【解決手段】視準ターゲットとなる全方向プリズム11を取り付けた移動体9を路線方向に移動させながら、前記全方向プリズム11を橋梁外に設置した自動追尾機能付きトータルステーション10により小時間間隔で連続的に計測して前記移動体9に取り付けた全方向プリズム11の連続した多点での標高計測値(Hj)を得たならば、前記多点での標高計測値(Hj)に基づいて多項式近似曲線に描き、活荷重無載荷状態の標高計測点として設定された多数の任意点において、前記標高計測値(Hj)と前記標高近似値(Hm)とに基づいて、活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とを求め、全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線(標高形状線)を得る。
橋梁に活荷重が載荷された状態で、路線方向に沿った活荷重無載荷状態の標高形状線を得るための計測方法であって、
視準ターゲットとなる全方向プリズムを取り付けた移動体を路線方向に移動させながら、前記全方向プリズムを橋梁外に設置した自動追尾機能付きトータルステーションにより小時間間隔で連続的に計測して前記移動体に取り付けた全方向プリズムの連続した多点での標高計測値(Hj)を得る第1手順と、
前記多点での標高計測値(Hj)に基づいて多項式近似曲線に描き、任意点で標高近似値(Hm)を得ることができるようにする第2手順と、
活荷重無載荷状態の標高計測点として設定された多数の任意点において、前記標高計測値(Hj)と前記標高近似値(Hm)とを対比して、
標高計測値(Hj)≧標高近似値(Hm)であるならば、下式(1)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)を求め、
【数1】
標高計測値(Hj)<標高近似値(Hm)であるならば、下式(2)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho3)を求め、
【数2】
前記活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とから全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線(標高形状線)を得る第3手順とからなることを特徴とする橋梁における活荷重無載荷状態時の標高計測方法。
前記移動体は、橋梁に常設されている検査車、橋面上を低速で走行させる走行車両、カート車、或いは自転車である請求項1記載の橋梁における活荷重無載荷状態時の標高計測方法。
【背景技術】
【0002】
吊橋などのたわみやすい長大橋の橋桁の健全性を判定する方法として、全体の形状測定(標高計測)を行い、活荷重無載荷状態時の形状を得て、その形状変化が許容値内であること、さらに過年度の形状と比較してもその変化量が大きくないことを確認する手法が採用されている。
【0003】
これまでは、車両通行量が少なく温度の安定した深夜に、交通規制を行いながら、路面上を使用した水準測量が採用されてきている。しかし、水準測量では全長にわたり路面の交通規制が必要となること、計測作業には数時間を要することから深夜であっても時間帯によっては温度変化は避けられずその影響を受けてしまうこと、大型車を含め車両の通行は皆無ではなくそれらのたわみの影響が含まれてしまうこと、さらに連続的に計測を繰り返す必要がある水準測量の作業上の特性から安定した計測値が得られていなかった。
【0004】
そこで下記特許文献1では、活荷重作用下のままで供用中の橋構造物の活荷重無載荷時形状を得るための計測方法であって、橋外部の固定地点に光波測距儀を設置するとともに、橋の標高計測対象位置にターゲットを設置し、このターゲットの実標高を前記光波測距儀により所定時間の間、微小時間間隔で連続的に計測し、前記所定の計測時間内における平均実標高値を得るとともに、この所定の計測時間内に橋を通過する車両群による平均タワミ値Δhを求め、前記光波測距儀による平均実標高値を前記通過車両群による平均タワミ値Δhにより補正することにより前記標高計測対象位置の活荷重無載荷時標高を求める橋構造物における活荷重無載荷時形状の計測方法が提案されている。この計測方法は、計測時間中に橋梁内を通行している大型車の荷重によるたわみ量相当分を計測値から除去することによって無載荷状態の標高に換算する手法(以下、大型車影響評価法という。)である。
