(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-28122(P2015-28122A)
(43)【公開日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20150116BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20150116BHJP
C08K 5/5393 20060101ALI20150116BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20150116BHJP
C08K 5/524 20060101ALI20150116BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/22
C08K5/5393
C08K5/42
C08K5/524
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-190343(P2013-190343)
(22)【出願日】2013年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-134487(P2013-134487)
(32)【優先日】2013年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化スタイロンポリカーボネート株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂口 恵子
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD122
4J002CG001
4J002CG021
4J002DE076
4J002EV258
4J002EW067
4J002EW117
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)25〜65重量%、および酸化マグネシウム(B)75〜35重量%からなる成分100重量部、特定の化合物(C)0.02〜2重量部、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)0.02〜0.4重量部、繊維形成形の含フッ素ポリマー(E)0.05〜1.0重量部、さらに所望によっては特定の酸性物質(F)を0.6重量部まで含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【効果】ポリカーボネート樹脂組成物は、熱伝導性、熱安定性、耐燃性、および成形加工性に優れ、更には耐衝撃性をも兼備することができるポリカーボネート樹脂組成物であり、射出成形などによる大量生産が可能である。また、本発明の樹脂組成物から得られる成形体は、OA機器や電気電子部品、精密機器部品、OA機器等のハウジングなどの用途に好適に使用でき、実用上の利用価値が極めて高い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)25〜65重量%および酸化マグネシウム(B)75〜35重量%からなる樹脂成分100重量部および下記一般式1に示す化合物(C−1)、下記一般式2に示す化合物(C−2)および下記一般式3に示す化合物(C−3)から選択される1種もしくは2種以上の化合物(C)0.02〜2重量部、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)0.02〜0.4重量部、および繊維形成形の含フッ素ポリマー(E)0.05〜1.0重量部を含むことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
一般式1:(C−1)
【化1】
(一般式1において、R1〜4は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す)
一般式2:(C−2)
【化2】
(一般式2において、R5およびR6は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す)
一般式3:(C−3)
【化3】
(一般式3において、R7は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、aは0〜3の整数を示す)
【請求項2】
さらに、前記樹脂成分100重量部に対して、酸性物質(F)を0.6重量部まで含むことを特徴とする、請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分が、ポリカーボネート樹脂(A)30〜60重量%および酸化マグネシウム(B)70〜40重量%からなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記化合物(C)の配合量が、前記樹脂成分100重量部あたり、0.02〜0.4重量部であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)の配合量が、前記樹脂成分100重量部あたり、0.05〜0.3重量部であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
前記繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)が、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)の配合量が、前記樹脂成分100重量部あたり、0.1〜0.6重量部であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
酸性物質(F)が、リン酸であることを特徴とする請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
