(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-24427(P2015-24427A)
(43)【公開日】2015年2月5日
(54)【発明の名称】金属材の加工方法
(51)【国際特許分類】
B21D 21/00 20060101AFI20150109BHJP
B21D 19/08 20060101ALI20150109BHJP
【FI】
B21D21/00 A
B21D19/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-155747(P2013-155747)
(22)【出願日】2013年7月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100172409
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 朗宏
(72)【発明者】
【氏名】速水 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】工藤 智行
(72)【発明者】
【氏名】野口 修
(57)【要約】
【課題】少ない工程数で効果的に穴拡げ性を向上させることができる金属材の加工方法を提供する。
【解決手段】下穴が設けられた金属材50の加工方法は、成形用具10を用いて金属材50の下穴の周縁部を押すことによって下穴の径を拡げる下穴拡大工程を含み、下穴拡大工程において、成形用具10に超音波振動を印加する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下穴が設けられた金属材の加工方法であって、
成形用具を用いて前記下穴の周縁部の金属材を押すことによって前記下穴の径を拡げる下穴拡大工程を含み、
前記下穴拡大工程において、前記成形用具に超音波振動を印加する、
ことを特徴とする金属材の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機の部材や部品を金属板材のプレス成形によって形成する際、皿ねじによって他の部品を取り付けるために皿穴加工が施される場合がある。皿穴加工は予め打ち抜き加工によって開けられた下穴に円錐状のパンチを押し付ける加工であり、穴拡げ加工の一種である。
【0003】
穴拡げ加工の際には、下穴の周囲に生じる引張応力によって、下穴の周縁部に、金属板材の厚み方向に貫通する割れが発生することがあった。
【0004】
金属板材の穴拡げ性を向上させるために、打抜き加工によって開けられた下穴の内側表面性状の改善と、材料自身の局部延性の向上とが有効であることが知られている。
【0005】
打抜き加工によって開けられた下穴の内側表面性状を改善して穴拡げ性を向上させる技術として、特許文献1には、板材を打抜き加工して予備下穴を形成する第1の打抜き工程と、予備下穴の周縁を所定スクラップ幅で打抜き加工して予備下穴よりも大きい直径の下穴を形成する第2の打抜き工程との後に、下穴の周縁を曲げ加工してフランジを形成することにより、下穴周縁の材料の加工硬化を抑制し、下穴の打抜き破断面の面性状を向上させるものが記載されている。
【0006】
特許文献2には、打ち抜き穴表面の加工硬化している部分の塑性歪みを回復させる熱処理を施すことで穴拡げ性を向上させるものが記載されている。
【0007】
特許文献3には、下穴の穴開け加工時に、下穴の縁部となる金属材の組織が再結晶化する最適温度となるように下穴加工部を加熱し、この状態で穴開け加工を行った後、金属材を徐冷し、その後、バーリング加工を行うものが記載されている。
【0008】
一方、局部延性を向上させるために材料を加熱することが有効であることが知られている。板材を加熱することによって材料の局部延性を向上させて穴拡げ性を向上させる技術として、特許文献4には、下穴を拡大してバーリング加工を行う際、板材を、温間プレス加工板材の伸びが向上する温度に加熱して成形するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−75869号公報
【特許文献2】特開2004−197184号公報
【特許文献3】特開2009−255158号公報
【特許文献4】特開2001−38425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された技術においては、金型が増えて設備コストが増大するとともに、工程が増えて生産性が低下することがあった。
