【解決手段】炉体17の温度を制御する炉体の温度制御装置である。交流電源30に接続された整流回路31と、整流回路31の出力をデューティ比に従ってパルス幅変調するPWM回路6と、PWM回路6の出力電圧を受けて発熱して炉体17を加熱するヒータ18とを有しており、整流回路31は交流電源30の電圧を正電圧又は負電圧の一方に揃える。ヒータ18に供給される電圧には整流回路31の出力電圧である整流電圧のエンベロープが残っている。
前記デューティ比演算手段は、前記温度制御部によって決められた制御量に加えて前記整流回路へ入る電源電圧をデューティ比を決める上での判断因子とすることを特徴とする請求項3記載の分析装置用炉体の温度制御装置。
前記PWM回路の出力電圧に高調波成分が含まれるのを除去するためのコンデンサであって容量が100μF以下であるコンデンサを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の分析装置用炉体の温度制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
位相制御方式を用いた温度制御装置においては次のような問題があった。
(1)
図10において、(a)は正常時の電源電圧波形を示しており、(b)は正常時の位相制御電圧波形を示している。発熱源であるヒータが設置された現場においては、種々の外部要因の影響により、電源電圧波形において
図10(c)に示すような電圧変動や波形歪みが発生することがある。これらの電圧変動や波形歪みが発生すると、
図10(d)に示すように位相制御電圧波形の振幅や波形に変動が生じ、ヒータによる温度制御が正確に行えなくなることがある。
【0006】
(2)
図11において、(a)は正常時の電源電圧波形を示しており、(b)は正常時の位相制御電圧波形を示している。位相制御方式においては電源電圧波形のゼロクロス点を基準としてON期間が規定されるのであるが、実際のヒータ稼働の際にはゼロクロス付近にノイズが入ることがある。このようなノイズが入ってしまうと、ONのタイミングに誤動作が発生し、
図11(d)に示すように位相制御電圧波形におけるON期間に変動が生じ、ヒータによる温度制御が正確に行えなくなることがある。
【0007】
(3)
図12において、(a)は正常時の電源電圧波形を示しており、(b)は正常時の位相制御電圧波形を示している。位相制御方式においては交流電源の一部分をON状態にするという制御を行うのであるが、実際の制御の際には
図12(c)に示すようにON期間の立ち上がりのときに周期的に高周波電流が流れるという問題が生じるおそれがある。高周波電流は周辺の回路に悪影響を及ぼすおそれがあるので、回避する必要がある。
【0008】
本発明者等は位相制御方式に見られる上記の問題点を解消するために研究を行った。その結果、位相制御方式に代えてPWM制御方式を用いることにより、上記の3つの問題をことごとく解消できることに想到した。
【0009】
しかしながら、本発明者等は、PWM制御方式による一般的な電力制御方法は特許文献4(特開2000−175453)に開示されており、さらにヒータへ供給する電力を制御するためにPWM制御方式が用いられることが特許文献5(特開2010−259298)に開示されていることを知見した。
【0010】
PWM制御によって電力制御を行う場合、AC(交流)からDC(直流)への制御のときでも、ACからACへの制御のときでも、一般的には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等といったスイッチング素子を複数個用いなければならなかったり、それらのスイッチング素子を制御するための回路として複雑な回路を用意しなければならなかった。PWM制御を実現するためのこのような装置を作ることは簡単ではないし、価格が非常に高価であった。
【0011】
