特開2015-34697(P2015-34697A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 杏林製薬株式会社の特許一覧

特開2015-34697尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法
<>
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000003
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000004
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000005
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000006
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000007
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000008
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000009
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000010
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000011
  • 特開2015034697-尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-34697(P2015-34697A)
(43)【公開日】2015年2月19日
(54)【発明の名称】尿道閉塞モデルにおける流量計を用いた排尿機能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20150123BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20150123BHJP
   A01K 67/027 20060101ALN20150123BHJP
【FI】
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   A01K67/027
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-164181(P2013-164181)
(22)【出願日】2013年8月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深田 亜矢子
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
(57)【要約】
【課題】
同種の動物を使用した、抗ムスカリン様作用を有する薬物の膀胱容量増大作用(薬効)及び排尿機能への作用(副作用)を用いて排尿機困難のリスク(安全域)の評価方法を提供する。
【解決手段】
ラットに被験薬物を投与し、膀胱容量を測定する被験薬物の膀胱容量増大作用を評価する方法と以下の(a)〜(c)の工程を含む排尿機能への被験薬物の作用の評価方法とを組み合わせることを特徴とする排尿困難リスクの評価方法。
(a)雌性ラットにα1アゴニストを注入して得られる尿道閉塞モデルの被験薬物非投与時の最大尿流量を流量計(フローメーター)により測定する工程、
(b)上記尿道閉塞モデルに被験薬物投与した際の最大尿流量を流量計により測定する工程、
(c)(a)で測定した最大尿流量と(b)で測定した最大尿流量の変化を算出する工程。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)の工程を含む排尿機能への被験薬物の作用の評価方法。
(a)雌性ラットにα1アゴニストを注入して得られる尿道閉塞モデルの被験薬物非投与時の最大尿流量を流量計(フローメーター)により測定する工程、
(b)上記尿道閉塞モデルに被験薬物投与した際の最大尿流量を流量計により測定する工程、
(c)(a)で測定した最大尿流量と(b)で測定した最大尿流量の変化を算出する工程。
【請求項2】
ラットに被験薬物を投与し、膀胱容量を測定する被験薬物の膀胱容量増大作用を評価する方法と請求項1に記載した排尿機能への被験薬物の作用を評価する方法を組み合わせることを特徴とする排尿困難リスクの評価方法。
【請求項3】
