【解決手段】並設するようにワイヤ103を周回させる複数のメインローラ8,9と、ワイヤに向かってワークを送り出す複数のワーク送り部3a,3bと、ワーク105a,105bに加工電圧を供給する加工電源部と、ワイヤに加工電圧を給電する給電子104a,104bとを備えており、複数のメインローラを並設して周回しているワイヤ部に向かってワークを送り出す第1の箇所とワイヤ部とは並設して周回しているワイヤ面が異なるワイヤ部に向かってワークを送り出す第2の箇所に複数のワーク送り部がそれぞれ配置されており、第1の箇所と第2の箇所との間のワイヤが複数のメインローラを並設して周回している第3の箇所に給電子が配置されており、複数のワーク送り部においてそれぞれ放電加工されるワークには1つの加工電源部から供給された加工電圧を供給する。
ワイヤが前記複数のメインローラを並設して周回している前記第1の箇所から前記第3の箇所までの第1の距離と、ワイヤが前記複数のメインローラを並設して周回している前記第2の箇所から前記第3の箇所までの第2の距離と合わせて調整するために、前記給電子が配置されている位置である前記第3の箇所を変更する駆動手段をさらに備え、
前記放電加工するまえに予め測定されたワークの比抵抗値が同等であるワークを前記複数のワーク送り部においてそれぞれ放電加工する場合には、前記第1の距離と前記第2の距離とが等距離になるように、前記駆動手段が前記給電子を移動させて、前記放電加工すること特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
前記放電加工するまえに予め測定されたワークの比抵抗値が異なるワークを前記複数のワーク送り部においてそれぞれ放電加工する場合には、前記第1の距離と前記第2の距離との比率または差分が、前記予め測定された比抵抗値の比率または差分に基づいた距離になるように、前記駆動手段が前記給電子を移動させて、前記放電加工すること特徴とする請求項2に記載のワイヤ放電加工装置。
予め測定された比抵抗値が高い方のワークに近い箇所に、前記駆動手段が前記給電子を移動させて、前記放電加工すること特徴とする請求項3に記載のワイヤ放電加工装置。
ワークの素材または立体形状による比抵抗値が見かけ上同等であっても、前記放電加工するまえに予め測定された比抵抗値が異なるワークを前記複数のワーク送り部においてそれぞれ放電加工する場合には、前記第1の距離と前記第2の距離との比率または差分が、前記予め測定された比抵抗値の比率または差分に基づいた距離になるように、前記駆動手段が前記給電子を移動させて、前記放電加工することを特徴とする請求項2に記載のワイヤ放電加工装置。
前記給電子が前記複数のメインローラを周回するワイヤの複数箇所に配置されており、 ワイヤが前記複数のメインローラを並設して周回している中で、前記給電子が配置された数と前記ワーク送り部の数とが同数であって、
複数配置されている前記給電子中の1つと、複数箇所の前記ワーク送り部中の1つとが、ワイヤが前記複数のメインローラを並設して周回している中でそれぞれ交互に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工装置。
ワークを放電加工するために用いられ、並設するようにワイヤを周回させる複数のメインローラと、前記複数のメインローラを周回するワイヤに向かって前記ワークを送り出す複数のワーク送り部と、前記複数のメインローラを周回するワイヤに加工電圧を給電する給電子と、を備え、前記複数のメインローラを並設して周回しているワイヤ部に向かってワークを送り出す第1の箇所と、前記ワイヤ部とは並設して周回しているワイヤ面が異なるワイヤ部に向かってワークを送り出す第2の箇所に、複数のワーク送り部がそれぞれ配置されており、前記第1の箇所と前記第2の箇所との間の、ワイヤが前記複数のメインローラを並設して周回している第3の箇所に、前記給電子が配置されている、ワイヤ放電加工装置において放電加工される前記ワークに前記加工電圧を供給する加工電源部を備える電源装置であって、
前記複数の前記ワーク送り部においてそれぞれ放電加工されるワークに、1つの前記加工電源部から供給された加工電圧を供給することを特徴とする電源装置。
ワークを放電加工するために用いられ、並設するようにワイヤを周回させる複数のメインローラと、前記複数のメインローラを周回するワイヤに向かってワークを送り出す複数のワーク送り部と、前記ワークに加工電圧を供給する加工電源部と、前記複数のメインローラを周回するワイヤに加工電圧を給電する給電子と、を備えるワイヤ放電加工装置によるワイヤ放電加工方法であって、
前記複数のメインローラを並設して周回しているワイヤ部に向かってワークを送り出す第1の箇所と、前記ワイヤ部とは並設して周回しているワイヤ面が異なるワイヤ部に向かってワークを送り出す第2の箇所に、複数のワーク送り部がそれぞれ配置されており、
前記第1の箇所と前記第2の箇所との間の、ワイヤが前記複数のメインローラを並設して周回している第3の箇所に、前記給電子が配置されており、
前記複数の前記ワーク送り部においてそれぞれ放電加工されるワークに、1つの前記加工電源部から供給された前記加工電圧を供給することを特徴とするワイヤ放電加工方法。
ワークを放電加工するために用いられ、並設するようにワイヤを周回させる複数のメインローラと、前記複数のメインローラを周回するワイヤに向かってワークを送り出す複数のワーク送り部と、前記ワークに加工電圧を供給する加工電源部と、前記複数のメインローラを周回するワイヤに加工電圧を給電する給電子と、を備えるワイヤ放電加工装置によって放電加工された半導体基板の製造方法であって、
前記複数のメインローラを並設して周回しているワイヤ部に向かってワークを送り出す第1の箇所と、前記ワイヤ部とは並設して周回しているワイヤ面が異なるワイヤ部に向かってワークを送り出す第2の箇所に、複数のワーク送り部がそれぞれ配置されており、
前記第1の箇所と前記第2の箇所との間の、ワイヤが前記複数のメインローラを並設して周回している第3の箇所に、前記給電子が配置されており、
前記複数の前記ワーク送り部においてそれぞれ放電加工されるワークに、1つの前記加工電源部から供給された前記加工電圧を供給することを特徴とする半導体基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るマルチワイヤ放電加工機1を前方から見た外観図である。尚、
図1に示す各機構の構成は一例であり、目的や用途に応じて様々な構成例があることは言うまでもない。
【0018】
図1は本発明におけるマルチワイヤ放電加工システム(半導体基板または太陽電池基板の製造システム)の構成を示す図である。マルチワイヤ放電加工システムは、マルチワイヤ放電加工装置1、電源装置2、加工液供給装置50から構成されている。
マルチワイヤ放電加工システムは、放電により並設された複数本のワイヤの間隔で被加工物を薄片にスライスすることができる。
【0019】
1はマルチワイヤ放電加工装置であり、1には、サーボモータにより駆動されるワーク送り装置3がワイヤ103上部に設けられ上下方向にワーク105を移動できる。本発明ではワーク105が下(重力)方向に送られ、ワーク105とワイヤ103の間で放電加工がおこなわれる。
【0020】
2は電源装置であり、2には、サーボモータを制御する放電サーボ制御回路が放電の状態に応じて効率よく放電を発生させるために放電ギャップを一定の隙間に保つように制御し、またワーク位置決めを行い、放電加工を進行させる。
【0021】
加工電源回路(
図7)は、放電加工のための放電パルスをワイヤ103へ供給するとともに、放電ギャップで発生する短絡などの状態に適応する制御を行いまた放電サーボ制御回路への放電ギャップ信号を供給する。
【0022】
50は加工液供給装置であり、50は、放電加工部の冷却、加工チップ(屑)の除去に必要な加工液をポンプによりワーク105とワイヤ103へ送液する共に、加工液中の加工チップの除去、イオン交換による電導度(1μS〜250μS)の管理、液温(20℃付近)の管理を行う。おもに水が使用されるが、放電加工油を用いることもできる。
【0023】
8,9はメインローラであり、メインローラには、所望する厚さで加工出来るようにあらかじめ決められたピッチ、数で溝が形成されており、ワイヤ供給ボビンからの張力制御されたワイヤが2つのメインローラに必要数巻きつけられ、巻き取りボビンへ送られる。ワイヤ速度は100m/minから900m/min程度が用いられる。
2つのメインローラが同じ方向でかつ同じ速度で連動して回転することにより、ワイ
【0024】
ヤ繰出し部から送られた1本のワイヤ103がメインローラ(2つ)の外周を周回し、並設されている複数本のワイヤ103を同一方向に走行させる(走行手段)ことができる。
【0025】
ワイヤ103は
図8に示すように、1本の繋がったワイヤであり、図示しないボビンから繰り出され、メインローラの外周面のガイド溝(図示しない)に嵌め込まれながら、当該メインローラの外側に多数回(最大で2000回程度)螺旋状に巻回された後、図示しないボビンに巻き取られる。
マルチワイヤ放電加工機1は、電源ユニット2と電線513を介して接続されており、電源ユニット2から供給される電力により作動する。
【0026】
マルチワイヤ放電加工機1は、
図1に示すように、マルチワイヤ放電加工機1の土台として機能するブロック15と、ブロック15の上部の中に設置されている、ブロック20と、ワーク送り装置3と、接着部4と、シリコンインゴット105と、加工液漕6と、メインローラ8と、ワイヤ103と、メインローラ9と、給電ユニット10と、給電子104と、を備えている。
図2を説明する。
図2は、
図1に示す点線16枠内の拡大図である。
【0027】
8,9はメインローラであり、メインローラにワイヤ103が複数回巻きつけられており、メインローラに刻まれた溝に従い、所定ピッチでワイヤ103が整列している。
