特開2015-2691(P2015-2691A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソントン食品工業株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社林原の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-2691(P2015-2691A)
(43)【公開日】2015年1月8日
(54)【発明の名称】泣きに強いアイシング材
(51)【国際特許分類】
   A23G 3/00 20060101AFI20141205BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20141205BHJP
   A21D 13/08 20060101ALI20141205BHJP
   A21D 15/08 20060101ALI20141205BHJP
【FI】
   A23G3/00
   A21D13/08
   A21D15/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-128917(P2013-128917)
(22)【出願日】2013年6月19日
(71)【出願人】
【識別番号】596049762
【氏名又は名称】ソントン食品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397077760
【氏名又は名称】株式会社林原
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸男
(72)【発明者】
【氏名】村井 佐恵
【テーマコード(参考)】
4B014
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GL07
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP18
4B032DB24
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK18
4B032DL20
4B032DP55
(57)【要約】
【課題】加水の必要がないスラリー状で、上掛け後に包装しても「泣き」が生じにくく、流通・保管中に状態変化(分離・糖結晶の成長)が少ない、アイシング材を提供する。
【解決手段】トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水を含み、トレハロースの含有量が60〜80質量%であり、増粘多糖類の含有量が0.05〜0.4質量%であり、トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分の含有量が10質量%以下であり、残部が水であるスラリー状のアイシング材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水を含み、トレハロースの含有量が60〜80質量%であり、増粘多糖類の含有量が0.05〜0.4質量%であり、トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分の含有量が10質量%以下であり、残部が水であるスラリー状のアイシング材。
【請求項2】
トレハロース以外の糖として、水あめ及び/又はデキストリンを含む請求項1記載のアイシング材。
【請求項3】
増粘多糖類として、寒天及び/又はタマリンドガムを含む請求項1又は2記載のアイシング材。
【請求項4】
トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分として、果汁、乳製品、コーヒー、カカオマス、ココア、香料及び着色料から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のアイシング材。
【請求項5】
トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分として、油脂を0.5〜6.0質量%含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のアイシング材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアイシング材を上掛けしてなる食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーナツ、パン、バームクーヘン等の食品に上掛けして使用するアイシング材に関し、加水の必要がないスラリー状の性状で、上掛けした商品を袋詰めしてもアイシング材の「泣き」が生じにくく、流通・保管中に状態変化(分離・糖結晶の成長)が少ない特性を有するアイシング材に関する。
【背景技術】
【0002】
フォンダン等のアイシング(糖衣)材は、高糖度の糖液中に糖の結晶が過飽和な状態で分散している食品材料である。アイシング材は外観の美しさや甘味・風味の付与のため、ドーナツ、パン、バームクーヘン等の食品に上掛けして使用されることが多い。
【0003】
フォンダンは使用する際に必要量を削り、加水後に加熱、混合して上掛けするのに適した状態(スラリー状)に調整し、上掛け後にべとつきがなくなるまで乾燥させる必要がある。加水・加熱・混合という工程は手間がかかる上、加水量の若干の違いで、乾きが遅く作業時間が長くなったり、一定の外観が得られず品質がばらついたりするなどの不具合を生じる場合がある。
【0004】