【0011】
また、特許文献4に記載の技術のように材料を高温に加熱して局部延性を向上させる方法は、エネルギー消費が大きいことや、装置構成が煩雑になること、加熱の制御が難しく加工精度にばらつきが生じることがあった。さらに、特許文献4には下穴の周辺のみを局部的に加熱する方法が記載されているが、割れが発生する可能性がある下穴の縁表面に加熱部分を限定することは難しく、下穴周辺に伝わった熱による材料の軟化によって、穴拡げ部分の加工精度が低下してしまうことがあった。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、少ない工程数で効果的に穴拡げ性を向上させることができる金属材の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属材の加工方法は、
下穴が設けられた金属材の加工方法であって、
成形用具を用いて前記下穴の周縁部の金属材を押すことによって前記下穴の径を拡げる下穴拡大工程を含み、
前記下穴拡大工程において、前記成形用具に超音波振動を印加する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少ない工程数で効果的に穴拡げ性を向上させることができる金属材の加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における金属板材に穴拡げ加工を行う場合の工程図である。
【
図2】本発明の実施形態における金属板材に穴拡げ加工を行う場合の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る超音波振動を用いた穴拡げ加工方法について、以下、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1および
図2は本発明の実施形態に係る金型を用いた穴拡げ加工方法(金属材の加工方法)を示す工程図であり、
図1は穴拡げ加工前の状態を示し、
図2は穴拡げ加工が終わった状態を示す。
図1および
図2において、穴拡げ加工用の金型100は、成形パンチ10(成形用具)と、成形ダイス20と、パッド30と、超音波振動子40と、を備え、金属板材50(金属材)が金型100に配置される。
【0018】
本発明の実施形態においては、金属板材50として、たとえば、JIS 5182合金(以下、5182合金)などのアルミニウム合金などが用いられる。金属板材50には、たとえば、打抜き加工などによって、円形の下穴があらかじめ開けられている。成形パンチ10は下穴の径よりも大きな径を有し、成形ダイス20は成形パンチ10の径よりも大きい径のダイス穴を有する。また、パッド30は成形パンチ10の径と同じ大きさの径を有するパッド穴を有する。
【0019】
(配置工程)
はじめに、
図1に示すように、円形の下穴があらかじめ開けられた金属板材50を、パッド30の上に、金属板材50の下穴と、パッド30のパッド穴とが同心円状になるように配置する。金属板材50は、押圧されたパッド30と、ダイス穴をパッド穴および金属板材の下穴と同心円状に配置したダイス20と、の間に挟持される。また、成形パンチ10を、金属板材50の下穴と同心円状に配置する。成形パンチの形状は、たとえば、円錐形状などが好適に用いられる。
【0020】
(下穴拡大工程)
次に、
図2に示すように、超音波振動子40によって成形パンチ10の軸方向(
図2中、上下方向)に励振された成形パンチ10を、金属板材50に対して、パッド30側から押し当て、ダイス穴に向かって挿入する。
【0021】
成形パンチ10がダイス穴に挿入されるにつれて、金属板材50の下穴およびその周縁部もダイス穴に向かって、突出部を形成するように、
図2中、上側へ向けて押し出される。金属板材50にあらかじめ開けられた下穴の周縁部に引張応力が生じることによって、下穴周縁部の金属板材が押し拡げられ、金属板材50の下穴が拡径される。本発明の実施形態に係る金属材の加工方法においては、超音波振動子40を介して成形パンチ10に付与された超音波振動によって、成形パンチ10の振動が微細になり、その微細な振動が金属板材50にも伝達される。それによって、成形パンチ10と金属板材50との間の摩擦抵抗を低減し、金属板材50の下穴周縁部の周方向への均一な変形が促進され、金属板材50の局部延性を向上させることができるので、金属板材50の下穴を、少ない工程数にもかかわらず、効率的に拡大することができる。成形パンチ10は、その後も