メインローラは中心に金属を使用し、外側は樹脂で覆う構造である。
【0028】
2つのメインローラの間であって、メインローラ8,9の内部のほぼ中央部の上の部分には、給電ユニット10に取り付けられた給電子104を配置し、給電子104は、上向きに露出する表面をワイヤに接触させることで走行する複数本のワイヤ103に加工電圧を一括して給電する。
図3に示したように、給電子104はワイヤ103の10本と接触することで、加工電源部からの放電パルス(
図6の504)を10本のワイヤに供給している。
給電子104が配置される位置は、シリコンインゴット105の両端よりワイヤの長さがほぼ等しくなる位置(511L1=511L2)に設けてある。
給電子104には、機械的摩耗に強く、導電性があることが要求され超硬合金が使用されている。
【0029】
2つのメインローラの間であって、メインローラ8,9の内部のほぼ中央部の下の部分には、ワーク送り装置3に取付けたシリコンインゴット105を配置し、ワーク送り装置3がワークを105下方向に送り出すことでスライス加工が進行する。
【0030】
メインローラの下部に加工槽6を設け、ワイヤ103およびシリコンインゴット105を浸漬し、放電加工部の冷却、加工チップの除去を行う。加工槽6は加工液を貯留し、送り出されたワークを浸漬するためのものである。
【0031】
図3のように、ワイヤ104の本数を10本に対して接触する給電子104を1個で示しているが、給電子あたりのワイヤ本数や給電子の総数は必要数に応じて増やすことは言うまでもない。
【0032】
ブロック20は、ワーク送り装置3と接合されている。また、ワーク送り部3は、シリコンインゴット105(ワーク)と接着部4により接着(接合)されている。
本実施例では、加工材料(ワーク)として、シリコンインゴット105を例に説明する。
【0033】
接着部4は、ワーク送り装置3と、シリコンインゴット105(ワーク)とを接着(接合)するためのものであれば何でもよく、例えば、電導性の接着剤が用いられる。
【0034】
ワーク送り部3は、接着部4により接着(接合)されているシリコンインゴット105を上下方向に移動する機構を備えた装置であり、ワーク105を保持した状態でワーク送り部3が下方向(重力方向)に移動することにより、シリコンインゴット105をワイヤ103の方向に近づけることが可能となる。
ワーク送り部3は給電子104よりも低い位置に配置されている。
保持するワーク105が加工液に浸漬されるように、ワーク送り部3はワーク105を周回するワイヤに接近する方向に送りしている。
加工液漕6は、加工液を貯留するための容器であり複数のメインローラ(8,9)を周回するワイヤの外側に配置されている。
【0035】
加工液は、例えば、抵抗値が高い脱イオン水である。ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間に、加工液を設けられることにより、ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間で放電が起き、シリコンインゴット105を削ることが可能となる。
【0036】
メインローラ8、9には、ワイヤ103を取り付けるための溝が複数列形成されており、その溝にワイヤ103が取り付けられている。そして、メインローラ8、9が右又は左回転することにより、ワイヤ103が走行する。
また、
図2に示すように、ワイヤ103は、メインローラ8、9に取り付けられ、メインローラ8、9の上側、及び下側にワイヤ列を形成している。
【0037】
また、ワイヤ103は、伝導体であり、電源ユニット2から電圧が供給された給電ユニット10の給電子104と、ワイヤ103とが接触することにより、当該供給された電圧が給電子104からワイヤ103に印加される。(給電子104がワイヤ103に電圧を印加している。)
【0038】
そして、ワイヤ103と、シリコンインゴット105との間で放電が起き、シリコンインゴット105を削り(放電加工を行い)、薄板状のシリコン(シリコンウエハ)を作成することが可能となる。
図3を説明する。
図3は、給電子104の拡大図を示す。
給電子104(1個)はワイヤ103(10本)と接触している。
ワイヤ103同士の間隔(ワイヤのピッチ)は0.3mm程度である。
図4を説明する。
図4は従来方式であるワイヤ毎に個別に加工電流(放電電流)を給電する個別給電での電気回路400を示す図である。
【0039】
401は加工電源部(Vm)である。ここでVmは放電加工に必要な電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmは60V〜150Vで任意の加工電圧に設定することができる。
【0040】
402は加工電源部(Vs)である。ここでVsは放電を誘発するために設定される誘発電圧である。さらにワイヤとワークとの間にて極間電圧(極間電流)の状態をモニターする目的にも使用される。Vsは60V〜300Vで任意の誘発電圧に設定することができる。
403はトランジスタ(Tr2)である。加工電圧VmのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
404はトランジスタ(Tr1)である。加工電圧VsのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
【0041】
405は加工電流制限抵抗体の抵抗(Rm)である。固定の抵抗値を設定することで、1本毎のワイヤ電流(Iw)や極間放電電流(Ig)を制限する。Rmは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVm=60V(ボルト)、Vg=30V、Rm=10Ωとした場合で、Iw(Ig)=(60V−30V)/10Ω=3A(アンペア)となる。
【0042】
なお、上記の計算式では、加工電圧(Vm)から給電点(給電子)までの電圧降下を30Vとしたが、ワイヤ抵抗(Rw)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
【0043】
つまり従来方式である個別給電方式の場合には加工電流Iwの値は、加工電流制限抵抗体の抵抗Rmにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流や放電電流(Ig)を得るためには、ワイヤ抵抗RwがRm>Rwの関係になるように設定される。
【0044】
406は誘発電流制限抵抗(Rs)である。固定の抵抗値を設定することで放電を誘発する誘発電流を制限する。Rsは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。
407は極間電圧(Vg)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間(極間)に印加される極間放電電圧である。
408は極間電流(Ig)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる極間放電電流である。
410はワイヤ1本毎に個別に供給される加工電流(Iw)である。
図5を説明する。
図5は従来方式であるワイヤ毎に個別に加工電流を給電する個別給電での電気回路400が複数本のワイヤに給電している図である。
409はワイヤ1本毎の抵抗を示すワイヤ抵抗(Rw)である。
204は個別の給電子である。シリコンインゴット105の両端の近傍に設けた、2ヶ所の個別給電子から加工電圧のパルスを印加し、放電加工を行う。
巻回するワイヤ103の本数と同数の電源回路400に接続されている。
【0045】
図6は、本発明の極間放電電圧(Vgn)及び極間放電電流(Ign)の変化とTr1、Tr2のON/OFF動作(タイミングチャート)を示す。グラフの横軸は時間である。
【0046】
まずトランジスタTr1503をONし、誘発電圧を印加する。このときワイヤ103とワーク105間(極間)は絶縁されているため、ほとんど極間放電電流は流れない。その後、極間放電電流が流れ始めて放電を開始するとVgnが電圧降下することで、放電開始を検出しTr2をONすると、大きな極間放電電流を得る。所定時間経過後にTr2をOFFする。Tr2のOFFを所定時間経過した後に再び一連の動作を繰り返す。
図7を説明する。
【0047】
図7は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電での電気回路2とワイヤ放電加工装置1との関係を示す図である。加工電流とワイヤ電流と極間放電電流が流れている状態を示している。
図7は、
図8に示す電気回路2との等価回路を示している。
【0048】
仮に
図4に示す従来方式の電気回路400を、複数のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電での電気回路にそのまま導入したとすれば、加工電源部から給電点の間にて加工電流を制御するために、電流制限抵抗体Rm405の代わりに、複数のワイヤ(10本)に供給されるワイヤ電流の合計(10倍)の加工電流が供給されるように、Rmを10本(メインローラ8、9を巻回する周回数)で割った抵抗値の電流制限抵抗体を加工電源部から給電点との間に設置すればよい。
まず、このように固定された抵抗値を持つRm/10本を加工電源部から給電子との間に設置した場合を説明する。
【0049】
10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合には、10本のワイヤで放電電流が均等に分散されるので、固定された抵抗値(Rm/10本)に応じた放電電流が各ワイヤとワークとの間に供給されるので、過剰な放電電流の供給は問題とならない。
【0050】
