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  • 特開2015000351-義歯を製作する方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-351(P2015-351A)
(43)【公開日】2015年1月5日
(54)【発明の名称】義歯を製作する方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/10 20060101AFI20141202BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20141202BHJP
【FI】
   A61C5/10
   A61C13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-123337(P2014-123337)
(22)【出願日】2014年6月16日
(31)【優先権主張番号】10 2013 211 154.1
(32)【優先日】2013年6月14日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】399011900
【氏名又は名称】ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】カール−ハインツ レンツ
(72)【発明者】
【氏名】ノヴィツァ サヴィチ
【テーマコード(参考)】
4C059
【Fターム(参考)】
4C059RR05
4C059RR15
4C059RR19
(57)【要約】
【課題】義歯床への人工歯の嵌込みのために、人工歯の基底側の研削がもはや行われる必要がなく、また、義歯の望ましい視覚的な印象と機能性とを得るために、義歯の後加工も行われる必要がない、義歯を製作する方法を提供し、さらに、可能な限り全ての所望の材料が使用可能となり、望ましくない方向特性によって人工歯が弱化されないようにする。
【解決手段】1つの義歯床4と複数の人工歯残根6とをCADモデルの使用により製作し、人工歯残根6のCADモデルの作成時に、予め製作された被覆冠8の厚さを考慮し、被覆冠8を人工歯残根6に固定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯を製作する方法において、1つの義歯床(4)と複数の人工歯残根(6)とをCADモデルの使用により製作し、人工歯残根(6)のCADモデルの作成時に、予め製作された被覆冠(8)の厚さを考慮し、被覆冠(8)を人工歯残根(6)に固定することを特徴とする、義歯を製作する方法。
【請求項2】
好適には、人工歯残根(6)をCADモデルから所望の軸方向の長さで、特に好適には1回のCAM法を用いて製作することにより、CADモデルの人工歯残根(6)の軸方向の長さを被覆冠(8)の厚さに関連して調整する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
人工歯残根(6)のCADモデルの作成時、好ましくは人工歯残根(6)の冠側の表面(14)の仮想のCADモデルの作成時に、被覆冠(8)の結合面(12)の形状を考慮する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
製作される人工歯残根(6)の軸方向の長さを、被覆冠(8)の厚さと、義歯床(4)の支持面に対する義歯の咬合平面(10)の所望の位置とにより決定する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、実行順に並べられた以下のステップ:すなわち、
A)患者の口腔内の口腔状況を記録し、所望の咬合平面(10)の位置を決定し;
B)記録された口腔状況と所望の咬合平面(10)の位置とをデジタル化し;
C)義歯床(4)と複数の人工歯残根(6)との仮想のCADモデルを作成し、口腔状況をベースとして義歯床(4)の仮想のCADモデルの支持面を決定し;
D)CADモデルをベースとして1つの義歯床(4)と複数の人工歯残根(6)とを製作し;
E)人工歯残根(6)に被覆冠(8)を固定する:
を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