また、従来のアイシング材は、上掛け後に袋詰めすると、ドーナツ、パン、バームクーヘン等の食品内部からの水分移行や、袋の雰囲気内の水分を吸収することによって、アイシング材が溶解したり、べとついたりする(アイシングの「泣き」と称される)問題が生じることが多い。
【0005】
このフォンダン等のアイシング材の作業性の煩雑さの軽減、外観の品質の安定化、「泣き」が生じやすい欠点を改善するため、さまざまな工夫、改良がなされている。例えば特許文献1では、油脂と糖を主成分とし、水がない上掛け材が開示されているが、油脂を主成分として使用していることにより、糖のみのフォンダンより清涼感や口溶けが劣り、また水分の比較的多い食品(例えばイーストドーナツなど)に上掛け後に袋詰めすると、「泣き」が生じる場合がある。また、特許文献2及び3では、増粘多糖類を利用し、加水不要で溶解しにくいアイシング材が開示されているが、これらも水分の比較的多い生地に上掛け後に袋詰めすると、「泣き」を抑えられない場合があり、更に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO00/076328
【特許文献2】特開2005−168330号公報
【特許文献3】特表2010−512756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、加水する手間を省き、水分量の多い食品に上掛けした後に袋詰めしても「泣き」が生じにくく、保管中に分離・粗大結晶の成長が少ないアイシング材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水を含み、トレハロースの含有量が60〜80質量%であり、増粘多糖類の含有量が0.05〜0.4質量%であり、トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分の含有量が10質量%以下であり、残部が水であるスラリー状のアイシング材。
(2)トレハロース以外の糖として、水あめ及び/又はデキストリンを含む前記(1)に記載のアイシング材。
(3)増粘多糖類として、寒天及び/又はタマリンドガムを含む前記(1)又は(2)に記載のアイシング材。
(4)トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分として、果汁、乳製品、コーヒー、カカオマス、ココア、香料及び着色料から選ばれる少なくとも1種を含む前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアイシング材。
(5)トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分として、油脂を0.5〜6.0質量%含む前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアイシング材。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のアイシング材を上掛けしてなる食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明に用いるトレハロースは、常温での溶解度が砂糖と比べて低く、麦芽糖と似たような溶解曲線を示し、また結晶化しやすく、一度結晶化すると相対湿度95%までは吸放湿しない特徴を持った糖質である。この溶解度が低く吸放湿性の少ないトレハロースを60〜80質量%アイシング材に添加することにより、従来のアイシング材より「泣き」を抑えることに成功した。
【0010】
更に、前記アイシング材に水あめ、デキストリン等のトレハロース以外の糖や、寒天、タマリンドガム等の増粘多糖類を加えることで「泣き」の発生を更に抑制する他、室温保管時における保存安定性も得られる。トレハロース以外の糖、及び増粘多糖類を加えない場合、室温貯蔵時においては10〜20日程度でアイシング材の分離・沈殿が生じ、沈殿部分が固結して使用が困難な状態となるが、トレハロース以外の糖、及び増粘多糖類を加えることで、室温で60日程度保管しても分離・沈殿等の変化が少ない優れたアイシング材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のアイシング材について説明する。
本発明に用いるトレハロースはアイシング材の「泣き」を抑える機能がある。トレハロースはアイシング材全質量に対して60〜80質量%、好ましくは70〜75質量%使用する。トレハロースの含有量が60質量%より少ないと、「泣き」を抑える機能は十分に発揮されない。また、トレハロースの含有量が80質量%より多いと、アイシング材の粘度が高くなる、早く乾き過ぎる、など使用に適さない状態となり、使用するには従来のフォンダンと同様に加水が必要となる。本発明に用いるトレハロースは、その由来や製造方法によって特に限定されず、例えば、特開平7−170977号公報、特開平7−213283号公報などに開示される方法で製造されるトレハロースの含水結晶又は無水結晶などを適宜使用することができる。具体的には、例えば、澱粉から酵素法により工業的に生産されているトレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原)が有利に利用できる。本発明に用いるトレハロースは、本発明の効果を発揮するものである限り、その純度は特に制限がなく、純品であっても未分離組成物であってもよい。また、形態についても特に制限がなく、例えば液状、シロップ状、粉末状、固形状などであってもよい。
なお、トレハロースとして含水結晶を用いる場合、結晶水はトレハロースの含有量から除外する。