しかしながら、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合には、固定された抵抗値(Rm/10本)に応じたワイヤ電流が放電状態になったワイヤとワークとの間に集中して供給されるので、過剰なワイヤ電流の供給が問題となる。つまり、10本の中で1本のみが放電状態になった場合には、本来1本のワイヤとワークに供給されるべきワイヤ電流の10倍のワイヤ電流が、放電状態になっているワイヤとワークに供給され、ワイヤが断線してしまう。
【0051】
505は配線513のインピーダンス(抵抗)である。加工電源部(Vmn)マイナス側に接続する上り用のケーブルである。加工電源部(Vmn)から給電子104に加工電圧を供給する。
520は配線514のインピーダンス(抵抗)である。加工電源部(Vmn)プラス側に接続する下り用のケーブルである。
【0052】
本発明の配線513の抵抗値Rmn505は従来方式の加工電流制限抵抗体のように抵抗値を所定の値に固定するものではなく、10本の中で1本のみが放電状態になった場合であっても、放電状態となった本数に応じて抵抗値が変動するように制御できる機構を備えている。
【0053】
さらに、本発明の抵抗値Rmn505をワイヤ抵抗Rwn509と比べて十分に小さな抵抗値の範囲で変動させることで、加工電流を制限するにあたってRwn509の方が支配的になり、抵抗値Rmn505の影響はほぼ無視することができる。
【0054】
つまり、加工電源部501から給電子104までの間に流れ、極間ではワーク105に放電する極間放電電流になる加工電流の下限を制限する加工電流制限抵抗体を備えなくてもよいということである。
つまり、Rmnを10本(メインローラ8、9を巻回する周回数)で単純に割った抵抗値よりも小さい抵抗値にすればよいということである。
【0055】
つまり各ワイヤの抵抗Rwn509であるインピーダンスを利用することで、各ワイヤのワイヤ電流Iwnが安定して供給されるので、ワイヤ電流の集中が起こらない。
509はワイヤ1本毎のワイヤによる抵抗(Rwn)である。
【0056】
ここで給電子104から放電部までのワイヤ抵抗値とは、給電子104と接触してから、かつ走行するワイヤ(1本)による、放電部までのワイヤの長さよる抵抗である。
例えば、ワイヤ10本(メインローラ8、9を10周巻回する)に一括で給電する場合の各ワイヤ抵抗をそれぞれRw1、Rw2、〜Rw10とする。
【0057】
従来方式のように、RmnではなくRwnを1本毎のワイヤ電流(Iw)や放電電流(Ig)を制限する抵抗とすることで、1本毎のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を制限することができる。つまり給電点(給電子)と放電点(放電部)との距離(長さL)を変えることで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVmn=60V、Vgn=30V、Rwn=10Ωとした場合には、Iwn(Ign)=(60V−30V)/10Ω=3Aとなる。
【0058】
なお、上記の計算式では、ワイヤ抵抗(Rwn)による給電点から放電点までの電圧降下を30Vとしたが、加工電源部から給電点までの電圧降下を起こす抵抗(Rmn)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
【0059】
つまり本発明である一括給電方式の場合にはIwnは、Rmnにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を得るためには、加工電源部から給電点までの電圧降下を起こす抵抗RmnがRmn<Rwnの関係になるように設定される。
【0060】
また各ワイヤ個別のワイヤ抵抗Rwnは(1)ワイヤの材質による電気抵抗値ρ、(2)ワイヤの断面積B、(3)ワイヤの長さL、の3つのパラメータからRwn=(ρ×B)/Lの関係式によりで定めることができる。
【0061】
501は加工電源部(Vmn)である。ここでVmnは放電加工に必要な加工電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmnは任意の加工電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも加工電流の供給量が大きくなるので、401と比べると大きな電力(加工電圧と加工電流の積)を供給する。
加工電源部501は給電子104に加工電圧(Vmn)を供給する。
【0062】
502は加工電源部(Vsn)である。ここでVsnは放電を誘発するために設定される誘発電圧である。さらにワイヤとワークとの間にて極間電圧(極間電流)の状態をモニターし、ワーク送り装置の制御に利用する目的にも使用される。Vsnは任意の誘発電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも誘発電流の供給量が大きくなるので、402と比べると大きな電力を供給する。
加工電源部502は給電子104に加工電圧(Vsn)を供給する。
503はトランジスタ(Tr2)である。加工電圧VmnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
504はトランジスタ(Tr1)である。加工電圧VsnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
507は放電極間電圧(Vgn)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に印加される放電極間電圧である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電極間電圧をそれぞれVg1、Vg2、〜Vg10とする。
【0063】
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電極間電圧が印加される部分が放電部である。放電部において、走行する複数のワイヤと給電子との接触により走行する複数のワイヤに一括で給電された加工電圧をワークに放電する。
508は放電極間電流(Ign)である。放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる放電極間電流である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電極間電流をそれぞれIg1、Ig2、〜Ig10とする。
【0064】
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電極間電流が流れる部分が放電部である。放電部において、走行する複数のワイヤと給電子との接触により走行する複数のワイヤに一括で給電された加工電圧をワークに放電する。
510はワイヤ1本毎に個別に供給されるワイヤ電流(Iwn)である。
例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各ワイヤ電流をそれぞれIw1、Iw2、〜Iw10とする。
511は給電点から放電点までの距離Lであり、すなわち給電点(給電子)から放電点(ワーク)までのワイヤの長さである。
図8を説明する。
図8は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電流を給電する一括給電の電気回路2により複数本のワイヤに一括給電している図である。
【0065】
104は給電子である。給電子104は走行する複数本のワイヤに一括で接触する。シリコンインゴット105と対向する位置に設けた、1ヶ所の給電子104から放電パルスを印加し、放電加工を行う。
メインローラを巻回するワイヤ103の本数(10本)に対して1つの電源回路2が接続されている。
以下、
図8の配置を参照して、ワイヤに流れる加工電流(各ワイヤ電流の合計)を説明する。
【0066】
図8に示すように、給電点(給電子104とワイヤ103が接触する位置)から放電点(ワイヤ103とワーク105との間)に流れるワイヤ電流は左右のメインローラの2方向に流れるので、各方向に対するワイヤ抵抗が存在している。
511L1は電流が左のメインローラ方向に流れた場合の給電点と放電点との長さ(距離)であり、L1の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1aとする。
511L2は電流が右のメインローラ方向に流れた場合の、放電点と給電点との長さ(距離)であり、L2の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1bとする。
ワイヤ103がメインローラ8、9を1周巻回する長さを2mとする。
給電子104は、1周巻回する長さのほぼ半分の距離に配置されているので、放電点と給電点との距離(ワイヤの長さL)を1mである。
よって給電子から放電部までを走行するワイヤの距離は0.5mよりも長い。
【0067】
ワイヤ103の材質の主成分は鉄であり、ワイヤの直径は0.12mm(断面積0.06×0.06×πmm
2)である。ワイヤの抵抗値Rw1a、Rw1bはそれぞれ、同じ長さ(L1=L2=1m)であるので各々のワイヤ抵抗値は同一の20Ω程度とすればRw1aとRw1bによる1本(メインローラ8、9を1周巻回する)の合成のワイヤ抵抗値は10Ω程度となる。
【0068】
また、
図8のようにL1及びL2の長さによるワイヤ抵抗値を同じ抵抗値にするために、L1とL2の長さが同じになるように給電子104を配置することが好ましいが、L1とL2の長さの違いが10%程度(例えばL1が1mでL2が1.1m)ことなるように給電子104を配置しても特に問題はない。
放電電圧Vg1〜Vg10がほぼ等しい場合、VmnがそれぞれのRw1〜Rw10に印加されているので、Iw1〜Iw10は全て同じワイヤ電流である。
ここでワイヤ抵抗による電圧降下値(Rw1×Iw1)と放電電圧(Vgn)からVmnを求める.
