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特開2015-25193光輝性に優れたアルミニウム合金およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-25193(P2015-25193A)
(43)【公開日】2015年2月5日
(54)【発明の名称】光輝性に優れたアルミニウム合金およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20150109BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20150109BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20150109BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20150109BHJP
【FI】
   C22C21/02
   C22C21/06
   C22F1/05
   C22F1/00 671
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 681
   C22F1/00 682
   C22F1/00 683
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 694B
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 692B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 602
   C22F1/00 612
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 624
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-271210(P2013-271210)
(22)【出願日】2013年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-129254(P2013-129254)
(32)【優先日】2013年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100071663
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 保夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】八太 秀周
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 威郎
(57)【要約】
【目的】バフ研磨等の機械研磨を用いることなく、化学研磨および電解研磨で高い光沢度が得られ、構造材として適した強度を有する光輝性に優れたアルミニウム合金を提供する。
【構成】Mg:0.35〜0.45%、Si:0.35〜0.45%、Cu:0.16〜0.25%を含有し、Mg含有量とSi含有量の比率(Mg含有量%/Si含有量%)を0.80〜1.20とし、不純物としてのFeを0.10%以下、その他不可避的不純物を総量で0.05%以下とし、粒径0.5〜3μmのMgSi化合物が300〜1500個/mm存在することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:0.35〜0.45%(質量%、以下同じ)、Si:0.35〜0.45%、Cu:0.16〜0.25%を含有し、Mg含有量とSi含有量の比率(Mg含有量%/Si含有量%)を0.80〜1.20とし、不純物としてのFeを0.10%以下、その他不可避的不純物を総量で0.05%以下とし、粒径(円相当径)0.5〜3μmのMgSi化合物が300〜1500個/mm存在することを特徴とする光輝性に優れたアルミニウム合金。
【請求項2】
Mg:0.35〜0.45%、Si:0.35〜0.45%、Cu:0.16〜0.25%を含有し、Mg含有量とSi含有量の比率(Mg含有量%/Si含有量%)を0.80〜1.20とし、不純物としてのFeが0.10%以下、その他不可避的不純物が総量で0.05%以下の組成を有するアルミニウム合金ビレットをDC鋳造により造塊し、得られたビレットを均質化処理した後、440〜540℃に加熱して熱間押出を行い、押出後室温まで冷却するに際して300℃までを300℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後、170℃以上190℃未満の温度で3〜24hあるいは190℃以上220℃以下の温度で0.5〜3hの時効処理を施すことを特徴とする光輝性に優れたアルミニウム合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝性に優れ、外観意匠性が要求される分野に適したアルミニウム合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野あるいは電子機器分野においては、デザイン性が多様化し、従来よりもさらに光沢度の高い製品が求められるようになっている。そのため、光沢度が得られ易い1000系合金や少量のMgを含有した5000系合金が多く使用されているが、これらの合金は強度が低いため、構造体として使用するには、強度の高い他の材料を組み合わせて使用する必要があった。
