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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-30809(P2015-30809A)
(43)【公開日】2015年2月16日
(54)【発明の名称】エッチング液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 13/06 20060101AFI20150120BHJP
【FI】
   C09K13/06 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-162027(P2013-162027)
(22)【出願日】2013年8月5日
(71)【出願人】
【識別番号】591089855
【氏名又は名称】三和油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】内野 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】上林 直樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鉄系母材からなる切削工具等の表面に施された、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化チタンアルミ等のチタンを主成分とする被膜を除去する際に有利に使用されるエッチング液組成物であって、過酸化水素の安定性に優れていると共に、被膜の溶解・除去処理の際に鉄系母材の腐蝕を効果的に抑制し得るものを提供する。
【解決手段】縮合リン酸及び/又はその塩類を0.5〜5.0重量%、カルボン酸及び/又はその塩類を0.5〜10.0重量%、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類を1.0〜20.0重量%、過酸化水素を10.0〜33.0重量%の割合において含有する水溶液からなるエッチング液組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮合リン酸及び/又はその塩類を0.5〜5.0重量%、カルボン酸及び/又はその塩類を0.5〜10.0重量%、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類を1.0〜20.0重量%、過酸化水素を10.0〜33.0重量%の割合において含有する水溶液からなるエッチング液組成物。
【請求項2】
前記縮合リン酸及び/又はその塩類が、ピロリン酸、トリポリリン酸、ペンタポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、トリポリリン酸アンモニウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸カリウム、ペンタポリリン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸アンモニウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上である請求項1に記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸及び/又はその塩類が、グルコン酸、グリコール酸、クエン酸、フタル酸、シュウ酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸アンモニウム、グリコール酸ナトリウム、グリコール酸カリウム、グリコール酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸カリウム、フタル酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ナトリウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸カリウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸アンモニウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上である請求項1又は請求項2に記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
前記ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類が、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五アンモニウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のエッチング液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング液組成物に係り、特に、主として金属加工の際に使用される刃具(切削工具)や金型等の表面に施された、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化チタンアルミ等のチタンを主成分とする被膜を除去する際に、好適に使用されるエッチング液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属加工に使用される各種の刃具(切削工具)や金型等(以下、適宜「切削工具等」という)においては、切削性、剥離性、耐摩耗性や耐酸化性等を付与することを目的として、鉄系母材の表面に、種々の表面処理が施されていたり、或いは、硬質被膜が形成されているのが一般的である。そのような切削工具等が長期間に亘って使用されると、表面処理部が欠落等したり、或いは被膜が(部分的に)剥離等することによって、所望とされる切削性等を発揮し得なくなる恐れがある。このため、長期間使用された切削工具等にあっては、その鉄系母材の寸法誤差が許容範囲内にある限り、通常は再生処理が施されて、繰り返し使用される。
