを特徴とする発電機の巻線構造。
【請求項3】
最上段と最下段に位置する前記コイルの高さ寸法を、それに挟まれて中段に位置するコイルの高さ寸法と比較して小さくしたことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の発電機の巻線構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機を構成する固定子巻線の構造と、固定子巻線相互間の接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの利用が注目されている。特に、風力発電は発電資源が枯渇する心配がなく、石油や天然ガス等の8割以上を海外から輸入する我が国のエネルギー安全保障の観点からも期待が大きい。
【0003】
風力発電機としては、磁界発生用の界磁コイルに電力を供給して発電を行う誘導発電型の他、永久磁石によって形成された磁界を利用して発電を行う永久磁石型が知られている。永久磁石型の風力発電機は主に出力が100[W]程度の小出力の発電機として利用される。
【0004】
図8に風力発電機の概略を示す。風力発電機は、例えば、繊維強化プラスチック(FRP)製の羽根101と、羽根101の回転から電力を発生させる発電機本体102と、羽根101および発電機本体102を支える支柱103から構成されている。
【0005】
発電機本体102内部には、
図9に示すように、羽根101の回転運動を増速する増速機104と、増速機104で増速されて回転軸105によって伝達される回転運動から電力を発生させる発電機106が収納されている。発電機106としては、例えば、下記特許文献1に記載の構造が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−153036
【0007】
図10,
図11に特許文献1記載の発電機の構造を示す。
図10に示すように、ケーシング107内に互いに極性が異なる永久磁石108が対向配置されており、永久磁石108間には、永久磁石108と一定距離隔てて、コイル109が設けられている。
【0008】
コイル109は
図11に示すように、円形状をなすケーシング107内にシャフト110を中心にして放射状に配列されており、個々のコイル109に対応する個数の永久磁石108が互いに異なる極性が隣接するように配置されている。
【0009】
そして、永久磁石108がコイル109に対して回転移動することにより、コイル109に方向が反転する磁束が鎖交することとなり、コイル109に電磁誘導作用による交流電流が流れる。コイル109に発生した電力は、
図9に示す電力線111を介して外部へ取り出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した発電機106には、コイル109に丸銅線を使用することが一般的であるが、これに代えて平角銅線を使用することにより、丸銅線を使用する場合と比較してコイル109の占積率を向上させることができる。占積率の向上は発電効率の向上につながる。
【0011】
しかし、平角銅線を使用すると、コイル109同士の結線が困難となる。つまり、
図11に示す個々のコイル109はシャフト110を中心に放射状に配列されているが、コイル109で発生する渦電流損を低減すべく、上下(
図11の紙面に垂直方向)に分割して段積されることが通常である。
【0012】
このとき、上下に段積した複数のコイル109同士を結線しようとする場合、個々のコイル109の引出線をコイル109の端面に沿ってコイル109の外側へ導出する必要があり容易でない。特に平角銅線を使用した場合は、導出作業と結線作業は相当困難となる。
【0013】
また、コイル109の端面に沿って引出線を外側へ導出して結線することは、引出線を引出すためのスペースと、結線するためのスペースが必要となり、コイル109の占積率を悪化させ、発電効率の低下につながる問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、コイル間の結線作業を容易とし、かつ、コイルの占積率の悪化を招来することのない発電機の巻線構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発電機の巻線構造は、平角銅線を正方向に巻回して略中空台形状に形成したコイルと、平角銅線を逆方向に巻回して略中空台形状に形成したコイルを互いに逆巻きとなる順番で段積みして1組とし、ケーシング内に複数組のコイルを放射状に隣接配置して構成した発電機において、段積みした前記コイルの最内周端部の引出線同士を、該コイルの中空部内を利用して結線するように構成したことを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発電機の巻線構造は、平角銅線を正方向に2本持ちで巻