特開2015-28462(P2015-28462A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-28462(P2015-28462A)
(43)【公開日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】熱刺激電流測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/00 20060101AFI20150116BHJP
【FI】
   G01N25/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-31574(P2014-31574)
(22)【出願日】2014年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-134886(P2013-134886)
(32)【優先日】2013年6月27日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100174540
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 廣美
(72)【発明者】
【氏名】平山 泰生
(72)【発明者】
【氏名】尾形 潔
(72)【発明者】
【氏名】有井 忠
(72)【発明者】
【氏名】松島 光一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大竹 智士
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB18
2G040BA26
2G040CA13
2G040CA22
2G040EA02
(57)【要約】
【課題】TSC測定に基づくデータ解析と試料の評価を特定の評価指標に基づいて簡易に迅速に行うことができる熱刺激電流測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の熱刺激電流測定装置は、試料の熱刺激電流を測定して得られた測定データを用いて、活性化エネルギーと温度の相関を示す相関データを取得するデータ取得部と、その相関データを用いて、活性化エネルギーと温度の相関をグラフ化したときのプロットの平坦部を抽出する抽出部43と、抽出部43の抽出結果に基づいて試料の特性を評価する評価部44と、評価部44による評価結果を画面に表示する表示部6と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の熱刺激電流を測定して得られた測定データを用いて、活性化エネルギーと温度の相関を示す相関データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得した前記相関データを用いて、前記活性化エネルギーと温度の相関をグラフ化したときのプロットの平坦部を抽出する抽出部と、
前記抽出部の抽出結果に基づいて前記試料の特性を評価する評価部と、
前記評価部による評価結果を画面に表示する表示部と、
を備えることを特徴とする熱刺激電流測定装置。
【請求項2】
前記抽出部は、前記グラフ化したときの低温側のプロットのうち、あらかじめ設定されたエネルギー範囲に収まっているプロットの部分を前記平坦部として抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載の熱刺激電流測定装置。
【請求項3】
前記評価部は、前記平坦部に含まれるプロットの温度幅とあらかじめ設定された良否判定条件とを比較し、この比較結果に基づいて前記試料の特性の良否を評価する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱刺激電流測定装置。
【請求項4】
前記データ取得部は、試料の熱刺激電流を測定して得られた測定データを用いて複数の異なる昇温開始温度に対応するアレニウスプロットのデータ群を求めるとともに、当該データ群から前記複数の昇温開始温度ごとにアレニウスプロットの傾きを求めるデータ解析部と、前記データ解析部で求めた前記複数の昇温開始温度ごとのアレニウスプロットの傾きを、活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフにプロットしたグラフデータを生成するデータ生成部と、を含み、
前記表示部は、前記データ生成部が生成した前記グラフデータに基づく前記グラフを、前記評価結果とあわせて表示する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱刺激電流測定装置。
【請求項5】
前記表示部は、前記グラフの中に前記平坦部を示す目印を表示する
ことを特徴とする請求項4に記載の熱刺激電流測定装置。
【請求項6】
ユーザーの入力操作を受け付ける入力操作部と、
前記平坦部の抽出に用いる前記エネルギー範囲のデータを、前記試料の材料名及び/又は用途ごとに対応付けて記憶する記憶部と、をさらに備え、
前記抽出部は、前記入力操作部を用いてユーザーが指定した試料の材料名及び/又は用途に対応付けて前記記憶部に記憶されている前記エネルギー範囲のデータを読み出し、このエネルギー範囲を適用して前記平坦部を抽出する
ことを特徴とする請求項2に記載の熱刺激電流測定装置。
【請求項7】
前記表示部は、前記試料の材料名、前記試料の用途、前記抽出部が前記平坦部の抽出に用いた前記エネルギー範囲、及び前記試料の特性評価に用いた前記良否判定条
件のうち、少なくともいずれか一つを、前記評価結果に含めて表示する
ことを特徴とする請求項6に記載の熱刺激電流測定装置。
【請求項8】
ユーザーの入力操作を受け付ける入力操作部と、
前記表示部による画面表示を制御する表示制御部と、をさらに備え、
前記表示制御部は、前記入力操作部を用いてユーザーが表示の切り替えを指示した場合に、この指示にしたがって、前記表示部の画面に表示するグラフを、前記複数の異なる昇温開始温度に対応するアレニウスプロットと、前記活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフと、の間で切り替える