【0003】
そのように、鉄系母材の表面に硬質被膜が形成されてなる切削工具等であって、長期間に亘って使用されたものに対して再生処理を施す場合、かかる処理の過程において、切削工具等の表面における被膜等の残留物を溶解し、除去するという作業が実施される。そのような残留被膜等の溶解・除去処理においては、従来より、水等の溶媒に種々の成分が添加されてなるエッチング液(除去剤)が使用されている。特に、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化チタンアルミ等のチタンを主成分とする被膜の除去を目的とするエッチング液(除去剤)としては、例えば、チタピールABシリーズ(商品名、株式会社ADEKA製)や、チタトール(商品名、株式会社不二越製)等が知られている。
【0004】
窒化チタン等のチタンを主成分とする被膜を溶解し、除去する方法としては、被膜が形成された切削工具等を、単にエッチング液(除去剤)に浸漬せしめる方法や、エッチング液に浸漬せしめた状態にて電解処理を実施する方法等が知られている。エッチング液に浸漬せしめることのみによって、チタンを主成分とする被膜を除去する方法においては、被膜中のチタン等の金属成分をイオン化して溶解させるべく、酸化剤を含有するエッチング液が使用されるところ、かかる酸化剤としては、従来より、過酸化水素が広く用いられている。
【0005】
ここで、過酸化水素は、酸化剤としての機能だけではなく、チタンと安定な錯体を形成することによりチタンの溶解を促進したり、溶解したチタンの析出を抑制する機能をも有することが知られている(非特許文献1を参照)。その一方、過酸化水素は、一般的に安定性に乏しく、ある種の金属成分が所定量、混入することによって、或いは、光や熱などの外的要因等によって、自己分解反応が促進されると同時に、自らの分解熱によって加速度的に分解反応が進行するという特徴がある。従って、過酸化水素を含有するエッチング液(除去剤)を用いて、チタンを主成分とする被膜の溶解・除去処理を実施するに際しては、過酸化水素の分解を如何に制御するかが非常に重要であるところ、過酸化水素の分解を効果的に抑制し得る薬剤(エッチング液)として、過酸化水素と共に所定のホスホン酸又はその塩を含有するものが既に実用化されている(特許文献1を参照)。
【0006】
しかしながら、ホスホン酸及びその塩は一般的に高価であることから、再生処理に要するコストも必然的に高くなるという問題がある。このため、チタンを主成分とする被膜が形成された切削工具等の再生処理におけるコストを低下させるという観点より、ホスホン酸やその塩を使用しない安価な薬剤(エッチング液組成物)の開発が望まれている。
【0007】
他方、過酸化水素の分解反応を抑制する効能を有する化合物として、グルコン酸塩やグリコール酸塩等の有機酸塩類、縮合リン酸塩類、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)及びその塩類等の、各種キレート剤が広く知られている。これら各種のキレート剤を含有するエッチング液(除去剤)としては、特許文献2〜特許文献4にて提案されているものを始めとして、従来より様々なものが知られている。
【0008】
しかしながら、上記の如きキレート剤を含有する、従来より公知の組成に係るエッチング液(除去剤)にあっては、何れも、ホスホン酸塩を使用したものと比較して過酸化水素の分解反応が顕著となる恐れがある、その使用方法によっては被膜の除去ムラが発生する恐れがある、エッチング液の寿命が短くなる恐れがある等の問題を有するものであった。
【0009】
また、上記したキレート剤のうち、DTPA及びその塩類については、過酸化水素の安定化剤としてEDTA及びその塩類より優れた効果を発揮し得ると、キレート剤の製造及び販売を業務とするメーカーの一部においては評価されている。
【0010】
しかしながら、本発明者等が、チタンを主成分とする被膜を除去する際に使用されるエッチング液組成物として、過酸化水素と共にDTPA及び/又はその塩類を含む溶液について鋭意研究を進めたところ、かかる溶液の組成によっては、過酸化水素の安定化を有利に図ることが出来ない恐れがあることに加えて、DTPA及び/またはその塩類の分解によって酢酸が発生し、その発生した酢酸によって溶液のpHが低下せしめられることにより、再生処理の対象である切削工具等の鉄系母材を腐蝕させる恐れのあることが、判明したのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4326144号公報
【特許文献2】特許第4661005号公報
