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特開2015-33716アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法および該製造方法で得られるアルミニウム合金ブレージングシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-33716(P2015-33716A)
(43)【公開日】2015年2月19日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法および該製造方法で得られるアルミニウム合金ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/40 20060101AFI20150123BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20150123BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20150123BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20150123BHJP
   C22C 21/10 20060101ALI20150123BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20150123BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20150123BHJP
【FI】
   B23K35/40 340J
   B23K35/28 310B
   B23K35/22 310E
   C22C21/00 D
   C22C21/00 E
   C22C21/00 J
   C22C21/10
   C22C9/00
   C22C18/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-166414(P2013-166414)
(22)【出願日】2013年8月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100071663
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 保夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰永
(72)【発明者】
【氏名】山吉 知樹
(57)【要約】
【目的】不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いられ、優れたろう付け性をそなえたアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法を提供する。
【構成】アルミニウム合金の心材の片面または両面に、6〜13%のSiを含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドしてなるブレージングシートを製造する方法であって、心材とろう材をクラッドするに際し、心材とろう材の間に、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有し、且つ心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末1を介在させて心材とろう材を積層し、金属粉末1の固相線温度以上の温度に加熱して、金属粉末1中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金の心材の片面または両面に、6〜13%(質量%、以下同じ)のSiを含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドしてなり、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるブレージングシートを製造する方法であって、心材とろう材をクラッドするに際し、心材とろう材の間に、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有し、且つ心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末1を介在させて心材とろう材を積層し、金属粉末1の固相線温度以上の温度に加熱して、金属粉末1中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項2】
心材とろう材をクラッドするに際し、心材とろう材の間に、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有し、且つアルミニウムとの間に共晶組成を有し、その共晶温度が心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い金属粉末2を介在させて心材とろう材を積層し、共晶温度以上の温度に加熱して、金属粉末2中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項3】
心材とろう材の間に、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有する金属粉末または前記元素の単体粉末からなる金属粉末3と、心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末4との混合粉末を介在させて積層し、金属粉末4の固相線温度以上の温度に加熱して、混合粉末中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項4】
心材とろう材をクラッドするに際し、心材とろう材の間に、前記金属粉末3と、アルミニウムとの間に共晶組成を有し、その共晶温度が心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い金属粉末5との混合粉末を介在させて積層し、前記共晶温度以上の温度に加熱して、混合粉末中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項5】
