【背景技術】
【0002】
従来、頭部の局所的に毛髪の薄くなった部分を一時的に補う技術として、黒色粉末状の擬似増毛剤を頭髪に振りかけたり、スプレーによって吹付けたりなどして固着せしめ、頭髪を豊かに見せる擬似増毛剤や、頭髪に適用するための方法等が開発されている。
例えば特許文献1では、太さが7〜110μmの範囲、かつ平均長さが3mmをこえないたんぱく繊維と分離性向上剤とを含む化粧用微髪毛が開発されており、頭髪に振りかけたり、スプレーによって吹付けたりすることで、合成繊維の微髪毛に比べて光線のあたり方によって白髪のように見えることがなく、自然毛の感じが得られるとされている。
特許文献2では、固体微粉末、カーボンブラック、付着性樹脂、揮発性有機溶剤、分散剤と噴射剤とを含有する擬似増毛用スプレー組成物が開示され、多数回にわたって安定に使用できるものであるとされている。
特許文献3では特定のセルローズ系繊維を主軸とする擬似頭髪増毛材組成物からなる多機能性擬似頭髪増毛材が開示され、頭髪薄毛部分での不足を補う嵩高ボリューム感が向上し、抗菌・消臭作用並びに頭皮血行促進やリラックス効果を有するものであるとされている。
またカーボンブラックを噴霧した後、人工毛髪繊維を散布する処理を行うことで、頭髪にボリューム感を持たせる方法(特許文献4)、静電気を帯電させた短繊維をジェル等の整髪料を塗布した頭髪に適用することで、短繊維を均一に、かつ密着させる方法(特許文献5)、粉状又は短繊維状の擬似増毛材に噴射用ガスを噴射して擬似増毛材を飛昇させ、その擬似増毛材に、さらに毛髪用液状化粧料組成物とともに新たに噴射用ガスを噴射して毛髪用液状化粧料組成物と擬似増毛材とを頭部に噴射する吹付ける方法(特許文献6)などが知られている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、(A)松樹皮抽出物及び(B)陳皮抽出物を含有する、粉末状擬似増毛剤である。擬似増毛剤は、ヘアファンデーションやヘアパウダーとも称されるものである。以下に詳細を説明する。
【0009】
(松樹皮抽出物)
本発明において(A)松樹皮抽出物に用いることができる松樹皮としては、例えば、フランス海岸松、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどのマツ目に属する植物の樹皮が挙げられる。
これらの中でも、フランス海岸松(学名:Pinus maritima)の樹皮が好ましく、フランス海岸松は南仏の大西洋沿岸などに生育している海洋性松をいう。フランス海岸松樹皮抽出物を用いた場合、後述する(B)陳皮抽出物と併用したときの光沢・ツヤ感や毛髪固着性が高められる。また、血流改善作用により、毛乳頭細胞の増殖作用や育毛を促進する作用も期待できる。
【0010】
松樹皮抽出物は、上記の松樹皮を溶媒で抽出して得られる。ここで用いることができる溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、含水有機溶媒(含水エタノールといった含水アルコール)が挙げられる。水を溶媒に用いる場合には、温水または熱水を用いてもよい。抽出に用いる有機溶媒としては、食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒が用いられ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、および1,1,2−トリクロロエテンが挙げられる。これらの水および有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合せて用いてもよい。特に、熱水、含水エタノール、および含水プロピレングリコールが好ましく用いられる。
【0011】
松樹皮抽出物を松樹皮から抽出する方法については特に制限はないが、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法などが用いられる。
【0012】
