【解決手段】本発明は、核酸の正規化された定量化、および試料、例えば、核酸の混合物における核酸の数量についての正規化に関する。本発明は、試料中の定量化される核酸の数量を、試料中の核酸の総数量、または試料中の特定のクラスの核酸の総数量に対して正規化するための方法に関する。本発明は、試料中の核酸の正規化された定量化のためのキットであって、試料中の核酸の限定された領域または特定のクラスの核酸と実質的に相補的な1種以上の第1の核酸プローブであって、1種以上のプライマー結合部位および1つのプローブ結合部位を含む第1の核酸プローブ;ならびに前記第1の核酸プローブの前記プローブ結合部位と実質的に相補的な第2の核酸プローブを含むキットにも関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の混合物中の特定の核酸を定量化(定量)することは、遺伝子発現解析、または核酸の混合物から特定の核酸を精製する間などの分子生物学におけるいくつもの適用において重要である。定量化方法では、試料中の特定の核酸の濃度および/または相対的もしくは絶対的な量(amount)を決定する。特に、遺伝子発現の解析に関して、例えば生物試料中のmRNAのレベルを測定するために、再現性があり、かつ相対的方法が望まれる。例えば、比較できる容積、核酸量、細胞材料などを有する生物試料を必ずしも得ることができるとは限らない。異なる試料は、例えば、異なる生物体もしくは個体からの異なる組織、または異なる化合物で処理された細胞培養試料に由来するRNAまたはDNAを含み得る。
【0003】
さらに、検出の感度および選択性ならびに生物試料中の核酸の定量化が重要である。2つ以上の異なる(生物)試料において特定の核酸の数量を良好に比較するため、または試料中の2つ以上の異なる特定の核酸の数量を良好に比較するために、投入核酸に対するまたは特定のクラスの投入核酸に対する特定の核酸の数量について正規化を実施しなければならない。特定の核酸の数量は、例えば、これらの数量を、試料の内部標準と関連づける、または全体すなわち試料中の核酸の総量と、または試料中の特定のクラスの核酸の総量と関連づけることによって正規化することができる。
【0004】
(生物)試料中の核酸の従来の定量化のために、定量的(リアルタイム)PCR(qPCR)が広く使用されている。RNA、特にmRNAについて、定量的リアルタイム逆転写PCR(RT−qPCR)がこの分野において使用される。定量的PCR法から得られるデータを正規化するための異なる手法が使用されている。それらの中に、特定のmRNAの数量の、様々な参照遺伝子、例えば、ベータアクチン、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、または28SリボソームRNAもしくは18SリボソームRNAなどのハウスキーピング遺伝子またはメンテナンス遺伝子のうち1種以上のmRNAの数量に対する正規化がある。しかし、そのような正規子遺伝子(normalizer gene)の発現レベルは、実験条件、試料の調製物および供給源(例えば、組織または細胞の型)に応じて変動することが示されており、したがってそれらは投入核酸を確実に表すわけではない。したがって、通常、調査中の試料間で変化しないものを同定するために、一連の様々なハウスキーピング遺伝子を、困難で誤りがちな手順で試験する必要がある。
【0005】
他の手法は、例えば、DNAおよび/またはRNAの総含有量または例えば、リボソームRNA(rRNA)の総含有量に対する正規化を利用する。生物細胞および生物試料中のリボソームRNAの含有量も、種々の因子に応じて変動しやすく、同様にrRNAに対する正規化はあまり好ましくない。例えば、総核酸含有量、総RNA含有量またはゲノムDNAの総含有量に対する正規化を利用する方法も、例えば、これらの含有量または核酸試料の質の変動によって制限される。異質の分子または人工的な分子、例えば、試料(例えば、細胞抽出物または組織に由来する細胞抽出物または試料)に取り込まれたin vitro転写物に対する正規化も、それらが細胞中の核酸(例えば、ゲノムDNA、RNA、mRNA)含有量を表さないので、全ての場合で適切な手順であるわけではない。
【0006】
さらに、正規化されたデータおよび実験手順の再現性を比較するために、適用された実験条件を完全に文書化することが必要である。これは、特に対象の核酸および正規化する核酸の数量を、別々に、または異なる方法を使用して決定する場合に当てはまる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の根底にある技術的な問題は、核酸の数量を正規化するための改良された方法、特に、あまり困難ではなく誤りがちでない方法を開発し、提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、試料中または複数の試料中の(特定の)核酸(すなわち「標的核酸」)の数量を、試料(複数可)中の核酸の総数量;または試料(複数可)中の特定のクラスの核酸の総数量に対して正規化するための強力な改良された方法(複数可)を提供する。本発明は、試料中または複数の試料中の(特定の)核酸(すなわち「標的核酸」)の数量を、試料(複数可)中の核酸の総数量;または試料(複数可)中の特定のクラスの核酸の総数量に対して正規化するためのキットにも関する。
【0009】
本発明に関しては、特定のクラスの核酸は、とりわけ、RNA、DNA、cDNA(相補的DNA)、LNA(ロックド核酸)、mRNA(メッセンジャーRNA)、mtRNA(ミトコンドリアの)、rRNA(リボソームRNA)、tRNA(転移RNA)、nRNA(核RNA)、siRNA(低分子干渉RNA)、snRNA(低分子核RNA)、snoRNA(低分子核小体RNA)、scaRNA(低分子カハール体特異的RNA)、マイクロRNA、dsRNA(二本鎖RNA)、リボザイム、リボスイッチ、ウイルスRNA、dsDNA(二本鎖DNA)、ssDNA(一本鎖DNA)、プラスミドDNA、コスミドDNA、染色体DNA、ウイルスDNA、mtDNA(ミトコンドリアDNA)、nDNA(核DNA)、snDNA(低分子核DNA)など、または試料中の大量の核酸と区別可能な任意の他のクラスまたはサブクラスの核酸であってよい。
【0010】
本発明の手段および方法は、核酸プローブの使用を含む。本発明による核酸プローブは、特定の核酸配列と実質的に相補的なオリゴヌクレオチド、核酸またはその断片である。