【特許文献3】特許第3515076号公報
【特許文献4】特許第2597931号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】一ノ瀬弘道、“平成15年度研究報告 微構造制御光触媒材料の開発と応用”、[online]、佐賀県窯業技術センター、インターネット(http://www.scrl.gr.jp/pdf/2003/h15_fc2.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、鉄系母材からなる切削工具等の表面に施された、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化チタンアルミ等のチタンを主成分とする被膜を除去する際に有利に使用されるエッチング液組成物であって、過酸化水素の安定性に優れていると共に、被膜の溶解・除去処理の際に鉄系母材の腐蝕を効果的に抑制し得るものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、本発明は、そのような課題を解決すべく、縮合リン酸及び/又はその塩類を0.5〜5.0重量%、カルボン酸及び/又はその塩類を0.5〜10.0重量%、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類を1.0〜20.0重量%、過酸化水素を10.0〜33.0重量%の割合において含有する水溶液からなるエッチング液組成物を、その要旨とするものである。
【0015】
なお、本発明に従うエッチング液組成物における好ましい第一の態様においては、前記縮合リン酸及び/又はその塩類が、ピロリン酸、トリポリリン酸、ペンタポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、トリポリリン酸アンモニウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸カリウム、ペンタポリリン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸アンモニウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上である。
【0016】
また、本発明のエッチング液組成物における好ましい第二の態様においては、前記カルボン酸及び/又はその塩類が、グルコン酸、グリコール酸、クエン酸、フタル酸、シュウ酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸アンモニウム、グリコール酸ナトリウム、グリコール酸カリウム、グリコール酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸カリウム、フタル酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ナトリウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸カリウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸アンモニウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上である。
【0017】
さらに、本発明のエッチング液組成物における好ましい第三の態様においては、前記ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類が、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五アンモニウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上である。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明に従うエッチング液組成物にあっては、酸化剤として機能する過酸化水素と共に、縮合リン酸及び/又はその塩類と、カルボン酸及び/又はその塩類と、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類とを、各々、所定の割合にて含有せしめてなる水溶液より構成されるものである。このような複数の成分を配合せしめることにより、本発明に係るエッチング液組成物にあっては、従来のホスホン酸又はその塩類を含有する溶液からなるエッチング液組成物と同程度に、過酸化水素の安定性に優れ、また、チタンを主成分とする被膜の溶解・除去処理の際に、切削工具等を構成する鉄系母材の腐蝕が効果的に抑制され得ることとなるのである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記したように、本発明に従うエッチング液組成物は、酸化剤として機能する過酸化水素と共に、縮合リン酸及び/又はその塩類と、カルボン酸及び/又はその塩類と、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類とを必須成分とする水溶液より、構成されるものである。
【0020】
