(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-29499(P2015-29499A)
(43)【公開日】2015年2月16日
(54)【発明の名称】発酵黒ショウガ
(51)【国際特許分類】
A23L 1/30 20060101AFI20150120BHJP
【FI】
A23L1/30 B
A23L1/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-163315(P2013-163315)
(22)【出願日】2013年8月6日
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匠
(72)【発明者】
【氏名】永瀧 達大
(72)【発明者】
【氏名】鍔田 仁人
(72)【発明者】
【氏名】高垣 欣也
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD61
4B018MD79
4B018ME02
4B018ME14
4B018MF13
(57)【要約】
【課題】本発明はこのような従来の事情に対処してなされたもので、風味がよく、摂取しやすく、軟らかさを有し、加工に適した黒ショウガを提供することを目的とする。
【解決手段】黒ショウガ(Kaempferia parviflora)又はその加工物を発酵させてなることを特徴とする発酵黒ショウガにより解決される。また、発酵には黒ショウガ又はその加工物を自家発酵させることが含まれる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒ショウガ(Kaempferia parviflora)又はその加工物を発酵させてなることを特徴とする発酵黒ショウガ。
【請求項2】
黒ショウガ(Kaempferia parviflora)又はその加工物を自家発酵させることを特徴とする請求項1に記載の発酵黒ショウガ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味がよく、摂取しやすい発酵黒ショウガに関する。
【背景技術】
【0002】
黒ショウガはタイやラオスの山間部に自生し、現地ではお茶やリキュールなどにして飲まれており、古くから摂取されてきたものである。また精力増進、滋養強壮、血糖値の正常化、体力回復などに有効であることが知られている。
【0003】
黒ショウガに関する先行技術として例えば、特許文献1では、冷え性改善用組成物として黒ショウガを用いており、黒生姜乾燥粉末を摂取した後の手足の温度が上昇することを報告している。
しかし、人体によい効果をもたらすと期待されている黒ショウガであるが、効果的に摂取できる経口摂取の上では、独特の刺激的な味や臭いから人によっては経口摂取に抵抗があった。
【0004】
また黒ショウガをはじめとする植物の発酵に関する先行技術としては、次のような技術が知られている。
特許文献2では、ショウガ科ウコン属の植物であるウコン(Curcuma domestica Val.)を自己発酵させてウコン特有の刺激性の臭いや苦みを低減させたことが報告されている。また特許文献3では、ユリ科ネギ属の植物であるニンニクを自己発酵させてニンニク特有の臭いを低減させたことが報告されている。さらに特許文献4では、発酵ショウガを加熱することにより、加熱発酵ショウガが得られ、この加熱発酵ショウガを含み、安全で嗜好的にも優れ、経口摂取のしやすい代謝促進組成物および機能性食品について報告されている。
【0005】
しかしながら、黒ショウガのみを発酵させて摂取し易い発酵黒ショウガにした例はなく、そのため摂取し易く、加工が容易で、風味の良い発酵黒ショウガを製造するための最適条件は不明であった。このため黒ショウガ自体は上記したように種々の有用な効能を有するものであるにもかかわらず、十分に活用されていないという事情があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−67731号公報
【特許文献2】特開2010−166876号公報
【特許文献3】特開2006−149325号公報
【特許文献4】特開2013−79227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来の事情に対処してなされたもので、摂取しやすく、軟らかさを有し、加工に適した黒ショウガを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、黒ショウガを発酵させることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