回して略中空台形状に形成したコイルと、平角銅線を逆方向に2本持ちで巻回して略中空台形状に形成したコイルを互いに逆巻きとなる順番で段積みして1組とし、ケーシング内に複数組のコイルを放射状に隣接配置して構成した発電機において、2本持ちで巻回した前記コイルの最内周端部の引出線の引出位置を2箇所とし、段積みしたコイルの引出線同士を、該コイルの中空部内を利用して結線するように構成したことを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発電機の巻線構造は、請求項1又は請求項2の何れかに記載の発電機の巻線構造において、最上段と最下段に位置する前記コイルの高さ寸法を、それに挟まれて中段に位置するコイルの高さ寸法と比較して小さくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発電機の巻線構造によれば、上下に段積した略中空台形状に巻回した平角銅線の最内周端部の引出線同士を、コイルの中空部内を利用して結線するように構成したので、引出線同士を結線するためにスペースを別途確保する必要はなく、コイルの占積率を高くすることができる。
【0019】
請求項2記載の発電機の巻線構造によれば、2本持ちで巻回した平角銅線の最内周端部において、引出し位置の異なる2本の引出線を、段積して同様に最内周端部において引出し位置の異なる2本の引出線と、コイルの中空部内を利用して結線するように構成したので、上下に段積みしたコイルの各々に発生する無効な誘起電圧を相殺することができ、短絡電流の発生を阻止することができる。
【0020】
請求項3記載の発電機の巻線構造によれば、最上段と最下段のコイルの高さ寸法を、これに挟まれて中段に位置するコイルの高さ寸法と比較して小さくすることによって、コイルに発生する渦電流を減少させることができ、発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】本発明の発電機の要部切欠断面斜視図である。
【
図4】本発明の発電機の巻線構造の第一実施例を説明する斜視図である。
【
図5】本発明の発電機の巻線構造の第二実施例を説明する斜視図である。
【
図6】本発明の発電機の巻線に生じる漏れ磁束の分布図である。
【
図7】本発明の発電機の巻線構造の第三実施例を説明する斜視図である。
【
図9】一般的な風力発電設備の発電機本体の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を
図1乃至
図7を用いて説明する。
図1は
図9に示す風力発電機を構成する発電機1の側方断面図であり、フランジ2a,2bを有する有底円皿形状をなす一対のケーシング3a,3bと、ケーシング3a,3bの底部側に配置されるプレート4a,4b、プレート4a,4b上に配置される永久磁石5a,5b、および、永久磁石5a,5b間に、当該永久磁石5a,5bと一定距離隔てて配置される電機子巻線(以下、コイルという)6から概略構成されている。
【0023】
また、前記プレート4a,4bは、中空円筒状の第1の連結部7に連結されており、第1の連結部7は、中空円盤状の第2の連結部8に連結されている。そして、第2の連結部8は回転軸9に連結されているので、
図9に示す羽根101の回転動作にしたがって回転し、永久磁石5a,5bを回転軸9周りに回転させる。
【0024】
図2は
図1に示す発電機1のA−A矢視図である。前記コイル6は平角銅線を略中空台形状に巻回した後、回転軸9を中心に放射状に配列している。永久磁石5aは、コイル6とケーシング3aの底部間に、円周方向に沿ってN極とS極が交互に、個々のコイル6に対応して配置されている。発電機1を構成するこれら各部材の位置関係を
図3にわかりやすく示した。
【0025】
次に、本発明の第1実施例について
図4を用いて説明する。本発明の発電機1を構成するコイル6は、前述したように、コイルの占積率を向上させる目的から平角銅線を巻回して形成している。ここで、コイル6に発生する渦電流損を極力抑制すべくコイル6は
図4に示すように、上下方向(
図1では左右方向)に分割(例えば2分割)して構成されている。
【0026】
したがって、コイル6を構成する上段コイル6aと下段コイル6bはその端部同士を結線する必要が生じる。そこで、上段コイル6aと下段コイル6bの最内周端部に位置する引出線10aと引出線10bをコイル6の中空部内を利用して互いに結線することとした。
【0027】
これにより、従来のように、上段コイル6aと下段コイル6bの各引出線10a,10bをコイル6の端面に沿ってコイル6の外側まで導出して、コイル6の外側位置で結線する必要はなくなり、平角銅線を導出して結線する困難さを解消し、かつ、導出および結線するためのスペースの確保を不要として、コイル6の占積率を向上させることが可能となる。
【0028】
つづいて、本発明の第2実施例について
