【課題】摩擦撹拌接合に際して難接合材とされる、アルミニウム合金製鋳物や2000系、4000系、5000系及び7000系のアルミニウム合金材のうちの同種又は異種材質の二つの材料において、接合欠陥のない健全な接合部を有する接合製品を有利に得ることの出来る摩擦撹拌接合方法を提供すること。
【解決手段】第一の部材2と第二の部材4の被接合部位(突合せ部6)における接合開始端側の端面に、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金又は8000系アルミニウム合金からなる開始タブ材20を当接せしめ、かかる開始タブ材20を通じて、回転工具10のプローブ16が、それら2つの部材2,4の突合せ部6に進入するようにして、第一の部材2と第二の部材4との摩擦撹拌接合操作が施されるようにした。
アルミニウム合金製鋳物、2000系アルミニウム合金材、4000系アルミニウム合金材、5000系アルミニウム合金材、及び7000系アルミニウム合金材からなる群より選ばれた同種又は異種材質の第一の部材と第二の部材との接合部位を、回転工具におけるロッド状のプローブの軸方向に所定の間隔をおいて配した二つのショルダ部材にて挟圧しつつ、かかる回転工具の回転によって、それら二つのショルダ部材と共に回転せしめられる前記プローブを、接合方向に移動させることにより、前記第一の部材と前記第二の部材との接合部位を摩擦撹拌接合するに際し、
前記第一及び第二の部材の接合部位における接合開始端側の端面に、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、又は8000系アルミニウム合金からなる開始タブ材を当接せしめ、該開始タブ材を通じて、前記回転工具のプローブが、それら第一及び第二の部材の前記接合部位に進入するようにしたことを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
前記開始タブ材が、前記回転工具による前記第一及び第二の部材の接合方向において前記ショルダ部材の直径の4倍以上の長さを有していると共に、該接合方向に直角な方向において該ショルダ部材の直径の2倍以上の幅を有している板材である請求項1に記載の摩擦撹拌接合方法。
前記第一の部材と前記第二の部材とを突き合わせ、その突合せ部位に対して、前記摩擦撹拌接合が実施される請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の摩擦撹拌接合方法。
前記第一の部材と前記第二の部材とを重ね合わせ、その重合せ部位に対して、前記摩擦撹拌接合が実施される請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の摩擦撹拌接合方法。
前記回転工具が、前記プローブに対して、前記二つのショルダ部材を所定の間隔をおいて固定的に取り付けてなるボビンツールである請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の摩擦撹拌接合方法。
前記回転工具が、前記プローブに対して、前記二つのショルダ部材のうちの一方を固定し、他方を該プローブの軸方向に移動可能として、それら二つのショルダ部材の間隔が変更され得るようにしたセルフリアクティングツールである請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の摩擦撹拌接合方法。
前記第一の部材と前記第二の部材との接合部位における接合終了端側の端面に対して、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、又は8000系アルミニウム合金からなる終了タブ材を当接せしめ、前記回転工具のプローブが、前記第一及び第二の部材の接合部位から該終了タブ材に導かれて、前記摩擦撹拌接合が終了せしめられるようにした請求項1乃至請求項7の何れか一つに記載の摩擦撹拌接合方法。
前記終了タブ材が、前記回転工具による前記第一及び第二の部材の接合方向において前記ショルダ部材の直径の4倍以上の長さを有していると共に、該接合方向に直角な方向において該ショルダ部材の直径の2倍以上の幅を有している板材である請求項8に記載の摩擦撹拌接合方法。
【背景技術】
【0002】
近年、二つの部材の接合されるべき部位に回転工具(具体的には、プローブ乃至はピン)を回転させながら差し込み、摩擦熱を利用して材料を撹拌流動せしめることにより、それら被接合部材を溶融させることなく固相接合する摩擦撹拌接合方法(FSW)が、特表平7−505090号公報等において提案されて以来、接合部における熱の発生が通常の溶融溶接手法より少ないために、熱歪みが発生し難く、且つ溶融してから凝固するという溶融溶接手法特有の相変化を伴わず、固体状態で接合することが出来ることによる、接合部の健全性の点から、注目を受け、特にアルミニウム材料の接合において、かかる摩擦撹拌接合方法が採用される分野は、年々拡大してきている。例えば、自動車や鉄道車両等の輸送用車両構体の接合やIT機器筐体等の接合に、そのような摩擦撹拌接合手法を利用することにより、軽量化のフロントランナーであるアルミニウム材料の用途拡大に、多大な貢献が為されている。
【0003】