【0005】
しかしながら、この大型車影響評価法を適用するためには計測時間内に通行する大型車の台数、走行車線位置、速度及び車両重量が必要となるため、大型車両の重量を計測するために桁に歪みゲージを貼付して歪みから重量を算出したり、ビデオカメラで撮影を行ったりするため、その分計測に多くの手間が掛かるとともに、計測後のデータ整理も膨大となり、作業費用の増大を招くなどの課題があった。
【0006】
そこで、本出願人等は、活荷重載荷状態(供用状態)のまま、更に大型車の台数、走行車線位置、速度及び車両重量などを一切無関係としながら、短時間に精度良く活荷重無載荷状態での標高(形状)を得るため、下記特許文献2において、橋梁に活荷重が作用した状態で、路線方向に所定間隔で設定された多数の標高計測地点の活荷重無載荷状態の標高を得るための計測方法であって、視準ターゲットとなる全方向プリズムを取り付けた車両(以下、MAT車(Movable-Auto-Tracking)という。)を走行させ、各標高計測地点に停車する度に、橋梁外に設置した自動追尾機能付きトータルステーションにより標高計測地点に位置している前記全方向プリズムを所定時間の間、小時間間隔で連続的に計測し、計測時間内の最大標高値Hmax、最小標高値Hminのいずれか又は両方及び平均標高値Haveを計測し、これら計測値をたわみ影響線に基づき得られた、最大標高値Hmax、最小標高値Hminのいずれか又は両方、平均標高値Have及び定数k(k1〜k3)を用いて活荷重無載荷状態の標高H0を求める算出式に代入して、活荷重無載荷状態の標高を求める橋梁における活荷重無載荷状態時の標高計測方法を提案した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に係る標高計測方法の場合、計測格点数が多い場合には、全体の計測にきわめて長時間を要してしまうという問題点があった。例えば、安定した無載荷状態標高の計測値を得るためには1格点につき少なくとも3分程度の停車時間が必要であることから、計測時間は移動時間等を含めると1点当たり約5分を要してしまうことになる。その結果、計測格点数が仮に150点である橋梁に要する全計測時間は、5分×150点=750分<約13時間>と長時間となってしまうことになる。
【0009】
また、特にケーブルを構成要素とする吊橋、斜張橋等の場合、ケーブルの温度変化が橋梁の標高に与える影響が大きく、計測時間が長時間に亘ると、計測時間中にも無載荷状態標高が徐々に変化する兆候が見られるという問題が発生していた。前記特許文献2に係る標高計測方法の場合、式中の最大標高値Hmax、最小標高値Hmin、平均標高値Haveでケーブル温度変化に伴う標高への影響を間接的に考慮してはいるものの、計測時間が長くなってしまうと本来変わることのない無載荷状態標高も時刻とともに変化が結果として計算されてしまうことになり計測結果が安定した値とならないという問題点があった。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、主として吊橋、斜張橋、アーチ橋、トラス橋などをはじめとする易たわみ性の長大橋梁において、活荷重載荷状態(供用状態)のまま、MAT車を計測格点に停車させることなく移動状態を維持したままで、従来方法に比べて極めて短時間に精度良く活荷重無載荷状態での標高(形状)を得るための標高計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、橋梁に活荷重が載荷された状態で、路線方向に沿った活荷重無載荷状態の標高形状線を得るための計測方法であって、
視準ターゲットとなる全方向プリズムを取り付けた移動体を路線方向に移動させながら、前記全方向プリズムを橋梁外に設置した自動追尾機能付きトータルステーションにより小時間間隔で連続的に計測して前記移動体に取り付けた全方向プリズムの連続した多点での標高計測値(Hj)を得る第1手順と、
前記多点での標高計測値(Hj)に基づいて多項式近似曲線に描き、任意点で標高近似値(Hm)を得ることができるようにする第2手順と、
活荷重無載荷状態の標高計測点として設定された多数の任意点において、前記標高計測値(Hj)と前記標高近似値(Hm)とを対比して、
標高計測値(Hj)≧標高近似値(Hm)であるならば、下式(1)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)を求め、
