特開2015-2922(P2015-2922A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-2922(P2015-2922A)
(43)【公開日】2015年1月8日
(54)【発明の名称】外科手術用装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 19/00 20060101AFI20141205BHJP
   B25J 3/00 20060101ALI20141205BHJP
【FI】
   A61B19/00 510
   B25J3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-130843(P2013-130843)
(22)【出願日】2013年6月21日
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】本郷 一博
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】原 洋助
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS35
3C707BS10
3C707CX05
3C707HS27
3C707HT40
3C707JT04
3C707KS33
3C707KV01
3C707KX15
(57)【要約】
【課題】顕微鏡下手術において臓器などの組織を牽引するための装置を提供する。
【解決手段】臓器における組織を牽引するための手術用具を接続するための保持具を有する外科手術用の装置において、多関節アーム、および該多関節アームのそれぞれの関節部にブレーキ機構を備えせしめ、さらに前記手術用具が臓器を牽引している状態において前記ブレーキ機構を作動するようにする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節アーム、該多関節アームのそれぞれの関節部に備え付けられてなるブレーキ機構、および該多関節アームの遠位端に手術用具を接続するための保持具を含む、外科手術において組織を牽引するための装置であって、前記手術用具が組織を牽引している状態において前記ブレーキ機構が作動することにより牽引状態が維持される、前記装置。
【請求項2】
手術用具が保持具に接続されてなる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
手術用具が、脳ヘラ、鉗子、鑷子、フック、スプーン、吸引管または血管探査子である、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
手術用具が脳ヘラ、鑷子、フックまたはスプーンである、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
ブレーキ機構のそれぞれに対応するエンコーダを備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
多関節アームが、自由度を有する3以上の関節部を備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
多関節アームが、自由度を有する6以上の関節部を備える、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
バネ機構またはカウンターウエイトを備えてなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
脳外科手術用である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
多関節アームの近位端が、頭部固定枠上に直接的に、あるいは頭部固定枠上のまたは頭部固定枠に連結されてなる土台上に固定される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
多関節アーム、該多関節アームのそれぞれの関節部に備え付けられてなるモータ機構、および該多関節アームの遠位端に手術用具を接続するための保持具を含む、外科手術において組織を牽引するためのスレーブ装置、ならびに前記スレーブ装置に対応して、多関節アーム、該多関節アームのそれぞれの関節部に備え付けられてなるブレーキ機構を含むマスタ装置を含む、マスタ・スレーブ型手術ロボット。
【請求項12】
手術用具が保持具に備え付けてられてなる、請求項11に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【請求項13】
手術用具が脳ヘラ、鉗子、鑷子、フック、スプーン、吸引管または血管探査子である、請求項11または12に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【請求項14】