ところで、上記した摩擦撹拌接合方法に用いられる回転工具には、一般に、円柱状のショルダ部材の先端中心部に、プローブと称される所定長さの突起を配設してなる構造が採用されており、そこでは、回転工具のショルダ部材を軸心回りに回転させながら、そのプローブ先端を接合部位に差し込み、そしてショルダ部材のショルダ面による圧力を加えながら、線接合或いは点接合することからなる手法が採用され、先の特表平7−505090号公報にも、その手法が、明らかにされている。しかしながら、そのような構造を有する回転工具を用いた摩擦撹拌接合方式では、回転工具のプローブが差し込まれる接合部位の背面側に、定盤等の裏当てを配置して、かかる回転工具の押圧力を受け止めつつ、接合操作を進行させる必要があり、そうしないと、接合されるべき材料が回転工具の圧力にて変形して、接合出来なくなるという問題がある。それ故に、裏当ての配設が難しい中空部材の接合に、そのような摩擦撹拌接合手法を採用することは、困難であった。
【0004】
このため、そのような裏当てを必要としないツールとして、円柱状のショルダ部材(第一)から突設されたプローブの先端にも、かかるショルダ部材(第一)に対向する第二のショルダ部材を設けて、それら二つのショルダ部材にて、被接合部材の接合部位の表裏両面に、同時に、それらショルダ部材による圧力がそれぞれ作用するようにして、摩擦撹拌接合を進行せしめる回転工具が、提案されるに至っている。例えば、特開2003−154471号公報等においては、二つのショルダ部材がプローブにて固定的に連結せしめられてなる構造のツール、所謂ボビンツールを用いた摩擦撹拌接合方法が明らかにされており、また特開2003−181654号公報や特開2009−18312号公報等においては、二つのショルダ部材の何れか一方を、プローブに対して、その軸方向に移動可能に設けて、それら二つのショルダ部材間の間隔を変更し得るようにしたツール、所謂セルフリアクティングツールが提案されているのである。そして、この種の回転工具を用いることによって、裏当てなしで、中空材等を接合することが出来ることとなったことにより、摩擦撹拌接合手法の適用範囲が、更に拡大するに至っているのである。
【0005】
ところで、接合されるべき部材として用いられるアルミニウム材料の中でも、何れもメタルの摩擦撹拌が困難である、アルミニウム合金製鋳物や、それぞれJIS規格のアルミニウム合金名称である、2000系、4000系、5000系及び7000系のアルミニウム合金材は、摩擦撹拌作用によるメタルの流動性が充分でないところから、摩擦撹拌接合が容易ではない難接合材とされている。そして、そのために、そのようなアルミニウム材料を、上記したボビンツールやセルフリアクティングツールの如き、二つのショルダ部材を備えた回転工具を用いて摩擦撹拌接合すると、その接合の進行方向に対して回転工具の後方側へのメタルの回り込みが充分でないことによって、そのような接合操作によって形成される接合部(継手部)には、メタルが充填されない穴が発生したり、未接合部位や不完全接合部位等の欠陥が発生して、健全な接合部を形成することが出来なくなることに加えて、バリの発生が著しく、接合部の外観が悪化する等という不具合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、摩擦撹拌接合に際して難接合材とされる、アルミニウム合金製鋳物、2000系アルミニウム合金材、4000系アルミニウム合金材、5000系アルミニウム合金材、及び7000系アルミニウム合金材のうちの同種又は異種材質の二つの材料を用い、それらを、二つのショルダ部材を有する回転工具にて、摩擦撹拌接合せしめるに際して、接合欠陥のない健全な接合部を有する接合製品を有利に得ることの出来る手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、そのような課題を解決するために、アルミニウム合金製鋳物、2000系アルミニウム合金材、4000系アルミニウム合金材、5000系アルミニウム合金材、及び7000系アルミニウム合金材からなる群より選ばれた同種又は異種材質の第一の部材と第二の部材との接合部位を、回転工具におけるロッド状のプローブの軸方向に所定の間隔をおいて配した二つのショルダ部材にて挟圧しつつ、かかる回転工具の回転によって、それら二つのショルダ部材と共に回転せしめられる前記プローブを、接合方向に移動させることにより、前記第一の部材と前記第二の部材との接合部位を摩擦撹拌接合するに際し、前記第一及び第二の部材の接合部位における接合開始端側の端面に、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金又は8000系アルミニウム合金からなる開始タブ材を当接せしめ、該開始タブ材を通じて、前記回転工具のプローブが、それら第一及び第二の部材の前記接合部位に進入するようにしたことを特徴とする摩擦撹拌接合方法を、その要旨とするものである。
【0009】
なお、かかる本発明に従う摩擦撹拌接合方法の望ましい態様の一つによれば、前記開始タブ材は、前記回転工具による前記第一及び第二の部材の接合方向において前記ショルダ部材の直径の4倍以上の長さを有していると共に、該接合方向に直角な方向において該ショルダ部材の直径の2倍以上の幅を有している板材である。
