【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
<<白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響>>
1.白麹菌抽出物の調製例
以下の手順i)〜x)に従い、白麹菌抽出物を調製した。
i)ポリデキストロース培地にて、白麹菌(Aspergillus Kawachii,NITE Biological Resoucce Center 製)を2日間液体培養する。
ii)菌体を回収するため、回収物から培地を除去し、その後、菌体を純水で2〜3回洗浄する。
iii)菌体をオートクレーブにより滅菌処理を行い、その後、凍結乾燥し、乾燥菌体を得る。
iv)スクリューキャップ付き試験管に、乾燥菌体0.6gを入れる。
v)上記試験管に、クロロホルムとメタノールの混合溶媒(体積比1:1)8.0mLを加える
vi)上記試験管の内容物に対して、5分間の超音波処理を行う。
vii)上記試験管の内容物に対して、振盪しながら42℃で30分間加熱処理を行う。
viii)上記試験管に、クロロホルム10.0mLとの蒸留水4.5mLとを加えて混合し、上記試験管の内容物に対して、2000rpmで5分間遠心分離処理を行う。
ix)下層(有機層)を回収し、濃縮乾固し、白麹菌抽出物を得る。
【0037】
2.角化細胞における皮膚バリア機能関連遺伝子への影響
2−1.試験方法
以下の手順i)〜vi)に従い、遺伝子発現量を測定した。
i)Normal Human Epidermal Keratinocytes,adult pooled(継代数P4)(以下、角化細胞と称する)(Promo Cell製)をKeratinocyte Basal Medium 2 Kit(以下、KBMと略す)(Promo Cell製)で培養する。
ii)75cm
2フラスコ中で培養された角化細胞をトリプシン処理により浮遊させ、これを、5×10
4cells/wellとなるように、24ウェルプレートに播種した。
iii)24ウェルプレートに播種された角化細胞を、37℃の5%CO
2インキュベーター内で24時間前培養する。
iv)前培養後、培地を除去し、所定濃度(10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL)に調整された白麹菌抽出物を含有するKBM培地500μLを24ウェルプレート中の角化細胞に添加し、37℃の5%CO
2インキュベーター内で48時間培養する。また、比較のため、白麹菌抽出物を含有しないKBM培地500μLを用い、同様の条件で培養する(コントロール)。
v)培養後、培養上清を除去し、RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を用いて、角化細胞からRNAを回収し、次いで、QuantiTect Reverse Transcription kit(QIAGEN社製)を用いて、回収したRNAからcDNAを合成する。
vi)得られたcDNAを用いて、各遺伝子のmRNA発現量を測定する。なお、内部標準として、GAPDHのmRNA発現量も測定する。
【0038】
2−2.結果
結果を表1に示す。表1は、角化細胞における遺伝子CLDN1、OCLN、TGM1、IVL、SPTLC2、UGCG及びABCA12の相対的発現量を示す。なお、表中の値は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)の遺伝子の発現量を1としたときの相対的発現量である。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から分かるように、白麹菌抽出物を含む培地を用いた場合の遺伝子CLDN1、OCLN、TGM1、IVL、SPTLC2、UGCG及びABCA12の相対的発現量は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)に比べて、増加している。
【0041】
2−3.考察
表皮角化細胞への白麹菌抽出物の添加により、タイトジャンクションタンパク遺伝子であるCLDN1及びOCLN、角層形成に関連する遺伝子IVL及びTGM1、セラミド産生に関連する遺伝子SPTLC2及びUGCG、並びにセラミド輸送に関連する遺伝子ABCA12の有意な発現増加が認められた。これらの発現増加が認められた遺伝子は、表皮細胞の分化と共に発現が上昇し、皮膚バリア機能において重要な遺伝子であるため、白麹菌抽出物による皮膚バリア機能の改善作用が期待される。
【0042】
3.ヒト3次元培養皮膚モデルにおける皮膚バリア機能関連遺伝子への影響
3−1.試験方法
ヒト3次元培養皮膚モデルLabCyte EPIMODEL12(6日培養品)(J−TEC製)を、アッセイ培地(J−TEC製)中、37℃の5%CO
2インキュベーター内で24時間前培養した。各ウェルより培地を除去した後、所定濃度(100μg/mL、500μg/mL)に調整された白麹菌抽出物を含有するアッセイ培地を1ml培養カップの外側に添加し、CO