熱伝導率が0.5W/m・K以上であることを特徴とする、請求項1〜請求項8の何れか一項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた諸特性を保持し、熱伝導性、耐燃性、難燃性、成形加工性および耐衝撃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、機械、自動車などの分野に広く用いられている。
なかでも、電気・電子・OA機器等の分野のハウジング等に使用されるポリカーボネート樹脂に対しては、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた耐熱性といった性能に加えて安全上の要求を満たすため高い難燃性を具備した材料が求められている。一方、用途によっては、耐衝撃性の高い材料が求められる場合がある。耐衝撃性が低いと、樹脂組成物を用いた製品が市場で割れる、欠ける等の不具合を起こす危険性が非常に高いからである。
【0003】
従来からポリカーボネート樹脂組成物の難燃化においては、難燃剤としてハロゲン系化合物やリン系化合物を配合する方法が採用されてきたが、特に臭素や塩素といったハロゲン系化合物については、燃焼時に当該難燃剤に起因する臭素や塩素を含むガスの発生の懸念があり、環境面からこれらを含有しない難燃剤の使用が望まれている。
他方、電気・電子・OA機器等の分野においては、近年、ほとんどの機器が発熱を伴う部材や部品を搭載するようになってきており、装置・部品の高性能化に伴い消費電力量が増加し、部品からの発熱量が増大するため、局部的な高温化が原因で誤動作等のトラブルを引き起こすことが懸念されている。
現状では、筐体や放熱板などに熱伝導性に優れる金属材料を用いて発生した熱を拡散させて対応を図っているが、もとより金属材料よりも成形加工が容易な熱可塑性樹脂材料への代替の要求も根強い。
【0004】
これまで熱可塑性樹脂材料に放熱性・熱伝導性を付与させる方法として、種々の熱伝導性フィラーを混合する方法が多数報告されてきた。例えば、特許文献1には、熱伝導性を有するカーボン繊維及び黒鉛を配合してなる熱放散性に優れた熱可塑性樹脂組成物が記載されているが、この特許文献1には、ポリカーボネート樹脂についての具体的な実施例に関する報告はない。また、カーボン繊維及び黒鉛を配合することで電気絶縁性を犠牲にしてしまうといった根本的な問題もあった。特許文献2には、窒化ホウ素で被覆された気相法炭素繊維の製造方法が記載されており、さらにこの気相法炭素繊維をフィラーを用いた放熱材料記載されている。しかし、窒化ホウ素で被覆された炭素繊維を製造するためには、設備面でもコストがかかり、生産性も悪い為、実用的なレベルには至っていない。
これまで、熱伝導性、耐燃性、および成形加工性に優れ、さらには耐衝撃性をも具備したポリカーボネート樹脂組成物は得られていない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−49081公報
【特許文献2】特開2002−235279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた諸特性を保持し、熱伝導性、放熱性、熱安定性、耐燃性および成形加工性に優れ、更には耐衝撃性をも具備することができるポリカーボネート樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、このような従来の課題に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂および酸化マグネシウムからなる樹脂成分に、特定の化合物(C)、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)、繊維形成形の含フッ素ポリマー(E)を併用して配合することにより、驚くべきことに、熱伝導性、放熱性、熱安定性、耐燃性および成形加工性に優れるポリカーボネート樹脂組成物が得られ、更に特定の酸性物質(F)を追加配合することで高い耐衝撃性をも併せ持つポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一の態様は、ポリカーボネート樹脂(A)25〜65重量%および酸化マグネシウム(B)75〜35重量%からなる成分100重量部および下記一般式1に示す化合物(C−1)、下記一般式2に示す化合物(C−2)および下記一般式3に示す化合物(C−3)から選択される1種もしくは2種以上の化合物(C)0.02〜2重量部、パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)0.02〜0.4重量部および繊維形成形の含フッ素ポリマー(E)0.05〜1.0重量部からなることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
一般式1:(C−1)
【0009】
【化1】
(一般式1において、R1〜4は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す)
一般式2:(C−2)
【0010】
【化2】
(一般式2において、R5およびR6は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す)
一般式3:(C−3)
【0011】
【化3】
(一般式3において、R7は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、aは0〜3の整数を示す)、を提供するものである。
また、本発明の第二の態様は、第一の態様の構成に加えて、上記樹脂成分100重量部に対して、酸性物質(F)を0.6重量部まで含むことを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、熱伝導性、放熱性、熱安定性、耐燃性、および成形加工性に優れ、さらに耐衝撃性をも具備することができる樹脂組成物であり、射出成形などによる大量生産が可能である。