組織牽引用具が脳ヘラ、鑷子、フックまたはスプーンである、請求項13に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【請求項15】
スレーブ装置およびマスタ装置の多関節アームがそれぞれ、自由度を有する3以上の関節部を備える、請求項11〜14のいずれか一項に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【請求項16】
多関節アームが、自由度を有する6以上の関節部を備える、請求項15に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【請求項17】
モータ機構およびブレーキ機構のそれぞれに対応するエンコーダを備える、請求項11〜16のいずれか一項に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【請求項18】
脳外科手術用である、請求項11〜17のいずれか一項に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳神経外科手術等の剥離操作などにおいて、臓器などの組織の把持または圧排による牽引(以下、単に牽引と称することもある)を確実に、且つ、正確に行うための外科手術用装置に関し、さらには、前記装置を含むマスタ・スレーブ型手術ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術において、組織の牽引は重要な作業である。外科手術においては、手術操作部位の周囲の組織を牽引して、手術操作空間や進入路を確保する。また、顕微鏡下脳神経外科手術等では特に剥離操作が重要であり、剥離操作を円滑に行うためには、被剥離組織を把持または圧排によって適切に牽引することが重要である。当該剥離操作では組織間の結合部を広くする必要があり、被剥離組織を切離しやすくするために、左右から張力を与え、突っ張ったところを切離する。通常は、剥離する組織の一方を脳ヘラなどで圧排し、もう一方を吸引管などで牽引することによって架橋組織に緊張を与え、組織間に隙間をつくり、その間をハサミやメスなどで切離する(図1)。
【0003】
現在の顕微鏡下脳神経外科手術においては、通常、術者は、組織の一方を牽引する操作と切離する操作を行い、もう一方の組織を牽引する操作は、助手または牽引器具固定器により行われている(図2)。牽引器具として脳ヘラを用いる場合、脳ヘラは通常、自在脳ヘラ固定器に接続して用いられる。
【0004】
脳や神経、血管などといった重要な組織を剥離する操作は繊細であり、組織間に緊張をかけ過ぎると組織が損傷したりして、重大な合併症を引き起こしたりする。組織の損傷を避けるために、圧排または把持による牽引は必要かつ最小限の力で行わなければならないところ、牽引力や把持力の判定は手術器具を持つ執刀医が自らの触覚を頼りに行っている(非特許文献1)。
【0005】
ロボット支援手術は、治療成績の向上や、治療適用範囲の拡大の可能性がある。平成21年に日本でも手術用ロボット、da Vinci(登録商標)サージカルシステムが認可された。これは欧米諸国や韓国などでは既に普及しており、日本においても泌尿器科領域などにおいて広く実用化しつつあるが、脳外科手術には使用されていないのが現状である。
【0006】
ロボットがもたらす脳神経外科手術の新たな可能性に寄与する目的で、従来の脳ヘラと自在脳ヘラ固定器を拡張したマニピュレータの開発も行われている(非特許文献2)。
特許文献1および2には、複数のアーム部および関節部を有する、内視鏡のほか、鉗子などの医療器具を保持するための装置が開示されている。しかし同各文献は、腹腔鏡手術や胸腔鏡手術における内視鏡あるいは、顕微鏡下脳神経外科手術における手術用顕微鏡の死角を観察するための内視鏡を保持するためのものであり、顕微鏡下脳神経外科における剥離操作を円滑、確実に行うための被剥離組織の牽引を実現するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−209096号公報
【特許文献2】特開2005−312808号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】杉尾幸一、杉田虔一郎ら、「多目的頭蓋固定枠」、信州医誌、1983
