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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-37991(P2015-37991A)
(43)【公開日】2015年2月26日
(54)【発明の名称】ワーク吊り治具
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/54 20060101AFI20150130BHJP
【FI】
   B66C1/54
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-125971(P2013-125971)
(22)【出願日】2013年6月14日
(71)【出願人】
【識別番号】596170228
【氏名又は名称】株式会社 タガミ・イーエクス
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】村田 義人
(72)【発明者】
【氏名】青木 剛
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004AA06
3F004AB17
3F004AD01
3F004AE05
(57)【要約】
【課題】例えば筒状のワークを簡易な構成で容易かつ確実に吊り上げることができるワーク吊り治具を提供する。
【解決手段】水平方向に対向する対向壁面部3a,3bを有して上方に開口されたワーク2を吊り上げる際に用いられるワーク吊り治具1Aであって、対向壁面部3a,3bの間の距離よりも両端間の距離が長くて一端を他端よりも低い位置として上下方向に所定角度傾けることで両端が対向壁面部3a,3bに同時に接触可能な当接部材4Aを備え、この当接部材4Aの略中央よりも一端側に、吊上げ力を作用させる吊り孔7を設けるものとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に対向する対向壁面部を有して上方に開口されたワークを吊り上げる際に用いられるワーク吊り治具であって、
前記対向壁面部の間の距離よりも両端間の距離が長くて一端を他端よりも低い位置として上下方向に所定角度傾けることで両端が前記対向壁面部に同時に接触可能な当接部材を備え、この当接部材の略中央よりも一端側に、吊上げ力を作用させる吊り部を設けることを特徴とするワーク吊り治具。
【請求項2】
前記当接部材の両端間の距離が調整可能とされる請求項1に記載のワーク吊り治具。
【請求項3】
前記当接部材がワークの重心の上方に配されるように位置決めする位置決め手段が設けられる請求項1または2に記載のワーク吊り治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば筒状のワークを吊り上げる際に用いられて好適なワーク吊り治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば筒状のワークを吊り上げる方法として、マグネットの吸着力を利用したマグネット吊具を用いてワークの上端面を吸着して吊り上げる方法や、ワークの底に敷板を敷いてその敷板を外側から吊り上げることでワークを吊り上げる方法などがある。
【0003】
しかし、上記のマグネット吊具を用いたものでは、マグネットの吸着力不足等の不備でワークが落下する恐れがあり、安全面で問題がある。一方、敷板を用いたものでは、ワークの下に敷板を敷くことが非常に困難かつ面倒で非効率であるという問題がある
【0004】
これらの問題を解決し得るものが、例えば特許文献1にて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−10384号公報
【0006】
この特許文献1にて提案されているものは、管内面に当接させて管を吊着する吊着治具であって、上端に把持部を有するとともに下端にストッパを有するガイド用ワイヤロープを備えている。
このガイド用ワイヤロープには、円筒形の上部保持具および下部保持具がそれぞれ当該ガイド用ロープに沿って移動可能に装着されている。これら上部保持具および下部保持具の間の複数個所は、外向きに屈曲自在に連結される2本のアームで繋がれている。これら2本のアームの屈曲部には、屈曲部保持具を介して押し当て部材が装着されている。
この吊着治具においては、管内に挿入するガイド用ワイヤロープを把持部で吊上げ、自重で複数個所の2本のアームを外向きに屈曲させることにより、屈曲部保持具に装着された押し当て部材を管内面に押し付けて管を吊着することができるようになっている。
【0007】