被験薬物が、抗ムスカリン様作用を有する薬物である請求項1または2に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿道閉塞モデルを用いた排尿機能評価方法に関する。特に、尿道閉塞モデルを用いた抗コリン薬の副作用(排尿機能障害)の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱収縮力と尿道の閉まり具合のバランスがくずれることにより、尿が膀胱に充満していて尿意をもよおしているのに排尿できない尿閉や、尿が出づらい排尿困難は、前立腺疾患(前立腺肥大症、前立腺癌)など尿道の閉塞疾患で多く認められる。一方、尿閉と排尿困難は医薬品の副作用として引き起こされる場合もある。このような副作用は、主に抗ムスカリン様作用を有する薬物を含む、過活動膀胱治療薬、胃腸薬、下痢止め薬、抗精神病薬・抗うつ薬、抗不整脈薬などでみられる。
【0003】
例えば、抗ムスカリン様作用を有する薬物(酒石酸トルテロジン、塩酸オキシブチニン、コハク酸ソリフェナシン、塩酸プロピベリン、イミダフェナシン、フマル酸フェソテロジン)の添付文書情報によると、尿閉を有する患者で「禁忌」とされ、排尿困難の患者(前立腺肥大患者等)では「慎重投与」とされている。
【0004】
したがって、排尿困難の患者が頻尿治療を目的に抗ムスカリン様作用を有する薬物を選択する場合、薬効面で優れるだけでなく、上記リスクの少ない薬剤が好ましい。
このため抗ムスカリン様作用を有する薬物の薬効と排尿機能障害に関する副作用の効力比(安全域)を用いて排尿困難リスクを評価するため、同種の動物で薬効と副作用を評価できる測定法の開発が望まれる。
現在報告されている尿道閉塞モデルにおける排尿機能評価方法としては、フェニレフリン(α1アゴニスト)負荷のウレタン麻酔下モルモット(雄)を用い、尿重量から尿流量(重量法)を求める方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO03/057254
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】重篤副作用疾患別対応マニュアル(尿閉・排尿困難)平成21年5月 厚生労働省
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、モルモットでは、抗ムスカリン様作用を有する薬物を投与しても膀胱容量の増大は確認できず、同種の動物で薬効と副作用の比較を行い安全域を求めることはできなかった(参考例1)。
【0008】
また、ラットを用いた場合、抗ムスカリン様作用を有する薬物を投与して膀胱容量の増大を測定することは可能であるが、一回排尿量が少ないため特許文献1記載の方法(重量法)により精確に尿流量を測定することは困難であった。
【0009】
本発明の目的は、抗ムスカリン様作用を有する薬物の膀胱容量増大作用(薬効)及び排尿機能障害(副作用)を同種の動物で評価し、排尿困難のリスクを評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
1.以下の(a)〜(c)の工程を含む排尿機能への被験薬物の作用の評価方法。
(a)雌性ラットにα1アゴニストを注入して得られる尿道閉塞モデルの被験薬物非投与時の最大尿流量を流量計(フローメーター)により測定する工程、
(b)上記尿道閉塞モデルに被験薬物投与した際の最大尿流量を流量計により測定する工程、
(c)(a)で測定した最大尿流量と(b)で測定した最大尿流量の変化を算出する工程。
2.ラットに被験薬物を投与し、膀胱容量を測定する被験薬物の膀胱容量増大作用を評価する方法と請求項1に記載した排尿機能への被験薬物の作用を評価する方法を組み合わせることを特徴とするで排尿困難リスクの評価方法。
3.被験薬物が、抗ムスカリン様作用を有する薬物である請求項1または2に記載の評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、同種の動物(ラット)で、抗ムスカリン様作用を有する薬物の膀胱容量増大作用(薬効)と排尿機能に関する作用(副作用)を評価することが可能となり、抗ムスカリン様作用を有する薬物の排尿困難のリスクを確認する上で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】雌性ラット尿道閉塞モデルを表す。
図2】モルモットにおける抗ムスカリン様作用を有する薬物の膀胱容量増大作用試験の結果を表す。
図3】雄性ラットにα1アゴニスト(フェニレフリン)を持続注入する前後の尿流量及び膀胱内圧の経時変化を表す。