本発明者等が考えているのは、熱分析装置等といった分析装置用の炉体を加熱するためのヒータである。この分析装置用炉体は熱容量(ヒートキャパシティ)が大きいので、ヒータへの電力供給に際して少しの誤りも許されない完全無欠で厳格な電力制御は必ずしも要求されないことを本発明者は知見した。より具体的には、PWM制御方式で得た出力電圧波形(すなわち、出力電圧波形の主たる成分に整流電圧のエンベロープが残っている波形)も、そのままヒータへ供給する電圧波形として使用できることを本発明者は知見した。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、PWM制御に基づいた炉体の温度制御装置であって費用対効果に優れた装置(すなわち、安価でありながら優れた効果を達成できる装置)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置は、分析装置用の炉体の温度を制御する炉体の温度制御装置であって、交流電源に接続された整流回路と、当該整流回路の出力をデューティ比に従ってパルス幅変調するPWM回路と、当該PWM回路の出力電圧を受けて発熱して前記炉体を加熱するヒータとを有しており、前記ヒータに供給される電圧には前記整流回路の出力電圧である整流電圧のエンベロープが残っていることを特徴とする。この発明の効果は、以下の[発明の効果]の欄に記載されている。
【0014】
なお、エンベロープは包絡線のことである。また、整流回路は交流電源の電圧を正電圧又は負電圧の一方に揃える回路である。
【0015】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置において、前記ヒータに供給される電圧にはパルス幅変調の波形が残っていても構わない。分析装置用炉体は熱容量が大きいので、ヒータに供給される電圧にパルス幅変調の波形が残っていても、温度制御が乱れることはない。
【0016】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置は、前記炉体の温度を検知する炉体温度検知手段と、前記ヒータへ供給する電力に対する制御量を前記ヒータ温度検知手段の検知結果に基づいて決める温度制御部と、当該温度制御部によって決められた制御量に基づいて前記デューティ比を演算によって決めるデューティ比演算手段とを有することができる。
【0017】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置において、前記デューティ比演算手段は、前記温度制御部によって決められた制御量に加えて前記整流回路へ入る電源電圧をデューティ比を決める上での判断因子とすることができる。
【0018】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置において、前記デューティ比演算手段は、前記整流回路へ入る電源電圧のピーク値を前記判断因子とすることができる。
【0019】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置は、前記PWM回路の出力電圧に含まれる高調波成分を除去するためのコンデンサであって容量が100μF以下であるコンデンサを有することができる。
【0020】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置において、前記整流回路は前記交流電源の電圧を全波整流することができる。
【0021】
本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置において、前記温度制御部はPID制御に基づいて前記制御量を決めることができる。
【0022】
次に、本発明に係る熱分析装置は、試料を加熱する炉体と、当該炉体を加熱するヒータと、前記炉体の温度を制御する分析装置用炉体の温度制御装置とを有する熱分析装置において、前記分析装置用炉体の温度制御装置は以上に記載した炉体の温度制御装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
(1)本発明においては、整流後の整流波形電圧E2(
図5(b)参照)に対してパルス幅変調を加える(
図5(c)参照)。そして、その変調後のパルス幅変調電圧E3又はそのパルス幅変調電圧E3を平滑化して得られた電圧E4(
図5(d))をヒータへ供給する。そのため、仮に
図6(a)に示すように電源電圧波形に変動が発生している場合でも、電力制御を行う際には、
図6(b)、(c)、(d)に示すように各パルスにおけるデューティ比が変化するだけで、電圧波形のエンベロープ(すなわち包絡線)には変化がなく、よって、1次側の電源変動のために2次側電圧出力に変動が発生することがなくなった。
【0024】
(2) 従来の位相制御方式においては
