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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-28893(P2015-28893A)
(43)【公開日】2015年2月12日
(54)【発明の名称】コネクタ、コネクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/46 20060101AFI20150116BHJP
   H01R 43/18 20060101ALI20150116BHJP
【FI】
   H01R13/46 304L
   H01R43/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-158447(P2013-158447)
(22)【出願日】2013年7月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(72)【発明者】
【氏名】内藤 雄貴
【テーマコード(参考)】
5E063
5E087
【Fターム(参考)】
5E063XA02
5E087EE02
5E087EE14
5E087FF03
5E087MM02
5E087MM12
5E087RR25
5E087RR47
(57)【要約】
【課題】タッピングネジを確実に締め付け、締結対象に確実に締結することができるコネクタを提供する。
【解決手段】コンタクト12を保持するハウジング11が、タッピングネジ40により締結対象に締結されるコネクタ10のハウジング11には、タッピングネジ40を受容する受容穴30が設けられる。受容穴30を形成する内壁35に、締結前に予め、雌ネジ33が形成される。雌ネジ33は、ハウジング11の成形型に、雄ネジが形成された中子を配置し、樹脂の硬化後に、中子を成形型から取り外すことによって形成することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクトを保持するハウジングが、タッピングネジにより締結対象に締結されるコネクタであって、
前記ハウジングには、前記タッピングネジを受容する受容穴が設けられ、
前記受容穴を形成する内壁に、締結前に予め、雌ネジが形成される、
ことを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
前記雌ネジにおけるネジ山とネジ山との間の谷部の径は、前記タッピングネジの呼び径に略等しい、
ことを特徴とする請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記受容穴の前記内壁において、前記雌ネジは、
締結時、前記タッピングネジの座面が前記締結対象に接触するまでの間に、前記タッピングネジのネジ山が接触する範囲全体に亘って形成される、
請求項1又は2に記載のコネクタ。
【請求項4】
コンタクトを保持するハウジングが、タッピングネジにより締結対象に締結されるコネクタの製造方法であって、
前記タッピングネジを受容する受容穴を有する前記ハウジングを樹脂射出成形により形成するハウジング製作ステップを備え、
前記ハウジング製作ステップでは、
前記ハウジングの成形型において前記受容穴を形成する位置に、雄ネジが形成された中子を配置し、樹脂の硬化後に、前記中子を前記成形型から取り外すことにより前記受容穴を形成することで、前記受容穴を形成する内壁に前記雄ネジに対応する雌ネジを形成する、
ことを特徴とするコネクタの製造方法。
【請求項5】
コンタクトを保持するハウジングが、タッピングネジにより締結対象に締結されるコネクタの製造方法であって、
前記タッピングネジを受容する受容穴を有する前記ハウジングを形成するハウジング製作ステップと、
前記受容穴に、前記タッピングネジの座面が前記締結対象に接触するまで、あるいは接触する手前までタップをねじ込んだ後、前記受容穴から取り外すことにより、前記受容穴を形成する内壁に前記タップに対応する雌ネジを形成する、ねじ切りステップと、を備える、
ことを特徴とするコネクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ(電気コネクタ)に関し、例えば、電子機器の回路基板に締結されるコネクタおよびコネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタのハウジングを基板に締結するために、タッピングネジが用いられる(例えば、特許文献1)。タッピングネジは、コネクタのハウジングに形成された下穴の内壁にネジ山を切り出しながら、ハウジングを基板に締結する。
【0003】