前記金属粉末1〜4が、Bi、Sb、Pbの少なくとも1種を0.2%以上含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られることを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項7】
前記心材が、Mg:0.2〜1.3%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項6記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項8】
前記心材が、Mn:1.8%以下、Si:1.0%以下、Fe:1.0%以下、Cu:0.5%以下、Zn:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.5%以下の1種または2種以上を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項6または7記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項9】
前記ろう材を前記心材の片面にクラッドし、心材の他の片面に、Zn:0.9〜6%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる犠牲陽極材をクラッドしてなることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法および該製造方法で得られるアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製の熱交換器や機械用部品など、細かな接合部を多数有する製品の接合方法としてろう付け接合が広く用いられている。アルミニウム(アルミニウム合金を含む)をろう付け接合するには、表面を覆っている酸化皮膜を破壊して、溶融したろう材を母材あるいは同じく溶融したろう材に接触させることが必須であり、酸化皮膜を破壊するためには、大別してフラックスを使用する方法と真空中で加熱する方法とがあり、いずれも実用化されている。
【0003】
ろう付け接合の適用範囲は多岐に及んでいるが、最も代表的なものとして自動車用熱交換器がある。ラジエータ、ヒータ、コンデンサ、エバポレータ等の自動車用熱交換器の殆どはアルミニウム製であり、その殆どがろう付け接合によって製造されており、そのうち、非腐食性のフラックスを塗布して窒素ガス中で加熱する方法が現在では大半を占めている。
【0004】
近年、電気自動車やハイブリッドカー等での駆動系の変更により、例えばインバータ冷却器のように電子部品を搭載した熱交換器が登場し、フラックスの残渣が問題視されるケースが増えてきている。そのため、インバータ冷却器の一部はフラックスを使用しない真空ろう付け法によって製造されているが、真空ろう付け法は加熱炉の設備費とメンテナンス費が高く、生産性やろう付けの安定性にも問題のあることから、窒素ガス炉中でフラックスを使用しないで接合するニーズが高まっている。
【0005】
このニーズに応えるため、先に発明者は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用しないでろう付け接合する手法として、Al−Siろう材にZr、Ce、Be、Caの1種または2種以上を添加し、ろう材または心材(あるいはろう材と心材の間に介在させる中間材)にMgを添加したブレージングシートを用いる方法、Mgを含有する心材にLiを添加したAl−Siろう材をクラッドしたブレージングシートを用いる方法を提案した。
【0006】
しかしながら、これらの手法は、材料の製造上、つぎのような問題点を有していることがわかった。すなわち、(1)Li、Mg、Caなどの元素は鋳造時に酸化消耗し易いため、微量配合においては成分調整が難しい。(2)LiとCaのような元素については、他の鋳造品への混入を避けるために、鋳造後に溶解炉の清掃処理が必要になる場合がある。(3)いずれも特殊な成分を有するろう材であるため、生産性が悪く、海外においては生産できない場合が多い。
【0007】
また、発明者は、低融点の金属粉末または板材からなる中間材を介して心材とろう材を面状に接合してから熱間クラッド圧延することによりブレージングシートを製造する手法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願2012−106797号
【特許文献2】特願2012−092867号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の中間材を介して心材とろう材を面状に接合してから熱間クラッド圧延することによりブレージングシートを製造する手法を応用して、ろう材に添加する前記Liなどの微量配合元素を中間材から供給することにより、前記(1)〜(3)の問題を解消できるとともに、さらに優れた利点が得られることを見出した結果としてなされたものであり、その目的は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いられ、優れたろう付け性をそなえたアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法および該製造方法で得られるアルミニウム合金ブレージングシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための請求項1によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、アルミニウム合金の心材の片面または両面に、6〜13%のSiを含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドしてなり、不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるブレージングシートを製造する方法であって、心材とろう材をクラッドするに際し、心材とろう材の間に、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有し、且つ心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末1を介在させて心材とろう材を積層し、金属粉末1の固相線温度以上の温度に加熱して、金属粉末1中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。以下の説明において、合金成分の含有量は全て質量%で示す。