ことを特徴とする請求項4に記載の熱刺激電流測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱刺激電流を測定する機能を有する熱刺激電流測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電気を測定する手法の一つに、熱刺激電流(Thermally Stimulated Current)測定法
がある。熱刺激電流測定法は、試料に電解を加えることにより試料内部や表面及び界面に存在する電荷トラップを注入キャリアで蓄積させ、昇温過程でのトラップサイトからの熱放出(脱トラップ)現象で生じる熱刺激電流(以下、「TSC」ともいう。)を検出する方法である。熱刺激電流測定法に関しては、たとえば、JIS、K7131等にも規定されている。
【0003】
熱刺激電流測定法は、測定の対象となる試料の特性を知るうえで有用な方法である。このため、熱刺激電流測定法は、種々の試料の特性、たとえば、電子写真法の現像剤に用いられるトナーの耐電特性を評価する場合などに利用されている(たとえば、特許文献1を参照)。また、この方法に用いる熱刺激電流測定装置も各メーカーから提供されている。
【0004】
一般に、熱刺激電流測定装置では、次のようにしてTSCを測定(検出)する。まず、試料を収容した試料室を冷却する。次に、電圧の印加によって試料中に励起キャリア(電子、正孔)を発生させ、この励起キャリアを試料内のトラップ準位(ドナー準位、アクセプター準位)に捕獲させる。その後、一定速度で試料室を昇温する。この昇温過程においては、試料内のトラップ準位からキャリアが解放される。その際、キャリアの解放によって微小な電流が流れるため、この電流(TSC)を計測する。これにより、熱刺激電流測定装置では、ある試料に関して、TSC(A:アンペア)と絶対温度(K:ケルビン)の相関を示す測定データが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−60730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の熱刺激電流測定装置においては、上述のようにTSCと絶対温度(以下、単に「温度」ともいう。)との相関を示す測定データが得られるものの、この測定データから最終的に試料の評価を行うには、多大な工数と相当の熟練が必要とされていた。その理由は、以下のとおりである。
【0007】
まず、従来の熱刺激電流測定装置は、多くの場合、研究開発を目的に使用されているという事情もあって、上記の測定データを解析したり、その解析結果を表示したりする機能が設けられていない。このため、熱刺激電流測定装置のユーザーは、上記の測定データを別途、データ解析用のソフトウェア(演算プログラム等)に取り込み、そのソフトウェアの演算機能等により、解析に必要な計算を個別に行っている。このため、所望の解析データを得るまでに長い時間がかかっている。また、計算により得られた解析データをグラフで表示したい場合は、その解析データをグラフ化するソフトウェア(描画プログラム等)を必要とし、しかも、そのグラフから試料の評価を行うには、相当の熟練を要していた。
【0008】
本発明の目的は、TSC測定に基づくデータ解析と試料の評価を特定の評価指標に基づいて簡易に迅速に行うことができる熱刺激電流測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、
試料の熱刺激電流を測定して得られた測定データを用いて、活性化エネルギーと温度の相関を示す相関データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得した前記相関データを用いて、前記活性化エネルギーと温度の相関をグラフ化したときのプロットの平坦部を抽出する抽出部と、
前記抽出部の抽出結果に基づいて前記試料の特性を評価する評価部と、
前記評価部による評価結果を画面に表示する表示部と、
を備えることを特徴とする熱刺激電流測定装置である。
【0010】
本発明の第2の態様は、
前記抽出部は、前記グラフ化したときの低温側のプロットのうち、あらかじめ設定されたエネルギー範囲に収まっているプロットの部分を前記平坦部として抽出する
ことを特徴とする上記第1の態様に記載の熱刺激電流測定装置である。
【0011】
本発明の第3の態様は、
前記評価部は、前記平坦部に含まれるプロットの温度幅とあらかじめ設定された良否判定条件とを比較し、この比較結果に基づいて前記試料の特性の良否を評価する
ことを特徴とする上記第1又は第2の態様に記載の熱刺激電流測定装置である。
【0012】
本発明の第4の態様は、
前記データ取得部は、試料の熱刺激電流を測定して得られた測定データを用いて複数の異なる昇温開始温度に対応するアレニウスプロットのデータ群を求めるとともに、当該データ群から前記複数の昇温開始温度ごとにアレニウスプロットの傾きを求めるデータ解析部と、前記データ解析部で求めた前記複数の昇温開始温度ごとのアレニウスプロットの傾きを、活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフにプロットしたグラフデータを生成するデータ生成部と、を含み、
前記表示部は、前記データ生成部が生成した前記グラフデータに基づく前記グラフを、前記評価結果とあわせて表示する
ことを特徴とする上記第1〜第3の態様のいずれかに記載の熱刺激電流測定装置である。
【0013】
本発明の第5の態様は、
前記表示部は、前記グラフの中に前記平坦部を示す目印を表示する
ことを特徴とする上記第4の態様に記載の熱刺激電流測定装置である。
【0014】
本発明の第6の態様は、
ユーザーの入力操作を受け付ける入力操作部と、
前記平坦部の抽出に用いる前記エネルギー範囲のデータを、前記試料の材料名及び/又は用途ごとに対応付けて記憶する記憶部と、をさらに備え、
前記抽出部は、前記入力操作部を用いてユーザーが指定した試料の材料名及び/又は用途に対応付けて前記記憶部に記憶されている前記エネルギー範囲のデータを読み出し、このエネルギー範囲を適用して前記平坦部を抽出する
ことを特徴とする上記第2の態様に記載の熱刺激電流測定装置である。
【0015】
本発明の第7の態様は、
前記表示部は、前記試料の材料名、前記試料の用途、前記抽出部が前記平坦部の抽出に用いた前記エネルギー範囲、及び前記試料の特性評価に用いた前記良否判定条