タッピングネジを締め付けるために自動ネジ締め機を用いる場合、適切な締結力を得ることのできる締結トルクを設定する。
ハウジングの下穴にタッピングネジをねじ込んでいくと、タッピングネジの座面が基板に接触する(着座)。このときのトルクを着座トルクと呼ぶ。
着座後、締結トルクまでタッピングネジを締め付ける。もし、タッピングネジを過度に締め付けると、タッピングネジにより形成されたネジ山が破壊される。このときのトルクを破壊トルクと呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−93498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
締結トルクは、着座トルクと破壊トルクとの間の値に設定する必要がある。
しかし、着座トルクと破壊トルクとが近いと、それらの間の設定トルク領域が狭い。そのため、設定トルク領域の中心値に締結トルクを設定したとしても、ハウジングや基板の寸法誤差などにより、締結力が不足したり、ネジ山の破壊が生じ得る。
一方、自動ネジ締め機を使わず、手で締め付ける場合でも、着座トルクと破壊トルクとが近いと、着座後、少し締め付けただけでネジ山を破壊したり、破壊を恐れて締結力不足に陥るといったことが生じ得る。
本発明は、上記の課題に基づいて、タッピングネジを確実に締め付け、締結対象に確実に締結することができるコネクタ、コネクタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコネクタは、コンタクトを保持するハウジングが、タッピングネジにより締結対象に締結されるコネクタであって、ハウジングには、タッピングネジを受容する受容穴が設けられ、受容穴を形成する内壁に、締結前に予め、雌ネジが形成されることを特徴とする。
本明細書において「締結」は、ハウジングを締結対象に固定するのに足りる締結力(軸力)を発揮するように、タッピングネジが締め付けられることを言うものとする。
【0007】
本発明では、タッピングネジによりコネクタのハウジングを締結対象に締結する際には、既に、受容穴の内壁に雌ネジが形成されている。したがって、受容穴にタッピングネジをねじ込むと、タッピングネジは、受容穴の雌ネジに沿ってネジ山を相対的に移動させながら、受容穴の奥へと進む。このときのタッピングネジと雌ネジとの間の摩擦は、受容穴の内壁をねじ切りするときの摩擦に比べて小さい。
タッピングネジの座面が締結対象に接触した後、タッピングネジを締め付けると、ハウジングが締結対象に締結される。
本発明によれば、受容穴に予め雌ネジが形成されているために、受容穴にタッピングネジをねじ込むときのタッピングネジと雌ネジとの間の摩擦が、受容穴の内壁をねじ切りするときの摩擦に比べて小さい。このため、タッピングネジの座面が締結対象に接触した時の着座トルクが、受容穴の内壁をタッピングネジによりねじ切りする場合に比べて低下する。
その結果、着座トルクと破壊トルクとの間が拡がり、着座トルクと破壊トルクとの間のトルクにおいて、ハウジングを締結対象に確実に締結するのに必要な締結力を得ることができる。
【0008】
タッピングネジと雌ネジとを螺合させるため、雌ネジおよびタッピングネジにおいて、ねじの巻き方向(右ねじ/左ねじの別)、条数、リード角、ピッチを一致またはほぼ一致させる必要がある。
また、タッピングネジのネジ山と雌ネジのネジ山とを十分に係合させるため、雌ネジにおけるネジ山とネジ山との間の谷部における径が、タッピングネジの呼び径(ネジ山先端における径)と略等しいことが好ましい。
雌ネジおよびタッピングネジの各々のねじ山の断面形状は、三角形、台形など、任意である。
【0009】
本発明のコネクタでは、受容穴の内壁において、雌ネジは、タッピングネジの座面が締結対象に接触するまでの間に、タッピングネジのネジ山が接触する範囲全体に亘って形成されることが好ましい。
そうすると、タッピングネジのネジ山が接触する範囲全体に亘り、ねじ切りが生じないので、雌ネジとタッピングネジとの間の摩擦を極力小さくすることができる。そのため、着座トルクをより十分に低下させ、着座トルクと破壊トルクとの間の領域を拡げることができる。
ここで、所望の締結力を得ることができる限り、着座までの間にタッピングネジのネジ山が接触する範囲よりも少し深い位置にまで、雌ネジを形成することもできる。
【0010】
本発明のコネクタの製造方法は、コンタクトを保持するハウジングが、タッピングネジにより締結対象に締結されるコネクタの製造方法であって、タッピングネジを受容する受容穴を有するハウジングを樹脂射出成形により形成するハウジング製作ステップを備える。