しかしながら、上記吊着治具では、押し当て部材を管内面に押し付けるための機構、すなわち上部保持具や下部保持具、2本のアーム、屈曲部保持具などからなるリンク機構が必要であるため、構成が複雑になるという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、例えば筒状のワークを簡易な構成で容易かつ確実に吊り上げることができるワーク吊り治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明によるワーク吊り治具は、
水平方向に対向する対向壁面部を有して上方に開口されたワークを吊り上げる際に用いられるワーク吊り治具であって、
前記対向壁面部の間の距離よりも両端間の距離が長くて一端を他端よりも低い位置として上下方向に所定角度傾けることで両端が前記対向壁面部に同時に接触可能な当接部材を備え、この当接部材の略中央よりも一端側に、吊上げ力を作用させる吊り部を設けることを特徴とするものである(第1発明)。
【0010】
本発明において、前記当接部材の両端間の距離が調整可能とされるのが好ましい(第2発明)。
【0011】
本発明において、前記当接部材がワークの重心の上方に配されるように位置決めする位置決め手段が設けられるのが好ましい(第3発明)。
【発明の効果】
【0012】
本発明のワーク吊り治具においては、ワークの対向壁面部の間に、該対向壁面部の間の距離よりも両端間の距離が長い当接部材が、上下方向に所定角度傾けられることで両端が対向壁面部に同時に接触した状態で配される。このとき、当接部材の一端を他端よりも低い位置として、一端が対向壁面部の一側の壁面部に接触するようにされるとともに、他端が対向壁面部の他側の壁面部に接触するようにされる。
このような状態で、当接部材の略中央よりも一端側に設けられた吊り部、すなわち当接部材において、対向壁面部の間の中心位置に対応する部位から一端側に向けて所定距離の位置に設けられた吊り部に吊上げ力を作用させる。すると、当接部材の一端側が、当接部材の他端と他側の壁面部との接触位置の回りに上向きに回ろうとするが、当接部材の両端間の距離が対向壁面部の間の距離よりも長いので、回ることができず、吊上げ力の作用により、当接部材の両端が対向壁面部に強く押し付けられる。
こうして、ワークの対向壁面部に押し付けられた当接部材を介してワークに吊上げ力を確実に作用させることができる。
【0013】
本発明のワーク吊り治具によれば、当接部材の両端をワークの対向壁面部に押し付けるのに特別な機構が不要で、対向壁面部の間の距離よりも両端間の距離が長くされた当接部材を上述したような簡単な操作でその両端をワークの対向壁面部に押し付けることができる。したがって、例えば対向壁面部が円周方向に連続したような内周壁面を有する円筒状のワークや、二組の対向壁面部を有する四角筒状のワーク、断面Uの字状で一組の対向壁面部を有するU字溝状のワークなどを簡易な構成で容易かつ確実に吊り上げることができる。
【0014】
また、第2発明のワーク吊り治具によれば、当接部材の両端間の距離が調整可能とされるので、開口の大きさが異なる複数種のワークに適用することができる。
【0015】
また、第3発明のワーク吊り治具によれば、当接部材がワークの重心の上方に配されるように位置決めする位置決め手段が設けられるので、ワークの安定的な吊上げ動作を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係るワーク吊り治具のワークへのセッティング状態図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係るワーク吊り治具のワークへのセッティング状態図である。
図3】(a)は第2の実施形態に係るワーク吊り治具の縦断面図、(b)は同ワーク吊り治具の横断面図である。
図4】本発明の第3の実施形態に係るワーク吊り治具のワークへのセッティング状態図である。
図5】ワーク吊上げ時の力学的つり合い関係をスケルトンで表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明によるワーク吊り治具の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
〔第1の実施形態〕
図1には、本発明の第1の実施形態に係るワーク吊り治具のワークへのセッティング状態図が示されている。
【0019】
<ワーク吊り治具の概略説明>
図1に示されるように、本実施形態のワーク吊り治具1Aは、中空部2aを有する円筒状のワーク2を吊り上げる際に用いられるものである。