図5を用いて説明する。第2実施例に係る発電機1のコイル6は、
図5に示すように、巻きやすさの観点から2本持ちで巻回した上段コイル6cと下段コイル6dを段積して形成されている。
【0029】
そして、上段コイル6cと下段コイル6dの最内周端部は、重ねて巻いた2枚の平角銅線の引出線10c,10dおよび引出線10e,10fの引出位置を各々相違させて2箇所づつとしている。
【0030】
この状態で、上段コイル6cの最内周端部の引出線10cと下段コイル6dの最内周端部の引出線10eを、コイル6の中空部内を利用して結線し、また、上段コイル6cの最内周端部の引出線10dと下段コイル6dの最内周端部の引出線10fを、コイル6の中空部内を利用して結線することにより、平角銅線をコイル6の外側に導出して結線する作業を無くし、引出線を導出・結線するためのスペースの確保を不要とした。
【0031】
その上で、
図5に示す第2実施例においては、上段コイル6cの最外周端部の引出線10gと引出線10hが重なった(接続された)状態にあり、また、下段コイル6dの最外周端部の引出線10iと引出線10jが重なった(接続された)状態にあるので、上段コイル6cの端部10c→10h→10g→10dと、下段コイル6dの端部10e→10i→10j→10fに電流ループが形成されることとなり、この電流ループを要因とする電磁誘導作用によって短絡電流が流れ、コイル6に損失が生じてしまう。
【0032】
そこで、本発明の第2実施例では、上段コイル6cと下段コイル6dを逆巻きに構成するとともに、上段コイル6cの最内周端部の引出線10cと下段コイル6dの最内周端部の引出線10eを結線し、かつ、上段コイル6cの最内周端部の引出線10dと下段コイル6dの最内周端部の引出線10fを結線することにより、上記電流ループによって上下各コイル6c,6dに発生する誘起電圧を相殺し、短絡電流の発生を解消している。
【0033】
これにより、コイルに発生する損失を確実に解消し、発電機の効率低下を確実に抑制している。
【0034】
最後に、
図6,
図7を用いて本発明の第3実施例について説明する。
図6は永久磁石5aを回転軸9周り(
図2参照)に回転させた際に、コイル6に発生する渦電流の分布を示す図である。
図2に示すように、放射状に隣接する永久磁石5a,5a間のコイル6には、永久磁石5a,5aが回転する方向(
図6の矢印方向)に渦電流が発生する。
【0035】
渦電流の発生は発電機1の発電効率を低下させる要因となるので、これを防止する必要がある。そこで、本発明の第3実施例では、永久磁石5a,5aに近い側に位置するコイル6内に渦電流が発生することに鑑み、
図7に示すように、コイル6のうち、永久磁石5a,5aに近接する位置にある最上段コイル6eと最下段コイル6fの高さ寸法hを、これらに挟まれる中段コイル6g,6hの高さ寸法Hと比較して小さくしたことに特徴を有する。
【0036】
これにより、コイル6に発生する渦電流を抑制することが可能となり、発電機1の効率低下を確実に防止することができる。
【0037】
なお、
図7に示すコイル6においても、各コイル6e,6f,6g,6hの最内周端部の引出線は、各コイル6e,6f,6g,6hの中空部内を利用して結線することは、
図4に示す第1実施例と同様である。
【0038】
以上説明したように、本発明に係る発電機の巻線構造によれば、上下に段積した各コイルの最内周端部の引出線同士を、コイルの中空部内を利用して結線するように構成したので、引出線をコイルの端面に沿ってコイルの外側へ導出する作業負担と、コイルの外側で結線する作業負担を解消することができる。
【0039】
また、上下に段積した各コイルは互いに逆巻きにして、各コイルの最内周端部の引出線同士を結線することにより、各コイルを2本持ちで巻回した場合においても、各コイルに発生する誘起電圧を互いに相殺することができ、短絡電流による発電効率の低下を防止できる。
【0040】
さらに、段積したコイルのうち、界磁用の永久磁石に近接する位置に配置されるコイルの高さ寸法を、これらに挟まれるコイルの高さ寸法と比較して小さくすることにより、永久磁石の回転方向に発生するコイル内の渦電流を抑制することができ、発電効率の低下抑制に努めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、平角銅線を巻回した巻線に利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1,106 発電機
2a,2b フランジ
3a,3b,107 ケーシング
4a,4b プレート
5a,5b,108 永久磁石
6(6a〜6h),109 コイル
7 第1の連結部
8 第2の連結部
9,105 回転軸
10a〜10j 引出線
101 羽根
102 発電機本体
103 支柱
104 増速機
110 シャフト
111 電力線