超臨界流体抽出法とは、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて抽出を行う方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)等が用いられるが、二酸化炭素が好ましく用いられる。
【0013】
超臨界流体抽出法では、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程と、目的成分と超臨界流体を分離する分離工程とを行う。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
【0014】
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、抽出流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類を2〜20W/V%程度添加し、この流体を用いて超臨界流体抽出を行うことによって、OPC(oligomeric proanthocyanidin:オリゴメリック・プロアントシアニジン)、カテキン類などの目的とする抽出物の抽出溶媒に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、効率的な松樹皮抽出物を得る方法である。
【0015】
超臨界流体抽出法は、比較的低い温度で操作できるため、高温で変質・分解する物質にも適用できるという利点、抽出流体が残留しないという利点、溶媒の循環利用が可能であるため、脱溶媒工程などが省略でき、工程がシンプルになるという利点がある。
【0016】
また、松樹皮からの抽出は、上述の抽出法以外に、液体二酸化炭素回分法、液体二酸化炭素還流法、超臨界二酸化炭素還流法等により行ってもよい。
【0017】
松樹皮からの抽出は、複数の抽出方法を組み合わせてもよい。複数の抽出方法を組み合わせることにより、種々の組成の松樹皮抽出物を得ることが可能となる。
【0018】
上述した抽出により得られた松樹皮抽出物は、限外濾過、あるいは吸着性担体(ダイヤイオンHP−20、Sephadex−LH20、キチンなど)を用いたカラム法またはバッチ法により精製を行うことが安全性の面から好ましい。
【0019】
(A)松樹皮抽出物の市販品としては、例えばフラバンジェノール(東洋新薬社製。なお、「フラバンジェノール」は株式会社東洋新薬の登録商標)が挙げられる。
(A)松樹脂抽出物と(B)陳皮抽出物を併用することにより光沢・ツヤ感や毛髪固着性が高められ、また紫外線が照射されることによる頭髪の痛みを防止することができる。
【0020】
(A)松樹皮抽出物の含有量は、特に制限されるものではないが、粉末状擬似増毛剤の全量に対して、0.000001〜1重量%であることが好ましく、0.00001〜0.1重量%がより好ましい。
【0021】
(陳皮抽出物)
本発明に用いられる(B)陳皮抽出物は、特に制限されるものではなく、公知のものを用いることができる。
陳皮は、本発明では柑橘果皮を乾燥させたものと定義する。陳皮は一般的に、中国では熟したマンダリンオレンジの果皮を干したものが用いられ、日本では熟した温州みかんの果皮を乾燥させたものが用いられている。
本発明において、陳皮として用いられる柑橘果皮は特に制限はなく、国内産のものでも国外産のものでもよく、産地は特に問わないが、これらの中でも、ゲンコウの陳皮であることが好ましい。ゲンコウは、佐賀県に自生する香酸柑橘類の一種である佐賀県固有の果実である。粉末状擬似増毛剤中に(A)松樹皮抽出物と共に用いることで、毛髪へのツヤ感や手触りのよさ、毛髪固着性を付与することができる。
【0022】
(B)陳皮抽出物は、上記の陳皮を溶媒で抽出して得られる。抽出溶媒、抽出方法および精製方法は松樹皮抽出物の場合と同様にして行うことができる。
【0023】
(A)松樹皮抽出物と(B)陳皮抽出物を組み合わせて用いることにより、光沢・ツヤ感、毛髪固着性が優れた粉末状擬似増毛剤を得ることができる。また紫外線照射による頭髪の痛みを防止できる。
【0024】