ここで、ワーク2は、径方向の内向きに対向する対向壁面部3a,3bが円周方向に連続したような内周壁面3を有し、吊上げ動作を実施するにあたり、予め両端の開口を上下方向に向けて作業場等の図示されないフロア上に載置されている。なお、この載置状態では、対向壁面部3a,3bが水平方向に対向している。
このワーク吊り治具1Aは、ワーク2の中空部2a内に配される当接部材4Aを備えている。
【0020】
<当接部材の説明>
当接部材4Aは、対向壁面部3a,3bの間の距離(ワーク2の内径寸法)よりも両端間の距離が若干長くて一端を他端よりも低い位置として上下方向に所定角度傾けることで両端が対向壁面部3a,3bに同時に接触する長さ寸法の金属製(エンジニアリングプラスチック製等でもよい)の四角棒状部材により構成されている。
当接部材4Aにおいて、一端を他端よりも低い位置として上下方向に所定角度傾けたときに、一端面5を対向壁面部3a,3bの一側の壁面部3aに良好に接触させるために、一端面5の上半分をテーパ面5aとするのがよく、同様に、他端面6を対向壁面部3a,3bの他側の壁面部3bに良好に接触させるために、他端面6の下半分をテーパ面6aとするのがよい。
【0021】
当接部材4Aの略中央よりも一端側には、吊り孔7が設けられている。この吊り孔7は、当接部材4Aにおける、対向壁面部3a,3bの間の中心位置に対応する部位から一端側に向けて所定距離の位置に配設されている。
この吊り孔7には、垂下されるワイヤロープ8の先端(下端)に連結されるシャックル9が装着されており、図示されないクレーン等でワイヤロープ8を巻き上げることにより、シャックル9を介して吊り孔7の周面に吊上げ力を作用させることができるようになっている。
【0022】
<位置決め手段の説明>
当接部材4Aには、該当接部材4Aがワーク2の重心Gの上方に配されるように位置決めする位置決め手段10が付設されている。
位置決め手段10は、首下の長さが比較的長い全ねじタイプのボルト11を備えている。
ボルト11は、当接部材4Aの他端部に上面から突出するように螺着され、当接部材4Aの上面に着座状態でねじ軸部11aに螺合されたナット12を締め付けることにより、当接部材4Aに固定されるようになっている。
ボルト11のねじ軸部11aには、該ねじ軸部11aに沿って移動自在に当て板13が装着されるとともに、この当て板13を上下に挟むように一対のナット14が螺合されている。
【0023】
位置決め手段10においては、一対のナット14の一方もしくは他方または両方の回転操作により、一対のナット14の間隔を広げるようにすれば、一対のナット14の間で当て板13をねじ軸部11aに沿って自由に移動させることができる。また、一対のナット14の一方もしくは他方または両方の回転操作により、一対のナット14で当て板13を挟み付けるようにすれば、当て板13を一対のナット14で挟み付けた位置で固定することができる。
こうして、一対のナット14の所定の回転操作と、ねじ軸部11aに対する当て板13の移動動作とにより、当接部材4Aに対する当て板13の相対位置を調節することができ、これによって当接部材4Aがワーク2の中空部2a内でワーク2の重心Gの上方の所定高さ位置に配されたときに当て板13をワーク2の上端に当てて当接部材4Aをワーク2の重心Gの上方に位置するように位置決めすることができる。
【0024】
<ワークの吊上げ動作の説明>
以上に述べたように構成されるワーク吊り治具1Aを用いてワーク2を吊り上げる動作について以下に説明する。
【0025】
まず、当接部材4Aをワーク2の中空部2a内に入れるために、吊り孔7が設けられた一端側を他端側よりも低い位置として当接部材4Aを上下方向に傾けた状態とし、この傾けた状態を保ちつつ当接部材4Aをワーク2の中空部2a内に入れ、当て板13がワーク2の上端に当たるまで当接部材4Aを下げていく。
この時、ワーク2の上端に当接された当て板13により、当接部材4Aの上下方向の位置が、ワーク2の重心Gの上方に配されるよう位置決めされる。また、一端面5のテーパ面5aが一側の壁面部3aに接触するようにされるとともに、他端面6のテーパ面6aが他側の壁面部3bに接触するようにされる。
次いで、ワイヤロープ8を巻き上げて当接部材4Aの吊り孔7の周面に吊上げ力を作用させると、当接部材4Aの一端側が、当接部材4Aの他端面6と他側の壁面部3bとの接触位置の回りに上向きに回ろうとするが、当接部材4Aの両端間の距離(当接部材4Aの長さ寸法)が対向壁面部3a,3bの間の距離よりも長いので、回ることができず、吊上げ力の作用により、当接部材4Aの両端が対向壁面部3a,3bに同時に強く押し付けられる。
こうして、ワーク2の対向壁面部3a,3bに押し付けられた当接部材4Aを介してワーク2に吊上げ力を確実に作用させることができる。