特に、本発明の樹脂組成物は、その組成物から得られる薄肉成形品においてUL94試験V−1相当以上の耐燃性を有していると共に、臭素や塩素を含有する従来の難燃剤を使用しないものであることから、燃焼時に当該難燃剤に起因する臭素や塩素を含むガスの発生の懸念もなくリン系難燃剤も使用しないことから環境面において優れている。そして、本発明の樹脂組成物から得られる成形体は、OA機器や電気電子部品、精密機器部品、OA機器等のハウジングなどの用途に好適に使用でき、実用上の利用価値が極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0014】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類が挙げられる。
【0015】
これらは、単独または2種類以上混合して使用されるが、ハロゲンで置換されていない方が燃焼時に懸念される当該ハロゲンを含むガスの環境への排出防止の面から好ましい。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0016】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0017】
ポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常16000〜40000の範囲である。また、このようなポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0018】
酸化マグネシウム(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)および酸化マグネシウム(B)の合計量に基づき、35〜75重量%である。配合量が35重量%未満では、熱伝導性に劣り好ましくない。また、75重量%を超えると造粒加工が困難となり安定した樹脂組成物の加工が困難となることから好ましくない。より好ましくは、40〜70重量%、さらに好ましくは50〜65重量%の範囲である。
酸化マグネシウム(B)は、酸化マグネシウム粒子の体積平均粒子径(Dv)とその数平均粒子径(Dn)との比(Dv)/(Dn)の値が1〜9の範囲のものがコストの面から好ましく使用できる。また、酸化マグネシウムは、シラン系化合物、アミン系化合物、アルミ系化合物、ビニル系化合物、エポキシ系化合物、チタン系化合物等による表面処理を施したものが好適に使用できる。
【0019】
本発明にて使用されるリン系酸化防止剤としての化合物(C)は、下記一般式1〜3に示される化合物(C−1〜3)から選択される1種もしくは2種以上の化合物である。
一般式1:(C−1)
【0020】
【化4】
(一般式1において、R1〜4は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
一般式2:(C−2)
【0021】
【化5】
(一般式2において、R5およびR6は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
一般式3:(C−3)
【0022】
【化6】
(一般式3において、R7は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、aは0〜3の整数を示す。)
【0023】
C−3の化合物としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトが好適に使用でき、チバスペシャリティケミカルズ社製イルガホスP168として商業的に入手可能である。また、C−1〜C−3の化合物の混合品としてはテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4、4‘−ビフェニレンフォスフォナイトを主成分とするクラリアントジャパン社製サンドスタブP−EPQが商業的に入手可能であり、好適に使用できる。 本発明にて使用されるパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)とは、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が挙げられる。中でも、パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩が好適に使用できる。
【0024】
化合物(C)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)および酸化マグネシウム(B)からなる樹脂成分100重量部あたり、0.02〜2重量部である。配合量が0.02重量部未満では、熱安定性が著しく劣るため好ましくない。また、2重量部を超えると成形時にガスが発生し金型を汚染するため好ましくない。配合量は、0.02〜0.4重量部が好適である。この範囲では、成形時のトラブルもなくかつ優れた熱安定性を示す。
【0025】
本発明にて使用されるパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)とは、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が挙げられる。なかでも、パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩が好適に使用できる。
パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)および酸化マグネシウム(B)からなる樹脂成分100重量部あたり、0.02〜0.4重量部である。配合量が0.02重量部未満では、耐燃性および難燃性が低下するので好ましくない。また、0.4重量部を超えると、耐燃性および難燃性が得られない、または表面外観が悪化するといった問題が発生するので好ましくない。好ましくは0.05〜0.3重量部、より好ましくは0.05〜0.25重量部の範囲である。
【0026】