(B)陳皮抽出物の含有量は、特に制限されるものではないが、粉末状擬似増毛剤の全量に対して、0.00000001〜1重量%であることが好ましく、0.0000001〜0.1重量%がより好ましい。また(A)松樹皮抽出物100重量部に対して、1〜10000重量部であることが好ましく、50〜5000重量部がさらに好ましい。この範囲で最も光沢・ツヤ感、毛髪固着性がよくなり、紫外線照射による頭髪の痛みをより防止することができる。
【0025】
(冬虫夏草抽出物)
本発明の粉末状擬似増毛剤は、上記必須成分と共に、さらに(C)冬虫夏草抽出物を含むことが好ましい。冬虫夏草抽出物は、特に制限されるものではなく、冬虫夏草を乾燥させたものを水又は有機溶剤に浸出させ濃縮させたもの等が挙げられ、市販のものでもよい。
【0026】
(C)冬虫夏草抽出物の含有量は、粉末状擬似増毛剤の全量に対して、0.0000001〜1重量%であることが好ましく、0.00001〜0.1重量%がより好ましい。また(A)松樹皮抽出物100重量部に対して、1〜5000重量部であることが好ましい。(C)冬虫夏草抽出物を含有させることにより、光沢・ツヤ感を向上させ、さらに毛髪固着性を向上させることができる。
【0027】
本発明の粉末状擬似増毛剤の製造方法としては、例えば(A)松樹皮抽出物及び(B)陳皮抽出物に水を加えたものを基剤に添加し、乾燥させる方法等が挙げられる。なお乾燥の条件に特に制限はなく、室温にて一日程度おいても良いし、加熱して乾燥させても良い。また水については、特に制限はなく、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水等を用いることができ、配合量は必要に応じて変更すればよい。
【0028】
本発明の粉末状擬似増毛剤は、上記成分の他に、カーボンブラック、酸化鉄などの黒色顔料、その他の無機粒子、天然繊維、合成繊維等を配合することができる。
無機粒子としては、例えばカオリン、タルク、炭酸カルシウム、亞鉛華、珪素酸化物、硫化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化錫、シリカ、酸化チタン、マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ等が挙げられる。
なおこれらの成分の粒径や形状については特に制限はなく、必要に応じて変更することができるが、例えばカーボンブラックであれば、粒径が20μm以下の粒子状又は繊維状のものを用いることができる。
【0029】
天然繊維としては、例えば人毛、羊毛、木綿、絹等が挙げられる。
合成繊維としては、例えば上記天然繊維の再生繊維、ナイロン、ビニロン、ポリエステル等が挙げられる。
天然繊維又は合成繊維は、人毛色に類似した黒色等の色彩を有するもの又はその色彩の着色が可能なものを用いることができる。これらを擬似増毛剤として用いる場合、直径5〜120μm、長さ10〜2000μmの短繊維状のものが好ましい。
【0030】
また本発明の粉末状擬似増毛剤には、必要に応じてその他の成分として、付着樹脂、噴射剤、分散剤、染料、pH調整剤、可塑剤、展着剤、香料等を配合することができる。
【0031】
本発明の粉末状擬似増毛剤の使用方法(薄毛部分を補修する方法)は、特に制限されるものではないが、本発明の粉末状擬似増毛剤を頭髪や頭皮に振りかけてもよいし、エアゾール型にして吹付けてもよい。またスポンジ状のパフ等に本発明の粉末状擬似増毛剤を付着させ、頭髪や頭皮に付着させてもよい。粉末状擬似増毛剤を頭髪や頭皮に固着させるにあたっては、必要に応じて手で頭髪や頭皮になじませてもよいし、櫛(歯の間隔は問わない)等を用いて頭髪や頭皮になじませてもよい。また、固着用のスプレーを用いて頭髪や頭皮に固着させても良い。
【実施例】
【0032】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0033】
(サンプルの調製)
下記表1の処方に従って(サンプル1〜4)及び(比較サンプル1〜3)を調製した。また比較のため(対照サンプル)についても調整した。
【0034】
また、下記表2の処方に従って擬似増毛剤基剤を調製した。