件のうち、少なくともいずれか一つを、前記評価結果に含めて表示する
ことを特徴とする上記第6の態様に記載の熱刺激電流測定装置である。
【0016】
本発明の第8の態様は、
ユーザーの入力操作を受け付ける入力操作部と、
前記表示部による画面表示を制御する表示制御部と、をさらに備え、
前記表示制御部は、前記入力操作部を用いてユーザーが表示の切り替えを指示した場合に、この指示にしたがって、前記表示部の画面に表示するグラフを、前記複数の異なる昇温開始温度に対応するアレニウスプロットと、前記活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフと、の間で切り替える
ことを特徴とする上記第4の態様に記載の熱刺激電流測定装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、TSC測定に基づくデータ解析と試料の評価を特定の評価指標に基づいて簡易に迅速に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る熱刺激電流測定装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】TSC測定部の概略構成を示す図である。
図3】試料のTSC測定と特性評価を行う場合の処理フローを示すフローチャートである。
図4】TSC測定の原理を説明する図である。
図5】部分昇温法の概念を示す図である。
図6】アレニウスプロットの一例を示す図である。
図7】アレニウスプロットの傾きに基づいて活性化エネルギーと温度の相関をグラフにプロットした図である。
図8】プロットの低温側に平坦部が現れる理由を説明する図である。
図9】良否判定条件の一例を示す図である。
図10】評価結果の第1の表示例を示す図である。
図11】評価結果の第2の表示例を示す図である。
図12】表示画面の切り替えを説明する図である。
図13】評価結果の第3の表示例を示す図である。
図14】ピーク分離法を説明する図である。
図15】評価パラメータの他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.熱刺激電流測定装置の概略構成
2.TSC測定部の概略構成
3.処理フロー
4.実施の形態の効果
5.変形例等
【0020】
<1.熱刺激電流測定装置の概略構成>
図1は本発明の実施の形態に係る熱刺激電流測定装置の概略構成を示すブロック図である。図示のように、熱刺激電流測定装置は、TSC測定部1と、温度制御部2と、主制御部3と、情報処理部4と、入力操作部5と、表示部6と、表示制御部7と、記憶部8と、を備えている。
【0021】
(TSC測定部)
TSC測定部1は、測定対象の試料のTSCを測定するものである。TSC測定部1の構成については、後段で説明する。
【0022】
(温度制御部)
温度制御部2は、あらかじめ決められた温度制御条件に基づいて、試料室(後述)の温度を制御するものである。
【0023】
(主制御部)
主制御部3は、熱刺激電流測定装置全体の動作を統括的に制御するものである。
【0024】
(情報処理部)
情報処理部4は、種々の情報処理を行うものである。情報処理部4が行う情報処理のなかには、たとえば、演算処理や描画処理などが含まれる。情報処理部4は、大きくは、データ解析部41と、データ生成部42と、抽出部43と、評価部44と、を有する。以下、各部の機能について説明する。このうち、データ解析部41およびデータ生成部42は、活性化エネルギーと温度の相関を示す相関データを取得するデータ取得部を構成する。
【0025】
(データ解析部)
データ解析部41は、TSC測定部1によって得られる測定データを用いて、あらかじめ決められたデータ解析を行うものである。具体的には、データ解析部41は、TSC測定部1の測定データを用いて、複数の異なる昇温開始温度に対応するアレニウスプロットのデータ群を求める。また、データ解析部41は、求めたアレニウスプロットのデータ群から、複数の昇温開始温度ごとにアレニウスプロットの傾きを求める。
【0026】
(データ生成部)
データ解析部41で求めた複数の昇温開始温度ごとのアレニウスプロットの傾きを、活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフにプロットしたグラフデータを生成するものである。
【0027】
(抽出部)
抽出部43は、活性化エネルギーと温度の相関をグラフ化したときのプロットの平坦部を抽出するものである。具体的な抽出方法については、後段で説明する。
【0028】
(評価部)
評価部44は、抽出部43の抽出結果に基づいて資料の特性を評価するものである。具体的な評価方法や評価内容については、後段で説明する。
以上が、情報処理部4の各部の機能の概要である。
【0029】
(入力操作部)
入力操作部5は、熱刺激電流測定装置を使用するユーザーが種々の情報を入力するために操作するものである。入力操作部5は、マウス、キーボード、ボタン、スイッチ、タッチパネルなどを用いて構成することが可能である。入力操作部5によって入力される情報には、たとえば、熱刺激電流測定装置の操作に関する情報(たとえば、測定開始を指示する情報など)や、TSC測定に関する情報(たとえば、測定条件を指定する情報、試料の情報など)などが含まれる。
【0030】
(表示部)
表示部6は、評価部44による評価結果を画面に表示するものである。表示部6は、たとえば、カラー表示が可能な液晶表示装置や有機EL表示装置などを用いて構成される。
表示部6の画面は、タッチパネル付きの画面で構成することが可能である。表示部6の画面に表示される情報には、上述した評価結果の他にも、データ生成部42が生成したグラフが含まれる。また、表示部6の画面に表示される情報には、必要に応じて、データ解析部41による解析結果(アレニウスプロットなど)が含まれる。
【0031】
(表示制御部)
表示制御部7は、表示部6による画面表示を制御するものである。具体的には、表示制御部7は、表示部6に画像(描画)データを入力することにより、その画像データに基づく情報を表示部6の画面に表示するように制御する。また、表示制御部7は、入力操作部5を介してユーザーから表示画面の切り替え等の指示がされた場合に、指示された情報を表示部6の画面に表示するように制御する。
【0032】
(記憶部)