口腔状況として、少なくとも上顎(1)および/または下顎(2)の顎堤表面の形状ならびに咬合平面(10)に対する顎堤表面の位置を記録しかつデジタル化し、デジタル化された顎堤表面から義歯床(4)の仮想のCADモデルの支持面を算出する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
人工歯残根(6)をCADモデルをベースとして1回のCAM法を用いて製作し、被覆冠(8)を、該被覆冠(8)に対して設けられた人工歯残根(6)に固定、好ましくは接着する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
義歯床(4)と人工歯残根(6)とを互いに別体の部材として、それぞれ別々のCADモデルにより製作し、製作された人工歯残根(6)を、製作された義歯床(4)に固定、好適には接着固定する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
それぞれ上顎(1)用の義歯床(4)と下顎(2)用の義歯床(4)とを、互いに等しい咬合平面(10)をベースとして製作し、義歯を上顎(1)用の義歯部分と下顎(2)用の義歯部分とにより製作する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
被覆冠(8)によって、人工歯残根(6)を咬合側で完全に被覆し、好適には咬合側でかつ頬側で完全に被覆し、特に好適には隣接側で少なくとも部分的に被覆する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
義歯床(4)および/または人工歯残根(6)をプラスチック、好適にはPMMAから製作する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
被覆冠(8)の結合面(12)が、指標付けられた構造化部を有しており、人工歯残根(6)の、被覆冠(8)の結合面(12)に対して設けられた表面(14)が、前記指標付けられた構造化部に適合する指標付けられた構造化部を有しており、好適には、人工歯残根(6)を、このような適合する指標付けられた構造化部を備えて製作し、被覆冠(8)を人工歯残根(6)に対して位置決めして、被覆冠(8)と人工歯残根(6)とを、指標付けられて構造化された表面を介して互いに接合する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
特に請求項1から12までのいずれか1項記載の方法により製作された義歯において、複数の人工歯残根(6)が、1つの義歯床(4)に固定されているかまたは義歯床(4)と一体に形成されており、少なくとも1つの人工歯残根(6)、好適には各人工歯残根(6)に冠側で被覆冠(8)が固定されていることを特徴とする、義歯。
【請求項14】
被覆冠(8)が、セラミックスから成っているかまたはプラスチック、好適にはPMMAから成っている、請求項13記載の義歯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯を製作する方法および義歯に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯は、無歯の顎または部分的に無歯の顎において歯の代用をするために役立ち、これによって、患者の口の咀嚼機能を少なくとも可能な限り良好に回復させ、顔、特に口の審美的な全体印象を改善する。
【0003】
現在、義歯は一般的にアナログ式に製作される。この場合、歯が手で個々に蝋基礎に配列される。この蝋補綴物は、次のステップにおいてキュベット内で石膏により埋没され、次いで、この石膏の硬化後に蝋基礎が熱湯で洗い出され、補綴物用プラスチックに対する中空室が提供される。
【0004】
このとき、歯は石膏内に残されている。中空室内に、相応の(PMMA)プラスチックが射出されるかまたは「詰め込まれ」、プラスチックの硬化後、完成した義歯床が得られる。既製された人工歯を義歯床に配列する場合には、この人工歯が、歯科技工士によって患者の各口腔状況に適合され、研削される。
【0005】
