【解決手段】コンドロイチン硫酸又はその塩の加水分解物で、質量平均分子量が25000Da以下のものを含有する糖尿病予防食品;コンドロイチン硫酸又はその塩の加水分解物で、質量平均分子量が25000Da以下のものを有効成分とする糖尿病治療薬;アルギン酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させて、前記アルギン酸又はその塩を加水分解して得られた、質量平均分子量が50000Da以下の分解物を含有する糖尿病予防食品;アルギン酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させて、前記アルギン酸又はその塩を加水分解して得られた、質量平均分子量が50000Da以下の分解物を有効成分とする糖尿病治療薬。
前記コンドロイチン硫酸が、N−アセチル−D−ガラクトサミンとD−グルクロン酸とからなる多糖類で、該ガラクトサミンの4位の炭素原子が硫酸化されたコンドロイチン硫酸A、及び該ガラクトサミンの6位の炭素原子が硫酸化されたコンドロイチン硫酸Cを主たる構成単位とするものである請求項1に記載の糖尿病予防食品。
前記コンドロイチン硫酸が、N−アセチル−D−ガラクトサミンとD−グルクロン酸とからなる多糖類で、該ガラクトサミンの4位の炭素原子が硫酸化されたコンドロイチン硫酸A、及び該ガラクトサミンの6位の炭素原子が硫酸化されたコンドロイチン硫酸Cを主たる構成単位とするものである請求項3に記載の糖尿病治療薬。
アルギン酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させて、前記アルギン酸又はその塩を加水分解して得られた、質量平均分子量が50000Da以下の分解物を含有する糖尿病予防食品。
アルギン酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させて、前記アルギン酸又はその塩を加水分解して得られた、質量平均分子量が50000Da以下の分解物を有効成分とする糖尿病治療薬。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、詳細に説明する。なお、本発明において、分子量の単位として示す「Da」は「ダルトン」を意味する。
【0014】
<糖尿病治療薬(第一の実施形態)>
本発明の第一の実施形態に係る糖尿病治療薬は、コンドロイチン硫酸又はその塩の加水分解物で、質量平均分子量が25000Da以下のもの(以下、「CS分解物」と略記することがある)を有効成分とするものである。かかる糖尿病治療薬は、血糖値の低減作用だけでなく、ヘモグロビンA
1c(以下、「HbA
1c」と略記することがある)値の低減作用、インスリン抵抗性の軽減作用を有し、インスリン値(血中インスリン濃度)と血糖値(随時血糖値)とから算出されるインスリン抵抗性指数(HOMA−R)も低減するなど、糖尿病の病態改善に優れた効果を有する。なお、HbA
1c値は過去の平均血糖値の指標とされている値である。
【0015】
前記コンドロイチン硫酸又はその塩は特に限定されず、種々の由来のものが使用でき、例えば、軟骨、骨、軟骨腫、頸靭帯、角膜、血管壁、腱等の結合組織に広く存在している。
なかでも、前記コンドロイチン硫酸は、N−アセチル−D−ガラクトサミンとD−グルクロン酸とからなる多糖類で、該ガラクトサミンの4位の炭素原子が硫酸化されたコンドロイチン硫酸A、及び該ガラクトサミンの6位の炭素原子が硫酸化されたコンドロイチン硫酸Cを主たる構成単位とするものが好ましい。
【0016】
本発明において、「コンドロイチン硫酸A」とは、N−アセチル−D−ガラクトサミンとD−グルクロン酸とからなる多糖類で、該ガラクトサミンの4位の炭素原子が硫酸化されたAユニットを有する、下記式(1)で表される二糖を構成単位として含むものである。そして、「コンドロイチン硫酸C」とは、前記多糖類で、該ガラクトサミンの6位の炭素原子が硫酸化されたCユニットを有する、下記式(2)で表される二糖を構成単位として含むものである。
そして、上記の好ましいコンドロイチン硫酸とは、前記コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cを主たる構成単位とするものであり、その他の構成単位として、天然資源中に不可避的に存在する糖鎖や、ペプチド等を含んだものでもよい。
【0018】
コンドロイチン硫酸としては、市販品を用いてもよく、具体的な市販品としては、日本薬品株式会社製の各種コンドロイチン硫酸が例示できる。
【0019】
コンドロイチン硫酸の塩とは、コンドロイチン硫酸中のカルボキシ基(−COOH)、硫酸基(−OSO
3H)、水酸基(−OH)等の水素イオン(H
+)が解離し得る基の1個以上において、水素イオンがその他のカチオンに置換されて塩を形成しているものであり、塩の形成部位の数は、1個のみでもよいし、2個以上でもよく、水素イオンが解離し得る基のすべてが塩を形成していてもよい。
【0020】
コンドロイチン硫酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等が例示でき、水への溶解度が向上する点では、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
コンドロイチン硫酸の塩の形成部位が複数個である場合には、これら複数個の塩はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。例えば、コンドロイチン硫酸中のカルボキシ基及び硫酸基が共に塩を形成していてもよい。そして、塩を形成しているカチオンは、一種のみでもよいし、二種以上でもよく、二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、特に限定されない。例えば、コンドロイチン硫酸中の硫酸基として、ナトリウム塩を形成しているものとカリウム塩を形成しているものとが共存していてもよい。
コンドロイチン硫酸の特に好ましい塩としては、ナトリウム塩(コンドロイチン硫酸ナトリウム)が例示できる。
【0021】
コンドロイチン硫酸の塩は、例えば、塩を形成していないコンドロイチン硫酸をイオン交換することで調製できる。
【0022】
前記CS分解物は糖類であり、質量平均分子量が25000Da以下であり、575Da〜25000Daであることが好ましく、5700Da〜20000Daであることがより好ましい。
また、前記CS分解物は、数平均分子量が23000Da以下であることが好ましく、431Da〜23000Daであることがより好ましく、4300Da〜18000Daであることが特に好ましい。
【0023】
前記CS分解物は、薬学上許容される塩であってもよい。前記CS分解物は、用いたコンドロイチン硫酸の種類に応じて、例えば、カルボキシ基(−COOH)、硫酸基(−OSO
3H)、水酸基(−OH)等の水素イオン(H
+)が解離し得る基を有しており、このような塩を形成し得る基の少なくとも1個において、解離した水素イオンがその他のカチオンに置換されて、塩を形成していてもよい。なお、水素イオンが解離し得る基は、上記のものに限定されず、コンドロイチン硫酸の種類によっては、例えば、スルホン酸基(−SO
3H)、リン酸基(−O−P(=O)−(OH)
