特開2015-2705(P2015-2705A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-2705(P2015-2705A)
(43)【公開日】2015年1月8日
(54)【発明の名称】シューケース用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20141205BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20141205BHJP
【FI】
   A23D7/00 506
   A21D2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-130080(P2013-130080)
(22)【出願日】2013年6月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000236768
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】垣本 淳
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG11
4B026DG12
4B026DG13
4B026DG14
4B026DG15
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH03
4B026DK01
4B026DL04
4B026DL10
4B026DX05
4B032DB20
4B032DG02
4B032DK02
4B032DK18
4B032DK48
4B032DK49
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ボリューム感が向上したシューケースを製造することができるシューケース用油脂組成物の提供及びそのシューケース用油脂組成物を使用したシューケースの提供。
【解決手段】油脂に蜜蝋を0.2〜2.5重量%含有させ、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を得る。そして、その油脂組成物を利用した生地を使用し、焼成し、ボリューム感の向上したシューケースを得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蜜蝋を0.2〜2.5重量%含有することを特徴とするシュー用油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のシューケース用油脂組成物を用いたシューケース。
【請求項3】
請求項1に記載のシューケース用油脂組成物を用いたシューケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業性に優れ、シューケースのボリューム感向上効果を有するシューケース用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シューケースとは、洋菓子の「シュークリーム」の皮の部分のことであり、工業的にシューケースを調製する場合は、専用の油脂組成物を使用する場合が多い。
【0003】
特許文献1は発明の名称を「シュー用乳化油脂組成物及びこれを用いたシュー皮」と称する出願であり、「乳酸発酵およびプロテアーゼ処理して得られる乳蛋白質を含有することを特徴とするシュー用乳化油脂組成物」について記載がある。特許文献2は発明の名称を「シュー用乳化油脂組成物、シューケース及びシューケースの製造方法」と称する出願であり、「有機酸モノグリセリド0.05〜20重量%及びジグリセリド0.20〜35重量%を含有することを特徴とするシュー用乳化油脂組成物」について記載がある。
特許文献3は発明の名称を「可塑性油脂及びその製造法」と称する出願であり、「ショートニング、マーガリンなどの可塑性油脂の主体の油脂ベースに、ワックス粉末が粉末状で存在する可塑性油脂」について記載がある。特許文献4は発明の名称を「可塑性油脂組成物及びその製造法」と称する出願であり、「油性成分が実質的に低軟化点油脂とワックス成分からなる可塑性油脂組成物」について記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−185177号公報
【特許文献2】特開平07−115890号公報
【特許文献3】特開平03−083542号公報
【特許文献4】特開2006−129819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、シューケースのボリューム感向上効果を有するシューケース用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に対し、まず先行技術文献について詳細に検討を行った。特許文献1は、「乳酸発酵およびプロテアーゼ処理して得られる乳蛋白質」の調製が煩雑であった。特許文献2は、目的の効果を得るために有機酸モノグリセリドと水との液晶(ニート相)を安定化する必要がある。しかし、そのためには特定量のジグリセリドを含有しなければならないために、実施する上での汎用性が低いものであった。特許文献3、4は、可塑性油脂組成物の保型性改善に関してであり、シューケースへの使用効果については何ら開示されていなかった。