義歯を製作する場合の主要な問題は、義歯床に対する人工歯の位置決めである。このために、一般的には、義歯床に、正確に嵌合する窪みが設けられているかまたは形成されており、その後、製作された歯が接着固定される。しかし、このことは、十分なスペースが存在していて、人工歯が、下側(基底側)から研削もしくは研削除去される必要がない場合にしか機能しない。むしろ、これは例外である。なぜならば、たいていの場合には、スペースの理由から、人工歯が研削されなければならないからである。つまり、人工歯の軸方向の長さは、たいてい、最適な咬合平面(口を閉じた際に上顎および下顎の歯もしくは人工歯が互いに接触する平面)を形成するために適合されなければならないからである。しかし、このような場合、人工歯は、たいてい、義歯床に予め形成された窪みにもはや嵌合しない。
【0006】
最近では、義歯を局部床義歯または総義歯としてデジタル式に配列し、CAD法(「Computer Aided Design」法)によって生産することが公知である。国際公開第2012/152735号に基づき、読み込まれた表面スキャンによって、三次元のCADモデルに対するデータセットを作成し、このCADモデルをベースとして人工的な歯を1回のCAM法(「Computer Aided Manufacturing」法)によって形成することにより、人工的な歯を製作する方法が公知である。
【0007】
このことには、1回のCAM法で製作された人工歯の場合、この人工歯の更なる後加工ステップ、たとえば研摩および着色を行わないと、審美的な印象が最適ではないという欠点がある。さらに、人工歯の粗い表面は、食べ滓の付着を促進してしまう。また、CAM法では、たいてい層状の構造によって、人工歯の望ましくない物理的な方向特性も生じる。さらに、(たとえば3Dプリンタによる)CAM法では、材料の選択が制限されていて、たとえば、自然な歯の視覚的な印象を最も容易に形成しかつ自然な歯の機能性に相当する、特に硬質で僅かに透明な材料、たとえばセラミックスを使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2012/152735号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、本発明の課題は、公知先行技術の欠点を克服することにある。特に本発明の目的は、義歯床への人工歯の嵌込みのために、人工歯の基底側の研削がもはや行われる必要がなく、また、義歯の望ましい視覚的な印象と機能性とを得るために、義歯の後加工も行われる必要がない、義歯を製作する方法および義歯を提供することである。さらに、本発明の目的は、可能な限り全ての所望の材料が使用可能となり、望ましくない方向特性によって人工歯が弱化されないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明に係る方法では、1つの義歯床と複数の人工歯残根とをCADモデルの使用により製作し、人工歯残根のCADモデルの作成時に、予め製作された被覆冠の厚さを考慮し、被覆冠を人工歯残根に固定する。
【0011】
本発明に係る方法の好ましい態様では、好適には、人工歯残根をCADモデルから所望の軸方向の長さで、特に好適には1回のCAM法を用いて製作することにより、CADモデルの人工歯残根の軸方向の長さを被覆冠の厚さに関連して調整する。
【0012】
本発明に係る方法の好ましい態様では、人工歯残根のCADモデルの作成時、好ましくは人工歯残根の冠側の表面の仮想のCADモデルの作成時に、被覆冠の結合面の形状を考慮する。
【0013】
本発明に係る方法の好ましい態様では、製作される人工歯残根の軸方向の長さを、被覆冠の厚さと、義歯床の支持面に対する義歯の咬合平面の所望の位置とにより決定する。
【0014】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記方法が、実行順に並べられた以下のステップ:すなわち、
A)患者の口腔内の口腔状況を記録し、所望の咬合平面の位置を決定し;
B)記録された口腔状況と所望の咬合平面の位置とをデジタル化し;
C)義歯床と複数の人工歯残根との仮想のCADモデルを作成し、口腔状況をベースとして義歯床の仮想のCADモデルの支持面を決定し;
D)CADモデルをベースとして1つの義歯床と複数の人工歯残根とを製作し;
E)人工歯残根に被覆冠を固定する:
を有している。
【0015】
本発明に係る方法の好ましい態様では、口腔状況として、少なくとも上顎および/または下顎の顎堤表面の形状ならびに咬合平面に対する顎堤表面の位置を記録しかつデジタル化し、デジタル化された顎堤表面から義歯床の仮想のCADモデルの支持面を算出する。
【0016】