【0012】
本発明に用いるトレハロース以外の糖は、糖としてトレハロースのみを用いた場合の欠点(例えば使用時に早く乾き過ぎる、保管中に粗大結晶が成長する、糖液と糖結晶が分離する等のアイシング材には好ましくない現象)を改善することができる。トレハロース以外の糖は特に限定されないが、糖又は糖アルコールが挙げられ、例えば砂糖、ぶどう糖、果糖、乳糖、麦芽糖、水あめ、デキストリン、異性化液糖、はちみつ、メープルシュガー、黒糖、イソマルトオリゴ糖、マルトトリオース、マルトテトラオース、α−グルコシルトレハロース、α−マルトシルトレハロース、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、アラビトール、イソマルチトール、ラクチトールなどが挙げられ、これらを単独で使用するか、あるいは併用することができる。特に水あめを3〜8質量%、デキストリンを2〜5質量%を併用することが好ましい。水あめ及びデキストリンは糖の結晶成長を抑制して保管中の粗大結晶の発生を防ぐ。また、デキストリンはトレハロースの結晶の分散状態を保持し、アイシング材が糖結晶と糖液に分離するのを抑制する効果を持つのに加え、デキストリンの皮膜形成効果により「泣き」発生を更に抑えることができる。
【0013】
本発明に用いる増粘多糖類は、保管中に糖結晶と糖液が分離するのを抑制することができ、更に本発明の特徴の一つである加水しなくても使用できるスラリー状の状態を維持する効果がある。増粘多糖類は特に限定されないが、ペクチン、寒天、タマリンドガム、キサンタンガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、プルラン、ゼラチン、グアガム、カラギーナン、タラガム、トラガカントガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、大豆多糖類、グルコマンナン、アルギン酸、結晶セルロースなどが挙げられる。これらの増粘多糖類は単独で使用するか、あるいは併用することができ、特に寒天とタマリンドガムを併用することが好ましい。増粘多糖類は、アイシング材全質量に対して0.05〜0.4質量%、好ましくは0.1〜0.25質量%程度添加する。増粘多糖類の添加量が0.4質量%より多いとアイシング材の粘度が高すぎて作業が困難となり、0.05質量%より少ないと増粘多糖類の効果が十分に発揮されない。
【0014】
本発明のアイシング材は、糖類及び増粘多糖類などの原料に元々含まれる水分(結晶水を含む)と、後から加えた水分を含む。アイシング材を加水の必要がないスラリー状の性状とする点で、水分量はアイシング材の全質量に対して好ましくは21〜30質量%、より好ましくは22〜25質量%である。前記水分量は、常圧加熱乾燥法で測定したものである。すなわち、加工助剤として珪藻土を用い、100℃にて5〜6時間保管して乾燥させ、恒量に達したのを確認後に質量を測定して水分量を算出した。
【0015】
本発明のアイシング材には、風味・色を付与するために、更に果汁、乳製品、コーヒー、カカオマス、ココア、香料、着色料などの呈味成分・添加物を含有してもよい。
【0016】
本発明のアイシング材には、包装された袋に付着しにくくするために、油脂を含有してもよい。油脂は特に限定されないが、バター、マーガリン、ショートニング、ファットスプレッドなどが挙げられる。油脂量はアイシング材全質量に対して6.0質量%以下であることが好ましい。6.0質量%を超えると油分が乾きを抑制し、乾燥時間が長くなるため、作業に適さない状態となる。油脂を添加する場合は、好ましくは0.5〜6.0質量%程度添加する。なお、バターは、乳製品の概念にも包含されるが、油脂として作用するので、含有量の計算に際しては、油脂として扱う。
【0017】
本発明のアイシング材には、本発明の効果を損なわない限り任意の成分を添加してもよいが、トレハロース、トレハロース以外の糖、増粘多糖類及び水以外の成分の含有量は10質量%以下であることが必要であり、5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明のアイシング材は、フォンダンと同様に原料を煮詰めた後に冷却・攪拌して糖を再結晶させる方法、グラッセアイシングと同様に粉糖などの結晶状態の糖に水やシロップを加えて練り合わせる方法、いずれの製造方法でも同様の効果を示す。
【0019】
本発明のアイシング材は、例えば、湯煎にて加温した後、これに常温の食品(例えば、ドーナツ、パン、バームクーヘン)の一部を浸漬して上掛けすることにより、アイシング材が上掛された食品を製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下にグラッセアイシングと同様の方法にて製造したアイシング材の実施例及び比較例を掲げ、本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0021】
実施例及び比較例に記載のアイシング材の品質を評価するため、次の7点について確認した。(1)20℃での粘度、(2)使用温度50℃における粘度、(3)上掛け使用時の付着量、(4)上掛け使用時の乾燥に必要な時間、(5)ドーナツを袋詰めし、25℃にて5日保管したときの「泣き」の有無、(6)アイシング材を袋詰めし、25℃にて60日間保管した際の状態、(7)風味。
【0022】
〈使用した材料及び器具〉
・トレハロースは「トレハ」(株式会社林原)を使用した。
・トレハロース(微粉)は「トレハ微粉」(株式会社林原)を使用した。
