線を用いたX線回折で測定した場合に、回折角2θが24°〜26°の範囲に現れる酸化珪素に起因するピークの高さαと、回折角2θが28°〜29°の範囲に現れるSiに起因するピークの高さβとが、10
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化および軽量化との観点から、高エネルギー密度の二次電池の開発が強く要望されている。現在、高エネルギー密度の二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池およびポリマー電池等がある。このうち、リチウムイオン二次電池は、ニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて格段に高寿命かつ高容量であることから、その需要は電源市場において高い伸びを示している。
【0003】
図1は、コイン形状のリチウムイオン二次電池の構成例を示す断面図である。リチウムイオン二次電池は、同図に示すように、正極1、負極2、電解液を含浸させたセパレータ3、および正極1と負極2との電気的絶縁性を保つとともに電池内容物を封止するガスケット4から構成されている。充放電を行うと、リチウムイオンがセパレータ3の電解液を介して正極1と負極2との間を往復する。
【0004】
正極1は、対極ケース1aと対極集電体1bと対極1cとで構成され、対極1cにはコバルト酸リチウム(LiCoO
2)やマンガンスピネル(LiMn
2O
4)が主に使用される。負極2は、作用極ケース2aと、作用極集電体2bと、作用極2cとで構成され、作用極2cに用いる負極材は、一般に、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な活物質(負極活物質)と導電助剤およびバインダーとで構成される。
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極活物質として、Siを使用することが可能であるが、Siは、リチウムイオンの吸蔵・放出時の膨張および収縮が大きく、珪素粉末を用いた負極では、この膨張および収縮により、電流の経路が破壊されたり、珪素粉末の粒子自体が破壊されることがある。そのため、負極活物質としてSiを用いたリチウムイオン二次電池は、充放電の繰り返しによる放電容量の維持性(以下「サイクル特性」という。)が不十分である。
【0006】
そこで、SiO等、SiO
x(0<x≦2)で表される酸化珪素の粉末を用いることが、試みられている。ここで、酸化珪素とは、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し、析出させて得られた非晶質の珪素酸化物の総称である。酸化珪素は、充放電時のリチウムイオンの吸蔵・放出による膨張および収縮が、Siに比して、小さく、構造の崩壊や不可逆物質の生成等による劣化が少ないことから、有効な充放電容量が大きな負極活物質となり得る。
【0007】
しかし、酸化珪素粉末を負極活物質として使用したリチウムイオン二次電池の初期効率(初回充電容量に対する初回放電容量の割合)は、たとえば、70%程度と低い(不可逆容量が大きい)。また、当該リチウムイオン二次電池のサイクル特性は、負極活物質としてSiを用いた場合に比して改善されるが、充放電サイクルを50回繰り返したときのサイクル特性は、たとえば、65%程度であり、十分に高いとはいえない。
【0008】
下記特許文献1には、酸化珪素粉末、および珪素粉末の双方を用いた負極が開示されている。より詳細には、特許文献1に開示された負極は、メディアン径D
50が1〜20μmの、一般式SiO
x(1.0≦x<1.6)で表される非晶質珪素酸化物粉末と、メディアン径D
50が0.1〜20μmの多結晶珪素粉末とからなる。これにより、「酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、酸化珪素の最大の解決課題であった低い初回充放電効率の問題を解決し、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池負極が得られる」とされている。
【0009】
また、負極材としての抵抗値を低減するために、負極材用粉末(たとえば、酸化珪素粉末)を炭素で被覆(コート)することが試みられている。この粉末を用いることにより、従来に比して、サイクル特性が良好なリチウムイオン二次電池の負極が得られるとされている。特許文献1においても、非晶質珪素酸化物粉末、または多結晶珪素粉末に炭素被覆することが試みられている。