【0011】
一般に、本発明は、試料中の定量化される核酸の数量を、
(i)試料中の核酸の総数量(total quantity)、または
(ii)試料中の特定のクラスの核酸の総数量
に対して正規化するための方法であって、
(a)定量化される核酸を含有する試料を供給するステップと、
(b)第1の核酸プローブの少なくとも末端領域が試料中の核酸の特異的な結合部位とハイブリダイズし、それによって二本鎖核酸が作出されることを可能にする条件下で、前記第1の核酸プローブを試料に加えるステップであって、前記第1の核酸プローブが、少なくとも1種のプライマー結合部位、プローブ結合部位、およびアンカーオリゴヌクレオチド結合部位を含むステップと、
c)アンカーオリゴヌクレオチドの5’配列が第1の核酸プローブとハイブリダイズしないように第1の核酸プローブのアンカーオリゴヌクレオチド結合部位とハイブリダイズことを可能にする条件下で、アンカーオリゴヌクレオチドを加えるステップと、
d)核酸の3’末端でその核酸を延長するステップであって、前記アンカーオリゴヌクレオチドが第1の核酸プローブとハイブリダイズし、そのアンカーオリゴヌクレオチドがさらなる延長のための鋳型として機能する領域に達するまで、前記第1の核酸プローブが鋳型として機能するステップと、
(e)試料中の核酸の総量(total amount)または試料中の特定のクラスの核酸の総量を、前記第1の核酸プローブおよびアンカーオリゴヌクレオチドから転写されたDNAの領域と実質的に相補的な第2のプローブを使用して定量化するステップと、
(f)定量化される核酸を、必要に応じて、その配列が定量化される核酸の限定された領域(defined region)と実質的に同一な第3のプローブを使用して定量化するステップと、
(g)定量化される核酸の数量と、試料中の核酸の総数量または試料中の特定のクラスの核酸の総数量との比を決定することによって、定量化される核酸の数量を正規化するステップと
を含む方法に関する。
【0012】
本発明は、試料中の核酸の正規化された定量化のためのキットであって、試料中の核酸の限定された領域または特定のクラスの核酸と実質的に相補的な1種以上の第1の核酸プローブであって、1種以上のプライマー結合部位および1つのプローブ結合部位を含む第1の核酸プローブ;ならびに前記第1の核酸プローブの前記プローブ結合部位と実質的に相補的な第2の核酸プローブを含むキットにも関する。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
試料中の定量化される核酸の数量を、
(i)上記試料中の核酸の総数量、または
(ii)上記試料中の特定のクラスの核酸の総数量
に対して正規化するための方法であって、
(a)定量化される核酸を含有する試料を供給するステップと、
(b)第1の核酸プローブの少なくとも末端領域が上記試料中の核酸の特異的な結合部位とハイブリダイズし、それによって二本鎖核酸が作出されることを可能にする条件下で、上記第1の核酸プローブを上記試料に加えるステップであって、上記第1の核酸プローブが、少なくとも1種のプライマー結合部位、プローブ結合部位、およびアンカーオリゴヌクレオチド結合部位を含むステップと、
(c)アンカーオリゴヌクレオチドの5’配列が上記第1の核酸プローブとハイブリダイズしないように上記第1の核酸プローブの上記アンカーオリゴヌクレオチド結合部位とハイブリダイズすることを可能にする条件下で、上記アンカーオリゴヌクレオチドを加えるステップと、
(d)上記核酸の3’末端で上記核酸を延長するステップであって、上記アンカーオリゴヌクレオチドが上記第1の核酸プローブとハイブリダイズし、上記アンカーオリゴヌクレオチドがさらなる延長のための鋳型として機能する領域に達するまで、上記第1の核酸プローブが鋳型として機能するステップと、
(e)上記試料中の核酸の総量または上記試料中の上記特定のクラスの核酸の総量を、上記第1の核酸プローブおよびアンカーオリゴヌクレオチドから転写されたDNAの領域と実質的に相補的な第2のプローブを使用して定量化するステップと、
(f)上記定量化される核酸を、必要に応じて、その配列が上記定量化される核酸の限定された領域と実質的に同一な第3のプローブを使用して定量化するステップと、
(g)上記定量化される核酸の数量と、上記試料中の核酸の総数量または上記試料中の上記特定のクラスの核酸の総数量との比を決定することによって、上記定量化される核酸の数量を正規化するステップと
を含む方法。
(項目2)
上記定量化される核酸がRNAであり、上記特定のクラスの核酸がRNAである、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記定量化されるRNAが、mRNA、rRNA、tRNA、nRNA、siRNA、snRNA、snoRNA、scaRNA、マイクロRNA、dsRNA、リボザイム、リボスイッチおよびウイルスRNAからなる群から選択されるRNAであり、RNAの総数量が、RNAの総数量、mRNAの総数量、rRNAの総数量、tRNAの総数量、nRNAの総数量、siRNAの総数量、snRNAの総数量、snoRNAの総数量、scaRNAの総数量、マイクロRNAの総数量、dsRNAの総数量、リボザイムの総数量、リボスイッチの総数量、ウイルスRNAの総数量からなる群から選択される、項目2に記載の方法。
(項目4)
上記定量化されるRNAがmRNAであり、上記特定のクラスの核酸がmRNAである、項目3に記載の方法。
(項目5)
上記特異的な結合部位がポリA配列またはポリA尾部である、項目4に記載の方法。
(項目6)
上記定量化される核酸がDNAであり、上記特定のクラスの核酸がDNAである、項目1に記載の方法。
(項目7)
上記定量化されるDNAが、cDNA、dsDNA、ssDNA、プラスミドDNA、コスミドDNA、染色体DNA、ウイルスDNAおよびmtDNAからなる群から選択されるDNAであり、DNAの総数量が、DNAの総数量、cDNAの総数量、dsDNAの総数量、ssDNAの総数量、プラスミドDNAの総数量、コスミドDNAの総数量、染色体DNAの総数量、ウイルスDNAの総数量およびmtDNAの総数量からなる群から選択される、項目6に記載の方法。
(項目8)
上記定量化されるDNAがcDNAであり、上記特定のクラスの核酸がcDNAである、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記特異的な結合部位がcDNAに特異的であるか、またはポリT配列もしくはポリT尾部である、項目8に記載の方法。