本発明に係る方法の好ましい態様では、人工歯残根をCADモデルをベースとして1回のCAM法を用いて製作し、被覆冠を、該被覆冠に対して設けられた人工歯残根に固定、好ましくは接着する。
【0017】
本発明に係る方法の好ましい態様では、義歯床と人工歯残根とを互いに別体の部材として、それぞれ別々のCADモデルにより製作し、製作された人工歯残根を、製作された義歯床に固定、好適には接着固定する。
【0018】
本発明に係る方法の好ましい態様では、それぞれ上顎用の義歯床と下顎用の義歯床とを、互いに等しい咬合平面をベースとして製作し、義歯を上顎用の義歯部分と下顎用の義歯部分とにより製作する。
【0019】
本発明に係る方法の好ましい態様では、被覆冠によって、人工歯残根を咬合側で完全に被覆し、好適には咬合側でかつ頬側で完全に被覆し、特に好適には隣接側で少なくとも部分的に被覆する。
【0020】
本発明に係る方法の好ましい態様では、義歯床および/または人工歯残根をプラスチック、好適にはPMMAから製作する。
【0021】
本発明に係る方法の好ましい態様では、被覆冠の結合面が、指標付けられた構造化部を有しており、人工歯残根の、被覆冠の結合面に対して設けられた表面が、前記指標付けられた構造化部に適合する指標付けられた構造化部を有しており、好適には、人工歯残根を、このような適合する指標付けられた構造化部を備えて製作し、被覆冠を人工歯残根に対して位置決めして、被覆冠と人工歯残根とを、指標付けられて構造化された表面を介して互いに接合する。
【0022】
さらに、前述した課題を解決するために、本発明に係る義歯では、複数の人工歯残根が、1つの義歯床に固定されているかまたは義歯床と一体に形成されており、少なくとも1つの人工歯残根、好適には各人工歯残根に冠側で被覆冠が固定されている。
【0023】
本発明に係る義歯の好ましい態様では、被覆冠が、セラミックスから成っているかまたはプラスチック、好適にはPMMAから成っている。
【発明の効果】
【0024】
前述した課題は、義歯を製作する方法において、1つの義歯床と複数の人工歯残根とをCADモデルの使用により製作し、人工歯残根のCADモデルの作成時に、予め製作された被覆冠の厚さを考慮し、被覆冠を人工歯残根に固定することによって解決される。
【0025】
本発明によれば、義歯床と人工歯残根とは一体に製作されてもよい。しかし、好適には、人工歯残根が義歯床と別個に製作され、追補的にこの義歯床に嵌め込まれ、好適には接着固定される。人工歯残根の軸方向の長さは、予め製作された人工歯残根の、義歯床に向けられた面または反対の側に位置する冠側の面での短縮加工、特に研削または切削によって調整することができる。この場合、人工歯残根のCADモデルのためには、すでに、人工歯残根の軸方向の長さだけがモデリングされれば十分である。しかし、本発明によれば、少なくとも人工歯残根の軸方向の長さがモデリングされなければならない。
【0026】
このためには、人工歯残根の外側の形状が公知であり、設定されていることが望ましく、人工歯残根の冠側の表面が各被覆冠に適合しなければならない。この場合には、人工歯残根のCADモデルは一次元のCADモデルである。なぜならば、CADモデルが、人工歯残根の軸方向の長さしかモデリングしていないからである。その後、予め製作された人工歯残根の短縮加工が、本発明により好適にコンピュータ支援されて1回のCAM法によって行われる。
【0027】
択一的には、所望の軸方向の長さを有する人工歯残根が、完全に人工歯残根の三次元のCADモデルから1回のCAM法によって製作されてもよい。
【0028】
歯学に基づき公知の歯に対する方向記載は、これ以前および以後において人工歯残根に対しても用いられる。
【0029】
被覆冠の厚さは、咬合面と人工歯残根の冠側の支持面(人工歯残根と被覆冠とを結合するための結合面)との間の被覆冠の材料厚さに関連している。
【0030】
上顎用のかつ下顎用の完全な義歯のためには、それぞれ複数の人工歯残根を備えた2つの義歯床が製作される。
【0031】
本発明に係る方法では、好適には、人工歯残根をCADモデルから所望の軸方向の長さで、特に好適には1回のCAM法を用いて製作することにより、CADモデルの人工歯残根の軸方向の長さを被覆冠の厚さに関連して調整することが提案されていてよい。
【0032】
