(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-27330(P2015-27330A)
(43)【公開日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】遊技機用可動演出役物
(51)【国際特許分類】
A63F 7/02 20060101AFI20150116BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20150116BHJP
C08K 5/1525 20060101ALI20150116BHJP
【FI】
A63F7/02 304D
C08L69/00
C08K5/1525
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-157435(P2013-157435)
(22)【出願日】2013年7月30日
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化スタイロンポリカーボネート株式会社
(72)【発明者】
【氏名】温井 紳二
【テーマコード(参考)】
2C088
4J002
【Fターム(参考)】
2C088DA13
2C088EA02
2C088EA32
2C088EB78
4J002CG011
4J002CG021
4J002EL056
4J002FD206
4J002GC00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ポリカーボネート樹脂が本来有する透明性、衝撃性等を保持したまま、摺動性を著しく改善し、均一な動作を精度良く長期間実行するポリカーボネート樹脂製の遊技機用可動演出役物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、摺動剤(B)1〜20重量部を配合したポリカーボネート組成物を成形してなる遊技機用可動演出役物を、該組成物から射出成形された厚み3mmの成形片のJIS K7361に準拠した光線透過率が80%以上に構成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して摺動剤(B)1〜20重量部を必須成分とするポリカーボネート組成物を成形してなる遊技機用可動演出役物であって、
該組成物から射出成形された厚み3mmの成形片のJIS K7361に準拠した光線透過率が80%以上であることを特徴とする、遊技機用可動演出役物。
【請求項2】
前記摺動剤(B)が下記一般式1に示すアルキルケテンダイマーであることを特徴とする、請求項1に記載の遊技機用可動演出役物。
【化1】
(一般式1において、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基をあらわす。)
【請求項3】
前記摺動剤(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり1〜10重量部であることを特徴とする、請求項1に記載の遊技機用可動演出役物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する透明性を保持したまま、摺動性を著しく改善した、ポリカーボネート樹脂製の遊技機用可動演出役物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遊技機のうち、いわゆるパチンコと呼ばれる遊技機は、遊技盤中央に設けられた液晶表示領域に複数の図柄を変動させながら表示する(以下「変動表示」という)。この遊技機は、複数列の図柄変動を停止させたときの図柄の組合せが特定態様となった場合に、通常遊技の賞球より多くの賞球が得られる、いわゆる大当たりと呼ばれる特別遊技へと移行するものとして知られている(特許文献1参照)。この表示領域における図柄の変動表示は、単に複数の図柄が変動表示されるだけでなく、リーチと呼ばれる状態のように、あと一つ図柄が揃えば大当たりとなる状態で変動表示の時間を通常よりも長くする等、遊技者の期待感を高めるための演出が図られる場合がある。
【0003】
また、図柄等の画像にキャラクタを用いて変動表示にストーリーを持たせる演出を施したり、特別遊技への移行確率を変動させる確率変動等の特定遊技の制御を行ったりすることによっても遊技者の期待感を高めている。遊技の演出態様は、上述のような画像表示によるものに限らず、最近は、可動演出役物と呼ばれる電動式演出可動部品によって演出される場合もある。可動演出役物による演出の斬新さを追求すると可動演出役物の動作は複雑になることが多い。そうした可動演出役物の複雑な動作において均一な動作を精度良く長期間維持するためには可動演出役物には高い耐久性が要求される。可動演出役物の材料に起因する早期劣化が生じると、結果として遊技の進行や演出の実行に悪影響を及ぼしかねないため、可動演出役物に適切な材料、特に滑り性(摺動性)等の特性の高い材料の選定が重要である。
【0004】
他方、ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、ITE、機械、自動車などの分野で広く用いられているが、最近では、透明性および耐衝撃性が優れることから、上記の遊技機用の役物にも使用が検討されている。しかしながら、従来のポリカーボネート樹脂からなる遊技機用役物は、滑り性が必ずしも十分でない場合があり、滑り悪さから摩耗による早期劣化が生じるといった不具合が発生する場合があり、かかる不具合が発生しないように摺動性が改善されたポリカーボネート樹脂が検討されてきた。
【0005】
例えば、上記欠点を改良する目的でポリカーボネート樹脂にポリテトラフルオロエチレン樹脂を配合した樹脂組成物が提案(特許文献2参照)されている。しかしながら、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を配合する事で摺動性は改良されるものの、
(1)ポリカーボネート樹脂の長所である透明性を大きく低下させると共に、
(2)ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性が損なわれる、
という問題があり、さらなる改良が求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開2003−230714号公報
【特許文献2】特開平1−259059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する透明性、衝撃性等を保持したまま、摺動性を著しく改善し、均一な動作を精度良く長期間実行するポリカーボネート樹脂製の遊技機用可動演出役物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂に特定の摺動剤を配合してなる組成物を射出成形した厚さ3mmの成形片のJIS K7361に準拠した光線透過率を80%以上としたポリカーボネート樹脂組成物が、遊技機用可動演出役物に必要とされる透明性と摺動性等を同時に満足できることを見出し、この材料を遊技機用可動演出役物に適用することにより本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、摺動剤(B)1〜20重量部を配合したポリカーボネート組成物を成形してなる遊技機用可動演出役物であって、該組成物から射出成形された厚み3mmの成形片のJIS K7361に準拠した光線透過率が80%以上であることを特徴とする、遊技機用可動演出役物を提供するものである。
また、本発明に用いられる摺動剤(B)は、後述するように下記一般式1に示すアルキルケテンダイマーであることが好ましい。
一般式1:
【0010】
【化1】