給電子104から放電部までの電圧降下は走行するワイヤの抵抗による電圧降下である。
Rw1=10Ω(給電子104から放電部までの抵抗値)。
Iw1=3A
Vgn=30Vとすれば、Vmnは以下のようになる。
Vmn=10(Ω)×3(A)+30V=60V
よって給電子から放電部までの電圧降下は10Vよりも大きい。
よって給電子から放電部までの抵抗値が1Ωよりも大きい。
尚、Rwn=(ρ×B)/Lの関係式により、ワイヤのパラメータによりワイヤ抵抗による電圧降下値を設定してもよい。
【0069】
よって、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合のRmnを計算すると、全てのワイヤで放電状態となり10本のワイヤにIw1=3Aが流れている場合は、加工電源部から給電点との間では全体で10本×3A=30Aの加工電流が必要となり、この加工電源部から給電点との間の電圧降下をVmnの100分の1(0.6V)とすれば、この場合のRmnは以下のようになる。
よって加工電源部から給電子104までの電圧降下は1Vよりも小さい。
よって加工電源部から給電子までの電圧降下は、給電子から放電部までの電圧降下よりも小さい。
Rmn=0.6V/30A=0.02Ω(加工電源部501から給電子104までの抵抗値)。
よって加工電源部から給電子までの抵抗値は0.1Ωより小さい。
よって加工電源部から給電子までの抵抗値が、給電子から放電部までの抵抗値よりも小さい。
よって加工電源部から給電子104までの電圧降下と給電子104から放電部までの電圧降下との比は10倍以上である。
よって加工電源部から給電子104までの抵抗値と給電子から放電部までの抵抗値との比が10倍以上である。
よってRmnを考慮して10本の加工電流をもとめると(60V−30V)/((10Ω/10本)+0.02Ω)=29.41Aとなり
ワイヤ一本当たりに割ったあとの加工電流は2.941Aとなる。
【0070】
また、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合に1本のワイヤ電流が流れたとしても、ワイヤ一本当たりに割ったあとの加工電流は(60V−30V)/(10Ω+0.02Ω)=2.994Aとなり、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合と比べても大きな差は生じない。
【0071】
また更なる効果として、複数本であるN本(メインローラ8、9をN周巻回する)のワイヤに1箇所(一括)で給電する場合には、1本のワイヤ毎に個別に給電したときの加工速度に比べて加工速度が1/Nとなるが,本発明によれば、N本のワイヤへ1箇所(一括)で給電した場合においても1本のワイヤへ個別に給電したときと同等の加工速度を維持することができる。
図9を説明する。
図9は
図5と同じように個別給電方式の1例をしめす。
【0072】
4本のメインローラに巻きつけられたワイヤに対して、加工するワーク105に近い位に一対の個別給電子を配置して給電を行う。巻回するワイヤ1周回毎に2個(一対)の個別給電子を設けている。また一対の個別給電子の上流には一対の個別給電子に流れる加工電流の下限を制限するための内部抵抗Rm405がある。
【0073】
この内部抵抗は並設して走行するワイヤ1本毎の加工電流値の下限を制限するために、電気配線の中に設けられている。この内部抵抗の抵抗値は、ワイヤの長さによる抵抗値Rwよりも十分大きい(Rm>>Rw)。この理由は内部抵抗Rm405がワイヤ1周回毎に流れる加工電流値をワイヤ1周回毎にそれぞれ個別に制御するためである。
【0074】
ワークの放電点から個別給電子204aまでの間のワイヤの長さを411L1とする。このワイヤの長さ411L1がワイヤによる抵抗値となりRw1aに相当する。
【0075】
ワークの放電点から個別給電子204bまでの間のワイヤの長さを411L2とする。このワイヤの長さ411L2がワイヤによる抵抗値となりRw1bに相当する。
【0076】
ワークの放電点を通らない側の個別給電子204bから個別給電子204cまでの間のワイヤの長さを412Lとする。このワイヤの長さ412Lがワイヤによる抵抗値となりRw12に相当する。
【0077】
図9のように、放電部側を経由せずにワイヤが一対の給電子の間を走行する412L(第2の距離)が、411L1(第1の距離)よりも長い。これは412Lの長さによる抵抗値を、411L1の長さによる抵抗値よりも大きくしないと、ワイヤの抵抗値Rw12、Rw23がある方向には加工電流が流れてしまうからである。一例を挙げると411L1または411L2(第1の距離)を1mにして412L(第2の距離)を4mにした場合に412Lの長さによる抵抗値(インピーダンス)が、411L1の長さによる抵抗値(インピーダンス)よりも大きくなる。
図10を説明する。
【0078】
図10は、
図9に示した巻回しているワイヤを直線に仮想的に展開して、ワイヤ103、給電子204、ワークの放電点の配置関係をそれぞれ説明するための図である。
【0079】
4本のメインローラに巻きつけられたワイヤを仮想的に展開するとワイヤ103一本に、ワークの放電点W1〜W3に対して個別給電子204a〜給電子個別204fが配置されていることになる。
【0080】
給電子204aと204bまたは給電子204cと204d、給電子204eと204f、それぞれの間にワークの放電点(W1〜W3)がありそれぞれの位置で放電が発生する。
【0081】
加工電源部Vm401と、ワークの放電点(W1〜W3)から流れる加工電流(Iw1〜Iw3)を個別に制限するために、設置されている内部抵抗RmをそれぞれRm1、Rm2、Rm3とする。
なお、
図10では
図4に示した加工電流をパルス化するスイッチング素子403、極間電圧Vgは省略している。
ワークの放電点W1から個別給電子204aまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw1aとする。
ワークの放電点W1から個別給電子204bまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw1bとする。
ワークの放電点W2から個別給電子204cまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw2aとする。
ワークの放電点W2から個別給電子204dまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw2bとする。
ワークの放電点W3から個別給電子204eまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw3aとする。
ワークの放電点W3から個別給電子204fまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw3bとする。
【0082】
ここでワイヤの抵抗値Rw1aとRw1bはW1から両側の給電子までは、並列回路になるので、便宜上その並列回路による合成のワイヤの長さ(411L)によるワイヤの抵抗値Rw1とする
同様にW2とW3からの両側の給電子までの並列回路による合成のワイヤの抵抗値をそれぞれRw2、Rw3とする。
【0083】
さらに個別給電子204bから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204cまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値をRw12とする。
個別給電子204dから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204eまでのワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値をRw23とする。
図11を説明する。
図11は放電点W1〜W3で放電が発生し、電流Iw1〜Iw3が流れている状態の個別給電方式である
図10との等価回路である。
この等価回路ではワイヤ1周回の各放電点から流れる加工電流Iw1、Iw2、Iw3は、それぞれ
・Iw1=Vm/(Rw1+Rm1)
・Iw2=Vm/(Rw2+Rm2)
・Iw3=Vm/(Rw3+Rm3)
と表すことができる。
【0084】
さらに、放電点と近い位置に給電子204を配置した場合には、給電子204から放電点Wまでのワイヤの長さは短くなり、ワイヤによる抵抗値Rwは、Rmと比べて十分小さくなりRw1、Rw2、Rw3は無視することができる。
ここで
給電子204aまたは204bの電位をV1とする。
給電子204cまたは204dの電位をV2とする。
給電子204eまたは204fの電位をV3とする。
つまり各給電子の位置の電位V1、V2、V3およびIw1、Iw2、Iw3は、
・V1=Iw1*Rm1 Iw1=Vm/Rm1
・V2=Iw2*Rm2 Iw2=Vm/Rm2
・V3=Iw3*Rm3 Iw3=Vm/Rm3
と簡略化することができる。
【0085】
Rm1、Rm2、Rm3がすべてほぼ同じ抵抗値であり、Iw1、Iw2、Iw3にはすべてほぼ同じ加工電流が流れているのでV1、V2、V3の電位はすべてほぼ等しい。
従って同じ電位であるV1、V2を結ぶRw12には加工電流は流れず、同じ電位であるV2、V3を結ぶRw23にも加工電流は流れない。
図12を説明する。