【非特許文献2】岡本淳、原知宙、伊関洋、藤江正克ら、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会’05 講演論文集 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の剥離操作には被剥離組織を左右に牽引するための器具と、切離するための器具の3つの器具が必要になるが、人間の手は2本しかない。そこで現在の顕微鏡下脳神経外科手術においては、通常、術者は、組織の一方を牽引する操作と切離する操作を行い、もう一方の組織を牽引する操作は、助手または牽引器具固定器により行われているところ、本発明者らは、固定器は調整が面倒で頻回の位置調節が困難であったり、助手は手が震えたり疲労したりするため、不自由な手術を余儀なくされているといった問題点を認識するに至った。このような問題点を認識する中で、本発明者らは顕微鏡下手術において、体内の臓器の2つの組織部分を圧排または把持によって牽引しつつ病巣などを剥離等により摘出する際に、組織の一方をロボットにより、術者の意図に追従するように、かつ精密に牽引せしめれば、該ロボットを術者の第3の手として機能させることができ、外科手術を格段に向上せしめることができるとの確信を得るに至った(図3)。すなわち、本発明の課題は、外科手術における術者の第3の手としてより精密に動作できる組織牽引のための装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねる中で、臓器などの組織を把持または圧排により牽引する機能を有する外科手術用の装置において、多関節アーム、および該多関節アームのそれぞれの関節部にブレーキ機構を備えせしめ、さらに、組織牽引用の手術用具をその保持具を介して該多関節アームの遠位端に備え付けられてなる装置であって、前記手術用具が臓器などにおける組織を牽引している状態において前記ブレーキ機構を作動するようにすることにより、上記課題が解決されることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下に関する;
(a) 多関節アーム、該多関節アームのそれぞれの関節部に備え付けられてなるブレーキ機構、および該多関節アームの遠位端に手術用具を接続するための保持具を含む、外科手術において組織を牽引するための装置であって、前記手術用具が組織を牽引している状態において前記ブレーキ機構が作動することにより牽引状態が維持される、前記装置。
(b) 手術用具が保持具に接続されてなる、(a)に記載の装置。
(c) 手術用具が、脳ヘラ、鉗子、鑷子、フック、スプーン、吸引管または血管探査子である、(a)または(b)に記載の装置。
(d) 手術用具が脳ヘラ、鑷子、フックまたはスプーンである、(c)に記載の装置。
(e) ブレーキ機構のそれぞれに対応するエンコーダを備える、(a)〜(d)のいずれかに記載の装置。
【0012】
(f) 多関節アームが、自由度を有する3以上の関節部を備える、(a)〜(e)のいずれかに記載の装置。
(g) 多関節アームが、自由度を有する6以上の関節部を備える、(f)に記載の装置。
(h) バネ機構またはカウンターウエイトを備えてなる、(a)〜(g)のいずれかに記載の装置。
(i) 脳外科手術用である、(a)〜(h)のいずれかに記載の装置。
(j) 多関節アームの近位端が、頭部固定枠上に直接的に、あるいは頭部固定枠上のまたは頭部固定枠に連結されてなる土台上に固定される、(a)〜(i)のいずれかに記載の装置。
【0013】
(k) 多関節アーム、該多関節アームのそれぞれの関節部に備え付けられてなるモータ機構、および該多関節アームの遠位端に手術用具を接続するための保持具を含む、外科手術において組織を牽引するためのスレーブ装置、ならびに前記スレーブ装置に対応して、多関節アーム、該多関節アームのそれぞれの関節部に備え付けられてなるブレーキ機構を含むマスタ装置を含む、マスタ・スレーブ型手術ロボット。
(l) 手術用具が保持具に備え付けてられてなる、(k)に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
(m) 手術用具が脳ヘラ、鉗子、鑷子、フック、スプーン、吸引管または血管探査子である、(k)または(l)に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【0014】
(n) 組織牽引用具が脳ヘラ、鑷子、フックまたはスプーンである、(m)に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
(o) スレーブ装置およびマスタ装置の多関節アームがそれぞれ、自由度を有する3以上の関節部を備える、(k)〜(n)のいずれかに記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
(p) 多関節アームが、自由度を有する6以上の関節部を備える、(o)に記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
(q) モータ機構およびブレーキ機構のそれぞれに対応するエンコーダを備える、(k)〜(p)のいずれかに記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
(q) 脳外科手術用である、(k)〜(p)のいずれかに記載のマスタ・スレーブ型手術ロボット。
【発明の効果】
【0015】