【0010】
また、本発明に従う摩擦撹拌接合方法の望ましい態様の他の一つによれば、前記回転工具のプローブの直径は、前記開始タブ材の厚さの2倍以上とされている。
【0011】
さらに、本発明に従う摩擦撹拌接合方法は、例えば、前記第一の部材と前記第二の部材とを突き合わせ、その突合せ部位に対して実施される他、前記第一の部材と前記第二の部材とを重ね合わせ、その重合せ部位に対して実施されることとなる。
【0012】
更にまた、本発明において好適に用いられる回転工具としては、一般に、前記プローブに対して、前記二つのショルダ部材を所定の間隔をおいて固定的に取り付けてなるボビンツールがあり、或いは、前記プローブに対して、前記二つのショルダ部材のうちの一方を固定し、他方を該プローブの軸方向に移動可能として、それら二つのショルダ部材の間隔が変更され得るようにしたセルフリアクティングツールがある。
【0013】
そして、本発明にあっては、有利には、前記第一の部材と前記第二の部材との接合部位における接合終了端側の端面に対して、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、又は8000系アルミニウム合金からなる終了タブ材を当接せしめ、前記回転工具のプローブが、前記第一及び第二の部材の接合部位から該終了タブ材に導かれて、前記摩擦撹拌接合が終了せしめられるようにした構成が、追加的に採用されることとなる。
【0014】
なお、そのような本発明で追加的に採用される構成において、前記終了タブ材は、前記回転工具における前記第一及び第二の部材の接合方向において前記ショルダ部材の直径の4倍以上の長さを有していると共に、該接合方向に直角な方向において該ショルダ部材の直径の2倍以上の幅を有している板材であることが望ましい。
【0015】
また、そのような終了タブ材は、有利には、前記回転工具におけるプローブの直径の1/2以下の厚さとされている。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明にあっては、二つのショルダ部材を備えた回転工具を用いて、摩擦撹拌接合の容易でない所定のアルミニウム材料の接合部位を、摩擦撹拌接合する際に、かかる接合部位の接合開始端側の端面に、メタルの撹拌が容易な、JIS規格の1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、又は8000系アルミニウム合金からなる開始タブ材が当接せしめられて、かかる開始タブ材を通じて、回転工具のプローブが移動させられて、接合部位に進入せしめられるようになっているところから、摩擦撹拌接合の開始に伴ない、開始タブ材部位においては、回転工具の相対的な進行方向に対して回転工具よりも後方側へのメタルの流動が容易に実現され、そしてそのような回転工具の後方側へのメタルの回り込みが効果的に行なわれている状態下において、摩擦撹拌接合の容易でない所定のアルミニウム材料の被接合部位に、回転工具が移動せしめられる。
【0017】
そして、かかる摩擦撹拌接合の容易でない所定のアルミニウム材料の被接合部位においても、引き続き、そのような回転工具のプローブにて摩擦撹拌されることによって、かかる回転工具の相対的な進行方向に対して後方側にもメタルが効果的に回り込むようになるのであり、以て、回転工具の後方側に形成される接合部(継手部)には、メタルの充填不足による空所が形成されることなく、また未接合部位や不完全接合部位等の接合欠陥も生じることなく、摩擦撹拌接合操作が効果的に進行せしめられ得ることとなるのである。そして、これによって、穴や接合欠陥の発生が回避された健全な接合部を有する接合製品を有利に得ることが出来ることとなったのであり、また、そのようなメタルの撹拌が容易でない所定のアルミニウム材料の接合部位における、メタルの流動性の効果的な改善によって、余分なメタルがバリとして接合部位の表面に押し出されるような問題も、有利に解消され得ることとなったのである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る摩擦撹拌接合方法の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
先ず、
図1には、本発明に従う摩擦撹拌接合方法を実施する際における接合開始端側の一つの形態が、示されている。そこでは、第一の部材2と第二の部材4とが、それらの板状部において突き合わされて、その突合せ部6に対して、摩擦撹拌接合操作が施されるようにすることにより、それら第一及び第二の部材2,4を線接合せしめて、一体の接合製品が得られるようになっている。
【0021】
そこにおいて、被接合材たる第一及び第二の部材2,4は、それぞれ、別個に、難接合材たる、アルミニウム合金製鋳物や、JISにおけるアルミニウム合金呼称が2000系(Al−Cu系)、4000系(Al−Si系)、5000系(Al−Mg系)、及び7000系(Al−Zn−Mg系)であるアルミニウム合金材のうちの何れかからなるものであって、それら第一及び第二の部材2,4は、それぞれ、同種の材質であっても或いは異種材質であっても、何等差支えない。なお、アルミニウム合金製鋳物としては、JIS呼称でACの次に数字とアルファベットが付されてなる記号にて示されるアルミニウム合金を、通常の鋳造法にて鋳造して得られた板状部を有する鋳物や、JIS呼称でADCの次に数字が付されてなる記号にて表示されるアルミニウム合金を用いて、ダイカスト鋳造して得られる板状部を有する鋳物等が用いられることとなる。また、上記の2000系、4000系、5000系乃至7000系のアルミニウム合金材は、それぞれ、圧延板材や押出材等の、板状部を有する各種の展伸材の形態において用いられることとなる。