【0010】
しかし、本発明者らが確認したところ、引用文献1に開示された負極は、サイクル特性は十分に高いものではなく、改善の余地がある。
【0011】
また、負極活物質としてSiを用いる場合、P(リン)等の他元素をSiにドープすることによっても、負極の導電性を高くすることができる。他元素として、たとえば、Pをドープした珪素粉末を負極活物質に用いて、リチウムイオン二次電池を高容量化できる。しかし、他元素をドープすることにより、Siは活性化され、そのようなSiがリチウムイオン二次電池内で電解液に接触すると、電解液は当該Siとの反応により、劣化する。これにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪化する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.本発明の導電助剤
本発明の導電助剤は、酸化珪素粉末と混合して、本発明の負極材用粉末を製造するために用いられ、「珪素粉末を含み、前記珪素粉末の少なくとも一部が、炭素被覆されており、体積メディアン径D
50が、0.01μm≦D
50≦2μmの関係を満たし、炭素含有率が、0.6〜7.5質量%であり、炭素の密度ρ(g/m
3)、ならびに当該導電助剤の炭素含有率a(質量%)およびBET比表面積S(m
2/g)から、a/(ρ・S)で計算される炭素被覆膜厚が、1×10
-3μm〜0.1μmである」ことを特徴とする。
【0021】
珪素粉末が炭素被覆されていることにより、この導電助剤は、高い導電性を有する。したがって、この導電助剤と酸化珪素粉末とを混合することにより、導電性が高い負極材用粉末を得ることができる。また、この導電助剤自体も、リチウムイオンの吸蔵・放出能力を有するので、このような負極材用粉末を用いて負極を形成することにより、この負極が備えられたリチウムイオン二次電池(以下、単に、「電池」ともいう。)の容量を高くすることができる。
【0022】
体積メディアン径D
50は、体積基準の累積粒度分布の微粒側(または粗粒側)から累積50%の粒径であり、粉体の平均的な粒径の指標となる。累積粒度分布は、たとえば、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0023】
D
50≦2μmであることにより、この導電助剤を用いて負極材用粉末を製造し、この負極材用粉末を用いて負極を形成すると、この負極が備えられた電池の充放電時に、リチウムイオンの吸蔵・放出に起因して、導電助剤中の珪素粒子が膨張・収縮して、当該粒子が破壊されることを、防止または抑制することができる。すなわち、D
50が2μmより大きいと、珪素粒子の膨張・収縮により生ずる応力が大きくなり、粒子が破壊される。
【0024】
また、負極材用粉末を構成する粒子が、過度に小さく、比表面積が大きい場合は、電池に含まれる電解液との反応性が高くなり、電解液が劣化することがある。この導電助剤は、0.01μm<D
50であることにより、電解液との反応性を低減することができる。また、0.01μm<D
50であることにより、負極材用粉末をスラリーにして負極を形成する際に必要となるバインダーの量を低減できる。
【0025】
炭素被覆膜厚が1×10
-3μm〜0.1μmであることにより、負極材として、十分に高い導電性を得つつ、電池の充放電時に、この導電助剤の膨張・収縮により炭素被膜が破断することを抑制できる。このような炭素被覆膜厚は、体積メディアン径D
50が、0.01μm≦D
50≦2μmの関係を満たし、炭素含有率が、0.6〜7.5質量%であることにより、得やすくなる。炭素被覆膜厚を計算する際、炭素の密度は、文献値を採用することができ、たとえば、2.2×10
6g/m
3とすることができる。
【0026】
2.本発明の導電助剤の製造方法
この導電助剤は、体積メディアン径D
50が0.01μm〜2μmである珪素粉末に対して、たとえば、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)により、炭素被覆をすることにより得ることができる。熱CVDは、たとえば、C
3H
8(プロパン)を含むAr気流中で、珪素粉末を加熱することにより行うことができる。このような方法で炭素被膜を形成すると、珪素粉末の体積メディアン径D
50は、炭素被膜を形成する前後で、ほとんど変わらない。
【0027】