【0026】
<作用効果の説明>
本実施形態のワーク吊り治具1Aによれば、当接部材4Aの両端をワーク2の対向壁面部3a,3bに押し付けるのに特別な機構が不要で、対向壁面部3a,3bの間の距離よりも両端間の距離が長くされた当接部材4Aを上述したような簡単な操作でその両端をワーク2の対向壁面部3a,3bに押し付けることができる。したがって、ワーク2を簡易な構成で容易かつ確実に吊り上げることができる。
また、当接部材4Aがワーク2の重心Gの上方に配されるように位置決めする位置決め手段10が設けられるので、ワーク2の安定的な吊上げ動作を確実に行うことができる。
【0027】
〔第2の実施形態〕
図2には、本発明の第2の実施形態に係るワーク吊り治具のワークへのセッティング状態図が示されている。また、図3には、第2の実施形態に係るワーク吊り治具の縦断面図(a)および同ワーク吊り治具の横断面図(b)がそれぞれ示されている。
なお、本実施形態において、第1の実施形態と同一または同様のものについては、図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては、本実施形態に特有の部分を中心に説明することとする(後述する第3の実施形態についても同様)。
【0028】
前述した第1の実施形態のワーク吊り治具1Aにおいて、当接部材4Aは、その両端間の距離を調節する長さ調整機能がなく、部材長さそのままで使用されるものであった。これに対し、本実施形態のワーク吊り治具1Bにおいては、両端間の距離を調節する長さ調節機能を有する当接部材4Bが採用されている。
【0029】
<当接部材の説明>
図2に示されるように、当接部材4Bは、その本体部分を構成する当接部材本体20の両端にコンタクトピン21,22が装着されて構成されている。ここで、各コンタクトピン21,22は、部分球状面23aを先端に有する円柱状の頭部23にねじ軸部24が同心をなして一体的に設けられてなるものである。なお、各コンタクトピン21,22は、ワーク2に直接接触する部材であるため、高硬度の合金工具鋼などの金属材料で構成して、磨耗を抑えるようにするのがよい。
【0030】
当接部材本体20は、一端側に配される第1ボディー20aと、他端側に配される第2ボディー20bと、これら第1ボディー20aと第2ボディー20bとの間に配されるスペーサ20cとを備えている。これら第1ボディー20a、第2ボディー20bおよびスペーサ20cは、ボルト20d(図3(a)参照)によって一体的に結合されている。
ここで、第1ボディー20aには、吊り孔7を有する掛止部材25が固着されている。この掛止部材25における吊り孔7は、当接部材4Bにおける、対向壁面部3a,3bの間の中心位置に対応する部位から一端側に向けて所定距離の位置に配されている。この掛止部材25の吊り孔7には、垂下されるワイヤロープ8の先端(下端)に連結されるシャックル9が装着されており、図示されないクレーン等でワイヤロープ8を巻き上げることにより、シャックル9を介して吊り孔7の周面に吊上げ力を作用させることができるようになっている。
また、第2ボディー20bには、第1の実施形態で述べた位置決め手段10と同様のものが付設されている。
【0031】
図3(a)に示されるように、第1ボディー20aは、コンタクトピン21のねじ軸部24に対応する雌ねじ部26を有し、この雌ねじ部26にねじ軸部24を螺合して締め付けることにより、該第1ボディー20aにコンタクトピン21が固定されるようになっている。
【0032】
第2ボディー20bは、軸線Oxに沿って一端側から他端側に向けて順に配される第1中空部27、第2中空部28および第3中空部29をそれぞれ有している。
第1中空部27には、ブシュ30を介してウォームホイール31が軸線Ox回りに回転自在に装着されている。また、第3中空部29には、ブシュ32を介してスライダ33が軸線Ox方向に直線移動自在に組み込まれている。
【0033】
スライダ33は、コンタクトピン22のねじ軸部24に対応する雌ねじ部34を有し、この雌ねじ部34にねじ軸部24を螺合して締め付けることにより、該スライダ33にコンタクトピン22が固定されるようになっている。
また、スライダ33は、軸線Ox方向に第2中空部28を通してウォームホイール31に螺合するよう延設されるねじ軸35に対応する雌ねじ部36を有し、この雌ねじ部36にねじ軸35を螺合し、ねじ軸35に装着されたナット37をスライダ33に押し付けるように締め付けることによって該スライダ33にねじ軸35が固定されるようになっている。
