特開2015-27985(P2015-27985A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-27985(P2015-27985A)
(43)【公開日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】美容組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/99 20060101AFI20150116BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20150116BHJP
【FI】
   A61K8/99
   A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-61714(P2014-61714)
(22)【出願日】2014年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-132715(P2013-132715)
(32)【優先日】2013年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本薬学会第134年会組織委員会、「日本薬学会第134年会要旨集2」、平成26年3月5日発行、第144頁
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】100130029
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道雄
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】尾上 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】鍔田 仁人
(72)【発明者】
【氏名】田中 夏子
(72)【発明者】
【氏名】神谷 智康
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼垣 欣也
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC482
4C083AD042
4C083AD492
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】美容的効果を奏する組成物、より具体的には、皮膚バリア機能を改善することができる美容組成物を提供する。
【解決手段】麹菌又は麹菌抽出物を含有する美容組成物。該麹菌は、白麹菌であり、該麹菌抽出物は、白麹菌から得られたものであることが好ましい。該美容組成物は、タイトジャンクション形成の促進に関連する遺伝子CLDN1及びOCLN、表皮角化の促進に関連する遺伝子TGM1及びIVL、並びにセラミド産生の促進に関連する遺伝子SPTLC2、UGCG及びGBAの発現を促進し、セラミド産生を促進し、皮膚バリア機能を改善する保湿剤として有用である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
麹菌又は麹菌抽出物を含有することを特徴とする美容組成物。
【請求項2】
麹菌が白麹菌であり、麹菌抽出物が白麹菌から得られたことを特徴とする請求項1に記載の美容組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の美容組成物からなる保湿剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麹菌又は麹菌抽出物を含有する美容組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚のバリア機能とは、肌の水分を保持したり、外部から生体内への異物の侵入を防いだりする機能であり、この皮膚バリア機能が十分に発揮されないと、乾燥肌、敏感肌、肌荒れ、皮膚炎等の問題が発生する恐れがある。よって、皮膚バリア機能を改善することは、美容的観点から見て、重要な課題の一つとなっている。
【0003】
皮膚バリア機能を改善するためには、タイトジャンクション形成、表面角化、セラミド産生等の作用の促進が重要であると知られている。ここで、タイトジャンクションとは、上皮細胞において見られる細胞間結合の一つであり、この形成により、肌にある水分の蒸発や皮膚への異物の侵入を防ぐことができる。表面角化とは、皮膚の表面に位置する表皮の最外層にある角層を形成することであり、それにより、肌にある水分の蒸散や外界からのアレルゲン等の異物の進入を防ぐことができる。また、角層のバリア機能の障害により、様々な皮膚疾患が生じることも知られている。セラミドは、角質細胞間を埋める細胞間脂質の主成分であり、皮膚バリア機能に重要な役割を果たしていることが知られている。