(項目10)
上記第1の核酸プローブがDNAまたはRNAである、項目1から9までのいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
定量化が、定量的リアルタイムPCRを含む、項目1から10までのいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
上記試料中のRNAまたは特定のクラスのRNAを逆転写することを可能にする条件下で、上記試料中のRNAを逆転写酵素と接触させるステップをさらに含む、項目2から5までのいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
上記第1の核酸プローブが、上記ポリA配列またはポリA尾部の5’末端に位置するかまたは上記ポリA配列またはポリA尾部の5’末端の近接部に位置するように上記特異的な結合部位とハイブリダイズする、項目5または項目10から12までのいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
定量化が、定量的リアルタイムPCRを含む、項目1から13までのいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
ライゲーションステップの後で、上記試料中のRNAまたは特定のクラスのRNAを逆転写することを可能にする条件下で、上記試料中のRNAを逆転写酵素と接触させるステップをさらに含む、項目2から5までのいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
上記定量化が、定量的リアルタイム逆転写PCRを含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
逆転写と定量化が同じ反応容器内で実施される、項目15または16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
上記第2の核酸プローブおよび第3の核酸プローブが、1種以上の蛍光色素で標識され、上記定量化ステップが、上記試料中の蛍光シグナルを検出することを含む、項目1から17までのいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
遺伝子発現レベルを正規化するための、項目1から18までのいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
さらに予め定量化された核酸を上記試料に加え、上記定量化ステップにおいて上記予め定量化された核酸の数量を決定する、項目1から19までのいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
項目1から20までのいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、(a)上記試料中の核酸の限定された領域または特定のクラスの核酸と実質的に相補的なアダプターオリゴヌクレオチドであって、1種以上のプライマー結合部位および1つのプローブ結合部位を含むアダプターオリゴヌクレオチドと、
(b)上記アダプターオリゴヌクレオチドの上記プローブ結合部位と実質的に相補的なアンカーオリゴヌクレオチドであって、上記アダプターオリゴヌクレオチドに対する結合配列の5’側にタグ配列を含むアンカーオリゴヌクレオチド
を含むキット。
(項目22)
特異的な核酸の数量を参照核酸の数量に対して正規化するための、項目1から20までのいずれか一項に記載の方法または項目21に記載のキットの使用。
(項目23)
遺伝子発現解析のための、項目1から20までのいずれか一項に記載の方法または項目21に記載のキットの使用。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、試料中の定量化される核酸の数量を、
試料中の核酸の総数量、または
試料中の特定のクラスの核酸の総数量
に対して正規化するための方法であって、
定量化される核酸を含有する試料を供給するステップと、
第1の核酸プローブの少なくとも末端領域が試料中の核酸の特異的な結合部位とハイブリダイズし、それによって二本鎖核酸が作出されることを可能にする条件下で、前記第1の核酸プローブを試料に加えるステップであって、前記第1の核酸プローブが、少なくとも1種のプライマー結合部位、プローブ結合部位、およびアンカーオリゴヌクレオチド結合部位を含むステップと、
アンカーオリゴヌクレオチドの5’配列が第1の核酸プローブとハイブリダイズしないように第1の核酸プローブのアンカーオリゴヌクレオチド結合部位とハイブリダイズすることを可能にする条件下で、アンカーオリゴヌクレオチドを加えるステップと、
核酸の3’末端でその核酸を延長するステップであって、前記アンカーオリゴヌクレオチドが第1の核酸プローブとハイブリダイズし、そのアンカーオリゴヌクレオチドがさらなる延長のための鋳型として機能する領域に達するまで、前記第1の核酸プローブが鋳型として機能するステップと、
試料中の核酸の総量または試料中の特定のクラスの核酸の総量を、前記第1の核酸プローブおよびアンカーオリゴヌクレオチドから転写されたDNAの領域と実質的に相補的な第2のプローブを使用して定量化するステップと、
定量化される核酸を、必要に応じて、その配列が定量化される核酸の限定された領域と実質的に同一な第3のプローブを使用して定量化するステップと、
定量化される核酸の数量と、試料中の核酸の総数量または試料中の特定のクラスの核酸の総数量との比を決定することによって、定量化される核酸の数量を正規化するステップとを含む方法を提供する。
【0015】
「試料中の核酸の総数量」または「試料中の特定のクラスの核酸の総数量」は、定量化される核酸の数量を正規化するための参照数量(参照核酸)を指す。
【0016】
本発明の特定の実施形態では、定量化される核酸はRNAであり、特定のクラスの核酸はRNAである。
【0017】
試料は、定量化される核酸を含む核酸分子を少なくとも含有する。核酸は、細胞または生物体に埋め込むことができるが、無細胞系の中に存在してもよい。試料は、流体、溶解物、固体マトリックスまたは核酸分子を含む他の任意の試料であってよい。
【0018】