記憶部8は、TSC測定や測定後のデータ解析等のために必要になる種々の情報(データ)を記憶するものである。
【0033】
<2.TSC測定部の概略構成>
図2にTSC測定部の概略構成を示す。図2においては、試料室10の内部に試料台11が設けられている。試料室10の外壁部分には、試料室10に収容した試料12を加熱したり冷却したりするための温度可変機構(不図示)が組み込まれている。本実施の形態においては、試料室10の温度と、試料室10に収容した試料12の温度とが、実質的に同じ温度であるとする。試料台11は、測定の対象となる試料12を支持するものである。試料台11の形態(形状、寸法等)は、試料12の形態(粉体、液体、シート状、板状など)に応じて決定される。
【0034】
光照射部13は、試料室10に収容された試料12に対して、特定波長の光を照射するものである。具体的には、光照射部13は、試料12のバンドギャップに相当するエネルギーをもつ波長の光を照射する。
【0035】
試料室10には、2つの電極14,14が設けられている。これらの電極14,14は、それぞれ試料12に電気的に接続されるものである。試料12に対する電極14,14の接続形態としては、図例のように試料12の面内で異なる位置に電極14,14を接続する以外にも、試料12を挟んで対向するように電極14,14を配置する場合もある。どのような接続形態を採用するかは、試料12の形態によって変わる。
【0036】
試料室10には、ガス供給部15と排気部16とが接続されている。ガス供給部15は、試料室10に不活性ガスを供給するものである。ガス供給部15は、不活性ガスとして、たとえばヘリウムガスを供給する。ガス供給部15と試料室10をつなぐ配管の途中には制御弁17が設けられている。制御弁17は、ガス供給部15によるガスの供給や停止、供給量などを制御するものである。
【0037】
排気部16は、試料室10の内部を減圧雰囲気(真空等)にするためものである。排気部16は、たとえば、ロータリーポンプを用いて構成することが可能である。排気部16と試料室10とをつなぐ配管の途中には制御弁18が設けられている。制御弁18は、排気部16による排気の開始や停止、排気量などを制御するものである。
【0038】
上述した2つの電極14,14のうち、一方の電極14は、スイッチ19aを介して電圧源20に電気的に接続されている。他方の電極14は、スイッチ19bを介して電流計測部21に電気的に接続されている。電流計測部21は、フェムトアンペア(10-15
)という非常に微小な電流を測定可能な電流計を用いて構成される。
【0039】
<3.処理フロー>
次に、本発明の実施の形態に係る熱刺激電流測定装置を用いて、試料のTSC測定と特性評価を行う場合の処理フローについて、図3のフローチャートにしたがって説明する。なお、以下の処理は、主制御部3の制御下において実施されるものである。
【0040】
(入力受付:F1)
まず、TSC測定と特性評価に関して、ユーザーが入力(指定)する情報を入力操作部5によって受け付ける。この段階でユーザーが入力する情報には、少なくとも、試料の材料名が含まれる。たとえば、試料が半導体材料であれば、SiCなどの具体的な材料名をユーザーが入力操作部5を用いて指定し、これを主制御部3で受け付ける。また、TSC測定に関する情報には、材料名とあわせて、又は材料名の代わりに、試料の用途を含めてもよい。試料の用途については、たとえばその試料が、絶縁膜として使用するものであるか、それとも半導体膜として使用するものであるか、といった情報を入力する。試料の用途をユーザーに指定させる理由は、その用途によって試料の評価基準を変える場合があるからである。TSC測定に関する情報には、必要に応じて、TSC測定の測定条件を含めてもよい。また、特性評価に関する情報として、試料の評価基準を変更するための情報を含めてもよい。
【0041】
(TSC測定:F2)
次に、TSC測定部1において試料のTSC測定を行う。以下に、TSC測定の原理と手順について説明する。TSC測定は、複数のステップで行われる。以下、各ステップについて、図4を参照しながら記述する。
【0042】
(第1ステップ)
第1ステップでは、試料室10の試料台11に試料12をセットして電極14,14を接続した後、ガス供給部15及び排気部16により、試料室10の内部を不活性ガスで満たした減圧雰囲気にする。また、第1ステップでは、温度制御部2が試料室10内の試料12の温度を室温から所定の温度Tsまで低下させる。ここで記述する所定の温度Tsとは、次の第2ステップにおいて、試料内のトラップを凍結させるのに必要な温度である。本実施の形態においては、所定の温度Tsが80Kに設定されているものとする。
【0043】
(第2ステップ)
第2ステップでは、試料12の温度を所定の温度Tsに維持した状態で、スイッチ19a,19bをオフからオンに切り替える。これにより、励起キャリアの発生に必要な電圧(以下、「トラッピング電圧」ともいう。)が、電圧源20から試料12に印加される。トラッピング電圧を印加する時間tsetは、トラップをキャリアで満たすのに必要な時間
を考慮して設定(調整)される。このとき、必要に応じて、トラッピング電圧の印加とあわせて、光照射部13から試料12に所定波長の光を照射してもよい。これにより、試料12の内部では、励起キャリア(電子、正孔)が発生するとともに、この励起キャリアが、伝導帯と価電子帯との間の禁制帯Egにおいて、あるエネルギー準位(以下、「トラップ準位」ともいう。)に捕獲される。すなわち、励起によって発生した電子と正孔は、それぞれトナー準位とアクセプター準位に捕獲される。このとき、キャリアが捕獲されるトラップ準位は、トラップエネルギーの深さ(以下、「トラップ深さ」ともいう。)として捉えることができる。いずれのトラップ準位に、どの程度のキャリアが捕獲されるかは、試料12の特性によって異なる。
【0044】
(第3ステップ)
第3ステップでは、スイッチ19a,19bをオンからオフに切り替えることにより、トラッピング電圧の印加を停止し、この状態をあらかじめ設定された保持時間tgsetだ
け保持する。保持時間tgsetは、トラップに捕獲すべきキャリア以外のキャリア(以下
、「余剰キャリア」ともいう。)を禁制帯から排除するのに必要な時間に応じて設定(調整)される。
【0045】
(第4ステップ)