【0004】
例えば、特開2012−201665号公報においては、生体内における硫酸化反応の硫酸基供与体として知られている3’−ホスホアデノシン5’−ホスホ硫酸(PAPS)が、タイトジャンクション形成及びセラミド産生を促進することを見出し、これを皮膚バリア機能改善剤に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−201665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下、本発明の目的は、美容的効果を奏する新規の組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、麹菌抽出物が、タイトジャンクション形成の促進に関連する遺伝子CLDN1及びOCLN、表皮角化の促進に関連する遺伝子TGM1及びIVL、並びにセラミド産生の促進に関連する遺伝子SPTLC2、UGCG及びGBAの発現を促進できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
また、本発明者は、麹菌抽出物が、セラミド輸送に関連する遺伝子ABCA12の発現をも促進できることを見出した。更に、本発明者は、麹菌抽出物がセラミド産生を促進することも見出した。更に、本発明者は、麹菌抽出物が保湿作用を有することも見出した。
【0008】
なお、皮膚バリア機能関連遺伝子について以下に説明する。
・表皮タイトジャンクション関連遺伝子(CLDN1、OCLN)
タイトジャンクションは、角化細胞間を接着させる細胞間接着構造である。細胞と細胞をシールすることで物質の透過を制御し、皮膚のバリア機能の1つとして働く。CLDN1にコードされるクローディン1及びOCLNにコードされるオクルディンは、タイトジャンクションの構成タンパクである。
なお、CLDN1のアクセッションナンバーとして、NM_021101などが知られている。
また、OCLNのアクセッションナンバーとして、XM_001128133, NM_001205254, NM_001205255, NM_002538, XM_003118540, XM_003118541, XM_003118543, XM_003118544, XM_003118545, XM_003118546, XM_003118548, XM_003118549などが知られている。
・角化関連遺伝子(TGM1、IVL)
TGM1にコードされるトランスグルタミナーゼ1は、周辺帯前駆物質の重合を行う酵素である。TGM1の欠損により周辺帯が欠如し、皮膚バリア機能に障害をもたらす。IVLにコードされるインボルクリンは、周辺帯の主な構成要素であり、角化の際にトランスグルタミナーゼ等の酵素により架橋される。
なお、TGM1のアクセッションナンバーとして、NM_000359などが知られている。
また、IVLのアクセッションナンバーとして、NM_005547, XM_001130659などが知られている。
・セラミド合成関連遺伝子(SPTLC2、UGCG、GBA)
SPTLC2にコードされるセリンパルミトイルトランスフェラーゼ2は、セラミドのde novo合成経路で働き、パルミトイルCoAとL−セリンの縮合反応を触媒し、スフィンゴイド塩基を形成する。また、この反応はセラミド合成の律速反応である。UGCGにコードされるUDP-グルコースセラミドグルコシルトランスフェラーゼは、セラミドの前駆体となるグルコシルセラミドを合成する。層板顆粒内に貯蓄されたグルコシルセラミドは、GBAにコードされるβ-グルコセレブロシダーゼの作用により、セラミドへと分解され角層へと分泌される。
【化1】
なお、SPTLC2のアクセッションナンバーとして、NM_004863などが知られている。
また、UGCGのアクセッションナンバーとして、NM_003358などが知られている。
さらに、GBAのアクセッションナンバーとして、NM_000157, NM_001005741, NM_001005742, NM_001005749, NM_001005750, NM_001171811などが知られている。
・その他(ACBA12)
ABCA12にコードされるATP結合カセット輸送体12(ATP-binding cassette transporter 12)は、顆粒層の層板顆粒の表面に局在し、層板顆粒内への脂質の輸送に関与するトランスポーターであり、細胞間脂質の形成に寄与する。ABCA12の欠損により角層細胞間脂質の低形成及びバリア機能障害を来し、ABCA12は道化師様魚鱗癬の原因遺伝子とされている。