本発明に関しては、核酸は、デオキシリボ核酸(desoxyribo nucleic acid)(DNA)、リボ核酸(RNA)またはペプチド核酸(PNA)に関する。DNAおよびRNAは、生物体において天然に存在するが、DNAおよびRNAは生きている生物体の外側に存在してもよい、または生物体に追加されてもよい。核酸は、任意の起源、例えば、ウイルス起源、細菌起源、古細菌起源、真菌起源、リボソーム起源、真核生物起源または原核生物起源のものであってよい。これは、任意の生物学的試料および任意の生物体、組織、細胞または細胞下区画に由来する核酸であってよい。これは、例えば、植物、真菌、動物からの核酸、特にヒトの核酸であってよい。核酸は、定量化する前に、例えば、単離、精製または改変によって前処理することができる。人工的な核酸も定量化することができる。核酸の長さは変動してよい。核酸は、改変されてよく、例えば、1つ以上の改変された核酸塩基または改変された糖部分(例えば、メトキシ基を含む)を含んでよい。核酸の骨格は、ペプチド核酸(PNA)にあるような1つ以上のペプチド結合を含んでよい。核酸は、非プリン類似体または非ピリミジン類似体またはヌクレオチド類似体などの塩基類似体を含んでよい。核酸は、タンパク質、ペプチドおよび/またはアミノ酸などの追加的な付着物も含んでよい。
【0019】
「試料中の核酸の総数量」または「試料中の特定のクラスの核酸の総数量」は、ポリメラーゼによって延長することができる3’末端を有する核酸に関する。これらの核酸または核酸のクラスはDNAまたはRNAであることが好ましく、mRNAまたはcDNAであることが最も好ましい。
【0020】
定量化される核酸は、RNAまたはDNAであることが好ましく、特定のmRNAまたはcDNAであることが最も好ましい。
【0021】
本発明の特定の実施形態では、定量化されるDNAは、cDNA、dsDNA、ssDNA、プラスミドDNA、コスミドDNA、染色体DNA、ウイルスDNAおよびmtDNAからなる群から選択されるDNAであり、DNAの総数量は、DNAの総数量、cDNAの総数量、dsDNAの総数量、ssDNAの総数量、プラスミドDNAの総数量、コスミドDNAの総数量、染色体DNAの総数量、ウイルスDNAの総数量およびmtDNAの総数量からなる群から選択される。
【0022】
別の特定の実施形態では、定量化されるRNAは、mRNA、rRNA、tRNA、nRNA、siRNA、snRNA、snoRNA、scaRNA、マイクロRNA、dsRNA、リボザイム、リボスイッチおよびウイルスRNAからなる群から選択されるRNAであり、RNAの総数量は、RNAの総数量、mRNAの総数量、rRNAの総数量、tRNAの総数量、nRNAの総数量、siRNAの総数量、snRNAの総数量、snoRNAの総数量、scaRNAの総数量、マイクロRNAの総数量、dsRNAの総数量、リボザイムの総数量、リボスイッチの総数量、ウイルスRNAの総数量からなる群から選択される。
【0023】
第1の核酸プローブ(「アダプター核酸」)は、本明細書では、核酸の(または核酸の特定のクラスの核酸の)特定の結合配列と実質的に相補的な末端配列を含む核酸プローブである。この相補的な配列は第1の核酸プローブの3’末端にあり、結合配列は核酸の3’末端にあることが好ましい。第1の核酸プローブは、アンカーオリゴヌクレオチドのための結合部位および必要に応じて別のプローブ結合部位またはプライマー結合部位を含む。
【0024】
当業者は、延長反応の反応温度、使用する特定の酵素(複数可)(例えば、耐熱性ポリメラーゼ、逆転写酵素)およびそれぞれの結合パートナーの配列に応じて、どのようにプローブおよびプライマーの長さおよび配列を選択したらいいか分かっている。
【0025】
アンカーオリゴヌクレオチド(「アンカープローブ」)は、第1の核酸のアンカーオリゴヌクレオチド結合部位に結合する(ハイブリダイズする)配列、すなわち結合部位の配列と実質的に相補的な配列を含む。さらに、アンカーオリゴヌクレオチドは、第2の核酸プローブのための結合配列と相補的な結合部位の5’側にタグ配列および必要に応じて別のプローブ結合部位および/またはプライマー結合部位を含む。タグ配列およびアダプターオリゴヌクレオチド結合配列は、定量化される核酸または参照核酸にはそれらが現れないように選択する。
【0026】
第2の核酸プローブは、アンカーの5’配列が鋳型として機能して延長される配列と相補的な配列を含む、すなわちアンカーオリゴヌクレオチドおよび第2のオリゴヌクレオチドは、一続きの同一の配列を含む。
【0027】
第3の核酸プローブは、定量化される核酸の配列と実質的に相補的な配列を含む。
【0028】
本発明に関して、逆転写酵素活性を有する酵素は、ウイルス起源、細菌起源、古細菌起源および真核生物起源、特に耐熱性の生物体由来のものを含めた種々の起源の酵素であってよい。これは、イントロン、レトロトランスポゾンまたはレトロウイルス由来の酵素を含む。本発明に関して、逆転写酵素活性を有する酵素は、相補的なデオキシリボ核酸またはリボ核酸とハイブリダイズした、またはその逆のデオキシリボ核酸またはリボ核酸の3’末端に、前記デオキシリボ核酸またはリボ核酸と相補的な1種以上のデオキシリボヌクレオチドを、適切な反応条件、例えば、バッファーの条件で付加することができる酵素である。これは、内因性に逆転写酵素を有する酵素だけでなく、その遺伝子配列が進化もしくは変異してそのような機能を獲得した酵素、またはバッファーもしくは他の反応パラメータを調整することによってそのような機能を獲得する酵素も含む。
【0029】
本発明に関しては、逆転写酵素活性を有する酵素は、HIV逆転写酵素、M−MLV逆転写酵素、EAIV逆転写酵素、AMV逆転写酵素、Thermus thermophilus DNAポリメラーゼI、M−MLV RNアーゼH、Superscript、Superscript II、Superscript III、Monstersript(Epicentre)、Omniscript、Sensiscript Reverse Transcriptase(Qiagen)、ThermoScriptおよびThermo−X(どちらもInvitrogen)を含む群から選択されることが好ましい。酵素は、例えば、AccuScript逆転写酵素(Stratagene)のように、上昇した忠実度を有してもよい。1種以上の適切な逆転写酵素活性を有する酵素を混合して、最適化された条件または新規の特徴を獲得することができることを、当業者は知っている。これは、とりわけ、例えば、中温性酵素と好熱性酵素の混合物、またはRNアーゼH活性を有する酵素とRNアーゼH陰性である酵素の混合物、または忠実度が上昇した酵素と好熱性酵素の混合物を含むことができる。 本発明の範囲内の逆転写酵素活性を有する好ましい酵素の一覧に基づいて、多数の他の組み合わせが可能である。