【0022】
そして、かかる第一の部材2と第二の部材4の接合部位となる突合せ部6を摩擦撹拌接合するために、
図1に示されるような回転工具10が、用いられることとなるのである。即ち、この回転工具10は、従来と同様な構造を有するボビンタイプのツールであって、特に、ここでは、同一の直径(D)を有する上側ショルダ部材12と下側ショルダ部材14とが、所定距離を隔てて同軸的に相対向する形態において、ロッド状のプローブ16にて連結されて、軸心回りに一体的に回転可能とされてなるものである。従って、それら上側ショルダ部材12の上側ショルダ面12aと、下側ショルダ部材14の下側ショルダ面14aとによって、第一及び第二の部材2,4の突合せ部6を上下方向から挟圧せしめつつ、回転するプローブ16が突合せ部6内に入り込むようにすることにより、かかる突合せ部6のメタルを摩擦撹拌流動せしめて、それら二つの部材2,4が相互に接合せしめられ得るようになっているのである。
【0023】
ところで、このようなボビンタイプの回転工具10を用いて、それら第一及び第二の部材2,4の突合せ部6内に、そのプローブ16を直接に進入せしめて、突合せ部6の延びる方向(接合方向)に移動させ、線接合しようとすると、それら第一及び第二の部材2,4の材質が、摩擦撹拌作用に対して、メタルの流動性が充分でないアルミニウム合金であるところから、摩擦撹拌接合の開始端側の部位において、回転工具10の相対的な進行方向に対する後方側へのメタルの回り込み乃至は供給が充分でなく、そこに、メタルの存在しない空隙が惹起されることにより、メタルが充填されていない穴形態乃至非接合形態の接合欠陥部を生じて、健全な接合部を形成することが困難となるのであり、また流動性の悪いメタルが材料の表面側に押し出されて、接合部に著しいバリが発生するようになるのである。
【0024】
そこで、本発明にあっては、そのような摩擦撹拌接合における、接合開始端部位における接合欠陥の解消や接合部における著しいバリの発生の抑制を図るべく、
図1に示される如く、摩擦撹拌によりメタルが流動し易い特定のアルミニウム合金材質からなる材料を開始タブ材20として用い、それを、第一及び第二の部材2,4の被接合部位(突合せ部6)における接合開始端側の端面に当接配置せしめて、かかる開始タブ材20を通じて、ボビンタイプの回転工具10のプローブ16が、それら第一及び第二の部材2,4の被接合部位(突合せ部6)に進入せしめられて、接合方向に移動させられるようにすることによって、かかる突合せ部6が線接合されるようにしたのである。
【0025】
ここにおいて、そのような接合開始端側の端面に当接せしめられる開始タブ材20としては、JIS呼称のアルミニウム合金である、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、又は8000系アルミニウム合金からなる部材が、適宜の形状及び寸法において用いられることとなるが、一般に、図示の如き矩形形状を呈する部材が、好適に用いられることとなる。また、この開始タブ材20を与える、上記した特定のアルミニウム合金は、何れも、摩擦撹拌に際して、メタルの良好な流動性を示すものであるところから、そのような材質の開始タブ材20から摩擦撹拌接合操作を開始し、それを横切って、回転工具10が第一及び第二の部材2,4の突合せ部6に進入するようにすることによって、回転工具10の移動に際して、回転工具10の進行方向(接合方向)後方側には、開始タブ材20のメタルが容易に流動して回り込み、その後方側に充填せしめられるようになり、これによって、メタルの存在しない欠陥部を何等惹起することなく、回転工具10が移動し、更に第一及び第二の部材2,4の突合せ部6に進入せしめられることとなる。
【0026】
図2には、回転工具10が、摩擦撹拌を行ないつつ、開始タブ材20から突合せ部6に移動した形態が示されているが、そこにおいて、回転工具10は、軸回りに回転せしめられつつ、開始タブ材20の第一、第二の部材2,4とは反対側の端部から、開始タブ材20内に入り込み、摩擦撹拌しつつ、第一、第二の部材2,4の突合せ部6に向かって相対的に前進移動せしめられるのである。即ち、回転工具10における上側ショルダ部材12の上側ショルダ面12aと下側ショルダ部材14の下側ショルダ面14aとの間の隙間(
図1参照)内に、開始タブ材20の端部が押し込まれるようにすることによって、プローブ16が開始タブ材20内に入り込み、そして開始タブ材20の板厚よりも或る程度狭くされた二つのショルダ部材12,14のショルダ面12a,14a間の間隙により、開始タブ材20は、それら二つのショルダ部材12,14による挟圧作用を受けつつ、二つのショルダ部材12,14とプローブ16との回転によって摩擦撹拌されることとなる。而して、そのような開始タブ材20の摩擦撹拌において、回転工具10を突合せ部6に向かって相対的に移動せしめても、開始タブ材20がメタルの流動性の良好な所定のアルミニウム合金材質とされているところから、回転工具10の移動方向後方側にはメタルが容易に回り込み、そこにメタルの充填されない欠陥部が生ずるようなことはなく、健全な摩擦撹拌部が形成されることとなるのである。