図12は放電点W2のみで放電が発生し、電流Iw2のみが流れている状態の個別給電方式である
図10との等価回路である。
この場合には加工電流Iw2は給電子204cから、3つの経路(方向)に流れる。
Iw2=Vm/(Rw2+Ra)
ただし:Ra=1/(1/(Rw12+Rm1)+1/Rm2+1/(Rw23+Rm3))
【0086】
図11のように、放電点と近い位置に給電子204を配置した場合には、給電子204から放電点Wまでのワイヤの長さは短くなり、ワイヤによる抵抗値Rwは、Rmと比べて十分小さくなりRw1、Rw2、Rw3は無視することができ、給電子204cまたは204dの電位をV2とすると、給電子の位置の電位V2は、
Iw2=Vm/Ra
ただし:Ra=1/(1/(Rw12+Rm1)+1/Rm2+1/(Rw23+Rm3))
となり、Rw12の抵抗値の大きさに依存して、Iw2が流れる電流が決まる。
【0087】
つまり放電点と近い位置に給電子204を配置した場合には、個別給電子204bから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204cまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw12は、Rmと比べても大きくなりRw12が大きな抵抗となることができず、Rw12の方向には加工電流は小さくなる。同じように個別給電子204dから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204eまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw23は、Rmと比べても大きくなりRw23が大きな抵抗となることができず、Rw23の方向にも加工電流は小さくなる。
【0088】
しかしながら、もし放電点から遠い位置に給電子204を配置した場合には、個別給電子204bから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204cまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw12は、Rmと比べて十分小さくなりRw12は無視することができ、I1、I2、I3は
I1=Vm/Rm1 I2=Vm/Rm2 I3=Vm/Rm3
【0089】
となってしまうのでRw12の方向にも加工電流が流れてしまう。同じように個別給電子204dから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204eまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw23は、Rmと比べて十分小さくなりRw23は無視することができ、Rw23の方向にも加工電流が流れてしまう。
【0090】
つまり、Rw12及びRw23の方向に加工電流を流さないようにするにはRw12,Rw23の抵抗値を大きくする必要があり、
図5のように放電点とできるだけ近い位置に個別給電子204を配置する必然性があり、放電点から離れた位置には個別給電子204を配置することはできない。
図13を説明する。
【0091】
図13のようにメインローラ4本の構成とした場合の問題点がある。このメインローラ4本の構成において、
図1と同じように給電子104を配置すると、給電子とワーク(放電点)までの距離、すなわちワイヤ長511Lが長くなってしまう。
ワイヤ長511Lが長くなりすぎると、ワイヤの抵抗値(インピーダンス)も増加しすぎるので、その電圧降下の影響により放電電流値が低下してしまう。
さらに加工速度(加工レート)は放電電流値に比例するので、加工速度も低下する。
【0092】
この加工速度低下を防ぐには、印加電圧を増加させ電流を増加させる方法があるが、電圧を増加した分だけの電力が消費され、効率の低下といった問題が起きる。
【0093】
マルチワイヤ放電加工システムは、ワイヤガイド、ワークサイズ、加工槽といった機械的サイズの制約受け、給電点から放電点までの距離つまりワイヤ長Lを任意に設定できない場合がある。
【0094】
給電子とワークをワイヤのループの内側に配置するため、メインローラ4本の構成となっている。この構成では、一対の給電子をワークから等しい距離の左右の両側に配置している。
この給電子A、Bはワークから距離が等しければ良く任意位置に変動して配置することが可能である。
【0095】
このようにワイヤの長さで定まる抵抗値(インピーダンス)を任意に調整可能であり、
図1と同様に、ワイヤ長で定まる抵抗値(インピーダンス)により、放電電流値を制限することができるので、複数のワイヤには同じ放電電流が流れ、各電流値を同じ印加電圧下で任意に調整可能となる。
言い換えれば、メインローラ4本の構成となってワイヤ全長が長くなった場合でも、
図1と同じ電気特性を持たせることが可能となる。
【0096】
104aと104b(一対の給電子)はW(放電部)からのワイヤが走行する511L1または511L2(第1の距離)がおおよそ等しい距離である位置にそれぞれ配置されている。
図13の例では両側に配置されている。
更に、一対の給電子及び給電ユニットを移動可能な駆動手段は、複数のメインローラを巻回するワイヤの内側に配置されている。
【0097】
図13のように、1か所の給電点を2か所(一対の給電子)に増やすことにより、給電点から放電点(放電部)までの距離に自由度を持たせ、インピーダンスを調整できるようにした。
【0098】
図示しない駆動手段が給電ユニット10全体をスライド駆動させるので、ワイヤが走行する511L1(第1の距離)が変動するように、一対の給電子をワイヤに接触させて、かつ該接触する位置を移動することができる。
【0099】
更に一対の給電子及び駆動手段は、複数のメインローラを巻回するワイヤの内側に配置されているので、それぞれに分岐する電気配線の長さが短くなり、電源装置から一対の給電子までの抵抗値をより小さくすることができる。
【0100】
図13では、放電部側を経由せずにワイヤが一対の給電子の間を走行する512L(第2の距離)が、511L1(第1の距離)よりも短い。これは512Lの長さによる抵抗値を、511L1の長さによる抵抗値よりも小さくしても、ワイヤの抵抗値Rw12、Rw23がある方向には加工電流が流れないからである。一例を挙げると511L1または511L2(第1の距離)を2mにして512L(第2の距離)を1.9mにした場合に512Lの長さによる抵抗値(インピーダンス)が、511L1の長さによる抵抗値(インピーダンス)よりも小さくなる。
【0101】
図1で述べたように
図13の走行手段も1本の連続するワイヤを複数(4本)のメインローラに複数回(例えば2000回程度)巻回することで、ほぼ均等間隔にワイヤを並設させて同一方向に走行させている。このように511L1または511L2(第1の距離)をそれぞれ2mにして512L(第2の距離)を1.9mにした場合、複数のメインローラを1周回するワイヤの走行距離が5.9mになるので、512L(第2の距離)は、複数のメインローラを1周回するワイヤの走行距離の3分の1未満になっている。
図14を説明する。
【0102】
図14は
図10と同様の表現で、一括給電でのワイヤと給電子の配置関係と放電回路を示した。ここで、
図10との大きな違いは、電気回路内部には加工電流の下限を制限する内部抵抗Rm1〜3がないことである。
図15を説明する。
図15は放電点W2のみで放電が発生し、電流Iw2のみが流れている状態の一括給電方式である
図14との等価回路である。
【0103】
給電子104aまたは104bから電源Vmn501の陰極まで抵抗がないので 給電子の位置の電位V1、V2、V3は、V1=V2=V3と等しくなるので、ワイヤの抵抗値Rw12、Rw23がある方向には加工電流は流れない。
【0104】
つまり、
図13のように電気配線内に内部抵抗を無くした給電方式(Rmn<<Rwn)ではRw12及びRw23の方向には加工電流が流れないので、
図9に示したように電気配線内に内部抵抗がある給電方式(Rm>>Rw)のように放電点とできるだけ近い位置に個別給電子204を配置する必然性はなく、
図13の給電方式(Rmn<<Rwn)では自由な位置に一対の給電子104を配置することが可能となり、一対の給電子104の配置位置が移動されても何ら問題がない。
【0105】
つまり電源装置から一対の給電子までの抵抗値が、一対の給電子の一方から放電部(放電点W)までのワイヤが走行する511L1(第1の距離)による抵抗値よりも十分に小さいので、ワイヤの抵抗値Rw12、Rw23がある方向には加工電流は流れない。
【0106】
一対の給電子がそれぞれ、並設されて走行する複数本(例えば10本)のワイヤに一括に跨って加工電圧を給電した場合には、V1とV2とV3の電位が等しくなる。
図16を説明する。
8及び9は、同一方向に走行させるようにワイヤを周回させる4本のメインローラである。
図16は複数(4本)のメインローラを周回するワイヤ1周分の走行距離を示している。
【0107】
例えば、1本のワイヤが複数(4本)のメインローラを100周分周回すると、100本の並設されたワイヤ面が形成され、この100本中の2本のワイヤの間隔でワークを多数の薄片(基板等)にスライスすることができる。
104a及び104bは給電子であり、4本のメインローラを周回するワイヤに、放電加工するための電源を複数本のワイヤに跨って一括給電している。