2)等のその他の酸基も例示でき、塩の形成部位は特に限定されず、例えば、上記の好ましいコンドロイチン硫酸の場合であれば、コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸C以外の構成単位であってもよい。
【0024】
前記CS分解物の薬学上許容される塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等が例示できる。塩の形成部位が複数個である場合には、これら複数個の塩はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。なかでも好ましい塩としては、ナトリウム塩が例示できる。
【0025】
好ましい前記CS分解物としては、コンドロイチン硫酸のAユニットとCユニットとの比率(Aユニット:Cユニット)が、1.0:5.0〜1.0:100であるものが例示できる。なお、ここでの「比率」とは、前記CS分解物を
1H−NMRで解析した時の、Aユニットに由来するピークの積分値と、Cユニットに由来するピークの積分値との比率のことを指す。
【0026】
前記糖尿病治療薬において、有効成分である前記CS分解物は、一種のみでもよいし、二種以上でもよく、二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、任意に設定できる。
【0027】
コンドロイチン硫酸又はその塩を加水分解する方法は、質量平均分子量が25000Da以下である分解物が得られる限り、特に限定されない。
例えば、加水分解は、コンドロイチン硫酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させて行う。
【0028】
二酸化炭素ガスを作用させる場合、前記水溶液に二酸化炭素ガスを吹き込む(バブリングする)ことが好ましく、前記水溶液に二酸化炭素ガスを飽和させることが好ましい。
【0029】
二酸化炭素ガスを作用させる前記水溶液は、コンドロイチン硫酸又はその塩の濃度が0.05〜10.0質量%であることが好ましく、0.1〜5.0質量%であることがより好ましい。コンドロイチン硫酸又はその塩の濃度が前記下限値以上であることで、前記CS分解物の収率が向上し、コンドロイチン硫酸又はその塩の濃度が前記上限値以下であることで、前記水溶液中にコンドロイチン硫酸又はその塩がより均一に溶解し、加水分解反応がより精密に進行する。
【0030】
加圧時の圧力は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.2〜1.5MPaであることがより好ましく、0.2〜0.7MPaであることが特に好ましい。加圧時の圧力が前記下限値以上であることで、加水分解反応の速度が向上し、加圧時の圧力が前記上限値以下であることで、副生成物の量が抑制されて、前記CS分解物の収率が向上する。
【0031】
加熱時の温度は、105℃以上であることが好ましく105〜150℃であることがより好ましく、105〜130℃であることが特に好ましい。加熱時の温度が前記下限値以上であることで、加水分解反応の速度が向上し、加熱時の温度が前記上限値以下であることで、副生成物の量が抑制されて、前記CS分解物の収率が向上する。
【0032】
加熱時間は、加熱時の温度等、その他の条件を考慮して適宜設定すればよいが、加熱時の温度が上記範囲内である場合には、3〜48時間であることが好ましく、8〜36時間であることがより好ましく、12〜28時間であることが特に好ましい。
【0033】
コンドロイチン硫酸又はその塩の加水分解反応の速度は、特に加熱時の温度と、加水分解を開始してから初期の圧力(初期圧力)との影響を受け易いので、これらの条件を適宜調節することで、前記CS分解物の分子量を容易に調節できる。
【0034】
加水分解終了時の反応液のpHは、4〜6であることが好ましく、4.5〜5.5であることがより好ましい。
【0035】
加水分解反応は、バッチ式及び連続式のいずれで行ってもよい。
【0036】
前記CS分解物は、加水分解後の反応液から容易に取り出すことができる。
例えば、前記CS分解物の分離には、限外ろ過、透析等の膜分離を適用するのが好適であり、前記CS分解物のうち、所望の分子量のものを分離できる膜を選択すればよい。
また、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理を行ってもよい。
そして、最終的に前記CS分解物は、例えば、結晶化、凍結乾燥、カラムクロマトグラフィー等の手段により取り出せばよい。さらに、必要に応じて、これら手段を繰り返すことで、精製を行ってもよい。
【0037】
得られた前記CS分解物は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、
1H−NMR等の解析により同定できる。
また、前記CS分解物の質量平均分子量は、例えば、HPLCで各分解物のピークを分離し、分子量測定用のソフトウェアを使用することで測定できる。
【0038】
前記糖尿病治療薬の製剤形態は特に限定されず、目的に応じて錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、細粒剤、液剤(水薬等)等の経口剤;吸入剤、座剤、注射剤、貼付剤、スプレー剤、軟膏等の非経口剤等から適宜選択すればよい。これら製剤形態の糖尿病治療薬は、いずれも公知の方法で製造できる。
【0039】
前記糖尿病治療薬を経口剤等の製剤形態とする場合には、これら製剤の製造で通常使用される各種添加剤を配合してもよい。前記添加剤としては、賦形剤、滑沢剤、可塑剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、矯味剤、着色剤、香料等が例示できる。
前記添加剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0040】
前記賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、果糖、デキストリン、デンプン、食塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、無水ケイ酸、カオリン等が例示できる。
【0041】
前記滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、トウモロコシデンプン、マクロゴール等が例示できる。
【0042】
前記可塑剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン類、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、アセチルグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸トリエチル等が例示できる。
【0043】
前記結合剤としては、ゼラチン、アラビアゴム、セルロースエステル、ポリビニルピロリドン、水飴、甘草エキス、トラガント、単シロップ等が例示できる。
前記崩壊剤としては、デンプン、カンテン、カルメロースカルシウム、カルメロース、結晶セルロース等が例示できる。
前記湿潤剤としては、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0044】