【0030】
「プライマー」は、本明細書では、転写される核酸(「鋳型」)と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドを指す。複製の間、ポリメラーゼによって、ヌクレオチドが、鋳型のそれぞれのヌクレオチドと相補的なプライマーの3’末端に付着する。
【0031】
定量化されるRNAがmRNAであり、特定のクラスの核酸がmRNAであることが好ましい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、特異的な結合部位はポリA配列またはポリA尾部である。
【0033】
本発明の他の実施形態では、定量化される核酸はDNAであり、特定のクラスの核酸はDNAである。
【0034】
定量化されるDNAがcDNAであり、特定のクラスの核酸がcDNAであることが好ましい。
【0035】
特に、特異的な結合部位は、mRNAに特異的である、またはポリA配列もしくはポリA尾部である。ポリA尾部は、試料RNA中に天然に存在するままであってよい。ポリA尾部を含有しないRNAの場合は、適切なホモポリマーの尾部をRNAの3’末端に付加するための実験手順を利用することができる。そのような尾部は、A塩基、C塩基、G塩基、もしくはU塩基または適切な塩基類似体で構成されてよい。そのような尾部の付加は、化学的にまたは酵素的に実施することができる。酵素は、ポリAポリメラーゼ、ターミナルトランスフェラーゼ、リガーゼ、または核酸の3’末端へのヌクレオチドの付加または連結を触媒する他の適切な酵素のクラスから選択することができる。
【0036】
第1の核酸プローブは、DNAまたはRNAであることが好ましい。
【0037】
本発明の一部の実施形態では、定量化は、非等温増幅方法であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、特に、NASBA(核酸配列に基づく増幅)、TMA(転写媒介性増幅)、3SR(自続配列増幅)、SDA(鎖置換増幅)、HDA(熱不安定性酵素または熱安定性酵素を用いたヘリカーゼ依存性増幅)、RPA(リコンビナーゼポリメラーゼ増幅)、LAMP(ループ媒介性増幅)などの定量的リアルタイムPCRまたは等温増幅方法など;またはSMAP(SMart増幅プロセス)などの核酸増幅反応を含む。これらの技術では、当業者に周知の2〜3種の異なる酵素、タンパク質、プライマーおよびアクセサリー分子を使用する。ポリメラーゼとしては、Thermus thermophilus(Tth)DNAポリメラーゼ、Thermus acquaticus(Taq)DNAポリメラーゼ、Thermotoga maritima(Tma)DNAポリメラーゼ、Thermococcus litoralis(Tli)DNAポリメラーゼ、Pyrococcus furiosus(Pfu)DNAポリメラーゼ、Pyrococcus woesei(Pwo)DNAポリメラーゼ、Pyrococcus kodakaraensis KOD DNAポリメラーゼ、Thermus filiformis(Tfi)DNAポリメラーゼ、Sulfolobus solfataricus Dpo4 DNAポリメラーゼ、Thermus pacificus(Tpac)DNAポリメラーゼ、Thermus eggertsonii(Teg)DNAポリメラーゼおよびThermus flavus(Tfl)DNAポリメラーゼおよびファージ、例えば、Phi29ファージ、Cp−1、PRD−1、Phi 15、Phi 21、PZE、PZA、Nf、M2Y、B103、SF5、GA−1、Cp−5、Cp−7、PR4、PR5、PR722またはL 17などのPhi29様ファージのポリメラーゼを含む群から選択されるポリメラーゼが挙げられる。ポリメラーゼとしては、E.coli、T4、T7などの他の生物体由来のポリメラーゼも挙げられる。他の追加的なタンパク質、例えばヘリカーゼ、一本鎖の結合性タンパク質または他のDNA−結合性タンパク質およびリコンビナーゼによって、方法を改善することができる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、前記第1の核酸プローブは、前記ポリA配列またはポリA尾部の5’末端に位置するかまたは前記ポリA配列またはポリA尾部の5’末端の近接部に位置するように、すなわち、5’末端から5ヌクレオチド、10ヌクレオチド、20ヌクレオチドの範囲内で、前記特異的な結合部位とハイブリダイズする。好ましくは、前記第1の核酸プローブは、前記ポリA配列またはポリA尾部の5’末端に位置するように前記特異的な結合部位とハイブリダイズし、本明細書では、5’末端から0ヌクレオチド、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、5ヌクレオチド、10ヌクレオチドの範囲内にあることを意味する。
【0039】
定量化するステップは、一部の実施形態では、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、その後に検出測定を伴う標識化反応、および定量的リアルタイムPCRからなる群から選択される方法を含んでよい。定量化は、定量的リアルタイムPCRまたは定量的リアルタイム逆転写PCRを含むことが好ましい。本発明の好ましい実施形態では、定量化ステップ(複数可)は、(i)RNA依存性DNAポリメラーゼ(すなわち逆転写酵素)を使用して、RNA(例えば、mRNA)をDNA(例えば、cDNA)に逆転写すること、(ii)逆転写によって作製されたDNAを、PCRを使用して増幅すること、および(iii)増幅産物をリアルタイムで検出し、定量化することを含む。
【0040】
本発明の一部の実施形態は、ライゲーションステップの後で、試料中のRNAまたは特定のクラスのRNAを逆転写することを可能にする条件下で、試料中のRNAを逆転写酵素と接触させるステップをさらに含む。
【0041】
本発明の一部の実施形態では、逆転写するステップと定量化するステップを同じ反応容器内で実施する。
【0042】