そして、本発明では、ハウジング製作ステップでは、ハウジングの成形型において受容穴を形成する位置に、雄ネジが形成された中子を配置し、樹脂の硬化後に、中子を成形型から取り外すことにより受容穴を形成することで、受容穴を形成する内壁に雄ネジに対応する雌ネジを形成することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ハウジングの射出成形時に、雄ネジが形成された中子を用いることにより、中子の雄ネジに対応した雌ネジが内壁に形成された受容穴を有するハウジングが製作される。
その後、受容穴の雌ネジに沿ってタッピングネジをねじ込み、着座した状態を超えてタッピングネジを締め付け、ハウジングを締結対象に締結する。
つまり、本発明においても、締結前に予め、受容穴の内壁に雌ネジが形成される。
締結時、受容穴にタッピングネジをねじ込むと、タッピングネジは、受容穴の雌ネジに沿ってネジ山を相対的に移動させながら、受容穴の奥へと進む。このときのタッピングネジと雌ネジとの間の摩擦は、受容穴の内壁をねじ切りするときの摩擦に比べて小さい。そのため、受容穴の内壁をタッピングネジによりねじ切りする場合と比べて着座トルクが低下する。
その結果、着座トルクと破壊トルクとの間が拡がり、着座トルクと破壊トルクとの間のトルクにおいて、ハウジングを締結対象に確実に締結するのに必要な締結力を得ることができる。
さらに、本発明によれば、雌ネジが射出成形により形成されるので、ねじ切りに伴う切りカスが発生しない。また、射出成形の工程とは別に、雌ネジをねじ切りする工程を必要としない。
【0012】
本発明のコネクタの製造方法は、コンタクトを保持するハウジングが、タッピングネジにより締結対象に締結されるコネクタの製造方法であって、タッピングネジを受容する受容穴を有するハウジングを形成するハウジング製作ステップと、受容穴に、タッピングネジの座面が締結対象に接触するまで、あるいは接触する手前までタップをねじ込んだ後、受容穴から取り外すことにより、受容穴を形成する内壁にタップに対応する雌ネジを形成する、ねじ切りステップと、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明では、ねじ切りステップにおいて受容穴にタップを一旦ねじ込み、取り外すことにより、受容穴に雌ネジを形成する。このねじ切りステップで、タッピングネジは、着座位置、あるいは着座の手前の位置までに留まるので、締結力を発揮しない。
その後、着座の状態を超えてタッピングネジを締め付けることにより、ハウジングを締結対象に締結するので、本発明においても、締結前に予め、受容穴の内壁に雌ネジが形成される。
締結時、受容穴にタッピングネジをねじ込むと、タッピングネジは、受容穴の雌ネジに沿ってネジ山を相対的に移動させながら、受容穴の奥へと進む。このときのタッピングネジと雌ネジとの間の摩擦は、受容穴の内壁をねじ切りするときの摩擦に比べて小さい。そのため、受容穴の内壁をタッピングネジによりねじ切りする場合と比べて着座トルクが低下する。
その結果、着座トルクと破壊トルクとの間が拡がり、着座トルクと破壊トルクとの間のトルクにおいて、ハウジングを締結対象に確実に締結するのに必要な締結力を得ることができる。
なお、タップに代えて、タッピングネジを用いることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タッピングネジを確実に締め付け、締結対象に確実に締結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態であるコネクタ、および回路基板を示す図である。
図2図1のI−I線断面図である。
図3】(a)は、タッピングネジを受容するハウジングの受容穴の断面図である。(b)は、タッピングネジの断面図である。(c)は、雌ネジが形成されていない状態の受容穴の断面図である。
図4】着座トルクおよび破壊トルクを示すグラフである。平均値を丸い点で示し、その上下に最大値および最小値を示す。
図5】保持力を示すグラフである。平均値を丸点で示し、その上下に最大値および最小値を示す。
図6】本発明の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のコネクタ10は、図1および図2に示すように、電子機器の基板20に固定される。
コネクタ10は、複数のコンタクト12と、絶縁性樹脂により射出成形されるハウジング11とを備えている。
【0017】
ハウジング11は、複数のコンタクト12を保持するベース13と、ベース13に保持されたコンタクト12を包囲するフード17とを備えている。複数のコンタクト12は、ベース13上の2つの領域に分けて保持されており、それらの領域の各々にフード17が設けられる。
コネクタ10は、基板20上にベース13が起立し、フード17の開口が基板20と平行の方向を向くように基板20に固定される。
【0018】