【0027】
そして、回転工具10が開始タブ材20を通過して、第一、第二の部材2,4の突合せ部6に到達し、かかる突合せ部6の接合開始端に対して、回転工具10の二つのショルダ部材12,14とプローブ16の回転による摩擦撹拌を開始するとき、回転工具10の移動方向後方側には開始タブ材20から生じたメタルが充填されており、そこには、何等の空隙も存在するものではないところから、第一、第二の部材2,4から生じたメタルが、二つのショルダ部材12,14とプローブ16の回転につれて回転工具10の移動方向後方側に効果的に導かれるようになり、これによって、第一、第二の部材2,4の突合せ部6内に入り込んでも、回転工具10の移動方向後方側には引き続きメタルの有効な充填が行なわれることとなって、そこにメタル充填不足の欠陥部が発生することが、効果的に阻止され得、以て健全な摩擦撹拌接合部(継手部)8が形成されるようになるのである。しかも、そのような第一、第二の部材2,4の突合せ部6の摩擦撹拌接合においても、メタルの有効な充填が実現されることによって、メタルが、摩擦撹拌接合部8の周縁に吹き出して、バリを発生させることも、有利に抑制乃至は阻止され得ることとなるのである。
【0028】
なお、かかる摩擦撹拌接合操作の施される第一の部材2と第二の部材4とは、一般に、その板状部の同じ板厚(t)の部位において突き合わされて、突合せ部6が形成され、そしてそのような突合せ部6における接合開始端側となる、第一及び第二の部材2,4の端面に当接せしめられる開始タブ材20の厚さ(Ts)にあっても、かかる突合せ部6における板厚(t)と略等しくなるように構成されている。また、かかる開始タブ材20の寸法は、本発明の目的が達成され得るように適宜に選定されることとなるが、
図1に示される如く、第一及び第二の部材2、4の接合方向である、突合せ部6の延びる方向における長さ(Ls)は、一般に、回転工具10におけるショルダ部材12,14の直径(D)、換言すればそれぞれのショルダ面12a,14aの直径の4倍以上の長さとされていることが望ましく、更に、そのような接合方向の長さ(Ls)に対して直角な方向における長さとなる幅(Ws)は、回転工具10のショルダ部材12,14の直径(D)の2倍以上の寸法とされていることが望ましい。これら長さ(Ls)と幅(Ws)の条件を満たすように、開始タブ材20の大きさや形状が適宜に選定されることとなるのである。そして、回転工具10におけるプローブ16の直径(d)は、開始タブ材20の厚さ(Ts)の2倍以上とされていることが望ましく、これによって、本発明に従う摩擦撹拌接合操作がより有利に進行せしめられ得るのである。
【0029】
また、ここでは、回転工具10のショルダ部材12,14は、同一径を有するものとなっているが、それらの直径を或る程度異ならしめることも可能であって、その場合において、上側ショルダ部材12の直径を下側ショルダ部材14の直径よりも大きくすることが望ましく、そして前記したショルダ部材12,14の直径(D)には、ショルダ面の直径が大きい方の直径が採用されることとなる。なお、かかるショルダ部材12,14の直径(D)は、一般に、プローブ16の直径(d)よりも少なくとも4mm以上大きな寸法とされている。そして、上述の如く、ショルダ部材12,14の直径を異ならしめた場合においては、その小さな方のショルダ部材(14)の直径は、プローブ16の直径(d)に2mmを加えた値よりも小さくならないように設定される。
【0030】
ところで、かくの如き、メタルの摩擦撹拌が容易でない第一及び第二の部材2,4の突合せ部6の摩擦撹拌接合においては、回転工具10におけるプローブ16の周りにメタルがこびりつき易く、そのため、摩擦撹拌接合操作の終了により突合せ部6から離脱せしめられる回転工具10のショルダ面12a,14aやプローブ16の周りには、メタルが付着乃至は凝着して、その除去に手間が掛かるようになるところから、摩擦撹拌接合の終了端側においても、
図3に示される如く、先の開始タブ材20と同様なアルミニウム合金材質からなる板状の終了タブ材22が配置されて、回転工具10のプローブ16が、突合せ部6から、かかる終了タブ材22に導かれて、摩擦撹拌接合が終了せしめられるようにする構成が、有利に採用されることとなる。
【0031】
すなわち、終了タブ材22として、それぞれ、JIS呼称のアルミニウム合金である、1000系(純アルミニウム系)アルミニウム合金、3000系(Al−Mn系)アルミニウム合金、6000系(Al−Mg−Si系)アルミニウム合金、又は8000系アルミニウム合金からなる板材が用いられ、これが、第一及び第二の部材2、4の突合せ部6(被接合部位)における接合終了端側の端面に対して当接せしめられてなる状態において、回転工具10のプローブ16が終了タブ材22に導かれるようにすることによって、かかる回転工具10のプローブ16の周り等に凝着せるメタルが、終了タブ材22を移動する間に除去せしめられるようになるのである。