予め製作された被覆冠の使用下でも所望の咬合平面を実現するためには、すでに、これで十分である。この場合、本発明に係る方法は、より大きな演算手間なしに特に簡単に実施することができる。
【0033】
本発明の更なる改良態様によって、人工歯残根のCADモデルの作成時、好ましくは人工歯残根の冠側の表面の仮想のCADモデルの作成時に、被覆冠の結合面の形状を考慮することが提案される。
【0034】
被覆冠の結合面は、被覆冠を人工歯残根に結合するために設けられている。被覆冠の結合面は、被覆冠の咬合面と反対の側に位置している。
【0035】
被覆冠に対する人工歯残根の全ての冠側の表面は、本発明によれば、人工歯残根の三次元のCADモデルにおいて冠側の表面として確定することができる。なぜならば、人工歯残根に対する予め製作された被覆冠の結合面が確定されていて、公知であるからである。このためには、結合面の三次元の表面のデータが電子的に記憶されていて、3D−CADモデルに含められてよい。さらに、本発明によれば、人工歯残根への被覆冠の結合のために必要となる接着層厚さが考慮されてよい。
【0036】
このような方法が、必要となる演算性能に関して幾分手間を要する場合でも、このような方法によって、予め製作された製品を倉庫管理する必要なしに、ほぼ完全なかつほぼ完成した義歯を十分に自動的に簡単に印刷、つまり、積層造形することができる。
【0037】
本発明に係る方法の更なる改良態様によって、製作される人工歯残根の軸方向の長さを、被覆冠の厚さと、義歯床の支持面に対する義歯の咬合平面の所望の位置とにより決定することが提案される。
【0038】
上顎および下顎の顎堤に対して相対的な咬合平面の所望の位置を考慮することによって、人工歯残根の軸方向の長さを極めて正確に決定することができ、これによって、形成される義歯が極めて正確に製作可能となる。
【0039】
本発明に係る方法の特に好適な態様は、実行順に並べられた以下のステップ:すなわち、
A)患者の口腔内の口腔状況を記録し、所望の咬合平面の位置を決定し;
B)記録された口腔状況と所望の咬合平面の位置とをデジタル化し;
C)義歯床と複数の人工歯残根との仮想のCADモデルを作成し、口腔状況をベースとして義歯床の仮想のCADモデルの支持面を決定し;
D)CADモデルをベースとして1つの義歯床と複数の人工歯残根とを製作し;
E)人工歯残根に被覆冠を固定する:
を有している。
【0040】
これによって、義歯を製作する完全な方法が記載される。
【0041】
口腔状況として、少なくとも上顎および/または下顎の顎堤表面の形状ならびに咬合平面に対する顎堤表面の位置を記録しかつデジタル化し、デジタル化された顎堤表面から義歯床の仮想のCADモデルの支持面を算出することが提案されていてよい。
【0042】
また、本発明に係る方法では、人工歯残根をCADモデルをベースとして、好適には1回のCAM法を用いて製作し、被覆冠を、この被覆冠に対して設けられた人工歯残根に固定、好ましくは接着することが提案されていてもよい。
【0043】
これによって、本発明に係る義歯の製作が簡単になる。
【0044】
義歯床と人工歯残根とを互いに別体の部材として、それぞれ別々のCADモデルにより製作し、製作された人工歯残根を、製作された義歯床に固定、好適には接着固定することが提案されていてよい。
【0045】
この態様では、人工歯残根および義歯床の追補的な加工が可能となる。さらに、人工歯残根と義歯床とを互いに異なる適正な材料から製作することができる。
【0046】
本発明に係る更なる改良態様によって、それぞれ上顎用の義歯床と下顎用の義歯床とを、互いに等しい咬合平面をベースとして製作し、義歯を上顎用の義歯部分と下顎用の義歯部分とにより製作することが提案される。
【0047】
これによって、本発明に係る方法が簡単に実現可能となり、不要なステップを回避する。
【0048】
さらに、被覆冠によって、人工歯残根を咬合側で完全に被覆し、好適には咬合側でかつ頬側で完全に被覆し、特に好適には隣接側で少なくとも部分的に被覆することが提案されていてよい。
【0049】
こうして、被覆冠が人工歯残根を保護し、良好な審美的な全体印象のために役立つ。
【0050】
また、義歯床および/または人工歯残根をプラスチック、好適にはPMMAから製作することが提案されていてもよい。
【0051】
プラスチックは良好に加工することができ、最新のCAM法を用いて良好に変換可能である。
【0052】