基板20に対向するベース13の対向部131は、基板20に向けて延出する各コンタクト12の一端側を整列させるプレート部132(図1)と連続する。
対向部131およびプレート部132には、タッピングネジ40を受容する受容穴30が形成されている。タッピングネジ40により、ハウジング11と基板20とが固定される。
受容穴30は、ハウジング11と基板20とを十分に固定するのに足りる数だけ設けられる。本実施形態では、複数(ここでは3つ)の受容穴30が設けられる。受容穴30のより具体的な構成については後述する。
【0019】
ベース13の対向部131には、ハウジング11および基板20を電子機器の図示しないケースに固定するための固定片19が設けられる。固定片19に形成された孔、基板20に形成された孔、およびケースに設けられたボスに挿入されるネジにより、基板20およびコネクタ10がケースに固定される。
【0020】
コンタクト12は、ピン状のオスコンタクトであり、図示しない相手コネクタのメスコンタクトと電気的に接続される。コンタクト12は、ベース13を貫通する保持孔内に保持されており、基板20の端子部にハンダ等で接続される。
【0021】
次に、図3を参照し、ハウジング11の受容穴30、およびタッピングネジ40の構成について説明する。
受容穴30は、タッピングネジ40を包囲する内壁35により形成される。受容穴30の奥側は閉じられており、タッピングネジ40の先端部に対向する。受容穴30は、二点鎖線で示す基板20に直交する方向に開口する。受容穴30の開口30Aの周辺に位置するハウジング11の部分が基板20に突き当てられる。
【0022】
本実施形態は、ねじ切り可能であるタッピングネジを受容する受容穴30に、予め雌ネジ33を設けることを特徴とする。
受容穴30を形成する内壁35には、螺旋状に雌ネジ33が形成される。
受容穴30は、ハウジング11が射出成形される際に、内壁35に雌ネジ33を有する状態に形成される。
雌ネジ33は、螺合されるタッピングネジ40と、巻き方向、条数、リード角、ピッチ(ネジ山34とネジ山34との間隔)を一致させている。
雌ネジ33のネジ山34は、台形状に形成されるが、形状は任意である。タッピングネジ40のネジ山43の形状についても同様である。
【0023】
雌ネジ33におけるネジ山34とネジ山34との間の谷部36における内径D1は、タッピングネジ40のネジ山43の先端における外径D2(呼び径)と略等しい。
また、雌ネジ33におけるネジ山34の先端における内径D3は、タッピングネジ40のネジ山43とネジ山43との間の谷部46における外径D4と略等しい。
【0024】
金属により形成されるタッピングネジ40は、軸部41と、軸部41に設けられる頭部42とを備える。タッピングネジ40は、樹脂から形成することもできる。
軸部41の外周には、三角状のネジ山43が形成される。軸部41の先端部は縮径されており、これに対応して受容穴30の奥側も縮径されているが、軸部41の先端部を受容穴30の奥側に収めることができる限り、軸部41の先端部の形状、受容穴30の奥側の形状は任意である。
【0025】
ネジ山43は、基板20にハウジング11を確実に固定するのに足りる数だけ設けられる。ネジ山43は、軸部41の外周において受容穴30の内壁35に対向する範囲に形成されていれば足りる。本実施形態では、基板20に形成された貫通孔21に対向する部分にはネジ山43を形成していない。
頭部42は、基板20の貫通孔21の周囲に接触する座面44を有している。
【0026】
受容穴30にタッピングネジ40を挿入すると、タッピングネジ40は、雌ネジ33に沿ってネジ山43を相対的に移動させながら、受容穴30の奥へと進み、座面44が基板20に接触する(着座)。
着座時には、雌ネジ33の最も奥に位置するネジ山34に、タッピングネジ40の最も先端に位置するネジ山34が係合する。つまり、雌ネジ33は、受容穴30の内壁35において、タッピングネジ40が着座するまでの間に、ネジ山43が接触する範囲全体に亘って形成される、
タッピングネジ40は、着座の状態を超えて締め付けられることにより、基板20およびハウジング11を締結する。
【0027】
次に、コネクタ10のハウジング11を製作する製作ステップについて説明する。
ハウジング11を射出成形により形成するハウジング製作ステップでは、ハウジング11の成形型において受容穴30を形成する位置に、雄ネジが外周に形成された中子(図示しない)を配置する。
このとき用いる中子の雄ネジは、タッピングネジ40と同一の諸元に形成されることが好ましい。例えば、中子の雄ネジの巻き方向、条数、リード角、ピッチ、呼び径、およびネジ山の断面形状を、タッピングネジ40と同一とすることが好ましい。