2インキュベーター内で7日間培養した。被験物質含有培地を一日おきに交換した。
7日間培養の後、皮膚モデルをPBSで3回洗浄し、RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を用いて、皮膚モデルからRNAを回収し、次いで、QuantiTect Reverse Transcription kit(QIAGEN社製)を用いて、回収したRNAからcDNAを合成した。得られたcDNAを用いて、各遺伝子のmRNA発現量を測定した。なお、内部標準として、GAPDHのmRNA発現量も測定した。
【0043】
3−2.結果
結果を表2に示す。表2は、ヒト3次元培養皮膚モデルにおける遺伝子SPTLC2、GBA、CLDN1、OCLN、TGM1、IVL、ABCA12及びUGCGの相対的発現量を示す。なお、表中の値は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)の遺伝子の発現量を1としたときの相対的発現量である。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から分かるように、白麹菌抽出物を含む培地を用いた場合の遺伝子SPTLC2、UGCG及びGBAの相対的発現量は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)に比べて、増加している。
【0046】
<<白麹菌抽出物がセラミド産生に及ぼす影響>>
1.白麹菌抽出物の調製例
上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「1.白麹菌抽出物の調製例」に従って、白麹菌抽出物を調製した。
【0047】
2.角化細胞におけるセラミド産生への影響
2−1.細胞からの脂質の抽出
以下の手順i)〜v)に従い、脂質サンプルの調製を行った。
i)上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「2−1.試験方法」の手順i)〜iv)に従い、角化細胞の培養を行う。
ii)Phosphate Buffered Saline(以下PBSと略す)で3倍希釈したトリプシン500μLを添加し、細胞を浮遊させた。
iii)3ウェル分(N=3)の細胞浮遊液を1本の5mlチューブに回収し、2000rpmで3分間遠心分離を行う。
iv)上清を除去後、PBS 1mL/wellで2回洗浄する。
v)Brigh−Dyer法に従って脂質の抽出を行う。
・まず、回収した細胞にPBS 500μlを添加し、超音波処理を行う。
・次いで、メタノール1250μL、クロロホルム625μLを加え、42℃、125rpmにて20分間振とうする。
・振とう後、3000rpmで5分間遠心分離を行う。
・上清を回収し、回収した上清にクロロホルム625μLを加え攪拌する。
・攪拌後、PBS 625μLを加えよく攪拌する。
・上層中の白い沈殿物が中間層に沈むまで3000rpmで15分間遠心分離を行う。
・下層を回収し、窒素ガスを吹きつけ乾固した後、得られた固形物をクロロホルム:メタノール(体積比2:1)溶液100μLに溶解し、これを脂質サンプルとする。
【0048】
2−2.セラミドの展開及び定量
i)TLC展開槽の壁面にろ紙を張り、HPTLCプレートのスポット位置に触れない程度の展開液(クロロホルム:メタノール:酢酸(体積比190:9:1)溶液)を加えた。
ii)HPTLCプレートのガラス下から1.5cm部分にマイクロシリンジを用いて各脂質サンプルを10μLずつスポットした。また、標準品としてCeramides non−hydroxy fatty acid(以下、Ceramide IIと表記)(Avanti Polar Lipids製)、Ceramide III(製造元:EVONIK INDUSTRIES)、Ceramide VI(製造元:EVONIK INDUSTRIES)を0.8、4、20、100、500μg/mLの濃度となるようにクロロホルム:メタノール(体積比2:1)溶液に溶解し、これらを5μLずつスポットした。
iii)HPTLCプレートを静かに展開槽に入れ、上端まで(スポットから8.5cm)展開した。展開後、HPTLCプレートを乾燥させた。乾燥後、再び展開層に入れ、もう一度展開を行った。
iv)展開溶媒を乾燥後、10質量%CuSO
4−8体積%H
3PO
4溶液をHPTLCプレートに満遍なく噴霧し、180℃で10分間加熱した。
v)HPTLCプレートを常温まで冷却した後、Chemi Doc XRS
+ with Image Lab Software(BIO RAD製)を用いてHPTLCプレートをスキャンした。
vi)得られた画像データからImage Lab Softwareを用いて、各バンドのシグナル強度を算出した。標準品のシグナル強度を元に、セラミド量とシグナル強度に関する検量線を作成し、各バンドにおけるセラミド量を算出した。サンプルの定量値は、3ウェル分(n=3)から調製されたサンプル10μLであるため、脂質サンプルの全量100μL分のセラミド量を求め、更に1ウェル当りのセラミド量に換算した。