なお、ABCA12のアクセッションナンバーとして、NM_015657, NM_173076などが知られている。
上記アクセッションナンバーは、NCBI RefSeqに基づくものである。
【0009】
参考文献
Laura L. Mitic, Christina M. Van Itallie and James M. Anderson, Molecular Physiology and Pathophysiology of Tight Junctions I. Tight junction structure and function: lessons from mutant animals and proteins, 2000, Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 279, 250-254
【0010】
本発明の美容組成物は、麹菌又は麹菌抽出物を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の美容組成物の好適例においては、麹菌が白麹菌であり、麹菌抽出物が白麹菌から得られる。
【0012】
また、本発明の美容組成物は、保湿剤として好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、麹菌又は麹菌抽出物を含有させることによって、美容的効果を奏する新規の組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】標準品(Standard)のTLC展開図、並びにコントロール(Control)及び白麹菌抽出物(濃度10、20、50μg/ml)を用いて得られた脂質サンプルのTLC展開図を示す。
図2】標準品(Standard)のTLC展開図、並びにコントロール(Control)及び白麹菌抽出物(濃度100、200、500μg/ml)を用いて得られた脂質サンプルのTLC展開図を示す。
図3】白麹菌抽出物によるセラミド産生の評価を示す図である。
図4】角層水分量の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の美容組成物は、麹菌又は麹菌抽出物を含有することを特徴とし、美容的効果を奏することができ、より具体的には、皮膚バリア機能を改善することができる。
【0016】
本発明の美容組成物において、麹菌又は麹菌抽出物は、タイトジャンクション形成の促進に関連する遺伝子CLDN1及びOCLN、表皮角化の促進に関連する遺伝子TGM1及びIVL、セラミド産生の促進に関連する遺伝子SPTLC2、UGCG及びGBA、並びにセラミド輸送に関連する遺伝子ABCA12よりなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現を促進することができる。また、皮膚バリア機能の改善は、表皮タイトジャンクション形成、表皮角化、及びセラミド産生よりなる群から選択される少なくとも1つの作用を促進させることによって起こることが知られている。よって、上述した遺伝子のいずれかの発現を促進できれば、表皮タイトジャンクション形成、表皮角化、及びセラミド産生よりなる群から選択される少なくとも1つの作用の促進が起こり、皮膚バリア機能を改善することができる。
また、セラミド輸送に関連する遺伝子ABCA12も、皮膚バリア機能において重要な遺伝子であり、皮膚バリア機能の改善作用が期待できる。
更に、本発明の美容組成物に用いる麹菌又は麹菌抽出物は、保湿作用を有することが確認されており、本発明の美容組成物を保湿剤として使用できる。
【0017】
具体的には、遺伝子CLDN1及びOCLNの内の少なくとも一方の遺伝子の発現を促進することによって、表皮タイトジャンクション形成の促進が起こり、皮膚バリア機能を改善することができる。また、遺伝子TGM1及びIVLの内の少なくとも一方の遺伝子の発現を促進することによって、表皮角化の促進が起こり、皮膚バリア機能を改善することができる。更に、SPTLC2、UGCG及びGBAの内の少なくとも一つの遺伝子の発現を促進することによって、セラミド産生の促進が起こり、皮膚バリア機能を改善することができる。
【0018】
なお、麹菌又は麹菌抽出物を含有する組成物は、その作用から、表皮タイトジャンクション形成を促進するための組成物、表皮角化を促進するための組成物、セラミド産生を促進するための組成物、又は保湿のための組成物として使用することも可能である。
【0019】
本発明において、麹菌は、特に限定されるものではなく、白麹菌、黒麹菌、黄麹菌、紅麹菌等が挙げられるが、これらの中でも白麹菌が好ましい。なお、麹菌としては、市販品を好適に使用することができる。
