(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-25220(P2015-25220A)
(43)【公開日】2015年2月5日
(54)【発明の名称】幅継生地およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06H 5/00 20060101AFI20150109BHJP
A47H 23/04 20060101ALI20150109BHJP
【FI】
D06H5/00
A47H23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-155301(P2013-155301)
(22)【出願日】2013年7月26日
(71)【出願人】
【識別番号】595145441
【氏名又は名称】有限会社インテリアナガオカ
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 幸子
【テーマコード(参考)】
2E182
3B154
【Fターム(参考)】
2E182AC01
2E182BB01
2E182CC04
3B154AB19
3B154AB31
3B154BA47
3B154BA48
3B154BA49
3B154BB28
3B154BB55
3B154BB62
3B154BB66
3B154BC42
3B154DA30
(57)【要約】
【課題】超音波融着された丈夫な幅継生地を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の幅継生地(1)は、 第1熱可塑性樹脂を含む第1生地(10)の第1端部と第2熱可塑性樹脂を含む第2生地(20)の第2端部とを対向方向から重ね合わせた重合部(30)上に、第1軌跡(S1)に沿って超音波融着した第1接合部(41)と、第1軌跡に並列する第2軌跡(S2)に沿って超音波融着した第2接合部(42)とが少なくとも形成されてなる幅継部(40)を備え、この幅継部により第1生地と第2生地が幅継ぎされてなることを特徴とする。本発明の幅継生地は、強い引張力が作用しても、接合部で剥離や分離等せず、非常に高強度であり、十分な実用性を有する。ちなみに超音波融着は、周知な超音波ミシン等によりなされる。
【選択図】
図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1熱可塑性樹脂を含む第1生地の第1端部と第2熱可塑性樹脂を含む第2生地の第2端部とを対向方向から重ね合わせた重合部上に、第1軌跡に沿って超音波融着した第1接合部と該第1軌跡に並列する第2軌跡に沿って超音波融着した第2接合部とが少なくとも形成されてなる幅継部を備え、
該幅継部により該第1生地と該第2生地が幅継ぎされてなることを特徴とする幅継生地。
【請求項2】
前記幅継部の両端は、カット処理がなされている請求項1に記載の幅継生地。
【請求項3】
前記超音波融着は、超音波ミシンによりなされる請求項1または2に記載の幅継生地。
【請求項4】
カーテン用である請求項1〜3のいずれかに記載の幅継生地。
【請求項5】
第1熱可塑性樹脂を含む第1生地の第1端部と第2熱可塑性樹脂を含む第2生地の第2端部とを対向方向から重ね合わせた重合部上に、第1軌跡に沿って超音波融着した第1接合部と該第1軌跡に並列する第2軌跡に沿って超音波融着した第2接合部とを少なくとも形成して幅継部とする幅継工程を備え、
該幅継工程により該第1生地と該第2生地が幅継ぎされた幅継生地が得られることを特徴とする幅継生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の生地を超音波融着(溶着)させてなる幅継生地およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長さまたは幅が一定以上の布製品やシート製品は、複数の生地を幅継ぎして製造される。このような幅継ぎは、通常、糸を用いた縫製によりなされることが多い。しかし、通常の縫製では生地端部に解れが生じたり、防水性や防塵性等の確保が困難であったりする。そこで化学繊維等からなる生地等を幅継ぎする場合、それら生地の重ね合わせた端部を超音波ミシンにより瞬間的に溶融凝固させて接合する超音波融着の利用が考えられる。これに関する記載が、例えば下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−156566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では次のようにして二つの生地を幅継ぎしている。先ず、二つの生地をそれぞれ同じ側に配置し、それらの裁断部を重ねた重合部上を長手方向に超音波融着して第1接合部を形成する。次に、その重合部の端部(各生地の裁断部近傍)を同じく超音波ミシンで溶着した後に残余部をカットする。そして、一方の生地のみを第1接合部の近傍から折り返し、3重に重ねた生地上をさらに超音波融着して第2接合部を形成する。(同公報の[0008]、[009]、