前記矯味剤としては、白糖、ハチミツ、サッカリンナトリウム、ハッカ、ユーカリ油、ケイヒ油等が例示できる。
前記着色剤としては、酸化鉄、β−カロテン、クロロフィル、水溶性食用タール色素等が例示できる。
前記香料としては、レモン油、オレンジ油、dl−メントール、l−メントール等が例示できる。
【0045】
前記糖尿病治療薬を吸入剤、注射剤、貼付剤、スプレー剤、軟膏等、非経口剤の製剤形態とする場合には、使用できる溶媒として、注射用蒸留水、無菌の非水性溶媒、懸濁剤等が例示できる。非水性溶媒又は懸濁剤の基剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、オリーブ油、コーン油、オレイン酸エチル等が好ましいものとして例示できる。
【0046】
さらに、前記糖尿病治療薬を貼付剤等、非経口剤の製剤形態とする場合には、有効成分等の各成分と基剤との混合物を、布、紙、プラスチックフィルム等に薄く塗布すればよい。
【0047】
前記糖尿病治療薬には、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記成分以外の薬学上許容される任意成分を、必要に応じて適宜配合してもよい。
前記任意成分としては、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤等が例示できる。
【0048】
前記糖尿病治療薬の投与量は、患者の年齢、症状等により適宜調節することが好ましい。
例えば、前記糖尿病治療薬の投与量はマウス投与量として、CS分解物換算で一日当たり25mg/kgBW〜50mg/kgBWであることが好ましい。なお、本明細書において、BWは体重1kg当たりを意味する。そして、通常の医薬品では、実験動物に対して一日当たり100mg/kgBW程度の有効成分の投与量で有効であれば、ヒトに対する有効成分の投与量は、一回当たり100mg/kgBW程度が好適とされており、前記糖尿病治療薬は、ヒトに対してCS分解物換算で一回当たり25mg/kgBW〜50mg/kgBWの投与量で、十分な薬理効果を発揮し、一日の投与回数は一〜複数回(例えば、三回)とされる。
【0049】
<糖尿病予防食品(第二の実施形態)>
本発明の第二の実施形態に係る糖尿病予防食品は、コンドロイチン硫酸又はその塩の加水分解物で、質量平均分子量が25000Da以下のものを含有するものである。かかる糖尿病予防食品におけるコンドロイチン硫酸の加水分解物は、第一の実施形態に係る糖尿病治療薬におけるコンドロイチン硫酸又はその塩の加水分解物(前記CS分解物)と同じである。前記CS分解物は、血糖値の低減作用に加え、HbA
1c値の低減作用、インスリン抵抗性の軽減作用を有し、HOMA−Rも低減するなど、糖尿病の病態改善効果を有しており、このような成分を適量含有する食品の摂食により、糖尿病の病態発現を予防する優れた効果が得られる。
【0050】
前記糖尿病予防食品は、前記CS分解物を含有するものであれば特に限定されず、その他の含有成分は目的に応じて任意に選択できる。
前記その他の含有成分としては、糖尿病予防食品の主成分となるもの、添加剤となるものが例示できる。
前記主成分となるものは、例えば、動物性原料及び植物性原料のいずれでもよい。
前記添加剤としては、飲食品分野で公知のものが適宜使用できる。
前記CS分解物及びその他の含有成分は、それぞれ一種のみでもよいし、二種以上でもよく、二種以上の場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0051】
前記糖尿病予防食品は、固形状及び液状のいずれでもよく、その他の含有成分の種類と目的に応じて、任意の形態を選択できる。
【0052】
前記糖尿病予防食品中の前記CS分解物の含有量は、0.1〜1質量%であることが好ましく、0.2〜0.5質量%であることがより好ましい。前記CS分解物の含有量が前記下限値以上であることで、より優れた糖尿病の予防効果が得られる。また、前記CS分解物の含有量が前記上限値以下であることで、前記CS分解物の含有量が過剰とならずに、十分な糖尿病の予防効果が得られる。
前記糖尿病予防食品は、前記CS分解物の含有量に応じて、一日に一回又は複数回摂食することで、糖尿病予防効果が得られる。
【0053】
先に説明したように、例えば、「J.Nutr.Sci.Vitaminol. 58,14−19,2012(非特許文献1)」には、ノリ由来多糖ポルフィランが、血糖値の上昇抑制作用を有することが開示されている。しかし、この文献には、多糖ポルフィランがHbA
1c値の低減作用、及びインスリン抵抗性の軽減作用を有することまでは開示されておらず、これら糖尿病の病態改善に十分な効果を有することまでは開示されていない。
また、同様に、「特開2012−12430号公報(特許文献3)」には、コンドロイチン硫酸の加水分解物で分子量が特定範囲のものが、α−グルコシダーゼ阻害作用を有する糖尿病治療薬や抗肥満等の医薬品として利用可能であることが示唆されている。しかし、この文献には、HbA
1c値の低減作用、及びインスリン抵抗性の軽減作用を有することまでは開示されておらず、これら糖尿病の病態改善に十分な効果を有することまでは開示されていない。
これに対して、本発明の第一の実施形態に係る糖尿病治療薬は、コンドロイチン硫酸を特定の質量平均分子量まで分解して得られた前記CS分解物を含有することにより、血糖値の上昇抑制、HbA
1c値の低減、及びインスリン抵抗性の軽減すべてに有効であり、糖尿病の病態改善に十分な効果を有する。さらに、後述する実施例に記載のように、非特許文献1に記載の多糖ポルフィランよりも少ない投与量で、その優れた効果を発現する。また、本発明の第二の実施形態に係る糖尿病予防食品は、前記CS分解物を含有することにより、糖尿病の病態発現の予防に有効なものである。
【0054】
<糖尿病治療薬(第三の実施形態)>
本発明の第三の実施形態に係る糖尿病治療薬は、アルギン酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させて、前記アルギン酸又はその塩を加水分解して得られた、質量平均分子量が50000Da以下の分解物(以下、「A分解物」と略記することがある)を有効成分とするものである。かかる糖尿病治療薬は、血糖値の低減作用だけでなく、HbA
1c値の低減作用、インスリン抵抗性の軽減作用を有し、インスリン値(血中インスリン濃度)と血糖値(随時血糖値)とから算出されるインスリン抵抗性指数(HOMA−R)も低減するなど、糖尿病の病態改善に優れた効果を有する。
【0055】
前記アルギン酸とは、β−D−マンヌロン酸(M)とα−L−グルロン酸(G)とが、(1−4)−グリコシド結合した直鎖ポリマーであり、このようなものであれば特に限定されない。β−D−マンヌロン酸(M)は、その少なくとも一部がC−5エピマーであってもよい。
前記アルギン酸として具体的には、下記式で示すような、マンヌロン酸が連なったマンヌロン酸ブロック(M Block)、グルロン酸が連なったグルロン酸ブロック(G Block)、及びグルロン酸とマンヌロン酸がランダムに連なったランダムブロック(Random Block)から構成されている多糖類が例示できる。