図4】雌性ラットにα1アゴニスト(A61603)を持続注入する前後の尿流量及び膀胱内圧の経時変化並びにα1アゴニストを持続注入後、さらにα1ブロッカー(タムスロシン)を注入した際の尿流量及び膀胱内圧の経時変化を表す。
図5】雌性ラットにα1アゴニスト(A61603)を持続注入する前後の尿流量及び膀胱内圧の経時変化並びにα1アゴニストを持続注入後、さらに抗ムスカリン様作用を有する薬物(イミダフェナシン)を投与後の尿流量及び膀胱内圧の経時変化を表す。
図6】雌性ラットにα1アゴニスト(A61603)を持続注入する前後の尿流量及び膀胱内圧の経時変化並びにα1アゴニストを持続注入後、さらに抗ムスカリン様作用を有する薬物(塩酸オキシブチニン)を投与後の尿流量及び膀胱内圧の経時変化を表す。
図7】尿道閉塞モデルにおけるイミダフェナシンと塩酸オキシブチニンの最大尿流量(Qmax)への作用を表す。
図8】雌性ラットを用いた膀胱容量増大作用の検討における抗ムスカリン様作用を有する薬物(イミダフェナシン)投与前後の膀胱内圧波形を表す。
図9】雌性ラットを用いた膀胱容量増大作用の検討における抗ムスカリン様作用を有する薬物(塩酸オキシブチニン)投与前後の膀胱内圧波形を表す。
図10】雌性ラットを用いたイミダフェナシンと塩酸オキシブチニンの膀胱容量増大作用を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.排尿機能への被験薬物の作用の評価方法
本発明の態様の1つは、α1アゴニストを注入した尿道閉塞モデルを用いた排尿機能への被験薬物の作用の評価方法である。
【0014】
(α1アゴニスト)
本発明に用いるα1アゴニスト(α1アドレナリン受容体アゴニスト)としては、シラゾリン、メトキサミン、フェニレフリン、ノルエピネフリン、A61603などが挙げられる。好ましくは、A61603である。
【0015】
(尿道閉塞モデル)
本発明で用いる尿道閉塞モデルは、週齢、体重については特に制限はないが、雌性のラットであることが必要である。モルモットでは抗コリン薬の薬効(膀胱容量増大作用)を観察することができない。また、雄性ラットでは流量計(フローメーター)による測定において外尿道括約筋由来のHFO(High Frequency Oscillations)の影響によりα1アゴニストによる最大尿流量の低下が検出できず、本発明の尿道閉塞モデルに使用することができない。
尿道閉塞モデルは、雌性ラットにα1アゴニストを注入することにより作成することができる。注入の方法は、特に制限はないが、持続注入することが好ましく、例えば頸静脈のカテーテルよりシリンジポンプを用いて行うことができる。
【0016】
(最大尿流量)
排尿パラメーターである「最大尿流量」は、流量計を用いて測定することができる。尿流量測定法として重量法が挙げられるが、ラットは一回排尿量が少ないため重量法では精確に尿流量を測定することができなかった。
流量計とは、単位時間に固定した断面を横切って流れる流体の量を測定する機器を意味し、例えば、超音波トランジットタイム方式の流量計がある。Transonic Systems Inc.の流量計を使用する場合、尿道に流量計用プローブを設置する(図1)。
【0017】
最大尿流量は、流量計からの情報を記録計が尿流量波形として表示することにより最大値を求めることができる。例えば、波形をPowerLab(ADInstruments)を介してPCに取り込み、LabChart(ADInstruments、PowerLab付属)を用いて最大尿流量を求めることができる(図1)。
【0018】
2.排尿困難リスクの評価方法
本発明の態様の1つは、被験薬剤の膀胱容量増大作用の評価と上記排尿機能への被験薬物の作用の評価を組み合わせた排尿困難リスクの評価方法である。
膀胱容量増大作用の評価と排尿機能への被験薬物の評価は、同一個体(ラット)で実施しても、別個体で実施しても良い。別個体で実施する場合は、膀胱容量増大作用の評価は雄性ラットを使用することも可能である。
【0019】
(膀胱容量の測定)
ウレタン麻酔下でラット膀胱頂部に挿入・固定したカテーテルより生理食塩水をラット膀胱内に一定速度で注入し、同時に圧トランスデューサーを用いて膀胱内圧を計測することにより膀胱容量を測定することができる(図1)。生理食塩水の膀胱内への注入にはシリンジポンプを用いることが好ましく、注入速度は0.02-0.3 mL/minであることが好ましい。生理食塩水注入開始から排尿(膀胱内圧が極大値を示したときまたは尿流量同時測定時には尿流量波形出現時を「排尿」とする)までの時間差から膀胱内に注入した生理食塩水の量を膀胱容量として算出し、被験薬物の投与前後で膀胱容量を比較する。時間差の測定は膀胱内圧波形を用いてノギスで測定したりPowerLab及びLabChart(ADInstruments)を用いて行ったりすることができる。また、尿流量同時測定時には尿流量波形から波形下面積を算出、これを排尿量とし、残尿量(排尿後に膀胱内に残存する生理食塩水を膀胱カテーテルより排出、回収することで算出できる)と足すことにより膀胱容量とすることができる。波形下面積はPowerLab及びLabChart(ADInstruments)を用いて行うことができる。