それら各成分のうち、過酸化水素は、窒化チタンを始めとするチタンを主成分とする被膜(以下、単に被膜ともいう)の溶解及び除去に際して、かかる被膜中のチタン(及びその他の金属)をイオン化して溶解させるための酸化剤として機能するものである。このため、エッチング液組成物において、過酸化水素の配合割合が少なすぎると、その分解は有利に抑制され得るものの、所望とする酸化剤としての機能が効果的に発現しない恐れがある。その一方、過酸化水素の配合割合が多すぎると、過酸化水素の分解抑制のために、後述する各成分の配合割合も必然的に多くなり、エッチング液組成物のコスト上昇、引いては切削工具等の再生処理に要するコストの上昇を招く恐れがある。また、過酸化水素は、一般には30〜35重量%水溶液として取り扱われており、これを超える濃度の水溶液は過酸化水素の自然分解による爆発の危険性が高まるため、かかる水溶液の使用は特殊な用途に限られているのが現状である。従って、本発明のエッチング液組成物において、過酸化水素は、その配合割合が10.0〜33.0重量%となるような量的割合において、好ましくは10.0〜27.0重量%となるような量的割合において、配合される。
【0021】
本発明に係るエッチング液組成物において、縮合リン酸及び/又はその塩類、及び、カルボン酸及び/又はその塩類は、何れも、過酸化水素の分解を抑制すると共に、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類の分解に起因する、被膜の溶解・除去処理中のエッチング液組成物におけるpH低下を有利に抑制するために、配合されるものである。かかる処理中のエッチング液組成物におけるpH低下を抑制するためには、縮合リン酸及び/又はその塩類と、カルボン酸及び/又はその塩類とを併用することが必要である。
【0022】
ここで、本発明に係るエッチング液組成物においては、従来より公知の種々の縮合リン酸及び/又はその塩類を、本発明の目的を阻害しない限りにおいて使用することが可能である。具体的には、ピロリン酸、トリポリリン酸、ペンタポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸アンモニウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、トリポリリン酸アンモニウム、ペンタポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸カリウム、ペンタポリリン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸アンモニウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸カリウム、ヘキサメタリン酸アンモニウム等の中から、溶解・除去処理の対象である被膜の種類(成分)等に応じて、一種又は二種以上のものが適宜に選択されて、使用することが出来る。本発明においては、特に、トリポリリン酸ナトリウムが有利に使用される。
【0023】
本発明のエッチング液組成物において、縮合リン酸及び/又はその塩類の配合割合が少なすぎると、上述した過酸化水素の分解抑制等の効果を有利に享受することが出来ない恐れがある。その一方、配合割合が多すぎても、格別顕著な効果は認められず、無用のコスト上昇を招く恐れがある。また、一部の縮合リン酸塩にあっては、溶解度が低く、被膜の溶解・除去処理の途中で水分蒸発等による組成変化が生じた際に、組成物より析出する恐れがある。このため、本発明のエッチング液組成物において、縮合リン酸及び/又はその塩類は、その配合割合が0.5〜5.0重量%となるような量的割合において、配合される。
【0024】
一方、カルボン酸及び/又はその塩類についても、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、従来より公知のものを使用することが可能である。具体的には、グルコン酸、グリコール酸、クエン酸、フタル酸、シュウ酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸アンモニウム、グリコール酸ナトリウム、グリコール酸カリウム、グリコール酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸カリウム、フタル酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸ナトリウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸カリウム、3,4−ジヒドロキシ安息香酸アンモニウム等の中から、溶解・除去処理の対象である被膜の種類(成分)等に応じて、一種又は二種以上のものが適宜に選択されて、使用可能である。本発明においては、特に、グルコン酸ナトリウムが有利に使用される。
【0025】
カルボン酸及び/又はその塩類にあっても、その配合割合が少なすぎると、上述した過酸化水素の分解抑制等の効果を有利に享受することが出来ない恐れがある。その一方、配合割合が多すぎても、格別顕著な効果は認められず、無用のコスト上昇を招く恐れがある。このため、本発明のエッチング液組成物において、カルボン酸及び/又はその塩類は、その配合割合が0.5〜10.0重量%となるような量的割合において、配合される。
【0026】