スライダ33の外周面には、軸線Ox方向に沿うように溝38が設けられ、この溝38に対応するようにピン挿通孔39が第2ボディー20bに設けられ、このピン挿通孔39にピン40を差し込んでその先端部を溝38に係合させることにより、スライダ33が軸線Ox回りに回転するのを防止するようにしている。
【0034】
図3(b)に示されるように、スペーサ20cには、軸線Oxに対し所定距離隔てた位置で90°位相をずらした軸線Oyに沿って延びるウォームシャフト41がブシュ42を介してその軸線Oy回りに回転自在に支持されている。このウォームシャフト41には、ウォームホイール31に噛み合うウォーム43が固定されている。
そして、ウォームシャフト41の一端部に設けられたノブ45を摘んでウォームシャフト41を回転操作すると、ウォーム43を介してウォームホイール31が回転され、ウォームホイール31の回転により、ねじ軸35が軸線Ox方向に直線移動され、これに伴ってスライダ33が軸線Ox方向に直線移動される。こうして、一端側のコンタクトピン21の先端と他端側のコンタクトピン22の先端との距離、つまり当接部材4Bの両端間の距離(当接部材4Bの長さ寸法)を調整することができる。
なお、図3(b)中符号44にて示されるのは、ウォーム43とウォームホイール31とのギャップ調整後に第1ボディー20aとスペーサ20cとの軸線Ox回りの相対位置を固定するのに用いられるダウエルピンである。このダウエルピン44は、説明の都合上、図3(b)にのみ描かれ、同図(a)においては図示省略されている。
【0035】
<ワークの吊上げ動作の説明>
以上に述べたように構成されるワーク吊り治具1Bを用いてワーク2を吊り上げる動作について以下に説明する。
【0036】
まず、ノブ45を摘んでウォームシャフト41を回転操作することにより、当接部材4Bの両端間の距離(当接部材4Bの長さ寸法)、すなわち一端側のコンタクトピン21の先端と他端側のコンタクトピン22の先端との距離をワーク2の内径寸法よりも少し長くする。
その後、図2に示されるように、当接部材4Bをワーク2の中空部2a内に入れるために、吊り孔7が設けられた一端側を他端側よりも低い位置として当接部材4Bを上下方向に傾けた状態とし、この傾けた状態を保ちつつ当接部材4Bをワーク2の中空部2a内に入れ、当て板13がワーク2の上端に当たるまで当接部材4Bを下げていく。
この時、ワーク2の上端に当接された当て板13により、当接部材4Bの上下方向の位置が、ワーク2の重心Gの上方に配されるよう位置決めされる。また、一端側のコンタクトピン21の先端の部分球状面23aが一側の壁面部3aに接触するようにされるとともに、他端側のコンタクトピン22の先端の部分球状面23aが他側の壁面部3bに接触するようにされる。
次いで、ワイヤロープ8を巻き上げて当接部材4Bの吊り孔7の周面に吊上げ力を作用させると、当接部材4Bの一端側のコンタクトピン21が、他端側のコンタクトピン22の部分球状面23aと他側の壁面部3bとの接触位置の回りに上向きに回ろうとするが、当接部材4Bの両端間の距離が対向壁面部3a,3bの間の距離よりも長いので、回ることができず、吊上げ力の作用により、当接部材4Bの両方のコンタクトピン21,22が対向壁面部3a,3bに同時に強く押し付けられる。
こうして、ワーク2の対向壁面部3a,3bに押し付けられた当接部材4Bを介してワーク2に吊上げ力を確実に作用させることができる。
【0037】
<作用効果の説明>
本実施形態のワーク吊り治具1Bによれば、第1の実施形態のワーク吊り治具1Aと同様の作用効果を得ることができるのは勿論のこと、当接部材4Bの両端間の距離が調整可能とされるので、開口の大きさが異なる複数種のワーク2に適用することができる。
【0038】
〔第3の実施形態〕
図4には、本発明の第3の実施形態に係るワーク吊り治具のワークへのセッティング状態図が示されている。
【0039】
前述した第2の実施形態のワーク吊り治具1Bにおいて、当接部材4Bは、ノブ45の回転操作によるウォームギヤ方式でその両端間の距離を調節するものとしたが、本実施形態のワーク吊り治具1Cにおいては、かかる調整機能をより簡易な構成で達成するようにしたものである。
【0040】
<当接部材の説明>
本実施形態のワーク吊り治具1Cにおいて、当接部材4Cは、その本体部分を構成する直方体ブロック状部材よりなる当接部材本体50を備え、この当接部材本体50の両端部に長さ調整用ボルト51,52が装着されて構成されている。ここで、各長さ調整用ボルト51,52は、部分球状面53aを先端に有するボルト頭部53にねじ軸部54が同心をなして一体的に設けられてなるものである。