第4ステップでは、スイッチ19a,91bをオフからオンに切り替えることにより、トラッピング電圧と逆極性のコレクティング電圧を電圧源20によって試料12に印加する。また、それと同時に、試料室10内の試料12を温度制御部2により一定速度で昇温させる。そして、この昇温過程でキャリアの解放により流れる電流(TSC)を電流計測部21で測定する。
【0046】
ここで、説明の便宜上、禁制帯Egの各局在トラップに捕獲されたキャリアのうち、一部のキャリアは相対的に浅いトラップに捕獲され、他のキャリアは相対的に深いトラップに捕獲されているものとする。そうした場合、昇温過程において、ある温度域に達すると、相対的に浅いトラップに捕獲されていたキャリアが解放され、その後、さらに温度が上昇して、ある温度域に達すると、相対的に深いトラップに捕獲されていたキャリアが解放される。つまり、各トラップに捕獲されたキャリアは、昇温過程においてトラップ深さの浅いほうから先に解放される。このため、それぞれの温度域に達したときのキャリアの解放にともない、電流計測部21で計測されるTSCの値が一時的に上昇する。このため、TSC測定によって得られた測定データを、縦軸にTSC、横軸に温度をとってグラフにプロットすると、2つのピークをもつ山形の分布になる。
【0047】
本実施の形態においては、上述した第1ステップから第4ステップを一つのサイクルとするTSC測定を、第4ステップでの温度制御の方法を変えて2回行う。
1回目のTSC測定では、あらかじめ決められた昇温開始温度(本形態例では80K)から昇温終了温度の全温度範囲にわたって一定速度で連続的に昇温させる。このため、昇温工程を実施した場合は、上記の全温度範囲にわたる昇温過程でのキャリアの解放によって流れるTSCの測定データが得られる。このとき、測定によって得られた測定データをもとに保持時間tgsetの適否を判断し、保持時間tgsetが不足している場合は、保持時間tgsetを現在の設定よりも長くするように温度制御条件を変更して、TSC測定をや
り直してもよい。
【0048】
2回目のTSC測定では、上述した全温度範囲を分割し、一定速度の部分昇温を複数回にわたって繰り返す。このため、第4ステップにおいては、複数回の部分昇温ごとに、昇温過程でのキャリアの解放によって流れるTSCの測定データが得られる。このような温度制御の手法は部分昇温法とも呼ばれる。以下、部分昇温法について、さらに詳しく説明する。
【0049】
部分昇温法は、試料の昇温と冷却(急冷)を繰り返す手法である。図5(A),(B)に部分昇温法の概念を示す。部分昇温法では、図5(A)の矢印で示すように、ある温度から昇温を開始した後、途中で昇温を停止して急冷し、その後、再び昇温を開始する。以降は、昇温を停止する温度と昇温を再開する温度を徐々に高温側にシフトさせながら、上記の温度制御を繰り返す。これにより、図5(B)に示すように、各回の部分昇温ごとに、TSCの立ち上がり分布U1,U2が得られる。
【0050】
以下に、部分昇温法の具体的な温度制御条件の一例を記述する。
まず、説明の前提として、温度制御部2による温度の可変範囲において、キャリアを凍結するための温度を80Kとし、この80Kを1回目の部分昇温によるTSC測定の昇温開始温度とするものとする。また、1回あたりの部分昇温の温度変化を30Kとする。そして、「昇温開始」→「昇温停止」→「急冷」を一つのサイクルとする部分昇温を複数回
に分けて行うものとする。また、前回の部分昇温と今回の部分昇温では、昇温開始温度を10Kずつシフトさせることにする。
【0051】
そうした場合、1回目の部分昇温では、試料12を80Kから110Kまで一定速度で昇温させ、その後、試料12を急冷する。2回目の部分昇温では、試料12を90Kから120Kまで一定速度で昇温させ、その後、試料12を急冷する。3回目以降も同様に部分昇温を行う。そして、最終回の部分昇温では、試料12を160Kから190Kまで一定速度で昇温させ、その後、試料12を急冷する。これにより、昇温工程においては、各回の部分昇温ごとに、TSCの測定データが得られる。
【0052】
このような部分昇温法によるTSC測定によって測定データが得られたら、その後、データ解析部41は、アレニウスプロットとその傾き計算を行う。以下、説明する。
【0053】
(アレニウスプロット:F3)
まず、データ解析部41は、上述した部分昇温法によるTSC測定によって得られた測定データを取り込み、この測定データを用いてアレニウスの式に基づくアレニウスプロットを行う。以下に、アレニウスの式を記述する。
TSC∝exp(−E/kT)
ここで、「ITSC」は熱刺激電流、「E」は活性化エネルギー、「k」はボルツマン定
数、「T」は絶対温度である。
【0054】
アレニウスプロットは、図6に示すように、縦軸に熱刺激電流密度(pA/cm2)の
対数、横軸に温度(K)の逆数(1/T)をとったものである。データ解析部41は、各回の部分昇温の測定データごとにアレニウスプロットを行う。これにより、上述のように昇温開始の温度を80K〜160Kの範囲で10Kずつシフトさせたときの各測定データのプロットが得られる。
【0055】
(傾きを計算:F4)
次に、データ解析部41は、上記のアレニウスプロットのデータ群から、各昇温開始温度に対応するアレニウスプロットの傾きを計算によって求める。アレニウスプロットの傾きは、たとえば、最小二乗法による直線近似によって求めることができる。その際、複数の昇温開始温度ごとにアレニウスプロットのデータ群のすべてを用いるのではなく、上記図6に示すように、各々の昇温開始温度ごとにアレニウスプロットの立ち上がり部分(図中、符号Dで囲む部分)のデータ群だけを用いて、アレニウスプロットの傾きを求める。傾きの計算に使用するデータ群の範囲は、あらかじめデフォルトで設定してもよいし、ユーザーが入力操作部5を介して指定してもよい。
【0056】
次に、データ解析部41は、上述のように求めたアレニウスプロットの傾きから活性化エネルギーを求める。具体的には、アレニウスプロットの傾きが“−E/k”で表されることから、これにボルツマン定数“k”を乗算することにより、活性化エネルギー“E”を求める。活性化エネルギーは、昇温開始温度(80K、90K、…、160K)ごとに求める。こうして求めた活性化エネルギーは、キャリアのトラップ深さを示すエネルギーに相当する。