図1〜
図5参照)。
【0005】
詳細は後述するが、このような特許文献1の方法で形成された第1接合部は、引張応力を受け易く、引張応力により容易に剥離してしまう。そして第1接合部が剥離すると、第2接合部も同様に引張応力を受けて容易に剥離してしまう。従って、特許文献1に記載されたような方法で幅継ぎしても、丈夫な幅継生地は得られない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、超音波融着された丈夫な幅継生地とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、従来とは異なり、幅継ぎする生地の端部を対向方向に配置し、それらの重合部を超音波融着することによって、非常に丈夫な幅継生地を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《幅継生地》
(1)本発明の幅継生地は、第1熱可塑性樹脂を含む第1生地の第1端部と第2熱可塑性樹脂を含む第2生地の第2端部とを対向方向から重ね合わせた重合部上に、第1軌跡に沿って超音波融着した第1接合部と該第1軌跡に並列する第2軌跡に沿って超音波融着した第2接合部とが少なくとも形成されてなる幅継部を備え、該幅継部により該第1生地と該第2生地が幅継ぎされてなることを特徴とする。
【0009】
(2)本発明の幅継生地は、突き合わすように対向配置された生地の端部を重ねた重合部上に形成された少なくとも二列の超音波融着した接合部からなる幅継部により、各生地が接合(幅継ぎ)された状態となっている。こうして得られた本発明の幅継生地は、幅継ぎした各生地を背向方向(対向方向の反対方向)へ強く引っ張たりしても、超音波融着した接合部で剥離等することはなく、むしろ過剰に引っ張ると生地の方が先に破断するぐらいの高強度を発揮し得る。
【0010】
本発明の幅継生地がそのような優れた接合強度を発揮する理由は必ずしも定かではないが、次のように考えられる。本発明者が鋭意研究したところ、先ず、超音波融着された接合部は、剪断応力には非常に強いが、引張応力には非常に弱いことがわかった。次に、本発明に係る幅継部は、対向させた生地の重合部上に形成した少なくとも第1接合部と第2接合部からなるため、幅継ぎされた両生地を背向方向へ引っ張ても、各接合部には実質的に剪断応力しか作用せず、引張応力は作用し得ない構造となっている。この結果、本発明の幅継生地は、従来の超音波融着されたものとは異なり、非常に丈夫なものになったと考えられる。
【0011】
なお、従来、超音波融着による生地の接合は、生地を同方向から重ね、その重合部を超音波融着する方法によってのみなされていた。そして超音波融着により生地を幅継ぎする場合は、前述した先行技術文献等にもあるように、一方の生地を折り返し、その折り返し部分をさらに超音波融着により接合してなされていた。従来の超音波融着による接合方法がそのように限定的であった理由は定かではないが、引張応力に対して高強度を発揮する糸を用いた伝統的な縫製方法に固執して、超音波融着に適した接合方法に関する研究や検討等が十分になされて来なかったためと考えられる。
【0012】
《幅継生地の製造方法》
(1)本発明は幅継生地としてのみならず、その製造方法としても把握できる。すなわち本発明は、第1熱可塑性樹脂を含む第1生地の第1端部と第2熱可塑性樹脂を含む第2生地の第2端部とを対向方向から重ね合わせた重合部上に、第1軌跡に沿って超音波融着した第1接合部と該第1軌跡に並列する第2軌跡に沿って超音波融着した第2接合部とを少なくとも形成して幅継部とする幅継工程を備え、該幅継工程により該第1生地と該第2生地が幅継ぎされた幅継生地が得られることを特徴とする幅継生地の製造方法でもよい。
【0013】
(2)幅継工程は、複数の接合部(例えば第1接合部と第2接合部)を同時に形成してもよいし、各接合部を順次形成してもよい。後者の場合、幅継工程は、第1接合部を形成する第1接合工程と、第2接合部を形成する第2接合工程を少なくとも備える工程となる。