本発明に係るエッチング液組成物において、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類は、過酸化水素の分解を効果的に抑制することを目的として、配合されるものである。ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)は勿論のこと、その塩類、具体的には、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸四水素一アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三水素二アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸二水素三アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸一水素四アンモニウム、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五アンモニウム等の中から、溶解・除去処理の対象である被膜の種類(成分)等に応じた一種又は二種以上のものが適宜に選択されて、使用される。本発明においては、特に、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム(DTPA・五ナトリウム)、ジエチレントリアミン五酢酸五カリウム(DTPA・五カリウム)、ジエチレントリアミン五酢酸五アンモニウム(DTPA・五アンモニウム)が有利に使用される。
【0027】
本発明において、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類の配合割合が少なすぎると、過酸化水素の分解抑制という効果を有利に享受することが出来ない恐れがある。その一方、配合割合が多すぎても、格別顕著な効果は認められず、無用のコスト上昇を招く恐れがある。このため、本発明のエッチング液組成物において、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類は、その配合割合が1.0〜20.0重量%となるような量的割合において、配合される。
【0028】
本発明に従うエッチング液組成物には、上述した過酸化水素等の必須成分に加えて、従来よりエッチング液組成物に配合される各種成分を、本発明の目的を阻害しない限りの量的割合において、配合することも可能である。そのような成分としては、例えば、組成物(水溶液)の表面張力を低下させて、切削工具(鉄系母材)表面に対する濡れ性の向上を目的とするノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤等を挙げることが出来る。
【0029】
上述の如き過酸化水素を始めとする各成分が、各々、所定の配合割合となるような量的割合において水に添加され、混合されることにより、本発明に従うエッチング液組成物は調製されるのである。
【0030】
なお、本発明のエッチング液組成物は、需要者(最終消費者)に対して、過酸化水素等の各成分を全て含む一種の水溶液の形態にて(一液系の形態にて)供給可能であることは勿論のこと、各成分を二以上の水溶液に分けて調製し、それら水溶液の混合を需要者(最終消費者)に委ねるような、二液系又は多液系の形態においても供給することが出来る。
【0031】
以上、詳述してきたように、本発明に従うエッチング液組成物にあっては、酸化剤として機能する過酸化水素と共に、縮合リン酸及び/又はその塩類と、カルボン酸及び/又はその塩類と、ジエチレントリアミン五酢酸及び/又はその塩類とを、各々、所定の割合にて含有せしめてなる水溶液より構成されるものである。これら各成分を配合せしめることにより、本発明に係るエッチング液組成物は、従来のホスホン酸又はその塩類を含有する溶液からなるエッチング液組成物と同程度に、過酸化水素の安定性に優れており、また、チタンを主成分とする被膜の溶解・除去処理の際に、切削工具等を構成する鉄系母材の腐蝕が効果的に抑制され得ることとなるのである。加えて、比較的高価なホスホン酸又はその塩類を使用しないことから、本発明のエッチング液組成物の製造コスト、並びに、これを用いた被膜の溶解・除去処理のコストも、低く抑えることが可能ならしめられるのである。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0033】
先ず、所定量の水(蒸留水)に対して、過酸化水素等の各成分を、下記表1及び表2に掲げる各割合となるように配合し、混合することにより、組成が異なる13種類のエッチング液組成物(実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例8)を調製した。過酸化水素の配合に際しては、市販されている過酸化水素水(濃度:35重量%)を用いた。なお、比較例1に係る組成は、先に述べた特許文献1(特許第4326144号公報)にて開示されている液剤(エッチング液組成物)に準じたものであり、所定のホスホン酸を含有するものとなっている。また、調製された各エッチング液組成物のpHを測定した。その測定結果を、下記表1及び表2に「組成物のpH(処理前)」として示す。
【0034】