【数1】
【0012】
標高計測値(Hj)<標高近似値(Hm)であるならば、下式(2)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho3)を求め、
【数2】
【0013】
前記活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とから全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線(標高形状線)を得る第3手順とからなることを特徴とする橋梁における活荷重無載荷状態時の標高計測方法が提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明は、橋梁に活荷重が載荷された状態で、路線方向に沿った活荷重無載荷状態の標高形状線を得るための計測方法である。本出願人が特開2011-257256号公報(特許文献2)において提案した計測方法は、計測格点毎に全方向プリズムを搭載した車両を停止させ、この停止した全方向プリズムをトータルステーションで所定時間の間、計測するものであるが、本願発明は、前記特許文献2の基本的な計測原理を応用しながら、前記移動体を停止させることなく移動させた状態のままで標高計測を行い、極めて短時間に精度良く活荷重無載荷状態での標高(形状)を得るための標高計測方法を提供するものである。
【0015】
先ず、視準ターゲットとなる全方向プリズムを取り付けた移動体を路線方向に移動させながら、前記全方向プリズムを橋梁外に設置した自動追尾機能付きトータルステーションにより小時間間隔で連続的に計測して前記移動体に取り付けた全方向プリズムの連続した多点での標高計測値(Hj)を得るようにする。前記移動体は停止させることなく、橋梁方向に沿って低速度で移動させた状態のままとし、移動体に設けた全方向プリズムを橋梁外に設置したトータルステーションによって標高計測値(Hj)を得るようにする。
【0016】
次に、前記多点での標高計測値(Hj)に基づいて多項式近似曲線を描き、任意点で標高近似値(Hm)を得ることができるにする。
【0017】
その後に、活荷重無載荷状態の標高計測点として設定された多数の任意点において、前記標高計測値(Hj)と前記標高近似値(Hm)とを対比して、
標高計測値(Hj)≧標高近似値(Hm)であるならば、下式(1)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)を求め、
【数1】
【0018】
標高計測値(Hj)<標高近似値(Hm)であるならば、下式(2)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho3)を求め、
【数2】
【0019】
前記活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とから全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線(標高形状線)を得るようにする。
【0020】
前記特許文献2記載の発明において、橋梁の任意点におけるたわみ影響線の下で、任意の移動荷重(走行車両)が走行することを考えた場合、この荷重によって発生するたわみの最大値Ymaxと最小値Yminとは、たわみの原因(荷重)が共通しているため、何らかの相関関係(一定比率)にあることに着目し、このたわみ影響線に平均標高値Have(計測値の平均値)の概念を導入すると、最大標高値Hmax、最小標高値Hminのいずれか又は両方、標高値Have及び定数kを用いて活荷重無載荷状態の標高H0を求める算出式を導くことができる(基本計測原理)。
【0021】
前記たわみ影響線は、ある任意点ごとに描かれる曲線であるが、上記基本計測原理を橋軸方向に展開した場合、それは基本計測原理の「束」と考えられるため、その関係は維持されると考えることができる。従って、前記基本計測原理は、前記移動体に取り付けた全方向プリズムの連続した多点での標高計測値(Hj)に対しても同様に適用することができると考えることができる。
【0022】
しかしながら、上記基本計測原理を橋軸方向へ展開した場合には、橋梁の各標高計測点では、移動荷重による「最大値Ymax」及び「最小値Ymin」の両方の数値を持つことはできず、一つの標高計測値(Hj)のみであるから、前記基本計測原理をそのまま適用することはできない。