前記アルギン酸は、下記式で表される構成単位のみを有するものだけでなく、その他の構成単位を有していてもよい。
【0057】
アルギン酸は、原料となる海藻の種類や海藻の収穫時期によって、分子量や、構成単糖であるグルロン酸とマンヌロン酸の割合が異なることが知られている。本発明で用いる前記アルギン酸は特に限定されないが、コンブ、ワカメ、スジメ、ウガノモク等の海藻(褐藻類)から得られるものが好ましい。
また、アルギン酸としては、市販品を用いてもよく、好ましいものとしては、キミカ社製の各種アルギン酸が例示できる。
【0058】
アルギン酸は、質量平均分子量(Mw)が50万以下のものが好ましく、このようなものを用いることで、アルギン酸を含有する水溶液は、粘度が高くなり過ぎず、取り扱いが容易となって、さらに後述する加水分解反応をより短時間で行うことができる。
【0059】
アルギン酸の塩とは、アルギン酸中のカルボキシ基(−COOH)、水酸基(−OH)等の水素イオン(H
+)が解離し得る基の1個以上において、水素イオンがその他のカチオンに置換されて塩を形成しているものであり、塩の形成部位の数は、1個のみでもよいし、2個以上でもよく、水素イオンが解離し得る基のすべてが塩を形成していてもよい。
【0060】
アルギン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等が例示でき、水への溶解度が向上する点では、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
アルギン酸の塩の形成部位が複数個である場合には、これら複数個の塩はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。例えば、アルギン酸中のカルボキシ基及び水酸基が共に塩を形成していてもよい。そして、塩を形成しているカチオンは、一種のみでもよいし、二種以上でもよく、二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、特に限定されない。例えば、アルギン酸中のカルボキシ基として、ナトリウム塩を形成しているものとカリウム塩を形成しているものとが共存していてもよい。
アルギン酸の特に好ましい塩としては、ナトリウム塩が例示できる。
【0061】
アルギン酸の塩は、例えば、塩を形成していないアルギン酸をイオン交換することで得られる。
また、塩の形成の有無によらず、アルギン酸は、酸を用いた方法(酸法)で精製して用いることもできる。
【0062】
前記A分解物は糖類であり、質量平均分子量が50000Da以下であり、534Da〜50000Daであることが好ましく、5000Da〜20000Daであることがより好ましい。
【0063】
前記A分解物は、薬学上許容される塩であってもよい。前記A分解物は、用いたアルギン酸の種類に応じて、例えば、カルボキシ基(−COOH)等の水素イオン(H
+)が解離し得る基を有しており、このような塩を形成し得る基の少なくとも1個において、解離した水素イオンがその他のカチオンに置換されて、塩を形成していてもよい。なお、水素イオンが解離し得る基は、上記のものに限定されず、例えば、アルギン酸が前記式で表される構成単位以外の、その他の構成単位を有し、前記A分解物が前記その他の構成単位に由来する構造を有している場合には、カルボキシ基以外のその他の酸基も、水素イオンが解離し得る基として例示できる。
【0064】
前記A分解物の薬学上許容される塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が例示できる。塩の形成部位が複数個である場合には、これら複数個の塩はすべて同じでもよいし、すべて異なっていてもよく、一部のみが異なっていてもよい。
【0065】
第三の実施形態に係る糖尿病治療薬において、有効成分である前記A分解物は、一種のみでもよいし、二種以上でもよく、二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、任意に設定できる。
【0066】
アルギン酸又はその塩を加水分解する方法は、アルギン酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させる方法で、質量平均分子量が50000Da以下である分解物が得られる限り、特に限定されない。
【0067】
アルギン酸又はその塩を含有する水溶液の調製に用いる溶媒は、水でもよいが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム等の塩が添加された塩類水溶液、好ましくは中性の塩類水溶液であってもよい。塩類水溶液を用いることで、特に原料としてアルギン酸を用いる場合、その溶解度を容易に調節することができる。
【0068】
前記水溶液には、二酸化炭素ガスを吹き込む(バブリングする)ことが好ましく、前記水溶液に二酸化炭素ガスを飽和させることが好ましい。
【0069】
二酸化炭素ガスを作用させる前記水溶液は、アルギン酸又はその塩の濃度が0.05〜10.0質量%であることが好ましく、0.1〜5.0質量%であることがより好ましい。アルギン酸又はその塩の濃度が前記下限値以上であることで、前記A分解物の収率が向上し、アルギン酸又はその塩の濃度が前記上限値以下であることで、前記水溶液中にアルギン酸又はその塩がより均一に溶解し、加水分解反応がより精密に進行する。
【0070】
加圧時の圧力は、0.1MPa以上であることが好ましく、0.1〜6MPaであることがより好ましい。加圧時の圧力が前記下限値以上であることで、加水分解反応の速度が向上し、加圧時の圧力が前記上限値以下であることで、副生成物の量が抑制されて、前記A分解物の収率が向上する。
【0071】
加熱時の温度は、70℃以上であることが好ましく70〜140℃であることがより好ましく、70〜130℃であることが特に好ましい。加熱時の温度が前記下限値以上であることで、加水分解反応の速度が向上し、加熱時の温度が前記上限値以下であることで、副生成物の量が抑制されて、前記A分解物の収率が向上する。
【0072】
加熱時間は、加熱時の温度等、その他の条件を考慮して適宜設定すればよいが、加熱時の温度が上記範囲内である場合には、1〜36時間であることが好ましく、2〜24時間であることがより好ましく、2〜12時間であることが特に好ましい。
【0073】
アルギン酸又はその塩の加水分解反応の速度は、特に加熱時の温度と、加水分解を開始してから初期の圧力(初期圧力)との影響を受け易いので、これらの条件を適宜調節することで、前記A分解物の分子量を容易に調節できる。
【0074】
加水分解終了時の反応液のpHは、4〜6であることが好ましく、4.5〜5.5であることがより好ましい。
【0075】
加水分解反応は、バッチ式及び連続式のいずれで行ってもよい。
【0076】
前記A分解物は、加水分解後の反応液から容易に取り出すことができる。
例えば、前記A分解物は、反応液に酸を添加して酸性溶液とし、生じた不溶物を遠心分離等により固液分離することで、取り出すことができる。前記酸性溶液のpHは、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。また、添加する前記酸は、塩酸等の無機酸であることが好ましく、強酸であることが好ましい。