(一般式1において、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基をあらわす。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の遊技機用可動演出役物は、優れた透明性のみならず、優れた摺動性を有している。透明性に優れるため、遊技を演出するための表示装置の前方近傍に設けられても、表示装置を遮蔽し遊技者の視認性を阻害することがなく、また摺動性にも優れるため、激しい演出可動が繰り返された場合であってもその可動演出役物が早期劣化し可動に不具合が生じることが可及的に防止され、均一な動作を長期間精度良く実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の遊技機用可動演出役物とは、パチンコ等の遊技機の遊技盤中央に設けられた遊技演出用の表示装置の前方近傍に設けられる可動部品であり、リーチと呼ばれる状態のように、あと一つ図柄が揃えば大当たりとなる状態等となったときに、遊技者の期待感を高めるための演出を図る目的で備えられる演出部を意味する。尚、遊技機用可動演出役物との用語には、射出成形などによる一体品、役物用部品を組み合せた別体品、およびその役物用の構成樹脂部品等を含むものとする。
【0013】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0014】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのような、ジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0015】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0016】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0017】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは16000〜30000、さらに好ましくは18000〜24000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0018】
本発明にて使用される摺動剤(B)としては、例えば、下記一般式1にて示されるアルキルケテンダイマー、脂肪酸エステル類、シリコーン化合物、PTFE粒子等の摺動剤が挙げられる。
一般式1:
【0019】
【化2】
【0020】
一般式1において、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数6〜33のアルキル基、好ましくは炭素数10〜21のアルキル基である。
一般式1において、更に好ましくは、Rは、同一でも異なっても良いが、炭素数が10〜21のアルキル基である化合物が使用できる。
本発明にて用いられる摺動剤(B)としては、上記一般式1にて示されるアルキルケテンダイマーが好ましい。
【0021】
摺動剤(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり1〜20重量部である。1重量部未満では摺動性に劣り、20重量部を越えると造粒加工が困難になり樹脂組成物のペレットを得ることができなくなることから好ましくない。好ましい配合量は、1〜10重量部、更に好ましくは2〜5重量部である。
【0022】
また、本発明に用いられる、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、摺動剤(B)1〜20重量部を配合したポリカーボネート組成物から射出成形された厚み3mmの成形片のJIS K7361に準拠した光線透過率は、80%以上であることが好ましく、当該光線透過率が85%であるとより好ましい。光線透過率が80%を下回ると、当該ポリカーボネート樹脂組成物からなる遊技機用可動演出役物が、表示装置を遮蔽し遊技者の視認性を阻害し遊技の進行に悪影響を及ぼす虞がある。
【0023】
本発明の各種配合成分(A)、(B)の配合方法には特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の単軸または二軸押出機等で溶融混練することができる。また、これら配合成分の配合順序や一括混合、分割混合を採用することについても特に制限はない。
また、混合時、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、染顔料、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)や強化材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ等)等、又、他の樹脂を配合することができる。
【0024】
本発明の遊技機用可動演出役物の成形方法については、主として射出成形方法が用いられる。数個若しくは十数個等複数の遊技機用可動演出役物が同時に成形できるような金型と100〜200Tクラスの射出成形機が用いられる。射出成形温度は、成形加工性の面から260〜290℃が望ましい。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、部や%は特に断りのない限り重量基準に基づく。
【0026】
使用した配合成分は、以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂:
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200−20
粘度平均分子量:19000、以下、PCと略記)
酸化防止剤:
アデカ社製 PEP36(以下、AOと略記)
アルキルケテンダイマー(B):
永恒化工社製 AKD1840(以下、AKDと略記)
【0027】
前述の各種配合成分を表1および2に示す配合比率にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(神戸製鋼所製KTX37)を用いて、溶融温度260℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0028】
(摺動性の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ105℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm
2にて試験片(63x63x3mm)を作成した。
得られた試験片をJIS K−7125に準じ、400g荷重をかけ相手材がポリカーボネート樹脂に対する動摩擦係数を測定し、0.3以下を良好とした。
当該相手材の作成条件は、次のとおり:
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200−20 粘度平均分子量:19000)を用いた。これを125℃で4時間乾燥した後、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm
2にて相手材(150x90x3mm)を作成した。
【0029】
(透明性の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物の試験片を用いてJIS K7361に準じ、試験片厚み3mmの光線透過率を測定し、光線透過率が80%以上を良好とした。
【0030】
(ノッチ付きシャルピー衝撃強度の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ105℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm
2にてISO試験法に準じた試験片を作成し、得られた試験片を用いてISO179−1、ISO75−2に準じノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。ノッチ付きシャルピー衝撃強度が30KJ/m
2以上を良好とした。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足する場合(実施例1〜3)にあっては、摺動性、透明性、衝撃強度のそれぞれに亘って良好な結果を示した。
【0034】
一方、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
アルキルケテンダイマーが添加されていない例(比較例1)およびアルキルケテンダイマーの添加量が本発明の定める範囲よりも少ない例(比較例2)においては、何れも摺動性に劣っていた。
比較例3はアルキルケテンダイマーの添加量が本発明の定める範囲より多い事から、造粒困難よりペレットが作成出来なかった。