【0023】
そこで本発明では、前記多点での標高計測値(Hj)の生データは、橋梁の基本形状ラインを基本線として、この基本線を交差するようにジグザグ状に描かれることに着目して、前記標高計測値(Hj)に基づいて、例えば最小二乗法により多項式近似曲線を描き、任意点で標高近似値(Hm)を得ることができるようにすれば、前記標高計測値(Hj)及び前記標高近似値(Hm)、定数kをパラメータとして、活荷重無載荷状態の標高(H01,H03)を求める算出式を導くことができる。
【0024】
前記計算標高(H01,H03)は点の集合体であるため、これら計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とから全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線を得るようにすれば、その曲線は橋梁の活荷重無載荷状態の標高形状線となる。
【0025】
本発明に係る標高計測方法の場合は、移動車が橋梁を通過に要する時間分だけの時間で計測を終えることができるため、従来方法に比べて極めて短時間に精度良く活荷重無載荷状態での標高(形状)を得ることが可能となる。例えば、橋長1000mの場合、移動車が時速10kmで走行すると仮定した場合、6分で標高計測を終えることができることになる。
【0026】
請求項2に係る本発明として、前記移動体は、橋梁に常設されている検査車、橋面上を低速で走行させる走行車両、カート車、或いは自転車である請求項1記載の橋梁における活荷重無載荷状態時の標高計測方法が提供される。
【0027】
上記請求項2記載の発明は、前記移動体として使用可能な具体例を列記したものである。具体的に、長大橋梁の場合は橋桁に設けられたレールに沿って移動可能とされる検査車が常設されているためこの検査車を使うことができる。また、橋面上を低速で走行させる走行車両、カート車、或いは自転車を使用することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上詳説のとおり本発明によれば、主として吊橋、斜張橋、アーチ橋、トラス橋などをはじめとする易たわみ性の長大橋梁において、活荷重載荷状態(供用状態)のまま、前記MAT車を計測格点に停車させることなく移動状態を維持したままで、従来方法に比べて極めて短時間に精度良く活荷重無載荷状態の標高(形状)を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0031】
図1は本形態例で測定対象とした長大吊橋の側面図である。吊橋1は、側面視で左右両側にそれぞれ主塔2,3を有するとともに、これら主塔2,3からさらに離間する位置にアンカレッジ4,5を有し、前記主塔2,3の塔頂に設置されたケーブル用サドル(図示せず)間に架け渡されたケーブル6の両端を前記アンカレッジ4,5に固定し、このケーブル6の長手方向に沿って所定の間隔をおいた位置から吊り下げられたハンガーロープ7,7…によって両アンカレッジ4,5間に横架された補剛桁8を吊持するものであり、特に長スパン橋梁に適用される橋構造である。
【0032】
以下、前記長大吊橋1を対象として本発明法によって、活荷重載荷状態(供用状態)のまま、MAT車9を計測格点に停車させることなく移動状態を維持したままで、従来方法に比べて極めて短時間に精度良く活荷重無載荷状態での標高(形状)を得るための標高計測方法について説明する。
【0033】
(装置構成)
図2および
図3に示されるように、吊橋1外の地上部分などにターゲットに対する視準を自動的に補正する自動追尾機能付きトータルステーション10(以下、単にトータルステーションという。)を設置するとともに、視準ターゲットとなる全方向プリズム11を取り付けた移動体(MAT車)9を前記トータルステーション10によって前記全方向プリズム11を追尾しながら視準し、距離L、鉛直角α、水平角βを小時間間隔で連続的に計測する。前記トータルステーション10は、毎秒2.5回のデータ読み取りが可能であり(後述の実施例では、毎秒2回の計測)、読み取られたデータは、前記トータルステーション10に接続されたコンピューター12に記憶されるようになっている。なお、トータルステーション10の設置座標は予め既知とされる。
【0034】
(計測手順)
本発明に係る橋梁における活荷重無載荷状態時の標高計測方法は、下記の手順(1)〜(3)による。