・粘度は東京計器B形粘度計BM形、ローターNo.4、12rpm(粘度50,000cP以上は6rpm)にて、測定開始から30秒後の値を測定した。
・ミキサーは品川工業所「卓上ミキサー5DM型」で、攪拌子はビーターを用いた。
・評価に使用したドーナツは、水分量約26%、重さ約45g、直径約10cmの自家配合イーストドーナツを用いた。
・ドーナツの袋詰めには14cm×14cmの袋(ポリエチレン)を用いた。
【0023】
〈実施例1〜5、比較例10〉
表1A及びBに記載の原料を用いて、以下の方法によりアイシング材を製造した。
(1)水に増粘多糖類を分散させ、加熱して溶解した。
(2)増粘剤の溶解を確認後、砂糖、トレハロース、デキストリン及び水あめを入れて100℃にて3分間加熱した。
(3)糖類の溶解を確認後、Bx57%に合わせてシロップ部を調整した。
(4)トレハロース微粉と(3)で調整した75℃以上のシロップ部をミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(5)得られたアイシング材を20℃にて一晩保管した。
(6)アイシング材を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(7)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管し、アイシング材の「泣き」の有無を確認した。
(8)(5)のアイシング材をポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0024】
〈比較例1〉
表1Aに記載の原料を用いて、以下のようにアイシング材としてフォンダンを製造した。
(1)砂糖に水及び水あめを加え、加熱して116℃になるまで煮詰めた。
(2)(1)を40℃まで冷却後、フォンダンが固くなるまでミキサーにて混合した。
(3)得られたフォンダンを20℃にて一晩保管した。
(4)フォンダンを細かく削り、フォンダンに対して5質量%となるように水を加え、50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみフォンダンに浸漬して上掛けし、フォンダンが乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(5)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管し、フォンダンの「泣き」の有無を確認した。
(6)(3)のフォンダンをポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0025】
〈比較例2〜9〉
表1A及びBに記載の原料を用いて、以下の方法によりアイシング材を製造した。
(1)水に糖(砂糖、トレハロース、デキストリン、水あめなど)を入れ、100℃にて3分間加熱した。
(2)溶解を確認後、比較例2はBx12%、比較例3、4及び6〜9はBx57%、比較例5はBx45%に合わせ、シロップ部を調整した。
(3)粉体部(粉糖、トレハロース微粉など)と、(2)で調整した75℃以上のシロップ部をミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(4)得られたアイシング材を20℃にて一晩保管した。
(5)アイシング材を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(6)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管して、アイシング材の「泣き」の有無を確認した。
(7)(4)のアイシング材をポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0026】
【表1A】
【0027】
【表1B】
【0028】
[1]比較例1は、保管時の状態以外は5%加水して品質を評価した。
[2]粘度が高く、測定不能。
[3]粘度はさほど高くないが、上掛け時にアイシング材の切れが悪く、塊状になって大量に付着する物性を持つため、付着量が多い。
[4]保管中にトレハロースの粗大結晶の成長も観察された。
[5]糊臭を感じ、風味が悪い。
[6]甘味が少なすぎて、風味が悪い。
[7]付着量が多く、上掛けに適さなかった。
【0029】
〈ドーナツ袋詰め時の「泣き」の評価基準〉
5:「泣き」が全く見られない、4:表面が若干濡れる程度で、ほぼ「泣き」が見られない、3:僅かに「泣き」が発生しているが、包材の剥離はよい、2:「泣き」が発生し、包材の剥離が悪い、1:「泣き」が激しく、ほぼ溶解している。
【0030】
〈25℃・60日間保管時の状態の評価基準〉
5:分離なし、4:僅かに分離している、3:分離しているが、よく混ぜれば容易に元の状態に戻る、2:分離し、混ぜてもなかなか元の状態に戻らない、1:分離し、使用できない状態。
【0031】
表1A及びBに示す結果の通り、トレハロースを60質量%以上配合したアイシング材(実施例1〜5、比較例4〜10)は袋詰めしても「泣き」が生じず、砂糖主体のアイシング材(比較例1、2)は「泣き」が激しく、ほぼ溶解した。また、トレハロースが60質量%未満(比較例3)だと「泣き」は十分には抑えきれず、80質量%以上(比較例4)だと上掛け時にアイシング材の切れが悪く、塊状になって大量に付着する物性を持ち、乾きも早すぎるため作業性に難があった。
【0032】