すなわち本発明は、黒ショウガ(Kaempferia parviflora)又はその加工物を発酵させてなることを特徴とする発酵黒ショウガである。
【発明の効果】
【0009】
黒ショウガを発酵させることで、発酵前のほこりや土のようなにおいを軽減させ、熟成香(例えば、柔らかい感じの香り)とすることができるため、ショウガ科の植物に特有の刺激臭や苦味を軽減させることができる。さらに、発酵させることで水分が減少し、濃縮されるため、多量に摂取する必要がなく、少量で黒ショウガ特有の効能を得ることができる。加えて、発酵することで濃縮されているにも関わらず、発酵前よりも軟らかくなり、摂取の方法に合わせて加工することが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、黒ショウガ又はその加工物を発酵させてなることを特徴とする発酵黒ショウガである。以下に詳細を説明する。
【0011】
黒ショウガとは、ショウガ科バンウコン属の植物で、学名はKaempferia parvifloraである。英語ではBlack Gingerであり、タイではクラチャイダム(Krachai Dum)などとも呼ばれている。また日本では黒ショウガは黒ウコンとも呼ばれ、種々の機能性成分を含有することから注目を集めている。
【0012】
なお、最近、テレビやインターネット等で注目を集めている「発酵黒生姜」と呼ばれる健康食品は、ショウガ(学名:Zingiber officinale)を発酵させることによって、黒っぽい色になったものであり、黒ショウガを発酵させたものではない。
【0013】
本発明に用いられる黒ショウガとしては、特に制限はなく、例えば国内産、外国産などの産地を問わず、外国産としては、例えばタイ産やラオス産等が挙げられ、国内産としては、例えば沖縄産等が挙げられる。
また、本発明に用いられる黒ショウガの形態としては、根茎をそのまま用いてもよいし、乾燥チップ、小片、スライス、粉砕物、擦り下ろし、搾汁、抽出物等の加工物にしてもよい。
【0014】
本発明において、発酵させる方法としては、自家発酵や菌体による発酵等が挙げられる。
【0015】
自家発酵は、自己発酵や熟成とも呼ばれ、他の微生物を加えずに黒ショウガを発酵させる発酵方法である。自家発酵により、腐敗物や乾燥物とならずに、黒ショウガの内容成分を変化させることができる。
【0016】
自家発酵に適した温度としては、25〜70℃、より好ましくは25〜50℃、さらに好ましくは30〜45℃である。温度が25℃より低いと黒ショウガが発芽してしまう場合があり、摂取や加工に適さなくなってしまう。また、70℃より大きいと乾燥してしまい、硬くなり、さらには香りも発酵開始時と変わらないため、摂取や加工に適さない。
【0017】
また、自家発酵に適した湿度としては、70〜95%、より好ましくは75〜90%である。自家発酵させる期間は、条件によって変更させることができるが、半日〜40日間が好ましい。半日より少ないと発酵が十分ではなく、生に近い状態のままであり、40日より多いと発酵が進み過ぎて腐敗してしまい、腐敗臭を放つようになってしまう。
【0018】
菌体による発酵は、例えば、酵母菌、乳酸菌、麹菌、酢酸菌、枯草菌等の通常発酵に使用される微生物を黒ショウガに作用させることにより行うことができる。黒ショウガに菌体を作用させる方法としては、特に制限はないが、菌体を黒ショウガに吹き付けたり、付着させたりする方法等が挙げられる。このとき、菌体のみを黒ショウガに作用させてもよいし、菌体を含んだ発酵液を用いてもよい。
【0019】
また、黒ショウガに菌体を作用させる方法として、菌体を含んだ発酵液を黒ショウガに滴下して行うこともでき、発酵液に黒ショウガを漬け込んで行うこともできる。発酵液に黒ショウガを漬け込む場合は、発酵液に漬け込んだまま発酵させてもよいし、発酵液に漬けこんだ後に取り出して発酵させてもよい。これらに加えて、培養液中で原料を攪拌しながら菌体の種菌を加えることでも黒ショウガに菌体を作用させることができる。
本発明において用いられる微生物は一種であっても、二種以上であってもよく、これらの中でも、酵母菌、乳酸菌が好ましい。
【0020】