前記反応液は、前記A分解物の取り出しの前に、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、濃縮等の後処理を行ってもよい。
取り出した前記A分解物は、例えば、結晶化、凍結乾燥、カラムクロマトグラフィー等の手段を追加で行い、精製してもよい。
【0077】
得られた前記A分解物は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、
1H−NMR等の解析により同定できる。
また、前記A分解物の質量平均分子量は、例えば、HPLCで各分解物のピークを分離し、分子量測定用のソフトウェアを使用することで測定できる。
【0078】
前記A分解物を有効成分とする糖尿病治療薬(第三の実施形態)の製剤形態は特に限定されず、前記CS分解物を有効成分とする糖尿病治療薬(第一の実施形態)と同様である。例えば、第三の実施形態に係る糖尿病治療薬を経口剤等の製剤形態とする場合には、これら製剤の製造で通常使用される各種添加剤を配合してもよく、前記添加剤としては、賦形剤、滑沢剤、可塑剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、矯味剤、着色剤、香料等が例示でき、具体的なものとしては、第三の実施形態に係る糖尿病治療薬の場合と同様のものが例示できる。また、第三の実施形態に係る糖尿病治療薬を吸入剤、注射剤、貼付剤、スプレー剤、軟膏等の非経口剤の製剤形態とする場合、又は貼付剤等の非経口剤の製剤形態とする場合にも、第一の実施形態に係る糖尿病治療薬の場合と同様の成分を用いることができる。そして、第三の実施形態に係る糖尿病治療薬は、第一の実施形態に係る糖尿病治療薬と同様の方法で製造できる。
【0079】
第三の実施形態に係る糖尿病治療薬の投与量は、患者の年齢、症状等により適宜調節することが好ましい。例えば、前記糖尿病治療薬の投与量はマウス投与量として、A分解物換算で一日当たり25mg/kgBW〜50mg/kgBWであることが好ましい。そして、通常の医薬品では、実験動物に対して一日当たり100mg/kgBW程度の有効成分の投与量で有効であれば、ヒトに対する有効成分の投与量は、一回当たり100mg/kgBW程度が好適とされており、前記糖尿病治療薬は、ヒトに対してA分解物換算で一回当たり25mg/kgBW〜50mg/kgBWの投与量で、十分な薬理効果を発揮し、一日の投与回数は一〜複数回(例えば、三回)とされる。
【0080】
<糖尿病予防食品(第四の実施形態)>
本発明の第四の実施形態に係る糖尿病予防食品は、アルギン酸又はその塩を含有する水溶液に、加圧及び加熱条件下、二酸化炭素ガスを作用させて、前記アルギン酸又はその塩を加水分解して得られた、質量平均分子量が50000Da以下の分解物を含有するものである。かかる糖尿病予防食品におけるアルギン酸又はその塩の加水分解物(質量平均分子量が50000Da以下の分解物)は、第三の実施形態に係る糖尿病治療薬におけるアルギン酸又はその塩の加水分解物(前記A分解物)と同じである。前記A分解物は、血糖値の低減作用に加え、HbA
1c値の低減作用、インスリン抵抗性の軽減作用を有し、HOMA−Rも低減するなど、糖尿病の病態改善効果を有しており、このような成分を適量含有する食品の摂食により、糖尿病の病態発現を予防する優れた効果が得られる。
【0081】
第四の実施形態に係る糖尿病予防食品は、前記A分解物を含有するものであれば特に限定されず、その他の含有成分は目的に応じて任意に選択できる。例えば、第四の実施形態に係る糖尿病予防食品は、前記CS分解物に代えて前記A分解物を用い、その含有量が異なり得る点以外は、第二の実施形態に係る糖尿病予防食品と同じ構成とすることができる。そして、前記A分解物及びその他の含有成分は、それぞれ一種のみでもよいし、二種以上でもよく、二種以上の場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0082】
第四の実施形態に係る糖尿病予防食品中の前記A分解物の含有量は、0.1〜1質量%であることが好ましく、0.2〜0.5質量%であることがより好ましい。
かかる糖尿病予防食品は、前記A分解物の含有量に応じて、一日に一回又は複数回摂食することで、糖尿病予防効果が得られる。
【0083】
先に説明したように、例えば、「特開2006−193448号公報(特許文献1)」には、特定の微生物によるアルギン酸分解物を含有した血糖値上昇抑制等組成物が開示されている。しかし、このアルギン酸分解物は、微生物による分解、すなわち生物学的手法で得られたものであり、化学的手法、特にアルギン酸又はその塩を含有する水溶液に対する加圧及び加熱条件下での二酸化炭素ガスの作用による加水分解という特定の化学的手法で得られたものと同じであるとはいえず、本発明の第三及び第四の実施形態における前記A分解物とは明らかに相違するものである。そして、この文献には、アルギン酸分解物が血糖値の上昇抑制作用を有することは開示されているが、HbA
1c値の低減作用、及びインスリン抵抗性の軽減作用を有することまでは開示されておらず、これら糖尿病の病態改善に十分な効果を有することまでは開示されていない。
【0084】
また、例えば、「特開平6−7093号公報(特許文献2)」には、平均分子量が1〜90万のアルギン(アルギン酸分解物等)を含有する肥満防止のための健康食品が開示されている。そして、アルギン酸分解物として、アルギン酸を好ましくは水溶液とし、加圧下、100〜200℃で加熱処理して得られたものが開示され、このアルギン酸分解物が血糖値と血中インスリン値の上昇抑制作用を有することが開示されている。しかし、このアルギン酸分解物は、上記のような化学的手法で得られたものであるものの、酸を作用させて得られたものではなく、二酸化炭素を作用させて得られたものでもなく、分解の手法が本発明の第三及び第四の実施形態における前記A分解物の場合とは異なり、本発明の第三及び第四の実施形態における前記A分解物と同じであるとはいえない。これは、この文献で規定されているアルギン酸分解物は、平均分子量が1〜90万と非常に広範囲に渡り、しかも、本発明の第三の実施形態における前記A分解物よりも投与量が多いことによっても、裏付けられていると考えられる。そして、この文献には、アルギン酸分解物がHbA
1c値の低減作用を有することまでは開示されておらず、糖尿病の病態改善に十分な効果を有することまでは開示されていない。
【0085】
このように、ここに挙げた二文献では、アルギン酸分解物が血糖値の上昇抑制、HbA
1c値の低減、及びインスリン抵抗性の軽減すべてに有効であること、すなわち、糖尿病の病態改善に十分な効果を有することまでは開示されていない。
これに対して、本発明の第三の実施形態に係る糖尿病治療薬は、アルギン酸を特定の条件下で、特定の質量平均分子量まで分解して得られた前記A分解物を含有することにより、血糖値の上昇抑制、HbA
1c値の低減、及びインスリン抵抗性の軽減すべてに有効であり、糖尿病の病態改善に十分な効果を有し、投与量も少ない。また、本発明の第四の実施形態に係る糖尿病予防食品は、前記A分解物を含有することにより、糖尿病の病態発現の予防に有効なものである。
【実施例】
【0086】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下に示す実施例において、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味するものとする。
