【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明に係る方法では、1つの義歯床と複数の人工歯残根とをCADモデルの使用により製作し、人工歯残根のCADモデルの作成時に、予め製作された被覆冠の厚さを考慮し、被覆冠を人工歯残根に固定する。
【0011】
本発明に係る方法の好ましい態様では、好適には、人工歯残根をCADモデルから所望の軸方向の長さで、特に好適には1回のCAM法を用いて製作することにより、CADモデルの人工歯残根の軸方向の長さを被覆冠の厚さに関連して調整する。
【0012】
本発明に係る方法の好ましい態様では、人工歯残根のCADモデルの作成時、好ましくは人工歯残根の冠側の表面の仮想のCADモデルの作成時に、被覆冠の結合面の形状を考慮する。
【0013】
本発明に係る方法の好ましい態様では、製作される人工歯残根の軸方向の長さを、被覆冠の厚さと、義歯床の支持面に対する義歯の咬合平面の所望の位置とにより決定する。
【0014】
本発明に係る方法の好ましい態様では、前記方法が、実行順に並べられた以下のステップ:すなわち、
A)患者の口腔内の口腔状況を記録し、所望の咬合平面の位置を決定し;
B)記録された口腔状況と所望の咬合平面の位置とをデジタル化し;
C)義歯床と複数の人工歯残根との仮想のCADモデルを作成し、口腔状況をベースとして義歯床の仮想のCADモデルの支持面を決定し;
D)CADモデルをベースとして1つの義歯床と複数の人工歯残根とを製作し;
E)人工歯残根に被覆冠を固定する:
を有している。
【0015】
本発明に係る方法の好ましい態様では、口腔状況として、少なくとも上顎および/または下顎の顎堤表面の形状ならびに咬合平面に対する顎堤表面の位置を記録しかつデジタル化し、デジタル化された顎堤表面から義歯床の仮想のCADモデルの支持面を算出する。
【0016】
本発明に係る方法の好ましい態様では、人工歯残根をCADモデルをベースとして1回のCAM法を用いて製作し、被覆冠を、該被覆冠に対して設けられた人工歯残根に固定、好ましくは接着する。
【0017】
本発明に係る方法の好ましい態様では、義歯床と人工歯残根とを互いに別体の部材として、それぞれ別々のCADモデルにより製作し、製作された人工歯残根を、製作された義歯床に固定、好適には接着固定する。
【0018】
本発明に係る方法の好ましい態様では、それぞれ上顎用の義歯床と下顎用の義歯床とを、互いに等しい咬合平面をベースとして製作し、義歯を上顎用の義歯部分と下顎用の義歯部分とにより製作する。
【0019】
本発明に係る方法の好ましい態様では、被覆冠によって、人工歯残根を咬合側で完全に被覆し、好適には咬合側でかつ頬側で完全に被覆し、特に好適には隣接側で少なくとも部分的に被覆する。
【0020】
本発明に係る方法の好ましい態様では、義歯床および/または人工歯残根をプラスチック、好適にはPMMAから製作する。
【0021】
本発明に係る方法の好ましい態様では、被覆冠の結合面が、指標付けられた構造化部を有しており、人工歯残根の、被覆冠の結合面に対して設けられた表面が、前記指標付けられた構造化部に適合する指標付けられた構造化部を有しており、好適には、人工歯残根を、このような適合する指標付けられた構造化部を備えて製作し、被覆冠を人工歯残根に対して位置決めして、被覆冠と人工歯残根とを、指標付けられて構造化された表面を介して互いに接合する。
【0022】
さらに、前述した課題を解決するために、本発明に係る義歯では、複数の人工歯残根が、1つの義歯床に固定されているかまたは義歯床と一体に形成されており、少なくとも1つの人工歯残根、好適には各人工歯残根に冠側で被覆冠が固定されている。
【0023】
本発明に係る義歯の好ましい態様では、被覆冠が、セラミックスから成っているかまたはプラスチック、好適にはPMMAから成っている。
【発明の効果】
【0024】
前述した課題は、義歯を製作する方法において、1つの義歯床と複数の人工歯残根とをCADモデルの使用により製作し、人工歯残根のCADモデルの作成時に、予め製作された被覆冠の厚さを考慮し、被覆冠を人工歯残根に固定することによって解決される。
【0025】
本発明によれば、義歯床と人工歯残根とは一体に製作されてもよい。しかし、好適には、人工歯残根が義歯床と別個に製作され、追補的にこの義歯床に嵌め込まれ、好適には接着固定される。人工歯残根の軸方向の長さは、予め製作された人工歯残根の、義歯床に向けられた面または反対の側に位置する冠側の面での短縮加工、特に研削または切削によって調整することができる。この場合、人工歯残根のCADモデルのためには、すでに、人工歯残根の軸方向の長さだけがモデリングされれば十分である。しかし、本発明によれば、少なくとも人工歯残根の軸方向の長さがモデリングされなければならない。