【0020】
麹菌の具体例としては、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)(白麹菌)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)(黄麹菌)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)(黒麹菌)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)(黒麹菌)、アスペルギルス・ナカザワイ(Aspergillus nakazawai)(黒麹菌)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)(黒麹菌)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchensis)(黒麹菌)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)(黒麹菌)等のアスペルギルス属に属する微生物が挙げられるが、本発明において使用できる麹菌はこれに限定されず、例えば、Rhizopus属に属する微生物、Monuscus属に属する微生物、Penicillium属に属する微生物等の他の属に属する微生物も含まれる。
【0021】
リゾプス(Rhizopus)属に属する微生物としては、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)、リゾプス・オリゴスポラス(Rhizopus oligosporus)、リゾプス・ニヴェウス(Rhizopusniveus)、リゾプス・ミクロスポラス(Rhizopus microspores)、リゾプス・ストロニファー(Rhizopus stolonifer)等が挙げられる。
【0022】
モナスカス(Monuscus)属に属する微生物としては、モナスカス・アンカ(Monuscus anka)、モナスカス・パープレウス(Monuscus purpureus)、モナスカス・ルーバー(Monuscusruber)、モナスカス・ピロサス(Monuscus pilosus)、モナスカス・オーランチアクス(Monuscus aurantiacus)、モナスカス・カオリアン(Monuscus kaoliang)等が挙げられる。
【0023】
ペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物としては、ペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camemberti)、ペニシリウム・ロックフォルティ(Penicillium roqueforti)、ペニシリウム・グラウカム(Penicillium glaucum)、ペニシリウム・カゼイコラム(Penicillium caseicolum)等が挙げられる。
【0024】
本発明において、麹菌抽出物は、麹菌から得られる抽出物であり、上述した麹菌を1種単独で、又は複数種を組み合わせて使用することができるが、白麹菌(アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii))から得られた抽出物が好ましい。
【0025】
本発明の美容組成物に用いる麹菌抽出物の製造方法は、麹菌を溶媒で抽出して抽出液を得る工程を含む。抽出に用いる溶媒(抽出溶媒)としては、例えば、クロロホルム、メタノール、エタノール等が挙げられる。これら抽出溶媒は、単独で用いてもよいし、混合溶媒として用いてもよい。クロロホルムとメタノールの混合溶媒を用いる場合、クロロホルム(A)とメタノール(B)の体積比(A/B)は、1000/1〜1/10が好ましい。また、メタノール、エタノールを抽出溶媒として用いる場合には、水との混合溶媒とすることができる。水との混合溶媒を使用する場合には、水10質量部に対してメタノールまたはエタノールを1〜90質量部添加することが好ましい。
【0026】
上記抽出工程においては、麹菌として、市販品をそのまま使用することもできるが、麹菌をオートクレーブ等によって滅菌処理したもの(麹菌の滅菌処理物)を用いることが好ましい。なお、市販の麹菌や麹菌の滅菌処理物には、水等の液体が含まれている恐れがあるため、抽出工程の前に、これらを凍結乾燥等により乾燥させることが好ましい。
【0027】