本発明の外科手術用装置は、術者の第3の手として臓器などにおける組織を、術者の意図に追従して、さらにはより精密に牽引することを可能とすることにより、既存の手術技術を向上せしめ、ひいては手術時間を短縮し、さらには手術を円滑に実施できるようにするものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は脳ヘラを利用した剥離操作を示す図である。
図2図2は被剥離組織の牽引をしながらの剥離操作を示す図である。
図3図3は組織把持ロボットを利用した剥離操作を示す図である。
図4図4は本発明の装置の一態様を示す図である。
図5図5は本発明のマスタ・スレーブ型ロボットの一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい態様をより詳細に記載するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0018】
本発明の装置は多関節アームを備え、好ましくはバネ機構と、電子的にはブレーキ制御技術のみを搭載する「受動的動作」のロボットであり、操作は術者が行い、自律的には動作しない(図4)。組織牽引の優劣は脳神経外科の顕微鏡下手術の成否を決定的に左右する最も重要な因子の一つであり、ロボット手術においても適正な組織牽引の重要性は失われないと考えられる。その一方で、組織牽引の本質は、一定の位置あるいは牽引力を正確に維持することであるため、そもそも緻密かつ正確な操作に優れるロボット手術技術との親和性が高い。剥離操作における被剥離組織の把持または圧排による牽引をロボットが担当することにより、術者の手の震えや疲労の影響を受けることなく、組織の牽引が可能となる。アームは少なくとも3自由度を、好ましくは6以上の自由度を有する。アームの遠位端には、組織牽引用の手術用具を接続するための保持具を備える。手術用具として、脳ヘラ、鉗子、鑷子、フック、スプーン、吸引管、血管探査子などの中から適宜選択することができる。好ましくは、脳ヘラ、鑷子、フックまたはスプーンである。また、組織牽引用手術用具として鉗子や鑷子などを装備した際に開閉を制御できるよう、該保持具には追加の1自由度を制御する機構を備えることができる。
【0019】
本発明の装置において、手術用具の近位端を含む領域を介して前記保持具に保持されるのが、手術用具の牽引部分の操作およびコントロールを容易にせしめるという点で好ましい。手術用具と保持具とが接続される位置、角度は、かかる容易性や、術者からの手術用具の視認性などの観点を考慮し、保持具を、手術用具の略長軸方向上に接続するものでも、ある程度の角度を持たせて接続するものでも、あるいは垂直方向に接続するものでもよい。保持具と多関節アームの接続部には、1自由度を設けてもよい。本発明の装置において、該装置の各構成部材における2つの端のうち、術者に近い側にあるものを「近位端」といい、他方の端、つまり臓器などにおける組織に近い側にあるものを「遠位端」という。
【0020】
使用中の操作感度、動作精度や安全性を向上させるべく、アームの特に先端付近は、重量バランスの最適化や慣性質量の軽減を図った構造であるのが好ましい。保持具に搭載される手術用具を交換しても重量バランスに変化を生じないような設計にすること、例えば必要に応じてカウンターウエイトやバネ機構などを配置するのが好ましい。
【0021】
本発明の装置は電子機器であり、装置全体としては、通常の術野において使用される器具に施すような滅菌処理には耐えられないと予想されるため、臨床使用時には多関節アーム部分本体は滅菌ドレープで覆う構造とするのが好ましい。一方で、本発明の装置の先端に備え付けられる手術用具および保持具は、それぞれ取り外して滅菌可能な構造とするのが好ましい。多関節アームの近位端部もまた、取り外し可能で、滅菌可能な構造のアタッチメントとなっているのが好ましい。
【0022】
多関節アームの各関節は、バネまたはカウンターウエイトを適切に配置することによって、常に術野から遠ざかる一定方向への穏やかな駆動力が得られるように設計し、術野に対して侵襲的な方向へは術者の意図せざる動作を生じないよう、駆動力が制限されるような設計とするのが好ましい。アームには外力を検知する力センサを組み込み、術者が手を持って移動させようとすると、その応力を検知して、組み込み型マイクロプロセッサで演算し、ブレーキの解除を制御して、自動的にアーム先端を術者の意図する移動方向へと追従させる設計とし、円滑に作動が開始されることができるように動作制御を行うことができる。また、術者による操作の停止を検知すると、自動的に各関節のブレーキを固定状態へと復帰させるように設計することができる。
【0023】