【0026】
このためには、人工歯残根の外側の形状が公知であり、設定されていることが望ましく、人工歯残根の冠側の表面が各被覆冠に適合しなければならない。この場合には、人工歯残根のCADモデルは一次元のCADモデルである。なぜならば、CADモデルが、人工歯残根の軸方向の長さしかモデリングしていないからである。その後、予め製作された人工歯残根の短縮加工が、本発明により好適にコンピュータ支援されて1回のCAM法によって行われる。
【0027】
択一的には、所望の軸方向の長さを有する人工歯残根が、完全に人工歯残根の三次元のCADモデルから1回のCAM法によって製作されてもよい。
【0028】
歯学に基づき公知の歯に対する方向記載は、これ以前および以後において人工歯残根に対しても用いられる。
【0029】
被覆冠の厚さは、咬合面と人工歯残根の冠側の支持面(人工歯残根と被覆冠とを結合するための結合面)との間の被覆冠の材料厚さに関連している。
【0030】
上顎用のかつ下顎用の完全な義歯のためには、それぞれ複数の人工歯残根を備えた2つの義歯床が製作される。
【0031】
本発明に係る方法では、好適には、人工歯残根をCADモデルから所望の軸方向の長さで、特に好適には1回のCAM法を用いて製作することにより、CADモデルの人工歯残根の軸方向の長さを被覆冠の厚さに関連して調整することが提案されていてよい。
【0032】
予め製作された被覆冠の使用下でも所望の咬合平面を実現するためには、すでに、これで十分である。この場合、本発明に係る方法は、より大きな演算手間なしに特に簡単に実施することができる。
【0033】
本発明の更なる改良態様によって、人工歯残根のCADモデルの作成時、好ましくは人工歯残根の冠側の表面の仮想のCADモデルの作成時に、被覆冠の結合面の形状を考慮することが提案される。
【0034】
被覆冠の結合面は、被覆冠を人工歯残根に結合するために設けられている。被覆冠の結合面は、被覆冠の咬合面と反対の側に位置している。
【0035】
被覆冠に対する人工歯残根の全ての冠側の表面は、本発明によれば、人工歯残根の三次元のCADモデルにおいて冠側の表面として確定することができる。なぜならば、人工歯残根に対する予め製作された被覆冠の結合面が確定されていて、公知であるからである。このためには、結合面の三次元の表面のデータが電子的に記憶されていて、3D−CADモデルに含められてよい。さらに、本発明によれば、人工歯残根への被覆冠の結合のために必要となる接着層厚さが考慮されてよい。
【0036】
このような方法が、必要となる演算性能に関して幾分手間を要する場合でも、このような方法によって、予め製作された製品を倉庫管理する必要なしに、ほぼ完全なかつほぼ完成した義歯を十分に自動的に簡単に印刷、つまり、積層造形することができる。
【0037】
本発明に係る方法の更なる改良態様によって、製作される人工歯残根の軸方向の長さを、被覆冠の厚さと、義歯床の支持面に対する義歯の咬合平面の所望の位置とにより決定することが提案される。
【0038】
上顎および下顎の顎堤に対して相対的な咬合平面の所望の位置を考慮することによって、人工歯残根の軸方向の長さを極めて正確に決定することができ、これによって、形成される義歯が極めて正確に製作可能となる。
【0039】
本発明に係る方法の特に好適な態様は、実行順に並べられた以下のステップ:すなわち、
A)患者の口腔内の口腔状況を記録し、所望の咬合平面の位置を決定し;
B)記録された口腔状況と所望の咬合平面の位置とをデジタル化し;
C)義歯床と複数の人工歯残根との仮想のCADモデルを作成し、口腔状況をベースとして義歯床の仮想のCADモデルの支持面を決定し;
D)CADモデルをベースとして1つの義歯床と複数の人工歯残根とを製作し;
E)人工歯残根に被覆冠を固定する:
を有している。
【0040】
これによって、義歯を製作する完全な方法が記載される。
【0041】
口腔状況として、少なくとも上顎および/または下顎の顎堤表面の形状ならびに咬合平面に対する顎堤表面の位置を記録しかつデジタル化し、デジタル化された顎堤表面から義歯床の仮想のCADモデルの支持面を算出することが提案されていてよい。
【0042】
また、本発明に係る方法では、人工歯残根をCADモデルをベースとして、好適には1回のCAM法を用いて製作し、被覆冠を、この被覆冠に対して設けられた人工歯残根に固定、好ましくは接着することが提案されていてもよい。
【0043】