【0032】
要するに、
図4に示される如く、回転工具10が、その上側ショルダ部材12と下側ショルダ部材14との間で、第一及び第二の部材2,4の突合せ部6を挟圧しつつ、第一及び第二の部材2,4に対して、相対的に、突合せ部6に沿って移動せしめられることにより、かかる突合せ部6を摩擦撹拌接合した後、突合せ部6の終了端から終了タブ材22に入り込み、そのまま回転工具10が回転せしめられて、終了タブ材22のメタルを摩擦撹拌しつつ、かかる終了タブ材22を通過せしめることによって、第一及び第二の部材2,4の突合せ部6の摩擦撹拌接合操作にて、回転工具10のプローブ16の周り等に凝着したメタルは、終了タブ材22を通過する際のメタルの撹拌により効果的に除去されることとなるのである。そして、これによって、終了タブ材22から離脱して外方に取り出される回転工具10には、付着したメタルが殆ど存在せず、そのために、回転工具10からの面倒なメタルの除去操作を実施する必要がなくなったのであり、またそのような回転工具10を、そのまま、次の摩擦撹拌接合操作に用いるという、繰り返しの使用が可能となるのである。
【0033】
なお、かかる終了タブ材22の寸法は、その配設目的を達成すべく適宜に選定されることとなるが、一般に、前記した開始タブ材20と同様な寸法が、採用されることとなる。即ち、
図3において、終了タブ材22の接合方向における長さ(Le)は、回転工具10のショルダ部材12,14の直径(D)の4倍以上とされ、また接合方向に直角な方向の幅(We)は、ショルダ部材12、14の直径(D)の2倍以上となるように、構成されている。更に、かかる終了タブ材22の厚さ(Te)は、回転工具10におけるプローブ16の直径(d)の1/2以下となるように構成されている。このような寸法の終了タブ材22を用いることにより、回転工具10に付着する第一及び第二の部材2,4由来のメタルの除去が効果的に行われることとなるのである。
【0034】
ところで、かくの如き摩擦撹拌接合操作に用いられる回転工具10としては、ロッド状のプローブの軸方向に所定の間隔をおいて配した二つのショルダ部材12,14にて、第一の部材2と第二の部材4との突合せ部(被接合部位)6を挟圧しつつ、かかる回転工具の回転によって摩擦撹拌接合せしめ得るようにした、公知の各種の回転工具を適宜に用いることが出来、例えば、
図5(a)に示される如く、上側ショルダ部材12と下側ショルダ部材14とが所定の間隔を隔てて対向せる形態において、プローブ16にて同軸的に連結固定せしめられてなる構造のツール、所謂ボビンツール10が用いられる。そこでは、下側ショルダ部材14がプローブ16に螺合されて、プローブ16の長さが規定されるようになっていると共に、更に螺合せしめられた止めナット18にて、下側ショルダ部材14が移動しないように固定せしめられている。また、その他、
図5(b)に示される如く、二つのショルダ部材のうちの下側ショルダ部材15に対して、同軸的にプローブ17を固定せしめ、そして、上側ショルダ部材13に対して、プローブ17の軸方向に移動可能として、それら上側ショルダ部材13と下側ショルダ部材15との間隔が変更可能な構造としたツール、所謂セルフリアクティングツール11を用いることも可能である。
【0035】
なお、それら二つのショルダ部材12,14;13,15の間隙(プローブ16,17の長さ)は、接合部位となる突合せ部6に対して適切な挟圧作用を加え得るように、かかる突合せ部6(開始タブ材20)の厚さよりも或る程度小さくなるように構成されることとなる。また、セルフリアクティングツール11においては、上側ショルダ部材13と下側ショルダ部材15とが同一方向に回転せしめられる他、異なる方向に回転せしめられるようになっていても、何等差支えない。更に、それらボビンツール10やセルフリアクティングツール11の如き本発明に従う回転工具10を用いた摩擦撹拌接合操作は、接合部位の厚さ、例えば第一及び第二の部材2,4の厚さ(t)が、一般に、2mm以上の場合において、有利に採用されるものである。なお、本発明において、それら第一及び第二の部材2,4の厚さ(t)の上限は、一般に、10mm程度とされることとなる。
【0036】
また、上述した実施形態においては、第一の部材2と第二の部材4との突合せ部6に対して、摩擦撹拌接合操作を施して、それら部材2,4が線接合せしめられるようになっているが、
図6に示される如く、中空構造体30を与えるハット状断面形状の上側部材32(第一の部材)の板状のフランジ部32aと、ハット状断面形状の下側部材34(第二の部材)の板状のフランジ部34aとを重ね合わせて、その重合せ部位36に対して摩擦撹拌接合操作を施す方式に対しても、本発明を適用することは可能である。そして、そこでは、重合せ部36と同程度の厚さを有する開始タブ材24が、それら板状フランジ部32a,34aの重合せ部36の側面に当接保持されてなる状態において、回転工具10が、そのような開始タブ材24を通過して、それら板状フランジ部32a,34aの重合せ部36に導かれ、そして、その重合せ部36の延びる方向に摩擦撹拌接合が進行せしめられるようになっている。従って、回転工具10は、その軸心回りに回転せしめられつつ、開始タブ材24から重合せ部36に進入し、そして、直角に方向転換せしめられて、重合せ部36の延びる方向に相対的に移動させられて、摩擦撹拌接合が進行せしめられることとなるのであるが、その際、本発明に従って開始タブ材24を通じて重合わせ部36の摩擦撹拌接合が進行させられるところから、先の実施形態の場合と同様に、健全な摩擦撹拌接合部38が有利に形成されることとなる。