【0035】
(1)移動体(MAT車)を路線方向に移動させながら、前記全方向プリズム11を橋梁外に設置した自動追尾機能付きトータルステーション10により小時間間隔で連続的に計測して前記移動体9に取り付けた全方向プリズム11の連続した多点での標高計測値(Hj)を得る第1手順。
【0036】
前記移動体9としては、長大橋梁の場合は、橋桁に設けられたレールに沿って移動可能とされる検査車が常設されているためこの検査車を使うことができる。また、
図3に示したように橋面上を低速で走行させる走行車両や、或いはカート車、自転車などを使用することができる。
【0037】
(2)前記多点での標高計測値(Hj)に基づいて多項式近似曲線を描き、任意点で標高近似値(Hm)を得ることができるにする第2手順。
【0038】
前記多項式近似曲線で表すことの数学的な意味は、ぞれぞれの元データの傾向に比較的沿ったものでかつ元データとの差の二乗値が最小となるような曲線で示すということである。前記多点での標高計測値(Hj)は、橋梁の基本形状ラインを基本線として、この基本線を交差するようにジグザグ状に描かれるが、最小二乗法により多項式近似曲線により数式で表すようにすれば、任意点における標高近似値(Hm)を計算によって簡単に得ることができるようになる。また、前記多項式近似曲線は、後述する「たわみ平均値」に対応する概念のものであるが、たわみ平均値は、大型重量車の通行によって変動することになるが、多項式近似曲線で表した場合は数値が安定する利点がある。
【0039】
(3)活荷重無載荷状態の標高計測点として設定された多数の任意点において、前記標高計測値(Hj)と前記標高近似値(Hm)とを対比して、
標高計測値(Hj)≧標高近似値(Hm)であるならば、下式(1)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)を求め、
【数1】
【0040】
標高計測値(Hj)<標高近似値(Hm)であるならば、下式(2)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho3)を求め、
【数2】
【0041】
前記活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とから全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線(標高形状線)を得る第3手順。
【0042】
(計測原理)
[基本計測原理]
先ず、本発明の計測原理は前記特許文献2記載の発明の計測原理を基礎として、橋軸方向に展開するものであるため、先ず前記特許文献2の発明の計測原理から説明する。
【0043】
前記特許文献2に係る発明は、前記トータルステーション10によって、標高計測地点に設置した視準ターゲット11を所定時間の間、小時間間隔で連続的に計測し、計測時間内の最大標高値Hmax、最小標高値Hminのいずれか又は両方及び平均標高値Haveを計測し、これら計測値をたわみ影響線に基づき得られた、最大標高値Hmax、最小標高値Hminのいずれか又は両方、平均標高値Have及び定数kを用いて活荷重無載荷状態の標高H0を求める算出式に代入して、活荷重無載荷状態の標高を求めるものである。
【0044】
図4にLc/2点で実際に測定された活荷重載荷状態での補剛桁の時刻歴標高変化を示す。
図4を一見すると明らかなように、標高は時間経過と共に大きく変化しており、このグラフから活荷重無載荷状態の標高を求めるのは不可能に思える。
【0045】
線形化たわみ理論によれば「重ね合わせの原理」が成立することから、載荷状態の標高は無載荷状態標高に載荷荷重によるたわみを重ね合わせたものである。つまり、無載荷状態標高は載荷状態の標高から全ての活荷重(軸重)によって発生しているたわみ量相当分を除去することで理論的に求めることができる。しかし、活荷重の載荷パターンは無限に存在するとともに、時々刻々と載荷状態も変化するため、活荷重載荷状態の標高から載荷されているすべての活荷重のたわみ分を1車両毎に計算によって除去することは実際上は不可能である。
【0046】
考え方の視点を変えて、たわみ影響線の下で、任意の移動荷重群(走行車両群)が走行することを考えた場合、この荷重群によって発生するたわみの最大値Ymaxと最小値Yminとは、たわみの原因(荷重群)が共通しているため、何らかの相関関係(一定比率)にあるものと考えられる。また、