【0014】
《その他》
(1)本発明に係る幅継部は、第1接合部と第2接合部の2列に留まらず、3列以上の接合部から構成されてもよい。接合部が増加するほど、幅継部の高強度化を図れるが、通常、接合部は2列で十分である。いずれの場合でも、幅継部の両端外側はカット処理がなされていると好ましい。ここでいうカット処理とは、超音波融着後に接合部の外端部にできた生地の残余部を除去することをいう。これにより幅継部は、引っ掛かる部分等のない面一状となり、接合部に予期せぬ引張応力等が作用することを有効に防止できる。また幅継部の両端外側をカット処理することにより、幅継部の外端側で解れ等を生じることも泣くなり、幅継生地の見栄や無塵化等の向上も図れる。
【0015】
(2)本発明に係る各接合部は、直線状でも曲線状でもよい。また本発明では、幅継部を構成する各接合部に引張応力を作用させないために、少なくとも二以上の接合部を並列に配設する必要があるが、これら接合部は必ずしも平行である必要はなく、またそれらの間隔も適宜調整されれば足る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】本実施例に係る幅継ぎする生地の端部を対向方向から重ね合わせた様子を示す斜視図である。
【
図1B】それら生地を重ね合わせてできた重合部と、その重合部上を超音波融着する軌跡を示す斜視図である。
【
図1C】そうして得られた本実施例の幅継生地を示す斜視図である。
【
図2A】比較例に係る幅継ぎする生地の端部を同方向から重ね合わせた様子を示す斜視図である。
【
図2B】それら生地を重ね合わせてできた重合部と、その重合部上を超音波融着する軌跡を示す斜視図である。
【
図2C】そうして得られた比較例に係る幅継生地を示す斜視図である。
【
図3】折り返して幅継ぎした比較例に係る幅継生地を示す断面図である。
【
図6】折り返して幅継ぎした比較例に係る幅継生地を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で説明する内容は、本発明の幅継生地のみならず、その製造方法にも該当し得る。製造方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセスクレームとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。そして上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0018】
《生地》
本発明により幅継ぎされる生地は、超音波融着が可能である限り、その材質や種類は問わない。生地は、通常、熱可塑性樹脂からなる織布(織物)またはシート材であり、特に熱可塑性樹脂からなる化学繊維の織布であると好ましい。このような化学繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維などがある。
【0019】
なお、本発明に係る生地は、そのような化学繊維が100%である場合に限らず、超音波融着が可能な限り、天然繊維(綿繊維、羊毛繊維等)を含有していてもよい。また幅継ぎされる第1生地と第2生地は、同質材でも異質材でもよい。つまり第1熱可塑性樹脂と第2熱可塑性樹脂は同種でも異種でもよい。また、用いる熱可塑性樹脂の種類は同じでも、各種の特性や他繊維の混合割合等の点で、第1生地と第2生地は異なっていてもよい。
【0020】
本発明の幅継生地は、その用途を問わないが、例えば、相当程度の長さや幅が要求されるカーテンなどに用いられると好ましい。なお、超音波融着した接合部は液体や気体を通過させないため、本発明の幅継生地は、気密性や防水性等が要求される布製品またはシート製品に好適である。このような製品として、例えば、シャワーカーテン、レインウエア、テント等がある。
【0021】
《接合部》
本発明に係る超音波融着は、そのために用いる装置は問わないが、例えば、周知な超音波ミシンを用いることができる。超音波ミシンの種類や設定は、生地の種類や幅継生地の仕様等に応じて適宜選択または調整される。
【実施例】
【0022】
《実施例》
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
図1A〜
図1Cに、本発明の一実施例であるカーテン用の幅継生地1を得る製造過程を示した。
【0023】
先ず、
図1Aに示すように第1生地10と第2生地20を対向方向(図中の左右方向)から突き合わせる。そして第1生地10の裁断された右端部11(第1端部)を上側に、第2生地20の裁断された左端部21(第2端部)を下側に配置して、右端部11と左端部21が重なるようにする。