【0057】
(グラフデータを生成:F5)
次に、データ生成部42は、データ解析部41が求めたアレニウスプロットの傾きを、活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフにプロットしたグラフデータを生成する。図7は活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフである。このグラフでは、縦軸に活性化エネルギー(トラップの深さ)をとり、横軸に温度をとっている。そして、昇温開始温度ごとに、上記の計算によって求めた活性化エネルギーの値をプロットしている。この図か
ら分かるように、昇温開始温度が低い低温側(80K〜100K)では、温度の変化に対して活性化エネルギーの変化が小さい平坦部Pが存在している。また、それよりも昇温開始温度が高い高温側(110K〜160K)では、温度の変化に対して活性化エネルギーの変化が大きい傾斜部Sが存在している。
【0058】
ここで、上記図7のプロットの低温側に平坦部が現れる理由について説明する。
まず、TSC測定のために捕獲凍結されたキャリアは、試料を一定速度で昇温させたときに、エネルギー準位が低い(トラップの深さが浅い)ところから順に解放されるのが通常である。このため、昇温による温度の変化に対して、キャリアが解放されるトラップの深さは段階的に深くなる。したがって、活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフのプロットは、昇温開始温度(80K)を起点とした右上がりの傾斜となる。
【0059】
ただし、トラップの深さがごく浅いところ(数十meV〜200meV程度)に捕獲されるキャリアの中には、トラップの深さが同じであっても、トラップの緩和時間が異なるキャリアが混在する場合がある。その場合は、凍結状態から昇温を開始しても、ある温度に達するまでは、同じトラップの深さに捕獲されていたキャリアが、それぞれ異なる緩和時間に応じた温度で解放される。
【0060】
たとえば、図8(A)に示すように、同じトラップの深さEtrに、緩和時間が異なるキャリアa,b,cが混在して捕獲凍結されていた場合を考える。この場合、キャリアaの緩和時間が最も短く、キャリアcの緩和時間が最も長いと仮定する。そうすると、これらのキャリアa,b,cは、一定速度の昇温過程において、次のように解放される。
まず、昇温過程において、温度Taに達すると、図8(B)に示すように、キャリアaが解放される。次に、温度Taよりも高い温度Tbに達すると、図8(C)に示すように、キャリアbが解放される。次に、温度Tbよりも高い温度Tcに達すると、キャリアcが解放される。その結果、上記図7のグラフの低温側には、温度の変化に対して活性化エネルギーがほとんど変化しないプロットの部分(平坦部P)が現れる。
【0061】
低温側のプロットに平坦部が現れるかどうかは、試料(材料)の特性によって決まる。言い換えると、平坦部の有無や、平坦部に含まれるプロットの温度幅は、試料の特性を評価する一つの指標となりうる。特に、近年においては、平坦部の存否が各種材料の特性を評価するうえで重要な要素になりつつある。そこで、本実施の形態においては、平坦部に着目して試料の特性を評価し、この評価結果を表示する機能を熱刺激電流測定装置にもたせた。以下に、平坦部の抽出方法、試料の評価方法、評価結果の表示方法を説明する。
【0062】
(平坦部を抽出:F6)
まず、抽出部43による平坦部の抽出方法について説明する。
抽出部43は、活性化エネルギーと温度の相関を上記図7のようにグラフ化したときのプロットの平坦部Pを抽出する。本実施の形態においては、抽出部43は、データ生成部42が生成したグラフデータを用いて、活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフの低温側のプロットの平坦部Pを抽出する。平坦部Pの抽出は、次のように行う。すなわち、低温側にプロットされるデータを対象に、そのエネルギー変動幅が、あらかじめ材料ごとに設定された活性化エネルギーのエネルギー範囲(以下、「基準エネルギー範囲」ともいう。)に収まっているプロットの部分を、平坦部Pとして抽出する。平坦部Pの抽出に適用するエネルギー範囲のデータは、材料名に対応付けて記憶部8に記憶しておき、これを抽出部43が読み出すようにすればよい。また、これ以外にも、たとえば、TSC測定前やTSC測定後にユーザーが入力操作部5を用いて指定したエネルギー範囲を適用して平坦部を抽出してもよい。
【0063】
以下に、具体的な数値例を2つ挙げて、平坦部の抽出の仕方を説明する。
【0064】
(第1の数値例)
まず、平坦部を抽出するための基準エネルギー範囲が、0.06eV以上、0.07eV以下の範囲(エネルギー幅で0.01eV以下)に設定されているものとする。また、上記図7において、昇温開始温度が80Kのときの活性化エネルギーは0.06eV、90Kのときの活性化エネルギーは0.06eV、100Kのときの活性化エネルギーは0.06eV、110Kのときの活性化エネルギーは0.08eVであるとする。そうした場合、抽出部43は、最初に、昇温開始温度が80Kと90Kのときの活性化エネルギーの変化量を求め、この変化量が基準エネルギー範囲に収まっているかどうかを確認する。この数値例では、昇温開始温度が80Kと90Kのときの活性化エネルギーの変化量が、基準エネルギー範囲に収まる。そうすると、抽出部43は、これに続いて、昇温開始温度が80Kと90Kと100Kのときの活性化エネルギーの変化量(最大値と最小値の差)を求め、この変化量が基準エネルギー範囲に収まっているかどうかを確認する。この数値例では、昇温開始温度が80Kと90Kと100Kのときの活性化エネルギーの変化量が、基準エネルギー範囲に収まる。そうすると、抽出部43は、これに続いて、昇温開始温度が80Kと90Kと100Kと110Kのときの活性化エネルギーの変化量を求め、この変化量が基準エネルギー範囲に収まっているかどうかを確認する。この数値例では、昇温開始温度が80Kと90Kと100Kと110Kのときの活性化エネルギーの変化量が、基準エネルギー範囲を超える。このため、抽出部43は、低温側のプロットにおいて、80K〜100Kの範囲を平坦部Pと抽出する。
【0065】
(第2の数値例)