図4の標高変化グラフから読み取れる情報は、たわみの最大値Ymaxと、最小値Yminと、平均標高値Have(計測値の平均値)である。前記平均標高値Haveは、測定した標高を時間積分し時間で除算したものであり、標高計測値の平均値である。
【0047】
そこで、
図5に示されるLc/2点でのたわみ影響線(20tf線荷重を想定し、縦軸はそのたわみ量としてある)の下で、このたわみ影響線にたわみ平均値Yave(
図5において、面積を時間で割って求めることででき、計測値の平均値に相当する。)の概念を導入すると、たわみ最大値Ymax、たわみ最小値Yminのいずれか又は両方、たわみ平均値Yave及び定数kを用いて、たわみゼロ点Y0を求めるたわみ関係式を導くことができる。
【0048】
図5のたわみ影響線からは、たわみゼロ点Yoの標高を求める、次のような3つのたわみ関係式が成立する。
【0049】
第一式…たわみ最大値Ymaxとたわみ平均値Yaveからたわみゼロ点Yoを算出するたわみ関係式
Yo=Yave+(Ymax−Yave)*k1 …(1)
第二式…たわみ最大値Ymax、たわみ最小値Ymin及びたわみ平均値Yaveからたわみゼロ点Yoを算出するたわみ関係式
Yo=Yave+(Ymax−Ymin)*k2 …(2)
第三式…たわみ最小値Yminとたわみ平均値Yaveからたわみゼロ点Yoを算出するたわみ関係式
Yo=Yave+(Yave−Ymin)*k3 …(3)
ここで、Yave、Ymax及びYminは、20tf線荷重を想定した場合、理論上次のような値となる。
【0050】
Yave(たわみ平均値)=−0.0135m
Ymax(たわみ最大値)=+0.0059m
Ymin(たわみ最小値)=−0.0678m
また、k1、k2及びk3(以下、k値と呼ぶ)は、標高計測点毎に構造物のたわみ影響線によって決まる(すなわち構造物によって決まる)定数とする。これらのk値は発生たわみ量から計算でそれぞれ下式によって求めることができる。すなわち、Yoはたわみゼロ点のたわみ量(無載荷状態の時のたわみ量)でありYo=0となるため、前記k1はたわみ影響線におけるたわみ最大値と平均値から求めることができ、前記k2はたわみ影響線におけるたわみ最大値と最小値から求めることができ、前記k3はたわみ影響線におけるたわみ最小値と平均値から求めることができる。
【0051】
k1=(Yo−Yave)/(Ymax−Yave)=(0+0.0135)/(0.0059+0.0135)=0.6959
k2=(Yo−Yave)/(Ymax−Ymin)=(0+0.0135)/(0.0059+0.0678)=0.1832
k3=(Yo−Yave)/(Yave−Ymin)=(0+0.0135)/(-0.0135+0.0678)=0.2486
前記たわみ関係式は、実橋レベルにおいても再現されるはずであるから、それぞれの対応関係から、前記たわみ最大値Ymaxを最大標高値Hmax、たわみ最小値Yminを最小標高値Hmin、前記たわみ平均値Yaveを平均標高値Haveに置換すると活荷重無載荷状態の標高H0を求める算出式は下式となる。
【0052】
第一式 H0=Have+(Hmax−Have)*k1 …(1)’
第二式 H0=Have+(Hmax−Hmin)*k2 …(2)’
第三式 H0=Have+(Have−Hmin)*k3 …(3)’
【0053】
[応用計測原理]
上記基本計測原理を、MAT車9を計測格点に停車させることなく移動状態を維持したままで計測を行うようにして橋軸方向への展開を試みた場合、計測格点で計測できる標高計測値(Hj)は1つの数値だけであり、「最大値Ymax」及び「最小値Ymin」の両方の数値を持つことはできない。
図4は時刻歴を横軸として所定時間の間、継続的に計測して得られるグラフであるが、MAT車9を停止させない本発明の場合、計測する点は
図4のグラフの内のいずれかの1点の数値ということになる。
【0054】
そこで、上記基本計測原理を橋軸方向に展開させるに当たり、計測原理の拡大を試みる。すなわち、
図5のたわみ影響線の下で、たわみ影響線がたわみ平均値よりも上側のゾーンの領域では上記第一式が共通的に適用でき、たわみ影響線がたわみ平均値よりも下側のゾーンの領域では前記第三式が共通的に適用できると仮定すると、MAT車9を停止させないで計測した標高計測値(Hj)について、活荷重無載荷状態の標高を求める算出式を導くことができる。