【0035】
(実施例1〜4、比較例1〜3及び対照例)
上記調製した(サンプル1〜4)、(比較サンプル1〜3)及び(対照サンプル)のそれぞれ0.02gを表2の擬似増毛剤基剤2gに添加・混合した。その後、室温にて一日放置し、乾燥させることで実施例、比較例、対照例の粉末状擬似増毛剤を調製した。サンプル1〜4を添加・混合後、乾燥させたものがそれぞれ実施例1〜4であり、比較サンプル1〜3を添加・混合後、乾燥させたものが比較例1〜3であり、対照サンプルを添加・混合後、乾燥させたものが対照例である。なお、下記の表中、「−」(ハイフン)は配合なしを表す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表中、松樹皮抽出物、陳皮抽出物としては具体的に以下のものを用いた。
・松樹皮抽出物:フランス海岸松の樹皮を使用、東洋新薬社製
・陳皮抽出物:ゲンコウの陳皮を使用、東洋新薬社製
【0039】
(光沢・ツヤ感及び固着性の評価)
30〜50代の被験者3名(男性2名、女性1名)により、上記実施例及び比較例で調製した粉末状擬似増毛剤について下記の評価を行なった。評価は対照例と比較して、下記の基準により、評点を付けて平均値を得た。得られた結果を表3に示す。
【0040】
5点:非常に良い
4点:良い
3点:かなり良い
2点:わずかに良い
1点:変わらない
【0041】
<粉末状擬似増毛剤の光沢・ツヤ感>
上記実施例及び比較例で得られた粉末状擬似増毛剤について、光沢・ツヤ感の見た目を評価した。
【0042】
<粉末状擬似増毛剤を塗布した毛束の光沢・ツヤ感>
上記実施例及び比較例で得られた粉末状擬似増毛剤を毛束に塗布し、光沢・ツヤ感の見た目を評価した。
【0043】
<粉末状擬似増毛剤の毛束への固着性>
上記実施例及び比較例で得られた粉末状擬似増毛剤を毛束に塗布し、毛束への固着性を評価した。
【0044】
(蛍光灯照射後の毛束の痛み具合の評価)
30〜50代の被験者3名(男性2名、女性1名)により、上記実施例及び比較例で得られた粉末状擬似増毛剤を毛束に塗布し、塗布後、蛍光灯を7日間照射し、毛束の痛み具合を評価した。痛み具合の評価は対照例と比較して、下記の基準により、評点を付けて平均値を得た。得られた結果を表3に示す。
【0045】
5点:状態が良い
4点:やや状態が良い
3点:変わらない
2点:やや痛んでいる
1点:痛んでいる
【0046】
【表3】
【0047】
以上の結果から、本発明によれば頭髪に適用した時の光沢・ツヤ感に優れ、紫外線照射による頭髪の痛みを防止でき、毛髪固着性が高い粉末状擬似増毛剤が得られることがわかる。
【0048】
以下に本発明の粉末状擬似増毛剤の処方例を示すが、本発明はこの処方例によって限定されるものではない。なお、以下の処方例では、上記実施例で用いたものと同じものを用いた。
【0049】
(処方例1)
下記表4の処方に従って得られた粉末状擬似増毛剤を処方例1とした。
【0050】
【表4】
【0051】
処方例1で得られた粉末状擬似増毛剤は、頭髪に適用した時の光沢・ツヤ感に優れ、紫外線照射による頭髪の痛みを防止でき、毛髪固着性が高かった。
【0052】
(処方例2)
下記表5の処方に従って得られた粉末状擬似増毛剤を処方例2とした。
【0053】
【表5】
【0054】
処方例2で得られた粉末状擬似増毛剤は、頭髪に適用した時の光沢・ツヤ感に優れ、紫外線照射による頭髪の痛みを防止でき、毛髪固着性が高かった。
【0055】
(処方例3)
下記表6の処方に従って得られた粉末状擬似増毛剤を処方例3とした。
【0056】
【表6】
【0057】
処方例3で得られた粉末状擬似増毛剤は、頭髪に適用した時の光沢・ツヤ感に優れ、紫外線照射による頭髪の痛みを防止でき、毛髪固着性が高かった。
【0058】
(処方例4)
下記表7の処方に従って得られた粉末状擬似増毛剤を処方例4とした。
【0059】
【表7】
【0060】
処方例4で得られた粉末状擬似増毛剤は、頭髪に適用した時の光沢・ツヤ感に優れ、紫外線照射による頭髪の痛みを防止でき、毛髪固着性が高かった。