【実施例】
【0020】
以下にグラッセアイシングと同様の方法にて製造したアイシング材の実施例及び比較例を掲げ、本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0021】
実施例及び比較例に記載のアイシング材の品質を評価するため、次の7点について確認した。(1)20℃での粘度、(2)使用温度50℃における粘度、(3)上掛け使用時の付着量、(4)上掛け使用時の乾燥に必要な時間、(5)ドーナツを袋詰めし、25℃にて5日保管したときの「泣き」の有無、(6)アイシング材を袋詰めし、25℃にて60日間保管した際の状態、(7)風味。
【0022】
〈使用した材料及び器具〉
・トレハロースは「トレハ」(株式会社林原)を使用した。
・トレハロース(微粉)は「トレハ微粉」(株式会社林原)を使用した。
・粘度は東京計器B形粘度計BM形、ローターNo.4、12rpm(粘度50,000cP以上は6rpm)にて、測定開始から30秒後の値を測定した。
・ミキサーは品川工業所「卓上ミキサー5DM型」で、攪拌子はビーターを用いた。
・評価に使用したドーナツは、水分量約26%、重さ約45g、直径約10cmの自家配合イーストドーナツを用いた。
・ドーナツの袋詰めには14cm×14cmの袋(ポリエチレン)を用いた。
【0023】
〈実施例1〜5、比較例10〉
表1A及びBに記載の原料を用いて、以下の方法によりアイシング材を製造した。
(1)水に増粘多糖類を分散させ、加熱して溶解した。
(2)増粘剤の溶解を確認後、砂糖、トレハロース、デキストリン及び水あめを入れて100℃にて3分間加熱した。
(3)糖類の溶解を確認後、Bx57%に合わせてシロップ部を調整した。
(4)トレハロース微粉と(3)で調整した75℃以上のシロップ部をミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(5)得られたアイシング材を20℃にて一晩保管した。
(6)アイシング材を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(7)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管し、アイシング材の「泣き」の有無を確認した。
(8)(5)のアイシング材をポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0024】
〈比較例1〉
表1Aに記載の原料を用いて、以下のようにアイシング材としてフォンダンを製造した。
(1)砂糖に水及び水あめを加え、加熱して116℃になるまで煮詰めた。
(2)(1)を40℃まで冷却後、フォンダンが固くなるまでミキサーにて混合した。
(3)得られたフォンダンを20℃にて一晩保管した。
(4)フォンダンを細かく削り、フォンダンに対して5質量%となるように水を加え、50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみフォンダンに浸漬して上掛けし、フォンダンが乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(5)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管し、フォンダンの「泣き」の有無を確認した。
(6)(3)のフォンダンをポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0025】
〈比較例2〜9〉
表1A及びBに記載の原料を用いて、以下の方法によりアイシング材を製造した。
(1)水に糖(砂糖、トレハロース、デキストリン、水あめなど)を入れ、100℃にて3分間加熱した。
(2)溶解を確認後、比較例2はBx12%、比較例3、4及び6〜9はBx57%、比較例5はBx45%に合わせ、シロップ部を調整した。
(3)粉体部(粉糖、トレハロース微粉など)と、(2)で調整した75℃以上のシロップ部をミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(4)得られたアイシング材を20℃にて一晩保管した。
(5)アイシング材を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(6)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管して、アイシング材の「泣き」の有無を確認した。
(7)(4)のアイシング材をポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0026】
【表1A】
【0027】
【表1B】
【0028】
[1]比較例1は、保管時の状態以外は5%加水して品質を評価した。
[2]粘度が高く、測定不能。
[3]粘度はさほど高くないが、上掛け時にアイシング材の切れが悪く、塊状になって大量に付着する物性を持つため、付着量が多い。
[4]保管中にトレハロースの粗大結晶の成長も観察された。
[5]糊臭を感じ、風味が悪い。
[6]甘味が少なすぎて、風味が悪い。
[7]付着量が多く、上掛けに適さなかった。
【0029】
〈ドーナツ袋詰め時の「泣き」の評価基準〉
5:「泣き」が全く見られない、4:表面が若干濡れる程度で、ほぼ「泣き」が見られない、3:僅かに「泣き」が発生しているが、包材の剥離はよい、2:「泣き」が発生し、包材の剥離が悪い、1:「泣き」が激しく、ほぼ溶解している。
【0030】
〈25℃・60日間保管時の状態の評価基準〉
5:分離なし、4:僅かに分離している、3:分離しているが、よく混ぜれば容易に元の状態に戻る、2:分離し、混ぜてもなかなか元の状態に戻らない、1:分離し、使用できない状態。
【0031】