【0003】
また、前記分野の製品にはコストダウンも要請されているため、例えば200MPa前後の耐力を有する6063合金などの6000系合金の形材、管材あるいは棒材を組み合わせた構造体として使用されている。しかし、6063合金では化学研磨や電解研磨で十分な光沢度が得られず、意匠性に問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、6000系合金にバフ研磨等の物理研磨を行う方法も提案されているが、バフ研磨はコストが高く、また複雑な形状の押出形材では特定の部分しか研磨できないという難点がある。光輝性に優れた6000系の押出用合金も提案されているが、十分な強度と良好な光沢度の両立は難しく、十分な解決策にはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−100970号公報
【特許文献2】特開2008−231518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、バフ研磨等の機械研磨を用いることなく、化学研磨および電解研磨で高い光沢度が得られ、構造材として適した強度を有する光輝性に優れたアルミニウム合金およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1による光輝性に優れたアルミニウム合金は、Mg:0.35〜0.45%、Si:0.35〜0.45%、Cu:0.16〜0.25%を含有し、Mg含有量とSi含有量の比率(Mg含有量%/Si含有量%)を0.80〜1.20とし、不純物としてのFeを0.10%以下、その他不可避的不純物を総量で0.05%以下とし、粒径0.5〜3μmのMgSi化合物が300〜1500個/mm存在することを特徴とする。なお、以下の説明において合金成分は質量%として示す。また、MgSi化合物の粒径は円相当径で示す。
【0008】
請求項2による光輝性に優れたアルミニウム合金の製造方法は、Mg:0.35〜0.45%、Si:0.35〜0.45%、Cu:0.16〜0.25%を含有し、Mg含有量とSi含有量の比率(Mg含有量%/Si含有量%)を0.80〜1.20とし、不純物としてのFeが0.10%以下、その他不可避的不純物が総量で0.05%以下の組成を有するアルミニウム合金ビレットをDC鋳造により造塊し、得られたビレットを均質化処理した後、440〜540℃に加熱して熱間押出を行い、押出後室温まで冷却するに際して300℃までを300℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後、170℃以上190℃未満の温度で3〜24hあるいは190℃以上220℃以下の温度で0.5〜3hの時効処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バフ研磨等の機械研磨を用いることなく、化学研磨および電解研磨で高い光沢度が得られ、構造材として適した強度を有する光輝性に優れたアルミニウム合金およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明によるアルミニウム合金における合金元素の意義およびその限定理由について説明すると、Mgは、Siと共存することにより強度を高めるよう機能する。Mgの好ましい含有量は0.35〜0.45%の範囲であり、0.35%未満ではその効果が小さく、0.45%を超えると光輝性が低下する。
【0011】
Siは、Mgと共存することにより強度を高めるよう機能する。Siの好ましい含有量は0.35〜0.45%の範囲であり、0.35%未満ではその効果が小さく、0.45%を超えると光輝性が低下する。
【0012】
Mg含有量とSi含有量との比率(Mg含有量%/Si含有量%)は0.80〜1.20とするのが好ましい。強度を維持しつつ、光輝性を高めるため、(Mg%:Si%)を(1:1)程度にすることにより効率的に強度を高め、Mg、Siの過剰な添加を抑制して、強度と光輝性を両立させることが可能となる。
【0013】
Cuは、強度を高めるよう機能する元素である。Cuの好ましい含有量は0.16〜0.25%の範囲であり、0.16%未満では強度が十分でなく、0.25%を超えるとアルマイト膜が黄色味をおび光沢度が低下する。
【0014】
Feは不可避的不純物として混入する元素であり、0.10%以下に規制することが好ましい。0.10%を超えると、化学研磨あるいは電解研磨の後にアルマイト処理した際に、アルマイト皮膜中に残存して光沢度が低下し易くなる。
【0015】
その他の不可避的不純物は総量0.05%以下とすることが好ましい。0.05%を超えると化学研磨あるいは電解研磨の後にアルマイト処理した際に、光沢度が低下し易くなり、元素によっては色調が変わる場合もある。
【0016】