酵母菌としては、特に制限はなく、例えば、例えばデバリョマイセス属、サッカロマイセス属、ピチア属、クルイベロマイセス属、トルラスポラ属、シュビア属、ブレッタノマイセス属、クリプトコッカス属、エレモテリウム属、イッサチェンキア属、クロッケラ属、リポマイセス属、メトシュニコウイア属、ロードトルア属、シゾサッカロマイセ属、ジゴサッカロマイセス属、カンジダ属等が挙げられ、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerivisiae)等が挙げられる。
【0021】
乳酸菌としては、特に制限はなく、例えば、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属のStreptococcus faecalis(Enterococcus faecalisと称されることがある),Streptococcus thermophilus,Lactobacillus acidophilus,Lactobacillus casei、その他の属のBacillus coagullans等が挙げられる。
【0022】
発酵液の原料となる発酵物としては、特に制限はなく、例えば、米、玄米、大麦、トウモロコシ、エンドウ豆、小豆、大豆、キノコ、レタス、キャベツ、ほうれん草、大根、カブレモン、リンゴ等が挙げられ、一種であっても、二種以上であってもよい。これらの原料は、生のまま使用しても良いし、蒸す、茹でる等の操作をした後、発酵しやすい最適な温度にしてから、微生物を加えて発酵させてもよい。本発明においては、これら発酵物を用いることなく、上述したように菌体のみを用いて発酵させてもよい。
【0023】
菌体による発酵は、自家発酵と同じ条件、すなわち、温度を25〜70℃、より好ましくは25〜50℃、さらに好ましくは30〜45℃、湿度を70〜95%、より好ましくは75〜90%の条件で、半日〜40日間発酵させる。また、必要に応じて、発酵前後に所定の期間、熟成させることが好ましく、熟成させることで、味がまろやかになる。
【0024】
本発明の発酵黒ショウガは、その摂取方法としては特に制限はないが、経口摂取等が挙げられる。発酵させることでにおいが軽減されていること、濃縮されているため少量で効能が得られやすいこと等の観点から、発酵させていない黒ショウガに比べて経口摂取が容易となる。また、飲食品、医薬品等に添加し摂取することや、化粧品に添加し経皮摂取すること、口腔用の飲食品、医薬品等に添加し経粘膜摂取すること等も可能である。
【0025】
さらに、本発明の発酵黒ショウガは、種々の用途に用いることができ、様々な組成物、例えば、飲食品、家畜用飼料、ペットフード、医薬品等に用いることができる。なお、対象となる生体は、ヒト以外であっても、家畜、ペット、魚類その他の生体でも構わない。
【0026】
また、本発明の発酵黒ショウガは、そのまま摂取してもよいが、液体状、ゲル状、顆粒状、粉末状、固体状、カプセル等に加工し、摂取が容易な形態を選ぶことができる。加えて、化粧品のように皮膚に適用するのに好適な形態、例えば直接皮膚に塗る形態やエアゾール型のように塗布する形態等にすることもできる。
【実施例】
【0027】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
黒ショウガの根茎をエタノールで消毒した後、消毒したガラス製ビーカーに入れ、アルミホイルで蓋をした。それを40℃のインキュベーターで3週間熟成させた。
【0029】
(参考例)
実施例1において、40℃を60℃に代えた以外は実施例1と同様にして黒ショウガを熟成させた。
【0030】
(評価)
実施例1、参考例について、処理前後の重量、官能を評価した結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例1の40℃で処理した黒ショウガは、開始時に比べ刺激性の匂いが低減され、果物が過熟したような熟成香を放ち、また処理前に比べて軟らかくなっていた。熟成処理により、食品としてより好ましい風味となり、また水分が減少して濃縮されたにも関わらず軟らかく、加工に適した状態となった。
それに対して、参考例の60℃で処理した黒ショウガは開始時の刺激性の匂いが残り、加えて土壌・ホコリのような臭いを放ち、硬く乾燥していたため、熟成処理に適さないことが明らかになった。
【0033】
以上の結果から、黒ショウガ(Kaempferia parviflora)に菌体を加えずに所定の温度、湿度で、所定の期間おくことで、自家発酵した発酵黒ショウガが得られることが確認された。