表1A及びBに示す結果の通り、トレハロースを60質量%以上配合したアイシング材(実施例1〜5、比較例4〜10)は袋詰めしても「泣き」が生じず、砂糖主体のアイシング材(比較例1、2)は「泣き」が激しく、ほぼ溶解した。また、トレハロースが60質量%未満(比較例3)だと「泣き」は十分には抑えきれず、80質量%以上(比較例4)だと上掛け時にアイシング材の切れが悪く、塊状になって大量に付着する物性を持ち、乾きも早すぎるため作業性に難があった。
【0032】
また、糖組成がトレハロース単体(比較例5)の場合、乾きが早すぎて作業性に難があるのに加え、保管時の分離が激しく、またトレハロースの粗大結晶の成長が観察された。そこで、デキストリン7.5質量%を併用したところ(比較例7)、保管時の分離がやや抑えられ、粗大結晶の成長も観察されず、「泣き」発生が更に抑えられたが、乾きが依然として早く、また、デキストリン特有の糊臭が出てしまい、風味が劣っていた。そこで乾燥時間の調整と粗大結晶の成長抑制目的で水あめを、風味調整目的で砂糖を添加し、デキストリンの使用量を少なくすることで(比較例9)、作業上適度な乾き時間・トレハロースの粗大結晶成長の抑制・良好な風味のバランスを取ることに成功し、保管時の分離もやや抑えられたが、商品流通を考慮した際、保管時の分離抑制に関しては未だ不十分であった。
【0033】
そこで増粘多糖類を添加することにより、保管時の分離抑制が可能か試験を実施した(実施例1〜5)。試験の結果、いずれの増粘多糖類も分離が抑えられ、経時安定性の向上が見られた。寒天を添加したもの(実施例2)は、やや「泣き」の抑制効果が低下した。タマリンドガムを使用したもの(実施例3)は乾きが若干遅くなり、「泣き」の抑制効果が低下した。LMペクチン及びキサンタンガム使用品(実施例4及び5)は、乾きが遅くなり、乾燥時間を長く取る必要が生じた。寒天とタマリンドガムを併用したもの(実施例1)は、「泣き」の抑制効果に変化がなく、乾き時間も適度であった。
【0034】
寒天を増量することで(比較例10)、保管時の分離を更に抑制させることが可能か試験したところ、粘度が高く作業が困難かつ付着量が多過ぎて、上掛け材としての使用には適さなかった。
【0035】
実施例1の配合を基本に、応用例として果汁入りのアイシング材を作成し、品質の評価を行った。
【0036】
〈実施例6〉
表2に記載の原料を用いて、以下の方法により、果汁入りのアイシング材を製造した。
(1)水に増粘多糖類を分散させ、加熱して溶解した。
(2)増粘剤の溶解を確認後、砂糖、トレハロース、デキストリン及び水あめを入れて100℃にて3分間加熱した。
(3)糖類の溶解を確認後に果汁を加えた後、Bx57%に合わせてシロップ部を調整した。
(4)トレハロース微粉と(3)で調整した75℃以上のシロップ部をミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(5)得られたアイシング材を20℃にて一晩保管した。
(6)アイシング材を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。
(7)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管した。
(8)(5)のアイシング材をポリエチレン袋に詰め、25℃にて60日間保管し、分離の有無を確認した。
【0037】
【表2】
【0038】
〈ドーナツ袋詰め時の「泣き」の評価基準〉
5:「泣き」が全く見られない、4:表面が若干濡れる程度で、ほぼ「泣き」が見られない、3:僅かに「泣き」が発生しているが、包材の剥離はよい、2:「泣き」が発生し、包材の剥離が悪い、1:「泣き」が激しく、ほぼ溶解している。
【0039】
〈25℃・60日間保管時の状態の評価基準〉
5:分離なし、4:僅かに分離している、3:分離しているが、よく混ぜれば容易に元の状態に戻る、2:分離し、混ぜてもなかなか元の状態に戻らない、1:分離し、使用できない状態。
【0040】
果汁を入れたことによる品質上の不具合は見られず、果汁入りのアイシング材を問題なく製造できることが確認できた。
【0041】
〈実施例7、比較例11〉
表3に記載の原料を用いて、以下の方法により、油脂入りのアイシング材を製造した。
(1)パーム硬化油を加熱して溶解した。
(2)溶解したパーム硬化油を、40℃に調整した実施例1のアイシング材に加え、ミキサーにて混合攪拌し、均一なスラリー状に調製した。
(3)パーム硬化油を加えたアイシング材(実施例7、比較例11)を50℃まで湯煎にて加温した後、常温のイーストドーナツを上半分のみアイシング材に浸漬して上掛けし、アイシング材が乾燥したのを確認後にポリエチレン袋に詰めた。ポリエチレン袋に詰めたドーナツは、各アイシング材につき10個ずつ用意した。
(4)袋詰めしたイーストドーナツを25℃にて5日間保管した。
(5)5日後に袋から取り出し、アイシング材の袋への付着の有無を確認した。
【0042】
【表3】
【0043】
〈ドーナツ袋詰め時の「泣き」の評価基準〉
5:「泣き」が全く見られない、4:表面が若干濡れる程度で、ほぼ「泣き」が見られない、3:僅かに「泣き」が発生しているが、包材の剥離はよい、2:「泣き」が発生し、包材の剥離が悪い、1:「泣き」が激しく、ほぼ溶解している。
【0044】
油脂を1質量%配合したアイシング材(実施例7)は実施例1と比較して、上掛け時の乾燥時間、ドーナツ袋詰め時の「泣き」に有意差はなかった。油脂を6質量%配合したアイシング材(比較例11)は上掛け時の乾燥時間が長くなり、作業に適さない状態となった。
【0045】
また、実施例1、実施例7、比較例11のアイシング材をそれぞれ10個ずつドーナツに上掛けした後に袋詰めし、25℃にて5日間保管後に袋から取り出したところ、実施例1は2個、比較例11は4個、袋の一部に極僅かにアイシング材が付着したが、実施例7は袋へのアイシング材の付着が見られず、剥離性の向上が見られた。