(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-3352(P2015-3352A)
(43)【公開日】2015年1月8日
(54)【発明の名称】放電加工機
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20141205BHJP
【FI】
B23H7/02 R
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-128805(P2013-128805)
(22)【出願日】2013年6月19日
(11)【特許番号】特許第5595559号(P5595559)
(45)【特許公報発行日】2014年9月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】本田 直晃
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB05
3C059CB15
3C059CC08
3C059CF09
3C059EB02
3C059EB08
(57)【要約】
【課題】放電加工機の加工中に消耗品の寿命が尽きてしまう事態を防止しながら、消耗品を効率よく使用可能とする。
【解決手段】放電加工機が、設定された加工条件に基づいてワークを加工する加工時間を予測する加工時間予測手段と、消耗品の残寿命から加工時間予測手段で予測した加工時間を減算した値が閾値よりも小さいときに消耗品が寿命に達すると判断する消耗品寿命判断手段とを具備し、消耗品寿命判断手段は、消耗品の残寿命に応じて閾値を変更するようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗品の寿命を管理する消耗品管理機能を有した放電加工機において、
設定された加工条件に基づいてワークを加工する加工時間を予測する加工時間予測手段と、
前記消耗品の残寿命から前記加工時間予測手段で予測した加工時間を減算した値が閾値よりも小さいときに消耗品が寿命に達すると判断する消耗品寿命判断手段と、を具備し、
前記消耗品寿命判断手段は、前記消耗品の残寿命に応じて前記閾値を変更することを特徴とした放電加工機。
【請求項2】
前記閾値は、消耗品の現在の残寿命に対する割合で決定される請求項1に記載の放電加工機。
【請求項3】
前記閾値を与える割合が、消耗品毎に個別に決定される請求項2に記載の放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗品を効率よく安全に使用できる消耗品管理機能を有した放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワイヤ電極の走行速度と、ワイヤ供給ボビンの回転速度とからワイヤ供給ボビンの現在の巻径を算出して、該巻径からワイヤ供給ボビンに現在残るワイヤ電極の長さ残量を算出するようにしたワイヤ放電加工機が開示されている。特許文献1には、更に、前記ワイヤ電極の長さ残量からその長さ残量に相当する加工可能時間と、NC加工プログラムから加工に要する加工所要時間とを算出し、両者の大小を比較して現在のワイヤ供給ボビンで加工が完了するか否かを判別する技術が開示されている。
【0003】
然しながら、放電加工の加工時間の見積もりは比較的大きな誤差を含んでいるため、通常は、特許文献1のように当該消耗品の加工可能時間と見積もられる加工所要時間との大小を単純に比較するのではなく、次の加工が完了したときに、未使用消耗品の寿命の一定の割合(余裕度)で決まる残寿命が最後に残るか否かで、消耗品をそのまま使用するか或いは交換するかを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第2510109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、放電加工の加工時間の見積もりは比較的大きな誤差を含んでいるため、余裕度を小さくし過ぎると加工中に消耗品の寿命に達してしまう可能性が高くなる。また、放電加工機の消耗品には、ワイヤ電極のようにボビンに数十時間分の長さしか当初から巻回されてないものから、ワイヤガイドのように数千時間に及ぶ寿命を有するものもあり、上述した一定の余裕度を従来行われているように固定的に決定してしまうと、特に長寿命の消耗品では比較的長時間使用可能な状態で無駄に交換してしまう問題がある。
【0006】
本発明は、こうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、加工中に消耗品の寿命が尽きてしまう事態を防止しながら、消耗品を効率よく使用可能とした放電加工機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、消耗品の寿命を管理する消耗品管理機能を有した放電加工機において、設定された加工条件に基づいてワークを加工する加工時間を予測する加工時間予測手段と、前記消耗品の残寿命から前記加工時間予測手段で予測した加工時間を減算した値が閾値よりも小さいときに消耗品が寿命に達すると判断する消耗品寿命判断手段と、を具備し、前記消耗品寿命判断手段は、前記消耗品の残寿命に応じて前記閾値を変更するようにした放電加工機が提供される。
【発明の効果】
【0008】