3.本発明の負極材用粉末
本発明の負極材用粉末は、「リチウムイオン二次電池の負極材用粉末であって、Si、OおよびCを含有し、当該負極材用粉末全体の平均組成として、モル比で、O/Si比xが、0.6≦x≦0.95の関係を満たし、CuK
α線を用いたX線回折で測定した場合に、回折角2θが24°〜26°の範囲に現れる酸化珪素に起因するピークの高さαと、回折角2θが28°〜29°の範囲に現れるSiに起因するピークの高さβとが、10
-1<β/α<10の関係を満たし、当該負極材用粉末中の炭素含有率が、0.03〜3.0質量%であり、当該粉末の粉体比抵抗が、1Ωcm〜10
2Ωcmである」ことを特徴とする。
【0028】
この負極材用粉末は、たとえば、
図1に示すリチウムイオン二次電池において、作用極2cの材料として使用することができる。
【0029】
負極材用粉末全体の平均組成として、モル比で、0.6≦O/Si≦0.95であることにより、この負極材用粉末を用いた電池のサイクル特性と電池の初期充放電容量(電池容量)とが、いずれも高くなるようにすることができる。O/Si<0.6であると、サイクル特性が悪くなり、0.95<O/Siであると、初期放電容量、および初期効率が小さくなる。
【0030】
X線回折測定に関し、高さαは、回折強度曲線上において、回折角2θが24°〜26°の範囲の測定値の最大値から、回折角2θが20°の点と回折角2θが40°の点とを結ぶ直線上で、上記最大値に対応する回折角2θにおける強度を差し引いたものである。当該差し引くべき強度は、回折角2θが20°の回折強度と回折角2θが40°の回折強度との平均値としてもよい。酸化珪素(SiO
x;0<x≦2)は、非晶質であるので、回折強度曲線において、酸化珪素に起因するピークは、結晶(たとえば、Siの結晶)に起因するピークに比して、著しく幅が広いもの(いわゆるハロー)となり、たとえば、20〜40°に渡って現れる。
【0031】
高さβは、回折強度曲線上において、回折角2θが28°〜29°の範囲のピーク強度から、回折角2θが28.2°の点と回折角2θが28.8°の点とを結ぶ直線上で、上記ピーク強度に対応する回折角2θにおける強度を差し引いたものである。当該差し引くべき強度は、回折角2θが28.2°の回折強度と回折角2θが28.8°の回折強度との平均値としてもよい。
【0032】
β/αは、酸化珪素粉末の含有量に対する珪素粉末の含有量の割合に対応する。10
-1<β/α<10になるような割合で、酸化珪素粉末と、珪素粉末とを含むことにより、上述の「電池の初期効率、およびサイクル特性を高くする」という効果が得やすくなる。
【0033】
粉体比抵抗が1Ω〜10
2Ωであることにより、この負極材用粉末を用いた負極の導電性を高くすることができ、電池のサイクル特性を向上させることができる。炭素含有率を高くして、粉体比抵抗を1Ω未満にすると、炭素被膜が厚くなりすぎて、電池の充放電時に、炭素被膜が破断しやすくなる。
【0034】
粉体比抵抗は、たとえば、電極間隔が3.0mmで、電極半径が0.7mmである四探針プローブを用い、直径が10.0mmで、重量が2.0020〜2.0100gの円板状の試料に、軸方向に荷重をかけながら測定することができる。荷重は、たとえば、3.05±0.02kN、6.05±0.02kN、9.05±0.02kN、12.05±0.02kN、15.05±0.02kN、および18.05±0.02kNと、順次大きくしながら、各加重で粉体比抵抗を測定し、18.05±0.02kNで測定したときの値を、最終的な粉体比抵抗の値とすることができる。
【0035】
導電助剤と混合する酸化珪素粉末の体積メディアン径D
50は、この導電助剤の体積メディアン径D
50より大きいことが望ましく、具体的には、4〜20μmであることが望ましい。この場合、負極において、大略的に、より大きな粒径を有する酸化珪素粒子の隙間が、より小さな粒径を有する珪素粒子(炭素被覆されたもの)で埋められた構造が得られる。このような構造の負極では、電池の充放電時に、珪素粒子が、酸化珪素粒子よりも大きな膨張率で膨張・収縮しても、負極内の電流の経路が破壊され難い。これにより、サイクル特性が向上する。このような効果を得るために、導電助剤と混合する酸化珪素粉末の体積メディアン径D
50は、4〜15μmであることが、より望ましく、4〜10μmであることが、さらに望ましい。
【0036】