104aは、複数(4本)のメインローラを周回するワイヤに、Vmn501から供給された加工電圧を給電することができる。
104bは、複数(4本)のメインローラを周回するワイヤに、Vmn501から供給された加工電圧を給電することができる。
3a及び3bはワーク105aとワーク105bを周回するワイヤに接近する方向に個別に送り出す2個のワーク送り部である。
【0108】
1つめのワーク送り部である3bは、複数(4本)のメインローラを並設して周回しているワイヤ部に向かってワークを送り出すことが可能な領域Aの中でいずれかの位置に固定されて配置されている。この3bが固定されて配置されている箇所を第1の箇所とする。
【0109】
2つめのワーク送り部である3aは、複数(4本)のメインローラを並設して周回しているワイヤ部に向かってワークを送り出すことが可能な領域Bの中でいずれかの位置に固定されて配置されている。この3aが固定されて配置されている箇所を第2の箇所とする。
【0110】
ここで、3aが配置されている第2の箇所とは、
図16に示したように3bが配置されているワイヤ部とは並設して周回しているワイヤ面が異なる別のワイヤ部に向かってワークを送り出すことが可能な箇所である。
【0111】
給電子(104b)は、
図16に示すように第1の箇所と第2の箇所との間の、ワイヤが複数のメインローラを並設して周回しているワイヤ部に給電可能な領域Cの中でいずれかの位置に固定されて配置されている。この104bが固定されて配置されている箇所を第3の箇所とする。
【0112】
ここで、104bが配置されている第3の箇所とは、3bが配置されているワイヤ部とは並設して周回しているワイヤ面が異なる別のワイヤ部に給電可能な箇所であり、さらに3aが配置されているワイヤ部とも並設して周回しているワイヤ面が異なる別ワイヤ部に給電可能な箇所であるので、第1の箇所および第2の箇所とは全く別のワイヤ部に給電可能な箇所であれば問題ない。
【0113】
図16に示すように、給電子が複数のメインローラを周回するワイヤの複数箇所(2か所)に配置されており、複数のワーク送り部が複数のメインローラを周回するワイヤの走行距離を均等配分する箇所にそれぞれ配置されている。
104a及び104b、さらに3a及び3bは4本のメインローラを周回するワイヤに全て面している。
4本のメインローラを周回するワイヤに対しては、2つの給電子の中の1つの給電子と、2つのワーク送り部の中の1つとが交互に配置されている。
【0114】
この2つの給電子の中の1つの給電子と、この1つのワーク送り部とが周回するワイヤと面する位置をワイヤが走行する最短距離(511L1〜511L4)が、交互に入れ替わるように配置されている104a及び104b、さらに3a及び3bにおいてぼぼ等しくなるように配置されている。
【0115】
2か所のワーク送り部が4本のメインローラを周回するワイヤの走行距離(1周の総距離)を略均等配分(2分の1)する位置にそれぞれ配置されていることが望ましい。
【0116】
つまり、
図16に示すように、給電子が複数のメインローラを周回するワイヤの複数箇所に配置されている場合には、複数のワーク送り部が複数のメインローラを周回するワイヤの走行距離を均等配分する箇所にそれぞれ配置されていることで、複数(4本)のメインローラを周回するワイヤ1周分の走行距離をワーク送り部の数で割れば、ワーク送り部間のワイヤのインピーダンス成分を均等配分することができ、このようにワーク送り部間の均等配分した方がワーク送り部間のワイヤのインピーダンス成分を管理しやすくなるという効果がある。
【0117】
さらに、
図16には周回するワイヤ1周分でワーク送り部を2か所に配置した例を記載したが、周回するワイヤ1周分でワーク送り部を仮に3か所以上に配置した場合であっても、複数(4本)のメインローラを周回するワイヤ1周分の走行距離をワーク送り部の数で割って、ワーク送り部間の均等配分した方がワーク送り部間のワイヤのインピーダンス成分を管理しやすくなるという効果は同じである。
2つの給電子が4本のメインローラを周回するワイヤの走行距離(1周の総距離)を略均等配分(2分の1)する位置にそれぞれ配置されている。
2つの給電子が2か所のワーク送り部の間にそれぞれ配置されている。
【0118】
さらに2個のワーク送り部に対しては、2個のワーク送り部の個数と同数である2つの給電子が4本のメインローラを周回するワイヤ1本に面している。このように複数のワーク送り部があっても、給電子の数を最少にすることができる。
【0119】
よって、もし仮に4個のワーク送り部があり、4本のワークを同時に加工する場合には、4個のワーク送り部の個数と同数である4つの給電子を4本のメインローラを周回するワイヤ1本に面して配置すればよい。
図17及び
図18を説明する。
【0120】
図17のVmn501は加工電源部であり、複数のワーク(105aと105b)の両方と通電されているので、複数のワーク(105aと105b)の両方に共通である1つの加工電圧を一括供給することができる。
【0121】
図17のRmn505はVmn501のマイナス極から複数の給電子(104aと104b)までの電気配線の抵抗値であり、この間の電気配線の中には過剰な加工電流が流れてしまうことを制限するための抵抗体(内部抵抗)を設けないことで、この間の電気配線の抵抗値を0.1Ω以下(ほぼ電気配線による抵抗)にしている。
【0122】
図17のRmn520はVmn501のプラス極から複数のワーク(105aと105b)までの電気配線の抵抗値であり、この間の電気配線の中には過剰な加工電流が流れてしまうことを制限するための抵抗体(内部抵抗)を設けないことで、この間の電気配線の抵抗値を0.1Ω以下(ほぼ電気配線による抵抗)にしている。
【0123】
このようにRmn505及びRmn520の抵抗値をいずれも0.1Ω以下にしている理由は、ワイヤのインピーダンス成分(抵抗値)の方を、Rmn505及びRmn520よりも支配的にする(十分大きくする)ことで、電源装置の電気回路で加工電流の合計値を制限するのではなく、実際の放電した数のワイヤのインピーダンス成分(合成抵抗)に応じて、この電気配線に流れる加工電流の合計値を制御するためである。一括給電方式の場合には、加工電圧1つが複数本のワイヤ対して給電する並列回路方式であるので、実際の放電した数のワイヤのインピーダンス成分(合成抵抗)は放電した数が多くなるにともなって小さく(合成抵抗/放電する本数)なり、加工電流の合計値は増える。逆に、実際の放電した数のワイヤのインピーダンス成分(合成抵抗)は放電した数が少なくなるにともなって大きく(合成抵抗/放電する本数)なり、加工電流の合計値は減る。このようにワイヤのインピーダンス成分(抵抗値)の方を、Rmn505及びRmn520よりも支配的にする(十分大きくする)ことで加工電流の合計値の制御を、ワイヤのインピーダンス成分(抵抗値)で制御することができる。
図17は、
図13の配置を変更し、メインローラ(4本)を巻回するワイヤで2つのワークを同時にスライス加工する場合の配置を示した図である。
メインローラ4本の構成となっている。給電子104a、104bをワーク105a、105bから等しい距離の左右に配置している。
【0124】
図17に示すように、給電子が複数のメインローラを周回するワイヤの対向する2つのワイヤ面に配置されており、さらにワイヤが複数のメインローラを並設して周回している中で、給電子が配置された数(2か所)とワーク送り部の数(2か所)とが同数である。
【0125】
さらに、複数(2か所)の給電子中の1つと、複数(2か所)のワーク送り部中の1つとが、ワイヤが複数のメインローラを並設して周回している中でそれぞれ交互に入れかわっれ配置されている。このように配置すれば、1つの給電子に対してそれぞれが逆方向に流れる2つの向き放電加工電流を有効活用できるだけではなく、さらに1箇所のワークに対してそれぞれが逆方向に流れる2つの向き放電加工電流さらに均等にすることができ、ワークの極間長での加工精度が向上する。
図18を説明する。
【0126】
図18は、
図16に示した放電加工の場合の、2か所の異なるワークの各放電部分(極間)から給電子までのワイヤ長を1本のワイヤを仮想的に引き延ばした状態で便宜的に説明した図である。
また、メインローラ4本の構成である場合、この給電子104a、104bはそれぞれのワークからの上下の距離も等しくなるように配置してある。
・給電子104aからワーク105aの中心までワイヤが走行する距離(511L1)
・給電子104bからワーク105aの中心までワイヤが走行する距離(511L2)
・給電子104aからワーク105bの中心までワイヤが走行する距離(511L3)
・給電子104bからワーク105bの中心までワイヤが走行する距離(511L4)
とすると、
【0127】
おおよそ511L1=511L2=511L3=511L4となる位置に合わせて給電子104a、給電子104b、ワーク105a、ワーク105bを、メインローラ(4本)を巻回するワイヤのそれぞれ均等間隔に交互に配置されることでそれぞれのワイヤ長Lが等しくなり、各ワイヤ長によるインピーダンス成分を等しくそろえることができる。
従って、
・給電子104aからワーク105aの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1a)