当接部材4Cにおいては、当接部材本体50の両端部に長さ調整用ボルト51,52のねじ軸部54を螺合し、該ねじ軸部54に装着されたナット55を当接部材本体50の端面に押し付けるように締め付けることによって当接部材本体50に長さ調整用ボルト51,52が固定されるようになっている。
【0041】
当接部材本体50の一端部上面には、吊り孔7を有する掛止部材56が固着されている。この掛止部材56における吊り孔7は、当接部材4Cにおける、対向壁面部3a,3bの間の中心位置に対応する部位から一端側に向けて所定距離の位置に配されている。
この掛止部材56の吊り孔7には、垂下されるワイヤロープ8の先端(下端)に連結されるシャックル9が装着されており、図示されないクレーン等でワイヤロープ8を巻き上げることにより、シャックル9を介して吊り孔7の周面に吊上げ力を作用させることができるようになっている。
当接部材本体50の他端部には、第1の実施形態で述べた位置決め手段10と同様のものが付設されている。
【0042】
<ワークの吊上げ動作の説明>
以上に述べたように構成されるワーク吊り治具1Cを用いてワーク2を吊り上げる動作について以下に説明する。
【0043】
まず、ナット55を緩めた後に長さ調整用ボルト51,52を回転操作することにより、当接部材4Cの両端間の距離(当接部材4Cの長さ寸法)、すなわち一端側の長さ調整用ボルト51の先端と他端側の長さ調整用ボルト52の先端との距離をワーク2の内径寸法よりも少し長くする。なお、当接部材4Cに対する長さ調整用ボルト51,52の突出量が決まれば、ナット55を当接部材本体50の端面に押し付けるように締め付けて当接部材本体50に対し長さ調整用ボルト51,52を固定する。
その後、当接部材4Cをワーク2の中空部2a内に入れるために、吊り孔7が設けられた一端側を他端側よりも低い位置として当接部材4Cを上下方向に傾けた状態とし、この傾けた状態を保ちつつ当接部材4Cをワーク2の中空部2a内に入れ、当て板13がワーク2の上端に当たるまで当接部材4Cを下げていく。
この時、ワーク2の上端に当接された当て板13により、当接部材4Cの上下方向の位置が、ワーク2の重心Gの上方に配されるよう位置決めされる。また、一端側の長さ調整用ボルト51の先端の部分球状面53aが一側の壁面部3aに接触するようにされるとともに、他端側の長さ調整用ボルト52の先端の部分球状面53aが他側の壁面部3bに接触するようにされる。
次いで、ワイヤロープ8を巻き上げて当接部材4Cの吊り孔7の周面に吊上げ力を作用させると、当接部材4Cの一端側の長さ調整用ボルト51が、他端側の長さ調整用ボルト52の部分球状面53aと他側の壁面部3bとの接触位置の回りに上向きに回ろうとするが、当接部材4Cの両端間の距離が対向壁面部3a,3bの間の距離よりも長いので、回ることができず、吊上げ力の作用により、当接部材4Cの両方の長さ調整用ボルト51,52が対向壁面部3a,3bに同時に強く押し付けられる。
こうして、ワーク2の対向壁面部3a,3bに押し付けられた当接部材4Cを介してワーク2に吊上げ力を確実に作用させることができる。
【0044】
<作用効果の説明>
本実施形態のワーク吊り治具1Cによれば、第2の実施形態のワーク吊り治具1Bと同様の作用効果をより簡易な構成で得ることができる。
【0045】
以上、本発明のワーク吊り治具について、複数の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、各実施形態に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0046】
例えば、上記の実施形態では、ワーク吊り治具1A,1B,1Cを用いて円筒状のワーク2を吊り上げる例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば二組の対向壁面部を有する四角筒状のワークや、断面Uの字状で一組の対向壁面部を有するU字溝状のワークなどを吊り上げるのにも適用することができる。つまり、水平方向に対向する対向壁面部を有して上方に開口されたワークであれば特にその形状に関わらずワーク吊り治具1A,1B,1Cを用いて吊り上げることができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明によるワーク吊り治具の具体的な実施例について、図面を参照しつつ説明する。
【0048】
まず、図5に示されるような内径172mm、外径320mm、高さ313mm、重さ140kgfの円筒状の鉄鋼製のワーク2をワーク吊り治具1A,1B,1Cを用いて吊り上げる際の力学的な考察について同図中に描かれた当接部材4A,4B,4Cのスケルトンを用いて以下に説明する。なお、以下においては、当接部材4A,4B,4Cを総称して当接部材4と表記することとする。