逆転写酵素は、定量化ステップの間に増幅のためにも使用するポリメラーゼであってよい。
【0043】
選択的プライマーまたはランダムプライマーを、定量的リアルタイムPCRにおいて使用して、第1の核酸プローブのcDNAを定量化することができる。リアルタイムPCRにおいて選択的プライマーを使用することが好ましい。より好ましい実施形態では、第1の核酸プローブから生成したcDNAの増幅を可能にする選択的プライマー、必要に応じて追加的な核酸プローブを使用する。必要に応じて、1種以上の追加的な選択的プライマーセットが反応物中に存在し、必要に応じて追加的な核酸プローブにより、定量化されるもう1つの標的核酸種を共増幅(多重増幅)することが可能になる。
【0044】
本発明の一部の実施形態では、定量化される核酸の数量および核酸の総数量または特定のクラスの核酸の総数量を一度に決定する。
【0045】
第2の核酸プローブおよび第3の核酸プローブは、1種以上の蛍光色素(複数可)で標識し、定量化するステップは、試料中の蛍光シグナルを検出することを含む。
【0046】
第2の核酸プローブおよび第3の核酸プローブはハイブリダイゼーションプローブ、加水分解プローブおよびヘアピンプローブからなる群から選択される蛍光標識されたプローブであることが好ましい。
【0047】
特に、蛍光標識されたプローブは、FAM、VIC、NED、フルオレセイン、FITC、IRD−700/800、CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、HEX、TET、TAMRA、JOE、ROX、BODIPY TMR、Oregon Green、Rhodamine Green、Rhodamine Red、Texas Red、Yakima Yellow、Alexa FluorおよびPETからなる群から選択される色素で標識する。
【0048】
特に、ハイブリダイゼーションプローブはLightCyclerプローブ(Roche)である、または加水分解プローブはTaqManプローブ(Roche)である。他の実施形態では、ヘアピンプローブは、分子ビーコン、Scorpionプライマー、Sunriseプライマー、LUXプライマーおよびAmplifluorプライマーからなる群から選択される。
【0049】
一部の実施形態では、本発明による手段および方法を、遺伝子発現レベルを正規化するために使用する。
【0050】
本発明の一部の実施形態では、さらに、予め定量化された核酸を試料に加え、前記予め定量化された核酸の数量を、定量化するステップにおいて決定する。予め定量化された核酸はmRNAであることが好ましい。
【0051】
定量化される2つ以上の核酸の数量は、同時に、すなわち一緒に正規化することが好ましい。
【0052】
本発明は、上記の方法のいずれか1つの方法を実施するためのキットにも関し、キットは、(a)試料中の核酸の限定された領域または特定のクラスの核酸と実質的に相補的な1種以上の第1の核酸プローブであって、1種以上のプライマー結合部位および1つのプローブ結合部位を含む第1の核酸プローブと、(b)前記第1の核酸プローブの前記プローブ結合部位と実質的に相補的なアダプターオリゴヌクレオチドとを含む。
【0053】
したがって、本発明は、試料中の核酸の正規化された定量化のためのキットに関し、キットは、(a)試料中の核酸の限定された領域または特定のクラスの核酸と実質的に相補的な1種以上の第1の核酸プローブであって、1種以上のプライマー結合部位および1つのプローブ結合部位を含む第1の核酸プローブと、(b)前記第1の核酸プローブの前記プローブ結合部位と実質的に相補的な第2の核酸プローブとを含む。
【0054】
キットは、好ましくは、
− 試料中の核酸の限定された領域または特定のクラスの核酸と実質的に相補的なアダプターオリゴヌクレオチドであって、1種以上のプライマー結合部位および1つのプローブ結合部位を含むアダプターオリゴヌクレオチドと、
− 前記アダプターオリゴヌクレオチドの前記プローブ結合部位と実質的に相補的なアンカーオリゴヌクレオチドであって、アダプターオリゴヌクレオチドに対する結合配列の5’であるタグ配列を含むアンカーオリゴヌクレオチドと
を含むことができる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、キットは、ポリメラーゼをさらに含む。キットは、ヌクレオチド混合物および反応バッファー(複数可)もさらに含んでよい。一部の実施形態では、キットは、逆転写酵素をさらに含む。
【0056】
特定の実施形態では、キットは、1種以上の予め定量化された較正用核酸、前記較正用核酸を増幅するためのプライマーセットおよび前記予め定量化された核酸の配列と実質的に相補的な第1の核酸プローブをさらに含む。
【0057】
キットは、
− 第1の核酸プローブ(アダプターオリゴヌクレオチド)
− アンカーオリゴヌクレオチドのタグ配列および/または
− アンカーオリゴヌクレオチドのタグ配列またはタグ配列の一部と実質的に相補的な配列
と実質的に相補的なプライマーをさらに含んでよい。
【0058】
キットは、第2の核酸プローブおよび/または第3の核酸プローブもさらに含んでよく、第2の核酸プローブはアンカーオリゴヌクレオチドのタグ配列またはタグ配列の一部と実質的に相補的な配列と実質的に相補的であり、第3の核酸プローブは、定量化される核酸の配列と実質的に相補的である。
【0059】
一部の実施形態では、1つ以上の構成成分を同じ反応容器内で予備混合する。
【0060】