【0049】
2−3.結果及び考察
TLC展開図について説明する。標準品(Standard)のTLC展開図、並びにコントロール(Control)及び白麹菌抽出物(濃度10、20、50μg/ml)を用いて得られた脂質サンプルのTLC展開図を
図1に示す。
図1から分かるように、疎水性側に位置するCeramide IIと親水性側に位置するCeramide VIの間(傍線範囲内)に3つのバンド(1〜3)が存在し、これらをサンプル中のceramideとして定量した。また、バンド1とバンド3は標準品と同位置にあることからCeramide IIとCeramideVであると推測される。また、他文献よりバンド1の上部に位置する濃いバンドはコレステロールであり、バンド3の下部に位置するバンドはグルコシルセラミドであると推測される。
Image Labによってバンド1〜3を定量し、1ウェル当りのセラミド量に換算した(表3)。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示されるように、バンド1〜3の総セラミド量を比較すると、いずれの濃度においても、1割程度のセラミド量の増加が認められた。
【0052】
3.ヒト3次元培養皮膚モデルにおけるセラミド産生への影響
3−1.細胞からの脂質の抽出
i)上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「3−1.試験方法」に従い、ヒト3次元培養皮膚モデルの培養を行った。
ii)ヒト3次元培養皮膚モデルをPBS中に懸濁させた。
iii)上述した「2.角化細胞におけるセラミド産生への影響」における「2−1.細胞からの脂質の抽出」の手順v)に従い、Brigh−Dyer法による脂質の抽出を行った。なお、得られる固形物は、クロロホルム:メタノール(体積比2:1)溶液200μLに溶解した。
【0053】
3−2.セラミドの展開及び定量
上述した「2.角化細胞におけるセラミド産生への影響」における「2−2.セラミドの展開及び定量」の手順i)〜vi)に従い、各バンドのシグナル強度を算出した。次いで、標準品のシグナル強度を元に、セラミド量とシグナル強度に関する検量線を作成し、各バンドにおけるセラミド量を算出した。サンプルの定量値は、スポットしたサンプルは10μlであるため、全量200μl分のセラミド量を求め、tissue当りのセラミド量として解析した。
【0054】
3−3.結果及び考察
標準品(Standard)のTLC展開図、並びにコントロール(Control)及び白麹菌抽出物(濃度100、200、500μg/ml)を用いて得られた脂質サンプルのTLC展開図を
図2に示す。文献より、点線枠内に位置するバンドがセラミドであることが知られている(
図2)。
なお、Image Labによって、点線枠内に位置するバンドを定量し、総セラミド量を算出した(表4及び
図3)。その結果、白麹菌抽出物の用量に依存して、セラミド量の増加傾向が認められ、特に、白麹菌抽出物の濃度が500μg/mLである場合に有意な産生増加が認められた。これらの結果から、白麹菌抽出物の添加により、細胞内の脂質産生が亢進しているのではないかと考えられる。
【0055】
【表4】
【0056】
<<白麹菌抽出物の臨床での有効性確認試験>>
1.試験方法
20〜30代の健常成人女性を被験者として、試験品を皮膚に適用した前後の角層水分量の比較を行った。
被験者に腕を洗浄させ、測定室にて15分間馴化させた後、腕の角層水分量の測定を行った。測定後、以下に記載する試験品20μlを腕に塗布し、塗布後5、10、15、20、25、30、45、60分経過時点の角層水分量の測定を行った。角層水分量の測定には、SKICON−200EX((株)ヤヨイ)を用いた。
試験は、単盲検クロスオーバーにて実施した。
【0057】
2.試験品の調製例
2−1.白麹菌抽出物の調製例
上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「1.白麹菌抽出物の調製例」に従って、白麹菌抽出物を調製した。
2−2.化粧水の調製例
表5に従う配合処方に従い、化粧水を調製した。
【0058】
【表5】
【0059】
2−3.試験品の調製
・化粧品のみを試験品(コントロール群)として用いた。
・試験品中の白麹菌抽出物の濃度が0.1質量%となるように白麹菌抽出物を化粧品と混合し、試験品(0.1%群)を調製した。
・試験品中の白麹菌抽出物の濃度が1質量%となるように白麹菌抽出物を化粧品と混合し、試験品(1%群)を調製した。
【0060】
3.結果
角層水分量の測定結果を
図4に示す。0.1%群及び1%群は、コントロール群と比較して、高い値を示した。
【0061】
4.考察
本試験では、白麹菌抽出物が優れた保湿効果を有することを検証するため、白麹菌抽出物の塗布前後で角層水分量を比較した。その結果、白麹菌抽出物を塗布した群は、コントロール群と比較して、高い値を示した。よって、白麹菌抽出物は保湿作用を有することが示された。