【0055】
具体的には、標高計測値(Hj)の生データは、橋梁の基本形状ラインを基本線として、この基本線を交差するようにジグザグ状に描かれるため、先ず最初に前記多点での標高計測値(Hj)に基づいて最小二乗法により多項式近似曲線に描き、任意点で標高近似値(Hm)を得ることができるようにする。前記多項式近似曲線は前記たわみ影響線での下での「たわみ平均値」に相当する概念のものであるが、前記標高計測値(Hj)が前記多項式近似曲線(標高近似値(Hm))よりも大きい場合は、前記第一式に対応する下式(1)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)を求めるようにし、
【数1】
【0056】
前記標高計測値(Hj)が前記多項式近似曲線(標高近似値(Hm))よりも小さい場合は、前記第三式に対応する下式(2)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho3)を求めるようにする。
【数2】
【0057】
そして、前記計算標高(H01,H03)は点の集合体であるため、これら計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とから全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線を得るようにすれば、その曲線は橋梁の活荷重無載荷状態の標高形状線となる。
【実施例】
【0058】
本発明は、移動体9を路線方向に移動させながら、全方向プリズム11を橋梁外に設置した自動追尾機能付きトータルステーションによ10り小時間間隔で連続的に計測して前記移動体9に取り付けた全方向プリズム11の連続した多点での標高計測値(Hj)を得て、このデータ群から活荷重無載荷状態での標高近似値を計算によって得る方法であるが、前記特許文献2で提案した計測方法に比べて誤差が若干大きくなることは予想されるが、その誤差がどの程度のものであるか検証を行った。
【0059】
なお、便宜上、本発明に係る計測方法を「近似ゼロ点標高補正法」と呼び、前記特許文献2に係る計測方法を「ゼロ点標高評価補正法」と呼ぶ。また、本発明に係る計測値データを「MAT-J」(Jは徐行の意味)と呼び、前記特許文献2に係る計測値データを「MAT-S」(Sはストップの意味)と呼ぶ。
【0060】
〔実施例1〕(任意固定点の計測値への適用)
近似ゼロ点標高補正法は、固定点の計測値(MAT-S)に対しても当然適用できる。この例として、既設の吊橋の134格点(Lc/2点)および117格点(Lc/4点)の計測値をもとに無載荷状態標高を算出し、「ゼロ点標高評価補正法」にて求めた無載荷状態標高と比較し考察する。
【0061】
<134格点(Lc/2点)における比較>
(1)ゼロ点標高評価補正法
図6は、1:09:00〜1:19:00間の計測結果を図化したものであり、この時間中の最大値を太い破線で、最小値を点線で、また平均値を細い破線で示している。時刻1:19:00における最大値は75.9240、最小値は75.7787、また平均値は75.8837であることがわかる。これらの値から、時刻1:19:00における無載荷状態標高は下記のように算出できる。
(第一式) Ho1=75.8837+(75.9240-75.8837)*0.5079=75.9042m
(第二式) Ho2=75.8837+(75.9240-75.7787)*0.1188=75.9010m
(第三式) Ho1=75.8837+(75.8837-75.7787)*0.1551=75.9000m
【0062】
(2)近似ゼロ点標高補正法
まず、
図7に示すように、計測値の全データ(MAT-J)から多項式近似直線(Hm=1.5828t+78.8024)を求める。この近似直線は、右上がりの傾向を示す直線となり、計測開始時刻からの平均値の経時変化を示している。この近似直線はゼロ点標高評価補正法で算出した平均値(点線)とほぼ同じ様な値で変化しているものの、平均値(点線)は橋桁のたわみの影響によって大きく変動しているのに対して、安定していることが確認できる。
【0063】