図12(c)に示したように位相制御後の電圧波形の立ち上がりに対応して1次電源(すなわち、交流電源)に同期した高調波電流が流れるおそれがあった。これに対して本発明においては、1次電源に同期した急峻な立ち上がりは生じないので、高調波電流の発生が大きく低減される。
【0025】
(3) 本発明においては、MOSFET、トランジスタ等といったスイッチング素子を用いたパルス幅変調は交流電源に対して直接に行うのではなく、整流回路によって整流処理を行った後の電圧(すなわち、整流波形電圧)に対して行うようにした。ここで、整流波形とは、電圧値が交番的に変化する交流波形でも無く、電圧値が常に一定値である直流波形でも無く、電圧値が変化しているがその変化域が正値又は負値の範囲に或る波形である(
図5(b)参照)。
【0026】
そして本発明では、その整流波形のエンベロープが残っているままの(すなわち、きれいな直流波形に整形したものでない)電圧をヒータに供給することにした。本発明に係る温度制御装置の対象である分析装置用炉体は熱容量が大きいので、きれいな直流電圧ではなく、整流波形のエンベロープが残っているままの電圧でも問題なく使用することができる。このため、本発明の温度制御装置では、きれいな直流電圧を形成するための複雑なスイッチング制御回路や大容量のコンデンサを用いる必要がない。従って、本発明に係る分析装置用炉体の温度制御装置及びそれを用いた熱分析装置は費用対効果が非常に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る炉体の制御装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0029】
図1は、本発明に係る炉体の温度制御装置及び熱分析装置の一実施形態を示す図である。同図において、熱分析装置1は熱重量測定(TG:Thermogravimetry)と示差熱分析(DTA:Differential Thermal Analysis)測定の両方の測定を行う熱分析装置である。熱分析装置1は、第1の天秤装置2と、第2の天秤装置3と、電気炉4と、制御装置5と、PWM制御部6とを有している。
【0030】
天秤装置2,3は、それぞれ、支点11a,11bによって揺動自在に支持された天秤棒12a,12bと、天秤棒12a,12bの一端に設けられた試料皿13a,13bと、天秤棒12a,12bの他端に設けられた変動検出部14a,14bとを有している。測定対象である試料Sは第1の天秤装置2の試料皿13aに載っている。基準物質Rは第2の天秤装置3の試料皿13bに載っている。試料Sは温度変化に対する特性を知りたい物質である。基準物質Rは温度変化があっても特性に変化がない物質である。図では、試料皿13aと試料皿13bとを互いに離して図示しているが、これは両者を分かり易く示すためであり、実際には両者はできる限り近接して配置されている。
【0031】
試料皿13aには熱電対9を構成する1つの測温点10aが固着されている。試料皿13bには熱電対9を構成する他の測温点10bが固着されている。変動検出部14a,14bは、それぞれ、支点11a,11bを中心とした天秤棒12a,12bの揺動角度を検出して電気信号として出力する部分である。
【0032】
電気炉4の内部には、内部が空間となっている炉体17と、炉体17を加熱するヒータ18と、炉体17の内部空間の温度を検出する温度センサ19とが設けられている。電気炉4は矢印A−A’で示すように往復直線移動可能である。電気炉4が矢印A側(図の右側)の所定位置にあるとき、試料S及び基準物質Rは炉体17の内部空間内に格納される。電気炉4が矢印A’側(図の左側)の所定位置にあるとき、試料S及び基準物質Rは炉体17の外部へ出ている。
【0033】
制御装置5は、本実施形態では、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)とメモリとの組み合せによって構成されている。メモリの内部には、ソフトウエア、データテーブル、記憶領域、等が設けられている。CPUとソフトウエアとの組み合せにより、温度制御部22と、示差熱測定部23と、重量測定部24と、デューティ比演算部25の各機能が実現されるようになっている。
【0034】
温度制御部22は公知のPID制御を実行する。PID制御は、例えば