・給電子104bからワーク105aの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1b)
・給電子104aからワーク105bの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1c)
・給電子104bからワーク105bの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1d)
【0128】
も、おおよそRw1a=Rw1b=Rw1c=Rw1dであり、ワイヤの長さで決まる抵抗値(インピーダンス)により、加工電流値の上限が制限されるため、同じ加工電流値を流すことができる。
よって、ワーク105aとワーク105bにはそれぞれ同じ加工電流値が流れる。
【0129】
給電子104aと給電子104bに対して上半周(ワーク105b側)と、給電子104aと給電子104bに対して下半周(ワーク105a側)が並列接続された形となる。
【0130】
また、
図18に示すようにそれぞれが独立しており、ワーク105aの放電点W1とワーク105bの放電点W1で起きる放電電流は、最も近い給電子の方向に流れるので、ワーク105aの放電点W1とワーク105bの放電点W1で起きる放電電流がそれぞれ互いに干渉することはなく、さらに電気配線513には内部抵抗がなく電源装置から給電子までの配線の抵抗値Rmnが、給電子から放電部Wまでの最短の走行距離によるワイヤの抵抗値Rwnよりも小さいので、ワイヤの長さによる抵抗値(5llL)により加工電流の上限値が決定する。よって
図14に示したように1つのワークを単独で加工した場合とほぼ同等の加工電流を得ることができ、
図16では2つのワークを同時に放電加工しても1つワークを単独で加工した場合と同じ加工レートとなり、加工能率の向上を図れる。
おおよそ511L1=511L2=511L3=511L4とした場合の各ワイヤの最少の長さを説明する。
【0131】
図7は
図16の放電回路の等価回路である。電源Vmn、トランジスタTr1、ワイヤの抵抗Rwn1、極間電圧(ワークとワイヤ間の放電電圧)Vgnとする。一括給電(群給電)では並列回路が構成されるのでRwn、Vgnとする。
放電電流Igは下記の式で求まる。
・Ign=(Vmn−Vgn)/Rwn1 (1)
【0132】
Rwn1とVgn、Vmnを決めればIg1は決まる。ここでRwn1を5Ωとし、Vgnは通常30V程度であるから、Ign1を2AとするとVmnは40Vとなる。
Vmnとしてはこの値が最小の必要値であり、これに適合する抵抗値は5Ωとなる。
【0133】
5Ωに相当するワイヤ長は一括給電で、Rwnはワイヤの抵抗であるから、ワイヤの長さとなりワイヤ材質を鉄 ワイヤ径を0.1mmとした場合、1mあたりの抵抗値は20Ω程度である。5Ωに相当するワイヤ長は、0.25mとなるが放電点へ左右から給電されるので、並列接続に相当するから片側で10Ωとなる。この長さは0.5mである。
おおよそ511L1=511L2=511L3=511L4とした場合の各ワイヤの長さは50cm以上にすればよい。
図19を説明する。
【0134】
1901は駆動機構であり、本発明の実施形態では、例えは給電子ユニット10b全体をワイヤ面に沿って水平にスライドさせることで、ワイヤ面に接触する給電子104bの給電位置を移動させる機構である。1901により給電子104bが領域C中のいずれかの位置に配置されている固定位置を自在に変更することができる。なお、固定位置の自在変更の機構はスライドには限定されるものではなく、自在に変更できるように予め定められた多数の固定位置の中から選ばれた任意の位置に給電子ユニット10bを、ユーザの手作業により再配置させてもよい。
【0135】
このように、給電子ユニット10b全体をワイヤ面に沿って水平にスライドさせることで、
図17に示したように、第1の箇所から第3の箇所までのワイヤ長(第1の距離)と第2の箇所から第3の箇所までのワイヤ長(第2の距離)とを合わせて自在に調整することができる。
【0136】
つまり、ワイヤ長(第1の距離)は第1の箇所から第3の箇所までのワイヤの長さによるインピーダンス成分Aであり、ワイヤ長(第2の距離)は第2の箇所から第3の箇所までのワイヤの長さによるインピーダンス成分Bであるので、1901は複数のワークにそれぞれ影響を及ぼすABの両インピーダンス成分を調整するための機構である。
【0137】
まずここで、
図16に示したように、放電加工するまえに予め測定されたワークの比抵抗値がほぼ同等(誤差1%未満)である2つのワークを複数箇所のワーク送り部(3aおよび3b)においてそれぞれ同時に放電加工(バッチ処理)する場合を想定した場合には、511L4(第1の距離)と511L2(第2の距離)とがほぼ等距離(誤差1%未満)になるように、駆動手段1901が給電子104bを固定配置させることで、加工幅、加工速度等において2つのワークの均一性が高い放電加工のバッチ処理を実現することができる。
【0138】
次にここで、
図19に示したように、放電加工するまえに予め測定されたワークの比抵抗値が異なる(誤差10%以上)である2つのワークを複数箇所のワーク送り部(3aおよび3b)においてそれぞれ同時に放電加工(バッチ処理)する場合を想定した場合には、511L4(第1の距離)と511L2(第2の距離)との比率または差分が、予め測定されたワークの比抵抗値の比率(1.2倍等)または差分(誤差10%等)に基づいて、ユーザが判断した最適な距離になるように駆動手段が給電子104bを固定配置させることで、加工幅、加工速度等において2つのワークの均一性が高い放電加工のバッチ処理を実現することができる。
【0139】
なお、予め測定されたワークの比抵抗値の比率(1.2倍等)または差分(誤差10%等)に基づいた最適な距離とは、ワークの比抵抗値の比率または差分との相関関係があればよく、511L4(第1の距離)と511L2(第2の距離)との比率または差分は、必ずしも予め測定されたワークの比抵抗値の比率または差分に連動した値でなくてもよい。
【0140】
また別の実施形態では、予め最適化された比抵抗差と配置位置との相関関係のデータテーブルを本発明のワイヤ放電加工装置が保持することで、ユーザが入力した予め測定されたワークの比抵抗値の比率または差分に従って、本発明のワイヤ放電加工装置が配置位置を自動制御で決定してもよい。
【0141】
さらに、
図19に示したように、予め測定された比抵抗値が高い方のワークに近い箇所に、駆動手段が給電子を移動させて、放電加工することで、ワークの比抵抗値の高いサンプルのワイヤの長さによるインピーダンス成分Aの方が、ワークの比抵抗値の低いサンプルのワイヤの長さによるインピーダンス成分Bよりも低くなるので、第1の距離を短くすることで低下させた分のインピーダンス成分がワークの比抵抗値の高いサンプルによる電圧降下分を補うことができるという効果が発揮され、放電加工するまえに予め測定されたワークの比抵抗値が異なる2つのワークを複数箇所のワーク送り部(3aおよび3b)においてそれぞれ同時に放電加工(バッチ処理)する場合でも、加工幅、加工速度等において、2つのワークの均一性が高い放電加工のバッチ処理を実現することができる。
【0142】
さらに、
図16に示したように、同じ製造ロットで製造された2つのSiCインゴットのように、ワークの素材または立体形状による比抵抗値が見かけ上同等であっても、放電加工するまえに予め測定された比抵抗値が異なった比抵抗値が計測された場合には、
図19に示したように、第1の距離と第2の距離との比率または差分が、予め測定された比抵抗値の比率または差分に基づいた距離になるように、駆動手段1901が給電子104bを移動させて、放電加工してもよい。
図20を説明する。
【0143】
図20の状態Aは、駆動手段1901が給電子ユニットを上側(または右側)にスライドさせて、給電子104bを配置させた状態を示したものである。尚この場合は第1の距離<第2の距離となる。
【0144】
図20の状態Bは、駆動手段1901が給電子ユニットを中央(または第1の距離と第2の距離が均等距離)にスライドさせて、給電子104bを配置させた状態を示したものである。
【0145】
図20の状態Cは、駆動手段1901が給電子ユニットを下側(または左側)にスライドさせて、給電子104bを配置させた状態を示したものである。尚この場合は第1の距離>第2の距離となる。
図21を説明する。
図21は、
図19に示した放電加工の場合の斜視図である。
【0146】
メインローラ4本の構成となっている。給電子104a、104bをワーク105c(円柱状のインゴット)、105a(角状のインゴット)から異なる距離の左右に配置している。
【0147】
図21のVmn501は加工電源部であり、複数のワーク(105aと105c)の両方と通電されているので、複数のワーク(105aと105c)の両方に共通である1つの加工電圧を一括供給することができる。
【0148】
図21のRmn505はVmn501のマイナス極から複数の給電子(104aと104b)までの電気配線の抵抗値であり、この間の電気配線の中には過剰な加工電流が流れてしまうことを制限するための抵抗体(内部抵抗)を設けないことで、この間の電気配線の抵抗値を0.1Ω以下(ほぼ電気配線による抵抗)にしている。
【0149】