【0007】
以上より、簡易な方法でシューケースのボリューム向上効果を有するシューケース用油脂組成物を得る方法は、未だ確立されていない。
そして、本発明者は各種素材について検討を行った所、天然ワックス成分、特に蜜蝋を配合した油脂組成物に、シューケースの体積を向上させる効果を有することを見出し本発明を完成させた。すなわち本発明は
( 1 )蜜蝋を0.2〜2.5重量%含有することを特徴とするシュー用油脂組成物、
( 2 )(1)に記載のシューケース用油脂組成物を用いたシューケース、
( 3 )(1)に記載のシューケース用油脂組成物を用いたシューケースの製造方法、
に関するものである。
【0008】
なお蜜蝋(及び天然ワックス)については、特許文献1、2には記載すらなかった。特許文献3には天然ワックスとしてみつろうが例示されているが、そもそも特許文献3は保型性と口どけを満足させた可塑性油脂及びその製造法についてであった。特許文献4においては、天然ワックス成分として蜜蝋が最適であるとの記載があった。しかし、低軟化点油脂であっても天然ワックス成分を用いることにより保型性を持たせた可塑性油脂及びその製造法についてであった。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ボリューム向上効果を有するシューケース用油脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明でいう「シューケース用油脂組成物」とは、シューケースの製造用に特に適した乳化油脂組成物であり、油中水型であることが保存性等の点から望ましい。
本発明でいう「ボリューム向上効果」とは、単に体積が大きくなることのみならず、シューケースの高さ、横幅のいずれかが従来のシュー用油脂組成物使用のものよりも優れるものであればよい。
本発明でいう「蜜蝋」とは、天然ワックス成分で食用として使用できるものである。蜜蝋は、ミツバチが巣を作る際、腹部腹板にある蝋腺という器官から分泌するミツバチの巣の主成分で、これを加熱、融解して、繭やクズなどの不純物を濾過して得られる。市販品としては、東亜化成株式会社製「精製ミツロウAR−100」をあげることができるが、これに限定されるものではない。
【0011】
本発明に使用する蜜蝋の添加量としては、シューケース用油脂組成物に0.2〜2.5重量%、より好ましくは0.25〜2.0 重量% 、更に好ましくは0.3〜1.5重量%含有することが望ましい。蜜蝋の量が多すぎても少なすぎても、望まれたシューケースのボリューム向上効果が得られにくい場合がある。
【0012】
本発明のシューケース用油脂組成物に使用される油脂としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油などの各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別およびエステル交換から選択される一または二以上の処理を施した加工油脂があげられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、または二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
本発明における、上記油脂の使用量は、本発明のシューケース用油脂組成物中、好ましくは50〜94.5重量%、さらに好ましくは70〜85重量%である。また、水の使用量は、本発明のシューケース用油脂組成物中、好ましくは5〜49.5重量%、さらに好ましくは15〜30重量%である。
【0014】
さらに本発明のシューケース用油脂組成物には、上記原料以外に、通常のシューケース用油脂に使用される各種の食品素材や食品添加物を、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜使用することが出来る。例えば、カゼインナトリウム、増粘多糖類、リン酸塩、食塩、乳酸、乳化剤、甘味料、着香料、着色料、酸化防止剤を含有させることができる。
【0015】
本発明のシューケース用油脂組成物の製造法を以下に記載する。
油脂および、油溶性の原料を混合し油相とし、一方、水および水溶性の原料を混合し水相とする。
油相は、まず、加熱融解した食用油脂に、必要により乳化剤、着香料、着色料、酸化防止剤などを混合し調製する。
【0016】
一方、水相は、水を加温し、リン酸塩、カゼインナトリウム、食塩、着香料、着色料などを添加、混合し調製する。そして、上記の油相へ水相を添加して混合し、乳化させた後、油中水型乳化油脂組成物の製造装置に供し、急冷混和して、可塑性を有する本発明のシューケース用油脂組成物を得る。