本発明の更なる改良態様によれば、被覆冠の結合面が、指標付けられた構造化部を有しており、人工歯残根の、被覆冠の結合面に対して設けられた表面が、結合面の指標付けられた構造化部に適合する指標付けられた構造化部を有しており、好適には、人工歯残根を、このような適合する指標付けられた構造化部を備えて製作し、被覆冠を人工歯残根に対して位置決めして、被覆冠と人工歯残根とを、指標付けられて構造化された表面を介して互いに接合することが提案されていてよい。
【0053】
これによって、被覆冠が、誤った人工歯残根に装着されることを回避することができ、また、被覆冠が、誤った向きで人工歯残根に固定されることを回避することができる。
【0054】
本発明の根底にある前述した課題は、義歯において、複数の人工歯残根が、1つの義歯床に固定されているかまたは義歯床と一体に形成されており、少なくとも1つの人工歯残根、好適には各人工歯残根に冠側で被覆冠が固定されていることによっても解決される。
【0055】
好適には、義歯が、本発明に係る方法によって製作される。
【0056】
また、被覆冠が、セラミックスから成っているかまたはプラスチック、好適にはPMMAから成っていることが提案されていてもよい。
【0057】
好適には、1つの被覆冠が1つの人工歯残根に接着されているかもしくは複数の被覆冠が複数の人工歯残根に接着されている。
【0058】
本発明に係る全ての義歯には、これらの義歯が、好適には、本発明に係る方法の対象の装置特徴と、方法ステップから得られる装置特徴とを有していてもよいことが当てはまる。
【0059】
本発明の根底には、被覆冠の使用と、被覆冠の寸法および好適には被覆冠の形状の考慮とによって、義歯床に人工歯残根を装着しさえすればよく、次いで、この人工歯残根に被覆冠を装着することができるという驚くべき知見がある。この被覆冠の使用によって、義歯の審美的な印象を改善することができ、全く一般的には、材料の選択に際して、1回のCAM法で完全に製作される補綴物に比べて大きな自由度がある。しかも、本発明に係る方法によって、CAD/CAM法での義歯の製作の利点を同時に利用することもできる。これによって、迅速に提供される精密な義歯を廉価に製作することが可能となり、しかも、審美性および材料の物理的な特性(たとえば大きな硬さおよび少ない表面粗さもしくは平滑な表面)に課せられる高い要求も同時に満たすことができる。
【0060】
この原理は、局部床義歯および総義歯のデジタル式の製作時に、歯の配列に関して最大のフレキシビリティを提供する。基底側で研削されなければならない典型的な既製歯は使用されない。審美性および咀嚼機能は、製作された肉薄の被覆冠を介して得られる。
【0061】
歯色(単色または多色)が粗い人工歯残根は、CAD法を介して設計され、CAM(ミリングまたは造形)によって生産される。その際、スペース状況は個別に考慮されてよい。第2のステップでは、既製された肉薄の被覆冠が、予め製作された人工歯残根に差し被せられ、この人工歯残根に接着される。両エレメントの間の結合は、たとえば、人工歯残根に設けられた正確に規定された小さな窪みもしくは被覆冠への人工歯残根の対応部分を介して、LEGO原理に類似して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本発明に係る方法により製作された本発明に係る義歯を使用している患者の顎および口腔の概略的な横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下に、本発明の実施の形態を概略図に基づき説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。図1には、本発明に係る方法により製作された本発明に係る義歯を使用している患者の顎および口腔の概略的な横断面図が示してある。
【0064】
患者のうち、無歯の上顎1と無歯の下顎2とを認めることができ、また、口腔内の患者の舌3も図示してある。歯弓には、2つの部分から成る義歯が装着されている。両義歯部分の基礎は、主として、無歯の顎弓に装着されている上顎1用のかつ下顎2用のそれぞれ1つの義歯床4から成っている。この義歯床4には、人工歯残根6のための切欠きが配置されている。この切欠きは人工歯残根6で塞がれている。この人工歯残根6は義歯床4の切欠き内に接着固定されている。
【0065】