このような中子が配置された状態で、成形型内に樹脂を射出し、樹脂の硬化後に、中子を回転させながら成形型から取り外す。すると、内壁35に、中子の雄ネジに対応する雌ネジ33が形成された受容穴30が形成される。
【0028】
以上で製作されたハウジング11の受容穴30の雌ネジ33にタッピングネジ40を締め付けることで、基板20にハウジング11を締結する。
タッピングネジ40を締め付けるために、図示しない自動ネジ締め機が用いられる。自動ネジ締め機は、タッピングネジ40を回転させるトルクを検知し、設定された締結トルクに達するまでタッピングネジ40を締め付ける。
締結トルクは、基板20にハウジング11を確実に締結することができるように、ハウジング11、基板20、タッピングネジ40の材質や、タッピングネジ40および受容穴30の径、長さなどに応じて設定される。締結トルクは、例えば、着座トルクと破壊トルクの間の中心値に設定される。
受容穴30にタッピングネジ40を挿入すると、雌ネジ33に沿ってタッピングネジ40がねじ込まれる。
【0029】
ここで、雌ネジ33は、雌ネジ33が形成されていないとすれば、タッピングネジ40によりねじ切りされる軌跡に沿って内壁35に螺旋状に形成されている。換言すれば、雌ネジ33は、タッピングネジ40によりねじ切りされることで形成されるねじと同じ形態に形成される。
このような雌ネジ33が既に内壁35に形成されているために、受容穴30にタッピングネジ40をねじ込んでも、内壁35がねじ切りされることなく、タッピングネジ40は、雌ネジ33に沿ってネジ山43を相対的に移動させながら、受容穴30の奥へと進む。このときのタッピングネジ40と雌ネジ33との間の摩擦は、受容穴30の内壁35をねじ切りするときの摩擦に比べて小さい。このため、タッピングネジ40の座面44が基板20に接触した時の着座トルクが、内壁35をタッピングネジ40によりねじ切りする場合に比べて低下する。
また、受容穴30の内径D1とタッピングネジ40の外径D2が略等しく、受容穴30の内径D3とタッピングネジ40の外径D4が略等しい点でも、タッピングネジ40を受容穴30にねじ込むときの雌ネジ33とタッピングネジ40との間の摩擦を小さく抑えられる。
【0030】
タッピングネジ40が着座した後、着座トルクよりも大きい締結トルクまでタッピングネジを締め付ける。このとき、雌ネジ33のネジ山34とタッピングネジ40のネジ山43とが押し付けられた状態に係合し合うことで、ハウジング11が基板20に適切な締結力で締結される。
【0031】
以上で説明した本実施形態によれば、受容穴30に予め雌ネジ33が形成されているために、受容穴30にタッピングネジ40をねじ込むときのタッピングネジ40と雌ネジ33との間の摩擦が小さいので、着座トルクが低下する。
その結果、着座トルクと破壊トルクとの間が拡がるので、ハウジング11や基板20の寸法誤差などにかかわらず、着座トルクと破壊トルクとの間に締結トルクを収めることができる。この締結トルクにおいて、ハウジングを締結対象に確実に締結するのに必要な締結力を得ることができる。
ここで、自動ネジ締め機を使わずに、手で締め付ける場合でも、着座トルクと破壊トルクとの間が広いために、ネジ山を破壊したり、締結力不足に陥ることなく、ハウジング11を基板20に確実に締結することができる。
【0032】
また、受容穴30の内径D1とタッピングネジ40の外径D2が略等しく、受容穴30の内径D3とタッピングネジ40の外径D4が略等しいことにより、雌ネジ33のネジ山34とタッピングネジ40のネジ山43とを確実に係合させることができる。
【0033】
さらに、本実施形態では、受容穴30の雌ネジ33が射出成形により形成されるので、ねじ切りに伴う切りカスが発生しない。
【0034】
ところで、受容穴30の雌ネジ33は、図3(c)に示すように横断面が円形の丸穴状に形成された受容穴30の内壁35に、ねじ切りによって形成することもできる。
その場合、雌ネジ33の形成は、ハウジング11を射出成形により形成するハウジング製作ステップと、受容穴30の内壁35をねじ切りするねじ切りステップとによって行われる。
【0035】
ハウジング製作ステップでは、ハウジング11の成形型内に樹脂を射出し、丸穴状の受容穴30を有するハウジング11を製作する。
次のねじ切りステップでは、受容穴30に、着座するまでタップ(図示しない)をねじ込むことでねじ切りした後、受容穴30から取り外す。すると、内壁35に、タップにより切り出された雌ネジ33が形成される。
ここで、タップに代えて、タッピングネジ40を用いることもできる。
以上により受容穴30の雌ネジ33が形成されたら、内壁35の雌ネジ33に沿ってタッピングネジ40をねじ込み、着座状態を超えてタッピングネジ40を締め付ける。こうして、基板20にハウジング11が締結される。