本明細書で上に示したように、遺伝子発現の解析に関して、試料中のmRNAの定量化は、定量的リアルタイム逆転写PCR(RT−qPCR)を使用して実施することができる。RT−qPCR法では、3つのステップ:(i)RNA依存性DNAポリメラーゼ(すなわち逆転写酵素)を使用して、mRNAをcDNAに逆転写するステップ、(ii)PCRを使用してcDNAを増幅するステップ、および(iii)増幅産物をリアルタイムで検出し、定量化するステップの組み合わせを使用する。逆転写およびPCRに基づく増幅のために、dNTP(「ヌクレオチド混合物」)が反応バッファー中に存在することが必要である。本発明によるヌクレオチド混合物は、PCRにおいて使用するために適したdNTPの混合物、すなわち、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP/dUTPの混合物である。本発明の特定の実施形態に関して、これらのdNTPの相対的な量は、鋳型核酸の特定のヌクレオチド含有量に応じて適合させることができる。RT−qPCRのステップは、一段階のプロセス、または二段階のプロセスのいずれかで実施することができる。第1の場合では、逆転写およびPCRに基づく増幅は、同じ反応容器内で、例えば、Thermus thermophilus(Tth)ポリメラーゼのような内因性逆転写機能性を有するDNAポリメラーゼを利用することによって実施する。二段階の設定では、RNAを逆転写するステップとDNAを増幅するステップを、別々に、例えば、異なる反応容器内で実施する。本発明による方法のステップは、例えば、マグネシウムイオンなどの塩を含む適切な反応バッファー中で行うことができる。すでに述べた通り、異なるステップは、同じバッファーおよび反応容器中で行ってよい、または、同じバッファーおよび反応容器中で行わなくてよい。RT−qPCRと対照的に、qPCRでは、逆転写は実施されず、したがって、これはRNAではなくDNAについての定量化方法である。
【0061】
RT−qPCRにおける(m)RNAの逆転写ならびにqPCRおよびRT−qPCRにおける(c)DNAの増幅には、オリゴヌクレオチド(「プライマー」)によってプライミングすることが必要である。RT−qPCRを用いてmRNAを定量化する場合では、mRNAに特異的なオリゴヌクレオチド、例えば、mRNAのポリA尾部とハイブリダイズするオリゴ−dTプライマーを使用することができる。しかし、長さが異なるランダムプライマーも利用することができる。
【0062】
さらに、標準の定量的リアルタイムPCRプロトコールおよびキットを、本発明による手段および方法に適合させるまたは修正することができる。
【0063】
上記の通り、リアルタイムPCR(本明細書では定量的PCRまたは定量的リアルタイムPCR(qPCR)とも称される)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して、核酸を同時に増幅し定量化するための方法である。定量的リアルタイム逆転写PCR(RT−qPCR)は、RNAをDNAに、例えば、mRNAをcDNAに逆転写することをさらに含む定量的リアルタイムPCR法である。qPCR法およびRT−qPCR法では、増幅された核酸は、それが蓄積するにつれて定量化される。一般には、二本鎖DNAに挿入する蛍光色素(例えば、臭化エチジウムもしくはSYBR(登録商標)Green I)または相補的な核酸とハイブリダイズしたときに(例えば、DNAの蓄積)蛍光を発する改変された核酸プローブ(「レポータープローブ」)を、qPCRに基づく方法における定量化のために使用する。特に、蛍光発生プライマー、ハイブリダイゼーションプローブ(例えば、LightCyclerプローブ(Roche))、加水分解プローブ(例えば、TaqManプローブ(Roche))、または分子ビーコン、Scorpionプライマー(DxS)、Sunriseプライマー(Oncor)、LUXプライマー(Invitrogen)、Amplifluorプライマー(Intergen)などのヘアピンプローブなどを、レポータープローブとして使用することができる。本発明に従って、蛍光発生プライマーまたはプローブは、例えば蛍光色素が付着、例えば、共有結合的に付着したプライマーまたはプローブであってよい。そのような蛍光色素は、例えば、FAM(5−カルボキシフルオレセインまたは6−カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、FITC、IRD−700/800、CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、HEX、TET、TAMRA、JOE、ROX、BODIPY TMR、Oregon Green、Rhodamine Green、Rhodamine Red、Texas Red、Yakima Yellow、Alexa Fluor、PETなどであってよい。特定のレポータープローブは、蛍光クエンチャーをさらに含んでよい。
【0064】
本発明の例示的だが非限定的な実施形態では、試料中の特定のmRNAを定量化し、その数量を、試料中の全部のmRNAの数量に対して正規化する。mRNAの全数量を、アダプターオリゴヌクレオチド(本明細書では「第1の核酸プローブ」)、アンカーオリゴヌクレオチドおよび第2の核酸プローブを使用して定量化する。特定のmRNAの数量を、第3の核酸プローブを使用して定量化する。定量化は、この実施形態では、定量的逆転写リアルタイムPCRを使用して実施し、ここで、第1の核酸プローブはmRNAのポリA尾部と相補的な配列を含む。第1の核酸プローブは、アンカーオリゴヌクレオチドプローブが結合するためのアダプターとして機能する。第1の核酸プローブは、アンカーオリゴヌクレオチドが第1の核酸プローブに結合する領域に達するまでmRNAを延長するための鋳型として機能し、そこからは核酸プローブの5’配列が鋳型として機能する。これにより、プライマー配列および/またはプローブ配列が導入された延長したmRNAが生じる。複製に際して、導入されたプライマー結合部位および/またはプローブ結合部位が、標識されたプライマーおよび/またはプローブを用いたリアルタイムPCRを使用した定量化に役立つ。定量化される特定のmRNAは、標識されたプローブおよび/またはプライマーを使用して定量化する。
【0065】
本発明は、特定の核酸の数量を参照核酸の数量に対して正規化するための本発明の方法または本発明のキットの使用にも関する。
【0066】
さらに、本発明は、遺伝子発現解析のための、本発明の方法または本発明のキットの使用にも関する。
【0067】
本発明に関しては、mRNAは、種々の種から天然に生じるようなポリアデニル化メッセンジャーRNAであることが好ましい場合がある。mRNAは、天然にポリA尾部を伴う、またはポリA尾部を伴わない任意のmRNAであってもよく、ポリヌクレオチド尾部は、適切な方法、例えば、酵素、好ましくはポリAポリメラーゼによってin vitroで付加される。
【0068】
1−xは、天然に存在する、またはin vitroで付加されたポリヌクレオチド尾部の長さを記載する。適切な長さは、1〜数千まで変動する。
【0069】
A[A]AAAAは、ポリヌクレオチド尾部を記載し、それは天然に存在するポリA尾部、または適切な方法によってin vitroで付加されたポリヌクレオチド尾部であってよい。3’OHは酵素的な伸長を可能にするために利用可能である。