【0020】
(排尿困難リスク)
排尿困難リスクの評価は、被験薬物を投与した際の最大尿流量の低下作用と膀胱容量増大作用を比較することで実施することができる。例えば、各薬剤の薬効のED50と副作用におけるED50の差や比を指標として排尿困難リスクを評価したり、各薬剤の薬効の最小薬効量と副作用の最小薬効量の差や比を指標として排尿困難リスクを評価することができる。
【0021】
(被験薬物)
被験物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質などの他に、例えば温血哺乳動物の組織抽出物、細胞培養上清などが用いることができるが、好ましくは抗ムスカリン様作用を有する薬物である。抗ムスカリン様作用を有する薬物としては、酒石酸トルテロジン、塩酸オキシブチニン、コハク酸ソリフェナシン、塩酸プロピベリン、イミダフェナシン、フマル酸フェソテロジンなどが挙げられる。
被験薬物は、適当な媒体を用いて静脈投与することが好ましい。使用できる媒体としては、生理食塩水、水、DMSO含有生理食塩水などが挙げられる。
【0022】
次に、本発明を参考例及び実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0023】
(参考例1)モルモットを用いた抗ムスカリン様作用を有する薬物の効果
Hartley雄性モルモット(日本医科学動物資材研究所)の背部皮下にウレタン溶液(溶媒;生理食塩水)を投与し(1.4 g/kg、投与容量;5 mL/kg)、麻酔を施した。麻酔下で頸静脈、大腿静脈及び膀胱頂部に生理食塩水を充填したカテーテル(PE-100、日本ベクトンディッキンソン株式会社製)を挿入・固定後、切開部を縫合した。膀胱頂部に固定したカテーテルに三方活栓をつなぎ、一端はシリンジポンプ(PHD2000:ハーバード社製)に接続し、生理食塩水を注入する経路とした。もう一端は膀胱内圧を測定するため圧トランスデューサー(DX-300:日本光電社製)に接続し、ひずみ圧力用アンプ(AP-621G:日本光電社製)及びPowerLabシステム(ML870/P PowerLab8/30:ADInstruments社製)を介してデータを取得した。術後30分以上の回復期間を置いた後、膀胱内に0.3 mL/minの流量で約15分間生理食塩水を持続的に注入し先行試行を行った。その後、シリンジポンプに接続したカテーテルを外すことにより膀胱内に残留する生理食塩水を排出した。さらに約20分後に再び生理食塩水を注入し、今度は排尿した時点で注入を止め、膀胱内の生理食塩水(以下、残尿とする)を排出した(intermittent cystometry)。残尿は15分間回収した。20分間インターバルでintermittent cystometryを繰り返し行い、2回連続して安定した膀胱容量(Cys-1、Cys-2とし、Cys-2の膀胱容量がCys-1の±20%以内)が得られたら、10分後にイミダフェナシン(0.3-10 mg/kg、投与容量;1 mL/kg、溶媒;生理食塩水)を大腿静脈に固定したカテーテルより急速静注し、投与10分後から再度測定しCys-3を得た。被験薬物投与前(プレ;Cys-1とCys-2の平均値)に対する被験薬物投与後(Cys-3)の膀胱容量の比率を算出することにより、膀胱容量増大作用を評価した。その結果、イミダフェナシン(0.3-10 μg/kg)による膀胱容量増大作用が確認されなかった(図2
【0024】
(参考例2)雄性ラットの尿道閉塞モデル