まず、平坦部を抽出するための基準エネルギー範囲が、0.06eV以上、0.07eV以下の範囲(エネルギー幅で0.01eV以下)に設定されているものとする。また、図示はしないが、昇温開始温度が80Kのときの活性化エネルギーは0.06eV、90Kのときの活性化エネルギーは0.08eVとなっていて、100K以降も同様の変化量で活性化エネルギーが変化(増加)しているものとする。そうした場合、抽出部43は、最初に、昇温開始温度が80Kと90Kのときの活性化エネルギーの変化量を求め、この変化量が基準エネルギー範囲に収まっているかどうかを確認する。この数値例では、昇温開始温度が80Kと90Kのときの活性化エネルギーの変化量が、基準エネルギー範囲を超える。このため、抽出部43は、低温側のプロットにおいて、平坦部が存在しないと判断する。
【0066】
(試料の評価:F7)
次に、試料の評価方法について説明する。
まず、評価部44は、上述のように抽出部43が抽出した平坦部に含まれるプロットの温度幅を求める。たとえば、上記第1の数値例で平坦部を抽出した場合は、この平坦部に含まれるプロットの温度幅が20K(80K〜100K)と求まる。また、第2の数値例で平坦部を抽出した場合は、この平坦部に含まれるプロットの温度幅が0Kと求まる。ここで求めた「温度幅が0Kの場合」とは、「実質的に平坦部が存在しない場合」に相当する。
【0067】
次に、評価部44は、先に求めた平坦部の温度幅と、あらかじめ設定された良否判定条件とを比較し、この比較結果に基づいて試料の特性の良否を評価する。良否判定条件には、あらかじめ材料ごとに設定された基準温度幅を用いる。基準温度幅は、試料の材料名や用途に対応付けて記憶部8に記憶しておき、これを評価部44が読み出すようにすればよい。具体的な評価方法を記述すると、評価部44は、試料が半導体膜として使用されるものであれば、先に求めた平坦部の温度幅が基準温度幅よりも大きいかどうかにより、試料の特性の良否を判定する。たとえば、基準温度幅が10Kに設定されている場合に、平坦部の温度幅が20Kであれば、試料の特性を「良」と判定し、平坦部の温度幅が0Kであ
れば、試料の特性を「不良」と判定する。また、評価部44は、試料が絶縁膜として使用されるものであれば、先に求めた平坦部の温度幅が基準温度幅よりも小さいかどうかにより、試料の特性の良否を判定する。たとえば、基準温度幅が10Kに設定されている場合に、平坦部の温度幅が20Kであれば、試料の特性を「不良」と判定し、平坦部の温度幅が0Kであれば、試料の特性を「良」と判定する。
【0068】
ここで、具体的な試料の材料名を挙げて、その特性評価に適用する良否判定条件を図9(A),(B)に示す。
【0069】
図9(A)においては、ナノポーラスチタニア(TiO2)を試料とした場合の良否判
定条件を示している。この場合、平坦部の抽出に適用するエネルギー範囲を0.09〜0.11eV(エネルギー幅で0.02eV以下)に設定し、このエネルギー範囲を適用して抽出した平坦部の温度幅が83〜123K(≧40K)の条件を満たすときに、試料の特性を「良判定」とする。
【0070】
図9(B)においては、有機EL発光層(Alq3)を試料とした場合の良否判定条件を示している。この場合、平坦部の抽出に適用するエネルギー範囲を0.07〜0.08eV(エネルギー幅で0.01eV以下)に設定し、このエネルギー範囲を適用して抽出した平坦部の温度幅が83〜103K(≧20K)の条件を満たすときに、試料の特性を「良判定」とする。
【0071】
(評価結果を表示:F8)
次に、評価結果の表示方法について説明する。ここでは代表的な3つの表示例を挙げて説明する。いずれの表示例も、表示制御部7の制御下において表示部6に表示されるものである。
【0072】
図10に評価結果の第1の表示例を示す。この表示例においては、試料の材料名、平坦部の抽出に適用したエネルギー範囲、平坦部の温度幅(実測値)、良否判定条件とした基準温度幅、試料の特性の良否判定結果、などの情報を表示している。具体的には、試料の材料名を“SiC(窒化シリコン)”、平坦部の抽出に適用したエネルギー範囲を“0.06〜0.07eV(エネルギー幅で0.01eV)”、平坦部の温度幅(実測値)を“20K(80〜100K)”、基準温度幅を“≧10K”、試料の特性の良否判定結果を“良”と表示している。
【0073】
熱刺激電流測定装置の使用目的によっては、単に試料の特性の良否が分かればよい場合もありうる。その場合は、良否判定の結果(良又は不良)だけを評価結果として表示してもかまわない。また、良否判定結果以外の情報については、その全部を表示せずに、少なくとも一つを表示するだけでもよい。
【0074】
また、良否判定の結果は、良、不良の区別だけでなく、複数の閾値等を用いて評価ランクを細分化することにより、たとえば、優(ランク1)、良(ランク2)、普通(ランク3)、やや劣る(ランク4)、劣る(ランク5)などにランク分けし、いずれかのランクを評価結果として評価してもよい。
【0075】
図11に評価結果の第2の表示例を示す。この表示例においては、上述した評価結果とあわせて、データ生成部42が生成したグラフデータに基づくグラフを表示している。このグラフは、縦軸に活性化エネルギー、横軸に温度をとって、アレニウスプロットの傾きをプロットしたものである。このとき、表示部6の画面を見たユーザーが一目で平坦部を判別できるように、グラフの中に平坦部を示す目印Mを表示してもよい。たとえば、図示のように平坦部を囲む囲み線を目印Mとして表示してもよい。また、目印が一層目立つよ
うに強調表示してもよい。強調表示の手法としては、たとえば、上記の囲み線を目印とする場合は、他の部分と異なる色で表示したり、他の線よりも太い線で表示したり、他の線と線種を変えて表示したりすればよい。
【0076】
また、入力操作部5を用いてユーザーが表示の切り替えを指示した場合に、この指示にしたがって、表示制御部7が、表示部6の画面に表示するグラフを切り替える構成を採用してもよい。以下、表示の切り替えにともなう具体的な処理形態の一例を記述する。
【0077】
まず、上記図11に示す表示画面内のグラフ中に、「アレニウスプロットを見る」という文字付きのボタンB1を表示しておく。そして、表示の切り替えを希望するユーザーは、表示部6の画面がタッチパネル付き画面であれば、このボタンB1の部分をペンや指先等で押圧する。また、マウスで操作する場合は、カーソルをボタンB1の位置に合わせてクリックする。このような操作によって表示の切り替えの指示がなされると、表示制御部7は、その指示にしたがって表示部6の画面の表示を、たとえば図12に示すアレニウスプロットの画面に切り替える。