本発明にて使用される繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)としては、ポリカーボネート樹脂(A)中でフィブリル状構造を形成するものがよく、例えばポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、等)、米国特許第4379910号に示される様な部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート等が挙げられる。とりわけ、分子量1000000以上で二次粒子径100μm以上のフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが好適に使用される。
【0027】
繊維形成型の含フッ素ポリマー(E)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)および酸化マグネシウム(B)からなる樹脂成分100重量部あたり、0.05〜1.0重量部である。配合量が0.05重量部未満では滴下防止性に劣り、また1.0重量部を超えると表面外観や造粒性が悪化するので好ましくない。好ましくは0.1〜0.6重量部、より好ましくは0.15〜0.45重量部の範囲である。
【0028】
本発明にて使用される酸性物質(F)としては、リン酸、ホウ酸等の化合物があげられ、とりわけ不揮発性の弱酸であるリン酸が好適に用いられる。
【0029】
酸性物質(F)の配合量としては、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部当たり0.6重量部までである。酸性物質(F)を添加することにより、本発明の第一態様の組成物の特性に加え、耐衝撃性を向上させることができる。例えば、後述する本発明の第一態様にかかる実施例3(配合成分および配合比率は表2の通り)では、後述の(5)耐衝撃性の評価により得られる面衝撃強度は、0.6(J)程度であったのに対し、当該実施例3の配合へ酸性物質を併用配合すると、本発明の第二態様に係る実施例9(表4)等の通り、面衝撃強度の向上が認められる。尚、配合量が0.6重量部を超えると成形加工性に劣るので好ましくない。より好ましくは、0.4重量部までの範囲である。
【0030】
本発明の各種配合成分(A)、(B)、(C)、(D)、および(E)、ならびに場合によっては(F)の配合方法には特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の単軸または二軸押出機等で溶融混練することができる。また、これら配合成分の配合順序や一括混合、分割混合を採用することについても特に制限はない。
【0031】
また、混合時、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染顔料、展着剤(エポキシ化大豆油、流動パラフィン等)や強化材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ等)等、又、他の樹脂を配合することができる。
【0032】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形体を得る方法は、特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂組成物について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形等の成形方法が適用できる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の熱伝導率は、0.5W/mK以上であることが好ましい。熱伝導率の評価は、後述の熱伝導率の評価において記載のとおり、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットをそれぞれ125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(例:日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm
2にて評価用試験片(150x90x2.0mm)を作成し、得られた試験片を用いて測定することができる。
【0033】
本発明の成形体は、OA機器部品や電気電子部品、精密機器部品に幅広く用いられるが、特にOA機器の筐体や電気電子機器の筐体等に好適であり、例えば、ノート型パソコン、電子手帳、携帯電話、デジタルカメラ、プロジェクターの筐体やハウジング等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を実施例によって、詳しく説明するが、本発明はこれらの範囲内に限定されるものでは無い。尚、実施例中の部、%は断りのない限り重量部、重量%を意味する。
【0035】
以下の実施例において、各成分として次に示すものを用いた。
ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化スタイロンポリカーボネート社製 カリバー200−20
重量平均分子量23200、以下、PCと略記)
酸化マグネシウム(B):
(宇部マテリアル社製RF−50−T、体積平均粒子径(Dv)と数平均粒子径(Dn)との比(Dv)/(Dn)の値=1.2、以下、MgOと略記)
化合物(C)(特定のリン系酸化防止剤)
テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4、4’−ビフェニレンフォスフォナイトを主成分とするリン系酸化防止剤(クラリアントジャパン社製サンドスタブ:P−EPQ、以下、P−EPQと略記)
パーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩(D):
パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩(以下、金属塩と略記)
繊維形成型の含フッ素ポリマー(E):
ダイキン社製ポリフロンFA500
(ポリテトラフルオロエチレン、以下、PTFEと略記)
酸性物質(F):
リン酸
(ナカライテスク社製、以下、酸性物質と略記)