【0036】
以上で説明したように、雌ネジ33がタッピングネジ40によりねじ切りされることで形成されていても、締結時、受容穴30の内壁35のねじ切りが行われないために、雌ネジ33とタッピングネジ40との間の摩擦が小さくなる。このため、着座トルクが低下し、着座トルクと破壊トルクとの間の設定トルク領域が拡がるので、着座トルクと破壊トルクとの間に設定トルクを収めることができる。
【0037】
以下、受容穴30の内壁35に雌ネジ33が形成された本発明の実施形態と、受容穴30の内壁35に雌ネジ33が形成されていない比較例とについて、着座トルクおよび破壊トルクの試験結果を示す。
試験に用いる実施形態のコネクタでは、丸穴状に形成された受容穴30(図3(c))の内壁35に、タッピングネジ40を着座するまでねじ込むことで、受容穴30の雌ネジ33を形成する。
試験に用いる比較例のコネクタでは、丸穴状に形成された受容穴30の内壁35(図3(c))のままとする。試験の際に、タッピングネジ40によりねじ切りされるまでは、内壁35に雌ネジ33は形成されない。
【0038】
試験では、自動ネジ締め機によりタッピングネジ40を締め付け、ハウジング11を基板20に締結する。実施形態、比較例のいずれも、締め付けの回転数、およびタッピングネジ40を進める推力を同等に設定する。
着座トルクは、タッピングネジ40の座面44が基板20に接触した時に、自動ネジ締め機が備えるトルク計により測定されるトルクであり、測定されるトルクの勾配が立ち上がるときの値を示す。
また、破壊トルクは、タッピングネジ40を締め続けたときに、トルク計により測定される最大のトルクである。
【0039】
図4は、トルク計により測定された着座トルクおよび破壊トルクを示す。平均値で見ると、実施形態における着座トルクは、ねじ切りが済んでいるために、比較例における着座トルクよりも低い。
一方で、実施形態における破壊トルクは、比較例における破壊トルクと変わらない。
したがって、本実施形態のように予め雌ネジ33を形成しておけば、着座トルクと破壊トルクとの間の領域を広く確保することができる。
【0040】
図5は、実施形態および比較例における保持力の試験結果を示す。
保持力は、受容穴30にタッピングネジ40をねじ込み、受容穴30の奥に開けた孔を介してピンでタッピングネジ40の先端部を軸方向に押し、タッピングネジ40が雌ネジ33から抜け出たときの荷重に相当する。
保持力の測定には、試験機を使用する。実施形態、比較例のいずれも、ピンの送り速度を同等に設定する。
【0041】
タッピングネジ40に着座トルクを与えた時(着座時)、および破壊トルクを与えた時(破壊時)においてそれぞれ、保持力を測定した。
すると、図5に示すように、本実施形態の保持力は、平均値で見ると、着座時、破壊時のいずれにおいても、比較例の保持力と同等以上に確保される。
【0042】
上述した構成以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
例えば、図6(a)に示すように、タッピングネジ40の軸部41が基端から先端まで同一の径に形成されており、受容穴30も開口側から奥側まで同一の開口径に形成されていてもよい。
また、図6(b)に示すように、雌ネジ33は、受容穴30の内壁35において、タッピングネジ40が着座するまでの間に、タッピングネジ40のネジ山43が接触する範囲の一部のみに形成されることをも本発明は許容する。図6(b)に示す例では、雌ネジ33が受容穴30の開口から、内壁35の途中まで形成される。このような場合でも、雌ネジ33が形成される範囲では締結時にねじ切りされないために、雌ネジ33が形成されない場合とくらべて着座トルクが小さくなる。
【0043】
上記実施形態のコネクタ10のフード17は、基板20に平行に開口しており、コネクタ10と相手コネクタとが基板20と平行に嵌合されるが、本発明は、勿論、基板20に垂直に開口するフードを備えたコネクタにも適用することができる。
また、本発明のコネクタのハウジング11は、基板20以外の締結対象、例えば、電子機器のケースに締結することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 コネクタ
11 ハウジング
12 コンタクト
13 ベース
17 フード
19 固定片
20 基板(締結対象)
21 貫通孔
30 受容穴
30A 開口
33 雌ネジ
34 ネジ山
35 内壁
36 谷部
40 タッピングネジ
41 軸部
42 頭部
43 ネジ山
44 座面
46 谷部
131 対向部
132 プレート部
D1,D3 内径
D2,D4 外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6