【0011】
請求項2によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項1において、心材とろう材をクラッドするに際し、心材とろう材の間に、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有し、且つアルミニウムとの間に共晶組成を有し、その共晶温度が心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い金属粉末2を介在させて心材とろう材を積層し、共晶温度以上の温度に加熱して、金属粉末2中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。
【0012】
請求項3によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項1において、心材とろう材の間に、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有する金属粉末または前記元素の単体粉末からなる金属粉末3と、心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末4との混合粉末を介在させて積層し、金属粉末4の固相線温度以上の温度に加熱して、混合粉末中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。
【0013】
請求項4によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項1において、心材とろう材をクラッドするに際し、心材とろう材の間に、前記金属粉末3と、アルミニウムとの間に共晶組成を有し、その共晶温度が心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い金属粉末5との混合粉末を介在させて積層し、前記共晶温度以上の温度に加熱して、混合粉末中に液相を生成させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延することを特徴とする。
【0014】
請求項5によるアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記金属粉末1〜4が、Bi、Sb、Pbの少なくとも1種を0.2%以上含有することを特徴とする。
【0015】
請求項6によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られることを特徴とする。
【0016】
請求項7によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項6において、前記心材が、Mg:0.2〜1.3%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0017】
請求項8によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項6または7において、前記心材が、Mn:1.8%以下、Si:1.0%以下、Fe:1.0%以下、Cu:0.5%以下、Zn:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.5%以下の1種または2種以上を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0018】
請求項9によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項6〜8のいずれかにおいて、前記ろう材を前記心材の片面にクラッドし、心材の他の片面に、Zn:0.9〜6%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる犠牲陽極材をクラッドしてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の効果は以下のとおりである。
(1)前記の中間材を介して心材とろう材を面状に接合してから熱間クラッド圧延することによりブレージングシートを製造する手法を適用するため、クラッド率に制限のないブレージングシートを高い歩留まりで生産することができる。
(2)この手法を適用して、ろう材に添加する微量配合元素を金属粉末から供給することによって、前記従来の問題点が解消され、第一に、微量配合における成分調整の精度を高めて生産を効率化することができ、第二に、溶解炉の清掃処理を不要とすることができ、第三にろう材スラブを一般材質(世界各地で生産あるいは調達可能な材質)にすることができて、立地を問わずに材料生産が可能となる。
【0020】
さらに、本発明によれば、つぎのような効果を達成することができる。すなわち、本発明で使用するろう付け時にろう材表面の酸化皮膜の破壊を誘起する添加元素、Li、Be、Ba、Ca、Mgはいずれも酸化物生成自由エネルギーが低いため、ろう材中に直接添加すると、ろう材の表面を覆っているアルミニウム酸化皮膜の中に独自の酸化物を形成し、この独自の酸化物の形成によってアルミニウム酸化皮膜の破壊が誘起される。
【0021】
添加元素をろう材に直接添加した場合は、独自の酸化物の形成が主として素材製造の段階で進行するのに対し、添加元素を粉末で供給した場合は、ろう付け加熱時におけるろう材の溶融開始後に集中して進行する。ろう付け接合直前での独自の酸化物形成の集中的進行により、アルミニウム酸化皮膜の破壊が効率的かつ強力に誘起されるため、ろう材に直接添加した場合に比べてろう付け性が向上し、ろう付け前にエッチング処理を行わずとも安定したろう付け性を得ることができる。
【0022】