図2中、上側へ向けて挿入され続け、突出された金属板材50の下穴の周縁部の板材が破断したところで下穴拡大工程を終了する。
【0022】
本発明の実施形態において、超音波振動は、超音波振動子40に接続された発振器(図示せず)から供給される電力によって発生され、成形パンチ10に装着された超音波振動子40を介して、成形パンチ10に印加される。本発明の実施形態に係る超音波振動子40の形状は、矩形板状、円板状、円柱状などのいずれでも良く、取り付け方法も、ボルト締め付け、機械的嵌め込み、接着など、それぞれの特徴を考慮して選択することができる。
【0023】
本発明の実施形態において、超音波振動子40の材質は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、PZT(チタン酸ジルコニウム酸鉛)などの圧電セラミック素子を用いたものや、フェライト磁歪振動を利用したものなどを選択することができる。本発明の実施形態に係る超音波振動子40の超音波振動の周波数は、本発明の効果を奏する範囲で適宜選択され、以下に限定されるものではないが、たとえば、16KHz以上1GHz以下の周波数が好適に用いられ、18KHz以上1MHz以下がより好適に用いられる。超音波振動の周波数は可変であり、穴拡げ加工を施す金属板材の材質や板厚等を考慮して、本発明の効果を奏する範囲で任意の周波数に設定することができる。超音波振動は加工される金属板材が穴拡げ加工されている間のみ発振されていれば十分であるが、穴拡げ加工されている間以外に発振されていてもよく、たとえば、常時発振されていてもよい。
【0024】
上述のように、本発明の実施形態に係る金属材の穴拡げ加工方法は、成形パンチ10に超音波振動を付与しながら金属板材50に対して穴拡げ加工を行うため、大掛かりな加熱手段などが必要なく、少ない工程数で極めて効果的に金属板材50の局部伸びを向上させることができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の変形及び応用が可能である。たとえば、本実施形態においては、金属材として5182合金を用いた形態について説明したが、本発明の効果を奏する範囲で、他のアルミニウム合金を用いてもよいし、マグネシウム合金などの他の合金を用いてもよい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
図1および
図2に示す金型を使用して、金属材の穴拡げ加工を行う試験を行った。
【0028】
金属板材として、5182合金を用い、板厚を1.0mmとした。金属板材への下穴あけ加工はプレス機による打抜きで行い、12mmφ円筒打抜きポンチにて、クリアランス10%のダイスを用いて、金属板材に下穴を形成した。
【0029】
穴拡げ加工には、底部の径が40mmφ、先端角60度の円錐状の成形パンチ、および、径が44mmφ、肩部のRが0.5mmの成形ダイスを用いた。しわ押さえ力は10kNとし、成形パンチの進行速度は0.1mm/秒とし、潤滑油として市販の洗浄防錆油を用いた。成形パンチの穴拡げ方向、すなわち成形パンチの進行方向は、穴あけ加工時のポンチの打抜き方向と同じ方向であった。
【0030】
超音波振動子の形状を直径30mmの振動面を有する円柱型とした。超音波振動子はネジ止め法で成形パンチに装着された。超音波振動子は発振機(図示せず)に接続され、被加工材(下穴が開けられた金属板材)を金型に設置した直後から振動するように操作した。超音波振動の周波数は20kHzとした。超音波振動子の材質はPZT(チタン酸ジルコニウム酸鉛)であった。
【0031】
穴拡げ加工の終了判定は、穴の縁部を目視によって観察し、板厚方向にわずかな光が透過する程度の破断が確認された時点を終了とした。試験後の穴に関して、長径と短径とをノギスによって測定して平均値をとった破断後の穴径(d
f)と、穴拡げ加工前の初期穴径(d
0)と、を用いて、以下の式によって、穴拡げ率(λ)(%)を求めた。
λ(%)=((d
f−d
0)/d
0)×100
【0032】
表1に、成形パンチに超音波振動を印加(付与)した穴拡げ加工方法(実施例)、および、成形パンチに超音波振動を印加しなかった穴拡げ加工方法(比較例)のそれぞれの試験結果を示す。表1に示すように、超音波振動を成形パンチに印加しながら穴拡げ加工を行うことによって、より優れた穴拡げ性が得られることがわかった。
【0033】
【表1】
【符号の説明】
【0034】
10 成形パンチ
20 成形ダイス
30 パッド
40 超音波振動子
50 金属板材
100 金型