また、糖組成がトレハロース単体(比較例5)の場合、乾きが早すぎて作業性に難があるのに加え、保管時の分離が激しく、またトレハロースの粗大結晶の成長が観察された。そこで、デキストリン7.5質量%を併用したところ(比較例7)、保管時の分離がやや抑えられ、粗大結晶の成長も観察されず、「泣き」発生が更に抑えられたが、乾きが依然として早く、また、デキストリン特有の糊臭が出てしまい、風味が劣っていた。そこで乾燥時間の調整と粗大結晶の成長抑制目的で水あめを、風味調整目的で砂糖を添加し、デキストリンの使用量を少なくすることで(比較例9)、作業上適度な乾き時間・トレハロースの粗大結晶成長の抑制・良好な風味のバランスを取ることに成功し、保管時の分離もやや抑えられたが、商品流通を考慮した際、保管時の分離抑制に関しては未だ不十分であった。
【0033】
そこで増粘多糖類を添加することにより、保管時の分離抑制が可能か試験を実施した(実施例1〜5)。試験の結果、いずれの増粘多糖類も分離が抑えられ、経時安定性の向上が見られた。寒天を添加したもの(実施例2)は、やや「泣き」の抑制効果が低下した。タマリンドガムを使用したもの(実施例3)は乾きが若干遅くなり、「泣き」の抑制効果が低下した。LMペクチン及びキサンタンガム使用品(実施例4及び5)は、乾きが遅くなり、乾燥時間を長く取る必要が生じた。寒天とタマリンドガムを併用したもの(実施例1)は、「泣き」の抑制効果に変化がなく、乾き時間も適度であった。
【0034】
寒天を増量することで(比較例10)、保管時の分離を更に抑制させることが可能か試験したところ、粘度が高く作業が困難かつ付着量が多過ぎて、上掛け材としての使用には適さなかった。
【0035】
実施例1の配合を基本に、応用例として果汁入りのアイシング材を作成し、品質の評価を行った。
【0036】
〈実施例6〉
表2に記載の原料を用いて、以下の方法により、果汁入りのアイシング材を製造した。
(1)水に増粘多糖類を分散させ、加熱して溶解した。
(2)増粘剤の溶解を確認後、砂糖、トレハロース、デキストリン及び水あめを入れて100℃にて3分間加熱した。
(3)糖類の溶解を確認後に果汁を加えた後、Bx57%に合わせてシロップ部を調整した。
(4)トレハロース微粉と(3)で調整した75℃以上のシロップ部をミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(5)得られたアイシング材を20℃にて一晩保管した。
(6)アイシング材を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(7)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管した。
(8)(5)のアイシング材をポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0037】
【表2】
【0038】
〈ドーナツ袋詰め時の「泣き」の評価基準〉
5:「泣き」が全く見られない、4:表面が若干濡れる程度で、ほぼ「泣き」が見られない、3:僅かに「泣き」が発生しているが、包材の剥離はよい、2:「泣き」が発生し、包材の剥離が悪い、1:「泣き」が激しく、ほぼ溶解している。
【0039】
〈25℃・60日間保管時の状態の評価基準〉
5:分離なし、4:僅かに分離している、3:分離しているが、よく混ぜれば容易に元の状態に戻る、2:分離し、混ぜてもなかなか元の状態に戻らない、1:分離し、使用できない状態。
【0040】
果汁を入れたことによる品質上の不具合は見られず、果汁入りのアイシング材を問題なく製造できることが確認できた。
【0041】
〈実施例7、比較例11〉
表3に記載の原料を用いて、以下の方法により、油脂入りのアイシング材を製造した。
(1)パーム硬化油を加熱して溶解した。
(2)溶解したパーム硬化油を、40℃に調整した実施例1のアイシング材に加え、ミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(3)パーム硬化油を加えたアイシング材(実施例7、比較例11)を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。ポリエチレン袋に詰めたドーナツは、各アイシング材につき10個ずつ用意した。
(4)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管した。
(5)5日後に袋から取り出し、アイシング材の袋への付着の有無を確認した。
【0042】
【表3】
【0043】
〈ドーナツ袋詰め時の「泣き」の評価基準〉
5:「泣き」が全く見られない、4:表面が若干濡れる程度で、ほぼ「泣き」が見られない、3:僅かに「泣き」が発生しているが、包材の剥離はよい、2:「泣き」が発生し、包材の剥離が悪い、1:「泣き」が激しく、ほぼ溶解している。
【0044】
油脂を1質量%配合したアイシング材(実施例7)は実施例1と比較して、上掛け時の乾燥時間、ドーナツ袋詰め時の「泣き」に有意差はなかった。油脂を6質量%配合したアイシング材(比較例11)は上掛け時の乾燥時間が長くなり、作業に適さない状態となった。
【0045】
また、実施例1、実施例7、比較例11のアイシング材をそれぞれ10個ずつドーナツに上掛けした後に袋詰めし、25℃にて5日間保管後に袋から取り出したところ、実施例1は2個、比較例11は4個、袋の一部に極僅かにアイシング材が付着したが、実施例7は袋へのアイシング材の付着が見られず、剥離性の向上が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明により加水の必要がなく、上掛け後に袋詰めしても「泣き」が生じにくく、流通・保管中に状態変化(分離・糖結晶の成長)が少ない特性を有するアイシング材を提供することが可能となった。