ろう材中に添加したい成分量(目標成分量)と、金属粉末量との関係は(1)式で表される。(1)式では、ろう材と心材の界面に介在させる金属粉末中の当該成分が熱間圧延前の接合時にろう材側と心材側に均等に拡散し、ろう付け時には、ろう材側へ拡散した当該成分(設置した粉末中の当該成分量の半分)がろうの融液中に溶解し、ろう材中へ直接添加した当該成分と同じ作用をもたらす。
p=5400d・q/c(g/m2)・・・(1)
p:金属粉末量(g/m2)、d:熱延前に積層するろう材層の厚さ(mm)、q:ろう材中の当該目標成分量(%)、c:金属粉末の中の当該元素成分量(%)
(1)式で得られた量の粉末を介在させて製造したブレージングシートでは、結果的にろう材中に含まれる添加元素量が、ろう材に直接添加した場合の成分量に一致することが化学分析とろう付け試験により確認された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】心材とろう材の間に金属粉末を介在させ、金属粉末を溶融させて、心材とろう材を接合するための冶具を示す側面図である。
図2】間隙充填試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用しないでろう付するために使用されるアルミニウム合金ブレージングシートを製造するに際し、心材にクラッドされるろう材に添加する微量配合元素、Li、Be、Ba、Ca、Mgを、鋳造の段階で添加するのではなく、心材とろう材との界面に微量配合元素を含有した金属粉末を介在させ、金属粉末を部分的または全面的に溶融させて心材とろう材を面状に接合した後、熱間クラッド圧延してブレージングシートを製造するものである。
【0025】
金属粉末の製法としては、ガス、遠心力、プラズマ等によるアトマイズ法、メルト・スピニング法、回転電極法、メカニカル・アロイング法、その他、各種の化学プロセスを適用して得ることができる。金属粉末の組成は単体でも合金でもよく、接合を阻害しない限り、必要に応じて、無機系物質あるいは有機系物質との混合物として供給してもよい。
【0026】
本発明において用いられる金属粉末は以下の金属粉末1〜5である。
金属粉末1は、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有し、且つ心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末で、例えば、上記の元素を含有するAl−6%Si−15%Zn合金が挙げられる。
【0027】
金属粉末2は、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有し、且つアルミニウムとの間に共晶組成を有し、その共晶温度が心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い金属粉末で、例えば、上記の元素を含有するCu合金が挙げられる。
【0028】
金属粉末3は、Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有する金属粉末または前記元素の単体粉末からなる金属粉末で、上記の元素を含有するAl合金等が挙げられる。金属粉末4は、心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い固相線温度を有する金属粉末で、Al−6%Si−65%Zn合金等が挙げられる。金属粉末5は、アルミニウムとの間に共晶組成を有し、その共晶温度が心材とろう材のいずれの固相線温度よりも低い金属粉末で、CuまたはCu合金等が挙げられる。
【0029】
Li、Be、Ba、Ca、Mgの少なくとも1種を0.2%以上含有する金属粉末1〜3は、例えば、Li、Be、Ba、Ca、Mgのうちの1種のみを0.2%以上含有するもの、Li、Be、Ba、Ca、Mgのうちの1種を0.2%以上含有し、他の元素を0.2%未満含有するもの、Li、Be、Ba、Ca、Mgのうちの2種のみを0.2%以上含有するもの、Li、Be、Ba、Ca、Mgのうちの2種を0.2%以上含有し、他の元素を0.2%未満含有するもの等を含む。
【0030】
Li、Be、Ba、Ca、Mgが0.2%未満では、溶融したろう材中に溶出してろう材表面に拡散する量が少なくなり、ろう材表面の酸化皮膜を破壊する効果が乏しくなる。含有量の上限値についての原理的な制限はないが、製造上の難易度あるいは取り扱い易さの点から、とくにLi、Ba、Caについては5%以下とするのが好ましい。但し、いずれの元素も含有量が多くなると金属粉末が酸化し易くなるため、金属粉末の製造方法と保管方法には注意が必要である。
【0031】
金属粉末1〜4には、表面張力の低下効果を得るために、Bi、Sb、Pbの少なくとも1種を0.2%以上含有することができる。Bi、Sb、Pbの含有量が0.2%未満では、溶融したろう材に溶出する量が少なくなり、表面張力の低下効果が乏しくなる。含有量の上限値については原理的な制限はない。
【0032】
本発明で用いるろう材は、Si:6〜13%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなる。Si:6〜13%は実用的なろう材の成分値であり、Siが6%未満では、ろうが不足するとともに流動性も劣るためろう材としての機能が不十分となり、Siが13%を超えると、過剰なろうによって母材の溶解量が増し、ろう材中に粗大な初晶Siが形成され易くなるため、ろう付け時に溶融穴を発生する危険性が高まる。また、ブレージングシート製造時の熱間クラッド圧延において局部溶融に起因して圧延割れが生じるおそれもある。
【0033】
心材の組成については、心材のMg含有量が0.2%未満では、ろう材酸化皮膜の脆弱化効果が乏しくなり、1.3%を超えると心材の融点が下がってろう付け接合が困難になる。Mgを0.2〜1.3%含有する心材には、強度、耐食性、組織制御等の目的でMn、Si、Fe、Cu、Zn、Ti、Zrの1種または2種以上含んでいてもよい。
【0034】
Mnは強度向上と電位の調整に有効であるが、1.8%を超えて含有すると材料圧延時に割れが生じ易くなる。Siは強度向上に有効であるが、1.0%を超えると融点が低下してろう付け性に悪影響を及ぼす。Feは強度向上に有効であるが、1.0%を超えると、耐食性に悪影響が生じるとともに巨大析出物も発生し易くなる。
【0035】