次に、前記標高計測値(Hj)と前記標高近似値(Hm)とを対比して、標高計測値(Hj)≧標高近似値(Hm)であるならば、式(1)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)を求め(k1=0.5079)、標高計測値(Hj)<標高近似値(Hm)であるならば、式(2)により活荷重無載荷状態の計算標高(Ho3)を求め(k3=0.1551)、前記活荷重無載荷状態の計算標高(Ho1)と計算標高(Ho3)とから全体の活荷重無載荷状態の多項式近似曲線(標高形状線:H0=1.5747t+75.8105)を得るようにする。計算結果を下表1に示すとともに、
図8に示す。
【表1】
【0064】
(3)両者の対比
図9に、ゼロ点標高評価補正法において、第一〜第三式から求めた無載荷状態標高(無載荷H1,無載荷H2および無載荷H3)を示すとともに、近似ゼロ点標高補正法によって求めた無載荷状態標高を示す。ただし、近似ゼロ点標高補正法の場合は、無載荷状態標高として最終計測時刻である1:19:00の値を抽出した。
【0065】
下表2に示すように、ゼロ点標高評価補正法による無載荷状態標高値は、それぞれ75.904(第一式)、75.901(第二式)および75.900(第三式)であるのに対して、近似ゼロ点標高補正法によれば75.897(太実線)となり、ゼロ点標高評価補正法との値差は最大でも7mm(第一式との差)であり、大きな差は発生していない。
【表2】
【0066】
<117格点(Lc/4点)における比較>
同様に、117格点(Lc/4点)について、ゼロ点標高評価補正法と近似ゼロ点標高補正法とにより、無載荷状態標高を計算した結果を
図10に示す。
【0067】
図10より、1:09:00〜1:19:00間の計測における最終計測時刻(1:19:00)における無載荷状態標高値は、ゼロ点標高評価補正法によればそれぞれ75.039(第一式)、75.041(第二式)および75.0420(第三式)であるのに対して、近似ゼロ点標高補正法によれば75.040となり、ゼロ点標高評価補正法との差は最大でも2mm(第三式との差)であり、ほとんど同値となっていることがわかる。
【0068】
〔実施例2〕(仮想MAT−J計測値への適用)
次に、近似ゼロ点標高補正法の検証例として、仮想MAT-J計測値をもとに無載荷状態標高を求めることを試みる。対象は仮想の計画高(UFL=-2.8425E-5x2+76.131)をもつ既設の吊橋(中央径間:L=712m)であり、ここに仮想の活荷重たわみを発生させた時の標高値を計測したものとし、これをもとに無載荷状態標高を求め、当初設定した計画高と比較する。両者の差が小さければ、「近似ゼロ点標高補正法により、無載荷状態標高を求めることができる」ことを意味している。
【0069】
橋桁の標高値に加算するたわみは、
図11に示した、MAT車(実際は橋梁検査車)がこの径間内を移動している時に発生したものであり、x座標を橋桁の計画形状線図に合わせている。
【0070】
橋桁に仮想のたわみを発生させた結果は
図12のようになる。この図は2次放物線の橋桁の計画高(UFL)に、
図11に示す活荷重たわみを加算したものである。
【0071】
図12に示された仮想MAT−J標高のデータに基づいて、近似ゼロ点標高補正法により、活荷重無載荷状態の標高を計算する。計算結果を下表3に示すとともに、
図13(一部)に示す。なお、計算に用いる定数k1、k3は、
図14に示す近似式により求めた。
【表3】
【0072】
本実施例2では、2次放物線形状を有する橋桁(UFL)に仮想の活荷重たわみ(L)を加算した値をMAT-J計測で得た標高値として、この値から橋桁の無載荷状態標高(Ho)を「近似ゼロ点標高補正法」で算出した。その結果、無載荷状態標高Hoは表2のAV列のようになり、計画高との差(Ho-UFL)は表2のAW列に示すように、最大値で0.00003mと極めて小さく、算出で得た無載荷状態標高(Ho)は仮想活荷重たわみを載荷させる前の橋桁形状(UFL)と同じとなった。
【0073】
この結果、近似ゼロ点標高補正法はMAT-J計測値をもとに無載荷状態標高を算出することが可能であると言える。
【0074】
〔他の形態例〕
(1)上記〔発明を実施するための形態〕の説明では、温度に対する補正については行っていないが、基準温度(ex.20℃)における活荷重無載荷時の標高とするには、基準温度に対する差分温度だけ温度補正を行うようにすればよい。一般的には、温度と標高とは一次線形の関係で表すことができるため、予め単位温度当たりの標高補正量を算出しておけば、簡単に温度分を補正することが可能である。