【0070】
アダプター核酸は、核酸のオリゴヌクレオチド、RNAまたはDNAまたはそれらの類似形態である。アダプター核酸は、天然に存在するポリA尾部であり得るポリヌクレオチド尾部に所与の反応条件下でハイブリダイズするエレメントから構成される。ポリA尾部を担持するmRNAの場合、ハイブリダイズエレメントは、Aと相補的な塩基、すなわちU塩基またはT塩基から構成されることが好ましい。好ましい実施形態では、ハイブリダイズエレメントの長さは、1〜150ヌクレオチド、より好ましくは2〜100ヌクレオチド、最も好ましくは4〜80ヌクレオチドである。有用な長さは、利用可能な作製技術または合成技術によって制限され得る。
【0071】
アダプター核酸は、アダプター配列を含む。アダプター配列は、検出方法において、この配列を鋳型として使用して生成したcDNAを特異的に検出することを可能にするために十分な長さを有するように選択されることが好ましい。1つの好ましい検出方法はPCRである。この場合、アダプター配列は、少なくとも1種のPCRプライマーに対して、および必要に応じて1種以上の配列特異的なプローブに対して十分な長さを有する。このアダプター核酸の3’OH基を遮断して伸長を妨げることができる、またはcDNAの合成を可能にするために、このアダプター核酸の3’OH基は遊離していてよい。3’OHを遮断するための適切な方法は、当技術分野で公知の標準の方法である。適切な方法は、3’リン酸基、逆塩基、脂肪族リンカー、アミノ改変因子、または他のものであってよい。
【0072】
酵素は、プライマーとしてポリヌクレオチド尾部を、および鋳型としてアダプター核酸を使用したcDNAの合成を可能にする少なくとも1つの酵素である。ポリA尾部またはアダプター核酸に使用される核酸の型に応じて、種々の酵素が可能である。これは、中温性の生物体または好熱性の生物体を起源としてよく、5℃〜100℃、好ましくは10℃〜80℃、最も好ましくは15℃〜75℃の温度範囲で活性をもたらす。
【0073】
dNTPは、DNA合成に必要とされるデオキシヌクレオチド三リン酸である。混合物は、必要に応じて、改変されたヌクレオチドまたは標識されたヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を含有してよい。
【0074】
本発明に関して、「バッファー」は、所与の反応温度および所与の1種以上の酵素でcDNAを合成するための反応条件をもたらす1種以上の緩衝物質、適切なpH、カチオン、Mg
++のような補因子をもたらす適切な緩衝溶液である。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
アダプターオリゴヌクレオチドおよびアンカーオリゴヌクレオチドを使用したcDNAの生成および検出ならびにリアルタイムPCRでのcDNAの検出。
【0076】
本実験では、
図1に示されている概念の実現性を実証するものとする。反応物は、表1に示されている通り構成され、表2に示されているプロトコールを用いて行う。反応容積は、検出されるべきRNAの量に左右される(表1参照)。この目的のために、表3の試薬を使用した。RNA試料は、標準の手順(Rneasy Kit、Qiagen)を使用してHela細胞から単離した全RNAであった。バックグラウンドシグナルについての対照として、1μgの全Hela RNAならびにアダプターおよびアンカー核酸を除く全ての構成成分を用いた陰性対照反応cDNA合成反応物。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
逆転写した後、次いで、生成したcDNAを、リアルタイムPCRにおいて観察されたCt値とcDNAの合成において使用したRNAの量の相関が観察され得るかどうかどうかを分析するために、SYBR Greenに基づくリアルタイムPCRにおいて鋳型として使用した。
【0080】
この目的のために、RT酵素を不活性化した後(表2参照:95℃で5分間)、cDNA合成反応物5μlを、以下のリアルタイムPCRにおいて各反応の鋳型として加えた。リアルタイムPCRにおける検出を、SYBR Greenの化学作用を用いて行った。表5に、SYBR GreenリアルタイムPCR反応のための構成を示す。PCR反応物は、表4からの構成成分を用いて調製した。各条件について2連の反応を実施した。その後、表6に示されているサイクリングを実施した。リアルタイムPCRは、Applied Biosystems 7500 Real−time PCR Systemで行った。その後にデータを適切なソフトウェア(SDSソフトウェア)を用いて解析した。結果を表7に示す。
【0081】
これらの結果から、リアルタイムPCRにおいて観察されたCt値とcDNA合成反応における投入RNAの量の相関を観察することができることが明らかになる。表7に示した通り、投入RNAの量とCt値との間の、デルタCtと称されるCtの差異は、理論的なCt差異とほぼ完全に適合する。1μgと500ngとの間の2倍の差異に対して、1.08のCtの差異が観察された。所与の条件における所与のPCRアッセイの100%に近いPCR効率(データは示さず)およびリアルタイムPCR計器の測定の不正確さを考慮に入れると、これらの値は、最適な理論的差異である1.0にほぼ正確に適合する。500ngと100ngとの間の5倍の差異については、2.36のCtの差異が観察された。所与の100%のPCR効率での5倍の差異についての理論的差異は2.32である。したがって、本実施例において、投入RNAの量とCt値との間に非常に良好な相関が観察され、これは、このシステムが試料中の全核酸、例えば、RNAを定量化する、および、これらの値を試料中の核酸、例えば、RNAの総量を正規化するために使用するのに適していることを実証している。
【0082】
陰性対照反応物(1μgの全Hela RNAおよびアダプター核酸およびアンカー核酸を除く全ての構成成分を有するcDNA合成反応物からの5μl)は、「未決定の」Ct値に示されるように、PCRにおいて、45サイクル後に陰性のままであり、これは、反応の高い特異性を実証している。
【0083】
総合すると、
図1に示されている概念により、試料中の核酸、例えば、RNAを定量化し、その後に正規化することが可能になる。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】