図3に示すように、フィードバック制御において偏差をゼロに近付けるP動作(Proportional action:比例動作)と、偏差を完全にゼロにするI動作(Integral action:積分動作)と、偏差を速やかに収束させるD動作(Derivative action:微分動作)とを組み合せた制御である。
図3においてVeは偏差入力であり、V0はPID出力である。PID制御は、目標とする温度曲線からのオーバーシュートを防止したり、制御された温度のハンチングを防止するための制御である。
【0035】
図1のPID制御部22は、温度センサ19によって検出された炉体17の温度が目標とする温度となるようにフィードバック制御を行う際の制御量を決定する。この制御量はデューティ比演算部25へ送られる。
【0036】
示差熱測定部23の入力端子に熱電対9が接続されている。示差熱測定部23は、試料S及び基準物質Rの温度を所定のプログラムに従って変化させたときに、試料Sと基準物質Rとの間に生じる温度差を温度又は時間の関数として測定する機能達成部分である。
【0037】
重量測定部24の入力端子に変動検出部14a,14bの出力線が接続されている。重量測定部24は、試料S及び基準物質Rの温度を所定のプログラムに従って変化させたときに、試料Sと基準物質Rとの間に生じる重量変化の差を温度又は時間の関数として測定する機能達成部分である。
【0038】
PWM制御部6は、PWMコンバータ28とPWMパルス発生部29とを有している。PWMコンバータ28は、
図2に示すように、交流電源30に接続された整流回路31と、整流回路31の出力端子に並列に接続された第1のコンデンサ32と、第1のコンデンサ32の一方の端子に入力端子が接続されたスイッチング素子としてのMOSFET33と、アノードがMOSFET33の出力端子に接続されたダイオード34と、ダイオード34のアノードに接続されたコイル35と、コイル35の後に設けられた第2のコンデンサ36とを有している。交流電源30は商用電源であって、周波数が50Hz又は60Hzで振幅が100〜240V程度の交流電圧である。
【0039】
整流回路31は、電流を一方向だけに流す受動素子である4つのダイオード39をブリッジ接続させることによって形成されている。この整流回路31により、交流電源30からの交流電圧E1が符号E2で示すように全波整流される。すなわち、交流電圧E1を正電圧(すなわちプラス側の電圧)又は負電圧(マイナス側の電圧)のいずれか一方に揃える。本実施形態では、入力電圧のピーク値が100V程度ならば出力電圧のピーク値として130V程度の直流電圧が形成される。なお、この直流電圧は完全に平滑な直流ではなく脈流を含んでいる。なお、整流の態様としては全波整流に代えて半波整流とすることもできる。
【0040】
第1のコンデンサ32は、全波整流電圧E2に高調波が乗ることを除去するために用いられる。従来のこの種の回路では平滑性を確保するための容量の大きな電解コンデンサを第1のコンデンサ32として用いていた。しかしながら、本実施形態では制御の対象が熱容量の大きい炉体17であることから脈流を全く有していない完全な直流電圧を得る必要はない。このため、本実施形態では、高調波を防止することを主たる目的としてコンデンサ32として比較的容量の小さいフィルムコンデンサを用いている。これらのコンデンサの容量は、例えば100μF以下である。
【0041】
一般に電解コンデンサは寿命が短い。このことがPWMコンバータ28の寿命、ひいては炉体の温度制御装置(19,22,25,29,28,18)の寿命、ひいては熱分析装置1の寿命を短くするおそれがある。これに対し、フィルムコンデンサのように容量の小さいコンデンサは寿命が長いので、PWMコンバータ28等の寿命を長くすることが可能である。また、容量の小さいコンデンサを用いることにより、高調波電流及び突入電流の発生を防止することもできる。
【0042】
図1において、PWMパルス発生部29は、交流電源30の電源周波数よりも十分に高い周波数のパルス信号P1を発生する。具体的には、50Hz又は60Hzの商用電源周波数の100倍以上且つ可聴周波数以上の周波数のパルス信号P1を発生する。より具体的には、周波数24kHzのパルス信号P1を発生する。周波数を商用電源周波数の100倍以上とするのは1次電源電圧の電圧変動に影響されない2次電圧を安定して形成することを可能にするためである。また、可聴周波数以上にするのは、PWM制御に基づいた温度制御を行っている間、オペレータが不要な音を感じることを防止するためである。