当該負極材用粉末を構成する粒子について、体積基準の累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積50%、および累積90%の粒径をそれぞれD
10、D
50、およびD
90とすると、
2μm≦D
50≦15μm、かつ、
2≦D
90/D
10≦10
の関係を満たすことが望ましい。この負極材用粉末に用いられる導電助剤の体積メディアン径D
50は、2μm未満であるので、負極材用粉末の体積メディアン径D
50が2μm以上であることは、導電助剤と混合される酸化珪素粉末の体積メディアン径D
50が2μm以上であることを意味する。すなわち、2μm≦D
50≦15μmとの関係を満たす負極材用粉末では、酸化珪素粉末の体積メディアン径D
50は、導電助剤の体積メディアン径D
50より大きく、したがって、上述のように、電池評価をしたときに、高いサイクル特性が得られやすい。
【0037】
D
10、D
50、およびD
90についての上記関係を満たす負極材用粉末を用いることにより、電池として高いサイクル特性を得やすい。D
90/D
10は、負極材用粉末において、主として微粒子として存在する珪素と、主として粗粒子として存在する酸化珪素とが、粒径および量に関して、どの程度の割合になっているかの指標となる。D
90/D
10が上記関係を満たすことにより、充放電時の膨張・収縮に対して破壊され難い構造の負極が得られやすい。
【0038】
4.本発明の負極材用粉末の製造方法
この負極材用粉末は、本発明の上記導電助剤と、酸化珪素粉末とを混合して得ることができる。酸化珪素粉末は、公知の方法、たとえば、二酸化珪素と珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し、析出させる方法により、製造することができる。得られた酸化珪素粉末は、たとえば、ボールミルにより粉砕して、所望の体積メディアン径D
50が得られるようにすることができる。
【0039】
このような方法により、粉末全体として、モル比で、Si:Oが、たとえば、1:0.98〜1.10の平均組成を有する酸化珪素粉末が得られる。この酸化珪素粉末と、導電助剤とを、適当な割合で混合して、負極材用粉末全体の平均組成として、モル比で、O/Si比xが、0.6≦x≦0.95の関係を満たすようにすることができる。
【実施例】
【0040】
〈導電助剤の予備試験〉
下記の条件で、本発明の要件を満たす導電助剤(実施例1〜5)、および本発明の要件を満たさない導電助剤(比較例1〜5)を作製した。比較例1は、Pをドープした珪素粉末であり、炭素は被覆しなかった。実施例1〜5、および比較例2〜5は、Pをドープしていない珪素粉末に炭素被覆したものである。炭素被覆は、キルン(回転式熱処理炉)を用いて行った。具体的には、キルン内に、被覆対象の珪素粉末を配置し、ArとC
3H
8(プロパン)とを1:1(体積比)で混合してなる混合気体を、毎分1Lの流量でキルン内に流し、キルンを5rpmで回転させながら加熱することにより、珪素粉末に炭素被覆した。表1に、炭素被覆の条件を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
得られた導電助剤について、体積メディアン径、炭素含有率、粉体比抵抗、および電池評価としてのサイクル特性を測定した。表2に、測定結果を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
体積メディアン径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した。炭素含有率は、燃焼赤外線吸収法により、測定した。粉体比抵抗は、上述の方法、すなわち、荷重を3.05±0.02kNから18.05±0.02kNまで順次大きくしながら、各加重で粉体比抵抗を測定し、18.05±0.02kNで測定したときの値を、最終的な粉体比抵抗の値とする方法により測定した。
【0045】
これらの導電助剤については、BET比表面積も測定し、炭素の密度ρ(g/m
3)、ならびに測定した炭素含有率a(質量%)およびBET比表面積S(m
2/g)から、a/(ρ・S)で計算される炭素被覆膜厚を求めた。計算に際し、炭素の密度ρは、2.2×10
6g/m
3を採用した。表2には、このようにして求めた炭素被覆膜厚を併せて示す。
【0046】
サイクル特性は、得られた導電助剤(実施例1〜5、および比較例1〜5の各々)を用いて負極を作製し、この負極を用いてリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製して測定した。