また、麹菌は、抽出工程の前に、固体培養法、液体培養法等の公知の方法によって増殖させてもよい。固体培養の場合、例えば、培地として蒸米や蒸麦などを用いることができる。一方、液体培養の場合、例えば、培地としてmodified Czapek−Dox medium(3%soluble starch or glucose,0.1%NaNO,0.05%KCl,0.1%KHPO,0.05%MgSO/7HO,0.001%FeSO,pH6.0)やポリデキストロース培地などを用いることができる。固体培養、液体培養のいずれの場合でも、培養温度は20〜50℃が好ましく、25℃〜45℃がより好ましい。また、培養期間は、1〜20日が好ましい。
【0028】
また、上記抽出工程では、麹菌を抽出溶媒に浸漬させる手段等を利用することができるが、麹菌と抽出溶媒の混合物を超音波処理する手段や、麹菌と抽出溶媒の混合物を振盪しながら加熱処理する手段を利用することが好ましく、超音波処理及び振盪・加熱処理の両方の手段を利用することが更に好ましい。
【0029】
上記麹菌抽出物の製造方法においては、上記抽出工程により得られる抽出液に対して分離操作を行ってもよい。例えば、上記抽出液に水を加えて、遠心分離を行い、抽出溶媒に溶けない成分を除去する。
【0030】
上記麹菌抽出物の製造方法においては、凍結乾燥、減圧濃縮乾固等の乾燥処理によって、上記抽出液から溶媒を除去し、麹菌抽出物を得る工程を含む。
【0031】
本発明の美容組成物には、麹菌又は麹菌抽出物の他、食品、化粧品又は医薬品業界で通常使用される配合剤、例えば、賦形剤、防湿剤、防腐剤、強化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、甘味料、酸味料、調味料、着色料、香料、美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。本発明の美容組成物は、麹菌又は麹菌抽出物と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを混合することにより調製できる。
【0032】
本発明の美容組成物は、例えば、経口投与または摂取用の組成物や、皮膚外用組成物として使用することができる。本発明の美容組成物中の麹菌又は麹菌抽出物の配合量は、配合される製品の種類、投与または摂取の対象の年齢、性別、体重、状態、投与時間、剤形、投与または摂取の方法、時期などに応じて適宜設定され得る。本発明の美容組成物が経口投与または摂取用の組成物や皮膚外用組成物である場合、美容組成物中における麹菌又は麹菌抽出物の含有量は、麹菌又は麹菌抽出物の乾燥質量換算で好ましくは0.0001〜100質量%、より好ましくは0.001〜50質量%、更に好ましくは0.01〜20質量%、特に好ましくは0.1〜20質量%である。
【0033】
経口投与または摂取用の組成物は、需要者の嗜好に合わせて、ハードカプセル、ソフトカプセルのようなカプセル剤、錠剤、丸剤などの剤形、または粉末状、顆粒状、飴状などの形状に成形され得る。また、溶液、懸濁液、または乳液のような液状の剤形または形状にも調製され得る。経口投与または摂取用の組成物は、医薬品、医薬部外品、特定保健用食品、栄養補助食品、その他の飲食品などとして用いる、あるいはこれらに配合して用いることができる。経口投与または摂取用の組成物は、剤形もしくは形状または好みに応じて、そのまま食されても良いし、水、湯、牛乳、豆乳、茶、ジュースなどに溶かして飲んでも良い。
【0034】
皮膚外用組成物は、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤などの種々の形態に加工され得る。皮膚外用剤組成物は、化粧品、医薬品、医薬部外品などとして利用される。具体的には、本発明の美容組成物は、化粧水、化粧クリーム、乳液、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディシャンプー、洗顔剤、石鹸、ファンデーション、育毛剤、水性軟膏、スプレーに含有させて利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
<<白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響>>
1.白麹菌抽出物の調製例
以下の手順i)〜x)に従い、白麹菌抽出物を調製した。
i)ポリデキストロース培地にて、白麹菌(Aspergillus Kawachii,NITE Biological Resoucce Center 製)を2日間液体培養する。
ii)菌体を回収するため、回収物から培地を除去し、その後、菌体を純水で2〜3回洗浄する。
iii)菌体をオートクレーブにより滅菌処理を行い、その後、凍結乾燥し、乾燥菌体を得る。
iv)スクリューキャップ付き試験管に、乾燥菌体0.6gを入れる。
v)上記試験管に、クロロホルムとメタノールの混合溶媒(体積比1:1)8.0mLを加える