【0087】
[実施例1]
<アルギン酸の加水分解物の調製>
アルギン酸(キミカ社製「SKAT−ONE」)(28.55g)と水(700mL)を耐圧ガラス製高圧反応装置に入れ、さらに二酸化炭素ガスを15分間導入(バブリング)して、反応装置内の原料液を、反応装置を密閉した状態で二酸化炭素ガスにより飽和させた。この時点で、25.1℃での原料液のpHは3.97であった。なお、ここで用いたアルギン酸の分子量は360000Daである。
次いで、原料液を昇温して、圧力を0.53MPaで一定に保ちながら、120℃で6.5時間反応させた。反応終了後の反応液のpHは5.09であった。
次いで、得られた反応液のpHを塩酸で1.46に調節し、生じた沈殿物を遠心分離で沈殿させて分離した後、分離したこの沈殿物を含む溶液を凍結乾燥させることにより、アルギン酸の加水分解物(A分解物)を得た。
【0088】
得られた加水分解物の質量平均分子量は11000Daであった。質量平均分子量は、下記装置及び条件による高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行い、下記分子量測定ソフトウェアを用いて測定した。
(HPLC装置及び条件)
Agilent 1100 Bin. Pump
Agilent 1100 Degasser
RI検出器:JASCO RI 2031 plus
カラム:SHODEX KS−804(排除限界:400000)、SHODEX KS−802(排除限界:10000)
サンプルループ:PHEOMYNE 500μLループ
溶離液:0.1mol/L NaCl−リン酸緩衝液
(分子量測定ソフトウェア)
EZ CHROM(ジーエルサイエンス社製)
【0089】
また、得られた加水分解物の構造を、下記装置及び条件で
1H−NMRにより解析し、目的物であるアルギン酸の加水分解物であることを確認した。解析結果を
図1に示す。
(NMR装置及び条件)
JEOL社製ECA−500
測定温度:40℃
測定溶媒:重水
回転数:16Hz
【0090】
[実施例2]
<コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の調製>
コンドロイチン硫酸ナトリウム(ゼリア新薬工業社製「ZS」、コンドロイチン硫酸中の少なくとも1個の硫酸基(−OSO
3H)がナトリウム塩(−OSO
3−Na
+)を形成しているもの)270錠を水に溶解させ、エタノールを添加して沈殿法により添加物を除去し、残った溶液を凍結乾燥させることにより、原料となるコンドロイチン硫酸ナトリウムを得た。なお、ここで用いたコンドロイチン硫酸ナトリウムは、前記コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cを主たる構成単位とし、これら構成単位の少なくとも1個の硫酸基がナトリウム塩を形成しているものである。
得られたコンドロイチン硫酸ナトリウム(25g)と水(700mL)を耐圧ガラス製高圧反応装置に入れ、さらに二酸化炭素ガスを15分間導入(バブリング)して、反応装置内の原料液を、反応装置を密閉した状態で二酸化炭素ガスにより飽和させた。
次いで、原料液を昇温して、圧力を0.53MPaで一定に保ちながら、120℃で24.5時間反応させた。反応終了後の反応液のpHは5.09であった。
次いで、得られた反応液を、分画分子量を1000として限外ろ過に24時間供し、得られた溶液を凍結乾燥させることにより、コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物(CS分解物)を得た(収量15g)。
得られた加水分解物の質量平均分子量は16000Daであった。質量平均分子量は、実施例1と同じ方法で測定した。
また、得られた加水分解物の構造を、実施例1と同じ方法で
1H−NMRにより解析し、目的物であるコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物であることを確認した。解析結果を
図2に示す。
【0091】
[実施例3〜4]
<2型糖尿病モデルマウスに対するアルギン酸の加水分解物及びコンドロイチン硫酸の加水分解物の連続投与試験>
(マウスへの連続投与及び飼育)
市販固形飼料(日本クレア社製「CE−2」)を用いて、4週齢のKK−A
y/Ta Jcl雄性マウス(日本クレア)を1週間予備飼育し、1群8匹として、「対照群」、「A0.25群」(実施例3)、「A0.5群」(実施例3)、「CS0.25群」(実施例4)、「CS0.5群」(実施例4)の5群に群分けを行った。そして、それぞれの群は、以下のように飼料を摂取させた。
なお、KK−A
yマウスは、若齢より高血糖を呈する2型糖尿病モデルマウスであり、新薬開発や食品の機能性評価において広く用いられている系統である。さらに、KK−A
yマウスは、高脂肪食を摂取させることで高インスリン血症、インスリン感受性低下(インスリン抵抗性)が惹起され、さらなる病態悪化を引き起こすことが知られている。
【0092】
対照群には、高脂肪・高ショ糖食(オリエンタル酵母社製「F2HFHSD」)を3週間摂取させ(投与し)た。
A0.25群には、前記高脂肪・高ショ糖食にアルギン酸の加水分解物を0.25%混餌したものを3週間摂取させた。
A0.5群には、前記高脂肪・高ショ糖食にアルギン酸の加水分解物を0.5%混餌したものを3週間摂取させた。
CS0.25群には、前記高脂肪・高ショ糖食にコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物を0.25%混餌したものを3週間摂取させた。
CS0.5群には、前記高脂肪・高ショ糖食にコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物を0.5%混餌したものを3週間摂取させた。
アルギン酸の加水分解物としては実施例1で得られたものを、コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物としては実施例2で得られたものを、それぞれ用いた。
【0093】
この間、マウスはケージに個別に入れ、室温(23±2℃)、湿度55±5%の12時間明暗サイクル(明期7:00〜19:00、暗期19:00〜7:00)の環境下で飼育した。飼料は毎日17:00にケージ内に入れ、翌日9:00まで摂取させ、飼料摂取量を秤量した。飲料は水道水を自由飲用させた。
摂取期間中のマウスの体重及び飼料摂取量を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
(空腹時における血糖値の経時測定)
摂取期間中、マウスを1週間ごとに6時間絶食させた後、尾静脈より採血し、血糖値を測定した。血糖値は、小型血糖測定器(三和化学研究所製「グルテストエースR」)及び専用キット(アークレイ社製「ダイアセンサー」)を用いて測定した。
A0.25群及びA0.5群(アルギン酸の加水分解物投与群)の空腹時血糖値の測定結果を
図3に、CS0.25群及びCS0.5群(コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物投与群)の空腹時血糖値の測定結果を