消耗品の残寿命から加工時間予測手段で予測した加工時間を減算した値が、前記消耗品の残寿命に応じて変化する閾値よりも小さいときに消耗品が寿命に達すると判断するようにしたので、無駄なく、かつ加工中に消耗品の寿命が尽きてしまう事態を防止しながら消耗品を効率よく使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明を適用する一例としての放電加工機の正面図である。
【
図2】本発明の放電加工機における消耗品の寿命判断方法を示すフローチャートである。
【
図3】放電加工機のモニター画面の表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1を参照すると、本発明の方法を適用する放電加工機の一例が図示されている。
図1において、放電加工機10は、工場の床面に固定される基台となるベッド12、ベッド12の上面に固定されるテーブル14、テーブル14の後方部分(奥側)に設けられるコラム16、コラム16の上面に設けられたY軸ガイドレール16aに沿ってY軸方向(前後方向、
図1では紙面に垂直な方向)に往復可能に取り付けられたY軸スライダ18、Y軸スライダ18の上面に設けられたX軸ガイドレール18aに沿ってX軸方向(左右方向)に往復可能に設けられたX軸スライダ20、サドル22を介してZ軸方向(上下方向)に往復可能にX軸スライダ20に取り付けられたクイル24、クイル24の下端に取り付けられた上ヘッド26、上ヘッド26の鉛直方向下方に配設された下ヘッド28、テーブル14および下ヘッド28の四囲を包囲する加工槽30を主要な構成要素として具備している。
【0011】
テーブル14の上面にワークWが載置される。テーブル14は上方から見ると略矩形の枠形状をなし、テーブル14の左右の側壁14aの間に凹空間14bが形成されている。加工槽30の下方のベッド12内部に加工液タンク32が収容されている。X軸スライダ20には支持アーム34が一体に取り付けられ、支持アーム34はテーブル14の後方から凹空間14b内まで延設されている。下ヘッド28は、この支持アーム34先端部に支持され、上ヘッド26と同時に前後左右方向に移動可能となっている。上ヘッド26と下ヘッド28には、送給手段によって送給されるワイヤ電極36が支持され、Y軸スライダ18およびX軸スライダ20の移動によりワイヤ電極36が移動可能となっている。
【0012】
ワーク加工時には、ポンプを介して加工液タンク32から加工槽30内に加工液が供給されるとともに、ワークWから微小間隔を隔ててワイヤ電極36が配置される。さらに、ワイヤ電極36とテーブル14との間に加工用電源からパルス電圧が印加される。これによりワークWとワイヤ電極36との間に放電が発生しワークWが加工される。ワークWの加工中、ワイヤ電極36は、ワイヤ電極送り装置によって、ワイヤボビンから繰り出され、クイル24の内部、上ヘッド26、下ヘッド28を順次通過して、ワイヤ回収装置に回収される。また、上ヘッド26と下ヘッド28とは、それぞれワイヤ電極36を走行経路に沿って案内する上ワイヤガイドと下ワイヤガイドを有している。更に、下ヘッド28内には、ワイヤ電極36に所定の電位を与える給電板が配設されている。
なお、放電加工機10は形彫り放電加工機であってもよい。
【0013】
加工中に、消耗品の寿命が尽きてしまう、例えばボビン上のワイヤ電極を全て使い果たすと、加工が中断され加工不良となる。ワイヤ電極以外にも、放電加工機は、給電板、ワイヤガイド、加工液フィルタ、イオン交換樹脂等の消耗品を備えている。加工中にこうした消耗品の寿命が尽きてしまう事態を防止するために、従来、未使用消耗品の寿命である使用目標時間を設定し、この使用目標時間から当該消耗品の使用時間を全て累積した使用実績時間に次工程で要する見積もり時間を加算した値を減算した値が、使用目標時間に対する一定の割合となる閾値よりも大きいか否か判定して、当該消耗品をそのまま使用するか、或いは、交換するかを決定している。これに対して本願発明では、従来技術のように使用目標時間ではなく、後述するように、残寿命に対する余裕度によって、消耗品をそのまま使用するか或いは交換するかの判断基準としての閾値を決定している。
【0014】
本発明の放電加工機における消耗品の寿命判断方法を示すフローチャートである
図2を参照すると、加工プロセスの開始に先立って、消耗品の寿命判断プロセスが実行される。ステップS10において消耗品の寿命判断プロセスが開始すると、先ず、当該放電加工機に現在装着されている消耗品の使用実績時間および使用目標時間が読み込まれる(ステップS12)。次いで、設定された加工条件に基づいて当該加工プロセスのシミュレーションが実行され(ステップS14)、ワークWを加工するために要する加工時間(見積もり加工時間)が演算により予測または見積もられる(ステップS16)。次いで、使用実績時間、使用目標時間および見積もり加工時間から残寿命に対する余裕度が、以下の式から演算により求められる(ステップS18)。なお、こうしたプロセスは、本発明の消耗品寿命判断手段、加工時間予測手段を与えるプログラムとして放電加工機のNC装置内に組込むことができる。
【0015】
α=((Tr−Te)/Tr)×100
Tr=Tt−Tc
ここで、
α:残寿命に対する余裕度(%)
Tr:残寿命(時間)
Te:見積もり加工時間(時間)
Tt:使用目標時間(時間)
Tc:使用実績時間(時間)
である。
【0016】
こうして得られた残寿命に対する余裕度αが、当該消耗品をそのまま使用するか或いは交換するかの判断基準となる閾値を与える余裕度の下限値α