厚さが8μmの窒化チタンアルミ(TiAlN)からなる被膜(TiAlN被膜)が施された切削工具(母材:高速度鋼材、直径:90mm×高さ:180mm)を、ポリプロピレン製の円筒状容器(直径:130mm×高さ:200mm)内の中央に配置し、次いで、先に準備したエッチング液組成物の2.3Lを円筒状容器内に投入し、切削工具の全体がエッチング液組成物に浸漬されるようにした。そのような円筒状容器を水浴内に載置し、水浴の底面から180cmの位置に水面がくるように水量の調整を行った。水浴内の水温が50±2℃になるようにヒーターで調整し、TiAlN被膜の溶解・除去処理を開始した。なお、かかる処理開始時のエッチング液組成物の温度は50℃であった。
【0035】
TiAlN被膜の溶解・除去処理中は、切削工具表面のTiAlN被膜の状態、及び、エッチング液組成物中の、過酸化水素の分解による気泡の発生量を、それぞれ目視で観察した。目視にてTiAlN被膜の存在が認められなくなった時点で、被膜の溶解・除去処理が完了したものと判断し、それまでに要した時間を下記表1及び表2に示した。なお、比較例3、比較例4及び比較例7に係る各組成物については、TiAlN被膜の溶解・除去処理が進行する一方で、過酸化水素の分解も激しく、制御不能に陥ったため、処理を中止した(下記表2における「※I」)。また、比較例8に係る組成物については、処理開始から24時間経過後においても、工具表面にTiAlN被膜が残存していることが認められたため、下記表2においては「24hr以上」と示している。
【0036】
一方、過酸化水素の分解によるエッチング液組成物中の気泡の発生状況については、比較例1に係るエッチング液組成物の状況を基準として、以下に示す判断基準に従って評価した。各エッチング液組成物に対する評価結果を、下記表1及び表2に示す。
◎:比較例1に係るエッチング液組成物と比較して、気泡の発生量が少ない。
○:比較例1に係るエッチング液組成物と同程度の量の気泡が発生する。
△:比較例1に係るエッチング液組成物と比較して、気泡の発生量が若干、多いもの の、実用上の問題はない。
×:比較例1に係るエッチング液組成物と比較して、気泡の発生量が非常に多く、実 用に際しては困難が伴うことが予想される。
【0037】
また、TiAlN被膜の溶解・除去処理中は、円筒状容器内に設置された温度センサーにて、エッチング液組成物の温度変化を記録した。エッチング液組成物の液温は、過酸化水素の分解が抑制されている間は52±2℃程度に保たれるが、分解が顕著になると、緩やかに又は急速に上昇する。そこで、被膜の溶解・除去処理開始から、エッチング液組成物の液温が55℃を超えるまでの時間を計測し、これを「液温が安定的に保たれる時間」とした。各エッチング液組成物についての「液温が安定的に保たれる時間」を、下記表1及び表2に示す。下記表1及び表2において、「24hr以上」とあるのは、処理開始から24時間経過後のエッチング液組成物の液温が55℃を超えなかったことを意味するものである。
【0038】
なお、TiAlN被膜の溶解・除去が、処理開始から24時間経過前に完了した場合であっても、切削工具を円筒状容器内より取り出すことはせずに、エッチング液組成物の液温の計測を続けた。そして、処理開始から24時間経過後に、再度、エッチング液組成物のpHを測定した。その測定結果を、下記表1及び表2において「組成物のpH(処理後)」として示す。なお、比較例2に係る組成物については、処理後の組成物のpH低下に起因すると思われる母材の着色(腐蝕)が認められた(下記表2の「※II」)。また、処理を途中で中止した比較例3、比較例4及び比較例7に係る各組成物については、処理を中止した直後の各組成物のpHを測定し、その結果を下記表2に示している。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
かかる表1及び表2の結果からも明らかなように、本発明に従うエッチング液組成物にあっては、鉄系母材の表面に施された、チタンを主成分とする被膜の溶解・除去処理に使用すると、ホスホン酸を使用した従来の液剤(エッチング液組成物)と同程度に、過酸化水素の分解が効果的に抑制されると共に、処理後のpHも、母材に大きな影響を与えるほどの大きな変化は認められなかった。
【0042】
これに対して、a)本発明の必須成分のうち、縮合リン酸及び/又はその塩類と、カルボン酸及び/又はその塩類とが配合されていない組成物(比較例2)や、b)ジエチレントリアミン五酢酸の塩類に代えてエチレンジアミン四酢酸四ナトリウムを用いた組成物(比較例3、比較例4)、更には、c)本発明の必須成分を含有しているものの、その量(配合割合)が少ない組成物(比較例5、比較例6、比較例7)にあっては、何れも、チタンを主成分とする被膜の溶解・除去処理中に過酸化水素の分解が著しく進行することが認められた。なお、過酸化水素の分解が著しい場合には、その分解熱による組成物の液温も著しく上昇し、逐次的に過酸化水素の分解が進行することによって、容器内よりエッチング液組成物が吹きこぼれる恐れがある。
【0043】
また、特に、ジエチレントリアミン五酢酸の塩類が配合される一方で、縮合リン酸及び/又はその塩類と、カルボン酸及び/又はその塩類とが配合されていない組成物(比較例2)にあっては、処理後の組成物のpHの低下が著しく、母材の腐蝕も認められている。更に、本発明より過酸化水素の配合割合が少ない組成物(比較例8)については、組成物中の過酸化水素の安定性が図られ、処理後の組成物のpHについても変化が少ないものとなっているが、過酸化水素の配合割合が少ないことに起因して、被膜の溶解・除去に多大な時間を要することが、確認されたのである。