Cuは強度向上と電位調整に有効であるが、0.5%を超えると粒界腐食し易くなり、融点も低下するので好ましくない。Znは電位の調整に有効であるが、0.5%を超えると自然電極電位が低下し過ぎて腐食による貫通寿命が短くなる。Tiは腐食を層状に進行させる上で有効であるが、0.2%を超えると巨大析出物が生成し易くなり、圧延性や耐食性に支障が生じる。Zrは結晶粒径を大きくする上で有効であるが、0.5%を超えると材料製造時に割れが生じ易くなる。
【0036】
本発明のブレージングシートにおいては、ろう材を片面にクラッドし、他の片面に、Zn:0.9〜6%を含有し、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる犠牲陽極材をクラッドしてなる形態とすることもできる。犠牲陽極材のZn含有量が0.9%未満では犠牲陽極効果が乏しく、6%を超えると腐食速度が速くなって腐食寿命が短くなる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
実施例1
ガスによるアトマイズ法で150μm以下の粒径に調整された金属粉末(P1〜34)の組成を表1に示す。金属粉末P2〜12、P22、P24は金属粉末1(金属粉末P1、P23、P25はそれぞれ金属粉末P2〜12、P22、P24の比較金属粉末)、金属粉末P13〜17は金属粉末2、金属粉末P18〜21は金属粉末3、金属粉末P26、P28〜31は金属粉末5、金属粉末P27、P32〜34は金属粉末4に相当する。
【0039】
アルミニウム合金ブレージングシートを構成するろう材および心材の組成を表2に示す。表2に示す組成を有するろう材および心材を連続鋳造により造塊し、心材については、得られた鋳塊を縦163mm、横163mm、厚さ27mmのサイズに面削し、ろう材については、得られた鋳塊を厚さ3mmまで熱間圧延し、縦163mm、横163mmの寸法に切断した。
【0040】
面削した心材の上面に表3に示すように金属粉末を介在させて、ろう材を被せ、図1に示す治具でボルト固定した。この状態で、窒素ガス雰囲気炉中で所定温度まで加熱して金属粉末を溶融させてろう材と心材を接合した。冶具から外した積層材は、一般のブレージングシートの製造の場合と同様に熱間クラッド圧延した後、厚さ0.4mmまで冷間圧延し、軟化処理を施して軟質材(試験材)とした。
【0041】
表3において、試験材1〜11は金属粉末1を介在させたもの(請求項1に相当)、試験材12〜16は金属粉末2を介在させたもの(請求項2に相当)、試験材17、19〜22は金属粉末3と金属粉末5との混合粉末を介在させたもの(請求項4に相当)、試験材18は金属粉末3と金属粉末4との混合粉末を介在させたもの(請求項3に相当)、試験材23〜25は金属粉末1と金属粉末4を介在させたもの(請求項1に相当)である。
【0042】
得られた試験材を用いて図2に示す間隙充填試験を行い、ろう付け性を評価した。試験材を水平材とし、3003合金の単板を垂直材として図2に示す間隙充填試験片に組み付けた。水平材と垂直材の前処理としては、アセトンで脱脂したものと、脱脂後に弱酸でエッチング処理したものの両方で評価した。
【0043】
内容積0.4mの予熱室とろう付け室を備えた二室型炉からなる窒素ガス炉を使用し、間隙充填試験片をろう付け室に装入し、到達温度595℃でろう付け接合した。ろう付け条件は、窒素ガス炉の各室に20m/hの窒素ガスを送り込み、450℃から595℃までを約10分で昇温した。加熱終了時のろう付け室の酸素濃度は10〜22ppmであった。間隙充填試験片の温度がろう付け室内で595℃に到達したら間隙充填試験片を予熱室に移し、予熱室内で550℃まで冷却後、間隙充填試験片を取り出して大気中で冷却した。
【0044】
間隙充填試験片に形成されたフィレットの長さ(間隙充填長さ)、フィレット形状(フィレットの均一性)、ろう付け後の試験片の断面から、心材のエロージョン(ろうによる侵食)の発生状況を観察して、ろう付性を評価し、通常の工程に従って製造した同等組成のブレージングシートと比較して同等以上のろう付け性を示し、実用に適するものを良好(○)、このうち、脱脂のみの前処理で同等以上のろう付け性を示したものを優良(◎)、実用に適さない接合状況であったものを不良(×)と評価した。ろう付け性が良好(○)または優良(◎)を示した試験材については、8週間のSWAAT試験(ASTM−G85−A3)を行って、貫通腐食の有無により耐食性を評価し、貫通腐食が生じないものは良好(○)、貫通腐食が生じたものは不良(×)と評価した。
【0045】
評価結果を表3に示す。表3に示すように、本発明に従う試験材1〜25はいずれも、通常の工程に従って製造したブレージングシートと同等あるいはそれ以上のろう付け性および耐食性を示した。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
比較例1
表2に示す組成を有する心材およびろう材で構成されたブレージングシートを実施例1と同様にして製造し、表1に示す組成を有する金属粉末を用いて、実施例1と同じ方法で、ろう付け性および耐食性を評価した。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示すように、試験材26はろう材のSi量が少ないため間隙充填試験においてフィレットの形成が小さく、ろう付け性が劣っていた。試験材27はろう材のSi量が多いため、熱間クラッド圧延において局部溶融に起因して圧延割れが生じた。試験材28は心材のMg量が多く、試験材29は心材のSi量が多いため、いずれも心材の融点が下がり、間隙充填試験において心材にエロージョンが発生した。
【0052】
試験材30は心材のFe量が多く、試験材31は心材のCu量が多いため、いずれも耐食性が低下した。試験材32は心材のMn量が多いため心材の融点が低下し、熱間クラッド圧延において局部溶融に起因して圧延割れが生じた。試験材33は心材のZn量が多く、試験材34は心材のTi量が多いため、いずれも耐食性が低下した。試験材35は心材のZr量が多いため、熱間クラッド圧延において圧延割れが生じた。
【0053】
試験材36はLi、Be、Ba、Ca、Mgを含有しない金属粉末P1を介在させたため、間隙充填試験においてフィレットが形成されなかった。試験材37、試験材38はLi量が少ない金属粉末P23、P25を介在させたため、間隙充填試験においてフィレットの形成が小さかった。
図1
図2