【0043】
パルス信号P1は
図2においてスイッチング素子としてのMOSFET33のゲートへ入力される。MOSFETに代えて、IGBT、バイポーラトランジスタ、等を用いることもできる。パルス信号P1のデューティ比D0は
図1のデューティ比演算部25によって決定される。
図1において交流電源30の出力端子に電圧計40が接続されている。この電圧計40による検出電圧である1次電源電圧V0がデューティ比演算部25へ送り込まれている。デューティ比演算部25は、温度制御部22の出力値(すなわちフィードバック制御の判断因子である制御量)と、1次電源電圧V0との両者に基づいてデューティ比D0を演算によって求める。
【0044】
具体的には、例えば
D0=(100/V0)×PID制御量 … (1)
によってデューティ比D0を求める。すなわち、本実施形態では、PWM制御のデューティ比の決定に際し、PID制御で得られたデューティ比に対して交流電源電圧に反比例した係数の積をとって最終的なデューティ比としている。
【0045】
上記(1)式において、PID制御量に基づいてデューティ比を決めるのはPWM制御によってフィードバック制御を実現するためである。また、1次電源電圧V0に基づいてデューティ比を決めるのは、電源電圧の変動の影響がPWM制御による電力制御に反映されてしまうことを解消するためである。これにより、電源電圧の変動の影響を受け難くしている。
【0046】
ところで、交流電源30の出力電圧は
図10(a)に示すように交流電圧であるので、どの時点を参照電圧V0とするかについて予め規定しておく必要がある。また、交流電源30の出力電圧は
図10(c)に示すように変動することがあるので、この点からもどの時点を参照電圧V0とするかについて予め規定しておく必要がある。
【0047】
参照電圧V0の決め方としては、例えば、時間軸上のゼロクロス点からの特定点や、実効電圧値や、平均の電圧値や、電圧波形のピーク値、等といったいくつかの決め方が考えられる。しかしながら、本実施形態では電圧波形のピーク値、例えば
図4(a)に示すピーク値V1や、
図4(b)に示すピーク値V2等を参照電圧V0とすることに決めている。このように電圧波形のピーク値を参照電圧V0とするように決めておけば、
図1のデューティ比演算部25において電圧値を決めるための処理を高速化できる。また、本発明では熱容量の大きい炉体を対象とし、PID制御で温度制御しているので、厳密な電圧値を求める必要は無く、電圧波形のピーク値を求めるだけで十分である。
【0048】
また、上記(1)式に基づいたデューティ比D0の決定は、長期間にわたって1つのデューティ比D0を使い続けるという方法や、1回の計測に対して1つのデューティ比D0を設定し計測ごとにデューティ比D0を更新するとう方法や、1回の計測中の適宜のタイミングでデューティ比D0を更新するという方法、等が考えられる。
【0049】
本実施形態では、交流電源30の半波周期ごと又は半波周期の整数倍ごとにデューティ比D0の更新を行うこととしている。こうすることにより、1次電源電圧V0の変動の影響を受け難い温度制御を行うことができる。
【0050】
以上のように
図2のPWMコンバータ28において電源電圧E1は、整流回路31によって整流されて脈流を持った整流波形電圧E2となる。そして、MOSFET33のゲートにパルス信号P1を導入すると、MOSFET33の出力端子には、
図5(c)に示すように、整流波形電圧E2を櫛状にON/OFFさせた状態の直流パルス電圧E3が得られる。このパルス電圧E3は
図2のコイル35及びコンデンサ36によって平滑化されて
図5(d)に示す出力電圧E4へと整形される。
【0051】
この出力電圧E4は、電圧値が一定であるきれいな直流電圧ではなく、整流波形電圧E3のエンベロープ(すなわち包絡線)と相似な電圧波形を有した電圧である。そしてこの整流波形電圧E3に対応した出力電圧E4がヒータ18へ供給され、ヒータ18が通電して発熱して炉体17が加熱される。デューティ比D0を調整することにより、すなわちパルス電圧のON時間を調整することにより、PWMコンバータ28の出力電力(すなわち、ヒータ18へ供給される電力)を調整できる。
【0052】
なお、