図4に、それぞれ示す。得られた測定結果は、統計処理を行い、各群の平均値±標準誤差(Mean±SE)で示した。有意差検定は対照群に対してt−検定を行い、p<0.05(図中「*」で示す)又はp<0.01(図中「**」で示す)を統計的に有意であると判断した。これは、以降に示す測定(算出)結果も同様である。なお、
図3及び4において、「摂取期間0週」とは、摂取開始時を意味する。
【0096】
(ヘモグロビンA
1c(HbA
1c)値の測定)
摂取最終週(3週目)に尾静脈より採血し、HbA
1c値を測定した。HbA
1c値は、小型迅速HbA
1c,Malb/Cアナライザー(バイエルメディカル社製、DCA2000システム)及びカートリッジ(シーメンス社製)を用いて測定し、測定結果を上記と同様に統計処理した。測定結果を
図5に示す。
図5中、「対照」は対象群を意味し、例えば、「A0.25」はA0.25群を意味する。これは以降の図においても同様である。
【0097】
(随時血糖値及びインスリン値の測定)
摂取を終了してから絶食2〜4時間後に、イソフルラン吸引麻酔下で腹部大動脈から全採血して、マウスを安楽死させた。採取した血液を3000rpmで10分間遠心分離し、得られた血清中の血糖値(グルコース濃度)を、生化学自動分析装置(富士フィルムメディカル社製「富士ドライケム4000」)及び検体スライド(富士フィルムメディカル社製)を用いて測定した。また、得られた血清中のインスリン値(インスリン濃度)を、測定キット(シバヤギ社製「レビスインスリンマウスHタイプ」)を用いて測定した。そして、測定結果を上記と同様に統計処理した。血糖値の測定結果を
図6に、インスリン値の測定結果を
図7に、それぞれ示す。
【0098】
(インスリン抵抗性指数の算出)
上記の血糖値及びインスリン値を用いて、インスリン抵抗性指数(HOMA−R)を下記式により算出し、算出結果を上記と同様に統計処理した。結果を
図8に示す。
[HOMA−R]=[血糖値]×[インスリン値]/405
【0099】
(結果)
表1に示すように、いずれの群も飼料摂取量は対照群との間に有意差は認められなかった。
これに対して、
図3から明らかなように、A0.25群及びA0.5群は、対象群よりも空腹時血糖値が低かった。そして、
図4から明らかなように、CS0.25群及びCS0.5群も、対象群よりも空腹時血糖値が低く、特にCS0.5群の摂取3週目の値(389.5±32.9mg/dL)は、対照群の値(504.0±23.7mg/dL)との間に有意差が認められた。
【0100】
さらに、
図5から明らかなように、A0.25群及びA0.5群、並びにCS0.25群及びCS0.5群は、いずれも対象群よりもHbA
1c値が投与量依存的に低く、特にCS0.5群の値(7.3±0.2%)は、対照群の値(8.6±0.6%)との間に有意差が認められた。
【0101】
さらに、
図6から明らかなように、A0.25群及びA0.5群は、対象群よりも随時血糖値が投与量依存的に低く、特にA0.5群の値(613.3±13.4mg/dL)は、対照群の値(668.5±16.0mg/dL)との間に有意差が認められた。CS0.25群及びCS0.5群も、対象群よりも随時血糖値が投与量依存的に低く、特にCS0.5群の値(587.7±28.1mg/dL)は、対照群の値(668.5±16.0mg/dL)との間に有意差が認められた。
【0102】
さらに、
図7から明らかなように、A0.25群及びA0.5群は、対象群よりもインスリン値が低く、特にA0.5群の値(69.8±6.1μU/mL)は、対照群の値(118.8±22.0μU/mL)との間に有意差が認められた。CS0.25群及びCS0.5群も、対象群よりもインスリン値が低く、特にCS0.5群の値(61.8±15.0μU/mL)は、対照群の値(118.8±22.0μU/mL)との間に有意差が認められた。
【0103】
さらに、
図8から明らかなように、A0.25群及びA0.5群は、対象群よりもHOMA−Rが低く、特にA0.5群の値(105.8±9.6)は、対照群の値(195.1±36.1)との間に有意差が認められた。CS0.25群及びCS0.5群も、対象群よりもHOMA−Rが低く、特にCS0.5群の値(93.2±25.3)は、対照群の値(195.1±36.1)との間に有意差が認められた。
【0104】
このように、アルギン酸の加水分解物投与群(A0.25群及びA0.5群)、及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物投与群(CS0.25群及びCS0.5群)は、いずれも対照群よりも、空腹時血糖値及びHbA
1c値が低く、飼料摂取量に対照群との差が認められなかったことから、抗糖尿病作用が確認された。糖尿病の病態悪化には、高インスリン血症、インスリン感受性低下(インスリン抵抗性)が関与しているが、アルギン酸の加水分解物投与群及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物投与群は、いずれも試験終了時のインスリン値(血中インスリン濃度)が対照群よりも有意に低く、このインスリン値と血糖値(随時血糖値)とから算出されるHOMA−Rも、対照群よりも有意に低いことから、アルギン酸の加水分解物投与群及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物投与群で見られた糖尿病の病態悪化抑制効果は,高インスリン血症の抑制、インスリン抵抗性の軽減によると考えられた。
【0105】
[試験例1]
<正常マウスに対する単回投与試験>
(アルギン酸の加水分解物の同時投与によるスクロース負荷試験)
市販固形飼料(日本クレア社製「CE−2」)を用いて、7週齢のICR Jcl雄性マウス(日本クレア)を1週間予備飼育した。この間、マウスはケージに入れ、室温(23±2℃)、湿度55±5%の12時間明暗サイクル(明期7:00〜19:00、暗期19:00〜7:00)の環境下で飼育した。飼料及び水は自由に摂取させた。
次いで、18時間絶食させたマウスを、1群7〜8匹として、「対照群」、「A25群(1)」、「A50群(1)」、「A200群(1)」の4群に群分けを行った。そして、それぞれの群は、以下のように飼料を摂取させた。
【0106】
対照群には、0.2mLのスクロース溶液(2g/kgBW)を経口で摂取させ(投与し)た。
A25群(1)には、0.2mLの、スクロース及びアルギン酸の加水分解物の混合溶液(スクロース2g/kgBW、アルギン酸の加水分解物25mg/kgBW)を経口で摂取させた。
A50群(1)には、0.2mLの、スクロース及びアルギン酸の加水分解物の混合溶液(スクロース2g/kgBW、アルギン酸の加水分解物50mg/kgBW)を経口で摂取させた。
A200群(1)には、0.2mLの、スクロース及びアルギン酸の加水分解物の混合溶液(スクロース2g/kgBW、アルギン酸の加水分解物200mg/kgBW)を経口で摂取させた。
アルギン酸の加水分解物としては、実施例1で得られたものを用いた。
【0107】
そして、摂取前、並びに摂取後30、60、90及び120分に、尾静脈より採血し、血糖値を測定した。血糖値は、小型血糖測定器(三和化学研究所製「グルテストエースR」)及び専用キット(アークレイ社製「ダイアセンサー」)を用いて測定した。