0(%)と比較され(ステップS20)、αがα
0以下(ステップS20でYes)の場合、その旨の警告を発し(ステップS22)、
図3に示すような余裕度の一覧が画面表示される(ステップS24)。αがα
0よりも大きい(ステップS20でNo)の場合、警告を発することなく、
図3に示すような余裕度の一覧が画面表示される(ステップS24)。
図3において、画面表示100は、消耗品としての加工液フィルタ、イオン交換樹脂、給電板(上)、給電板(下)につき、見積量(シミュレーション結果の見積もり加工時間)、現残量(使用目標時間−使用実績時間)および余裕度が表示されている。特に、そのうちイオン交換樹脂について余裕度が−25%となっており、これは加工プロセスが終了する以前に寿命が尽きてしまうことを示す。このような場合には、イオン交換樹脂の余裕度を示す棒グラフの色を、例えば赤色にするなどの手段によってステップS22の警告とすることができる。
【0017】
このように、本発明において、余裕度は、使用目標時間全体に対する割合ではなく、当該加工プロセスが開始される前の現在の残寿命に対する割合である。実際の加工には、見積に対して必ず誤差が生じるが、余裕度の演算方法を現在の残寿命に対する割合とすることで、誤差を考慮した判定が可能となり、無駄なく消耗品を使用することが可能となる。
【0018】
例えば、
図4に示すように、消耗品の使用目標時間(未使用品の寿命)が100時間、余裕度の下限を20%とした場合、従来のように使用目標時間全体に対する割合で消耗品を交換するか否かを判断する閾値を決定すると、当該消耗品の使用できない時間Tuが20時間で固定される。従って、使用実績時間Tcが79時間の場合、残寿命Trが21時間あるにも拘わらず、使用可能な時間Taは1時間となり、そうした加工しかできないこととなる。
【0019】
これに対して、上述した消耗品の寿命判断方法によれば、消耗品を交換すべきか否かの判断基準となる閾値が、残寿命に対する割合(余裕度)で決定されるため、例えば、
図4と同じ条件であっても、
図5に示すように16.8時間までの加工が許されることとなり、消耗品を限界まで無駄なく使用可能となる。
【0020】
また、上述した消耗品の寿命判断方法では、加工プロセスを実行するたびに、上記閾値がダイナミックに変化する。例えば、
図6に示すように、使用実績時間Tcが50時間の場合、本寿命判断方法によれば、使用可能な時間Taは40時間となる。この40時間の加工終了時には、
図7に示すように、閾値が変化して更に8時間の加工が可能と判断される。
【0021】
また、ワイヤ放電加工機の加工時間は通常数時間であるのに対し、消耗品は、数十時間の使用目標時間(寿命)を有しているものから、数千時間の使用目標時間を有しているものまで、その使用目標時間には大きな幅がある。使用目標時間が数十時間のものと、数千時間のものとでは許容される誤差が異なるため、余裕度の下限値α
0が固定され、各消耗品毎に個別の値を設定できないと、使用目標時間が例えば数千時間といった比較的長寿命の消耗品を無駄なく使用することができない。
【0022】
例えば、表1に示すような給電板とワイヤガイドが共に現在の残寿命が10時間の場合、余裕度αの下限を20%とすると、消耗品としての当該給電板およびワイヤガイドをそのまま使用するか或いは交換するかを判断する閾値は2時間となり、従って、給電板もワイヤガイドも共に8時間の加工までしか許容されない。然しながら、ワイヤガイドは使用目標時間が2000時間であるので、数時間の誤差は許容範囲とすることもできよう。そうした場合、ワイヤガイドの交換を判断する閾値を与える余裕度の下限を5%に設定できるようにすることで、閾値は0.5時間となり、当該ワイヤガイドは9.5時間の加工までそのまま使用され、これによって、一層無駄なく安全に消耗品を効率よく使用可能となる。
【表1】
【符号の説明】
【0023】
10 放電加工機
12 ベッド
14 テーブル
16 コラム
18 Y軸スライダ
20 X軸スライダ
22 サドル
24 クイル
26 上ヘッド
28 下ヘッド
30 加工槽
32 加工液タンク
34 支持アーム
36 ワイヤ電極
100 画面表示
【手続補正書】
【提出日】2014年6月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、消耗品の寿命を管理する消耗品管理機能を有した放電加工機において、設定された加工条件に基づいてワークを加工する加工時間を予測する加工時間予測手段と、前記消耗品の残寿命から前記加工時間予測手段で予測した加工時間を減算した値が閾値よりも小さいときに消耗品が寿命に達すると判断する消耗品寿命判断手段と、を具備し、前記消耗品寿命判断手段は、前記消耗品の残寿命に
対する割合で前記閾値を
決定するようにした放電加工機が提供される。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗品の寿命を管理する消耗品管理機能を有した放電加工機において、
設定された加工条件に基づいてワークを加工する加工時間を予測する加工時間予測手段と、
前記消耗品の残寿命から前記加工時間予測手段で予測した加工時間を減算した値が閾値よりも小さいときに消耗品が寿命に達すると判断する消耗品寿命判断手段と、を具備し、
前記消耗品寿命判断手段は、前記消耗品の残寿命に対する割合で前記閾値を決定することを特徴とした放電加工機。
【請求項2】
前記閾値を与える割合が、消耗品毎に個別に決定される請求項1に記載の放電加工機。