vi)上記試験管の内容物に対して、5分間の超音波処理を行う。
vii)上記試験管の内容物に対して、振盪しながら42℃で30分間加熱処理を行う。
viii)上記試験管に、クロロホルム10.0mLとの蒸留水4.5mLとを加えて混合し、上記試験管の内容物に対して、2000rpmで5分間遠心分離処理を行う。
ix)下層(有機層)を回収し、濃縮乾固し、白麹菌抽出物を得る。
【0037】
2.角化細胞における皮膚バリア機能関連遺伝子への影響
2−1.試験方法
以下の手順i)〜vi)に従い、遺伝子発現量を測定した。
i)Normal Human Epidermal Keratinocytes,adult pooled(継代数P4)(以下、角化細胞と称する)(Promo Cell製)をKeratinocyte Basal Medium 2 Kit(以下、KBMと略す)(Promo Cell製)で培養する。
ii)75cmフラスコ中で培養された角化細胞をトリプシン処理により浮遊させ、これを、5×10cells/wellとなるように、24ウェルプレートに播種した。
iii)24ウェルプレートに播種された角化細胞を、37℃の5%COインキュベーター内で24時間前培養する。
iv)前培養後、培地を除去し、所定濃度(10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL)に調整された白麹菌抽出物を含有するKBM培地500μLを24ウェルプレート中の角化細胞に添加し、37℃の5%COインキュベーター内で48時間培養する。また、比較のため、白麹菌抽出物を含有しないKBM培地500μLを用い、同様の条件で培養する(コントロール)。
v)培養後、培養上清を除去し、RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を用いて、角化細胞からRNAを回収し、次いで、QuantiTect Reverse Transcription kit(QIAGEN社製)を用いて、回収したRNAからcDNAを合成する。
vi)得られたcDNAを用いて、各遺伝子のmRNA発現量を測定する。なお、内部標準として、GAPDHのmRNA発現量も測定する。
【0038】
2−2.結果
結果を表1に示す。表1は、角化細胞における遺伝子CLDN1、OCLN、TGM1、IVL、SPTLC2、UGCG及びABCA12の相対的発現量を示す。なお、表中の値は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)の遺伝子の発現量を1としたときの相対的発現量である。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から分かるように、白麹菌抽出物を含む培地を用いた場合の遺伝子CLDN1、OCLN、TGM1、IVL、SPTLC2、UGCG及びABCA12の相対的発現量は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)に比べて、増加している。
【0041】
2−3.考察
表皮角化細胞への白麹菌抽出物の添加により、タイトジャンクションタンパク遺伝子であるCLDN1及びOCLN、角層形成に関連する遺伝子IVL及びTGM1、セラミド産生に関連する遺伝子SPTLC2及びUGCG、並びにセラミド輸送に関連する遺伝子ABCA12の有意な発現増加が認められた。これらの発現増加が認められた遺伝子は、表皮細胞の分化と共に発現が上昇し、皮膚バリア機能において重要な遺伝子であるため、白麹菌抽出物による皮膚バリア機能の改善作用が期待される。
【0042】
3.ヒト3次元培養皮膚モデルにおける皮膚バリア機能関連遺伝子への影響
3−1.試験方法
ヒト3次元培養皮膚モデルLabCyte EPIMODEL12(6日培養品)(J−TEC製)を、アッセイ培地(J−TEC製)中、37℃の5%COインキュベーター内で24時間前培養した。各ウェルより培地を除去した後、所定濃度(100μg/mL、500μg/mL)に調整された白麹菌抽出物を含有するアッセイ培地を1ml培養カップの外側に添加し、COインキュベーター内で7日間培養した。被験物質含有培地を一日おきに交換した。
7日間培養の後、皮膚モデルをPBSで3回洗浄し、RNeasy mini kit(QIAGEN社製)を用いて、皮膚モデルからRNAを回収し、次いで、QuantiTect Reverse Transcription kit(QIAGEN社製)を用いて、回収したRNAからcDNAを合成した。得られたcDNAを用いて、各遺伝子のmRNA発現量を測定した。なお、内部標準として、GAPDHのmRNA発現量も測定した。