本発明の装置におけるブレーキ機構は、多関節アームの少なくとも1つの、好ましくは全ての関節部の屈曲を抑制することにより、保持具の、ひいては保持具に保持される手術器具の移動を制限するよう設計することができる。また本発明の装置は、好ましい一態様において検出部を備え、術者が本発明の装置に加える力によるトルク、加速度、速度、位置の変化、または接触の少なくともいずれか1つを検出する。なお好ましくは、本発明の装置は判断手段をさらに備え、該検出部の検出結果に基づいて術者が本発明の装置を移動または固定させようとしているかを判断し、かかる判断に基づきブレーキ機構を解除または作動させるよう設計することができる。このため、本発明の装置にそれほど力を加えなくても、術者の意図どおりに追従的に移動し、かつ術者の意図する位置において直ちにブレーキ機構が作動するよう、本発明の装置を設計することができる。多関節アームのそれぞれの関節部に備え付けられてなるブレーキ機構のそれぞれに対応するエンコーダを、好ましくは該ブレーキ機構に隣接して備える設計とすることにより、該検出部から該判断機構への検出結果の送達を行うことができる。
【0024】
本発明の装置は、動作中に手術用具の先端に組織からの応力を受けた際に、操作する術者がかかる応力を感知できるような動作制御の機構を備えることができる。また本発明の装置には、操作者の意図しない動作が生じないよう、多関節アーム部や接続部などの操作部には必要な多重の安全装置、例えば一定以上の応力にこうした動作を禁止する機構、不測の事態に備える緊急停止装置などを組み入れるのが好ましい。
【0025】
本発明の装置は、多関節アームの近位端が、杉田フレームなどの頭部固定枠上に直接的に、あるいは頭部固定枠上のまたは頭部固定枠に連結されてなる土台上に固定される。実際の臨床使用を想定した場合、脳外科手術においては術野が狭いため、術者や手術助手の腕や手が装置と物理的に干渉して手術手技の障害とならない設計が必要となる。本発明においては、現行の手術操作の妨げとならないよう、術野に存在する他の器具との共存が可能なように配慮し、その範囲で最大限の動作環境が得られるように設計を最適化するようにすることが求められる。
【0026】
本発明の装置は、一態様においては各関節にブレーキ機構を備える完全パッシブ型ロボットであり、他の態様においてはマスタ・スレーブ型ロボットである。
【0027】
マスタ・スレーブ型外科手術用ロボットda Vinci(登録商標)は、3本の手術操作用シャフトを有し、このうち利き手で2本の鉗子を交互に使用することで、快適な手術操作感を得ている。脳外科手術などにおいてもこの方法を応用し、組織把持ロボットにより組織の一方に安全に緊張を与えることができれば、手術は安全かつ円滑に行うことができる(図3)。
【0028】
マスタ・スレーブ型である組織把持用のための手術ロボットを作成するに際し、まず第1段階として、モータ機構を有しない、ブレーキ機構のみの装置を作成し、術者が前記装置を操作し、前記装置が保持する手術用具により術野において臓器などにおける組織を牽引できるようにする。第2段階として、前記装置のブレーキ機構をモータ機構へと変更し、術野において臓器などにおける組織を牽引するための手術用具を保持するスレーブ装置とし、さらに前記スレーブ装置に対応する、ブレーキ機構を有するマスタ装置を作成し、組織牽引用のマスタ・スレーブ型手術ロボットとする。手術操作中において、術者がこのロボットのマスタ装置を操作することができる(図5)。第3段階として、術者の手術操作と協調して別の術者がマスタ装置を操作して、臓器などにおける組織をスレーブ装置により牽引することにより、迅速な手術を実現できる。
【0029】
本発明のマスタ・スレーブ型ロボットの一態様として、スレーブ装置は杉田フレームなどの頭部固定枠上に設置される。他の手術器具や術者の手や腕との物理的な干渉が問題となるため、これらと共存できるスレーブ装置の大きさを決め、その範囲で最大の動作環境が得られるよう設計する。スレーブ装置は電気製品であり滅菌方法に制限を受けるため、滅菌ドレープで覆うようにし、滅菌不要とするのが好ましい。また、滅菌物である頭部フレームや組織牽引のための手術用具との接続のために、本発明の装置は滅菌可能なアタッチメント部を含む構成とするのが好ましい。
【0030】
また、モータ機構を有するアクティブ型のスレーブ装置は、上記の第1段階において作成したブレーキ機構を有するパッシブ型の装置と同一の設計とし、ブレーキ機構をモータ機構に置き換えることにより作成することができる。
【0031】
本発明の装置およびマスタ・スレーブ型手術ロボットが実用化されれば、脳神経外科においてだけではなく、眼科、耳鼻咽喉科、形成外科、整形外科などの他の顕微鏡下手術を行っている領域のみならず、組織牽引操作を含む他の外科手術領域への導入も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明の装置およびマスタ・スレーブ型手術ロボットは、外科手術において、臓器などの組織を把持または圧排により牽引することにより、術者の第3の手として機能させ、手術技術を向上させ、手術時間を軽減し、手術を円滑に進行させることができる。よって、本発明の装置およびマスタ・スレーブ型手術ロボットが実用化されれば、従来の外科手術の限界を大きくブレイクスルーして、ひいては豊かな社会発展の基盤となる
図1
図2
図3
図4
図5