人工歯残根6には、硬質のプラスチックから成る被覆冠8が配置されている。この被覆冠8は、義歯の人工歯の咬合面を形成している。図1には、臼歯の人工歯が示してある。被覆冠8は上側でその咬合面(人工臼歯の場合には咀嚼面)によって画定されている。全ての咬合面の最適な位置から、両義歯部分の所望の咬合平面10が明らかとなる。被覆冠8は、咬合平面10と反対の側に結合面12を有している。この結合面12で被覆冠8は人工歯残根6の冠側の面14に接着によって固定される。この冠側の面14は構造化されている。また、被覆冠8の結合面12も構造化されていて、人工歯残根6の冠側の表面14の陰型を形成しており、これによって、被覆冠8が人工歯残根6に面状に隙間なく結合されているかもしくは結合可能となる。
【0066】
結合面12と冠側の表面14との構造化によって、1つには、人工歯残根6への被覆冠8のより安定した結合を達成することができる。もう1つには、構造化によって、被覆冠8が、誤った人工歯残根6に固定されてしまうことを阻止すると共に被覆冠8が、誤った向きで人工歯残根6に固定されてしまうことを阻止する指標を設ける可能性が提供される。
【0067】
所望の最適な咬合平面10は、義歯の製作前に公知の方法によって求められる。たとえば、口腔自体または口腔の印象を光学的にスキャニングして、デジタル化することができる。その際、上顎1と下顎2との間の所望の間隔が、公知の観点に従って調整される。天然歯を備えた残存歯列がまだ存在している場合には、これらの天然歯を所望の咬合平面10の決定ために使用することができる。
【0068】
口腔スキャンもしくは顎堤の三次元の表面のデータは、義歯床4の2つのCADモデルを形成するために使用される。この場合、義歯床4における人工歯残根6のための切欠きもすでに決定される。
【0069】
患者に適した被覆冠8は、既製された多数の被覆冠8から選択されてもよいし、製作されてもよい。被覆冠8の結合面12は公知であり、三次元のデータとしてコンピュータに記憶されている。理論的には、被覆冠8の結合面12が三次元の表面としてスキャニングされ、デジタル化され、人工歯残根6の冠側の表面の算出のために利用されてもよい。また、被覆冠8の厚さも公知であるかまたは求められ、データセットとして記憶されている。人工歯残根6の位置と、被覆冠8の結合面12の形状と、上顎1および下顎2の顎堤に対して相対的な咬合平面10の所望の位置とから、1回のCAD法によって、人工歯残根6の外側の形状が算出される。こうして、義歯床4に対するCADモデルに加えて、人工歯残根6に対するCADモデルも得られる。
【0070】
複数のCADモデルを用いて、義歯床4と人工歯残根6とが1回のCAM法によって製作される。義歯床4と人工歯残根6とは、たとえばコンピュータ制御される多軸ミリングマシンによって中実の物体からミリングすることができる。しかし、好適には、義歯床4と人工歯残根6とが3Dプリンタによって印刷、つまり、積層造形され、直接PMMA(ポリメチルメタクリレート)から製作される。その際、義歯床4が歯肉の色で製作されるのに対して、人工歯残根6は白いまたは白っぽい色調を獲得する。
【0071】
次いで、人工歯残根6が義歯床4に接着固定された後、被覆冠8が、この被覆冠8に対して設けられた人工歯残根6に接着される。択一的には、人工歯残根6が義歯床4と直接一体に製作もしくは積層造形されてもよく、これによって、部材同士の結合時の欠陥が回避されるかもしくは作業ステップが節約される。
【0072】
被覆冠8は、所望の材料特性および所望の着色ならびに適切な視覚的な特性(たとえば可能な限り自然な外観を作り出すための僅かな透明度)を有している。
【0073】
接着剤の乾燥後、義歯は完成し、これを使用することができる。さらに、咬合面に関する人工歯のより小さな欠損位置は、咬合面での被覆冠8の少量の研削除去によって後調整することができる。しかし、義歯床4と人工歯残根6とを製作するためのCAD/CAM法は極めて正確であるので、多くとも少量が研削されさえすればよい。
【0074】
前述した説明ならびに特許請求の範囲、図面および実施の形態に開示した本発明の複数の特徴は、単独でも、あらゆる任意の組合せでも、本発明の種々異なる実施の形態を実現するために重要である。
【符号の説明】
【0075】
1 上顎
2 下顎
3 舌
4 義歯床
6 人工歯残根
8 被覆冠
10 咬合平面
12 構造化部を備えた被覆冠の結合面
14 構造化部を備えた人工歯残根の冠側の表面
図1