【0049】
図5において使用される各記号を以下のように定義する。
A:当接部材4の一端と一側の壁面部3aとの接触位置
B:当接部材4の他端と他側の壁面部3bとの接触位置
C:吊上げ力の作用点(吊り孔7の位置)
F:吊上げ力
L:対向壁面部3a,3bの間の距離(ワークの内径寸法)
:一側の壁面部3aと吊上げ力の作用点(C)との距離
:他側の壁面部3bと吊上げ力の作用点(C)との距離
:一側の壁面部3aからの垂直抗力
:他側の壁面部3bからの垂直抗力
:当接部材4の一端と一側の壁面部3aとの間の摩擦力
:当接部材4の他端と他側の壁面部3bとの間の摩擦力
W:当接部材4の自重
θ:当接部材4の上下方向の傾き
なお、当接部材4の自重Wによる影響はワーク2の重量が大きければ大きいほど相対的に小さくなるので、重量の大きいワーク2を吊り上げるものとして、以下においては自重Wは無視することとする。
【0050】
当接部材4に対して働く力関係から次式(1)〜(4)が成立する。
=P ・・・(1)
+R=F ・・・(2)
=μ・P ・・・(3)
=μ・P ・・・(4)
ここで、μは静摩擦係数である。
上記式(1)〜(4)より、次式(5)〜(8)が成立する。
μ・(P+P)=F ・・・(5)
=F/2μ ・・・(6)
=F/2 ・・・(7)
=R ・・・(8)
【0051】
A点の右回りのモーメントMcwは、次式(9)で表すことができる。
Mcw=R・L=(F/2)・L ・・・(9)
A点の左回りのモーメントMccwは、次式(10)で表すことができる。
Mccw=F・L+P・L・tanθ
=F・L+(F/2μ)・L・tanθ ・・・(10)
【0052】
Mcw=Mccwであるから、次式(11)が成立する。
L−2L=(L/μ)・tanθ ・・・(11)
上記式(11)からμは次式(12)で表すことができる。
μ={L/(L−2L)}・tanθ ・・・(12)
つまり、μが次式(13)の関係を満足すれば、当接部材4は上方へは滑らないことになる。
μ>{L/(L−2L)}・tanθ ・・・(13)
【0053】
次に、当接部材4の上下方向の傾きθについて検討する。
上記式(13)を次式(14)のように変形する。
tanθ<{μ・(L−2L)}/L ・・・(14)
ここで、例えば、L=44mm、μ=0.2とすると、θ<5.6°となる。
ワーク2や当接部材4の材質が鋼の場合、通常、μは0.2程度であるが、安全性を考慮して、μ=0.1とした場合、θ<2.8°となる。
【0054】
F=140kgf(1372N)、L=44mm、L=128mm、θ=3°の場合、μとP,P,R,Rの関係は表1に示される通りであり、μに対する吊り孔7の位置の影響による許容傾斜角度θ´は表2に示される通りである。
【表1】

【表2】
【0055】
表2から明らかなように、当接部材4において、吊り孔7の位置を、対向壁面部3a,3bの間の中心位置に対応する部位から一端側に向けて遠ざければ、許容傾斜角度θ´は大きくなる。ワーク2には内径寸法にバラツキがあり、許容傾斜角度θ´はできる限り大きくするのが好ましため、吊り孔7の位置を、対向壁面部3a,3bの間の中心位置に対応する部位から一端側に向けてできるだけ遠い位置に設けるのがよい。
【0056】
また、例えば第2の実施形態に係るワーク吊り治具1Bを用いてワーク2を吊り上げる際、当接部材4Bの長さSは、ワーク2の内径寸法L(172mm)に対し、δ=S−Lだけ長くする必要がある。この時、ワーク2が鉄鋼材の場合、安全性の観点から、θ=cos−1(L/S)≦3°とする必要がある。
この場合、調整量δは約0.3mmであり、ノブ45をその調整量δに見合う分だけ回転操作すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のワーク吊り治具は、水平方向に対向する対向壁面部を有して上方に開口されたワークを簡易な構成で容易かつ確実に吊り上げることができるという特性を有していることから、例えば対向壁面部が円周方向に連続したような内周壁面を有する円筒状のワークの吊上げの用途に好適に用いることができるほか、例えば、二組の対向壁面部を有する四角筒状のワークや、断面Uの字状で一組の対向壁面部を有するU字溝状のワークなどの吊上げの用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1A,1B,1C ワーク吊り治具
2 ワーク
3a,3b 対向壁面部
4A,4B,4C 当接部材
7 吊り孔(吊り部)
10 位置決め手段
図1
図2
図3
図4
図5