図21のRmn520はVmn501のプラス極から複数のワーク(105aと105c)までの電気配線の抵抗値であり、この間の電気配線の中には過剰な加工電流が流れてしまうことを制限するための抵抗体(内部抵抗)を設けないことで、この間の電気配線の抵抗値を0.1Ω以下(ほぼ電気配線による抵抗)にしている。
図22を説明する。
【0150】
図22は、
図19に示した放電加工の場合の、2か所の異なるワークの各放電部分(極間)から給電子までのワイヤ長を1本のワイヤを仮想的に引き延ばした状態で便宜的に説明した図である。
また、メインローラ4本の構成である場合、この給電子104a、104bはそれぞれのワークからの上下の距離が異なるように配置してある。
・給電子104aからワーク105aの中心までワイヤが走行する距離(2011L1)
・給電子104bからワーク105aの中心までワイヤが走行する距離(2011L2)
・給電子104aからワーク105cの中心までワイヤが走行する距離(2011L3)
・給電子104bからワーク105cの中心までワイヤが走行する距離(2011L4)
とすると、
【0151】
おおよそ2011L1=2011L2、2011L3=2011L4となる位置に合わせて給電子104a、給電子104b、ワーク105a、ワーク105bを、メインローラ(4本)を巻回するワイヤのそれぞれ交互に配置されることで、
【0152】
2011L1と2011L2ではそれぞれのワイヤ長Lが等しくなり、各ワイヤ長によるインピーダンス成分を等しくそろえることができる。さらに2011L3と2011L4でもそれぞれのワイヤ長Lが等しくなり、各ワイヤ長によるインピーダンス成分を等しくそろえることができる。
従って、
・給電子104aからワーク105aの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1a)
・給電子104bからワーク105aの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1b)
・給電子104aからワーク105cの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1c)
・給電子104bからワーク105cの中心まで加工電流が流れるワイヤの抵抗値(Rw1d)
【0153】
も、おおよそRw1a=Rw1b、Rw1c=Rw1dであり、ワイヤの長さで決まる抵抗値(インピーダンス)により、加工電流値の上限が制限されるため、ワークの両側においては均等な加工電流値を流すことができ、加工精度が向上する。
図23を説明する。
【0154】
図23は、サンプルが小さく、例えば極間長(ワイヤによりワークの加工面に放電する最大の長さ)が3cmのワークを放電加工する場合を示した図である。
図16に示した例ではワークが6インチのインゴットである場合は極間長は15.6cmである。この場合極間長は比較的長いので、極間長を均等に加工するためには、
図16に示すように給電子を左右に配置させた方がよい。しかし
図23に示すように極間長が短い場合には、極間長の中での放電の発生個所のバラつきも小さくなるので、
図23に示すように給電子を左右のいずれか1箇所に配置させても極間長を均等に加工することができる。
【0155】
この時に給電子を左右のいずれか1箇所に配置させても良い条件として、極間長が第1の距離(511L4)の10%以下であれば、給電子を左右のいずれか1箇所に配置させても良い。
【0156】
例えば、極間長が3cmで第1の距離(511L4)が50cmである場合には、給電子を左右のいずれか1箇所に配置させても、加工精度への影響が小さいということである。
【0157】
例えば、極間長が15.6cmで第1の距離(511L4)が50cmである場合には、給電子を左右の両側の2箇所に配置させた方が、加工精度が良いということである。
図24を説明する。
【0158】
図24は、
図23の配置をさらに変形させた図であり、同じ比抵抗のワークを同時にバッチ処理する場合には、第1の距離と第2の距離とが等しければ、
図23のように第1の箇所と第2の箇所においてはワイヤが並設して走行する方向は反対であっても何ら問題はなく、
図24のようにワイヤが並設して走行する方向は同じ方向であっても何ら問題はない。
図25を説明する。
図25を説明する。
ワイヤ放電加工装置が内蔵する制御コンピュータ1000のハードウエア構成図を示す図である。
【0159】
図25において、1001はMPU(CPU)で、システムバス1004に接続される各デバイスやコントローラを統括的に制御する。また、ROM1002あるいは外部メモリ1011には、CPU1001の制御プログラムであるBIOS(Basic Input / Output System)やオペレーティングシステムプログラム(以下、OS)や、各サーバ或いは各PCの実行する機能を実現するために必要な後述する各種プログラム等が記憶されている。
【0160】
1003はRAMで、CPU201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。CPU201は、処理の実行に際して必要なプログラム等をROM1002あるいは外部メモリ1011からRAM1003にロードして、該ロードしたプログラムを実行することで各種動作を実現するものである。
【0161】
1005は入力コントローラで、キーボード(KB)1009や不図示のマウス等のポインティングデバイス等からの入力を制御する。2506はビデオコントローラで、表示部1010への表示を制御する。なお、表示部1010はCRTだけでなく、液晶ディスプレイ等の他の表示器であってもよい。これらは必要に応じて管理者が使用するものである。また表示部は指やペン等にてユーザが表示画面内の対象位置を指定するタッチパネル機能を含むものであってもよい。
【0162】
1007はメモリコントローラで、ブートプログラム,各種のアプリケーション,フォントデータ,ユーザファイル,編集ファイル,各種データ等を記憶するハードディスク(HD)や、フレキシブルディスク(FD)、或いはPCMCIAカードスロットにアダプタを介して接続されるコンパクトフラッシュ(登録商標)メモリ等の外部メモリ1011へのアクセスを制御する。
【0163】
1008は通信I/Fコントローラで、ネットワーク(通信貝回線)を介して外部装置と接続・通信するものであり、ネットワークでの通信制御処理を実行する。例えば、TCP/IPを用いた通信等が可能である。
なお、CPU201は、例えばRAM1003内の表示情報用領域へアウトラインフ
ている。また、CPU201は、CRT上の不図示のマウスカーソル等でのユーザ指示を可能とする。
【0164】
本発明を実現するための後述する各種プログラムは、外部メモリ1011に記録されており、必要に応じてRAM1003にロードされることによりCPU1001によって実行されるものである。さらに、上記プログラムの実行時に用いられるデータファイル及びデータテーブル等も、外部メモリ1011または記憶部に格納されている。
【0165】
また、本発明におけるプログラムは、フローチャートの処理を制御コンピュータ1000が実行可能なプログラムであり、本発明の記憶媒体はフローチャートの処理方法を実行可能なプログラムとして記憶している。
(本発明の他の実施形態)
【0166】
以上のように、前述した実施形態の機能を実現するプログラムを記録した記録媒体を、ワイヤ放電加工装置に供給し、そのシステムあるいは装置内のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に格納されたプログラムを読出し実行することによっても、本発明の目的が達成されることは言うまでもない。
【0167】
この場合、記録媒体から読み出されたプログラム自体が本発明の新規な機能を実現することになり、そのプログラムを記憶した記録媒体は本発明を構成することになる。
【0168】
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク,ハードディスク,光ディスク,光磁気ディスク,CD−ROM,CD−R,DVD−ROM,磁気テープ,不揮発性のメモリカード,ROM,EEPROM,シリコンディスク等を用
いることができる。
【0169】
また、読み出したプログラムを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0170】
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0171】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても、1つの機器からなる装置に適用してもよい。また、本発明は、システムあるいは装置にプログラムを供給することによって達成される場合にも適応できることは言うまでもない。この場合、本発明を達成するためのプログラムを格納した記録媒体を該システムあるいは装置に読み出すことによって、そのシステムあるいは装置が、本発明の効果を享受することが可能となる。
【0172】
さらに、本発明を達成するためのプログラムをネットワーク上のサーバ,データベース等から通信プログラムによりダウンロードして読み出すことによって、そのシステムあるいは装置が、本発明の効果を享受することが可能となる。
なお、上述した各実施形態およびその変形例を組み合わせた構成も全て本発明に含まれるものである。