これによって、本発明に係る義歯の製作が簡単になる。
【0044】
義歯床と人工歯残根とを互いに別体の部材として、それぞれ別々のCADモデルにより製作し、製作された人工歯残根を、製作された義歯床に固定、好適には接着固定することが提案されていてよい。
【0045】
この態様では、人工歯残根および義歯床の追補的な加工が可能となる。さらに、人工歯残根と義歯床とを互いに異なる適正な材料から製作することができる。
【0046】
本発明に係る更なる改良態様によって、それぞれ上顎用の義歯床と下顎用の義歯床とを、互いに等しい咬合平面をベースとして製作し、義歯を上顎用の義歯部分と下顎用の義歯部分とにより製作することが提案される。
【0047】
これによって、本発明に係る方法が簡単に実現可能となり、不要なステップを回避する。
【0048】
さらに、被覆冠によって、人工歯残根を咬合側で完全に被覆し、好適には咬合側でかつ頬側で完全に被覆し、特に好適には隣接側で少なくとも部分的に被覆することが提案されていてよい。
【0049】
こうして、被覆冠が人工歯残根を保護し、良好な審美的な全体印象のために役立つ。
【0050】
また、義歯床および/または人工歯残根をプラスチック、好適にはPMMAから製作することが提案されていてもよい。
【0051】
プラスチックは良好に加工することができ、最新のCAM法を用いて良好に変換可能である。
【0052】
本発明の更なる改良態様によれば、被覆冠の結合面が、指標付けられた構造化部を有しており、人工歯残根の、被覆冠の結合面に対して設けられた表面が、結合面の指標付けられた構造化部に適合する指標付けられた構造化部を有しており、好適には、人工歯残根を、このような適合する指標付けられた構造化部を備えて製作し、被覆冠を人工歯残根に対して位置決めして、被覆冠と人工歯残根とを、指標付けられて構造化された表面を介して互いに接合することが提案されていてよい。
【0053】
これによって、被覆冠が、誤った人工歯残根に装着されることを回避することができ、また、被覆冠が、誤った向きで人工歯残根に固定されることを回避することができる。
【0054】
本発明の根底にある前述した課題は、義歯において、複数の人工歯残根が、1つの義歯床に固定されているかまたは義歯床と一体に形成されており、少なくとも1つの人工歯残根、好適には各人工歯残根に冠側で被覆冠が固定されていることによっても解決される。
【0055】
好適には、義歯が、本発明に係る方法によって製作される。
【0056】
また、被覆冠が、セラミックスから成っているかまたはプラスチック、好適にはPMMAから成っていることが提案されていてもよい。
【0057】
好適には、1つの被覆冠が1つの人工歯残根に接着されているかもしくは複数の被覆冠が複数の人工歯残根に接着されている。
【0058】
本発明に係る全ての義歯には、これらの義歯が、好適には、本発明に係る方法の対象の装置特徴と、方法ステップから得られる装置特徴とを有していてもよいことが当てはまる。
【0059】
本発明の根底には、被覆冠の使用と、被覆冠の寸法および好適には被覆冠の形状の考慮とによって、義歯床に人工歯残根を装着しさえすればよく、次いで、この人工歯残根に被覆冠を装着することができるという驚くべき知見がある。この被覆冠の使用によって、義歯の審美的な印象を改善することができ、全く一般的には、材料の選択に際して、1回のCAM法で完全に製作される補綴物に比べて大きな自由度がある。しかも、本発明に係る方法によって、CAD/CAM法での義歯の製作の利点を同時に利用することもできる。これによって、迅速に提供される精密な義歯を廉価に製作することが可能となり、しかも、審美性および材料の物理的な特性(たとえば大きな硬さおよび少ない表面粗さもしくは平滑な表面)に課せられる高い要求も同時に満たすことができる。
【0060】
この原理は、局部床義歯および総義歯のデジタル式の製作時に、歯の配列に関して最大のフレキシビリティを提供する。基底側で研削されなければならない典型的な既製歯は使用されない。審美性および咀嚼機能は、製作された肉薄の被覆冠を介して得られる。
【0061】
歯色(単色または多色)が粗い人工歯残根は、CAD法を介して設計され、CAM(ミリングまたは造形)によって生産される。その際、スペース状況は個別に考慮されてよい。第2のステップでは、既製された肉薄の被覆冠が、予め製作された人工歯残根に差し被せられ、この人工歯残根に接着される。両エレメントの間の結合は、たとえば、人工歯残根に設けられた正確に規定された小さな窪みもしくは被覆冠への人工歯残根の対応部分を介して、LEGO原理に類似して行われる。