【0043】
3−2.結果
結果を表2に示す。表2は、ヒト3次元培養皮膚モデルにおける遺伝子SPTLC2、GBA、CLDN1、OCLN、TGM1、IVL、ABCA12及びUGCGの相対的発現量を示す。なお、表中の値は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)の遺伝子の発現量を1としたときの相対的発現量である。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から分かるように、白麹菌抽出物を含む培地を用いた場合の遺伝子SPTLC2、UGCG及びGBAの相対的発現量は、白麹菌抽出物を含まない培地を用いた場合(コントロール)に比べて、増加している。
【0046】
<<白麹菌抽出物がセラミド産生に及ぼす影響>>
1.白麹菌抽出物の調製例
上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「1.白麹菌抽出物の調製例」に従って、白麹菌抽出物を調製した。
【0047】
2.角化細胞におけるセラミド産生への影響
2−1.細胞からの脂質の抽出
以下の手順i)〜v)に従い、脂質サンプルの調製を行った。
i)上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「2−1.試験方法」の手順i)〜iv)に従い、角化細胞の培養を行う。
ii)Phosphate Buffered Saline(以下PBSと略す)で3倍希釈したトリプシン500μLを添加し、細胞を浮遊させた。
iii)3ウェル分(N=3)の細胞浮遊液を1本の5mlチューブに回収し、2000rpmで3分間遠心分離を行う。
iv)上清を除去後、PBS 1mL/wellで2回洗浄する。
v)Brigh−Dyer法に従って脂質の抽出を行う。
・まず、回収した細胞にPBS 500μlを添加し、超音波処理を行う。
・次いで、メタノール1250μL、クロロホルム625μLを加え、42℃、125rpmにて20分間振とうする。
・振とう後、3000rpmで5分間遠心分離を行う。
・上清を回収し、回収した上清にクロロホルム625μLを加え攪拌する。
・攪拌後、PBS 625μLを加えよく攪拌する。
・上層中の白い沈殿物が中間層に沈むまで3000rpmで15分間遠心分離を行う。
・下層を回収し、窒素ガスを吹きつけ乾固した後、得られた固形物をクロロホルム:メタノール(体積比2:1)溶液100μLに溶解し、これを脂質サンプルとする。
【0048】
2−2.セラミドの展開及び定量
i)TLC展開槽の壁面にろ紙を張り、HPTLCプレートのスポット位置に触れない程度の展開液(クロロホルム:メタノール:酢酸(体積比190:9:1)溶液)を加えた。
ii)HPTLCプレートのガラス下から1.5cm部分にマイクロシリンジを用いて各脂質サンプルを10μLずつスポットした。また、標準品としてCeramides non−hydroxy fatty acid(以下、Ceramide IIと表記)(Avanti Polar Lipids製)、Ceramide III(製造元:EVONIK INDUSTRIES)、Ceramide VI(製造元:EVONIK INDUSTRIES)を0.8、4、20、100、500μg/mLの濃度となるようにクロロホルム:メタノール(体積比2:1)溶液に溶解し、これらを5μLずつスポットした。
iii)HPTLCプレートを静かに展開槽に入れ、上端まで(スポットから8.5cm)展開した。展開後、HPTLCプレートを乾燥させた。乾燥後、再び展開層に入れ、もう一度展開を行った。
iv)展開溶媒を乾燥後、10質量%CuSO−8体積%HPO溶液をHPTLCプレートに満遍なく噴霧し、180℃で10分間加熱した。
v)HPTLCプレートを常温まで冷却した後、Chemi Doc XRS with Image Lab Software(BIO RAD製)を用いてHPTLCプレートをスキャンした。
vi)得られた画像データからImage Lab Softwareを用いて、各バンドのシグナル強度を算出した。標準品のシグナル強度を元に、セラミド量とシグナル強度に関する検量線を作成し、各バンドにおけるセラミド量を算出した。サンプルの定量値は、3ウェル分(n=3)から調製されたサンプル10μLであるため、脂質サンプルの全量100μL分のセラミド量を求め、更に1ウェル当りのセラミド量に換算した。
【0049】
2−3.結果及び考察
TLC展開図について説明する。標準品(Standard)のTLC展開図、並びにコントロール(Control)及び白麹菌抽出物(濃度10、20、50μg/ml)を用いて得られた脂質サンプルのTLC展開図を図1に示す。