【0047】
負極は、各導電助剤、ケッチェンブラック(KB)、およびポリイミド(PI)を85:5:10(質量比)で混合し、さらに、n−メチルピロリドンを加えることで作製したスラリーを、厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で30分乾燥後、1cm
2(1cm×1cm)に打ち抜いて、得た。
【0048】
リチウムイオン二次電池は、上記負極と、対極としてリチウム箔とを用い、負極と対極との間に、厚さ30μmのポリエチレン製多孔質フィルムのセパレータであって、電解液を含浸させたものを配置して作製した。電解質は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを1:1の体積比で混合して得た液に、六フッ化リンリチウム(LiPF
6)を、1モル/Lの割合になるように溶解させたものとした。
【0049】
サイクル特性は、株式会社ナガノ製の二次電池充放電試験装置を用いて行った。充電は、電圧が0Vに達するまでは0.1Cの定電流で行い、電圧が0Vに達した後はセル電圧を0Vに保ったまま行った。電流値が20μAを下回った時点で、充電を終了した。放電は、電圧が1.5Vに達するまで0.1Cの定電流で行った。以上の充放電を50サイクル行い、初回放電容量を100としたときの50サイクル目の放電容量の割合を、表2において、サイクル特性として記載している。すなわち、表2のサイクル特性は、充放電を50サイクル行うことによる放電容量の維持率ということができる。
【0050】
電流値の計算に際し、1Cの値は、SiOの放電容量を1500mAh/g、Siの放電容量を2400mAh/gとして計算した。たとえば、負極中の活物質としてのSiOの重量をM(mg)としたとき0.1Cの電流値Iは、
I=1500mAh/g×M×10
-3×0.1
として算出した。
【0051】
表2の総合評価の欄は、サイクル特性の評価結果により、以下の通りとした。
×:35%未満
△:35%以上、かつ40%未満
○:40%以上、かつ55%未満
◎:55%以上
【0052】
表2に示すように、サイクル特性は、実施例1〜5では、いずれも、40%以上であり、このうち、実施例2〜5では、いずれも、50%以上であった。実施例2〜5に比して実施例1でサイクル特性が低くなるのは、炭素被覆膜厚が薄く、粉体比抵抗が高いことに関係しているものと考えられる。
【0053】
これに対して、比較例1〜5では、サイクル特性は、いずれも40%未満であった。
比較例1では、実施例1に比して、粉体比抵抗が低いにもかかわらず、サイクル特性は6割程度しか得られていない。これは、Pドープの珪素粉末が、電解液と反応したことによる。
【0054】
比較例2〜5では、いずれも、珪素粉末は、炭素被覆されているが、本願発明の導電助剤の要件に関して、炭素被覆膜厚が1×10
-3μm〜0.1μmとの要件を満たさず、また、比較例4および5では、体積メディアン径D
50が0.01μm〜2μmとの要件も満たさない。比較例2では、炭素被覆膜厚が薄すぎ、負極の抵抗値が低減できないことに関係して、サイクル特性が低くなったものと考えられる。これに対して、比較例3では、炭素被覆膜厚が厚すぎて、充放電時の珪素粒子の膨張・収縮により炭素被膜が破断して、サイクル特性が低くなったものと考えられる。比較例4では、比較例3と同様に、炭素被覆膜厚が厚すぎることに加え、体積メディアン径D
50が大きいため、充放電時の珪素粒子の膨張・収縮により珪素粒子自体が破壊されて、サイクル特性が低くなったことが考えられる。比較例5では、比較例2と同様に、炭素被覆膜厚が薄すぎることにより、サイクル特性が低いものと考えられる。比較例5は、炭素含有率については、本願発明の導電助剤の要件(0.6〜75質量%)を満たすが、体積メディアン径D
50が小さいことにより、炭素被覆膜厚が薄くなっている。
【0055】
〈実施例〉
表3に示す条件で炭素被覆を行った粉末を用いて(比較例6を除く)、表4に示す条件で、負極材用粉末(実施例6〜9、および比較例6〜10)を作製した。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
実施例6〜9、および比較例7〜10は、珪素粉末に炭素被覆し、この珪素粉末と、酸化珪素粉末とを混合したものである。比較例6は、負極活物質としての酸化珪素粉末自体に、炭素被覆したものであり、珪素粉末は用いていない。比較例6の粉末は、導電助剤として、ケッチェンブラックを含む。表4の「酸化珪素粉末の被覆炭素量」、および「珪素粉末の被覆炭素量」は、導電助剤の炭素含有率に等しい。