【0017】
このようにして得られた本発明のシューケース用油脂組成物をシューケースの製造に用いる。本発明のシューケースの配合は特に限定されるものではないが、小麦粉100重量部に対し、本発明のシューケース用油脂組成物を70〜150重量部、好ましくは100〜140重量部、水を100〜250重量部、好ましくは120〜200重量部、全卵を150〜300重量部、好ましくは200〜280重量部から構成される配合が好ましい。
本発明のシューケースの配合において、上記シューケース用油脂組成物の配合量が少なすぎると、シューケースのボリュームが小さくなる場合がある。また、上記シューケース用油脂組成物の配合量が多すぎると、シューケースが油性感の強いものとなる場合がある。
【0018】
本発明のシューケースは、例えば以下のようにして製造することができる。
本発明のシューケース用油脂組成物を、水とともに加熱煮沸し、この中に小麦粉を添加して捏和し、一般のシューケースと同様にシューケースを形成するに適した糊化状態にした後、液卵をミキシングしながら数回に分けて加え、シューケース生地を十分に乳化し、必要な場合は膨張剤、着色料、着香料、防腐剤などを添加した後、さらに液卵を加えて硬さを調整してシューケース生地を得る。得られたシューケース生地を、丸形の口金をつけた絞り袋に入れ、オーブンシートを敷いた天板に直径3 cm程に絞り出し、オーブンにより焼成することでシューケースを得る。
【0019】
以下に実施例を示す。
【実施例】
【0020】
実施例1〜3、比較例1
「シューケース用油脂組成物調製法」に従い、表1各配合のシューケース用油脂組成物を調製した。
【0021】
「シューケース用油脂組成物調製法」
1.食用油脂を60〜70℃で融解し、そこへ乳化剤を添加することで油相を調製した。
2.水へ、水相原料に分類される原料を添加、溶解した。
3.攪拌中の油相へ水相を添加し、混合した。ここで得られる混合液を調合液と称する。
4.調合液を油中水型乳化油脂組成物製造装置(コンビネーター)へ供し、油中水型乳化油脂組成物を得た。
5.ダンボールケースへ充填し、3〜7℃にて冷蔵した。
【0022】
表1 シューケース用油脂組成物の配合
・単位は重量%である。
・脂肪酸モノグリセリドは理研ビタミン株式会社製「エマルジーMS」を使用した。
・レシチンは大豆レシチンを使用した。
・蜜蝋は東亜化成株式会社製「精製ミツロウAR−100」を使用した。
【0023】
検討2 シューケースの調製
実施例4〜6、比較例2
「シューケースの調製法」に従い、各シューケース用油脂組成物によりシューケースを調製した。シュー生地の粘度は「シュー生地の粘度測定法」にて測定した。
使用したシューケース用油脂組成物は表2にまとめた。
得られたシューケースは、「シューケース体積等測定方法」により大きさを測定し、表4に結果をまとめた。
【0024】
表2 各検討に使用した油脂組成物
【0025】
「シューケースの調製法」
1.表3の配合に従い、シューケース用油脂組成物625gと水625gとをミキサーボウルに計量し、ガスコンロにかけた。
2.シューケース用油脂組成物が融解し、沸騰が始まった段階でミキサーボウルをミキサーにセットし、これに小麦粉500gを一気に投入し、低速30秒、中速90秒ミキシングした。
3.低速攪拌をしながら全卵1000gを4回に分け投入し、最後に炭酸水素アンモニウム7.5gと全卵100gの混合物を添加し、低速30秒、高速90秒攪拌し、均一なシュー生地とした。
4.絞り袋にシュー生地を充填し、ベーキングシートを敷いた焼成板に20g絞り、上面185℃、下面220℃に設定したオーブンで23分焼成した。
【0026】
表3 シューケースの配合
・小麦粉は薄力粉と強力粉の等量混合物を使用した。
【0027】
「シュー生地の粘度測定法」
1.「シューケースの調製法」で得られたシュー生地を、30〜40℃、50分間放置した。
2.B型粘度計(6号ローター使用)にて粘度を測定した。
【0028】
「シューケース体積等測定方法」
1.「シューケースの調製法」に従い、シューケースを調製した。
2.10個の体積を、ASTEX 3D Laser Scannerを用いて測定し、平均を求めた。
3.別途、高さ、横幅を実測し、平均を求めた。
【0029】
表4 評価結果
【0030】
「結果と考察」
蜜蝋を配合したシューケース用油脂組成物を用い調製したシューケース(実施例4〜6)においては、生地の伸展性が良く滑らかな物性であった。また、比較例2に比べて、シューケースの内相に巣が少なく、顕著なボリューム向上効果が見られた。
特に、実施例4、5においては、シューケースの高さ、横幅ともコントロールである比較例2よりバランスよくボリュームが向上していた。実施例6は、全体としてボリューム向上効果が認められたが、横伸びが大きい分縦伸びが少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、ボリューム感が向上したシューケースを製造することが出来る。