図5(d)では波形が滑らかである出力電圧E4を形成したが、これに代えてパルス幅変調の波形(
図5(c)参照)が残っている状態の出力電圧E5(
図5(e)参照)を形成するようにしても良い。
【0053】
以上の説明から理解されるように、本実施形態では、炉体の温度制御装置は、
図1の温度センサ19、温度制御部22、デューティ比演算部25、PWM制御部6、そしてヒータ18の組み合せによって実現されている。
【0054】
(熱分析測定の説明)
以下、
図1の熱分析装置1の動作を簡単に説明する。まず、電気炉4を矢印A’側の位置へ移動して第1の天秤装置2の試料皿13a及び第2の天秤装置3の試料皿13bを外部へ開放する。この状態で第1の試料皿13aに測定対象の試料Sを載せ、第2の試料皿13bに基準物質Rを載せる。試料Sは熱的な特性を知りたい物質であり、基準物質Rは温度変化があっても変化しない安定した物質である。
【0055】
次に、電気炉4を矢印A側へ移動して試料皿13a及び試料皿13bを炉体17の内部へ格納する。次に、予め決められている所定のプログラムに従って炉体の温度制御装置19,22,25,6,18を作動させて炉体17の温度制御を行う。
図8は、一定速度で電気炉4を昇温させたときの試料としてのインジウム(In)の融解温度を測定した場合の結果を示している。試料Sの温度が
図8の温度曲線T0のようになる。
【0056】
試料の温度が温度曲線T0のように変化する間、基準物質Rの特性に変化は生じない。これに対し、試料Sは所定の温度で融解を生じてその特性に変化が発生する。このため、その融解の発生時にTG曲線Lt及びDTA曲線Ldに変化が見られる。
【0057】
(温度制御の説明)
図7のフローチャートを用いて温度制御の一例を説明する。まず、ステップS1において、
図1の制御装置5内のメモリに格納してある温度プログラムを制御装置5内のCPUに対する所定のメモリ領域に読み込んで温度制御部22を実行可能にする。次に、ステップS2において
図1の温度センサ19を用いて炉体17の温度を検出する。
【0058】
次に、ステップS3において温度制御部22は上記のようにして検出された炉体17の温度と、予め決められている温度プログラムとを比較して、それらの温度差を計算する。この計算値が正の(すなわち温度プログラムの方が高い)場合、温度制御部22は、ステップS4においてPID制御に従って制御量を算出し、さらにステップS5においてその制御量を
図1のデューティ比演算部25へ送る。
【0059】
デューティ比演算部25は、温度制御部22から送られた制御量を受けると共に、
図7のステップS7において
図1の交流電源30の電圧(すなわち1次電源電圧)を電圧計40を用いて検出し、検出された電圧値に基づいてステップS8において係数値を算出する。次に、デューティ比演算部25は、温度制御部22から送られたPID制御の制御量に対してステップS6において係数値を掛けてデューティ比D0を決定する。
【0060】
その後、決定されたデューティ比D0に基づいてステップS9において
図1のPWM制御部6によってPWM制御が実行される。そして、制御後の電圧がステップS10においてPWM制御部6から出力される。これにより、炉体17の温度が温度プログラムに従って上昇する。
【0061】
(実施形態の効果)
(1)
図1の炉体17に対して位相制御方式の従来の温度制御方法を適用した場合には、
図10(c)に示すように電源電圧波形に電圧変動や波形歪みが発生すると、
図10(d)に示すように位相制御電圧波形の振幅や波形に変動が生じ、ヒータ18による温度制御が正確に行えなくなる。
【0062】
また、
図11(c)に示すように、ゼロクロス付近にノイズが入ってしまうと、ONのタイミングに誤動作が発生し、
図11(d)に示すように位相制御電圧波形におけるON期間に変動が生じ、ヒータによる温度制御が正確に行えなくなることがある。また、
図12(c)に示すようにON期間の立ち上がりのときに周期的に高周波電流が流れて、周辺の回路に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0063】
以上のような位相制御方式に対して
図2に示した本実施形態においては、MOSFET33へパルス信号P1を送り込むことにより、整流後の整流波形電圧E2に対して
図5(c)に示したようなパルス幅変調を加え、さらに