【0037】
さらに、かかる
図6に示される実施形態においては、フランジ部32a,34aの重合せ部36の幅方向の側面に対して、開始タブ材24が当接せしめられているが、かかる重合せ部36の長手方向の端面に対して開始タブ材(24)を当接せしめ、かかる開始タブ材24から重合せ部36の延びる方向に、回転工具10にて直線的に摩擦撹拌接合操作を実施するようにすることも可能であり、この場合においても、同様な効果を享受することが可能である。
【0038】
なお、上述の如くして摩擦撹拌接合することにより、摩擦撹拌接合部8,38の健全性に優れた接合製品を得ることが出来ることとなるのであるが、また、そのような接合製品には、その接合開始端側に、開始タブ材20が、摩擦撹拌せしめられたメタルにより固着し、更に場合により、接合終了端側にも終了タブ材22が固着することとなる。しかし、それら開始タブ材20や終了タブ材22は、機械的に簡単に折り取ることが可能であり、以て健全な接合部8を有する接合製品が容易に実現され得るのであるが、更に必要に応じて、そのようなタブ材20,22を取り除いた後、第一及び第二の部材2,4の端面に固着するメタルをグラインダ等の切削機にて切削除去せしめ、端面を仕上げるようにすることも、本発明においては有利に採用されるところである。
【0039】
そして、かくの如き摩擦撹拌接合手法にて得られる接合製品における接合欠陥の解消により、本発明は、例えば、板材や押出材等の展伸材や鋳物を接合し、大型材を製造する技術に有利に適用され得ることとなったのであり、また、そのようにして得られた接合製品は、鉄道車両構体や自動車のサブフレーム等の構造部材等として有利に採用され得て、その特徴を発揮するものである。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的構成以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0041】
−実施例1−
板厚(t):2.8〜9.2mm、板幅:300mm、長さ:5000mmの寸法を有する、下記表1〜2に示される各種アルミニウム材質の板状の第一の部材(2)及び第二の部材(4)を用い、それらの板幅方向に対向する側面を突き合わせて、その突合せ部(6)の下方に位置するように間隙を設けてなるテーブル上に、それぞれ固定、保持せしめた。また、それら突き合わされた2つの部材(2,4)の突合せ部(6)の接合開始端側の端部には、下記表1〜2に示される如き、板厚(Ts)、接合方向長さ(Ls)及び接合方向に直角な方向の幅(Ws)を有する各種アルミニウム材質の板状の開始タブ材(20)を用いて、
図1に示される如く突き合わせ、先の2つの部材(2,4)と同様にテーブル上に固定、保持せしめた。
【0042】
一方、回転治具(10)としては、下記表1〜2に示される、2つのショルダ部材(12,14)の直径(D)、2つのショルダ面(12a,14a)間のプローブ(16)の長さ及びプローブ(16)の直径(d)を備えた、
図5(a)に示される如きボビンツールを用い、下記表1〜2に示される、回転数及び接合速度の条件下において、
図2に示される如く、開始タブ材(20)の端部をボビンツール(10)の2つのショルダ面(12a,14a)間に押し込み、突合せ部(6)に向かってボビンツール(10)を移動させることにより、開始タブ材(20)をその長さ方向に摩擦撹拌しつつ通過させた後、2つの部材(2,4)の突合せ部(6)に進入させ、更にかかる突合せ部(6)の延びる方向に、ボビンツール(10)を移動させることにより、当該突合せ部(6)の摩擦撹拌接合を実施した。
【0043】
かくして得られた第一及び第二の部材(2,4)と開始タブ材(20)との各種アルミニウム材質のものの組合せにおける各種の摩擦撹拌接合製品について、それぞれ、引張剪断試験を実施して、継手強度を調べた。具体的には、破断材質と破断位置を調べると共に、継手効率を、破断強度が小さい方の材質を基準にして、求めた。それらの結果を、下記表1及び表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
かかる表1及び表2の結果から明らかなように、FSW試験例1〜11の如く、アルミニウム合金製鋳物、2000系アルミニウム合金材、4000系アルミニウム合金材、5000系アルミニウム合金材及び7000系アルミニウム合金材からなる群より選ばれた同種又は異種材質の第一の部材(2)と第二の部材(4)の突合せ部位(6)を、ボビンツール(10)にて摩擦撹拌接合するに際して、開始タブ材(20)として、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金又は8000系アルミニウム合金からなる板材を当接せしめて、この開始タブ材を通じて、ボビンツール(10)のプローブ(16)が、2つの部材(2,4)の突合せ部位(6)に進入することにより、接合欠陥のない、またバリ発生の少ない健全な接合部を得ることが出来ることが認められた。