Sprague-Dawley雄性ラット(日本チャールス・リバー株式会社)の背部皮下にウレタン溶液(溶媒;生理食塩水)を投与し(1.2 g/kg、投与容量;5 mL/kg)麻酔を施した。麻酔下で頸静脈、大腿静脈及び膀胱頂部に生理食塩水を充填したカテーテル(PE-50、日本ベクトンディッキンソン株式会社製)を挿入・固定後、切開部を縫合した。流量測定用プローブ(MC2.5PSB:トランソニックシステム社製)を尿道に設置した。膀胱頂部に固定したカテーテルに三方活栓をつなぎ、一端はシリンジポンプ(PHD2000:ハーバード社製)に接続し、生理食塩水を注入する経路とした。もう一端は膀胱内圧を測定するため圧トランスデューサー(DX-300:日本光電社製)に接続した。膀胱内圧はひずみ圧力用アンプ(AP-621G:日本光電社製)、尿流量は流量計(TS420:トランソニックシステム社製)を介し、さらにPowerLabシステム(ML870/P PowerLab8/30:ADInstruments社製)を介してデータを取得した。術後30分以上の回復期間を置いた後、膀胱内に0.06 mL/minの流量で生理食塩水を持続的に注入した。排尿反射を確認したらフェニレフリン溶液(30 μg/kg/min、溶媒;生理食塩水)を頸静脈カテーテルよりシリンジポンプ(Model 11:ハーバード社製)を用いて0.6 mL/hの流量で持続注入した。続けて生理食塩水を膀胱内注入することにより排尿反射を誘発させ、排尿波形を記録した。その結果、フェニレフリン持続注入前後で最大尿流量の変化は認められなかった(図3)。
【0025】
(参考例3)雌性ラットの尿道閉塞モデル
Sprague-Dawley雌性ラットの背部皮下にウレタン溶液(溶媒;生理食塩水)を投与し(1.2 g/kg、投与容量;5 mL/kg)、麻酔を施した。麻酔下で頸静脈及び大腿静脈に生理食塩水を充填したカテーテル(PE-50、日本ベクトンディッキンソン株式会社製)を挿入・固定後、切開部を縫合した。腹部を切開し、膀胱を露出させ、膀胱頂部に生理食塩水を充填したカテーテルを挿入・固定した。恥骨を切開し、尿道を剥離した。膀胱頂部に固定したカテーテルに三方活栓をつなぎ、一端はシリンジポンプ(PHD2000:ハーバード社製)に接続し、生理食塩水を注入する経路とした。もう一端は膀胱内圧を記録するため圧トランスデューサー(DX-300:日本光電社製)に接続した。膀胱内圧はひずみ圧力用アンプ(AP-621G:日本光電社製)、尿流量は流量計(TS420:トランソニックシステム社製)を介し、さらにPowerLabシステム(ML870/P PowerLab8/30:ADInstruments社製)を介してデータを取得した。術後30分以上の回復期間を置いた後、膀胱頂部に固定したカテーテルよりシリンジポンプ(Model 11:ハーバード社製)を用いて0.06 mL/minの流量で生理食塩水を注入した。排尿反射が確認できたら尿流量測定用プローブを尿道に設置し固定した。続けて排尿反射が確認できたらA61603溶液(30 ng/kg/min、溶媒;生理食塩水)を頸静脈カテーテルよりシリンジポンプ(Model 11:ハーバード社製)を用いて0.6 mL/hの流量で持続注入した。続けて生理食塩水を膀胱内注入することにより排尿反射を誘発させ、排尿波形を記録した。最大尿流量が安定したら(変動が10%以内)タムスロシン 3 μg/kg(投与容量1 mL/kg、溶媒;生理食塩水)を急速静注した。その結果、A61603持続注入により最大尿流量は低下し、タムスロシンの投与により回復した。(図4)。
【0026】
(実施例1)イミダフェナシン及び塩酸オキシブチニンの膀胱容量増大作用
(1)使用動物
種:ラット 系統:Sprague-Dawley 性別:雌 供給源:日本チャールス・リバー株式会社 週齢:10〜11週齢
(2)方法
Sprague-Dawleyラットの背部皮下にウレタン溶液(溶媒;生理食塩水)を投与し(1.2 g/kg、投与容量;5 mL/kg) 、麻酔を施した。麻酔下で右大腿静脈及び膀胱頂部に生理食塩水を充填したカテーテル(PE-50、日本ベクトンディッキンソン株式会社製)を挿入・固定後、切開部を縫合した。膀胱頂部に固定したカテーテルに三方活栓をつなぎ、一端はシリンジポンプ(PHD2000:ハーバード社製)に接続し、生理食塩水を注入する経路とした。もう一端は膀胱内圧を測定するため圧トランスデューサー(DX-300:日本光電社製)に接続し、ひずみ圧力用アンプ(AP-621G:日本光電社製)及びPowerLabシステム(ML870/P PowerLab8/30:ADInstruments社製)を介してデータを取得した。術後30分以上の回復期間を置いた後、膀胱内に0.06 mL/minの流量で約15分間生理食塩水を持続的に注入し先行試行を行った。その後、シリンジポンプに接続したカテーテルを外すことにより膀胱内に残留する生理食塩水を排出した。さらに10分後再度生理食塩水を注入し、今度は排尿した時点で注入を止め、膀胱内の生理食塩水(以下、残尿とする)を排出した(intermittent cystometry)。残尿は5分間回収した。10分間インターバルでintermittent cystometryを繰り返し行い、2回連続して安定した膀胱容量が得られたら(それぞれCys-1及びCys-2とし、Cys-2の膀胱容量の変動がCys-1の±10%以内)、最後の排尿から5分後に被験薬物(イミダフェナシン0.003-0.03 mg/kg、オキシブチニン 0.3-3 mg/kg、投与容量;1 mL/kg、溶媒;生理食塩水)を大腿静脈に固定したカテーテルより急速静注した。被験薬物の投与5分後から再度cystometryを2回行い、2回目の排尿をCys-3とした。被験薬物投与前(プレ;Cys-1とCys-2の平均値)に対する被験薬物投与後(Cys-3)の膀胱容量の比率を算出することにより、膀胱容量増大作用を評価した。その結果、イミダフェナシン及び塩酸オキシブチニンの投与により膀胱容量が増大した(図8図9図10)。