【0024】
次に、
図1Bに示すように、第1生地10の右端部11と第2生地20の左端部21とが重なってできた重合部30を超音波ミシンで接合する(幅継工程)。この際、重合部30の左端31(第2生地20の左端211)の近傍を直線状の接合ラインS1(第1軌跡)に沿って超音波ミシンで超音波融着する(第1接合工程)。この後、重合部30の右端32(第1生地10の右端111)の近傍を直線状の接合ラインS2(第2軌跡)に沿って超音波ミシンで超音波融着する(第2接合工程)。
【0025】
こうして重合部30は、その左右両側に第1接合部41と第2接合部42が形成された幅継部40となる。なお、このような幅継ぎにより、第1生地10の右端111近傍には、超音波融着されなかった残余部112が第2接合部42(または幅継部40)の右端外側にできる。また第2生地20の左端211近傍には、超音波融着されなかった残余部212が第1接合部41(または幅継部40)の左端外側にできる。このような残余部112と残余部212は、それぞれ第2接合部42の右端と第1接合部41の左端が切り取り線となるため、軽く引っ張る程度で容易に除去される(カット処理工程)。
【0026】
このようにして実際に、カーテンに用いられるポリエステル(熱可塑性樹脂)繊維の織布からなる生地を、超音波ミシンで幅継ぎした幅継生地の写真を
図4に示した。なお、
図1C中の各部にそれぞれ対応する
図4中の各部分には、
図1Cに示した符号と同じ符号を
図4にも示した。
図4に示すように、上述した方法で幅継ぎされた幅継生地1は、幅継部40が折り返しや引っ掛り等のない滑らか面一状になっている。そして、この幅継生地1を強い力Fで左右に引っ張ても、生地10、20自体が破損しない限り、幅継部40(接合部41、42)で剥離や破損等を生じることはなかった。
【0027】
《比較例》
(1)超音波ミシンを用いた従来の方法により、生地50、60を超音波融着する様子を
図2A〜
図2Cに示した。従来は、
図2Aに示すように生地50と生地60を同じ側から重ねるように配置し、それらの重合部70上を
図2Bに示すように直線状の接合ラインS3に沿って超音波ミシンで超音波融着して、
図2Cに示すような接合部71により幅継ぎがされていた。ところが、このように得られた幅継生地2は、
図2Cに示すような引張力Fを受け易く、この引張力Fにより容易に接合端711から剥離してしまう。
【0028】
このような従来の方法で実際に、ポリエステル生地を超音波ミシンで幅継ぎした幅継生地の写真を
図5に示した。なお、
図2C中の各部にそれぞれ対応する
図5中の各部分には、
図2Cに示した符号と同じ符号を
図5にも示した。
図5に示すように、上述した方法で幅継ぎされた幅継生地2は、僅かな力で接合部71が容易に剥離してしまった。
【0029】
(2)このような状況は、前述した先行技術文献に記載された方法で生地50、60を超音波融着した場合でも同様である。つまり、
図3に示すように、超音波ミシンを用いて上述した接合部71を形成した後、重合部70の右端部に同じく超音波ミシンを用いて接合部72を形成して残余部をカット処理する。そして生地50を接合部71の近傍で折り返して3枚重ねになった生地50、60を、接合部71と接合部72の間で超音波ミシンを用いて再び超音波融着し、接合部73を形成する。
【0030】
このように超音波融着された幅継生地3でも、幅継生地2の場合と同様に、左右方向に引張力Fを作用させると、先ずは接合部71の接合端711から容易に剥離を始め、接合部71全体が剥離した後、次は接合部73の接合端731から容易に剥離を始め、接合部73全体が剥離した。
【0031】
実際にこのような従来の方法でポリエステル生地を幅継ぎした幅継生地の写真を
図6に示した。なお、
図3C中の各部にそれぞれ対応する
図6中の各部分には、
図3Cに示した符号と同じ符号を
図6にも示した。
図6に示すように、上述した方法で幅継ぎされた幅継生地3でも、接合部71さらには接合部73は、僅かな力で容易に剥離してしまった。
【0032】
以上から、従来の幅継方法では接合部が容易に剥離したが、本発明に係る幅継方法によれば接合部が剥離等せず、本発明の幅継生地は十分な実用的強度を有することが明らかとなった。
【符号の説明】
【0033】
1 幅継生地
10 第1生地
20 第2生地
30 重合部
40 幅継部
41 第1接合部
42 第2接合部
S1 第1軌跡
S2 第2軌跡