【0047】
これに対して、FSW試験例12〜22の如く、開始タブ材(20)を用いない場合や、それを用いても、2つの部材(2,4)と同種のアルミニウム材質の板材等を開始タブ材とした場合にあっては、2つの部材(2,4)の摩擦撹拌接合自体が出来なかったり、或いは接合部位に、間隙乃至は破断部等の欠陥部が生じたり、更にはバリが著しく発生する等の問題を生じて、健全な接合部を得ることが出来ないことが明らかとなった。
【0048】
−実施例2−
板厚(t):4.0mm、板幅:300mm、長さ:5000mm、材質:5454−Oのアルミニウム圧延板材の2枚を、第一及び第二の部材(2,4)として用い、それらを幅方向に突き合わせて、その突合せ部(6)の下方に位置するように間隙を設けてなるテーブル上に、それぞれ固定、保持せしめた。そして、それら2枚の板材(2,4)の突合せ部(6)における接合開始端側の端部に対して、下記表3に示される各種の接合方向長さ(Ls)と、それに直角な方向の幅方向長さ(Ws)とを有する板厚(Ts):4.0mm、アルミニウム材質:1200からなる開始タブ材(20)を突き合わせて、2枚の板材(2,4)と同様に、それぞれ固定、保持せしめた。
【0049】
次いで、回転治具として、上側ショルダ面(12a)と下側ショルダ面(14a)との間の距離となるプローブ(16)の軸方向長さを3.7mmに変更したこと以外は、実施例1と同様な寸法を有するボビンツール(10)を用いて、実施例1と同様な摩擦撹拌接合操作を実施して、その結果を、下記表3に併せ示した。
【0050】
【表3】
【0051】
かかる表3の結果より明らかな如く、開始タブ材(20)の接合方向長さ(Ls)を、ボビンツール(10)におけるショルダ部材(12,14)の直径(D)の4倍以上の長さとすると共に、接合方向に直角な方向における幅(Ws)を、かかるショルダ部材(12,14)の直径(D)の2倍以上とすることにより、摩擦撹拌接合部(8)の健全性が有利に高められ得ることとなるのである。
【0052】
−実施例3−
実施例1におけるFSW試験例1〜20と同様にして、摩擦撹拌接合操作を開始する一方、2枚の板材(2,4)の突合せ部(6)における接合終了端側の端面に対して、下記表4〜5に示される、接合方向長さ(Le)、接合方向に直角な方向の幅(We)及び板厚(Te)を有する各種アルミニウム材質の板状の終了タブ材(22)を当接せしめて、かかる突合せ部(6)を全長に亘って移動したボビンツール(10)が、
図4に示される如く、突合せ部(6)の終端から終了タブ材(22)に導かれ、次いで、かかる終了タブ材(22)を接合方向に導かれた後、摩擦撹拌接合が終了せしめられるようにした。そして、そのような摩擦撹拌接合の終了に際してのボビンツール(10)におけるメタルの付着の程度を観察する一方、そのような摩擦撹拌接合操作の終了したボビンツール(10)をそのまま用い、再度同様な摩擦撹拌接合操作を実施して、その2回目の摩擦撹拌接合操作の成功率を求め、その結果を、下記表3に併せ示した。なお、メタルの付着の程度の評価に際しては、○:メタルの付着が殆ど認められない、△:メタルの付着が認められる、×:メタルの付着が著しい、との基準を採用した。
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
かかる表4及び表5の結果から明らかなように、FSW試験例31〜41の如く、終了タブ材(22)の材質として、1000系アルミニウム合金、3000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金又は8000系アルミニウム合金を用いることによって、ボビンツール(10)に対するメタルの凝着が、効果的に抑制乃至は阻止され得るのであって、以て、摩擦撹拌接合操作が終了したボビンツール(10)を、引き続き、次の2つの部材(2,4)の摩擦撹拌接合操作に用いることが可能となることを確認した。
【0056】
−実施例4−
前記実施例3におけるFSW試験例31に係る摩擦撹拌接合操作において、第一及び第二の部材(2,4)の板厚(t)及び開始タブ材(20)の板厚(Ts)を変化させると共に、終了タブ材(22)の接合方向長さ(Le)と、それに直角な方向の幅(We)の寸法を、下記表6に示されるように変えたこと以外は、実施例3と同様にして、摩擦撹拌操作を実施し、そしてボビンツール(10)が終了タブ材(22)を通過した後、摩擦撹拌接合操作が終了せしめられるようにした。そして、そのような摩擦撹拌接合操作が終了した後におけるボビンツール(10)のメタル凝着状況を観察して、実施例3と同様に評価し、その結果を、下記表6に併せ示した。
【0057】
【表6】
【0058】
かかる表6の結果から明らかな如く、終了タブ材(22)の接合方向長さ(Le)を、ボビンツール(10)におけるショルダ部材(12,14)の直径(D)の4倍以上の長さを有すると共に、かかる接合方向に直角な方向における幅(We)を、ショルダ部材(12,14)の直径(D)の2倍以上とすることによって、ボビンツール(10)に対するメタルの凝着が、効果的に抑制乃至は阻止され得ることが認められるのである。