【0059】
得られた負極材用粉末について、粉体特性を測定し、電池評価を実施した。表5に、粉体特性測定、および電池評価の結果を示す。
【0060】
【表5】
【0061】
粉体特性として、O/Si比(モル比)、炭素含有率、体積基準の累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積50%、および累積90%の粒径D
10、D
50、およびD
90、CuK
α線を用いたX線回折で、回折角2θが24°〜26°の範囲に現れる酸化珪素に起因するピークの高さα、および回折角2θが28°〜29°の範囲に現れるSiに起因するピークの高さβ、ならびに粉体比抵抗を測定した。D
10、D
90、α、およびβに関しては、表5に、D
90/D
10、およびβ/αの値を示す。
【0062】
電池特性として、得られた負極材用粉末を用いて、上記予備試験と同様の方法により、リチウムイオン二次電池を作製し、初期放電容量、初期効率、およびサイクル特性を測定した。サイクル特性の測定方法は、上記予備試験と同様とした。表5の総合評価の欄は、サイクル特性の評価結果を主な評価項目とし、初期放電容量、および初期効率の評価結果を考慮して、以下の通りとした。
×:不可(△より劣る)
△:不可
○:可
◎:良
【0063】
表5に示すように、電池評価において、本発明の実施例に係る負極材用粉末を用いたものでは、いずれも、高い初期放電容量と、高いサイクル特性とが得られた。
【0064】
本発明の負極材用粉末のX線回折測定の結果の例として、
図2に、実施例6の負極材用粉末の回折強度曲線を示し、
図3に、実施例9の負極材用粉末の回折強度曲線を示す。実施例6および9では、回折角2θが28°〜29°の範囲に現れるSiに起因するピークが明瞭に現れており、β/αは、それぞれ、0.3および3.4となっている(表5参照)。
【0065】
一方、本発明の範囲に入らない比較例に係る負極材用粉末を用いたものでは、いずれも、初期放電容量、およびサイクル特性の少なくとも一方が低かった。
【0066】
図4に、比較例6のX線回折強度曲線を示す。比較例6の負極材用粉末は、珪素粉末を用いずに製造したものであり(表4参照)、このため、回折角2θが28°〜29°の範囲に現れる得るSiに起因するピークは、明瞭には現れていない。これに対応して、β/αは、0.01となっている(表5参照)。比較例6の負極材用粉末は、導電助剤として、ケッチェンブラック(KB)を含むが、粉体比抵抗は、4.2×10
3Ωcmと、本発明の負極材用粉末として規定する粉体比抵抗の範囲に比して高い。比較例6の電池評価で初期放電容量が低いのは、粉体比抵抗が高いことに関係しているものと考えられる。
【0067】
比較例7および8の負極材用粉末は、用いた導電助剤の炭素被覆膜厚が、本発明の導電助剤として規定する炭素被覆膜厚の範囲より小さく、負極材用粉末の粉体比抵抗は、7.6×10
4Ωcm以上と、本発明の負極材用粉末として規定する粉体比抵抗の範囲に比して高い。これは、用いた導電助剤について、体積メディアン径D
50が小さい(比較例7)こと、または珪素粉末の被覆炭素量が少ない(比較例8)ことによる。比較例7および8では、負極材用粉末の粉体比抵抗が高いことにより、電池評価の初期効率が低いものと考えられる。
【0068】
比較例9の負極材用粉末は、用いた導電助剤の被覆炭素量(炭素含有率)が、本発明の導電助剤として規定する炭素含有率の範囲より多く、用いた導電助剤の炭素被覆膜厚は、本発明の導電助剤として規定する炭素被覆膜厚の範囲より厚い。このため、電池の充放電時に、炭素被膜が破断しやすく、これに関係して、比較例9では、電池評価のサイクル特性が低いものと考えられる。比較例9では、用いた導電助剤の被覆炭素量が多いことにより、負極材用粉末としての炭素含有率が、本発明の負極材用粉末として規定する炭素含有率の範囲に比して高くなっている。
【0069】
図5に、比較例10のX線回折強度曲線を示す。回折角2θが28°〜29°の範囲に現れるSiに起因するピークは明瞭であり、β/αは、8.4となっている。しかし、比較例10の負極材用粉末は、O/Si比xが、本発明の負極材用粉末として規定するO/Si比xの範囲より小さい。これに関係して、比較例10では、電池評価のサイクル特性が低いものと考えられる。