A25群(1)、A50群(1)及びA200群(1)(アルギン酸の加水分解物投与群)の測定結果を
図9に示す。得られた測定結果は、統計処理を行い、各群の平均値±標準誤差(Mean±SE)で示した。有意差検定は対照群に対してt−検定を行い、p<0.05(図中「*」で示す)又はp<0.01(図中「**」で示す)を統計的に有意であると判断した。なお、
図9において、「摂取後時間0分」とは、摂取前を意味する。これは、以降の図においても同様である。
【0108】
(結果)
図9から明らかなように、A25群(1)、A50群(1)及びA200群(1)は、対象群よりも、投与量依存的に有意に血糖値が低かった。
【0109】
[試験例2]
(コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の同時投与によるスクロース負荷試験)
試験例1と同じ方法で、7週齢のICR Jcl雄性マウス(日本クレア)を1週間予備飼育した。
次いで、18時間絶食させたマウスを、1群7〜8匹として、「対照群」、「CS25群(1)」、「CS50群(1)」、「CS200群(1)」の4群に群分けを行った。そして、それぞれの群は、以下のように飼料を摂取させた。
【0110】
対照群には、0.2mLのスクロース溶液(2g/kgBW)を経口で摂取させた。
CS25群(1)には、0.2mLの、スクロース及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の混合溶液(スクロース2g/kgBW、コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物25mg/kgBW)を経口で摂取させた。
CS50群(1)には、0.2mLの、スクロース及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の混合溶液(スクロース2g/kgBW、コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物50mg/kgBW)を経口で摂取させた。
CS200群(1)には、0.2mLの、スクロース及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の混合溶液(スクロース2g/kgBW、コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物200mg/kgBW)を経口で摂取させた。
コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物としては、実施例2で得られたものを用いた。
【0111】
そして、試験例1と同じ方法で血糖値を測定した。
これらCS25群(1)、CS50群(1)及びCS200群(1)(コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物投与群)の測定結果を
図10に示す。得られた測定結果は、試験例1と同じ方法で統計処理を行った。
【0112】
(結果)
図10から明らかなように、CS25群(1)、CS50群(1)及びCS200群(1)は、対象群よりも、投与量依存的に有意に血糖値が低かった。
【0113】
[試験例3]
(アルギン酸の加水分解物の同時投与によるデンプン負荷試験)
試験例1と同じ方法で、7週齢のICR Jcl雄性マウス(日本クレア)を1週間予備飼育した。
次いで、18時間絶食させたマウスを、1群7〜8匹として、「対照群」、「A50群(2)」「A200群(2)」の3群に群分けを行った。そして、それぞれの群は、以下のように飼料を摂取させた。
【0114】
対照群には、0.2mLの可溶性デンプン溶液(2g/kgBW)を経口で摂取させた。
A50群(2)には、0.2mLの、可溶性デンプン及びアルギン酸の加水分解物の混合溶液(可溶性デンプン2g/kgBW、アルギン酸の加水分解物50mg/kgBW)を経口で摂取させた。
A200群(2)には、0.2mLの、可溶性デンプン及びアルギン酸の加水分解物の混合溶液(可溶性デンプン2g/kgBW、アルギン酸の加水分解物200mg/kgBW)を経口で摂取させた。
アルギン酸の加水分解物としては、実施例1で得られたものを用いた。
【0115】
そして、試験例1と同じ方法で血糖値を測定した。
測定結果を
図11に示す。得られた測定結果は、試験例1と同じ方法で統計処理を行った。
【0116】
(結果)
図11から明らかなように、A50群(2)及びA200群(2)は、対象群よりも、投与量依存的に有意に血糖値が低かった。
【0117】
[試験例4]
(コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の同時投与によるデンプン負荷試験)
試験例1と同じ方法で、7週齢のICR Jcl雄性マウス(日本クレア)を1週間予備飼育した。
次いで、18時間絶食させたマウスを、1群7〜8匹として、「対照群」、「CS50群(2)」、「CS200群(2)」の3群に群分けを行った。そして、それぞれの群は、以下のように飼料を摂取させた。
【0118】
対照群には、0.2mLの可溶性デンプン溶液(2g/kgBW)を経口で摂取させた。
CS50群(2)には、0.2mLの、可溶性デンプン及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の混合溶液(可溶性デンプン2g/kgBW、コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物50mg/kgBW)を経口で摂取させた。
CS200群(2)には、0.2mLの、可溶性デンプン及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物の混合溶液(可溶性デンプン2g/kgBW、コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物200mg/kgBW)を経口で摂取させた。
コンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物としては、実施例2で得られたものを用いた。
【0119】
そして、試験例1と同じ方法で血糖値を測定した。
測定結果を
図12に示す。得られた測定結果は、試験例1と同じ方法で統計処理を行った。
【0120】
(結果)
図12から明らかなように、CS50群(2)及びCS200群(2)は、対象群よりも、投与量依存的に有意に血糖値が低かった。
【0121】
このように、アルギン酸の加水分解物投与群(A25群(1)、A50群(1)、A200群(1)、A50群(2)及びA200群(2))、及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物投与群(CS25群(1)、CS50群(1)、CS200群(1)、CS50群(2)及びCS200群(2))は、いずれも対照群よりも血糖値が低く、食後血糖の上昇抑制作用を有することが確認された。
【0122】
以上のように、アルギン酸の加水分解物及びコンドロイチン硫酸ナトリウムの加水分解物は、いずれも食後血糖の上昇抑制作用と抗糖尿病作用を有することから、糖尿病予防食品又は糖尿病治療薬として有用である。