【0078】
さらに、上記図12の表示画面のグラフ中にも「もとの表示に戻る」という文字付きでボタンB2を表示しておく。そして、このボタンB2をユーザーがタッチパネル操作やマウス操作等によって押下(クリック)したときに、この操作による表示切り替えの指示にしたがって表示制御部7が表示部6の画面の表示を、上記図11に示すグラフの画面に切り替える。
【0079】
上記図11に示すグラフを表示する場合は、アレニウスプロットの傾き計算に用いたデータの範囲Dをグラフ(アレニウスプロット)中に表示してもよい。また、入力操作部5を用いてユーザーがデータの範囲Dを変更し、その後、ボタンB2をマウス操作等で選択した場合は、変更後の範囲Dのデータを用いて再度、傾き計算した結果を反映させたグラフを表示する構成としてもよい。
【0080】
また、図示はしないが、図11の表示画面または図12の表示画面に、表示切り替え用のボタンを追加し、このボタンをマウス操作等で選択することにより、部分昇温ごとのTSC測定の測定結果(TSCと温度の相関)を示すグラフの表示に切り替え可能な構成としてもよい。
【0081】
図13に評価結果の第3の表示例を示す。この表示例においては、上記第1の表示例と比較して、良否判定結果の表示形式が異なる。具体的には、試料の用途ごとに良否判定を行い、その判定結果を表示している。試料の用途ごとの良否判定は、試料の用途ごとに設定された良否判定条件に基づいて評価部44で行う。そして、この判定結果を表示部6の画面に表示する。この場合は、あらかじめユーザーが試料の用途を指定しなくても済む。また、ユーザーは、表示された評価結果をみて、どのような用途に適した試料であるかを判断することができる。
【0082】
以上の表示例を含めて、表示部6に表示される内容(表示画面)は、デフォルトの設定により、又は入力操作部5を介したユーザーからの指示にしたがって、本装置が備える記憶部8に記憶させてもよい。また、本装置に外部入力又は外部出力のための入出力インターフェースを設け、この入出力インターフェースにUSBメモリ等を接続して当該メモリに画像データとして記憶させてもよい。また、上記の入出力インターフェースにケーブル等を用いてプリンタを接続し、表示画面の画像データを用紙に印刷させてもよい。
【0083】
<4.実施の形態の効果>
本発明の実施の形態に係る熱刺激電流測定装置においては、アレニウスプロットの傾き
を、活性化エネルギーと温度の相関を示すグラフにプロットした場合に、低温側のプロットに現れる平坦部を抽出し、この平坦部の温度幅に基づく試料の特性評価の評価結果を画面に表示する構成を採用している。これにより、TSC測定に不慣れなユーザーであっても、上述した平坦部という評価指標に基づいて、試料の評価を簡易に迅速に行うことができる。このため、非常に使い勝手のよい熱刺激電流測定装置を提供することができる。
【0084】
<5.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0085】
たとえば、上記実施の形態においては、活性化エネルギーと温度の相関を示す相関データを得るために、部分昇温法によってTSC測定を行うこととしたが、本発明はこれに限らない。たとえば、TSC測定の対象となる全温度範囲にわたって一定速度で連続的に昇温させて取得した、グローバルなピークを有する測定データを、情報処理部4による数学的な手法に分離することより、上記相関データを得ることも可能である。具体的には、図14に示すように、グローバルなピークを有する測定データを、ピーク分離法によって分離(図例ではP1〜P5)することにより、上記相関データを得ることが可能である。その場合は、TSC理論式による分離が好ましいが、ガウシアンによる分離等であってもよい。
【0086】
また、上記実施の形態においては、活性化エネルギーと温度の相関を図7のようにグラフ化したときに、低温側に現れるプロットの平坦部を抽出部43で抽出し、この抽出結果を基に、当該平坦部に含まれるプロットの温度幅を評価パラメータとして試料の特性を評価するものとしたが、本発明はこれに限らない。たとえば、上記図7のグラフデータを用いて得られる図15のグラフデータに基づいて試料の特性を評価してもよい。図15は縦軸に単位体積・単位エネルギーあたりのキャリアの数(cm-3 eV-1)又は単位面積・単位エネルギーあたりのキャリアの数(cm-2 eV-1)、横軸に活性化エネルギー(eV)をとってグラフ化したものである。このグラフデータは、上記図7に示すグラフデータを用いて、活性化エネルギー(トラップ深さ)ごとに、当該エネルギー準位に捕獲されているキャリアの数を積算することにより得られるものである。図15に示すグラフでは、上記図7に示す平坦部Pの存在により、その抽出に用いた基準エネルギー範囲(0.06〜0.07eV)において、単位体積・単位エネルギーあたりのキャリアの数が特に多くなる(図中、符号Ecを参照)。そこで、平坦部に対応する基準エネルギー範囲のキャリアの数を、上述したプロットの温度幅に代わる評価パラメータとし、当該キャリアの数とあらかじめ設定された基準値との比較結果(大小関係)に基づいて試料の特性を評価してもよい。また、表示部6の画面に表示される情報の一つに、図15に示すグラフを含めてもよい。
【0087】
また、熱刺激電流測定装置の動作モードとして、試料の材料名が未知の場合は、部分昇温法によるTSC測定を採用し、試料の材料名が既知の場合は、上述した数学的な手法を採用するように、主制御部3が動作モードを切り替える構成としてもよい。試料の材料名が未知の場合としては、入力操作部5を用いてユーザーが試料の材料名を指定しなかった場合などが考えられ、既知の場合としては、入力操作部5を用いてユーザーが試料の材料名を指定した場合などが考えられる。
【符号の説明】
【0088】
1…TSC測定部
5…入力操作部
6…表示部
7…表示制御部
8…記憶部
41…データ解析部
42…データ生成部
43…抽出部
44…評価部
図1
図3
図8
図9
図10
図11
図13
図2
図4
図5
図6
図7
図12
図14
図15