【0027】
(実施例2)イミダフェナシン及び塩酸オキシブチニンの排尿機能への作用
(1) 使用動物
種:ラット 系統: Sprague-Dawley 性別:雌 供給源:日本チャールス・リバー株式会社 週齢:10〜11週齢
(2)方法
Sprague-Dawleyラットの背部皮下にウレタン溶液(溶媒;生理食塩水)を投与し(1.2 g/kg、投与容量;5 mL/kg)、麻酔を施した。麻酔下で頸静脈及び大腿静脈に生理食塩水を充填したカテーテル(PE-50、日本ベクトンディッキンソン株式会社製)を挿入・固定後、切開部を縫合した。腹部を切開し、膀胱を露出させ、膀胱頂部に生理食塩水を充填したカテーテルを挿入・固定した。恥骨を切開し、尿道を剥離した。膀胱頂部に固定したカテーテルに三方活栓をつなぎ、一端はシリンジポンプ(PHD2000:ハーバード社製)に接続し、生理食塩水を注入する経路とした。もう一端は膀胱内圧を記録するため圧トランスデューサー(DX-300:日本光電社製)に接続した。膀胱内圧はひずみ圧力用アンプ(AP-621G:日本光電社製)、尿流量は流量計(TS420:トランソニックシステム社製)を介し、さらにPowerLabシステム(ML870/P PowerLab8/30:ADInstruments社製)を介してデータを取得した。術後30分以上の回復期間を置いた後、膀胱頂部に固定したカテーテルよりシリンジポンプを用いて0.06 mL/minの流量で生理食塩水を注入した。排尿反射が確認できたら尿流量測定用プローブを尿道に設置し固定した。続けて排尿反射が確認できたらA61603溶液(30 ng/kg/min、溶媒;生理食塩水)を頸静脈カテーテルよりシリンジポンプ(Model 11:ハーバード社製)を用いて0.6 mL/hの流量で持続注入した。再度排尿反射が確認できたらシリンジポンプに接続したカテーテルを外し、膀胱内に残留した生理食塩水を排出した。10分後に再び膀胱内に生理食塩水を注入し、今度は排尿した時点でカテーテルを外し、膀胱内に残留する生理食塩水(以下、残尿)を排出した(intermittent cystometry)。残尿は5分間回収した。10分間インターバルでintermittent cystometryを繰り返し行い、2回連続して安定した最大尿流量(Qmax)が得られたら(それぞれCys-1、Cys-2とし、Cys-2のQmaxがCys-1の±15%以内)、Cys-2の排尿から5分後に被験薬物(イミダフェナシン0.003-0.1 mg/kg、オキシブチニン 0.1-10 mg/kg、投与容量;1 mL/kg、溶媒;生理食塩水)を大腿静脈に固定したカテーテルより急速静注した。投与5分後から再度cystometryを2回行い、2回目の排尿をCys-3とした。Cys-1とCys-2のQmaxの平均値とCys-3のQmaxを比較することにより、被験薬物投与による排尿機能への作用を検討した。その結果、イミダフェナシン及び塩酸オキシブチニンの投与によりQmaxが低下した(図5図6図7)。
【0028】
(実施例3)イミダフェナシン及び塩酸オキシブチニンの排尿困難リスクの検討
イミダフェナシンと塩酸オキシブチニンのQmaxへの影響は、それぞれ0.03 mg/kg及び1 mg/kgで、一方、膀胱容量増大作用はそれぞれ0.01 mg/kg及び1 mg/kgで同程度であった(図7図10)。両薬物の薬効と排尿機能に対する影響の効力比から、イミダフェナシンは塩酸オキシブチニンに比較して、排尿困難になるリスクが低い可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、同種の動物(ラット)で、抗ムスカリン様作用を有する薬物の膀胱容量増大作用(薬効)と排尿機能への作用(副作用)を測定することが可能となり、抗ムスカリン様作用を有する薬物の排尿困難リスク(安全域)を確認する上で有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10