図5(d)に示すように平滑化して出力電圧E4を形成した。そして、その出力電圧E4をヒータ17へ供給した。そのため、仮に
図6(a)に示すように電源電圧波形に変動が発生している場合でも、電力制御を行う際には、(b)、(c)、(d)に示すように各パルスにおけるデューティ比が変化するだけで、電圧波形の全体形状には変化がなく、よって、1次側の電源変動のために2次側電圧出力に変動が発生することがなくなった。
【0064】
(2) また、
図2に示した本実施形態においては、整流回路31による整流後の電圧に高調波が乗ることを防止するためのコンデンサ32として小容量のコンデンサを用いた。従来の一般的な手法によれば、平滑化を目的とし小容量のコンデンサに代えて大容量の電解コンデンサが用いられることが多かった。しかしながら、電解コンデンサは高温環境下で寿命が短く、従ってPWMコンバータ28の寿命も短くならざるを得なかった。
【0065】
小容量のコンデンサということであればフィルムコンデンサを用いることができる。フィルムコンデンサは寿命が長いことを考慮すれば、小容量のコンデンサを用いた本実施形態によれば、PWMコンバータ28ひいては熱分析装置1の寿命を長くすることが可能になった。例えば、本実施形態によれば5万時間以上の寿命を簡単に獲得することが可能になった。また、小容量のコンデンサを用いたことにより、大容量の電解コンデンサを用いた場合に発生していた高調波電流及び突入電流の発生を防止できるようになった。
【0066】
(3) さらに、従来の位相制御方式においては
図12(c)に示したように位相制御後の電圧波形の立ち上がりに対応して、電源電圧に同期して高調波電流が流れるおそれがあった。高調波電流に関しては公的な規制が取り決められている。例えば、IEC61000−3−2の規定により、流すことができる最大限の高調波電流が所定の規制値以下になるように規制がかけられている。
図2に示したPWM制御に基づいた本実施形態においては、位相制御方式で見られたような電圧波形の急峻な立ち上がりは生じないので、高調波電流の発生は大きく低減されることになった。そのため、本実施形態では、高調波規制(例えばIEC61000−3−2)に容易に対応することが可能になった。
【0067】
(4) さらに、
図2に示した本実施形態のPWMコンバータ28によれば、MOSFET33によるパルス幅変調は交流電源30に対して直接に行うのではなく、整流回路31によって整流処理を行った後の直流電圧(本実施形態の場合は全波整流波形の電圧)に対して行うようにした。交流電源30に対して直接にパルス幅変調を行う場合にはトランジスタのようなスイッチング素子を複数個用いる必要があり、それらのスイッチング素子の動作を制御するために複雑な制御回路を用意しなければならなかった。これに対し、整流処理を施した電圧波形に対してパルス幅変調を行うことにした本実施形態によれば、スイッチング素子としてのトランジスタは1個あれば十分であり、従ってスイッチング素子の動作を制御する回路も非常に簡単に形成できる。従って、本実施形態のPWMコンバータ28及びそれを用いた炉体の温度制御装置(
図1の19,22,25,6,18の組み合せ)及びそれを用いた熱分析装置1は費用対効果が非常に優れている。
【0068】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0069】
例えば、本発明は熱分析装置に適用できるだけでなく、熱分析装置以外の任意の装置のための炉体の温度制御装置に適用することができる。
【0070】
以上の実施形態では
図1に示したように、温度制御部においてPID制御を行う温度制御装置に対して本発明を適用したが、本発明はPID制御以外の任意の方式に基づいた温度制御部を使用する装置に対しても適用可能である。
【0071】
また、以上の実施形態では、TG−DTA装置に対して本発明の炉体の温度制御装置を適用したが、本発明はそれ以外の任意の熱分析装置に適用可能である。そのような熱分析装置としては、例えば、TG装置、DTA装置、DSC(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱量測定)装置、等がある。
【0072】
また、以上の実施形態では、熱分析装置に対して本発明を適用したが、本発明に係る炉体の温度制御装置は熱分析装置以外の任意の装置に用いられる炉体に対して適用することが可能である。