合金マトリックス中に存在するMgSi化合物については、粒径0.5〜3μmの化合物が300〜1500個/mm存在することが好ましい。300個/mm未満でも光沢度は良好であるが、300個/mm未満にするためには、押出後の冷却速度をさらに高める必要があり、水冷などの冷却装置が必要となるため、工業的にコスト高を招くこととなり好ましくない。1500個/mmを超えると、化学研磨の際にこれらのMgSi化合物が優先的に腐食するため、均一な表面状態が得られず光沢度が低下する。
【0017】
次に本発明による光輝性に優れたアルミニウム合金の製造方法について説明すると、上記の組成を有するアルミニウム合金ビレットをDC鋳造により造塊し、得られたビレットを均質化処理した後、440〜540℃の温度域に加熱して熱間押出を行う。加熱温度が440℃未満では強度が低下し、540℃を超えると表面が荒れることがあり光沢度が低下し易くなる。
【0018】
押出後の冷却は、押出直後から300℃までを300℃/h以上の冷却速度で冷却し、さらにその後、室温まで冷却することが望ましい。冷却速度が300℃/h未満の場合には粗大なMgSi化合物が多く析出し、光沢度が低下する。300℃〜室温までの冷却については、一般的な空冷や放冷を行えばよく、冷却速度は特に限定しない。
【0019】
その後、170℃以上190℃未満の温度で3〜24hあるいは190℃以上220℃以下の温度で0.5〜3hの人工時効処理を施す。温度および時間が上記の範囲を外れると、亜時効や過時効となり強度向上の効果が不十分となる。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0021】
実施例1
表2に示す組成を有するアルミニウム合金のビレット(直径90mm)を半連続鋳造により造塊し、得られたビレットを580℃の温度で3時間均質化処理した後、表1に示す温度に加熱して熱間押出加工を行い、幅30mm、厚さ2mmの押出材を作製した。ついで、表1に示す冷却速度で300℃以下の温度まで冷却した後、さらに室温まで冷却し、その後、表1に示す条件で人工時効処理を施し試験材とした。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
得られた試験材について、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
引張性能の測定:JIS Z 2241に準拠した引張試験を行い、引張強さ、耐力、伸びを測定し、耐力180MPa以上のものを合格と評価した。
【0025】
MgSi化合物の測定:試験材について、任意の断面をペーパー研磨およびバフ研磨を施した後、光学顕微鏡により倍率500倍で観察し、黒色に観察されるMgSi化合物(粒径0.5〜3μm)を画像解析(装置:Win Roof、三谷商事(株)製)によって測定した。
【0026】
光沢度の評価:試験材を水酸化ナトウム水溶液でエッチング後、デスマットし、リン酸−硝酸法(リン酸80%、硝酸3%の水溶液)により、95℃の温度で2分間の化学研磨を行った後、化学研磨後の表面について、変角光沢計GM−3D(村上色彩技術研究所製)を用いて、JIS−Z−8741(1983)を参照して、45°のGloss値を測定し、Gloss値800以上を合格と評価した。
【0027】
【表3】
【0028】
表3に示すように、本発明に従う試験材1〜15はいずれも、十分な強度と良好な光沢度をそなえていた。
【0029】
比較例1
表5に示す組成を有するアルミニウム合金のビレット(直径90mm)を半連続鋳造により造塊し、得られたビレットを580℃の温度で3時間均質化処理した後、表4に示す温度に加熱して熱間押出加工を行い、幅30mm、厚さ2mmの押出材を作製した。ついで、表4に示す冷却速度で300℃以下の温度まで冷却した後、さらに室温まで冷却し、その後、表4に示す条件で人工時効処理を施し試験材とした。なお、表4、表5において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0030】
得られた試験材について、実施例1と同様に引張性能、粒径0.5〜3μmのMgSi化合物数およびGloss値を測定した。結果を表6に示す。なお、表6において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
表6に示すように、試験材16はMg量が少なく、試験材18はSi量が少なく、試験材20はCu量が少ないため、いずれも強度が劣っていた。また、試験材24はビレット加熱温度が低いため、試験材26は人工時効処理の温度が低く且つ時間が短いため、試験材27は人工時効処理の時間が長いため、試験材28は人工時効処理時間が短いため、試験材29は人工時効処理温度が高いため、試験材30は熱間押出後300℃までの冷却速度が低いため、いずれも強度が劣っていた。
【0035】
試験材17はMg量が多いため、試験材19はSi量が多いため、試験材21はCu量が多いため、試験材22はFe量が多いため、試験材23はその他の不可避的不純物の含有量が多いため、また試験材25は押出温度が高く押出材の表面にむしれが生じたため、いずれもGloss値が低くなった。