図1から分かるように、疎水性側に位置するCeramide IIと親水性側に位置するCeramide VIの間(傍線範囲内)に3つのバンド(1〜3)が存在し、これらをサンプル中のceramideとして定量した。また、バンド1とバンド3は標準品と同位置にあることからCeramide IIとCeramideVであると推測される。また、他文献よりバンド1の上部に位置する濃いバンドはコレステロールであり、バンド3の下部に位置するバンドはグルコシルセラミドであると推測される。
Image Labによってバンド1〜3を定量し、1ウェル当りのセラミド量に換算した(表3)。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示されるように、バンド1〜3の総セラミド量を比較すると、いずれの濃度においても、1割程度のセラミド量の増加が認められた。
【0052】
3.ヒト3次元培養皮膚モデルにおけるセラミド産生への影響
3−1.細胞からの脂質の抽出
i)上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「3−1.試験方法」に従い、ヒト3次元培養皮膚モデルの培養を行った。
ii)ヒト3次元培養皮膚モデルをPBS中に懸濁させた。
iii)上述した「2.角化細胞におけるセラミド産生への影響」における「2−1.細胞からの脂質の抽出」の手順v)に従い、Brigh−Dyer法による脂質の抽出を行った。なお、得られる固形物は、クロロホルム:メタノール(体積比2:1)溶液200μLに溶解した。
【0053】
3−2.セラミドの展開及び定量
上述した「2.角化細胞におけるセラミド産生への影響」における「2−2.セラミドの展開及び定量」の手順i)〜vi)に従い、各バンドのシグナル強度を算出した。次いで、標準品のシグナル強度を元に、セラミド量とシグナル強度に関する検量線を作成し、各バンドにおけるセラミド量を算出した。サンプルの定量値は、スポットしたサンプルは10μlであるため、全量200μl分のセラミド量を求め、tissue当りのセラミド量として解析した。
【0054】
3−3.結果及び考察
標準品(Standard)のTLC展開図、並びにコントロール(Control)及び白麹菌抽出物(濃度100、200、500μg/ml)を用いて得られた脂質サンプルのTLC展開図を図2に示す。文献より、点線枠内に位置するバンドがセラミドであることが知られている(図2)。
なお、Image Labによって、点線枠内に位置するバンドを定量し、総セラミド量を算出した(表4及び図3)。その結果、白麹菌抽出物の用量に依存して、セラミド量の増加傾向が認められ、特に、白麹菌抽出物の濃度が500μg/mLである場合に有意な産生増加が認められた。これらの結果から、白麹菌抽出物の添加により、細胞内の脂質産生が亢進しているのではないかと考えられる。
【0055】
【表4】
【0056】
<<白麹菌抽出物の臨床での有効性確認試験>>
1.試験方法
20〜30代の健常成人女性を被験者として、試験品を皮膚に適用した前後の角層水分量の比較を行った。
被験者に腕を洗浄させ、測定室にて15分間馴化させた後、腕の角層水分量の測定を行った。測定後、以下に記載する試験品20μlを腕に塗布し、塗布後5、10、15、20、25、30、45、60分経過時点の角層水分量の測定を行った。角層水分量の測定には、SKICON−200EX((株)ヤヨイ)を用いた。
試験は、単盲検クロスオーバーにて実施した。
【0057】
2.試験品の調製例
2−1.白麹菌抽出物の調製例
上述した「白麹菌抽出物が皮膚バリア機能関連遺伝子に及ぼす影響」における「1.白麹菌抽出物の調製例」に従って、白麹菌抽出物を調製した。
2−2.化粧水の調製例
表5に従う配合処方に従い、化粧水を調製した。
【0058】
【表5】
【0059】
2−3.試験品の調製
・化粧品のみを試験品(コントロール群)として用いた。
・試験品中の白麹菌抽出物の濃度が0.1質量%となるように白麹菌抽出物を化粧品と混合し、試験品(0.1%群)を調製した。
・試験品中の白麹菌抽出物の濃度が1質量%となるように白麹菌抽出物を化粧品と混合し、試験品(1%群)を調製した。
【0060】
3.結果
角層水分量の測定結果を図4に示す。0.1%群及び1%群は、コントロール群と比較して、高い値を示した。
【0061】
4.考察
本試験では、白麹菌抽出物が優れた保湿効果を有することを検証するため、白麹菌抽出物の塗布前後で角層水分量を比較した。その結果、白麹菌抽出物を塗布した群は、コントロール群と比較して、高い値を示した。よって、白麹菌抽出物は保湿作用を有することが示された。
図4
図1
図2
図3