【0036】
(本発明の第一態様)
実施例1〜8、比較例1〜8
(樹脂組成物ペレットの作成)
表2および表3に示す配合成分および配合比率にて、各種配合成分をタンブラーに投入し、10分間乾式混合し、37mm径の二軸押出機(神戸製鋼社製KTX37)を用いてシリンダー溶融温度280度にて溶融混練し、ポリカーボネート樹脂の各種ペレットを得た。
【0037】
(1)(耐燃性の評価)
得られたペレットを125℃で4時間乾燥後、射出成形機(日本製鋼所製J100C−5)を用いて240℃、射出圧力1600kg/cm
2の条件下、燃焼性試験用試験片(3.0mm)を成形した。この試験片を23℃、湿度50%の恒温室の中で168時間放置し、アンダーラターズ・ラボラトリーの定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に従い耐燃性の評価を行った。
UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、UL94−Vの評価基準を以下の表1に示す。評価の基準は、3.0mm厚さの試験においてV−0、V−1を合格○)とし、V−2以下を不合格(×)と判定した。
【0038】
【表1】
【0039】
ドリップによる綿着火とは、試験片の下端から300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。
【0040】
(2)熱伝導率の評価
上記で得られた各種ポリカーボネート樹脂組成物のペレットをそれぞれ125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm
2にて熱伝導性評価用試験片(150x90x2.0mm)を作成した。得られた試験片を用いて、京都電子工業社製QTM−500にて熱伝導性の評価を行った。熱伝導率が0.5W/m・K以上を良好(○)とした。
【0041】
(3)熱安定性の評価
熱安定性は、上記で得られた各種ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの重量平均分子量を測定し、原料として用いたポリカーボネート樹脂の重量平均分子量からの低下分(ΔMw)を算出して評価した。原料であるポリカーボネート樹脂の重量平均分子量から7000以下の低下であった場合を良好(○)とした。
重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算し測定した。測定条件は、以下のとおりである。
装置:HEWLETT PACKARD社製HP1100
カラム:Polymer Laboratories社製
PLGe1 5μ MIXED−C
流動相:テトラヒドロフラン
検出器:UVランプ VWDモジュール 264nm
各種ポリカーボネート樹脂組成物のペレットサンプルを塩化メチレンにて溶解し、不溶解分を分離し、抽出したポリカーボネート樹脂の重量平均分子量を測定した。測定溶液は塩化メチレンを溶媒として0.5重量%のポリカーボネート樹脂溶液とし、0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで濾過して調整した。
【0042】
(4)成形加工性の評価
上記で得られた各種ポリカーボネート樹脂組成物のペレットをそれぞれ125℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、金型温度80℃、射出圧力1600kg/cm
2の条件で10ショット成形した後、金型の付着物の有無を目視で確認し、判断した。
判定: 付着物無しを良好とした(○)、付着物有りは不良とした。
【0043】
(5)耐衝撃性の評価
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100E−C5)を用いて設定温度280℃、射出圧力1600kg/cm
2にて試験片(60x60x2mm)を作成した。
得られた試験片を用いてJIS K−7211に準じて50%破壊エネルギーを求め面衝撃強度とした。面衝撃強度を1.0[J]以上を良好とした。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足する場合(実施例1〜8)にあっては、熱安定性・耐燃性・熱伝導率・成型加工性のそれぞれに亘って良好な結果を示した。
【0047】
ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合(比較例1〜8)においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
本発明の化合物(D)の添加量が本発明の定める範囲より少ない例(比較例1、5)においては、耐燃性が劣っており難燃性規格UL94においてV−2の判定であった。
本発明の化合物(D)の添加量が本発明の定める範囲より多い例(比較例2、6)においては、ポリカーボネート樹脂の分子量低下が著しく、かつ成形時のガス発生量が多いことから金型に汚れが付着した(成形加工性に劣った)。
本発明の化合物(E)の添加量が本発明の定める範囲より少ない例(比較例3、7)においては、耐燃性が劣っており難燃性規格UL94においてV−2の判定であった。
本発明の化合物(E)の添加量が本発明の定める範囲より多い例(比較例4、8)においては、耐燃性が劣っており難燃性規格UL94においてNRの判定であった。
【0048】
(本発明の第二態様)
実施例9および10、比較例9
表2の実施例3に示す配合比率の樹脂組成物に対して、更に酸性物質を表4に示す配合比率にて追加配合した。これ以外は、実施例3と同じ操作を行い、各種性能の評価を行った。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4の示すとおり、本発明の構成を満足する場合(実施例9および10)には、全ての評価項目において十分な性能を有していた。
一方、本発明の化合物(F)の添加量が本発明の定める範囲より多い例(比較例9)においては、成形加工性に劣っていた。